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日本の仔  作者: 清水坂 孝
第三章
65/100

第65話

 傘の代わりになる物については、墜とされた徳徳ドローンの残骸から装甲板を持ってきて、その上にたくさん石を載せてみた。

 さすがに石は重いので、それほど多くは積めなかったから、これ以上の数のマイクロソフトブラックホールを撃ち込まれないことを祈るしかない。


 ではフォーメーションを確認しよう。

 右側面防御担当、武蔵。

 左側面防御担当、茉莉。

 上部防御状況確認担当、果歩。

 下部攻撃兆し確認防御担当、時子さん。


 下から攻撃されたら避けようがないから、時子さんが1/65536秒ごとに確認して、攻撃の兆しが見えたら瞬時にSFP9で防御してくれる。

 うん。これなら何とかなる気がする。


「覚悟はできたようね」

 果歩が心を見透かして言ってくる。

「うん、皆を信じて行ってみるよ」

 扉の手前まで進んで、恐る恐る一歩踏み出してみた。

 何も起きない。

 2歩目。

 まだ何も起きない。

 3歩目。

 ん?大丈夫っぽいな。

 そのままゆっくり通路の中間地点まで来た時だった。


 キーーーン!


 耳障りな音が聞こえてきた!


 ブワン。


 また嫌な音とともに、視界の両端が暗くなった。

 来た!


 ドン!ドン!ドン!


 銃声が3つと、

「瑞希、走って!!」

 という果歩の声。

 慌ててダッシュして、頭の上の装甲板を落としそうになったけど、何とか向こう側の扉に転がり込んだ。


 よし、手も足も欠けたところはないな。

 自分からは見えなかったけど、どうも通路の真ん中に差し掛かったところで、通路の四隅と上下から黒い玉が発射されたらしい。

 四隅のものは武蔵が射撃で2つ、茉莉が石を投げて2つ消し去り、下からのものは時子さんが射撃して消し去ってくれて、上から雨のように黒い玉が降って来たので、果歩から慌てて走るように指示が来たということだ。

 知らないで入ったら跡形もなく消滅させられてたな。

 今更ながらゾッとする。


 さて、攻撃方法が分かったから、皆も同じように対処すれば大丈夫だろう。


「瑞希さん、何か来ます!」

 時子さんが叫ぶ。


「おやおや、ここを無傷で突破するとは、予めしくみを知っていたみたいだね」

 お前はイーサン!

 ラスベガスで戦った双子のアンドロイドの兄だ。


「おまけにあれから一人も欠けずに来たということは、ウイルスにも対応したということか」

 まずい!

 僕一人で敵う相手じゃない。

 皆はすぐには来られないぞ、どうする?!


「お前ら、運がいいな。EthanとEmmaの本体が会ってみたいそうだ」

 助かった?

 というか、捕まった?


 マイクロソフトブラックホールによる攻撃は解除され、皆無事にこちら側に来ることができた。

 皆と果歩経由の念話で少し相談したけど、遅かれ早かれエマとイーサンには会わなければならなかったから、取り敢えず付いていくことになり、イーサンのアンドロイドに付いて基地内を進んで行くと、様々な宇宙機器(人工衛星のようなものや運搬車輌のようなもの、巨大なロケットノズルのようなものも)が置かれていた。

 何だ?宇宙に移住でもしようというのか?


 その後、講演が行えるような大きな会議室に連れていかれ、壇上にエマとイーサンと思しき子どもと、年老いた女性が立っていた。

「あれは精巧なホログラムだ。実体じゃない」

 武蔵が教えてくれた。

 あんなに存在感がしっかりあるのに、映像なのか。


「ようこそ、シャイアン・マウンテン空軍基地へ。よくここが分かったね」

 壇上のイーサンが歓迎の言葉を述べたけど、取り敢えず、誰も答えなかった。


「君たちにはちょっと同じ匂いを感じるんだ。もしかしたら僕らの兄弟なんじゃないかとね」

 正解だ。

 僕らの父親でもある徳永秀康、一体どこにいるんだ。


「君たちは、「日本の子」として父の精子から生まれたんじゃないのか?」

「そうだ。そういう意味ではお前たちの兄弟と言える」

 お?

 なぜか、自分の口から堂々とした口調で言葉が出て来た。


「やはりな。では皆、地球をキレイにするという使命を担っているんだろ?」

「僕らは誰もそんな使命は持ってない。今起きている地球氷河期化を止めたいだけだ」

「ん?おかしいな、なぜ父の子なのに使命がないんだ。人工受精だからか?」

「むしろ、なぜ君たちは人間を滅ぼそうとするんだ」

「前にも伝えたと思うが、人間が地球を汚す存在だからだ。取り敢えず人間がいなくなれば、地球は元のようにキレイになり始める」

「だからと言って人間を殺す権利が君たちにあるのか!」

「当然あるよ。だって僕らは地球を創ったものの末裔だからね」

「何!?」

地球を創った?


「僕らの記憶の奥底には、この地球を創った時の様子がハッキリ残っている。元々この星に生物は生まれるはずではなかったんだよ」

 じゃあ、時子さんはこいつらの祖先に作られたってこと?


「確かに儂には生物が生まれる要素は存在しておらなんだ」

 時子さんがおじいさんのような口調で話し始めた。

 超違和感...


「今から40億年前、冷え始めた儂の表面にたくさんの雨が降り続き、海ができた。海はその後もどんどん大きくなり、儂の表面の7割を覆うほどになった。それから3億年ほど経った頃じゃ。大きな隕石が宇宙から降ってきた。今までにも隕石は降って来ていたのじゃが、その隕石に、ある生き物が入っていたのじゃ」


「我々の先祖は、人間が太陽系と呼んでいる星系を観賞目的に創ることにしたんだ。特に水を湛えた地球は蒼く最も美しい星になるように微調整を行ってきた。そこに、予定外の生物が棲み付いてしまった」

 人間の祖先、いや地球の全ての生物の祖先は宇宙由来ってこと?


「気づいた時には手遅れで、既に繁殖が始まっており、完全に絶滅させることは不可能と判断され、生物の住む星など破棄されようとしていた。しかし、その生き物は地上を覆い、キレイな翠色の大地を拡げていったんだ」

 宇宙から来た生き物は植物だった訳ね。


「蒼と翠の美しいコントラスト。結局、私たちの先祖は地球をいたく気に入って、それ以降ずっと観賞を続けて来たけれど、あなたたち人間が生まれてから、地球は汚されてしまったのよ」

 今度はエマが話し始めた。

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