82話 尊い今を守るために
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【今と言う時間】~いくつものIF~《ティリアview》
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「じゃあ、『幼女神ポコ』についてはそうそう急いで対策を取る事はないのかな?」
「うむ。今は他の魔王達への対応を優先すべきであろうな」
「何処に封印されたのか? とか、そもそもどうして、魔王になっているのか?
疑問は多いですが、父上の言う通り今は他の魔王と戦える力を身に付けねばなりませんね」
「パルモー、フェリア。その為にわざわざアリサ様が新たな鍛練の場を設けて下さったのよ? 私達聖魔霊は神たるアリサ様にお仕えする騎士として、その御期待に全身全霊をもってお応えしなくてはいけないわ?」
はい、みんな元気かしら? ティリアよーん♪
大いに盛り上がった昨日の『ランバード歓迎会』も終えて、私達は今、アリサ姉さんの『無限円環』で会議の続きをしているところなの。
『聖域』に設立する予定の冒険者ギルドの運営を、新たに加わった『ランバード家』に任せること。ゼオン達の『セリアベール』と、ルヴィアスの『ルヴィアス魔導帝国』に繋がる『転移陣』の開通等。一通り話して、今は残る魔王達についての情報を共有しているところ。
シェラザードとルヴィアスは既に私達の陣営に加わったし、あのクソババアこと、ヴェーラも消滅させてやったので、残るは……『獣魔王ディードバウアー』に『武神リドグリフ』、『技工神ロア』と『幼女神ポコ』の四柱だ。
冒頭で聖魔霊一家が話したように、『幼女神ポコ』については、『剣神』のRYOから現在封印されているって情報があったのだ。おそらく、私がアーグラスに授けた『神剣レリルティーネ』による封印だと思うので、そう簡単に解かれる事はないだろう。
「ゆーえーに! 今私達がやらにゃあならない事は! はい! なんでしょう!? 答えなさい『四神』達!」
「はっ! んなの決まってんだろ!?」
「魔王すら凌駕する力を身に付ける事だ!」
「そうよ! いつまでもあんた達神に頼ってばかりいられますかって!」
「父上を失った時のような無力感……そんなのいつまでも抱えてなんていたくありません!」
よし! よく言ってくれた! 大地が爽矢が、朱美が、水菜が……四人ともやる気十分ね!
「俺達だってやります!」
「十年前に失った筈の命だ。何を恐れることがあろうか!?」
使って下さいティリア様!! 世界を護るために!
その『四神』達の猛りに続くように『黒狼』のリーダーのバルドが、アイギスの父親のガルディングが声をあげて叫べば、集ったみんながみんな、世界を護るのだと、私達の力になるのだと猛ってくれている! なんて頼もしいのかしら! ティリアさん嬉しいわ!
でもね、だからこそ。そんないい奴等だからこそ、感じてほしい……どれだけ今、この場に集まれた事が奇跡的な巡り合わせなのかってことを。今みんなが巡り会えたっていう結果に至るその道中……どれだけの分岐点があった? 一度違う道を選んでいたら、今のこの瞬間はありえなかったのだ。
「それを噛み締めてほしい。今からあなた達に見せるのは……回避してきた『IF』。そして起こり得た『Another』よ」
やる気に満ちて少し前のめりなみんなに優しく声をかけると、みんなはその闘志をそのままに静まり返り、私の話を聞いてくれる。
「……回避してきた世界線、か」
「あ~「あの時こうしていたら~」っていうやつだよな……?」
私が今からみんなに見せるのは、ちょっとした魔法。軽く『神気』を纏う私を見つめアイギスとセラが呟く。
「ねぇ? みんなは私達神が「何故やり直さないのか?」って疑問を感じたことはないかしら?」
「……ない。とは、言えませんね。『魔神戦争』を読んだ時も、こんな悲劇なら新たに世界を創り変えれば良いのではないかと思った頃もありました」
私の言葉にシェリーが顎に手をあてて答える。そうね、あんなバッドエンドなら一度リセットして、やり直せばよかったって誰もが思うでしょう。
「私達はそれを『禁忌』としているわ……だってそうでしょう? 失敗したからやり直し。なんて、その世界に生きる人達の決断を全部無かった事にする、あまりにも理不尽で、無責任すぎる行為じゃない?」
神だろうと人だろうと、皆が皆、多くの決断の連続の上で今を過ごしているのだ。その中には勿論、多くの失敗と成功があることだろう。『ユーニサリア』を創造した妹達然り、魔神を止められなかった私達然り、今この場に集ったみんなにも……
「今を懸命に生きる人々の思いを無視して、そんな事はできません」
「ん……魔神との戦いに皆を巻き込んでしまったのは、アタシ達の責任」
「そんな悲劇の先にも、こうしてみんなが集まってくれたかんね!」
そうみんなを見て声をかけるのは私の妹達。どんな結果だろうと、物語は止まる事なく進んで行く、それが悲劇の後だろうとお構いなしに。数々の決断を経て辿り着いた今っていうこの瞬間。それは一体どれだけの奇跡で成り立っているのだろう?
「もしかしたら、今よりももっと良い世界なのかもしれない、今よりももっと酷い世界なのかもしれない……それを少しだけ覗いて、今っていうこの瞬間の尊さを感じてちょうだい?」
数多くの選択が創り出す無限の平行世界。決して交差することのないその世界の断片を、主神の権能で、ほんの少しだけみんなに見せる魔法を行使した。
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【より強く!】~今を守るために~《アルティレーネview》
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「……ううぅわ、マジ? めっちゃ最悪な世界見えたんだけど!?」
「なんて事……『迅雷』に酷い目にあわされた挙げ句、『氾濫』で全滅した世界が見えました」
ティリア姉さまが、その身に神気を纏い、一つの魔法を行使しました。
その魔法は私達が今までに選択してこなかった……或いは、避ける事が出来た各々の平行世界を垣間見ると言うものです。私達が「あの時こうしていたら」と言う「もしも」の世界、ええ……確かにティリア姉さまが仰ったように、「起こり得た違う世界線」です。
リールさんとフォーネさんが覗いた世界もまた、その可能性があった世界の一つ。私が見たのは、アリサお姉さまが『世界樹』の呪いの前に敗北し、希望が潰えた世界でした……
「魔神が生き残りアーグラスが敗北した世界が見えたぞ……余達も全滅……むぅ……しかし、これもまた確かに起こり得た世界か……」
「オイラは『聖域』の再生に失敗した世界が見えたぞー……」
リンとジュンもまた可能性の世界を垣間見たようです……どちらも悪い結果となってしまった世界線だったようですね。
「私は十年前にジェネア軍の追っ手に殺されてしまう世界が……」
「俺は暗殺されてたぞ?」「エイブンを庇ってワタシが死んじゃってましたぁ~」
「ロッドが生きてる世界もあるんだな……代わりにアイギスは死んでたが」
「ファムの奴が魔物に襲われておったわい……」「行商で盗賊に襲われてました……」
アイギスさん、ユグライア、ミュンルーカさん、バルドさん、ドガさん、ラグナースさん……他の方々も往々にして頭を抱えて、それぞれに見た、起こり得た世界を口にします。どれもこれもまた違う世界。
「わかったでしょ? どれだけ、今のこの時間が奇跡的な巡り合わせなのかってことがさ?」
「それはもう、これでもかと言うくらいに……」
魔法を解除したティリア姉さまの言葉に、首肯するのは『猫兎』のネネさんですね、彼女もまた悪い世界を覗いてしまったのでしょう、その表情は悲し気です。
「……決断する選択肢は、これからも多くなる。ティリア姉さん、あたし達が笑いあえる未来を手にするために」
「うちも鳳凰みたいにヤル気出さないとって事だよね~?」
「魔王達の復活が危惧されるこの難局を乗り切るためにも……」
レウィリの一声をきっかけに、私達は俯いていた顔を上げ、その真剣な眼差しをティリア姉さまに向けて声を揃えました!
この尊き今を護るために!!
オオオォォーッッ!!! 全員が雄叫びを挙げて、拳を天に!
「私達はより強くならなくてはいけません! ティリア姉さま、どうぞご指導下さい!」
代表して私がティリア姉さまに向けてお願いします。私達神の頂点に立たれるティリア姉さまに一からきっちり鍛え直して頂ければ魔王など恐るるに足らずです!
「おーおー? なんぞ盛り上がってるね~♪ みんなやる気十分じゃん?」
「凄い雄叫びがおうちの中にまで聞こえてきたよ~♪」
「「「アリサ様!」」」「「ユニちゃーん♪」」
その時、アリサお姉さまがユニと一緒に引きこもりハウスから出てきて、猛る私達を見ては少し驚いています。アリサお姉さまとユニ、そしてファネルリアさんとナターシャさん、シャフィーちゃんとネーミャちゃんはお料理に専念していたのです。
「ご飯出来たから訓練おっ始める前に食べてがっつり体力つけときなさいよ~みんな♪」
はーい! と、私を含めてみなさんが元気よく返事をします。アリサお姉さまはこの『無限円環』内での一年間で料理を出来る者を増やすおつもりなのです。そうすればアリサお姉さま自身も動きやすくなりますからね。
「ちょうど良かったわアリサ姉さん。この『無限円環』内でなら訓練中に死んじゃっても直ぐに生き返るのよね?」
「だよーん。オートザオ○クだってばよ♪ っていうのは冗談で、正確には死なないようにしてあるんだ~なに? そんなに激しく訓練するの?」
「ん~みんなに死の瞬間ってのを体験してもらいたいのよ。危機感を育てたいの。直感レベルで「あ、これヤバイ」ってのがわかるようになれば、実戦で大きく生存率が上がるわ」
……今サラっと怖いことを仰いませんでしたティリア姉さま?
いえ、確かにその意味は理解できます。できますけどぉ~トホホ、とんでもない訓練になってしまいそうですね。
「なるる、そういうことならわかりやすい工夫を拵えておくよ♪ さ、まずはごはん食べて食べて♪ ユニも頑張って作ったんだから、味わって食べるのよ~?」
「えへへ~ユニがんばったよ! たまごやきぃ~♪ みんな食べてね~!」
あら! ユニのお手製の玉子焼きですか♪ うふふ、それはとても楽しみですね! アリサお姉さまとユニの満面の笑顔を見て、皆さんにも笑顔がこぼれました。
さぁ、お食事を頂いて訓練に備えましょうか!
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【死?】~『死んじゃったぜカウンター』~《アイギスview》
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「じゃあいくわよぉ~!! この感覚をみんなしっかり覚えるのよ!?」
そうして放たれるティリア様の極光。神々の主たるティリア様が一瞬で編み上げた神気は、私達を包み込んであまりある程に大きな球体を形成し、集った者総てを呑み込んで行く。
──っっ!!!?
私達は揃い叫び声を挙げることもできず、一瞬のうちに消滅させられた……かに思えたのだが。
「ははーん! なるほどねぇ~アリサ姉さんってば、面白いこと考えたわね♪」
「あ、あ……あれ? 私達……今絶対、「あ、死んだ」って思ったのに……」
「い、生きてるのか? って! サーサ姉ちゃんの頭のそれなんだよ!?」
生きている? いや、あの極光をまともに受けて、怪我すらしていないなど……私も確かに死ぬと思ったのだが……?
そう疑問を感じているのはサーサもブレイドも、他の皆も同じようで、私と同じように動揺している。そんな中ブレイドがサーサを見て気付いた。
「頭の上に「1」って出てるーっ!?」
うおおぉぉ!? なんだこりゃあぁーっ!?
そう、ティリア様の放った極光を受けた皆の頭上に数字が現れたのだ。全員が「1」となっている……なんだかおかしな光景だな。
「はい、みんな落ち着いて。流石はアリサ姉さんの優しい世界ってことよね♪ あんた達は今さっき確かに私の魔法で一回死んじゃったのよ?」
「え、じゃあ……私達の頭上に表示されているこの数字は……」
「アリサ姉さんの事だから、さしずめ『死んじゃったぜカウンター』ってとこじゃない?」
ああ~なるほど……確かにアリサ様が付けそうな名称だ。
アリサ様がご用意下さったこの『無限円環』内の特別な訓練場に、食事を頂いた後、私達は『転移陣』で移動してきた。
この訓練場は、様々なフィールドに分けられており、森林地帯や、山岳部、荒野や、草原、大きな湖、廃墟となっている街並み、果ては洞窟等。ありとあらゆる場面を想定した訓練が出来る作りにしたのだと、アリサ様より伺った。
今私達がいるのは、荒野の部分。シェラザード様に飛ばされたあの広い荒野を彷彿とさせる場所だ。
「しっかしよぉ~はぁぁーっ!! はあはあはぁ~こ、こえぇ! 死ぬってのはあんな感じなんだな!?」
「……あぁ、ふぅぅ~まだあの絶望感がはっきりと残っている……」
そう大きくため息をつくのはセラとバルドだ。二人が今の私達の心境を代弁してくれているな。ああ、二人の言う通りだ……死とはあんなにも絶望的で恐ろしいのだな……
いよいよ始まったアリサ様の『無限円環』内訓練場で、来るべき魔王との戦いに向けた訓練。ティリア様の魔法で、今と言う時間がどれだけ大切なのかを思い知った私達は、早速そのティリア様より手厳しい洗礼を受けた。
「あなた達の「私達の力になりたい」と言う気持ちは確かに受け取ったわ。でもね? 私達が相手するのは誰だと思う?」
「それは『神界』で神の座についていた、俺達魔王だぜ?」
「絶望的な実力差を埋める。それは大前提だけれど、何よりも大切なのは死なない事よ?」
私達の訓練を担当して下さるのは、ティリア様とルヴィアス様。そしてシェラザード様だ。ティリア様は言うに及ばず、その部下であったと言うルヴィアス様もシェラザード様も凄まじいお力をお持ちであり、それは魔王達も同様なのだ。
「君達はここで何度も死を体験して、その危機感を身に刻み込め。アリサ様が何よりも悲しむのは親しい者達を失う事だろう?」
「魔王との戦いはその最大の山場よ? だから私達は心を鬼にして貴方達を鍛え上げるわ」
中空に浮くルヴィアス様とシェラザード様が私達を見下ろし告げる。仰る通りだ……誰も失わせないために、アリサ様は自ら魔王との戦いにその身を投じようとしておられる。そんなアリサ様のお心に惚れた私達は、是が非でも彼女の力になりたいと、思いを一つにした集団だ。
シェラザード様のお言葉に竦み上がるような者は誰もおらず、皆「望むところだ!」と、気概を揚げている!
「そういうこと。あ、因みに~『死んじゃったぜカウンター』の数値が一定値以上のヤツには罰ゲームね?」
え? 罰ゲームですかティリア様? 一体どんな……? あはは♪ と楽し気にお笑いになるティリア様に少しあっけに取られてしまい、高まった気概が霧散した。
「ちょっとティリア、折角皆がやる気を滾らせているのに拍子抜けするようなこと言わないでちょうだい!」
「だいじょーぶだって! その罰ゲームはなってったってごはん抜きだから! アリサ姉さんの作る美味しいごはんがお預けになるのよ? 耐えられる~?」
なんだってぇぇーっ!!!?
な、なんて恐ろしい罰ゲームだ!? 私達は皆アリサ様がお作りになられる食事を楽しみにしていると言うのに、それを禁じられてしまうなんて!
「鬼ーっ! ティリア姉の鬼ーっ!」「ティリア姉さん、ひどい……」
「うははは! さっきシェラザードも言ったじゃない? 心を鬼にしてって!」
「いやぁ~辛いわぁ~♪ みんなをボコった上にそんな罰ゲームも課さなきゃいけないなんてさ~?」
たまらずフォレアルーネ様とレウィリリーネ様が文句を言い出すものの、ティリア様はどこ吹く風と受け流し、シェラザード様がやれやれと肩をすくめれば、ルヴィアス様は言ってる事とは裏腹に口を押さえて笑い出すのを我慢している! いやいや、楽しんでますよね絶対!?
「ルヴィアスこらーっ! めっちゃ楽しそうじゃねぇか!?」
「何を言うんだゼオン! これは魔王の理不尽な強さに抗うための立派な訓練だぞ!?」
「嘘ですわー! だってさっきティリア様が大笑いしてたじゃないですの!?」
ぎゃいぎゃいわーわー!!
ゼオンがそんなルヴィアス様に抗議の声をあげれば、いやいやなんのと、のらりくらりとかわすルヴィアス様に、今度はティターニア様も食って掛かり始めて、つられるように他の皆も騒ぎ出す。
私達の訓練はそんな騒がしい喧騒の中始まったのだった。
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【久々に本気出す】~鍛え甲斐のある皆~《ルヴィアスview》
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「どうしたビットくん!? 君の力はそんなものか!? バロンはもっと強かったぞ!?」
「なんのまだまだ!!」
バチィッ!! ドオォーンッ!!
そんなこんなで始まった『ユーニサリア』の戦士達を鍛え上げる訓練。
今も俺に斬りかかるビットくんの斬撃を魔法で弾いて、カウンターをお見舞いしたところだ、そしてその影からアイギスくんが続いてくるが……
「遅いぞアイギスくん! そんなことではアーグラスを超えるなんて夢物語だ!」
「くっ! わかっていますルヴィアス様! 私は必ずアーグラスを超える!!」
ドゴォーン!! ザザザッ!!
浅い、遅い、甘い! そんなノロノロした動きじゃとても魔王には届かんよ! 彼を魔法で迎撃したら、読んでいたのかアイギスくんは咄嗟に盾で俺の魔法を防ぎ踏みとどまった。そして、本命の攻撃と言わんばかりにゼルワが踏み込んでくるじゃないか。
「ゼルワ! 君ももっと速く動け! ラインハルトは全身に重い鎧と槍と盾を持っていながら今の君の三倍は速かった!」
「くっそ! 前世の俺はバケモンか何かだったのかよ!?」
ヒュンヒュンヒュンッ!!
見事な連携だとは思うがね! 地力の差はいかんともしがたいのが、今の彼等だ。ゼルワの放つ連撃も遅い遅い、軽くかわせるぜ?
「遅い! 脆い! 丸見え! レウィリリーネ! サーサ! シェリー! アリス! もっと速く、強く、静謐に構築なさい! その程度の魔法じゃあの『武神リドグリフ』の拳一つでかき消されるわよ!?」
「ん! がんばる!」「ま、マジでっすかぁ!?」
「はあはぁっ! こ、これ以上ですか!?」「や、やるわ! もっと高見に!」
一方で魔法を主体に戦う面子を相手取るのはシェラザード。みんなから放たれる数々の魔法をものともせずに魔法使い全員を一人で相手しているね、流石だよ、魔神に操られる前のシェラザードは、魔法を最も得意とする女神だからなぁ、俺も魔法じゃ勝てる気がしないくらいだ。
それにしても……いやはや、凄いぜこのアリサ様の用意してくれた訓練場はさ! ティリアの加護『無限魔力』をうまく使いこなして、俺達がどんだけ全力、本気全開で力を振るってもびくともしないフィールドに仕立て上げてくれてるんだぜ!
それだけじゃない、この特別なフィールドでは死も死じゃなくなるって言うんだから驚きだ! このフィールドでの死はカウントって形で当人の頭上に数字で現れる。今さっき俺が吹っ飛ばしたビットくんの頭上に「3」て数字が出てるのは、彼が既に三回、この訓練で死亡したって事を表している。
「アルティ? あんたの『絶対命中』は確かに見事なものだと思うけどね?」
ドッガアァァーンッッ!!!
「きゃああぁっ!!?」
「いつまでそれに頼っているつもりなの!? TOSHIにも言われたでしょう! 「小細工に頼るな」って!」
うっへぇ~容赦ねぇなティリア! アルティレーネのカウントが「5」を越えたんだが?
と、まぁ。このように普通なら死んでる攻撃だろうとこのフィールドでなら、気にする事なくいくらでも遠慮なしにぶっぱなせるってわけだ。
「どうしたどうした! 君達はそれでも女神の『懐刀』か!? ほら来いよ『四神』達! 俺は未だに傷の一つも負っていないぞ!」
「舐めてくれるなよ魔王!? 余はリン! 誇り高き神狼フェンリルである!」
「上等! やってやるぜルヴィアス! 喰らいやがれ!!」
ズゴオオォォーッ!! バギィィーンッ!!
うおっと! 流石に『四神』と『懐刀』の大地とリンの攻撃だ! 俺の防御結界がいくつかぶっ飛んだぞ!? あっぶねぇ~!
「カカカ♪ 魔王ルヴィアスなにするものぞ! 合わせいシドウ! ジュン!」
「任せいっ! 二度と以前のような結末にはさせぬわぁ!」
「だぞーっ! ぶっ飛ばしてやるぞーっ!!」
おいおい、ちょっとやべぇなこりゃ『九尾』のたまちゃんに結界破られたら、俺ってばふるぼっこにされちゃうじゃーん? ってなわけで、たまちゃんを潰すぜ!
「当然そう動くわよね魔王!」「お見通しです!」
「そこだ! もらったぁーっ!!」
うげっ!? 俺がたまちゃんを狙うって読んでた他の『四神』達、朱美と水菜、爽矢が待ち構えていたと言わんばかりに強烈な魔法にブレスをぶっぱなして来やがった!!
「な~んてね♪ ははは! 引っ掛かったなぁ~ほーれ! 『エナジーフレア』!!」
ズドォォーンッッ!!
「うがあぁっ!!」「ぐおおぉっ!!」「きゃああぁっ!?」
甘いなぁ~こんな初歩的な駆け引きにあっさり引っ掛かったらダメだぜ? 見ろよ、俺を狙い撃ちできると思って変にかたまってたせいで『エナジーフレア』の範囲にみんな巻き込めたじゃないの。『四神』も『懐刀』もカウント1頂きだぜ?
「熱くなってばかりじゃ駄目だ! 相手の一挙手一投足をつぶさに観察して動きを読め!」
彼等の頭上に「1」の数字が現れたのを確認した俺は、アドバイスを送り仕切り直しとして、大きく距離を取る。どうも彼等はアーグラスと懇意にしてたせいか、すーぐ熱くなって冷静さを欠いてしまうんだよね。
まぁ、訓練は始まったばかりだ。俺も久々に本気出せそうだし、楽しみますか!
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【早速成果が】~『死の悟り』~《ラグナースview》
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とんでもない事になってしまった気がします……ええ、アリサ様達のお力になりたいと思う気持ちに嘘偽りはありません。ありませんが……まさか僕も神々の訓練を受ける事になろうとは。
「正直、バルガスさんやネヴュラさんがついてくれて、護身術とか手解きして下さるのかなって……」
「ははは! いいじゃねぇかラグナース! 主神様に鍛えてもらった商人なんて前代未聞だぜ? オメェは間違いなく歴史に名を残す事になるって!」
今は長かった『無限円環』内での一日を終え、夕食の時間です。アリサ様を始めにファネルリアさん親子に、ナターシャさん親子、そしてユニ様が作って下さった美味しい食事に舌鼓を打ち、訓練の感想を思い思いに皆で語り合っています。
かくいう僕も、隣に座るゼオンさんに今日のとんでもない訓練について会話しています。
「あはは、確かにダーリンには厳しい訓練よね? でも、『聖域』の御用商人やるんならSランク以上の強さは必要よ~?」
「ああ、そうだぜラグナース。俺達が初めて『聖域』に渡った時なんか、いきなりホーンライガー二頭にプテランバードとか言う飛行する魔物に襲われてな?」
「うむ。アリサ様が助けに来てくれなかったら危ないところじゃったわい……」
そうなのです。レイリーアが言ったように、僕はティリア様から『聖域』の御用商人として認められました。僕は師匠ディンベルに誓ってその大役を御引き受けさせて頂いたのです。
続いてゼルワさんとドガさんもその『聖域』での体験を教えてくれます。『セリアベール』の街では英雄とも称される『白銀』の皆さんが危うく命を落としかけたと言うではありませんか?
「もし訓練が辛くて、ついていけないと言っても、誰も責めたりしませんよラグナースさん?」
「有り難うございますサーサさん。大丈夫ですよ、ただ驚いただけですから。
鍛えて頂けるのは本当に有り難いのですよ、今まで「あそこの魔物は強いから」と言う理由で避けていた地にも足を運べるようになるなら商売の幅も広がりますからね!」
サーサさんの気遣いに感謝して、僕の考えをしっかりと皆さんに伝えておきます。高い実力を身に付ける事は、それだけ各地への切符を手にする事と同義。入手が困難で、冒険者に依頼して入荷するような貴重な素材なども自分で足を運び、手に入れる事が出来るようになるならば、どれだけ利益が出せるのか? ふふ、考えただけでワクワクが止まりません!
「へぇ~貴方、商人のわりに中々肝が据わっているみたいね? 大したものだわ。正直耐えられずに逃げ出すのかと思っていたから」
「「「シェラザード様!?」」」
驚きました。いつの間にか僕達が座る席の側にシェラザード様がおいでになっているじゃありませんか! 反射的にドガさんとゼルワさんが立ち上がり一礼します。いけない、僕も続かなくては!
ガタタタッ!! ババッ!
一拍遅れて、僕とレイリーアにサーサさんとゼオンさんも立ち上がり、彼女に対して一礼します。すると、シェラザード様は少し困ったお顔で慌てられました。
「あ、ごめんなさい。そんなに畏まらないでほしいわ。食事中に申し訳ないわね……」
両の手のひらを胸の前で僕達に向け、ヒラヒラと動かし、そう仰るシェラザード様です。とても腰の低い女神様のご様子、ですが僕達は礼節を忘れません。
「こうして直接貴方達に会うことが出来て嬉しいわ。ゼオン・ユグライア。貴方の慈悲に感謝を」
「こちらこそ。我が提案をのんでくださり感謝の至り。何かと不甲斐ない俺達だが、訓練のほどよろしく頼む、女神シェラザード」
……流石。と、言うべきなのでしょうね。『セリアベール』の街を苦しめてきた『氾濫』の元凶だった彼女を前に、ゼオンさんの全く動じないその姿勢はまさしく王の器と感じます。
「貴方達『白銀』にも迷惑をかけてしまったわね……心から謝罪させて頂くわ」
「ヘヘっ! 気にしてねぇさ!」「うむ! 寧ろ協力して頂き感謝しますわい!」
「昨日の敵は今日の友よ! これからよろしくね♪」
「シェラザード様の魔法を教わる事が出来ること、光栄に思いますよ!」
シェラザード様の謝罪に四人とも笑顔で応える『白銀』の皆さんです。彼等もやはり懐が深いですね。朋友として誇らしく思いますよ。あ、因みにアイギスさんはご両親と使用人の方々の様子を見るために、そちらに行っております。
「ありがとう。勇気ある冒険者達。その訓練だけど、どうかしら?
今、私とルヴィアスとティリアで、参加者の様子を見て回っているの。特にラグナースは商人であまり戦う術をもっていないでしょう? 心が折れてないか心配していたのよ」
なんと……いえ、確かに……あまりに想像を絶する訓練内容でしたからね……神の皆様が心配されるのも無理もない事でしょう。何せあの訓練で、僕のカウンターは四桁に届きそうなほどに回っていましたから……
「お気遣い感謝致しますシェラザード様。僕の思いは先に述べた通りです。ふふ、それに何度も死を体験したお陰で、感覚的に「わかる」ようになってきましたから」
なんと言いましょうか……「あ、これは危ない」と感じるようになってきたんですよ。まぁ、ティリア様、ルヴィアス様、シェラザード様のお三方の攻撃はそれがわかったところで防ぎようもかわしようもなかったんですけどね……
「まぁ!? たった一日で『死の悟り』を会得したのね! それなのよ! 私達が貴方達に身に付けてもらいたいって思っているのは!」
「「「「「『死の悟り』!?」」」」」
僕がその感覚的な何かについて話すと、シェラザード様はパアッと笑顔で驚かれ、嬉しそうにお声を大きくなさいました。他の皆さんも驚いたようで目をまるくしてシェラザード様に詰め寄ります。
『死の悟り』……それがこの感覚的なものの正体なのですか?
アリサ「ふぅん(・о・)悪い時間軸ばかり見えたみたいだけど、もっと明るくて笑えるような世界線はなかったのかね?(  ̄- ̄)」
フォレアルーネ「なかった訳じゃないけど、アリサ姉がアリア姉だったり(^_^;)」
アイギス「ロッドが無事な世界もあるようです(*´∇`)」
セラ「それアタイも見たぞ!( ≧∀≦)ノ ロッドをどっちのパーティーに入れるかでバルドとアイギスがケンカしてた♪(*`艸´)」
バルド「ええ~?( ゜Å゜;)いや、でもあの思慮深いロッドだもんな……魔法使いや僧侶となって成長していれば、相応の実力者になっていただろうし……(_ _)」
ミュンルーカ「無事だったエイブンとゴールインしてのほほんって暮らしてるって世界もあるみたいですねぇ♪(*´▽`*)」
シェリー「エミリアに押し負けてデュアードが堂々と公認二股……笑えないわよ!?( ;゜皿゜)ノシ」
デュアード「……痛い(x_x)……殴るなシェリー(*T^T)……俺は、ラグナースとディンベルに……何かと……教わりながら……シェリーと一緒に……花屋を……経営(^ー^)」
ラグナース「ふふ( ´ー`)僕はレイリーアと結婚して、お店も大きくなって商売繁盛してる世界が(*´▽`)」
レイリーア「あらぁ~(*/∀\*)ダーリンったら、それはきっと今の未来図よ!(ノ・∀・)ノ」
ゼルワ「俺はサーサと一緒に里に戻って長老に認められてたぜ♪(o^∀^o)」
サーサ「私もゼルワと同じ世界線が見えたんですけど……何故かドガもファムさんと一緒に里に来てて、「お酒の材料じゃー♪ヽ(´▽`)/」って、里の果実を集めてましたね(^_^;)」
ドガ「ホッホッ♪(^∀^)儂は冒険者を引退して、ファムと日々をのんびり暮らしておったぞo(*⌒―⌒*)o」
ミミ「あたしは~どっかの大きな国の王子様と結婚してた♪(ノ≧▽≦)ノ玉の輿~ヽ(゜∀゜)ノ」
ゼオン「かぁ~(;´A`)その国の王子様は苦労するだろうぜ?(; ゜ ロ゜)レジーナはどうだったんだ(´・ω・`)?」
レジーナ「ふふふ( *´艸`)秘密さ♪(^ー^)乙女の秘密をそう、やすやすと聞けると思わないことだねゼオン♪( ´∀`)」
ガルディング「忙しくも充実した『聖域』での冒険者ギルド経営をしておりました(°▽°)」
セレスティーナ「私はアリサ様や息子に、ユニ様やリリカ達と楽しくお料理をしていましたね♪(*´艸`*)」
アルティレーネ「うふふ♪(*`艸´)ユニが今よりもっとおてんばで、私達にイタズラして怒られてましたよ?(´・∀・`)」
ユニ「え~なにそれ~?(,,・д・)ふふっでもそれも面白そう~♪ヽ(*>∇<)ノ」
ワイワイガヤガヤ♪
アリサ「悪い世界線ばかりじゃないみたいだね♪o(*⌒―⌒*)o」
ティリア「そうね、頑張って楽しい世界をつかみましょう゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜」




