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日本の仔  作者: 清水坂 孝
第三章
74/100

第74話

 外の景色も代わり映えしないので、静のそばのソファーに腰掛けた。

「月がいつも表の面を地球に向けているのはなぜか知ってるケロ?」

 突然、静がなぞなぞのような話をしてきた。


 改めて聞かれると、確かに不思議かも。

 月が常に同じ面を地球に向けてるってことは、月が地球を回る公転周期と月の自転周期が完全に同じってことでしょ。

 普通に考えたら、その二つが全く同じなんてことはあり得ないよね。

 月と地球ができてから、ずうっと同じ周期で動いてるなんて。


「答えは、月が固体だからだす」

 固体だと、なんで周期が一致するのよ?

「月は丸く見えるけど、実はデコボコだし、内部の構造や材質も均一じゃないことは想像できるでしょ?」

「それは何となくそうだろうなと思うけど」

「すると、重心も真ん中じゃなくなるわけね」

 ほう。

「重心が真ん中じゃない球体を地面に置くとどうなると思う?」

「重い部分が下になるように転がって、その内止まるかな。起き上がり小法師がイメージ近いかも」

「正解!月も今、揺れながら止まろうとしてるとこ」

 へー、そうなんだ、なるほどねー。

 またちょっと勉強になった。


「でもね。例の人間の魂が待機している場所が月の裏側だとすると、そこに集中しているダークエネルギーが月の自転や軌道に影響を与えているのかも、しれないナリ」

 むむ。また新しい説か。

 静の考えは大体合ってたりするからなー。


「輪廻転生という考えでは、何度も生と死を繰り返す中で、エネルギーレベルを高めて高次元へ解脱し、輪廻の螺旋から抜け出すことが理想とされています」

 玲奈さん、そんなことにまで詳しいのね。

「確かに人間として生きるのは辛いことも多いけど、高次元に移行すれば幸せかって言うと、そんなこと分かんないよねー?」

 玲奈さんが急に俗っぽくなった。


 僕は日本の子として生まれてから、あまり楽しいとか嬉しいとか希望とかなくて、ズルズル生きてきてしまったけど、この件に巻き込まれて、兄弟やソマチットと出会えて、何か楽しいなって思うことができて、生きることに初めてありがたみを感じた気がして。

 だから、皆を助けて、世界中の色んな人とも話をしてみたいと、そんな希望を持つようになった。と、今思った。

 だから、本当に月にヒトの魂がたくさんいるのなら、その人たちも助けたい。


【玲奈】

 瑞希くんが何か思い詰めたような、でも何かに期待しているような不思議な表情を浮かべて固まっている。

 身体の中に、自分とは別の意識を持つソマチットを有する、ソマチットの王。

 本来なら、そのソマチットを研究させてもらえば、地球を人間が現れる前の時代の環境に作り替えるのも難しくないのではとも思える。それほどの力と知識を、瑞希くんの中のソマチットは持っていると思われる。


 その一方、月に秀くんがいる。

 その目的は鍊くんが言っているようにヒトの魂を滅ぼすためかもしれない。けど、本当にそれだけだろうか?

「地球をキレイに」という言葉、確かに秀くんから何度も聞いていたけど、ヒトを滅ぼしてもすぐには地球は元に戻らないだろう。

 何か見落としている気がするなぁ。


 こうして、地球を出発してから約2時間で中軌道に到着した。

 カーゴに積んである水を静止軌道へ向かう高速エレベータに載せ換える少しの間、中軌道ステーションに立ち寄ることになった。

 私が大学生の頃は、民間人は宇宙には行けなくて、超の付く大富豪がやっと民間会社の宇宙旅行に行ける可能性が出てきた感じだった。

 それも、今いる中軌道の遥か下、高度100kmに数分間滞在するなんて、宇宙に行ったって言えるの?というレベル。

 それでも、料金は2,000万円からなんて、申し込む人の気が知れないわ。

 今は宇宙エレベータのおかげで中軌道に一泊であれば、50万円程度で来られるようになったという。

 スゴい時代になったものだと思う反面、宇宙エレベータの建設には秀くんが関わったと聞いた。

 今の静ちゃんの人格になってからの行動だから、人を滅ぼすためのものではないと思うけど、実は効率的に月に向かうための足掛かりだったのかも知れない。

 静ちゃん自身は本人の意思で行動しているつもりでも、実は高位の存在に操られている可能性は全く否定できない。


「玲奈さん、何恐い顔してるんですか?」

 ステーションの窓から外を眺めながら考え事をしていたら、瑞希くんが話し掛けてきた。

「元々こういう顔ですのよ」

「またまたー、今にも目の前の窓硝子を粉々に砕いて宇宙ステーションごと宇宙の彼方に葬り去りそうな顔でしたよ」

「いやそれ、どういう顔なのよ...」

「ホントに恐かったから」

「そうね。ちょっと考え事をしてたのよ」


 最近瑞希くんがちょっと馴れ馴れしい。

 多分、兄弟を突然失ってしまって、寂しい気持ちを紛らわせようという自己防衛行動だろう。

 日本の子という特殊な境遇で、普通の生活は送ってこられなかっただろうから、精神がうまく育たなかったとしても不思議はない。

 でもでも、私は実はお子様フェチなので、できれば瑞希くんにはこのままお子様風味でいてくれることをキボンヌ(死語?)。

 本当は幼児の頃の秀くんが最高だったけど、あれは超々レアな事例だから、二度とチャンスはないと思うわ。


【瑞希】

 高速エレベータへのカーゴの載せ換えが終わり、いよいよ静止軌道に向かう。

 高速エレベータは地上との行き来をしないから、完全に宇宙空間の航行に特化した作りになっていて、スペースデブリ(宇宙ゴミ)も中軌道以上では分布も少なくなるから、装甲板も必要最小限しか付いていない。

 エレベータが加速して、巡航速度である2,000km/hに到達すると、心なしか身体が軽くなった気がした。

 中軌道上での10%程度の重力(正確には地球の重力と宇宙エレベータの遠心力の差)減は、静止軌道では完全に無重力になる。

 宇宙エレベータ内も無重力を想定して、基本的にはシートベルトの付いている席に座っている。

 地球を6時に出発してから約3時間、後17時間ほど掛かるはずだから、到着は日本時間では夜中の2時頃だ。


 宇宙に来ると、外には大きな地球と輝く太陽と無数の星だけが見えていて、時間の経過が感じられない。当然空気がないから空気感もなく、星との距離感が掴みにくく、不思議な感じが続く。

 この後何度か食事をとって眠りにつけば静止軌道に到着するはずだけど、何か釈然としない。


「皆さん、地球から通信が入っています」

 時子さんが唐突に告げた。

 鍊のお父さんがAICGlassesに映る。

「月に動きが出た。軌道がわずかに内側に入っている」

 どういうこと?

「つまり、地球に落ち始めている。恐らく徳永氏が何らかの方法で月を動かしているんだ」

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