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日本の仔  作者: 清水坂 孝
第三章
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第57話

 その後父親は、彼らの一族が、遥か昔からソマチットと交流し、崇拝し、協力関係を築いて来たことを説明してくれた。

 現在は血も薄まり、ソマチットと交流できる人もほとんどいなくなったものの、彼は辛うじて話ができるらしかった。

 例のコロナウイルスもソマチットが無力化してくれるため、彼の家族は感染しなかったというのだ(彼の子どもたちは半信半疑のようだが)。

 そして、古くからの言い伝えとして、いつか大きな危機が訪れた時、ソマチットの王が現れ、彼らを救うだろうと、子どもの頃から言われて来たのだと言う。

 確かにウイルス感染はソマチットが防いでくれるみたいだけど、僕が救世主ってこと?そんな大層な者ではないんだけど。


「何でも協力させていただきますので、何なりとお申し付けください!」

 随分態度が変わったな...


「じゃあ、ちょっと食料を交換してくれない?人工光合成で作られた食べ物、味気なくて」

 すかさず茉莉がお願いをする。図々しいとは思いつつ、確かに今の食料に飽きていたのは否めない。


「お安いご用です。今夜はこちらに泊まっていってください。娘からシャイアン・マウンテン空軍基地の情報も説明させますし」

 こうして僕らはラスベガスの地下で一泊させてもらうことになった。


 娘さんはアリアという名前で、1年前まで基地で宇宙工学の技術者として働いていたという。

 そこでは、月面基地の建設計画や外惑星への探査機、宇宙活動を前提としたアンドロイドの開発を行っていたらしい。

 徳永という技術者が赴任してから、今までにない斬新な技術開発がなされ、計画もかなり前倒しで進んでおり、いよいよ本番がスタートするとなった時、いきなりアリアさんを含めほとんどの技術者や従業員が解雇された。

 理由は全く告げられず、多額の退職金の上乗せがなされたが、皆、これからという気持ちが強く、残りたいと懇願したものの、全員例外なく退職させられ散り散りになってしまったらしい。

 その後、すぐに地球の氷河期化が始まり、アメリカ全土の街が雪に埋まった。

 そんな中、ラスベガスでは常温核融合炉や光学迷彩の技術者がいた関係で秘かに生き延びていたのだが、例の兄弟アンドロイドが生き残った人たちを殺しにやって来たそうなのだ。

 アメリカ中に何ヶ所か同じようなところがあるものの、ラスベガスのようにまだ生き残っている人がいるのかどうかは分からない...


 その後、シャイアン・マウンテン空軍基地の構造や出入口、防衛設備などについて、当時のことを思い出してもらいながら話してもらい、時子さんが頭の中の地図上に書き込んで行き、皆でAICGlassesを使って確認しながら、侵入経路を検討していった。

 夕食では、見たこともない大きさの肉の塊をご馳走になり、アメリカ人が皆大きい理由が分かった気がした。


 そして、夕食後に今日の戦闘のデブリーフィングを行った。

「ちょっとあの子たち強すぎない?おまけに私たちを殺すこと、何のためらいもなかったわよ!」

 と果歩。

「運動性能は私と互角ですが、装甲の厚さとエコーロケーションによる光学迷彩キャンセル性能は脅威です」

 至近距離からの銃弾でもほとんどダメージを受けないとなると、茉莉の刀以外では倒せないことになってしまうし、こちらの光学迷彩は超音波によるエコーロケーションでほとんど無効にされてたようだ。周波数を変えた超音波を指向性を持たせていくつも発信することで、僕たちの動きは、かなり正確に捕捉されていた。


「父ちゃんは何か知らないのか?」

 AICGlasses越しに武蔵が静に尋ねる。

「あー、俺っちアメリカでの記憶は断片的で、子どもが生まれたことは知ってるけど、その後はあまり覚えてないんだよね。静に入る時、あの大きなドローンを作ってたことは覚えてるんだけど...」

「そうか、自分の子どもなのに何も知らないってのも寂しいな。あ、俺らも同じか...」

 確かに、皆、静の子どもなんだけど、当然実感はないよな。


「そう言えば、あのエマって娘、私の心を読んだわよ」

「あれはハッタリじゃないかなぁ。その後の戦闘では、動きを読まれてなかったみたいだし」

 と武蔵が否定した。何か少しくだけた物言いになってる。

「後、試してないのは、武蔵のM107と徳徳ドローンのレーザー、陽電子砲だけど、当てられる可能性があるのは極至近距離からのM107くらいかな」

 僕が言うと、茉莉が疑問を口にする。

「ドローンの武器は使えないの?」

「武蔵みたいにフェイントを掛けたりできないから...ん?できるか。時子さん、ドローン、複数機からほんの少しずらして一斉に攻撃できるよね?」

「できます。問題はあのアンドロイドたちが射線上に現れるかどうかです」

「そっか、そのくらいは読んでるよね」

 確かにそんなに簡単じゃないよね。


「まあ、いざとなったら瑞希兄のソマチットアタックで木っ端微塵じゃない?」

「いや、あれは周りの被害が大きすぎるから、そう簡単には使えないの!」

「えー?、前回はうまく行ったじゃん」

「大きなもの相手なら使えるかもだけど」

 何の障害物もない状態でダークエネルギーとやらを使ったら何が起こるか分かったもんじゃない...


「あと不思議だったんだけど、途中まで誰も当てられなかったのに、何で武蔵の弾が当たるようになったの?」

 確かに僕も不思議だった。

「相手はアンドロイドだから、全ての動きは把握されていた。だから、それを逆手に取って、撃つ瞬間にだけ細かなフェイントを入れて連射することで逃げ場をなくしているんだ」

 さすが武蔵。あの子どもたちに銃弾を当てられるのは、この中で武蔵だけだろう。それでもまともにダメージを与えられなかったけど。


「そうそう、最後のシンクロ攻撃、不思議な感じだったよ。身体が勝手に動く感じ。でも不快とかじゃなくて、武蔵と一緒にダンスでもしてるみたいだった」

「急に言われたからどうしたらいいか分からなかったけど、もう単純に武蔵の感覚を茉莉の身体全体に繋げるイメージでやってみたのよね。案外うまく行ったみたいね」

「相手が人間だったら、ある程度果歩姉が操れるんじゃない?」

「どうかなー?皆みたいに心を開いてくれないとダメだと思うな」


 結局、果歩の力を借りて、シンクロしながらフェイントや銃撃を交えてやっと一撃入ったってこと。

 イーサンは僕らの能力を理解したと言っていたから、このままでは次は勝てないだろう。

 アンドロイドが、二人だけとも限らないし。

 さて、どうしたものか...

 シンクロ攻撃は精度を上げて、他の皆も同時に攻撃できるようにしたいな。

 でも、本当は彼らも血の繋がった兄弟なんだよね...


 こんな感じでデブリーフィングは終わり、今日はもう眠ることにした。

 改めて思うけど、僕ら兄弟って仲いいよなー。

 こんな境遇になったからかもしれないけど、ずっと一緒に暮らしてきたみたいだ。

 兄弟はいないと思って生きてきたから、尚更嬉しいかも。

 皆で無事に日本に帰れるといいんだけど。

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