81話 聖女とメビウス会議
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【『無限円環』で会議】~『聖域』の冒険者ギルド~
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「みんな~揃ったかな? じゃあ昨日の会議の続きを始めるよ!?」
「「「はーい!」」」「「了解!」」「「畏まりました!」」
はい、みなさんこんにちは~! 『無限円環』から聖女のアリサさんがお届けですよぉ~♪ 昨日の夜中にアリアを『状態変更』させて『カタナ』にしては、ヒャッホーイ♪ って振り回してたせいかちょっと寝不足の魔女アリサは、『聖域』のお屋敷でぐーたら寝てるので、今日の会議は私が代わりに進行してます。
『無限円環』内の時間の流れを『ユーニサリア』より速めて、向こうの一日がこちらの一年になるように調整したので、じっくりと話し合う事ができる。
私の呼び掛けに、各々の返事を返すみんな。ポカポカとお日様の陽気を受ける『ミーナ野原』に集まったメンバーはほぼ全員だ。こうして私のプライベートルームにみんなを招待できるとは嬉しいね。気に入ってもらえたかな?
「あ~気持ちいい野原だぜ~横になって寝てぇなぁ~♪」
「あはは! ゼオンのおじちゃん~そんなことしてるとミーナちゃんにお腹踏まれちゃうよ♪」
うん。ゼオンが座る椅子の背に背中をもたれさせて気持ちよさそうに伸びをするのを、ユニが可笑しそうに笑う。他のみんなも「うんうん」「まったくだ」とか言っていい笑顔を見せている。
そんなうららかな陽気に包まれた『ミーナ野原』にテーブルや椅子、お馴染みのホワイトボードを並べて会議はスタートした。
「さて、んじゃ昨日の歓迎会で追加変更されたものから片付けて行こうかしらね。まずは『聖域』に設立予定の冒険者ギルドの運営についてだけど。最初は妖精さん達にお願いするつもりだったんだよね」
「そうでしたわね。お話は伺っておりましてよ!」
まずは『聖域』に設立予定の冒険者ギルドについてだ。今ティターニアが返事をしたように、妖精さん達にお願いするつもりだったのだけど、昨日お風呂でアイギスのお母様のセレスティーナ様から是非とも『ランバード』に任せてほしいとの言葉をもらっているので、その辺りをみんなに説明する。
「まぁ! 正直助かりましてよ! 私の同朋達は『農業』『酪農』『建築』と、今現在も結構な人数が配置されておりますし、配置変えを嫌がる者もおりますしね」
「ええ! 是非とも我等の仕事としてお与え下さい! このガルディング。ランバードの名にかけて全うしてご覧にいれましょうぞ!」
頼もしいね! アイギスのお父様であるガルディング様がそれはそれは、力強く頷いてくれる。セレスティーナ様もリリカさん達使用人のみんなも「お任せ下さい!」って胸を叩いてくれているよ。
「ゼオン。私の両親はギルド運営の心得はないが、領地運営についてはベテランだ。ずぶの素人と言う訳ではないから、何かと覚えも早いと思うし、色々と教えてやってくれ」
「あ~まぁ、領地運営とかは俺もこれから『セリアルティ』復興のために何かと勉強しにゃならんかったからな! 御夫妻、お互い頑張りましょうや」
「「はっ! 宜しくお願い致します、ユグライア王!」」
アイギスがゼオンに対してギルド運営のいろはを両親達に教えてやってほしい旨を伝えれば、ゼオンもやっぱり、『公爵』として領地を運営してきた『ランバード』に興味があったのだろう。お互いに勉強だと言っているね。ガルディング様とセレスティーナ様に王様って呼ばれたゼオンは、少し照れくさそうにポリポリと頬を指でかきながらも、頷いた。
実際に『帝国』の頭をやってるルヴィアスもいるし、ほんと一緒になってより良い運営方針を模索してもらいたい。
「鑑定と解体については俺達にお任せ下さい!」
「新人の教育なんてのも経験してきていますから!」
そうドヤ顔でむっふー! と息巻くのがネハグラとジャデークの二人。鑑定も解体もギルドには必ずセットにするってのが『ユーニサリア』の冒険者ギルドの決まりなんだそうな。ついで言うと食事処とか酒場も併設されてたりするんだって。
「受付業務なら!」「私達がお教えします!」
続くのはその二人の奥さん達、ファネルリアとナターシャだ。「花のギルド受付嬢」なんて言われる事もある、冒険者ギルドの受付業務は女性達に人気の職業だ。覚えることは多いけどお給料もいいらしいね。
「ふふ、「ギルド受付嬢」は何処のギルドも美人な女性が務めていることが多いのよね」
「あー! わかるわかる~♪ あたし達色々旅しながらクエストやったりしたけど、みんな美人さんだったよね!」
「ももちーはカウンターの高さがいつも気になるのです……高いの……」
「ももちーそれわかるぜ! アタイもハーフリングで背が低いからな……書類だのなんだの全部バルド達に任せてるぜ?」
「むぅぅ~ゼオンさん! 私とブレイドもそうです! もっと小さい子にも配慮してほしいです!」
「わはは! わかったわかった! 実はそう言った細かい事も手がつけられてなかったからな、これから色々改善していくぜ」
あははは!!
ふふふ♪ 賑やかに笑い合うのはニャモ、ミミ、モモにセラちゃんとミストちゃん達だ。ギルドを利用するにあたって、あれこれと改善してほしいって言う。所謂「お客様の声」ってのは大事だからね。ただその内容が可愛らしくて思わず私もぷふ~ってなっちゃう♪
「受付が美人の女性が多いのにはちゃんと理由があるんだよなガウス?」
「然り。利用者への配慮と言うやつだな!」
「あーつまりあれね……バルガスみたいな厳ついのと、ネヴュラみたいな美人を受付に並べたら、どっちに対応してもらいたいか? ってのだわ♪」
「あはは! そりゃみんな母ちゃんの方に並ぶよね~♪」
「父上に受付なんてさせたら利用者が激減しますよ……」
「うぬ等……」「うふふ♪ そうね、あなたは隅で腕を組んで立ってるだけでいいわね」
あはは! こりゃ面白い♪ ムラーヴェがガウスに、受付嬢が美人な理由を話せば、ティリアが納得~って楽しそうに聖魔霊夫婦を例えに出してきた。これにはパルモーも大笑いでフェリアは苦笑い♪ 言われた様子を想像してみれば確かに、美人で優しそうなネヴュラに対応してもらいたくなるね。バルガスはちょっと顔をひきつらせて子供達にあきれた目を向けている。ネヴュラはニコニコ微笑んで、バルガスには警備係の方が良いって言っているようだ。
「ギルド受付嬢を守る警備係は重要ですよ?」
「そうだとも! ボク達『猫兎』も女の集まりだからよく経験したのだがね……」
「ナンパされますよぉ~?」
「あー……そうだね……冒険者の中には……」
「私達に酷い事しようとした、ああいうのもいますから……」
おっとっと! ネネとレジーナにミミの言葉にリールとフォーネがちょっと顔を青くしちゃってる! レウィリリーネ、フォレアルーネ! 支えてあげて。
「りるりる、大丈夫、大丈夫だからね! りるりるはうちが絶対守るからね!」
「ん……フォーネも安心して? もう貴女を不幸な目になんてあわせない」
ぎゅう~って二人を抱き締めるフォレアルーネとレウィリリーネだ。そんな様子を見ていたレジーナ達も、彼女達に何があったのかを察したみたいで、「ごめんなさい」してきた。
「申し訳ない。ボクの配慮不足だった。だがこれは受付嬢にも起こりうる事なんだ。ガルディング殿下、その辺りもどうかよく配慮していただきたく……」
「うむ。それならばやはり、リリカが適任であろう」
「お任せ下さいませご主人様」
レジーナがリールとフォーネに対し真摯に謝罪をしては、同様な事がギルドの受付嬢にも起こり得るとしてガルディング様に注意を呼び掛ける。ガルディング様も真剣に考え、リリカさんをご指名だ。うん、リリカさんなら安心だろう!
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【『転移陣』】~クエストの発注~
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「うふふ、リリカになら安心して任せられますね。何せその老獪さから相手の口車になど乗りはしませんし、あしらい方も心得てますからね」
「そうですね~モモ達もリリカさんには逆らえなかったですも~ん」
あ~なんか、ももちーの言う事がなんとな~くわかる気がする……リリカさんには何かこう……逆らっちゃいけないオーラっていうか、雰囲気があるんだよね。
「『セリアベール』のギルドは全部揃ってるからな。利便性は最高だぜ?」
「流石は『冒険者の街』って言われてるだけはあるようだね? 僕も遊びに行きたいな」
「いいじゃない♪ 愚帝なんてバロードに任せて一緒に遊びに行きましょうオルファ!」
ゼルワと談笑するのはオルファとカレンにバロードの帝国三人衆。確かに『セリアベール』の冒険者ギルドだと食堂もあればお酒も飲めるし、訓練とかに使われる多目的広場もあれば、資料室なんかもあった。
「おいおい、お前らなぁ~ちゃんと仕事してくれよ?」
「ルヴィアス様にだけは言われたくないっての……しかし重要な施設を中央に集中させるのは利便性は良いでしょうが、危険もあるのではありませんかゼオン殿?」
「治安と防衛力の維持に注力しとけばかなり便利なんだよ。危ねぇのは確かだがな。『セリアルティ』復興するときは城内に集中させようかラグナースと話したりしたんだが、まぁ街に持ち帰ってだな」
あきれたようにカレンとオルファにジト目を向けるルヴィアスに、苦笑いするバロード。各ギルドが中央に集中した作りの『セリアベール』の街の危険性と利便性について、どうのと言う話をしているけど、その辺りは私達は口を挟めないかなぁ?
「うん、その辺は後でじっくり考えてちょうだい。ファネルリアとナターシャに、使用人のみんなにも料理を覚えてもらうから食事処に酒場みたいなのは準備できると思うよ。『ランバード』のお屋敷がそのまま冒険者ギルドになるなら部屋も空いてるでしょう?」
「はい! アリサ様!」「屋敷の維持に冒険者ギルドの仕事! やりがいがありそうですね!」
「今からなんかドキドキしてきました!」「頑張って働きます!」
うんうん。みんな見えてきた未来図にやる気を見せてくれているね! 何かと忙しくなるだろうけどお互いに頑張ろうね♪
「さて、んじゃ『聖域』の冒険者ギルドについてはこんなもんとして。次は『セリアベール』と、『ルヴィアス魔導帝国』に『聖域』と繋がる『転移陣』を展開する事だけど……」
『聖域』に設立する冒険者ギルドは『ランバード』の面々にお任せする事で決着したので、続けて次の議題……ってほどでもないけど、『転移陣』の設置と展開について話をしよう。
「厳重な管理が必要ね。『転移魔法』なんて『失われた魔法』を利用した魔方陣が気軽に使えてしまったら大変だわ!」
「……シェリーの言う通りだ……ゼオン、どうするつもりだ……?」
『転移陣』設置に、眉間にシワを寄せるのは『黒狼』の魔法使いのシェリーだ。
どうも『転移魔法』とか、『飛行魔法』なんて言うのは、今の時代では『失われた魔法』扱いだそうで、大変貴重なんだってさ。デュアードくんが頷いてるように、みんながみんな気軽に使えるようにする訳にはいかないね。
「ああ、俺の執務室の隠し部屋に繋げてもらおうって思ってるぜ? 後は事前連絡を徹底してもらうって事と、『起動キー』? とか用意してくれるって話だよな嬢ちゃん?」
「そ、更に言うとね、その『起動キー』を使わないと目に映らないようにするつもりだよ。その『起動キー』はちょっとしたアクセサリーにするつもりなんだ」
「ん。『聖域』出身の冒険者になる予定の者達に持たせようと話してた、小型の通信用の魔装具」
シェリーが懸念してる悪事に利用されては困るって対策に、ゼオンが考えたのが、『セリアベール』の冒険者ギルドの執務室の隠し部屋。更にそこに『隠蔽魔法』と『起動キー』を併用し、万全を期すのだ。その事をレウィリリーネに相談したところ、『起動キー』は昨日の会議でチラっと話に出た、『聖域』出身となる予定の冒険者達に持たせる、小型の通信用の魔装具にしようってなったんだよね。
「ほう、そいつはいいな。事前連絡をして『転移陣』を使うまでの流れがスムーズに行えそうだ」
「でもよアリサ~その『起動キー』ってのをなくしちまったり、悪者に盗まれちまったりしたら危ねぇんじゃねぇの?」
バルドくんが「なるほど」と頷けば、セラちゃんが「う~ん」て唸り、『起動キー』の問題点を指摘してきた。ふふ、勿論その辺はぬかりなくですとも!
「大丈夫。本人認証の機能もつける」
「ちょっとした魔法で本人の手元に戻ってくるような機能もね!」
どやぁ~って、得意気な顔をレウィリリーネと揃ってみんなに見せてやると、おおーっ! って小さい歓声でみんな感心してくれた。うむ。魔法ってのは何かと便利だよね!
「至れり尽くせりだね! 俺達の帝国には……俺の部屋ならおいそれと誰かが入ってくるって事はないからそれでいいかな?」
「まぁ、確かに皇帝の私室なんて僕やバロード達だってそうそう入れるもんじゃないから、いいと思うな」
説明を一通り聞いて、嬉しそうに喜ぶのがルヴィアスだ。オルファも同意したように、帝国を治めてるトップの私室なんてそうそう入室できるもんじゃない。精々がお掃除するためにメイドさんが来るくらいかな? それも『起動キー』が解決してくれるだろうし。
「それでさアリサ様にレウィリリーネ。その『起動キー』ってこれから作るんだよね?」
「ん。そう」「そーだよーん」
んだんだ~今しがた意見聞いて、「良さそう」って思ってもらえたのを確認取れたから、これからレウィリリーネと一緒にちまちまと作っていくつもりだ。レウィリリーネと私が揃って答えてやるとルヴィアスはなんぞ、ゴソゴソと懐から変な石を取り出してテーブルに置いた。
「あれ? それって昨日あんたのとこの皇子様とお話した時に使ってた石よね?」
「アリサ様とレウィリリーネに『ルヴィアス魔導帝国』皇帝としてクエストを発注したい!」
おやおや~そうきたかそうきたか♪ 丁度いいや、実際に冒険者ギルドのクエストの発注~受注までの流れってのを実践してみましょうかね?
「んじゃ、やってみっか。ファネルリアかナターシャお客さんだぞ? 受付嬢としての対応ってのを見せてくれや」
「了解しました!」「クエストの発注ですね? 承ります」
ゼオンも目配りした私の意図に気付いたようだ、受付担当のファネルリアとナターシャに声をかけて、ガルディング様達『ランバード』のみんなにも注目するように促している。ファネルリアとナターシャは元気よく返事して受付嬢モードだ。
「本来ならアリサの嬢ちゃんと、レウィリリーネ様に宛てた『指名依頼』って形になるんだが、ここはガルディング公達の研修って事で通常の依頼で処理するようにな?」
「ご配慮痛みいる。ユグライア王」「感謝致しますわ、ゼオン様」
ふむふむ。ルヴィアスが私とレウィリリーネを名指しでお願いしてきたから、本来なら『指名依頼』になるそうだけど、ゼオンはガルディング様達『ランバード』のお勉強として、通常の依頼として処理する流れを見せるようだね。ガルディング様とセレスティーナ様がゼオンに感謝してる。ファネルリアとナターシャも馴れたものです。と、言わんばかりに自信を持って頷いている。
「それでは通常の依頼で発行致しますね。ルヴィアス様。こちらの用紙に……」
「ゼオンさん、今依頼用紙ってお持ちですか?」
あはは♪ そりゃ書類なんてないわよね? 苦笑いのファネルリアとルヴィアスを横目にナターシャがゼオンに依頼用紙を持っていないかを確認する。
「流石に持ってきてねぇな、しゃあねぇ……こいつに手書きで……ほいよ」
「はい。ルヴィアス様。こちらの用紙にご記入下さい。まずは依頼人……ルヴィアス様のお名前と、依頼の件名……例えば「○○の討伐」とか、「○○の採取」などと言った具合にお願い致します」
ほうほう、なんか見てると……マジにお仕事だわ! ゼオンがサラサラサラ~って素早く白紙にペンを走らせれば、あっという間に依頼書が出来上がり、それを受け取ったファネルリアが、ルヴィアスに手渡して、書き方を説明してる。私も前世のお役所で書類書いたような覚えがうっすらとあるけど、そんな感じがするねぇ~。
……おや? ちょいと気になったんだけど、もしかしてその用紙の様式ってのは全国の冒険者ギルドで同じなんだべか?
「同じですよアリサ様。冒険者ギルドだけでなく、僕達商人が所属している『商業ギルド』の各書類も基本的に全国で共通です。ふふ、あの国とこの国では書類の様式が違うせいで、要らぬ手間が増えるのを防ぐのが目的ですね」
誰に聞いた訳でもなかったんだけど、ラグナースがパパっと答えてくれました。冒険者ギルドだけでなく商業ギルドでもこういった書類の様式は共通だそうだ。いやはや感心感心、ギルドの繋がりってそれだけで凄いって思わせるね!
「お客様の中には文字を書けない方もいらっしゃいますので、書類をお渡しする前にご確認下さいね?」
「あ~基本『共通語』で書いてもらうように注意してくれよ? 母国語だの『神聖文字』とかは受付ねぇからな?」
「「「はい! わかりました!」」」
ファネルリアがルヴィアスに説明している横で、ナターシャが『ランバード』のみんなにポイントとなる点を教えてあげてるんだけど、更にその捕捉をゼオンがしている。『ランバード』のみんなも真剣に返事してるね。自分達がやることになるお仕事だし、大いに参考になるだろう。
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【残る魔王達】~『武神』~
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「よっし書けた! お願いします!」
「はい、お疲れ様です。『言霊の石改良依頼』の発行を承りました」
クエストの依頼書を書き上げたルヴィアスが嬉しそうに、受付のファネルリアに手渡した。その内容をサササっと素早く確認したファネルリアはにっこり営業スマイルでルヴィアスを労う。
「受注者が決まり次第ご連絡させて頂きますのでお待ちくださいませ」
んでもって、一礼して依頼書をゼオンに手渡すと、ゼオンがその内容に目を通して判を捺すポーズをしている。これでルヴィアスの依頼は正式に冒険者ギルドを通して発行された。ってことになるらしい。
どれどれ、んじゃその依頼内容を私達も確認してみようかしらん?
「ん。……遠距離通話用の魔装具。ノイズや遅延が目立つので改良してほしい?」
「報酬……金貨二百枚!? ちょっと出しすぎじゃない?」
「に、二百枚!? 私の盾の借金が一気に返済出来る額ですよ!?」
レウィリリーネと一緒にルヴィアスの依頼を確認して見れば、昨日皇子様との会話で使った帝国産の魔装具『言霊の石』とやらのグレードアップのお願いのようだ。それはいいんだけど、私とアイギスが驚いたのはその報酬のお値段よ。
「なに、安いものだと思うよ? 『情報』の重要性って誰よりも理解してるつもりだし。アリサ様だって大事だと知ってるからこそ、オプションとか映像通信とか使ってるんじゃん?」
おおぉ、確かにその通りだ。『情報』ってのは何をするうえでも大事だよね。報酬の金額に驚いてしまった私達だけど、ルヴィアスの言葉に改めて考えてみる。
「……確かにのぅ。遠く離れた者と会話が出来る、と言うだけでも時には優位に事を運ぶきっかけとなろうぞ!」
「だな! 例えばダンジョンアタックで俺みたいな『斥候』が、少し先行してパーティーに罠の有無とか伝えたりできたら、すげぇスムーズじゃね!?」
「それだけではありませんな。一度戦となれば諜報部隊に持たせ、いち早く敵情を偵察させ、報告させることで大きく優勢に立てましょう!」
いやいや、みんな物騒なことばっかし言ってるね!? んむぅ~でも、実際にその通りでもあるのよねぇ……どうしようか? ルヴィアスの頼みだし請けてもいいとは思うけど。
「……これは、技術の提供ってことでいいの? どのくらい普及させるつもり?」
「ああ、それで構わない。一組の完成品と、技術の詳細なレポートを添えてくれるかい?
普及させるのは属国の各王と主要人物達に絞るつもりだ。ドガにゼルワ、ビットくんが話したように、情報伝達速度の重要性と危険性ってのはしっかり認識してるからね」
おっと、私が悩んでる間にレウィリリーネがルヴィアスに確認を取ってくれたね。ルヴィアスの話を聞いたレウィリリーネは私に顔を向けてきた。
「ん。請けようアリサお姉さん。大丈夫。ルヴィアスは信用できる」
「あいよ。可愛い妹もこう言ってるし、この依頼請けるよ。『言霊の石』一組預からせてもらうね?」
「ありがとう! 宜しく頼みます!」
他ならぬレウィリリーネがオッケーを出したのだ。私が断る事はないね。
ルヴィアスから二つの『言霊の石』を受け取り、ミーにゃんポーチにしまう。時間を見て、レウィリリーネと一緒に改良してあげよう。
「さて……それでは情報と言うことで、本題に入りましょう」
私達のやり取りが終了したのを見計らい、アルティレーネが切り出してきた。
「残る魔王達についての情報の共有です」
いよいよか。と、みんなの顔つきが真剣なものに変わる。
妹達の『ユーニサリア』を魔神と一緒に襲撃してきた七大魔王達。内、シェラザードとルヴィアスが私達の側に付き、ヴェーラは既に落とした。残るは四人。
「伝わっているかしら? まず先に話が挙がった『獣魔王ディードバウアー』ね。フォレアルーネの『ルーネ・フォレスト』を滅ぼした魔王よ」
「黒フードと『死霊使い』のヴァンパイアが復活を目論んでる奴じゃな……でかい犬っころじゃよ」
シェラザードがみんなを見渡してディードバウアーについて話し出す。コイツについては先に話が出てたからおおよそだけど、みんな認識してるね。珠実が捕捉でその辺りを説明したけど、どうも見た目はでっかいわんわんのようだ。
「次は『武神リドグリフ』ね。コイツはその名の通りの武闘派で……ジドルがやられた相手よ」
続けてティリアが重々しく口を開き、『武神リドグリフ』について話し出した。かつての勇者アーグラスと共に戦った『ドワーフロード』のジドルがこの魔王との戦いで犠牲になったと言うけど、それを聞いてドガはどう思うのか……?
「なんじゃなんじゃ~? アルティレーネ様より神器を授かっておきながら何やっとるんじゃ前世の儂はぁ~? まったく情けないのぅ」
「おいおい、ドガ。ジドルを悪く言うなよ? 彼がアーグラス達の盾となってリドグリフの猛攻を一身に受けてくれたおかげで討てたんだからな!? って……転生体の君にこう説教するのも、何か変な感じがするな」
あらら? 話を聞いたドガがちょっとあきれた表情で「なにやってるんだ」と、前世の自分自身を叱責しとりまんがな。ルヴィアスがそんなドガにちょっと怒ったふうに語尾を荒くするけど、直ぐに、ドガはジドルの転生体だと思い出して変な顔をする。
ドガはそんなに深刻に受け止めてる訳じゃないみたいだね。そう見せてるだけかな?
「ふはは! なぁにルヴィアス様や安心せい! リドグリフの名を聞いて儂の中の何かが熱く滾ってきおるんじゃ! そやつの相手、是非とも儂等『白銀』に任せてもらいたい!!」
うおお? 猛っておるぞ! どうやら前世からの因縁がドガに眠るジドルの魂かなんかを揺り動かしたのだろう。見れば他の『白銀』のみんなも、心なしかその瞳をギラつかせている。
「そうか……私もリドグリフの名を聞いて酷く心がザワつくと思っていたが……いいだろう。この『無限円環』で死に物狂いで己を鍛え上げて挑んでくれよう!」
あうふっ!! うへぇあぁ~♥️ か、格好いい! ヤバイ……ちょっと怒気を孕ませ真剣かつ不敵な笑みを見せるアイギスがちょーかっちょええんだけど!? あーもう好き! 色んなアイギスの一面が全部好き!
「いいぜアイギス、ドガ! やってやろうじゃねぇか!」
「ふん……『武神』がなんぼのもんですか? 私も一緒しますよ!」
「オッケー……アタシも燃えてきたわ! 前世のドガの無念を晴らしてやろうじゃないの!」
ゼルワにサーサ、レイリーアも同じく猛っている。これを止めるのは野暮ってものだろう、いや、止められやしない。この『無限円環』での一年間、目一杯鍛えてもらおう!
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【『技工神』と『幼女神』】~因縁と封印~
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「……ロアは、あたしが相手する」
そんな『白銀』達の闘志に触発されたのか、隣に座るレウィリリーネが静かにその神気を高めている。この子もまた、魔王に怒りを覚えているのだろう。
「次女よ、儂も供をしようぞ。『技工神ロア』……『リーネ・リュール』の時のようには行かぬと思い知らせてくれるわ!」
「ロアは自ら造り上げた『魔装戦士』っていう兵器……あれは『魔装巨人』なのかな? そいつ等を何十体と操っては『リーネ・リュール』でレウィリリーネと黄龍達と激しくぶつかったんだ」
ルヴィアスの説明になるほど、と思う……自分が祝福を授けた『リーネ・リュール』を守るべく、シドウと一緒に戦った相手が、その『技工神ロア』で、そいつが操る数多くの『魔装巨人』と言う訳か。レウィリリーネにとって因縁の相手なんだね?
「その『魔装戦士』って呼ばれる『魔装巨人』って、どんな感じなの?」
「あ~アリサ姉さんにわかりやすく言うとね、ガン○ムよ」
ぶっふぅっ!? なんだど!?
あ~、ティリアの一言に何十体といるガン○ムが、一つの城……と、その城下町? を襲撃する様を思い浮かべる……う~む。無理ゲーにも程があるわ。いくら魔法があって、シドウがいたとて敵わないのも道理ってもんだよ。寧ろよく耐えたね? んで、アーグラス達はよく勝てたもんだわ。
「それだけ勇者達は強かったのよアリサ? 私が『悲涙の洞窟』でアイギス達『白銀』を見て、「転生に失敗した出来損ない」って言った意味が少しはわかったでしょう?」
いやいや、うむうむ……シェラザードが「ね?」って私に同意を求めてくるけど……私はぷくーって頬を膨らませて、「そんなことないやい」って、暗に反論してやる。アイギス達は絶対、アーグラス達より強くなるもん!
「はわわ……凄かったんですねぇ~勇者さん達って……私、やれるかなぁ~?」
「ミストは無理しなくていいんだぜ? 俺が強くなって守ってやるからな!」
話を聞いていたミストちゃんがそのスケールの大きさに目を回しそうになっている。もう~そんなとこも可愛いねこの子は! ブレイドくんはわかっているのか、いないのか? 臆した様子もなく、ミストちゃんにサムズアップ。
「えへへ、ありがとブレイド! 大丈夫だよ、私、ブレイドについてくって決めたもん! 一緒に強くなろうね!」
おっとっと♪ こりゃまたアリサさんてば一本取られちゃったゾイ? 正直ミストちゃんをみくびってましたよ。正直怖がって逃げちゃうかなって思ったんだよね……だけど、迷いない顔でしっかりとブレイドくんについていくって宣言した。その勇気、私も見習わなきゃね!
《ふっ、こんな幼子が怖じ気もせずに立ち向かうと言っているのだ……まさか我が部隊にはこの娘以下の臆病者はおるまいな!?》
《はぁ? あったりめぇだろぉ~》《アニキでもふざけた事抜かすならキレんぜ?》
《愚問ですよゼーロ》
《そのような者は今後アリサ様の食事をもらえぬ事と致しましょうね?》
おうおうおう~? やかましいってばよ鳥さん達や。まぁ、でもゼーロもミストちゃんとブレイドくんの物怖じしないその様子に感心したんだろうねぇ~? 彼に発破をかけられたグリフォン達に、レイミーアとレイヴン。そして『ガルーダナンバーズ』達が吼える吼える。
「はいはい。ゼーロっち達もちょいと落ち着いてよ~? で、最後が……ポコだよね?」
どうどう~ってフォレアルーネが鳥達をなだめて落ち着かせては、魔王の最後の一人の名を口にする。「ポコ」って、また可愛らしい名前だけど、一体どんな魔王なんだろう?
「コイツはなんかよくわかんないんだぞー? あちこちで好き放題暴れ回っておいて、いつの間にか姿を消してたんだぞー? こーてー、なんか知ってるなら教えるんだぞ!?」
「いや、ジュン……ポコについては俺もよく知らないんだよ? シェラザードはどうだい?」
「アルナと同じで幼女神だということくらいで……魔王の時もあまり気にしてなかったし……」
あおお? ってジュンが『ミーナ野原』の地面に大股開いてボデっと座り込み、片手を挙げて、このポコと言われる魔王の事をルヴィアスに訊く。そのルヴィアスもよく知らないようで、シェラザードにバトンを渡すけど、シェラザードもまた知らないと言う。
「ポコかぁ、私も最初は「なんでこの子が魔王に?」って思ったから、アルナに聞いてみたのよ? そうしたら……」
みんなでこのポコって魔王について、頭に「?」を浮かべていると、ティリアが語り出した。
先程シェラザードがチラっと言ったけど、このポコとアルナと言う女神は『幼女神』であり、二柱ともに仲が良く、お互いに幼子の成長を祝福する大切な役割が与えられているのだそうだ。
「大変じゃん!? じゃあポコちゃんがいない『神界』じゃそのアルナちゃんが頑張ってるの?」
「ああ~大丈夫よアリサ姉さん。別に『幼女神』はその二人しかいないって訳じゃないから安心してね?」
当然だけど子供がしっかりと育たなければ、世界は続かないのだ。子供を祝福し、その成長を見守る神様ってのは大事な存在だと思うからちょっと焦った。
「いつの間にか姿を消してたってのが気になるね。ティリア様、他に情報はないんでしょうか?」
「確かに気になるな。『魔神戦争』にもあんまり記述がねぇし、他の魔王みたいに勇者達に倒されて、復活待ちなのか?」
リールが先程ジュンの言った言葉を気にかけてティリアにもっと情報がないかを訪ねてる。ゼオンも気になるようで、お伽噺の『魔神戦争』のくだりを思い出しているみたいだね。
「ええ、『剣神』のRYOが調べてくれたんだけど、どうも封印されてるみたいなのよね」
「封印、あ! ティリア姉さまがアーグラスさんに授けた『神剣レリルティーネ』ですね!?」
「そっか! なるほど~アーグラっちも流石に小さい女の子をやっつけるのは躊躇っちゃったんだろうね」
ほほう、ティリアの話だと、どうやら『神界』からその『剣神』が『ユーニサリア』に降りた魔王達の現在の状況ってのを調べてくれているんだそうだ。
それによれば『幼女神ポコ』はアーグラスによってどこぞに封印されて、今も眠っているらしい。ティリアがアーグラスに、魔神を倒すためにと授けた『神剣レリルティーネ』には、神すらも封じ込める事が出来る特殊効果が付与されてるんだそうだ。
なんかあれだね。戦闘中に武器を道具として使うと、特殊な効果を発揮するってやつかね?
ジュン「あおおーっ!o(* ̄○ ̄)ゝ」
リン「これは……なんと心地よい草原だろうかヽ(*≧ω≦)ノ」
カイン「は、走りたい!(*゜∀゜)駆け回りたいです!ヽ( ゜∀゜)ノ」
大地「おうよ、俺もだ!(ノ≧▽≦)ノちょいと駆けようぜ!?(^ー^)」
ミーナ「にゃあぁ~ん♪《*≧∀≦》」
ゼーロ《我は飛び回りたい!(・`ω´・ )》
ティリア「ちょっとあんた達~これから会議始めんのよ?(;-ω-)ノ」
レイヴン《少しだけ!(*´∇`)少しだけにございますからティリア様!(;>_<;)》
アリサ「あーはいはい( ̄▽ ̄;)もぅみんなウズウズしてるしちょっとだけならいいよ?(´・∀・`)」
ジュン「あおぉー!ヽ(^○^)ノ やったぞーありがとだぞアリサ様ーっ!( ≧∀≦)ノ」
リン「では駆けようぞ!ヽ(´∀`≡´∀`)ノ」
ドダダダダーッ!!!!
珠実「おーおー(・о・)まったく、はしゃぎおってからに(ーー;)」
ユニ「あはは♪(*⌒∇⌒*)ミーナちゃんも嬉しそう!(*´∇`*)」
アリサ「ふふ( ´ー`)前世じゃミーナも走り回ることってあんまりできなかったからね(´ε`;)ゞ」
アイギス「故に『ミーナ野原』ですか(゜ー゜*)」
ガルディング「ミーナ殿を本当に大切に思われているのですな( ´ー`)アリサ様は(⌒‐⌒)」
ニャモ「ふふふ♪(*´艸`*)とても可愛くてどこか気品があるのよね、ミーナ様って(*^-^)」
レウィリリーネ「ぷふ♪(*`艸´)可愛いのはわかるけど(´∀`;)」
フォレアルーネ「お腹丸出しでぐでーんって寝ころがる姿見ると、気品はどうかな~って思うよね?(`∀´)」
ネネ「いえ!(*`エ´*)きっと『人猫』となれば、さぞや美しいお姫様になりますよ!(*゜∀゜)」
アリサ「それはちょっと見てみたい気もするねぇ♪(゜ー゜*)めっちゃわがままなお姫様だろうけど(((*≧艸≦)ププッ」
ドダダダダーッ!!! バサァーバサー!!
シドウ「あやつ等はいつまで走るんじゃ?(´Д`;)」
爽矢「ゼーロ達もまったく降りてこんな……(゜A゜;)」
ゼオン「あーなんか、ああやってなんもかんも忘れて走り回るってのも良さそうだな?( ´∀`)」
ルヴィアス「わかる~(_ _)政務とかめんどい……(*T^T)」
バロード「ルォン皇子に丸投げしてるくせに何言ってんだこの皇帝は?(¬_¬)」
ブレイド「楽しそうだぜ!(*゜∀゜)俺も走ってこよーっと!(ノ゜∀゜)ノ」
セラ「おっしゃ!( ̄▽ ̄)アタイも行くぜ! 『黒狼』全員ついて来い!ヽ( ̄▽ ̄)ノ」
バルド「ふっ(  ̄ー ̄)いいだろう、行くぞ皆!ヾ(・o・*)シ」
朱美「あらら(^_^;)『黒狼』達まで走りに行っちゃった、元気ねぇ( ´∀`)」
水菜「もぅ~大地ったらみんなと駆け回って、あんな嬉しそうにして……しょうがないんだから(*´艸`*)」
ダダダダーッ!! バサバサバサァーッ!! タッタッタッタッ!!
ドガ「……のぅ~そろそろ会議始めんか?(ーー;)」
ゼルワ「どんだけ走んだよみんなして(゜∀゜;)」
サーサ「あー(-_-;)多分そろそろ……(  ̄- ̄)」
レイリーア「ティリア様が……((゜□゜;))」
ティリア「あんた達いい加減にしなさーいっ!!ι(`ロ´)ノ」
走る皆「《は、はいっ!Σ(´□`ノ)ノ》」
リリカ「……まぁ(^_^;)こうなりますよね(;´∀`)」




