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日本の仔  作者: 清水坂 孝
第三章
93/100

第93話

 マイクロソフトブラックホール。本来、兵器として使うためにイーサンとエマが作り出したもので、使い方によっては究極のゴミ箱にもなるという、これまた世紀の発明品。

 どういう仕組みか私にもよく解らないけど、超小型ブラックホールを何も吸い込まないように保持しておいて移動させ、ある程度の大きさ、比重の物体に衝突した瞬間に、そのシュバルツシルト半径(約10cm)内の物質を全て吸い込んで消滅するという。

 静ちゃんは、これをどう使って次元の隙間を塞ぐというのかしら。


「次元の隙間というからには、別の次元の一部がこちらに何らかの理由ではみ出してるということ。別次元と言っても、ほんのちょっぴりずれているだけで、ほとんどこちらの次元と違いがないんじゃないかと思ってる」

 次元という考え方ではないけど、この宇宙の派生型が無数に存在しているという考えマルチバースが量子力学の理論には存在する。

 これらの宇宙同士は交わることはないと考えられているけど、これまでの話をまとめていくと、次元を超越するダークエネルギーを利用して私たちのいる宇宙に干渉してきた意識体がいる。

 意識体のいる宇宙と私たちのいる宇宙は、こちらの時空とずれた次元を通って、ダークエネルギーを介して繋がることができるらしい。


「次元の隙間にマイクロソフトブラックホールをぶつけることで、次元の隙間ごと別の宇宙に吸い込んでしまえる可能性がある」

 あら、静ちゃんにしては随分乱暴な仮説を立てたわね。 確かにブラックホールは時空の特異点だから、次元の隙間を中和したり、吸い込んでしまうことができる可能性はある。けど、副作用や周りの空間への影響は大丈夫かしら。ま、その問題ごと別の宇宙に飛ばしてしまおうという考えだろうけど、飛ばされた側の宇宙にはとんでもない影響が出るかも知れないわね。

 ま、いいわ。

 とにかく、次元の隙間とやらの性質を探ってみるところからね。


【瑞希】

 こうして、次元の隙間を観測するためにイーサンたちが作ったχ超級AIを搭載したアンドロイドをアメリカ、ワシントン州、ハンフォードにあるLIGOに向かわせた。

 ハンフォード・サイトは、その昔、核兵器が開発、製造された研究施設群が存在した場所で、「アメリカで最も有毒な場所」と言われたらしいが、ビッグバンインパクト後に徹底的な除染が行われ、核廃棄物は宇宙エレベータを使って宇宙空間に廃棄され、アメリカで宇宙開発が進められたことにより、宇宙関連産業や研究機関が集積された。とは言え、現在は地球氷河期化によってゴーストタウンと化している。

 12機のアンドロイドをシャイアン基地から大型ドローンで運び、LIGO施設に潜入させる。

 イーサンは12機の内の1機をホストに指定して、AICGlassesからLIGOの再稼働を指示した。

 たったそれだけで、χ超級AIはLIGOまでの移動手段、再稼働までの課題推測、最短の再稼働計画を瞬時に練り上げ、72時間後に観測を開始できる予定を立てた。

 その間、日本側のKAGRAでの観測計画を時子さんが立て、こちらも72時間後に同調観測ができるとの予測を出した。


 そして、両施設によって次元の隙間の観測を始めると、とんでもない観測結果が得られた。


 次元の隙間の発生は、8msから12sの間隔で絶え間なく起きており、消滅までの時間も様々、場所もランダムであることが分かった。

 マイクロソフトブラックホールをぶつけることで次元の隙間を消滅させることができるとしても、観測してから発射する方法ではとても間に合わない。

 やはり、出現を予測するしかないと判断され、時子さんがあらゆる推論方式を当てはめて出現する場所と時間を表す方程式を作り上げようとしていた。


「時子、またCPU稼働率が80%を超えてるぞ。あんまりやり過ぎると、色々熔けだすから程々にな」

 時子さんは、静から注意を受けるほど深層推論をフル回転させて規則性を探っていたけど、なかなか見つけられなかった。


「宇宙には絶対的な位置座標がありません。常に膨張、回転、移動し続けていますから、近距離の相対位置関係で表すことになります。そして出現する時刻、出現している時間という6つの自由度を持つ現象が、ランダムに発生している。ここから規則性を推論するには、既知の様々な数列や定理を当てはめて近似できるかどうかを判定していきます」

 6つの自由度、それぞれが関係しているのか、全てバラバラなのかも分からない、そもそも規則性があるという可能性も全くない。

 一秒間に1垓回の量子演算を行い、6つの状態を表す数字の出現に規則性を探す。

 リーマン予想、ゼータ関数、多重数列、フェルマーの最終定理など、既存の数学理論が当てはまらないかを全てチェックしていく。

 完全なランダムに見えるものほど、実は何らかの規則性があり、本当にランダムなものには恣意的な偏りが見られるらしい。

 そういう意味では、今回観測された1,500のサンプルは完全なランダムに思える発現となっていた。


「ということは、何か規則がありそうだってことだよね?」

時子さんに声を掛けてみる。

「そうですね。何らかの規則性を持っていると考えられます。これまでに相関がありそうだと思われたのは、素数級数です」


素数?

素数って、確か桃里くん①が言ってた...

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