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日本の仔  作者: 清水坂 孝
第三章
84/100

第84話

「あれ?」

 ここはどこだ?

 急に辺りが明るくなった。

 どこまでも続く白い空間に、自分だけが浮いてる。

 って、自分の姿が見えない。

 手も足も身体も何も見えない。

 急に怖くなって強烈な寒気がした。

 もしかして、僕、死んじゃったのかな...


『王』

「ソマチット!よかった。ここどこなんだろう。僕の身体は?」

『落ち着きください』

「僕、死んじゃった訳じゃないよね?」

『はい。死んではおりません。恐らく徳永チルドレンの皆様の魂を使って、王の精神をこの世界に転移させたのだと思われます。一部私の性質も利用されたようですが...』

「魂を使ってって、誰が?」


「待たせたな」

 唐突に声が聞こえた。

「誰!、ですか?」

「名乗るほどの者ではないが、君の父君を地球に送った者だ」

 地球に送った?


「正確には、地球をキレイにするという「使命」を送ったということだが」

「ここはどこなんでしょう?」

「私のいる宇宙と君のいる宇宙の間にある世界。宇宙同士は直接はつなげられないのでな」

「と言うことは、あなたはエマとイーサンが言っていた、地球を作ったという人?」

「そういうことになるかな」


 地球を作ったってことは、宗教だと神様ってことになるよな。

 僕は神様と話をしているのか?

「僕をここに連れてきたのはなぜですか?」

「うむ。色々とややこしいことになっているのでな。相談をしたいのだが」

 相談...


「私たちは君たちが地球と呼んでいる星を観賞用に作った。君たちの時間で今から46億年ほど前の話だ。最初は私たちの思惑通り、地球は順調に水を湛えた美しい星に育って行った。しかし、途中で想定外の生物が地球に現れてしまったのだ。最初は何の意思も持たず、むしろ地球の美しさを増す効果を持った植物だけだったが、その内動物が生まれ始めた。それでも地球の姿に影響はなかったのだが」

 声の主は、ここで一息置いた。

「君たち人間が生まれてしまった」


 確かに人間が地球環境を破壊したのは間違いない。

 僕が直接壊した訳じゃないけど、色々な形で加担していたのは分かっている。

「このままでは、美しい地球は観るに耐えない姿になってしまう。それを防ぐことができる最後のチャンスとして、私たちの願いと知識の一部を「使命」として、地球に生まれる人間の魂に送り込んだ」

 その魂が父さんとアリスと言うことか。知識の一部って、だから父さんはあんなにたくさんの発明をする事ができたんだ。


「だからと言って地球を破壊してしまうというのは、あんまりじゃないですか?」

「いや、元々は人間を残しつつ、地球をキレイにしようとしていたはずだが、彼ら自身で人間がいる限り不可能と判断し、更には地球の自浄作用だけでは無理という判断を経て、地球を破壊してリセットする事にしたようだ」

「あなたはそれでいいんですか?」

「私は地球がキレイになれば、手段と多少の時間は気にしない」

 数億年が多少の時間なのか...


「私たちは直接君たちの宇宙の物質に干渉することはできない。だから、魂に対して「使命」を送った。ちなみに君の中にいるソマチットは私たちの仲間だ」

「ソマチットが?」

「ダークエネルギーに干渉できる彼らがいたからこそ君にアクセスできた。そこで話は戻るが、君に相談がある」


「時子を譲ってくれないか?」

 は?

「あの、言ってる意味がよく分からないんで、すが」

「君たちと共に行動している時子というアンドロイド、地球の意識が憑依していることは分かっている。見れば分かる。あの姿は地球の本質そのものだ。時子を譲ってもらえるなら、現物の地球にはもう干渉しない」

「ちょっと待ってください」

 どういうことだ?時子さんを譲る?

 時子さんはそもそも僕のものではないし、もの?ものでもないし!


「それは、僕にはできません!」

「なぜだ?時子は人間が作ったものなんだろう?人間が生き延びるためならば、悪い取り引きではないと思うが」

「時子さんと離ればなれになるくらいなら死んだ方がマシだ!」

 あれ?何叫んでんだ僕は?

「ほう、それは人間全てが滅んでもいいという意味だな?分かった。では人間には絶滅してもらうこととしよう、後悔するなよ」


「あーっっ!!」

「瑞希!よかった、気が付いた!」

 ヘルメットのバイザー越しに静の顔が見えた。

 何だ今のは?何かとんでもないことをしてしまったような気がする...


「皆の魂に近付いた時に、急に魂が動き始めて、瑞希を囲んだんだ。そしたら、瑞希のバイタルサインが全部フラットになっちゃって、絶対死んじゃったんだと思ったよ」

 そうか、あっちの世界に行ってる間、仮死状態になってたんだな?


 静が月の方を見ながら急に怖い顔をしだした。

「み、瑞希、ちょっとヤバいかも。月の周りにある魂の光がどんどん真っ赤になって行ってる!」

 どういうこと?

 まさか!

 さっきのあいつが人間の魂全部に例の「使命」を送り込んだってこと!?

 このままだと、この後地球で生まれる子どもが全員地球をキレイにしようと動き始めてしまう。


 ん?

 待てよ。

 ある意味願ったり叶ったりだな...

 父さん②のように地球を壊そうとしたらまずいけど、地球環境を改善しようと皆で動き始めれば、人間を残したまま地球を元に戻せるのかもしれない。


「静、取り敢えず皆の魂を回収して戻ろう」

「そうだね。じゃ中性子容器を魂に近付けてみて」

 中性子容器は、10cm四方の金属の塊のような形をしていて、上部に小さな穴が空いていた。

 その穴の部分を皆の真っ赤な魂に近付けると、ヒュッと吸い込まれていった。

 うまく回収できたようだ。

 同じように他の5つの魂も回収した。


 こうして、またSAFERを使ってオービターに戻り、エアロックから船内に入った。

「話は聞いてた。今、外の魂はどうなってる?」

 と静に鍊が間髪入れずに聞いてくる。

「もう、見えてる全部真っ赤になっちゃってる...これ、見えなくはできないのかな?」


「でも、これから生まれてくる人がみんな地球をキレイにしようって思ってくれるんなら、むしろ好都合なんじゃない?」

「お前は能天気だな!第一のプログラムが俺達と同じ『地球をキレイに』だと、なぜ断定できる。人類を滅亡させるなんて使命だったらどうなると思うんだ」

 父さん②に言われて、急に怖くなった。


 確かにさっきのあいつの最後の台詞からすると、人間を滅ぼすための使命が与えられてるかもしれない。

「とにかく、第一目的の魂の回収ができた。地球に戻って皆の蘇生をしよう。時子、地球への航行ルート策定頼む」

「コピー。月の重力を利用したスイングバイにより、静止軌道上の宇宙エレベータステーションを目指します。到着は56時間後を予定」

 鍊の指示に時子さんが応える。


 そういえば、あいつが時子さんを差し出せば地球への干渉をやめると言っていたこと、皆に伝えた方がいいのかな。

 この後どうなるか分からないけど。

 時子さんがいなくなったら死んだ方がマシなんて言っちゃったけど、もう既にフラれてるから、一緒にいる方が辛くなって行くのかもな。

 でも今離れることは考えられない。

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