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日本の仔  作者: 清水坂 孝
第二章
42/100

第42話

【清水坂鍊】

 さて、訓練を始めてから2ヶ月が経ったが、徳永チルドレンの成長は予想を遥かに超えていた。

 実は私も「日本の子」の端くれなのだが、ポテンシャルでは徳永チルドレンに遠く及ばない。

 特に茉莉の戦闘力は尋常ではなく、もう私の能力では攻撃を防ぐだけで精一杯になっていた。

 そろそろ足手まといにさえなっているかもしれない。

 とはいえ、今回の任務を遂行するには、彼らをきちんとしたチームにまとめなければ難しいと考えている。

 各自の特殊能力を連携させて全員が一体として戦えるようになるのが理想だ。


 私は幼少の頃からアンドロイドの時子に育てられ、勉強から戦闘まであらゆる事を教え込まれた。

 本当の母親は2歳の時に病気で亡くなった。らしい。

 普通は「日本の子」の母親が亡くなった場合は施設に引き取られて育てられるのだが、私の場合は遺伝子を提供された父親に引き取られた。

 これは極めて珍しいケースらしい。

 物心付いた時には既に時子に育てられており、父親である清水坂孝と暮らしていた。


 父は、私が子どもの頃から何やらよく分からない仕事に携わって日本中を飛び回っていた。

 一緒に行動していたのが例の徳永秀康氏だ。

 私は徳永氏に会うことのないまま、彼は失踪してしまった。

 その時、父は少し落胆したようだったが、すぐに気持ちを切り替えて仕事に専念していたように見えたが、本心は相当落ち込んでいたのだと、今は思う。


 私は「日本の子」として、頭脳、身体能力共にS判定を受け、エリート教育を受けることになった。

 高校生2年生の歳になる頃には既に東都大学の理科Ⅲ類、即ち医学部を飛び級で卒業した。

 スポーツでは、バドミントンシングルスの国体で優勝した。

 スマッシュの初速は488km/hをマークし、当時の世界記録となった。

 それだけの能力を有していたものの、果たしてこの能力を何のために使えばいいのか、よく分かっていなかった。


「日本の子」として生まれたからには、日本の発展のために力を使うべきとは思っていたものの、何をすることが一番いいのか悩んでいたが、ある日父から、

「私と一緒に徳永を探してくれないか?」

 と頼まれた。

 失踪した天才科学者の捜索というシチュエーションに、不覚にもワクワクしてしまった私は、それから全力で捜索を支援することになった。


 しかし、手掛かりは一向に掴めず、早くも暗礁に乗り上げてしまった私は、徳永氏に「日本の子」として生まれた子どもがいたことに思い付いた。

 それぞれの経歴を調べたが、ほとんどの子どもがドロップアウトしていた。

 それでも彼らが手掛かりに繋がるに違いないと考えた私は、それぞれが興味を持つであろう話を聞かせて集めることに成功した。

 訓練と称して長期間拘束して、その間に徳永氏の消息の手掛かりを掴もうと考えていた。

 まさか本人が徳永チルドレンとして現れるとは思わなかったが。


 正直なところ、訓練をしても使えるのは武蔵くんだけだと思っていたが、徳永氏の遺伝子はやはり特別製だったらしい。

 まさか私が全く敵わないほどの能力を持つとは...

 頼もしい限りだ。

 訓練も大詰め、最終訓練で皆の特殊能力をもう一段開花させられればいいのだが。


【瑞希】

「瑞希には、コレをあげる」

 静の姿をした徳永秀康氏から、何かゲームのコントローラのような物を渡された。

「これは何ですか?」

「スペシャルスーパーデラックスドローン1号ロイヤル、略して徳徳ドローンのコントローラだヨ」

 全然、略になってないけど...


「基本的には時子が運用してくれるけど、いざとなったら瑞希が操縦して」

「どんなドローンなんですか?」

「アメリカ本土に上陸してから使うことになると思うけどー...気持ち悪いから敬語はやめてケロ!」

 親には敬語ってしつけられたし。


「むかーし作ったドローンを改良したんだヨ。撃つのに時間が掛かるけど、荷電粒子砲とガンマ線レーザーを積んでおいた。重い荷物はこいつに積んで行くといいよ」

「ところでアメリカのどこに行けばいいのか分かってるんで...るの?」

「とりあえずワシントンD.C.、ペンタゴンに行ってみてもらおうかな。俺っち、前はそこにいたんだ」

「静は行かないの?」

「うん。俺っちはこっちで支援するから、瑞希たちで頑張って来て」


 何で一緒に行かないんだろう?

 まあ、一緒に訓練をしてるわけじゃないから、体力や特殊能力は低いんだろうけどって、静って特殊能力持ってるのかな?

「そういえば、静って何か特殊能力持ってるの?」

「うーん、こうやって俺っちが入り込めてるのがそもそも特殊だとは思うけど、その他のことは分からないケロ」

 確かに本人じゃない精神が入れるって、普通じゃないよね。


「あ、それからアメリカに渡ったら時子は瑞希のサポートをさせるから」

「え?何で僕を」

 実は時子さん、僕のこと好きだったりして?

「いやぁ、瑞希、戦闘能力一番低いじゃん?」

 おミソかい!


 その夜。

『王』

「んお?また僕を王と呼ぶお前はソマチットか。てことはまた夢ってことね。夢の中では記憶が鮮明なのに、目が覚めた途端にあやふやになるのって、なんでだろう」

『王、そんなことより、お耳に入れておきたいことがございます』

「夢って自分の潜在意識と繋がって、潜在意識にある思いや記憶が出てくるものだって何かで読んだ気がする」

『王、私はあなた様の体内に棲まわせていただき、お話をさせていただいております。潜在意識の話ではございません』

「え?そうなの?」

『あの時子というアンドロイド、王が好いておられるようですが...』

「だってかわいいじゃん」

『あのかわいさは見せ掛けでございます。本来の姿は直径1万3千kmの鉄の塊にございます。とても王の手に負える相手ではございません』

「は?直径って何よ」

『とにかく諦めてくだされ』

「えー、折角理想の女の子を見つけたのに」

『あやつに性別という概念があるのかどうかも定かではありませぬ。とにかく心を奪われてはなりませぬぞ』


 っと、また何か変な夢を見てたな。

 時子さんの話だったような...

 時子さんが何かとんでもないものだという話だった、かな。

 そんなこと言われてもなぁ。

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