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日本の仔  作者: 清水坂 孝
第二章
27/100

第27話

【藤堂 瑞希】(環境省 地球環境局)

 環境省なんて初めて来たなぁ。

 AICGlassesがあれば、わざわざ集まらなくても集まって話すのと何ら変わらないことができるのに、なんで出張させられたんだろう。

 そもそも出張なんて初めてだ。


 自動運転のタクシーを家まで呼び出し、直接環境省の入っている庁舎まで来た。

 料金は会社に直接請求されるけど、数十円しか掛からないから、自分で払っても痛くも痒くもないんだけどね。

 庁舎の中はほとんど人がいなくて、静かな世界が広がっていた。


 えーと、13階の地球環境局というところに行けばいいのかな。

 エレベータに乗って13階に向かおうとすると、目付きの鋭い小学生くらいの子どもがエレベータに乗ってきた。

 すぐさま自分と反対側の隅に収まると、こちらをじっと見ている。

 怖ーい。なんで子どもがこんなとこにいるんだろ?


 ポーン。

 13階に着くと、後ろから小学生が付いてくる。

 僕、何かしましたかー?

 そのまま会議室のようなところに入ると、小学生も入ってきた!

 た、助けて!

 と思ったその時、

「ようこそいらっしゃいました!」

 と声を掛けられた。


 声の方を見ると、会議室の前の方に自分と同い年くらいのなかなか男前の青年が立っていた。

「氏名の貼ってある席にお座りください」

 丁寧に促される。

 小学生も前の方の席に座るようだ。

 なんだ、追い掛けられてた訳じゃなかった。

 小心者過ぎだよな。


 その後、また同い年くらいの女性と、何かやたらと元気そうな高校生くらいの女の子が部屋に入ってきて、それぞれ席に着いた。

 なんだろう、この面子は...

 とても仕事の話が始まる気がしない。


「皆さんお待たせ致しました。全員お揃いですので、ご説明させていただきます。申し遅れましたが、私は清水坂 鍊と申します。ここ環境省で働いております」

 例の青年が司会のように仕切り始めた。


「本日はお忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。この後皆さんにお集まりいただいた目的をお話ししますが、まずはある映像をご覧いただきます」

 ん?

 何が始まるんだ?


 部屋が暗くなり、正面のスクリーンに吹雪の景色が映し出された。

 どんよりと暗い街中の様子に、雪が横殴りに降っている。

 人は誰も映っていない。

 よく見ると右上に小さく時刻と地名のような文字が見える。

 時刻は、2046.8.24.3:32、今日の、6時間前?

 地名はmoscow、モスクワ、ロシアのモスクワって、時差が確か6時間だから、LIVE映像ってことかな。

 でも、モスクワって、今、一応夏じゃないのか?

 画面が切り替わり、また暗い雪景色が映し出された。

 すぐに右上を見ると、地名はbeijingと書かれている。

 中国の北京だ。

 ここも夏のはずだけど。


 その後、世界各地のLIVE映像らしきものが流れたが、軒並み白い雪景色となっていた。

 そう言えば、アメリカは出て来なかったかもしれない。


 部屋が明るくなり、鍊が話し始めた。

「今ご覧いただいた映像は各国の現在の様子です」

 やっぱり!

 でも全部雪景色っておかしいでしょ。

 赤道付近や、アフリカの国も映ってたはず。


 すると、

「アラブ首長国連邦で雪が降ってるはずないじゃない!」

 高校生くらいの女の子が皆が思ってたことを代弁した。


「皆さんがおかしいと思うのもムリはありません。しかしながら、全て実際の映像です」

 そして、鍊は僕らの知らない驚愕の事実を淡々と話し始めた。


 簡単に纏めると、今日本で流されている世界のニュースは全てAIが作成したフェイクニュースで、地球全体に氷河期が訪れているということ。

 ずっと続いていた地球温暖化は、メキシコ湾流という海流の流れが変化することで突如として終わった。

 そこになぜか世界中の常温核融合炉の停止、各国の宇宙煙突の暴走が重なり、地球の全地域で氷河期が始まってしまった。

 常温核融合炉の停止は全世界の電力が喪われるというとてつもない影響をもたらし、既に多くの人命が奪われてしまった。

 常温核融合炉の代替エネルギーは、昔捨て置かれた太陽光パネルくらいしかなく、それも吹雪の中ではほとんど発電ができなかった。

 従来、エネルギーの主流であった石油や天然ガスは、産油国の施設が何者かに攻撃され、ほとんど利用できなくなっていた。

 更に、新型コロナウイルス感染症が世界中で発生し、医療崩壊により世界人口は3分の1まで減少したというのだ。

 確かにウイルスについては、日本でも海外渡航の制限が掛けられているが。


「そんな映画みたいなこと信じられません。日本では何も起きてないじゃないですか」

 今度は同い年くらいの女性が皆の意見を伝えてくれた。


 それを受けて、鍊は日本の話を始めた。

 日本の常温核融合炉は核となる重要な部品を開発当初のものから設計変更していたためか、新しいものは止まることはなかった。

 そう言えば、少し前に古い家庭用の融合炉が故障しているというニュースを見た気がする。

 そして、日本の西にある宇宙エレベータは何とか宇宙煙突としての機能を停止でき、逆にその場所に昔研究されていた熱核融合炉が設置されて、発電と発熱を行っているため日本は氷河期を逃れているのだと言う。

 でも、日本から海外に行った人が何も言わないのはなぜなのか?

 今、ウイルス感染予防のため、海外渡航者は帰国時にホテル等での2週間の隔離が行われることになっている。

 実は海外に旅立つ際に渡航者全員が麻酔で眠らされ、渡航先での記憶を植え付けられて、日本に帰って来たことになるらしい。

 AIコンシェルジュを利用している人であれば、既に脳スキャンを受けているので、催眠術による言語野の活動から渡航先での目的を言語化して引き出し、目的に沿った疑似体験をAIで生成して、長期記憶野に定着させることによって、あたかも海外に行って目的を果たした(もしくは果たせなかった)と思わせることができるのだそうだ。


「前置きは分かった。なぜ俺たちが呼び出されたのか教えてくれ」

 うお!この子、なりは小学生なのにスゴいセリフ吐くなぁ。


「皆さんにはある共通点があります」

 共通点?

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