表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本の仔  作者: 清水坂 孝
第三章
80/100

第80話

【鍊】

 徳永チルドレンたちは遺伝的に特殊能力を持つことになったが、他の日本の子たちにはこんな能力は...

 いや、そう言えば、日本の子には生まれる前に遺伝子操作が行われると聞いたことがある。

 徳永チルドレンのような特殊能力を持つ遺伝子が既に解析されていて、同じ特殊能力を持った人間が生まれる遺伝子となるように操作がされているとしたら?

 徳永チルドレンは実験台で、「日本の子」政策の本当の目的は特殊能力者を作り出すことだった?

 確かに少子化対策だからと言って、子どもを10年間で数万人増やしたところで焼け石に水だったはず。

 しかし、武蔵の代である第20世代チルドレンを最後に日本の子は生まれていない。

 いや、まだ生まれていないだけで、これから生もうとしている可能性は否定できない。

 日本政府がそんな大それたことを?

 そもそも全世界の人間が氷河期化とウイルスで滅びそうな状況で、なぜ日本がノーダメージなんだ?

 何かおかしい。


「アリス、なぜ日本が自分たち以外を滅ぼそうとしていると思うのですか?」

「だって、日本人ってなんだかんだ言って自分たちが一番優れていると思ってるでしょ?外国人は大雑把すぎるとか、逆に細かすぎるとか、言葉も日本語が一番美しいと思ってるし、こんなにグローバルな時代になっても、日本に住んでる異人種は外人扱いするじゃない?この機に乗じて諸外国を潰そうとしてるに違いないわ」

 そこまで?いや、確かにそんな意識を持っている日本人は多いかもしれない。

 常温核融合炉の輸出に対しても、最後まで反対を唱えていた国民は少なくなかった。

 私たちがこの場を何とかしても、世界中の人を救うことはできない?


「でもさー、人種とか、歴史とかホントに大事なことなの?一番大事なのは今生きている人たちが幸せに暮らすことだと思うケロ」

 静が私の迷いを断ち切ってくれる発言をする。


「それにね、魂の輪廻が本当なら、日本人の中にも前世外国人て人も生まれて来るはずだよ」

「魂の話については、僕も興味がある。この月に人間の魂が集まっているという話も聞いたことがあるしね」

 徳永①が優しい声で呟いた。


 やはり、死んだ人間の魂が月に集まることを知っていた訳ではなかったのか。

 ということは、純粋に月を地球に激突させて地球をリセットするためだけに月に来た?

 本当に?


「俺っちは君の第3人格なんだけど、君に愛情を持ってかれちゃったせいで色々不便なんだー。玲奈さんが生き返って君も安定したみたいだから、俺っちと融合しないケロ?」

 静がいきなり直球投げ込んだ!


「いいよ。どのみち僕のもう一人の人格がそろそろ目を覚ましそうだから、君と融合した方がメリットがありそうだ」

 徳永①が素直に受け入れた。

 でもどうやって融合するんだ?


「よかった。じゃあ、一旦俺っちが酸欠で仮死状態になるから、その隙にこの子の脳に意識を飛ばしてくれる?」

 以前、静に憑依した時を再現してみようというのか。

 うまく行く保証はないぞ。


「静!必ず戻って来てよ!」

 瑞希が心配そうに声を掛ける。

「大丈夫だと思うケロ、失敗したら後はよろしくネ」


 すると、静はすぐさま横になり、宇宙服の酸素供給を停止してから、吸気に麻酔薬を導入した。

 静のバイタルサインは時子を介してAICGlassesに表示されている。

 呼吸、脈拍、脳波共に微弱になって行き、ついには全てがフラットとなった。仮死状態だ。


「うん。この子の意識を身近に感じる。境界を越えることができそうだから、早速行ってみるよ」

 徳永氏も横になり、静かに目を閉じた。


 すると、すぐに静の脳波と心拍が振れ始めた。

「時子、静の宇宙服から麻酔薬を除去!」

「それより、宇宙服を脱がせた方が早い!」

 瑞希が叫ぶと、時子が静の宇宙服のロックを外して頭部のヘルメットを外した。

 すぐに静の脈が戻り、静かに浅い呼吸を始めた。

 脳波も周波数、振幅とも上がり始め、肌色に生気が戻ってきた。


「ぷはーっ!!」

 静は大きく息を吐きながら、バッと起き上がった。

 スゴい。静が仮死状態だったのは、30秒程度だけだった。


「セーフ!一瞬だけ三途の川みたいな風景見てきたよ!でもちょっとイメージが違くて、アウトレットパークが併設されてた気がするナリ」

 この感じ、元々の静と何も変わってないようだが、本当に徳永①と融合したのだろうか?


「うふ、ウフフフフ。なんだこの感じ?ちょっと楽しいんだケロ」

 うーむ、何か酔っぱらってしまったような感じになっているが、これが愛情を取り戻したためなのかどうか、よく分からないな。

 徳永①の意識はどこにあるのだ?


「秀くん、あなたの意識、ちゃんと残ってる?」

 玲奈さんが尋ねると、静はビッ!と無言で右手を挙げた。

 え?もしかして、言動は静で、体動は徳永①っていう、めんどくさい設定になってる?


 すると、その横で寝ていた徳永氏の身体もいきなり起き上がり、

「やっと戻れたか」

 と、その顔はさっきの優しそうな徳永①の顔と全然違い、眉毛の位置が下がり、眉尻が上がって、意地の悪そうな印象になっている。

 同じ顔のはずなのに、こんなに印象が変わるものなのか?


「Hideyasu!一体今までどこに行ってたのよ?」

「Alice。突然意識を乗っ取られたらしい。昔の弱い自分がシャシャリ出てきたようだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ