9話 魔女と『聖域』迫る時間
【強制捜査だコラァ!】~なんか妖精さんが巻き込まれるらしい~
(魔女さま! 見つけましたよ~! 「なんか変な場所」!!)
「でかしたわ! モコプー!」
黄龍達の話から四神の棲処の入り口を見て、なんとなくイメージが固まったところに、モコプーが朗報を伝えてくれた。
感じてた違和感、「再生することで呪いが解ける」ではなく、「再生しないと呪いが解けない」でもなくて、「呪いを解かないと再生できない」と言う仮説を裏付けるために、呪いの『発生源』を探っていたんだ。
隠された魔神の呪い、そう。『聖域』再生の途中に見つかる空間の歪み、他と比べてなんか澱んでる場所。それこそが呪いの『発生源』だ! 漸く見つけたよ。
「姐御、一体何が起きてるんだ!?」
「うん、簡単に言うと。この呪いの『発生源』を見つけたんだよ」
「えぇ!? では、それさえ浄化してしまえば再生を待たずとも呪いが解呪されるのですね?」
「……いや、そうか。なるほどのぅ……これは我等の早合点じゃったか、のう、魔女や?」
白虎が何事かと聞いて来るので、簡単に説明。玄武は『聖域』の再生が完了しなくてもそれさえ浄化しちゃえば済むって思ってる。そうなんだけど、ちょいと違うんだよ……黄龍は気付いたかな?
「うん、『発生源』を浄化するのは大前提。多分だけど、再生が終わるまでに浄化しないといけないと思う」
「うむ……あの『発生源』を残したまま再生をしても……完全にはならず失敗に終わるじゃろうて」
流石に知恵者だ、よくわかってる……そう。このまま再生を続けてもあの『発生源』がある限り、必ず阻害されて失敗するだろう。
「マジかよ……じゃあ急いでその『発生源』を浄化しねぇとな!!」
「うん、モコプーが見つけた「変な場所」はここだね、よし……これと似た歪みを検索……」
「アリサさまは、一度目にすればすぐに探し出せるのですか……?」
モコプーが見つけた歪みを、オプションを通して映像通信で確認。白虎が言うように、これからは時間との勝負だ! なるだけ急ごう。
「ん~、見てなくても名前さえわかればいけると思うよ? 実際さっき四神の棲処でいけたし。落ち着いたらこの検索と鑑定も検証したいけどね」
「いやはや……ホンに主ゃ器用じゃのぅ……感心するぞい」
黄龍、白虎、玄武がホヘーって私に感心してくれている、まぁ、この辺は前世での知識が絡むので詳しく説明することは省く、っと……見つけた全部で五箇所だ!
「よし! 見つけた……黄龍これ! これ見て!」
「むぅ、なんじゃ隠蔽されとるな。儂等の棲処の入り口と同じ感じになっとる」
「それってつまり、普段は私達の棲処の入り口と同じような隠蔽で、更に呪いによる隠蔽の二重構造なんですよね? 見つからない訳ですね」
二重隠蔽、随分手が込んでるよね。魔神は余程この世界に執着してたとみえる。
そんなに、アルティレーネ達姉妹にフラれたのが気に食わなかったのかな?
「みんな聞いてたよね? 今からこの『発生源』を引きずり出すよ! 何が出てくるかわからないけど、警戒してね!」
映像通信を通し、全員に勧告する。女神達は再生に集中しているので除外。でもちょいと一報入れておこうかな。報連相大事だしね。
「でもアリサ、『発生源』を見つけたのは良いけれど……一体どうやって引きずり出すつもり? 私達の棲処と同じなら鍵や許可が必要になるわよ?」
朱雀が当然の疑問を投げてくる、はっはッは! 鍵? 許可?
「朱雀ちゃんや、なにをあまっちょろいこと言ってるんだね? こちとら世界の危機ですよ? 当然、蹴破る勢いでこじ開けるよ!」
「むぉっ!? 顔に似合わずおてんばであるな、アリサ殿は!」
「ハハハッ! そいつはいいぜ! おっしゃ! ガツンとやってくれ姐御!!」
私がそう言うと青龍と白虎はさぞ愉快愉快と騒ぎ出す、いいよぉ~三十分経っても気勢は衰えない!!
「ぷっ! あはは♪ いいわねそれ! やっちゃいましょうか!」
「グワーッハッハッハー!! うむうむ、どうせじゃ! 高みの見物を決め込んどる他の種族共も巻き込んでしまえ魔女よ!!」
「ふふふ、パーティーへのご招待ですね!」
えぇ~? 良いのかなそれ? 一応気を使って一生懸命『発生源』だけ探したのに……
「流石に怒られないそれ? わざわざ『発生源』だけ探し当てたってのに……」
「なに、構わん構わん! 『神狼』も『九尾』も『天熊』も動いとる、『妖精』の臆病者共も叩き出してやればいいんじゃ!」
おおぅ! ここで新情報出さないでよ、狼に、九尾ってのはかの有名なキツネかな? 熊と、妖精? いやはや、色々居るんだね。
(わたしは良いと思いますよ~魔女さま、やっちゃいましょ~!)
「我も賛成だ! 今は一刻も早く呪いを解呪せねば!!」
「僕も賛成します!」
モコプーにセインちゃん、ペガサスが揃って賛成の意を表明。
《変に遠慮して見落としが発生するのだけは避けたい、魔女殿! 存分にやってくれ!》
《ふむ、そう言えば『妖精』の女王は今はティターニアでしたか?》
《然り、あの強かな女は今頃機会を窺っておるところでしょうな、「ここぞ」という場面でヒョッコリと現れ、さぞ「働きました」とでも言うのであろうよ》
ガルーダの言うことは最もかもしれないね、確かに見落としてたーってなっても困る。
フェニックスと八咫烏は『妖精』の女王様を散々ディスってる、見透かされてますよ~ティターニアさん? でも、後から来ていいとこ取りされたうえに、大きな顔されるのは私もいい気分じゃない。
「よし、やりますか! ユニも良い?」
「うんっ! 『妖精』達の事は気にしなくていいよぉ~アリサおねぇちゃん! 世界樹に落書きとか、イタズラばっかりするんだもん!」
あはは♪ そういや、前世の世界でもイタズラ好きの妖精ってお伽噺でいたような気がするなぁ。
なにはともあれ、満場一致で『聖域』の隠された場所の強制解放に可決! やっちゃうぞ!
「隠蔽破壊」
私を中心に輪っかが拡がり、『聖域』全体を包み込むように強制捜査のイメージで放つ隠蔽破壊の魔法。その輪は一瞬で『聖域』全域に疾り、四神の棲処を始め数々の隠された物を浮き彫りにする。
「みんな見て! 『黒水晶』だよ!! あれが呪いの正体、『発生源』だよね!?」
《《うおおぉーっ!! 流石俺等のご主人だぜぇ~!!》》
《《あるじ! あるじ!》》《《サイコーにハイってヤツだぁ!!》》
《ご主人~愛してまーす!》《番になってくだっせー!》
ユニが叫んだ先、中空に浮かぶ五つの『黒水晶』がハッキリと目に見える! 後はアレを全部ぶっ壊すだけだよ! というか、グリフォン共うるさい。
とにかく、女神達にも伝えよう!
「呪いの『発生源』を見つけたよ! これからあの『黒水晶』をぶっ壊しにって、なんて顔してるの三人共!」
映像通信を女神達のところに飛ばして状況を報告したら、なんか三人とも泣きそうな顔をしているので驚いた。心折れるにはまだ早いでしょうよ?
「しっかりしてよ、タイムリミットは後三十分! 私達を最後まで信じて続けて! 絶対間に合わせるから」
「アリサさん!」
「アリサっち!」
「アリサ……」
渇を入れる私をじっと見つめる女神達、うん、落ち込んだ瞳に力が戻ってきたね!
「んっ! 信じる! アリサ、頑張って!!」
レウィリリーネが三人の意思を代表するかのように力強く答えた。感じるよ、三人の『思い』、その込められた重さをしっかり受け止めるように、私は笑顔でサムズアップ! アリサさんに任せなさい!
【四凶】~爵位持ちの悪魔達~
『黒水晶』がハッキリとその姿を見せたことで「魔神の残滓」達に変化があった。
なんと合成魔獣がイービルデーモン達をその身に取り込み始めたんだ!
イービルデーモン達は揃って抵抗もすることなく、合成魔獣共の触手に巻き付かれて取り込まれていく。正直見てて気持ち悪い。
そうしてイービルデーモンを取り込んだ合成魔獣が、同じようにイービルデーモンを取り込んだ他の合成魔獣をも取り込んでいく
延々と、それを繰り返し気付けば周囲のイービルデーモンは残らず取り込まれ、残ったのは四体の合成魔獣だけだ。
「これは、何が起きてるのよ?」
「むぅ! もしや大悪魔の召喚か!?」
私の疑問に黄龍が答える。
大悪魔ですって? 聞き返そうとしたその時だ、合成魔獣を濃い紫煙が包み込んだ。
今までにない強大な魔力の奔流! 一体どうなってんの?
「あれは……『爵位持ちの悪魔』か!?」
「合成魔獣とイービルデーモンを贄にして召喚か、悪趣味だね」
セインちゃんの言う『爵位持ちの悪魔』って言葉で合点がいった。
先程の合成魔獣達のイービルデーモンの取り込みは、より強い悪魔を召喚するための儀式みたいなものなんだろう、早い話生け贄だ。ほんと趣味悪い。
それだけじゃない、折角見えるようになった『黒水晶』にも大きな紫煙が立ちこめる。その紫煙は『黒水晶』を取り込み、姿を異形の化物へと変えていく!
「アイツ等!! そうかよ……魔神に魂まで売り渡したってのかっ!!」
「随分懐かしい顔ぶれだ……良いだろう、何度でも滅ぼしてやる!」
「まさかこうして先代様の仇に合間見える事があるなんて、本気で私を怒らせましたね!」
「上等よ! 残り滓に成り下がったあんた等を今度こそ完全に消してやるわ!!」
四個の『黒水晶』を、それぞれ取り込んだ紫煙が形取ったその化物の姿を目にしたとき、四神達が怒りを露にしだした、なんだべ? 知り合いなの?
よくわかんないけど、四神達と同じくらいの大きさの化物に、悪魔達との戦いとなると流石に剥き出しになった他種族の棲処の入り口が危ないと思う。念のため盾でも置いておこう。
「聖盾」
隠蔽破壊で剥き出しになった、みんなの棲処の入り口を聖属性の魔力で作ったでっかい盾で覆う。これでそう簡単には被害出ないでしょ? ついでにちょいと小細工を仕掛けて……オッケー。
「東西南北を守護する『四神』に対なす存在がおってな、そ奴等は……」
渾沌。大きな……犬? の身体に六本の脚、頭がなくて鳥の翼が四枚生えた化物。
饕餮。牛の身体に人間の顔、でも目がないぞ? 凄く気持ち悪い。
窮奇。虎に翼が生えている。白虎が睨み付けてるからライバルなのかな?
檮杌。コイツも虎みたいな身体、でも顔が人のそれで、猪みたいな牙がある。
「渾沌、饕餮、窮奇、檮杌。こ奴らを『四凶』と呼ぶのじゃ、人を喰い、惑わし、悪事を働かせその魂を汚す! 儂等の敵じゃ!」
「姐御ぉっ!!」
「はいっ!?」
びっくりした! いきなり白虎が私に向かって大声上げるんだもん! 一体何事!?
「アイツ等『四凶』の相手は俺達『四神』が引き受ける! いいな!?」
「あ、ハイ……どーぞどーぞ」
なんか因縁があるっぽいね、確か玄武が「先代様の仇」とか言ってたし……まぁ引き受けてくれるって言うんだから任せよう。
「やるからには後腐れないように、ビシって決めてきなさい!」
「応よ! 任せとけ姐御! 窮奇は俺がやる!」
「お任せ下さい、アリサさま! 檮杌! 先代様の仇」
「任された! 吉報をお待ち下され! 渾沌よ、今一度引導を渡してくれる!」
「いっくわよーっ! 覚悟しなさい饕餮!」
さて、『四凶』は『四神』に任せるとして、問題は『爵位持ちの悪魔』四体か……鑑定するとそれぞれ、『侯爵』、『伯爵』、『子爵』、『男爵』のようだ。
「ふぅ、久し振りの現世だなぁ~ったく! 魔神のアホめ! 面倒な呪いの番なんて押し付けやがって!」
『男爵位悪魔』パルモーが出現早々に魔神を毒づく。見た目はやんちゃそうな少年だ。しかし、その魔力は今までの「魔神の残滓」の悪魔達とは桁が違う!
「ふっ……そう言うなパルモー。確かに魔神には業腹ではあるがもういないのだ、今はこの自由を謳歌しようではないか」
続いて『子爵位悪魔』フェリア。肩まで伸びたストレートの紫髪の女性悪魔。腰に細剣を佩いて軽鎧に身を包んでいるところを見るに剣士かな? 正直格好いいと思ってしまった。
「うふふ、フェリアの言う通りよパルモー。寧ろ、魔神の押し付けから解放してくれたあの子達に感謝しなくてはいけないわね」
『伯爵位悪魔』ネヴュラ。その怪しい光を宿す赤い瞳で私達を見下ろす悪魔は、ウェーブのかかった金髪を腰まで伸ばす、ドレス姿の妙齢の女性。うおぉ、すんごい色気! 真っ赤なルージュが超似合う。私が小娘ならネヴュラは大人の女って感じ。
「強き力を感じる……我は望む、ひたすら力比べせんと!」
『侯爵位悪魔』バルガス。禿頭のムキムキマッスルのオッサンだ! 見ただけで脳筋ってわかるよ、バトルジャンキーぽい事言ってるし。
「黄龍、『侯爵』から『伯爵』、『子爵』『男爵』が強い順で合ってる?」
貴族の爵位って確かそんな順番だったと思うんだけど、それが悪魔にも当てはまるのかは流石に知らないからね。
「ふむ、まぁ基本はそうじゃ。だが、戦い如何によってはどう転ぶかわからぬ、油断はできぬぞ?」
「正直相手してる暇ないんだけど……どうしたものかしらん?」
相手の力量がわからないから、誰に任せればいいか判断出来ない。私が戦ってみるべきなのかな? できれば五個目の『黒水晶』のとこに行きたいんだけど……魔神を憎んでるみたいだし、なんとか話し合いで解決……も、ヤル気満々の殺気飛ばしてるから無理そうだなぁ~。
「案ずるなアリサ殿、我がバルガスとやらの相手をしよう!」
おぉ! セインちゃんが名乗りを上げた! しかも『侯爵』バルガスに挑むらしい!
《あの女伯はこのガルーダに任されよ!》
ガルーダはあの色っぽい『伯爵』ネヴュラと戦うみたい。
《私はペガサスと共にフェリアとやらの相手をいたします、ペガサス、異存はありませんね?》
「勿論です! フェニックス様と共に戦えるなんて光栄です!」
フェニックスとペガサスがタッグを組んで『子爵』フェリアに挑戦する。
《おやおや、ではわたくしはグリフォン達と共にパルモーという男爵様のお相手をいたしましょうぞ》
《おぉ! やるぜやるぜーっ!》《あんなガキんちょに負けねぇぜ!》
《見ててくれよご主人!》《イイトコアピールするぜ!》
八咫烏はグリフォン軍と一緒に『男爵』パルモーに仕掛けるみたい。
あれよあれよと相手を決めたみんな、凄い助かる! ありがとう!
(それでしたら、わたしは他種族に助けを求めてまわりますよ~黄龍様が言うには動いてる種族もいるとの事ですし)
「ユニは応援してるね! 届くようなら援護するから!」
うん、確か狼にキツネとか熊に妖精がいるんだったよね? もし応援に来てもらえるならありがたいな! ユニは移動が出来ないから仕方ない、戦いの余波が届かないように守ってるけど、気を付けて戦おう。
《では行くぞ!》と、言う勇ましいガルーダの掛け声でみんな悪魔達に向かって行く、めっちゃ頼りになるね。うん、私ももう少し頼ろう。ここは前世とは違うんだ、裏切られる事を恐れる前にみんなを信じるようにしよう!
「では儂等も行くぞい? あの『黒水晶』からはただならぬ気配を感じるんじゃ」
「うん、気合い入れて行こう!」
【魔王の影】~哀れな剣聖~
黄龍は語る。かつて、勇者を相手に剣一本で打ち勝った人間がいたそうだ。
その者は勇者の剣をすべて打ち払い、放つ魔法も一閃の下に斬り捨てたと言う。え? なにそれ……本当に人間なの?
その人間は『剣聖』と呼ばれる存在らしい。勇者は『剣聖』の技術を学ぶため弟子入りしたのだそうだ。
しかし、魔神の手により、『剣聖』の家族、弟子達が殺されてしまう。『剣聖』は大いに嘆き、その怒り、憎しみ、悲しみといった負の感情を、魔神は利用して彼を『魔王』へと変貌させてしまったそうだ。
そして成長した勇者の手によって倒された。悲しい話だ。
「アアアァァァーッッ!!」
五個目の『黒水晶』が一振りの剣にその姿を変え、紫煙が人の形を作り上げる。
その人形は全身を魔神の呪い……黒赤のオーラに包み、嘆きの叫びをあげる。
かつての『剣聖』メルドレード。『魔王』に堕ち勇者に倒された影。
「なんと哀れな姿じゃ……死してなお魔神に利用されるとはのぅ……」
「酷すぎるわ……あまりにもあんまりじゃない……」
『魔王』の影メルドレードは、影となっても生前の不幸を引きずっている。黄龍の言う通り哀れがすぎるよ、ティリアさまじゃなくてもブチキレる所業だ。
「やるよ! 黄龍! こんな悲しいのは絶対駄目!」
「うむ! あの哀れな影を葬ってやるとしよう!」
私と黄龍が揃って放つ聖属性のブレス!
「ウオオォアアァァーッ!!」
メルドレードは雄叫びと共に『黒水晶』の剣を一閃!
ズバアアアァァーンッッ!!
耳をつんざくような轟音がしたかと思えば私達の攻撃が切り払われた。マジか……?
あまりの絶技に驚愕したその一瞬、メルドレードが一気に間合いを詰めて来た! 不味い!
「シールドっ! ダメっ! 回避して黄龍!!」
「むおぉっ!? 儂の巨体に無理を言うでない!!」
ザシュウゥッ!!
「ウグアァッ!?」
「黄龍!」
信じられない! 黄龍が傷を負った! 待ってよ、黄龍には私のシールドと聖なる祝福が掛けられてる上に、黄龍自信強固な鱗で覆われてるんですけど!?
「ぐぅぅっ! 気をつけぃ魔女よ! きゃつめ『剣聖』の技にあの『黒水晶』の剣じゃ! 儂の自慢の鱗もご覧の有り様じゃ!」
「ひえぇぇ~! 私なんて一撃で真っ二つにされそうじゃない!?」
ヤバイ! ヤバイヤバイ!! これはマジでヤバイぞ!
私は魔法が主体でこんな白兵戦みたいな事は不得手なんですが!?
「黄龍! 速度上げるよ! 空中戦だしテキパキ動いてヒットアンドウェイで行こう!」
「むぅ……横文字はようわからんが、動き回る事には賛成じゃ!」
癒しの力を聖属性の魔力で編み上げて黄龍の傷を治す治癒魔法と一緒に速度上昇の強化魔法をかける。
私達はとにかく自由の利く空中を飛び回り、遠距離攻撃を繰り返す。勿論、並列意思をフル稼働させてメルドレードの観察、対抗策を検討するのも忘れない!
必ず突破口はある筈! ここまで来て負けてられますか!
【渾沌】~青龍view~
我は駆ける、渾沌に向かい。そして否が応にも思い出す。
先の勇者達と魔神の戦い。あの時もそうだった、我等『四神』が不甲斐ないばかりに……
この『四凶』共に足止めを受けたばかりに……彼等を死なせてしまった!
「今一歩早く、貴様等を倒せていれば……彼等を死なせずに済んだやも知れぬ!」
「!!!!!」
対峙する渾沌が声にならぬ声を発し、四属性魔法を放ってくる。だが、今は小手調べなどに構ってやる気はない!
ドッゴオォォォーッッ!!
雷を伴うブレスで渾沌を撃ち貫く! ヤツは自分が放った魔法を、我が意も介さずに撃ったブレスに回避が遅れ、その六本の足の一つを失う! 我にも渾沌の魔法が迫るがアリサ殿の聖なる祝福の蒼炎が打ち消した。
「同じ轍は二度踏まぬ! 渾沌よ全力をもって貴様を葬る!」
アリサ殿の支援がある限り、全力を出し切れる! 時間などかけぬ、一刻も早く渾沌が取り込んだ『黒水晶』を破壊し、アリサ殿と兄者の救援に向かわねばならぬのだ!
「オオオォォーッッ!! 覚悟しろ渾沌っ!!」
流星のごとき勢いで渾沌に接近! 渾沌の翼を喰い千切り、爪でその胴を裂く!
「!!!!!!!?????」
叫ぶ渾沌は深い傷を負いながらも、闇の大魔法闇の獄炎で反撃してくる。漆黒の業火が蒼炎を突破し我を焼かんと迫る! ぐぅぅっ! なんのこれしき!
「!!!!!」
続けて放たれる氷嵐暴風、燃え滾る溶岩、暴発する力!
そう、渾沌の驚異はこの連続魔法! 火、風、水、土、闇、無属性の様々属性を組み合わせた合成魔法にある!
「舐めるなよ、渾沌よ……」
我は自身に突き刺さる渾沌の魔法を無視して、再び一直線に駆ける! 一つ一つ対応していては被害を被るばかり、“一点突破”これこそが正解なのだ!
「貴様ごときがこの青龍を討てると思うなああぁぁーっ!!!!」
ドガアアアアアァァーンッッ!!!!
「!!!!?????」
その身体に風穴を開けた渾沌が紫煙へと還り『黒水晶』が砕け散る。
「駄目押しだ!!」
ゴオオォォーッッ!!
我の雷撃のブレスが『黒水晶』を跡形もなく消し去る! このような物、塵一つ残さぬ!
「ふん。所詮は影、以前よりも楽であったぞ渾沌よ?」
例え魔神の呪いで強化されていようが、劣化した模倣体。後悔を胸に修行に明け暮れ、アリサ殿の聖なる祝福の加護を受けし我の敵ではない!
さぁ! 兄者とアリサ殿の援護に向かわねば!
【檮杌】~げんちゃんview~
「よいか? 我等は『四神』の盾。その身をもって皆を護るが役目背負いし『玄武』なり。努々忘れぬようにな」
今でも鮮明に思い出せる在りし日の父上の姿。
私に『玄武』の誇りを教えてくれるそのお顔、逞しく精悍で誇り高き『先代さま』。自慢の父上。
父上の最期は、女神様達を、『四神』を、かつての勇者を身を呈して護り……檮杌に討たれました。文字通り盾としての役目を立派に果たして……
「何度私の手であなたを討ち取りたいと思ったことでしょうか? この機会、誰にも譲りません!」
当時の何の力もない私じゃないんです、勇者に倒されたあなたを、私がどれだけ悔しい思いで見ていたかわかりますか!?
「檮杌っ! 父上の仇! 積年の思い、ここで晴らさせてもらいます!!」
「ガアアァァァーッッ!!!」
私の怒声に応えるように吼える檮杌。私の気勢に応えるかのようにアリサさまの聖なる祝福の蒼炎がその勢いを増す!
「素早さ勝負では分が悪いですからね、水の檻!」
びゃっくんのように虎のその体躯に見合うスピードを持つ檮杌、まずはその厄介な素早さを封じます。
「ガァッ!?」
水の檻が檮杌の四肢に絡み付きその動きを阻害させる!
さぁ! 攻撃開始です!
「グオオオアアアァァッッ!!!」
「炎の柱!?」
私の周囲を取り囲むようにいくつもの火柱が立ち上がり旋回しつつ迫ってくる、馬鹿ですか? ここは空中ですよ? 私は少し高度を下げてあっさり回避。 しかしそこに!
「グワアァオオォッ!!」
「!?」
目前に檮杌の鋭い爪が迫る! なるほど、炎の柱は目眩ましでしたか! 水の檻もほどかれていますね。
ガギィンッ!!
咄嗟にシールドを張り檮杌の攻撃を防ぐ、しかし檮杌の攻撃は留まる事を知らず私に反撃の隙を与えません。ラッシュ! ラッシュ! 素早い左右の爪に、猪の牙による突進。突き上げ! 機敏に動き回り、私の前後左右、果ては上下からと。空中と言う利点を活かして攻撃を続けて来ます!!
「グギャアァ」
イラっ……何ですか? その下卑た笑いは? もしかして防戦一方の私を見て押し勝てる、とでも思っているんですか!?
「水槍牢!」
「ギャアアァッッ!!?」
馬鹿ですね、確かに猛攻でしたけれどワンパターンなんですよ……同じ攻撃しかしてこないなら、捉えるのは容易……消えなさい『黒水晶』と共に!
水の槍に全身を穿たれた檮杌は紫煙を撒き散らし消えようとしていく。その最中!
「ぐへぇぁぁー!」
「貴様っ! 私達の棲処を!?」
ゴオオォォーッッ!!!
しまった!! 檮杌はあろうことか私達の棲処の入り口に向けて爆炎を放って消えていった! 『黒水晶』は砕け散ったもののこのままでは玄武の里が!! 駄目! 間に合わない!!
ドゴォッ! パカッ! ギュウゥゥーン!!
「え?」
檮杌の放った苦し紛れの爆炎は私達の棲処の入り口を直撃する間際、大きな盾に阻まれた。しかも、盾には丸い蓋のような物がついており、その蓋が開いたと思ったら、防いだ爆炎を丸々吸い込んだではないか!?
「これは……アリサさまの貯槽!? あぁっ! 感謝しますアリサさま!!」
【饕餮】~朱雀view~
さてさて、いよいよ大詰めかしらね?
魔神の残した最後の呪い『眷属呪縛』、その正体の『黒水晶』。
「それさえ破壊すれば終わる……長過ぎた魔神との因縁も……そして、私達は漸く前に進めるの」
私は饕餮を睨み付ける。
「だから、あんたなんかに構ってる暇なんてないのよ……消えなさい! 饕餮!!」
「ブモオォォアアァァッッ!!」
饕餮が周囲に魔力球を召喚しては動き回らせて、私に四方八方から魔力弾を撃ってくる。けれど……
「ぬるいわ、こんなものアリサのオプションの足下にも及ばない」
比較対象が規格外過ぎるけれど、似たような物であるのは確か。正直、饕餮が召喚した魔力球は数が少ないし、動きも遅く、放つ魔力弾は弱い。以前の饕餮はもう少し強かった筈だけど。
「所詮は影、劣化コピーってことね?」
「ブガアアァァーッッ!!」
「あら、怒ったの? 無様ね」
私の挑発に乗って突進してくる饕餮、ひらりと身をかわした私は炎嵐で反撃する。
「ブモオオォォーッッ!!?」
身を焦がす炎に焼かれながらも饕餮は数種の魔法を撃ってくる。お得意の状態異常魔法ね?
渾沌が攻撃魔法を得意とするように、饕餮は相手を状態異常にする魔法を得意としている、混乱、幻惑、毒、麻痺と様々だ。しかし……
「無駄よ! アリサの聖なる祝福を受けてる今、あんたの攻撃なんて通るものですか!!」
私のその言葉を裏付けるように、饕餮の魔法が私を包む蒼炎にかき消される!
「ガァッ!!??」
「理解したかしら? あんたなんかじゃ私の相手にもならないってことが!」
そもそもコイツは一対一で戦うのに向いていない、搦め手主体の攻撃が大半なのだから。『四凶』の脅威は四体揃ってこそにある。魔神はそんなことも知らなかったようね!
「幕よ? 紅炎爆ぜし閃光!!」
「モオアァァァーッッ!!!!??」
私の魔力が饕餮に集束し紅い閃光を伴い爆発する!!
饕餮は爆散し跡形もなく消え、『黒水晶』も塵になって消えていったのだけど……って、あらら? ちょっと威力が強すぎないかしら!? アリサの聖なる祝福ってこんなに効果凄いの!?
「やっばーい!! これじゃ棲処まで焼けちゃうじゃない!」
私は自分を棲処の盾にするため急いで向かう、トホホ、まさか自分の魔法を自分で受けなきゃいけなくなるなんて!
パカッ! ギュウゥゥーン!!
と、思って見るとなんか見覚えのある蓋が開いて紅炎爆ぜし閃光の余波が吸い込まれて行く! これ……アリサの貯槽?
「ははは……よく見たらでっかい盾が張られてるじゃない? はぁ~よかったぁ~ありがとねアリサ!」
助かったぁ~! 自分の魔法で棲処焼いちゃったなんて『四神』の恥もいいところだ。それを防げてホッとしたわ、後で沢山お礼しなきゃね!
【窮奇】~白虎view~
「オラァッ!!」
ザシュッ!! ドゴォッ!!
「グルアァッーッ!!」
俺は窮奇をぶん殴る! ヤツも負けじと俺をぶん殴る!
窮奇が咆哮で吼えれば、俺も咆哮で返す!
「ガアアァッ!!」
「テメェ! 魔神なんぞに魂まで売り渡しやがって!!」
窮奇に頭突きをぶちかまし、よろけさせたとこに両の後ろ足で蹴っ飛ばす!!
素手喧嘩だ!
コイツは魔法の一切を使えねぇ分、身体能力が異常に高ぇ!
「虎の誇りを何処に捨てて来やがったぁっ!!?」
「グルアアァァーッッ!!!」
だったら魔法使って有利に戦えば良いだろって思うだろうが、そいつは俺の流儀に反する! 意地でもコイツは素手喧嘩でぶっ倒すぜ!!
「『四神』と『四凶』、立場は違ぇが、テメェとはいいライバルだと思ってたぜ!? だがなぁっ!!」
ドゴォッ!!
「グラアァッッ!!??」
窮奇の突進からの頭突きに、同じく頭突きで返す! んだよっ!? 加速つけてもその程度かよ!? 昔のテメェなら俺を彼方までぶっ飛ばした筈だ!
「つまんねぇぜ……窮奇! 今のテメェは見るに耐えねぇ……消えやがれ!!」
「ガアアァーッッッ!!」
「何っ!?」
コイツ!? 魔力を自身に集束してやがる! 魔法使えたのかよ!!?
ガシィッ!!
組着かれた!? 何しやがる気だこの野郎っ!?
「グルアアァァーッッ!!!」
俺の体に四肢を絡み付け、絶対に離さん! とばかりに首に噛み付いて更に魔力を集束させていく窮奇。集束した魔力が発光し俺と窮奇を包み込む! コイツ! コイツは!?
「テメェ! 自爆する気か!?」
ふざけやがって! 俺に敵わねぇとみるやまさかの特効仕掛けて来やがるとは! うおおおぉぉーっ!?
ズドオオオオォォォーンッッ!!!!!
「うがああぁぁーっっ!!!」
ドッゴオオォォーンッッ!!
窮奇は取り込んだ『黒水晶』ごと俺を巻き込み爆散しやがった! 爆発の衝撃で派手にぶっ飛ばされた俺はモロに地面に叩き付けられてでっけぇクレーターを作る!
「がぁぁっ!! いってぇぇーっ!! やってくれたなあの野郎っ!!」
空を見上げると塵になった『黒水晶』が風に乗って消えていくとこだった。
……へっ! まさかの自爆たぁな。それが窮奇なりの「誇り」なのかもしれねぇ。
俺に一矢報いたんだ、やるじゃねぇか……影じゃあなきゃ俺も死んでたかもしれねぇぜ?
「いでで……ちっ! こりゃ暫く動けねぇか……」
しゃあねぇ、後は姉御とジジイ、聖獣達に任せるか……姉御の聖なる祝福で回復はしてきてるものの身動き出来ねぇからな。
「頼んだぜ! 姉御!!」
『聖域』再生まで後二十分!
四凶達「どうもー、噛ませ犬です( ̄▽ ̄;)」
アリサ「……そこまで自虐しなくてもいいじゃん(;´д`)」
四凶達「じゃあ、また出番くれますか!?」
アリサ「あ、ごめん。それはないかな( ・ω・)ノノ」
四凶達「そんなぁ~!(。´Д⊂)」
アリサ「あと、あんた達キモいから……ごめんね(((・・;)こないで?」
四凶達「あんまりだぁ~!Σ(ノд<)」