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日本の仔  作者: 清水坂 孝
第二章
33/100

第33話

 こうしてまた、通称蛸壺のトレーニングが始まった。


 また筋肉がグリグリと動いているけど、それほど辛くはないわね。

 問題はこの後のストレッチだわ。

「うぎぎぎぎ」

 やっぱり痛いー...

 これが続くのはきついわー。

 でも、昨日より少し身体が曲がるし伸びる気がするわね、痛いけど。

 また1時間半ほど蛸壺トレーニングを行って外に出ると、あら、入る前よりは身体が痛くないわ。

 不思議。


 こうして、昼食後にはまた実戦練習を行った。

 心なしか昨日よりも身体の反応がいい気がする、痛いけど。

 しかし、あの茉莉って娘の動きは尋常じゃないわね。

 速すぎて何をやってるのか分からないわ。

 それを受け続けてるあの鍊て男もスゴいけど。


 午前中のトレーニングが終了して、シャワーを浴びてから昼食を食べようとすると、茉莉が話しかけてきた。

「果歩姉さんって呼んでもいい?」

「あ、ああ、いいわよ。それにしてもあなたスゴいわね」

「何が?」

「格闘の実戦よ。何かやってたの?」

「いえ全く。あの脳にコピーするってやつ?あれから身体が勝手に動くようになって。果歩ねえは違うの?」

「確かに身体は反応するけど、あんなに速くは動けないわよ」

「ふーん、誰でもってわけじゃないのね」

「私は運動なんてほとんどやってこなかったからね」

「私も自転車を1年前から始めただけなんだけど」

「うそ!やっぱりあなたの特殊能力ってやつ?」

「そうなのかな。自分ではよくわかんないんだけど」

 この娘、今日は心の中と発する言葉の違和感はないようね。


 午後は会議室に集められて、特殊能力について話があるといって、鍊が話し始めた。

「ではこれから皆さんの特殊能力についてお話しします。実は皆さんは脳の一部が普通の人と異なっています。徳永チルドレン全員に見られる特徴で、視床下部と呼ばれる部分がかなり大きく、また遺伝子にも普通の人と違う塩基配列が見られます」


 ということは、私たちは「日本の子」の中でも特別な存在ということか。

 噂で「日本の子」は、遺伝病を抑え、特長を伸ばす遺伝子操作を施されていると聞いたことがあるけど、流石にヒトと異なる存在ではなかったはず。

 徳永秀康という人がかなり特殊なヒトだった、いやヒトではなかったの?


「このことにより、皆さんには普通の人間にはない特殊な能力が備わっていると考えられます。そして、昨日の血液検査とAICGlassesへの入力から、いくつか判明したことがあります」

 AICGlassesへの入力?

 あたし、変なこと入力してないわよね...


「まず、坂本さんの血液を調べたところ、赤血球内のヘモグロビンが通常の2倍以上含まれていました。これは酸素を他の人よりも多く身体に運べるので、疲れにくく、最大筋力が高くなる事が予想されます。通常は多血症という、血液が流れにくい病気になるほどの量なのですが、坂本さんの血液は全く問題はないようです。更に筋繊維の強度と収縮力が通常の人の3倍近くありました。これは同じ太さの筋肉で3倍の力が出せるということです」

 やっぱり、あの娘の身体は特別製だったってわけね。


「そして、品川さん」

 ギク。

「あなたのAICGlassesへの言語入力から、興味深い結果が得られました。藤堂さんに時子・ジ・アンドロイドへの思いを話した時です。あの時、自分の力がバレてしまったかと思いましたね」


 しまった!

 あのAICGlassesって、考えてることがバレちゃうんじゃない!


「あなたは人の考えていることがある程度分かるのではないですか?」

「やっぱりー。何でバレちゃったのかと思ったんだよ。て言うか、時子さんの前で言っちゃってるじゃん!」

 藤堂くんがジタジタしだした...


「バレちゃったんならしょうがないわね。そうよ。私は人の考えてることが分かるわ。細かいことまではムリだけどね」

 初めて他人にこの能力がバレてしまった。

 どう思われるのかしら。

 やっぱり気持ち悪いし、怖いわよね...


「ちなみに私の考えていることは分かりますか?」

 と鍊が尋ねてきた。

 そうなのよ。

「あなたの考えていることは全然分からないわ。何か理由があるの?」

「私は実はアンドロイドなのです」

 !!

「あ、冗談です。私は人に心を読ませないトレーニングを積んできました。表情や脳波などに思いが現れてしまわないように」


 びっくりした。この人、冗談言えるのね。

 私もどういう仕組みで人の心の中が分かるのか分からないけど、読ませないようにすることができるということは、超能力の類いではないのね。

「皆さんにもやり方をお教えしますので、読まれないように頑張ってみてください。そして、品川さんはそういった対抗手段に負けずに人の心を読めるようにトレーニングしましょう」

 うわー、何かうまく丸め込まれた感じ。


「では、午後はそれぞれ特殊能力を開発するトレーニングを行います。まず特殊能力の強さ、範囲、応用について強化できないか調べて行きます」

 この力を強化するっていう発想はなかったな。

 人の心の中を覗き見るって、あんまり気持ちいいことでもないのよね。

 今まで、私に関わろうとしてきた人の心しか見たことがないけど、大体底が浅くて、つまらない虚栄心とか、妬みとか、正直気持ちが落ちる中身ばっかりだった。


「まず武蔵くんの視力ですが、遠くのもの、速く動くもの、可視光以外の波長、風や空気の重さなど、普通の目では見えるはずのないものまで範囲を広げてみましょう。光学迷彩も見ることができるではと考えています」

「了解しました」

 小学生がハキハキ答える。

 そういえば、あの小学生も心の中はほとんど見えないんだったわ。


「次に坂本さんの筋力ですが、蛸壺でのトレーニングに加えて反応速度を上げるトレーニングをしていきましょう」

「それ、自転車速くなるかな?」

 この娘は自転車のことしか頭にないみたいね。


「藤堂さんの能力については、人に対して試す訳には行かないところもありますので、動物などで試してみましょうか」

「はあ」

 こいつは何だかやる気ないわねぇ...

 まあ、人を殺せる能力なんてできれば使いたくないけど。


「品川さんは、人の精神防壁を突破するためのトレーニングと別の使い方を探してみましょう」

 別の使い方?

 人の心の中を見通す他に何ができるの?

 できれば違う使い途の方がありがたいな。

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