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日本の仔  作者: 清水坂 孝
第一章
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第1話

【清水坂 孝】(量子科学技術研究開発機構)

「さあ、行こうか」


 遂にこの時が来た。

 数十年に亘る日本とEU諸国との国際研究と革新的な素材、機器開発により、実用核融合炉「JT-100」が試験運転の日を迎えたのだ。

 この核融合炉が稼働すれば、従来のウランやプルトニウムによる核分裂炉発電所と同レベルの電力が、核燃料や核廃棄物の問題をほぼ起こさずに得られることになる。

 燃料となるのは海水から取り出される重水素と、リチウムから炉内で作り出すトリチウム(三重水素)であり、放射レベルはウランなどの重元素に比べて遥かに低く、放射能などによる環境汚染ともほぼ無縁、かつ海水はどの国でも容易に手に入り、石油などの化石燃料のように一定の国・地域に依存する恐れもなくなる。


 2011年に日本で発生した東日本大震災による福島第一原発事故を受けて、世界中の原子力発電に対する姿勢が原発反対に倒れた。とは言え、既に膨大な電力を必要としてしまった先進国では、コストの面から原子力発電を葬り去ることはできず、何とかして世論に対抗して原発の推進継続、再稼働を進めてきた。

 しかしながら、世論を無視し続ける政治に未来はなく、将来的に原発をなくす方向で折り合いをつける他なかったが、その折り合いの一つとして核融合炉による発電が挙げられ、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)は原型炉の早期開発を迫られ、巨額の投資と優れた頭脳が集積されることとなった。


 その頃、東都大学大学院で先端エネルギー工学を専攻し、プラズマ・核融合工学を研究していた私は、迷うことなくQSTの門戸を叩いた。

 それから8年、研究段階から実機での実験を重ね、遂に実用可能な出力と耐久性が実現できる状況となり、そのために私は様々な革新的な機構を開発し、遂にはプラズマ状態の原子核の扱い方に神懸り的なコツを掴むことで、この分野の第一人者に登り詰めた。

 特許庁に出願した200件を超える特許提案書は、全て「清水坂 孝」単独発明で登録がされている。

 そして、原型炉開発を当初の予定よりも10年短縮してみせたのだ。


「予定通り高周波加熱装置によるプラズマの加熱を終了。プラズマ温度は現在6,200万Kへ到達。重水素NBI(中性ビーム)入射の条件を満たしました。試験シーケンスに基づき10秒後にNBIの入射を始めます。全ての電源は正常出力」

 実験進行担当から報告が入る。


「了解。いよいよだな」

「NBIの入射まで4・3・2・1、入射を開始しました」

 モニタに表示されている各種の出力値がゆっくり上がり始める。

 無事に着火してくれよ…


 核融合はどちらもプラスの電荷を持つ重水素とトリチウムの原子核を、その電気斥力に対抗できるだけの運動エネルギーを与えて無理やりぶつける事によって起きる。それが起きるには数億度という太陽の中心温度よりも格段に高い温度を発生させなければならない。


 息苦しい時間が流れる。

「炉心の温度が1億Kに到達します」

「さぁ頼むゼ」

 その時、じわじわと上がっていた炉心温度が一気に跳ね上がり、1億1千万K、1億2千万Kと上がり始める。

「来た!!」


 それに伴い3段に組んでいる蒸気タービン発電機の回転数も跳ね上がり、一気にエネルギー増倍率が1を超える。即ち、発電に使う電力よりも発電される電力が大きくなり、自分で発電した電力だけで運転ができる状態となる。


 炉心温度は更に上がり、2億5千万Kを突破。発電機の出力は100万kWを超えようとしている。

「炉心臨界。定常運転に入ります」

「各種モニタ。異常は?!」

「プラズマ形状、異常ありません!」

「真空度、異常ありません!」

「NBI照射系統、異常ありません!」

「その他、全て正常値です!」

「成功です!!」


 中央制御室は「わっ!!」という爆発にも似た高揚を見せ、皆が拍手を始めた。

 自分も込み上げる嬉しさで涙が出て来た。こんな嬉しいことが今までの人生の中であっただろうか。

 今日は人生最良の日だ!

 これで地球のエネルギー問題は一気に解決に向かうことになる。我々の手で地球を救ったのだ!

 この後、融合炉を2時間定常運転させた後、試験シーケンス通りに停止させ、最終的な実験成功を確認した。


 この結果をまとめて、明日全世界に向けて実験の成功とエネルギー問題の解決を発表するのだ。

 実験の詰めでこの2ヶ月まともに家に帰っていなかったが、今日はぐっすり眠れそうだ。

 記者会見がまさかあんなことになるとは当然知る由もなく。ムニャムニャ。

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