84話 騎士と勇者と魔女とイカ
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【勇者】~邂逅~《アーグラスview》
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「馬鹿勇者とはご挨拶だな、まったく、とんだ妹弟子だ……」
「?」
「ああ、悪い。こっちの話だ、気にするな」
ここはアイギスの夢の中。普段なら俺がここに来ることは出来ないんだが……
どうやらアイギスは、俺達も受けた事のある、ティリア達女神の課した試練……自分の理想像が心を折りに来るアレだ。それを受けていたようだ、まぁ……俺はアイギスと魂を同じくしてはいるが、やはり別人なので、例えその試練であってもアイギスの描く本人の理想の姿とは違うはずだ。
「では、何故……お前が私の夢に現れる?」
「アリサの仕業だろうな。今お前達はアリサの創造した小世界の中にいるんだろう?」
まったく、凄い奴だなアリサは。あの妹弟子の創造した小世界の中でならば、『魂の根源』から俺をこうして呼び出す事も可能なんだろう。
「それにしても、まさかこうしてお前と会話をする機会が与えられるとはな……
アイギス、まずは詫びよう。済まなかった……『勇者』の転生体として生まれたばかりに、いらん重圧を与えてしまったな?」
「……それはもう、大丈夫だ。アリサ様がお教えくださった」
生前は『ユーニサリア』を救うべく、各地を駆け、様々な敵を倒して来た俺だが……それは、多くの仲間達が協力してくれていたから成し得た事だ。
その仲間達がどうやら過分に俺達の事を伝えてしまったようだな。更に、その話には長い年月を経る内に、尾ひれが付き、その物語の中の俺はとんでもない超人になっている。
「アーグラス……」
「ん? どうした?」
っと、いかん……思わず遠い目をしてしまっていた。
「私は、いつからかお前のようになりたい……いや、ならなければいけないと思っていた」
「……真面目なヤツだな」
少し呆れる。きっと周りに「勇者の転生体」であることを聞かされ、いつの間にか、自身も「勇者たらん」と躍起になっていたんだろう。
「だが、そんな必要は最初から何処にもなかったんだ。私は私。アイギス個人としての強さを求めればそれでよかったのだ」
「……その通りだ。誰に何を言われようと、どれだけ俺と比べられようと、アイギスは他の誰でもないアイギスなんだからな」
ふっ……ふふふ、はははっ!! 誇らしげに語るアイギスに俺は嬉しくなり、思わず笑いが込み上げて来る。アリサ、俺の妹弟子。よくやってくれた。感謝する!
あのままでいたらアイギスは間違いなく潰れていただろう。俺のようになるべく、噛み合わない努力を続け、思うように伸びない自分と周りの皆との実力の開きに、また悩み、そして心を壊していく負のスパイラルに陥ってしまうところだった筈だ。
「ふふ……本当にいい女だなアリサは」
「むっ? やらないぞ? アリサ様は私の恋人だ!」
「はははっ! まだ(仮)だろうが? 早くも彼氏気取りしてるのかお前は?
安心しろ。俺はティリア一筋だからな、アリサがティリアと瓜二つだろうと、別人。俺と、お前のようにな?」
やれやれだ、コイツは意外と独占欲が強いのかもしれないぞ? 苦労かけるだろうがよろしくしてやってくれよアリサ?
「そう言うお前こそ未練がましいのではないか? ティリア様にはTOSHI様がおられるのだぞ?」
「馬鹿野郎! そんなことは最初からわかってるんだよ! それでも好きなんだから仕方ないだろうが!?」
「ふんっ! やはり私とお前は別人だ! ティリア様のお気持ちも考えず、自分の欲求だけ押し付けるとはな! 潔く身を引くのもまたお前の言う『漢』なのではないのか?」
この野郎~! 俺はちゃんと身を引いたっつーの!? あ、いや……待てよ? 「好きな女のために命をかける」って豪語して、実際にそうしたけど……よくよく考えれば、コレってスゲェ重いな?
「……どうやらぐぅの音も出ないようだな? こう言うときアリサ様なら「はい論破」と言うのだろう!」
「うぐぐ……小賢しい奴だなお前は!?」
おいアリサ! コイツ結構性格悪いぞ? 付き合うのは考えた方がいいかもしれないんじゃないか!?
「だが、お前のそんな意思を貫き通す信念には尊敬している。アーグラス、君はやはり勇者なのだな?」
「……まったく、お前って奴は」
なんだかんだと言っても、他者を認めるこの度量の良さはアリサにも負けてないようだ。ふっと優しげに微笑むアイギスに俺は苦笑いを返す。
それから俺とアイギスは、他愛のない話に花を咲かせ大いに笑いあったのだ。
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【通過点】~君を超えた先に~《アイギスview》
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「──なんと!? ルヴィアス様の想い人とは」
「おっと! 待て待て! お前この事は絶対内緒だぞ!?」
『無限円環』内のアリサ様の自室で、アリサ様に心を救われた私は、感極まって、年甲斐もなく幼子のようにアリサ様に泣きついてしまっていたのだが……気が付けば、最早日常の風景と化したこの夢の中にいた。
ティリア様を始めとした女神様達が私達『白銀』に課した訓練場。『聖域』を訪れ、『氾濫』を乗り越える為にと、己が想い描く理想の自分が心を折りに来るこの試練は今も続いているのだ。
しかし、今日ばかりはいつもと勝手が違い、私の前に現れたのは、他でもない、かの勇者。私の前世の姿であり、私を重圧と言う鎖で縛り付けていた存在……アーグラスだった。
だがそれもアリサ様のおかげで解放された今では、心持ちも軽く、アーグラスとの談笑にふけこめるほどである。
『魔神戦争』を戦い抜いた勇者の話に私は時を忘れ、聞き入っていた。今はあのルヴィアス様がアーグラス達の味方となった時の話を聞いていたところ。
「って! おいおい、今はのんきに談笑してる場合じゃないんだぞ? そろそろ始めなくてはな!」
「始める……とは?」
思わぬところでルヴィアス様の想い人を知ってしまった私は、アーグラスの話の続きが聞きたくて仕方ないのだが、彼は思い出したように腰を上げて立ち上がり、私に向き合った。
「俺の冒険譚ならまた別の日に話してやるよ。今はお前の試練の仕上げが優先だろ?」
「……そうか、そうだな! 皆とも随分差が開いてしまった。死に物狂いで追い付かねば!」
そうだった。私としたことが、ついアーグラスの冒険譚に夢中になって、本来の目的を忘れてしまうところだった。いかんな、どうも幼少の頃から冒険譚を聞くと夢中になる癖が抜けていない。
「安心しろ。お前が苦しみながらも、必死に続けた努力は無駄じゃない。ただ噛み合ってなかっただけだ。俺が今からその努力を開花させてやる……超えるんだろう? ……俺を?」
「勿論だ。私は君を超え、アリサ様の隣に並び立つ!」
きっと……アリサ様は既にこのアーグラスよりも遥かな高見にいるのだろう。「勇者を超える」こと……それは、私にとって一つの大きな通過点だ。
「ああ、その意気だ! さぁ行くぞ!?」
「よろしく頼む!」
ギィィンッ!! ガキィィンッ!! キィンキィンッ!!
そうして始まるアーグラスとの斬り結び。まずは私の状態を把握しているのだろう、大分手加減をしてくれているようだ。私も今はそれに甘んじる。人はどう頑張っても、突然強くなれるものではない。徐々に徐々に、今まで積み重ねてきた様々な経験がゆるりゆるりと花開いて行くのだ。
「いいか!? 魔王と戦うと言うことは神との戦いと同意だ! 今まで培って来た常識が通じると思うな!」
「くっ! ならばどうすればいい!?」
アーグラスの剣戟を受け止め叫ぶ! 彼の言葉に私は、先のシェラザード様とアルティレーネ様との戦いを思い出す。
「当然だが魔王と戦うには『神気』を纏う事が必須だ! アイギス、『神気循環』は使えるな?」
アーグラスの言う『神気循環』とは、『剣聖剣技奥義の息吹き』の一つ。大気中の魔素を取り込み、己の中で純度を高め魔力から『神気』へと昇華させる呼吸法だ。私はつい最近、ようやく体得したばかりだ。
「もしそれが使えない仲間がいるなら、女神達に頼んで『神気』を纏った武具を用意してもらうんだぞ!?」
「わかった! しかしアーグラス! 君の攻撃は魔王にも届いたと聞いているぞ!? それは何か理由があるのか?」
「それは『勇者』としての能力にすぎない!」
だから他の誰にも真似は出来ない筈だ、と。なるほど、彼の転生体である私なら同じことが可能なのかと思ったが、アーグラス本人ではなく、『勇者』の能力だったのか。
キィィンッ!! ガガガッ!! ギィンッ!!
徐々に激しさを増すアーグラスとの訓練。『神気循環』も、もう当たり前のように使い、食い下がる! 負けるものか! 諦めるものか! 私は必ず君を超えてみせる!
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【のんびり】~だらけます~《魔女view》
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ふわあぁぁ~……んぅ~まだちょっと眠いなぁ。
あ、みなさんおあよぉございます。ちょっと寝ぼすけアリサです。
昨夜はアイギスのお父様とお母様、リリカさんに使用人のみんなと、『猫兎』達の歓迎会で大いに盛り上がったこの『聖域』だけど、今はとっても静か。
「あふぅ~いやぁ~よく寝たわぁ~♪ こんなにのんびりできるの久し振りだね」
数日振りのお屋敷の自分のベッドでぐっすりんこと睡眠をとった私は、一つ伸びをしてから起き上がる。今このお屋敷には私一人だけだ。ミーナもユニも、妹達も。『聖域』の主要メンバーは全員席を外している。居るのは畑仕事に精を出すノッカーくんを始めとした『農業班』や、動物達のお世話をしているブラウニーちゃん達『酪農班』に、ヘルメットさん達の『建築班』の面々くらい。
と言うのも、みんなは私の『無限円環』内にいるからだ。
元々、『セリアベール』の墓地で妹達と映像通信で話したように、時間がかかりそうな会議とか用事は、『無限円環』内で時の流れを速めて行おう。と決めたんだよね。昨日はなんか流れでそのまま会議始めちゃったけどさ。
勿論その間『聖域』に主要メンバーが誰もいない状況にするわけにはいかないので、魔女の私がお留守番ってわけ。
『無限円環』で話し合った議題は、まず、『ランバード公爵家』の面々に『聖域』に設立予定の冒険者ギルドの運営を任せる事になったこと。
そして、『セリアベール』と『ルヴィアス魔導帝国』にそれぞれ『聖域』と繋がる『転移陣』を設置すること。
それから、ルヴィアスの帝国が作った魔装具、『言霊の石』を改良する依頼なんかも受けた。
更に、残る魔王達の情報の共有。
そして極めつけが『新しい鍛練方法』について。この件については、結果から言うと。ティリアとシェラザードとルヴィアスが全員を鍛え上げることになった。
妹のアルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネの三女神、『懐刀』に『四神』に『ガルーダナンバーズ』に冒険者全員……ティターニアにリリカさん、『懐刀』と『四神』の部下さん達……『聖域』出身となる冒険者候補の面々に、『ランバード公爵家』の全員、ガウスとムラーヴェに、ゼオンもネハグラもジャデークも……とにかく全員だ。
まさかの主神様が鍛え上げてくれると言うサプライズに、みんなびっくりしたけど、二度とないだろうこの機会に物凄く盛り上がったよ。とんでもなくテンション爆上がり!
特にその中でも、期間限定で現世に留まっているビットが「自分の持つ総ての技術を伝えておきたい」とやる気を漲らせている。
既に『無限円環』内では数日が過ぎているのだが、形容し難い程のティリア達によるしごきを受けているみんなの叫び声が響き渡っている。『無限円環』内の様子については聖女の私がお話した通り。
アイギスが伸び悩んで、ベコーンって思い切りへこんでるけど、思い詰めてた色々を吐き出させて、ワンワン泣かせた後寝かせてやったので、起きてくれば立ち直るだろう。『無限円環』内でならあの馬鹿勇者もアイギスの夢に出れるだろうから、きっちりやることやってもらおう。
「『無限円環』には聖女の私もいるから、向こうの状況もよくわかるし♪ 留守番には私がうってつけってわけだわね。うしし♪ 久々にだらけさせてもらっちゃおうっと!」
とにかく! 降って沸いた思わぬ休日に心踊らせる私だ。さて、何をしようかな?
ルヴィアスの帝国からもらったチーズ使ってなんか料理作るってのと、爽矢の部下さん達のとこ行って豆腐作りもしたいし、小豆も探したい。魔装具作るのもいいかな? 『セリアベール』のエミルくんとも連絡とっておきたいし~うん、やることはいっぱいあるね!
「それもこれもぜーんぶ忘れて、ぼげぇ~っとするのも捨てがたいのぅ~どうしてくれようか♪」
そんな感じで色々考えつつ、私は寝起きでボサボサの髪を綺麗に整えて、身仕度を済ませ、妹達に教わった薄化粧しつつ、鏡の前でにやけていたのでした。
「うん、チーズケーキを作ろう! 折角チーズが手に入ったんだもんね♪」
取り敢えず思い付いたこと順番にやっていこう! まずはルヴィアス達からもらったチーズで、ベイクドチーズケーキを作ろうって思う。確かクリームチーズももらったチーズの中に含まれてた筈だ!
そうと決まれば早速キッチンに行こう! 沢山作ってお仕事頑張ってくれてる妖精さん達にもお裾分けしなきゃね♪
「アリサ様! おはよぉございまぁす!」
「おはよ~アリサ様ぁ♪」
「応。嬢ちゃん! おはよう! 随分寝坊助さんだったな?」
おやま。キッチンに降りてくればノッカーくんがヘルメットさんを被り、ブラウニーちゃんと一緒にお菓子を食べている。私に気付いてにぱーって笑顔で挨拶してくれたので、私も応える。
「おはよ~♪ ノッカーくん、ブラウニーちゃん、ヘルメットさん。今は一服中かな?」
「うん! 今は冬なのに『聖域』だと作物がよく育つよ♪ ぼく沢山土いじり出来て嬉しい!」
「動物達もみんな元気! すくすく健康に育って……育ち過ぎちゃうかなぁ~?」
「やっぱ『世界樹』の近くだからな! みんな健康で生き生きしてらぁ♪」
植物のお世話が好きなノッカーくんに、動物達が大好きなブラウニーちゃんがお屋敷のキッチンの小さなテーブルに向かい合って座り、備蓄の「ご自由にクッキー」を牛乳で食べては、椅子に座る足をプラプラさせて美味しそうにしているね♪ ヘルメットさんもノッカーくんの頭でゆらゆら揺れてご機嫌だ。
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【お魚食べたい】~リクエストです~《魔女view》
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「そういや他の面子はアリサの嬢ちゃんの棲処に行ってるんだったな?」
「うんそうだよ。今も色々お勉強とか訓練とかで忙しくしてるみたい」
ヘルメットさんがキッチンに入る私の背中に、そう声をかけて来るので、私は手にしたボウルを置いて答える。
「ふふ♪ いつも賑やかな『聖域』もいいですけど、こう言う静かなのも良いですね」
「だね、私も今日はのんびりさせてもらうよ~♪ あ、今から美味しいの作るから、出来たらみんなにもお裾分けするね♪」
楽しみにしてて~って、笑顔を見せればノッカーくんもブラウニーちゃんもわーい! って喜んでくれる。ふふ♪ 可愛い笑顔だね!
「ありがてぇ! 楽しみにしてるぜ嬢ちゃん! 野郎共も気合いが入るってもんだ!」
「神殿の建設ありがとねヘルメットさん。進捗はどんな感じかな?」
当然だけど神殿建設なんて重労働だもんね。任せきりにするのは心苦しいので、ちょっとした差し入れとして、美味しいチーズケーキを持って行こうと思う。建設開始から結構経つのでそろそろ完成するんじゃないかな?
「応! 嬢ちゃん達も見ただろうが八割は完成だ! 後は嬢ちゃんのご希望のサウナと……」
おー♪ 確かに会議室とか使わせてもらったし、その時に見た感じ結構出来上がってるようにも見えたね! 話を聞くに、私が要望を出したサウナとか、各部屋、それと?
「はっはっは♪ 後で実際見てやってくれよ! 仕上げの力作がもう少しで出来上がるぜ!」
「おやぁ~? 勿体ぶるねぇ♪ なんだべ? じゃあ楽しみにしてる♪」
上機嫌に笑うヘルメットさんを見るに相当な自信作が作られてるんだろう。なんだろうね? 後のお楽しみって事なので、わくわくを抑えて楽しみにしてようか。
「あれ? アリサ様それってルヴィアス様達が持ってきたチーズですか?」
「そうだよ~♪ これで美味しいケーキを作るの」
「はぁ~チーズってのは色んな使い方あんだなぁ~?」
「どんなケーキなんだろう! 私楽しみです。作るとこ見ててもいいですか?」
てきぱきとチーズケーキの材料を準備する私を見て、ノッカーくんがクリームチーズに気付いて聞いてきたので答えると、ヘルメットさんがチーズの多様性に感心して、ブラウニーちゃんはどんなケーキになるのか興味があるみたいだ。作るところを見たいって言うので勿論了承する。
「結構簡単だよ? ぶっちゃけて言えば、混ぜて滑らかにしたら後は焼くだけだからね♪」
すりつぶしたイチゴとかの果肉を混ぜてアレンジしたりするのも、また美味しいけど、今回はベーシックな普通のチーズケーキにするつもり。あの小さいながらもずっしりとした重量にしっとり、滑らかな美味しさを頑張って作ろう! ヨーグルトが手に入ればレアチーズケーキも作れるんだけど、それは今後の楽しみに取っておこう。
「ホールで沢山作って、他のみんなにもちゃんと行き渡るように~♪」
「昨日あんなに使ったのにまだまだ減らないですね♪ ルヴィアス様も『魔法の鞄』に沢山詰めてくれたんだぁ~」
「帝国じゃあありふれてる食材なんだろうね?」
うむ。そうなのだ! ルヴィアスが持って来てくれたチーズは各種類凄い量だ。ブラウニーちゃんが言ったように、昨日の歓迎会で消費した量も相当なんだけど、それでも在庫はまだまだある。これだけの量のチーズを用意できる辺り、ノッカーくんが思うように『ルヴィアス魔導帝国』ではチーズが常用食になっているんだろう。
「ああ、そういや嬢ちゃん。手伝いに来てくれてる爽矢様んとこの『龍人族』達がまた刺身が食いてぇってぼやいてたぜ?」
「ぼくのとこの農業班にいるみんなはね~えびの天ぷらが食べたいって言ってた♪」
「酪農班のみんなはアジフライとかイカフライが食べたいって言ってたよ?」
おやおや、海鮮物大人気だこと~? ううむそういや最近は甘いお菓子作る事が多かった気もするね。以前に水菜の棲処でもらったお魚さん達はもう食べちゃったし、また貰おうにも水菜は今『無限円環』で訓練してて不在だ。
私はチーズケーキの材料を混ぜ合わせつつ考える。聖女の私を通して、『無限円環』にいる水菜から棲処に立ち入る許可をもらえばいいんだろうけど、やっぱり主が不在の時にお邪魔するのは気が引けるんだよね。
「んじゃ『聖域』の周りの海にでも行って調達してこようかな。『聖域』は海に囲まれてるんだし、行けばなんかしらゲットできるでしょ?」
「おー行ってくれんのか嬢ちゃん?」
「えへへ♪ みんなも喜びますよ!」
「最近はお魚料理ご無沙汰だったもんね! 私も楽しみ~♪」
私がそう言うと、二人と一体? は嬉しそうに顔を綻ばせて喜んでくれる。んむんむ♪ このくらいお安いご用だよ! 普段頑張って働いてくれてるみんなに感謝を込めて、美味しいお魚料理を作ろうじゃないの♪
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【なんか勘違いされた】~でっかいイカさん~《魔女view》
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「おっほぅ♪ いるいる~! カツオにエビに~旬なマグロ~♪」
早速~と、言わんばかりに、チーズケーキをオーブンで焼いてる時間を利用して、アリア……は、今『無限円環』にいる聖女が使ってるので、飛行魔法で内海上空まで飛んできた。『聖域』を囲む内海周辺をミニマップと検索魔法を駆使して、みんながご所望のお魚さん達を探せば結構な数がいる。
「なんだろ? この世界にはお魚を食べる習慣ってあんまし広まっていないのかね?」
『白銀』のドガも川魚を塩焼きにして食べるのはご馳走だった~とか言ってたし、ちょいと前に出した煮魚なんて大層喜ばれたし……それを考えるとまったくないって訳じゃないよね?
単純に『聖域』の側の海だから、あんまり人が近寄らないってだけかもしれないけどさ。なんにしても、取りすぎない程度に頂くとしましょうか♪
「ぶり~♪ あぁん! 照り焼きにしたら美味しそう!」
お目当てのお魚さんを『引き寄せ』で近くに引き寄せ、『浮遊』で浮かせた『貯水槽』に移動させる。お魚さん達は最初こそびっくりしたかのように目を見開いて口をパクパクさせたけど、直ぐ様『貯水槽』に移動してあげたので、何事もなかったかのようにまた気持ちよさげに泳ぎ出す。
この『貯水槽』は魔法で常に内部の水を入れ替えているので、澱んだりすることもなく、綺麗で清潔だ。お魚さんと一緒に餌となる……なんぞ? 小魚? ぷらんくとん? ようわからんけども色々一緒にまるっと移動させているのでお腹を空かせる事はないだろう。
「落ち着いたらみんなとのんびり釣りに出るのも楽しいかなぁ~♪」
今は『聖域』で働いてくれてるみんなのご希望にお応えするため、魔法でヒョイヒョイとゲットしてるけど、レジャーで楽しむならこんな反則技は封印して、ゼルワの魔導船にゆらゆら揺られて、のほほんと釣竿垂らしてのんびり楽しみたいね♪
「って、イカは? イカはどこにいるの?」
イカフライ~お刺身~塩辛~♪ とか、鼻歌歌って見たものの、肝心のイカが見当たらない。この辺にはおらんのかしらん? ちょいとマップを引き伸ばし、『聖域』内海全域を表示させて探して見ることにする。
「西にいるなぁ~それも結構な数!」
なるほど、私が今いる東側と反対の方角にいたのね? イカの生態とかわからんちんだけど、なんか群れてるみたいだね。まぁ、私としてはまとめて数をゲットできるので、ありがたや~♪ なんだけどさ。
求めるイカの居場所を突き止めた私は早速『転移』で、ミニマップにマーキングされた海域の上空に移動した。するとそこには一隻の漁船がいて、丁度漁をしているみたいだった。
「ありゃ、やっぱお魚漁をして生計立ててる人達っているんじゃん?」
位置的に西の『ゲキテウス王国』の何処ぞにあると思われる、港町からの船だろうか? 折角なので望遠にした視界でその船の甲板を見てみれば、やはり漁をしているようで、投網やら何やらを操る船員の姿が見える。
「でも、なんだろ? なーんか慌ててるようにも見えるんですけど?」
甲板上の船員達は皆、何かしら叫びながら、慌ただしく駆け回っている。そんな中、船長らしきおっちゃんが、あれこれと指差して指示を出してるようだ。 一体何事なんだべ~? なんて呑気に観察していると、ミニマップにマーキングしたイカさんがその漁船に近付いている。
「あっ!」
って、声を挙げたと同時、海面から沢山の足が出てきて、その漁船をぐるりんちょってしたじゃないの! なるほど、船員達が慌ててたのはこう言うことか。
ザパアァァーっと続けて海面から姿を見せて漁船のみんなに「こんにちは」したのは、こりゃまたでっかいイカさん。
「「ーっ!? ーっ!!」」
う~ん、流石に距離あって、船員達の声までは拾えないか。まぁ、なんにせよあのままじゃ漁師さん達があのでっかいイカさんにぱっくんちょってされてしまいそうなので、助けに入るとしましょうね。
「ほい、『引き寄せ』っと、続けて~『剥離』からの『浮遊』っと!」
ヒュンッ! ペリペリペリ~ふわ~ん♪
「こりゃまた間近で見るとでっかいね~♪ 他のお魚さん達を食べられたら困るし、あんたは『冷凍保存』~の、はい。ミーにゃんポーチっと!」
「ぎゃああーっ!!」「もうだめだーっ!!」「終わった~!」
私がイカさんに捕まった漁船を、イカさんごとまとめて『引き寄せ』で引き寄せて、船に巻き付いてるイカさんの足を『剥離』でひっぺがし、『冷凍保存』でカチンコチンに凍らせてミーにゃんポーチに収納している僅かな間、『浮遊』で浮かせたままの漁船から、船員達の叫び声がぎゃんぎゃんとまぁ~やかましいこと。
「ちょいとあんた達~? もう大丈夫だから落ち着いてくれないかな?」
「うおぉぉーっ! って!? ええぇーっ!? なんじゃこりゃあぁーっ!!?」
「「「浮いてるーっ!!?」」」
でっかいイカさんはもうやっつけて、私のミーにゃんポーチにしまったから、もう大丈夫だよって説明する前に、この漁師さん達、今度は船ごと空中に浮いてる事にびっくりしてる。いやはや参ったな……ちょいと彼等が落ち着くのに時間がかかりそうだぞ?
「オラ達……あのクラーケンに喰われて、皆死んじまったんだべか?」
「あーんだがもしんねなぁ~ホレ、見てみ? 目の前さ女神様がおるでよ?」
「んだ。こんの女神様はきっと『終焉』を司るって言われてるフォンレアルゥネ様に違いねぇべ!」
オラ達さ向がえに来てくっちゃんだべぇ~ありがでぇごったなぁ……とか言って、私を拝み始める漁師さん達だ。こりゃ困った、私のことをフォレアルーネと勘違いしてるばかりか、自分達はあのイカさんに食べられて死んじゃったって思い込んじゃってるよ。
ノッカー「そう言えばアリサ様(´・ω・`)?」
アリサ「ほいほい、なんぞ~?(^ー^)」
ノッカー「天ぷらとフライって何が違うんでしょう?(,,・д・)」
ブラウニー「あ~(・o・)それ、私も気になってた(・・;)どっちも油で茹でる料理ですよね?( ゜ー゜)」
アリサ「あ~(・о・)簡単に言うと、パン粉まぶして揚げたのがフライで( ´ー`)水とかでゆるめた小麦粉とかつけて揚げたのが天ぷら(*´∇`)」
ノッカー「へぇ~( ・д・)そうだったんですね!(°▽°)」
アリサ「フライにはそのサックサクの衣にソースが染みやすくて、冷めても美味しいよ(*´▽`*)」
ブラウニー「私アリサ様が作ってくれたコロッケ大好き♪( ≧∀≦)ノ」
アリサ「で、天ぷらは出汁のきいた天つゆで食べるのもいいし、塩で食べるのもまた美味しいんだよね♪(*´艸`*)」
ノッカー「サクサクの衣にお塩まぶして食べるの好き~♪ヽ(*´∀`)ノ」
ヘルメットさん「俺様は天つゆに浸して衣をふやけさせて食うのが好きだな!(^∇^)それはそうと、唐揚げはどうなんでぃ嬢ちゃん?(*^.^*)」
アリサ「唐揚げはね~あらかじめ具材に下味をつけて、小麦粉とかをまぶして揚げたものだよ(゜ー゜*)」
ブラウニー「唐揚げ!(☆∀☆)鳥の唐揚げ美味しい♪(≧∀≦)」
ノッカー「うん!(^-^)僕も大好き!(ノ≧▽≦)ノ」
ヘルメットさん「酒にあうんだよなぁ~( ̄¬ ̄)」
アリサ「今度軟骨のとか、タコの唐揚げとか作ろうか?(´^ω^)私も食べたくなってきちゃったし(*´▽`*)」
ブラウニー「わーい!(ノ゜∀゜)ノ」
ノッカー「楽しみです♪(≧▽≦)」
ヘルメットさん「ありがてぇ!(^∇^)酒も頼むぜ♪(^ー^)」
アリサ「ふふっ( *´艸`)揚げ物って魔性の魅力があるよね♪(*´∇`*)」




