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日本の仔  作者: 清水坂 孝
第一章
3/100

第3話

【毛利 紳助】(日本経産新聞記者)

「こりゃ、世紀の大スクープや!!」


 おっと、声に出てしもた。

 熱核融合炉の完成だけでも大ニュースやったのに、こんなとこで常温核融合とは、たまらんわ!

 まだ本物かどうか分からんが、本物やったらどえらいこっちゃで。


 毛利は心の中でべらべら喋りながら記者会見会場から立ち去ろうとする徳永を追っていた。

 常温核融合に関するインタビューをさせてもらおうと、国内外様々な記者たちが徳永を追い掛けていた。

 しかし、徳永の脚は滅法速く、誰も追い付けずにいたのだが、ついには廊下の角を曲がった途端、全員が徳永の姿を見失ってしまった。

 その先は行き止まりで、ドアも窓もなかったにも関わらずだ。


 これには一緒に追い掛けていた他の記者たちも呆気に取られていた。

「消えたぞ!」

「What's happen?」

「他消失了!」


 おいおい、どないなっとんねん!

 どこかに隠れているのではと探す記者たちだったが、全く見つけることができず、納得行かないままその場を後にしつつあった。

 仕方なく散り散りになっていく記者達を尻目に、毛利は那珂核融合研究所の外へ向かい、クルマに乗り込んだ。


 絶対逃がさへんぞ!

 誰よりも先に見つけ出したる!

 取り敢えずスマホでネット検索したが、徳永英康で9件、徳永秀安で5件、徳永秀康で71件、徳永英明で2万件、て徳永英明、有名な歌手やんか。

 あー、漢字が分からんわー。

 こういう時はアレや、別のキーワードで絞り込みや。

 キーワード何があるやろ。

 常温核融合?高校生?天才?科学者?事件?研究?

 うーん、まともな情報あらへんなぁ。

 あいつ、見た目は高校生くらいやったよな。

 あないな大発明、一端の高校生風情ができるもんやないんやけどな。


 となるとでかい研究開発機関がバックにあるんやろか。

 国内で常温核融合の研究をしてるのはと、東北東大学と南海道大学か。

 いやいやあかん、ちゃんと研究してるとこがわざわざ熱核融合炉の記者会見で発表する意味がないわ。

 てことは、やっぱ一人で作ったちゅうことか?

 それもなぁ。

 流石に協力者がおるはずや。

 原子核物理学の権威に知り合いがおるとかかな。


 んー、のんびりしとる暇はないんやけど。

 しゃーない、ちょっと金は掛かるがあそこに頼んでみるか。

 毛利はスマホでどこかに電話を掛け始めた。

「探し物探索サービスです。お客様の探しているものを番号で選択してください」

 録音された機械的な女性の声が流れる。

「人の場合は1を、物の場合は2を、動物の場合は3を、それ以外の場合は4を押してください」

 1と。

「人の探索ですね。手がかりとなる情報をなるべく多くお知らせください」

「名前はとくながひでやす、年齢は17歳くらい、身長は172cmくらい、あとはー、そうや記者会見場で撮った写真があったわ、でも写真は送れんか」

「写真はxxx@yyy.jpにお送りください」

 うお、録音の声じゃなかったんか。

「写真があるのでしたら、料金は30万円になります」

 高!ま、ええか、経費で落ちるやろ。

「分かった。進めてくれ」

「畏まりました。ではこれから言う銀行口座番号に振り込みを確認した後、調査を開始します。推定所要時間は7分です」

 毛利は銀行口座を書き取りながら、ボソッと

「随分早いんやな。ホンマかいな」

 と小声で言った。

「推定です。プツ」

 電話は唐突に切れた。


 すぐにスマホからメールを開いて徳永の写真を送り、ネットバンキングを開いて、振り込み処理を行った。

 ホンマに7分で見つかるんかなぁ。

 毛利は電子タバコのスイッチを入れて、水蒸気を燻らした。

 相変わらず旨ないタバコやな。


 ピリリリ!

「先ほどご依頼いただいた人物の探索について、97.3%の確率で特定ができました。結果をお聞きになりますか?」

 振り込んでから3分も経ってへんぞ、ホンマかいな?

「早すぎるんちゃうか?間違うてたら金返してもらうで!」

「では特定の根拠をご説明します。お送りいただいた写真から特徴点抽出を行い、一週間以内の日本全国の防犯カメラの映像から類似する顔を検索しました。合計21分の映像から特徴点の比較を行った結果、97.3%の確率で人物を特定しました」

「分かった分かった。で、どこのだれやねん」

「徳永秀康、年齢は17歳、東京都武蔵村山市学園x-yy在住、都立国武高等学校の2年生です。家族構成は父親と母親の3人暮らし。父親は徳永秀一、東都工業大学の原子核物理学教授です」

 ビンゴ!

「オッケー、間違いない!助かったわ、ありがとさん。あ、領収書送ってな」

 電話を切り、早速ナビに住所を入れる。


 徳永の家まで180km、2時間40分か、今から向かえば夕飯には間に合うな。

 毛利は早速クルマをナビに従って走らせた。

 常磐道から圏央道を経て、入間インターで高速を降り、国道16号を南下し、青梅街道に曲がった。

 武蔵村山市に入った頃、毛利は既視感を感じた。

 前に来たことあったかいな?あ、国立感染症研究所か。

 以前、新型コロナウイルスの取材で訪れたことを思い出した。

 国立感染症研究所はプロテクションレベル3(P3)の実験設備を有する国内最高レベルの感染症研究施設で、様々な感染症や細菌の研究を行っている。

 徳永と何か関係があるんかな?

 んー、別にないか...


「間もなく目的地に到着します」

 ナビが報告をする。

 到着しますて、運転したんは俺やけどな。

 3時間近く休むことなく運転してきた毛利はさすがに少し疲れていた。

 夕暮れ時に小さめの家が建ち並ぶ住宅街の真ん中に入って来たが、ほとんど人は歩いていない。

 毛利はクルマを路駐させてスマホの地図を便りに徳永の家を探した。

 程なく「徳永」と彫られた石の表札を見つけた。

 何の変哲もない普通の一軒家だ。

 目の前にはブランコと鉄棒の設置された公園がある。


 毛利は迷うことなく呼び鈴を押した。

 するとすぐにインターホンから「はいぃ」という男性の声が返ってきた。

「徳永秀康さんのお宅でしょうか?私、日本経産新聞社の毛利と申します。本日の記者会見のことで秀康さんにお話を伺いたいのですが」

「記者会見...秀康はまだ帰ってないんですが」

 やはりここで間違いない。あのサービスすげえな。

「お父様でいらっしゃいますか?」

「そうですが」

「もしよかったらお父様にもお話をお伺いしたいのですが」

「うーん...分かりました。いつかこんな日が来るとは思っていましたから」


 毛利は徳永の家に入れてもらった。

 徳永の父親である徳永秀一は、東都工業大学の原子核物理学教授との事だったが、パッと見はうだつの上がらない年老いたサラリーマンのような風体だった。


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