80話 魔女と白の姫と黒き女王
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【成長】~気合いの入る妹達~
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「でも、どうして今になって痛むようになったのかな? 今まで平気だったのよねユニ?」
「うん、なんかね~帝国の『龍脈の源泉』から魔力吸ってから、なんだかジンジンし始めたの」
アイギスの家族『ランバード公爵家』の歓迎パーティーを終えて、私達は姉妹とユニ、アリスにアイギスのお母様ことセレスティーナ様とリリカさんとで一緒にお風呂を堪能していたの。
でも、私がユニの身体を洗ってあげようと、ユニの胸に触れた時、ユニが痛みを訴えたのだ。どうしたのかと私があわてふためく中、妹達が成長痛であると断言。元男の私にはわからなかったけれど、女の子が成長する中で必ず起こる痛みなのだそうだ。
それはとても喜ばしい事で、「初めてのブラジャー」の起点なんだって。
それを聞いた私は、お赤飯を炊くべき! って思ったんだけどさ……小豆がまだこの世界で見つかってないんだよねぇ~残念! 小豆……見付けたいなぁ~大好きなこしあんまん食べたいよ~!
とと、脱線脱線。確かにユニの成長は喜ばしい事だけど、何故それが急に起こったのだろう? ユニは私の『聖霊』だし、普通の子とはまた違うはずだ。
「まさにそれが原因ですよ。『龍脈の源泉』は『世界樹』を成長させるための物ですもの」
「今回はちょーっといっぱい吸ったもんだから『核』のゆにゆにに、大きな影響が出たんだろうね~」
そんな疑問にアルティレーネとフォレアルーネが答えてくれた。おお、そう言うことか。確かにユニは、あのクズ魔王の『疑似体』のバンシーが、帝国の『龍脈の源泉』の魔力を利用し、強引に憑依させていたリリカさんの力で、猛吹雪を帝国全土に降らせ続けていたのを、「弱める」事を目標とし、その魔力を吸い上げて成したのだ。
「残りの『龍脈の源泉』も少しずつ活性化してきているみたいだし。ユニはゆっくりだけど成長していくわ」
「なんにせよ記念すべきユニの初めてのブラジャーです! アリサお姉さま、ティリア姉さま。私達は先にあがって色々作って来ます!」
ザバアァーッ! と、勢いよく湯船から立ち上がり、私達を見てはドヤ顔で「行ってきます!」と豪語するアルティレーネだ。それに続くように、レウィリリーネとフォレアルーネも湯船からあがって行く。
「セレスティーナさんとリリカさんはごゆっくりどうぞ♪ ついで、で申し訳ないですが貴女達の分も用意してきますから」
「ん、湯船に浸かってしっかり温まってね?」
「リリカっちはあんま浸かってると溶けちゃう? 雪女だしね。あはは♪」
どうやら、下着作成の職人魂が揺さぶられているみたいだ。きっとユニの為に色んなデザインのブラジャーを用意してくれることだろう。よかったね、ユニ♪
「私達の分もご用意下さるなんて! あ、ありがとうございます!」
「溶けません……このくらいなら、まだ平気なのですよ」
えへへ~嬉しいなぁ~どんなブラジャーだろう~? ってニコニコして湯船でアリスと楽しそうに話をするユニ。下着作成の為に早目にお風呂を済ませて出ていく、妹達三人の背にお礼を言うセレスティーナ様。リリカさんは私達に顔を向けて溶けませんからって念をおしてくる。
「あの、アリサ様、ティリア様。小耳に挟んだのですが、この『聖域』にも冒険者ギルドを設立させると言うお話は本当なのでしょうか?」
「ん? ホントよ~? アイギス達『白銀』に『黒狼』とあの猫と兎達も冒険者だし。それに、この『聖域』からも冒険者を出そうってしてるところだからね」
「ゼオンのおっさんとも話して、各国とのパイプ繋げるのにも有効だって聞かされまっしたからねぇ~」
セレスティーナ様が身体を洗い終えて湯船に入るなり、そう声をかけて来た。それに、冒険者ギルドを『聖域』に作る理由を簡単に説明するティリアとアリス。
「そうですか! それでしたら是非その運営を私達『ランバード』にお任せ下さいませんか? 私達は少しでも息子の力になりたいのです!」
「お~♪ それいいんじゃないかなぁ~きっとアイギスおにぃちゃんも喜ぶよ~♪」
おや、そう来たか。一応『聖域』の冒険者ギルドについては、ジャデークとネハグラ夫妻に、ガウスとムラーヴェからと、ゼオンにアドバイス……まぁ、運営していく為のいろはを学んで、妖精さん主体で進めて行こうとしてたのだ。
でも、妖精さん達も農業班、酪農班、建築班とそれぞれに別れ、各自に仕事があるので、正直手が足りないかな~っても思ってた。そこにセレスティーナ様達『ランバード公爵家』のみんなが、その冒険者ギルドの運営を担ってくれるなら大助かりだ。ユニがにこーって微笑んで言うように、アイギス達も嬉しいだろう。
「私達としては勿論歓迎ですよ? 正直手が足りないかなって思ってましたし、渡りに船! 明日の会議でもお話しますね」
「ありがとうございます! 精一杯働いて『聖域』の皆様に貢献します!」
「私も頑張りますね。ふふ、冒険者の方達にイタズラするのも楽しそうです♪」
私が喜んでお願いしますって言えば、セレスティーナ様はとっても嬉しそうに頑張りますって応えてくれた。リリカさんも一緒に励んでくれるって言うし、後はしっかりお勉強をしてもらって、準備を整えてもらおう。
「リリカさんリリカさん♪ その時は是非是非アリスも交ぜて下さいよぉぉ~♪ 一緒にあの冒険者達をからかってあげまっしょぉ?」
うふふ♪ いいですね! って意気投合するリリカさんとアリスである。そんな二人を苦笑いで見守る私達。もー、ほどほどにしとくようにね~?
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【久し振り】~『白の姫君シリーズ』~
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「はーい♪ ゆにゆに~いっぱい用意したよぉ~!」
「ん♪ どれも自信作。好きなの選んで……」
「アリサお姉さまも、ティリア姉さまも。ささ、セレスさん、リリカさんも! ご覧ください」
お風呂からあがった私達を、待ってました! って歓迎したのは、先にあがっていた妹達。その手には沢山の下着を持って、三人とも自信に溢れた満面ドヤ顔を見せている。どうせなのでテーブルを具現させてそれぞれを広げて見れるようにしてみたよ。
「沢山用意したわね~いつもありがとね?」
「気にしないでアリサ姉~うちらの趣味だからさ♪」
「可愛いのから、ちょっと大人っぽいのまで色々あるわね。どれも自動でサイズ調整する魔法かけてあるのかしら?」
「ん! 勿論。折角気に入ったのにサイズ変わって着れないのは悲しい……」
「そんな成長中のお悩みあるあるも解消です! ユニの大事なバストの成長をしっかりサポートする逸品達ですよ!」
「はへぇぇ~女神様達、器用でっすねぇ~」
いやはや、アリスの言う通りだね。私も結構みんなに「器用だ」って言われるけどさ……妹達の方がよっぽど器用だと思うなぁ~今の話のサイズを自動で調整する魔法もそうだけど……そこで私は一揃いのブラとショーツを手に取って見る。
ほら、このちょー細かい刺繍! すげぇわ~私がもらった魔女服に聖女服、アリアもそうだけど、妹達が作るのはどれも絢爛豪華な模様や、刺繍、飾りが施されてる。
「素晴らしいですね……どれも綺麗……うっとりしちゃいます」
「今の時代はこのような見事な下着があるのですね……奥様。折角ですし試着させて頂いては如何でしょうか? と言うか私も着たいです」
ユニが妹達にありがとう~♪ ってお礼を言って、どれにしようか悩んでる横で、セレスティーナ様がうっとり。リリカさんも興味津々の様子だね。
「いいんじゃない? セレス達の分もあるんでしょうアルティ? 私も着ていいかしら?」
「アリスもアリスも~♪」
「勿論ですよ♪ 遠慮なく選んで下さい!」
「あ、アリサ姉には特別に用意してあるから待ってね~?」
ティリアがアルティレーネ達に許可をもらい、セレスティーナ様とリリカさんもアリスもティリアも嬉しそうに下着を選び始めたので、どれ、んじゃ私も選ぼうかなって思ったら、フォレアルーネが止めてきた。なんでって思ったら、また私用に作ったらしいので、バスタオルを身体に巻いて、髪を乾かしながらみんなが選ぶのを見守る事にした。
「これ! ユニこれがいい♪ 白くて可愛いのに、アリサおねぇちゃんみたいな綺麗なやつ~♪」
「おお~流石ゆにゆに~♪ それは以前アリサ姉にもあげた『白の姫君シリーズ』の新作なんだよ~ん!」
ユニが悩みに悩んで選んだのは、純白の本体に少しだけピンク色の細かな刺繍が施された、可愛くも綺麗で美しいブラとショーツ。フォレアルーネが言うには、私に着せたあのベビードールにも銘打った『白の姫君シリーズ』の新作らしい。
なんだかんだで、あのベビードールは私のお気に入りの下着……いや、寝間着かな? に、なっている。始めはネグリジェ着るのも抵抗あった私だけど……変われば変わるもんだね。
「たまには派手なの選んでみようかしら……この赤いのなんてどう思う?」
「似合わな~い! 絶対似合わないでっす! ティリア様はそんな派手派手なのだーめでっすよぉぉ~!」
「ティリア、私もアリスと同意見だわ。下着の赤が強すぎるよ、下着がメインであんたがオマケみたいに見えちゃう」
ティリアが手に取った下着は深紅っていうか、真っ赤っかのド派手な一品。とてもじゃないけど透明感のあるティリアには浮いて見える。アリスも私も揃い似合わないと指摘すれば、ティリアもやっぱりわかってたみたいで、「あ、やっぱり?」って苦笑いしては、また選び直し始める。
「セレスさんはその薄桃色のセットなど如何でしょう? 可愛らしさと美しさを備えた一揃えですよ♪」
「う~ん、リリカっちにはこの白をベースにうっすらと青みがかかったヤツ! 雪女のリリカっちに合うと思う!」
セレスティーナ様とリリカさんにはそれぞれ、アルティレーネとフォレアルーネがついて彼女達に似合いそうなデザインと色の下着を見繕って、きゃっきゃと微笑みあっている。ティリアとアリスは先の赤い下着を再び手に取っていて……
「いやぁ~待ってくだっさいよぉ? あえて冒険してみるのもいいかもしりゃーせんねぇ……」
「そうよね! 流石アリスだわ! 決めつけないで色々試して見ましょうよ!」
……とか言っておりますわ。まぁ、納得行くまで好きにやりなされ。
そして私は、選んだ『白の姫君シリーズ』を手に、レウィリリーネの指導でブラジャーの付け方を教わってるユニをニコニコ見守るのだ。
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【新作です!】~『漆黒の女王シリーズ』~
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「ん♪ よくできました。わからなくなったらまた聞いてね?」
「ありがと~レウィリリーネ様♪ えへへ~どうかなアリサおねぇちゃん!?」
お風呂上がりのみんなに、美味しいイチゴ牛乳を用意してあげようと、ミーにゃんポーチを開けて準備をしている私の背にそんな声がかけられた。どうやらレウィリリーネに教わりながらもユニはブラジャーデビューを達成したようだ。
『白の姫君シリーズ』だけあって、ユニが身に付けたそれはとても美しくも愛らしい。
「うん♪ 一段と大人っぽくなったねユニ! 綺麗で可愛いよ」
にこーって私に微笑み聞いてくるユニに、イチゴ牛乳を手渡して率直な感想を伝えてあげる。うんうん、今までの子供っぽさがまだまだ残っているけれど、身に付ける下着一つで女の子はこうも大人になれるのか。可愛い妹の成長に思わず感動を覚えてしまうね。
「うふふ♪ では、ユニの着替えも出来たところで……」
「お待たせ。アリサお姉さん」
「イチゴ牛乳うまー♪ ふっふっふ……アリサ姉にはこれだ~!」
そうしていよいよ私の前にアルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネの三人の妹達がやってくる。セレスティーナ様とリリカさんの下着選びも一段落ついたようだね。
「じゃーん! 新作『漆黒の女王シリーズ』だよ♪」
「うおお!? こりゃまた……すんげぇ色っぺぇ下着でっすねぇ~!」
「アリサ姉さんの黒髪と合いそうね! 着てみてよアリサ姉さん♪」
なんと代表してフォレアルーネが私に渡してきたのは、黒で統一された上下にガーターベルトと、レースを編み込んだタイツのワンセットだった。アリスもこれにはびっくりしたようで、声をあげている。
ティリアも私に似合いそうって言うし、どうだべなぁ~って思いつつ、ぴろーんと広げて見れば、いやはや……なんてぇっちな下着かしらん!
「ちょーっとぉ~こういうのはネヴュラの方が似合うんじゃないの~?」
女性物の下着を身に付ける事に抵抗がなくなってきた私だけど、流石にこれを着るのは少し勇気がいる。それだけセクシーすぎる下着だ。以前にネヴュラが似たような下着を着た上にネグリジェまで羽織っていたけど……まさか私も着ることになろうとは。
「そこを曲げてお願いします!」
「そのネヴュラにあげたのをアレンジした……着てほしい、アリサお姉さん」
「清楚なアリサ姉もいいけど、たまにはこういう冒険もありだって!」
私が難色を示していると、妹達が説得を始めた。いやぁ~まぁ、うん。そこまで言うなら着て見るかな……折角頑張って作ってくれたんだし……それに、アイギスはこういうの好きかしら? なんて、ちょっと考えたりもしたりして……
「まぁまぁまぁーっ!! なんて素敵! とてもお美しいわアリサ様!」
「まさに『漆黒の女王様』ですね……なんという気品に妖艶さでしょうか!」
「ふおぉぉーっ!? マスターやっべぇでっすやべぇですよぉぉーっ!?」
その一式を身に付けた私を見て、セレスティーナ様とリリカさんにアリスもまじっては大仰に褒めてくれるんだけど……うむむ、なんか不思議! この色っぽい下着を着けただけで、何て言うか、勝ち気になると言うか……気が大きくなってくるような感覚があるんだよね。
「あふぁっ! アリサ姉~えろい! えろいよぉぉ!!」
「あ、ありです、これはありですよ! 普段清楚なアリサお姉さまが一変! 妖艶な魔女に変貌を遂げました!」
「ん! アリサお姉さん。これ、これ引いて! ああ、アイシャドウもちょっとつけよ!?」
ちょちょ、ちょっと待って! ぬあ~? 取っ捕まった~!
そんな私を見て興奮した妹達があれよあれよと化粧道具を持ち出して、私を拘束しては深紅のルージュだの、アイシャドウだので私に化粧を施していく。あまりの熱気に私はなすがままにされてしまい……
「か、完成です! このメイクパターンを記録なさって下さいアリサお姉さま!」
「あー、ハイハイ。んで、私は一体どうなったん?」
アルティレーネに言われるまま、今の私の状態をあの早着替えの魔法『化粧台』に保存する。以前、アリスを召喚するときにも使ったこの魔法は、よくゲームにもある、お気に入り装備を登録しておいて、素早くワンタッチで着替える事を可能にした魔法。結構便利なんだよね。
「あわわ!? アリサおねぇちゃんが凄い大人になっちゃった!」
「うわぁ~同じ顔だと思えないくらい美人ね……スタイルと下着と化粧が合わさって……すげぇ~お姉様だわぁぁ~」
「ん……完璧。『絶世の美女』完成」
「ネヴュラままんとはまた違う色気……これなら小娘なんて言われないよ!」
ほへぇ~……いやぁ~我ながら変わるもんだわね? 視点を操作して第三者の目線で自分自身を見てみれば、一瞬「誰だこれ?」ってなったよ。ユニもティリアも驚くわけだ、私自身もびっくりしたもん。
レウィリリーネが『絶世の美女』だとか言うんだけど……どうだべ? 目付き悪いせいかキツイ印象があるように思える。フォレアルーネがネヴュラを例えに出すけどさ、ネヴュラは優しい垂れ目だから、おっとり美人な印象があって、こういう下着に化粧しても、「美人で優しそうな女性」ってイメージなんだよね。でも、この私はあれだ……なんか悪いこと企んでる悪女に見えるんだよねぇ~。
「そんなの見た目の印象にすぎませんよアリサ様♪」
「そうですわ。例え周りにそう思われようと、中身はアリサ様なのですから、何の問題もありませんよ!」
「ヤバすぎ……アリスのマスターが神エロすぎた件……でっす……ぐふっ!」
セレスティーナ様とリリカさんも側に寄ってきてわいわいとはしゃぎ出す。アリスはなんか意味のわからないことを言い出して、鼻血を出してプルプル震えている始末だ。そして妹達とまじって、やれ「あのポーズを!」だの、「このポーズして!」だのリクエストを出してきては、それに応えたりして、そりゃもう賑やかだけど、ちょっと恥ずかしい思いをしたお風呂タイムでした。
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【些細な違和感】~『緋神真刀流』~
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夜。大いに盛り上がった『ランバード公爵家』のみんなの歓迎会もお開きとなり、みんながみんな寝静まった頃。私は一人『聖域』の上空に佇み思案していた。
思うのは明日の事に、これからの事だ。
まず、明日は時間を加速させた『無限円環』内で、今日の続きの会議と、全員の教育と訓練が行われる事になっている。
教育と言うのは、世間に疎い『聖域』の面々に対し、ゼオン、ルヴィアス。冒険者達から世界情勢を教えてもらう事、冒険者ギルドの設立に向けての講義等だ。
そして訓練については、そのまま戦力アップを目指す。何せ私達が相手取るのはかつて『神界』に存在した元、神の魔王達。対抗できる者が私や女神達しかいないのでは心許ないのが正直なところだからね。
『魔神戦争』から続く魔王との決着に終止符を打つこと。それこそがこれからの事に繋がり、世界の安寧に繋がって行く。シェラザード、ルヴィアスは既に私達の仲間となり、ヴェーラを落とした今、残る魔王は四体。その詳細についてもいい加減はっきりさせたいので、明日妹達にきっちりと全部話してもらえるようお願いしておいた。
そして、今私が気になっていることは……『剣神』の剣技……『剣聖剣技』としてこの『ユーニサリア』に伝わったその剣技は、本当の名を『緋神真刀流』と言うのだそうだが……
(今まで、ほんの僅かに感じてた違和感……その正体が気になるんだよねぇ)
私がメルドレードの影から拝借した『剣聖剣技』だけど、色々と試してる内に少しずつ、小さな違和感を感じるようになっていたのだ……例えば剣の握り。例えば足の運び……例えば……
「アリア……」
ブゥンッ! ヒュオンッ!!
例えば、一つの技。私はミーにゃんポーチからアリアを取り出し、『聖域を護る神剣』へと状態変化させ、虚空を斬り払う。
(……やっぱり、何かが違う……何かが噛み合っていない)
ふぅ~。わっかんないなぁ~何かこう~『違う』ってことだけがわかって、他がさっぱりだ。もうちょっとで掴めそうなんだけどなぁ。
ため息をついて剣を下げ、瞳を閉じて暫し瞑目……メルドレードはこの違和感に気付いていたのだろうか?
この世界の創造のおりに投げ込まれた『剣神』からの書物。長い年月を経てそれは徐々に解読がなされ、連綿と続きメルドレード達に受け継がれ……その書物ごと魔神に消されたのだと言う。
(その『剣神』とやらに直接話を聞ければいいんだろうけど、それもまたなんか違うわよね)
それじゃカンニングだ。今までの剣聖達を愚弄する行為に他ならない。私はメルドレードの遺志を継いだのだ、彼等の積み上げてきた総てを次のステージへと押し上げてこそ胸を張って『剣聖』だと名乗れるだろう。そこに不正があってはいけない……
いや、まぁ……最初から『複製・貼り付け』で強引に受け継いでしまったのだけれど……それをしなければ『剣聖』も『剣聖剣技』そのものすら、この世界から消えるところだったと思うので致し方無いと割り切って考える。
(やっちゃった事を今更後悔する必要なんぞないやい。私はアイギスやバルガス達にバルドくんやブレイドくんにしっかり受け継がせてあげたいってだけだしね)
うんうん、そうだそうだ! その為にもこの違和感を拭っておきたいのにーっ! むきぃーっ! なーにが『緋神真刀流』だっつーの!? かっこつけてんじゃねぇわよバーカ!
んっ!?
いや、待て……『緋神真刀流』……緋神……真刀……流?
「もしかして……? ちょいとアリアさんや、今から私がイメージする形を取ってもらえるかね?」
一人『聖域』の空の下。星の光を纏い昼間とはまた違う美しい煌めきを見せる『待ち望んだ永遠』のオーロラを眺め、『剣聖剣技』の本当の名前、『緋神真刀流』とか言う古風ながらもこじゃれた名前に文句をたれて、むきゃきゃーっ! って吠える私の脳裏に、一つの豆電球が点いた! いや、まさにそんなイメージだったんだってば! あのロマンシングなRPGの技を閃く瞬間だってばよ!
その閃きを早速実行に移すため、アリアに私のイメージを送ることにする。アリアはちょっとびっくりしたかのように、その剣身を一瞬仰け反らせた後、私の目の前にきてコクンと頷いた。
「……あんたも『人化の術』でも学べば人の形になれるかもしれないねぇ~? 前世の世界の……うーん、ゲームとか物語じゃ、武器だのなんだのが擬人化すんのって結構定番だったんだよ?」
ふよふよと私の眼前に浮くアリアは物言わず思案しているように見える。この子に意思があるのは確信しているし、もしお話出来たらきっと楽しいだろう。
「まぁ、あんたの意思を尊重するからさ、明日の訓練の間好きに動いてみたら?」
私がそう言って微笑むと、フィンと一度光を放つアリアであった。
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【見守る神々】~遊びに行きたい~《『剣神』view》
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「なに見てるんだいティリア姉さん?」
「あら、RYOじゃない? 残り四体の魔王の状態に何か変化あった?」
「おう、なんだRYO? サボリにきたか?」
俺が久し振りに主神のティリア姉さんの宮殿に足を運ぶと、ティリア姉さんは兄貴であるTOSHIと一緒に神鏡を眺めていた。
申し遅れて済まない。俺はRYO。この『神界』で『剣神』と言う位についている。『闘神』であるTOSHIの弟だ。ティリア姉さんは義理の姉と言う訳だね。
俺はティリア姉さんの妹のアルティレーネと、レウィリリーネにフォレアルーネが創造した世界『ユーニサリア』に、魔神と一緒に攻め入った神々……いや、魔王達と呼ぼう。その彼等が今どういう状態にあって、何処に復活をするのかを観測、予測する役目についている。
今日ここに来たのはその報告のため……と、あわよくば『ユーニサリア』の様子を見せてもらえるかもしれないと思ってのことだ。
「わざわざ足を運んだのはそういう理由かよ? ははっ! おめぇもアリサが気になってんだな?」
「ああ、俺の『緋神真刀流』を辛うじて『ユーニサリア』に繋ぎ止めてくれたって言う、麗しのお姉様のご尊顔を拝見したいと、常々思っていたのでね」
「あ~はいはい。あんたもそうなのね? も~アリサ姉さんてば大人気だわね」
魔神が以前からティリア姉さんの、主神としての力に目を付けていたのは、薄々だが察していた俺は、その妹達にまで危害が及ぶのではないかと危惧し、何か手助け出来ないかと思案した結果。直接干渉するのではなく、俺の剣技を記した書物をアルティレーネに託すことにした。それならば規律に反する事なく彼女達の力になれると信じて。
「あのねぇ~それなら最初から共通語で書きなさいよ? なんとかメルドレードの家系が解読したからいいものの、下手すりゃ無意味に終わるとこだったわよ?」
「そ、それは済まないと思っているよ……」
「まぁまぁ~いいじゃねぇか。それよかRYOも見てみろよ面白ぇぞ?」
なにぶん急いで書き上げた書物だった為に、うっかり『神聖文字』で書き綴ってしまい、それをそのまま渡したのだった。そのため『ユーニサリア』に俺の剣技が伝わるのに長い時間がかかってしまった。その事を責めるティリア姉さんだが、兄貴が宥めてくれた。
済まない兄貴、ティリア姉さんは愚痴りだすと長いから正直助かる。
「ほう……成る程、確かにティリア姉さんと瓜二つだね? ふふっこれは……妹って呼べない訳だ」
「くっ……フォレアめぇ~女の理想を詰め込みおってからにぃ~」
初めて見る。ティリア姉さんが「姉」と呼ぶアリサと言う女性は、ティリア姉さんと瓜二つの顔立ちで手にした『太刀』を見つめている。
元々『機械仕掛けの神』の世界の住人であり、不幸の星の下に生まれ、不遇の人生を歩んだと言う、元青年はアルティレーネ達に再構築を施され、今やティリア姉さん達の姉だ。俺も彼女を「姉さん」と呼ばないといけないだろうな。
しかし、フォレアルーネが彼女の再構築の際に手を加えたことで、アリサ姉さんは望む望まないをよそに、女性なら誰もが羨むスタイルを得てしまっている。これにはティリア姉さんまで悔しがっている始末だ。
「いやいやお前慕われてるぜ? 確かにコイツのスタイルはフォレアの悪ふざけだろうがな。アイツら本当にお姉ちゃん子だなって思うぜ~はははっ!」
「それは、まぁ~そうなんだけどさぁ~って、RYOもヘラヘラしないでよ!」
「え? ああ、いや済まない。ティリア姉さんの事じゃなくて、アリサ姉さんが手にしている武器を見て思わず頬がにやけてしまったんだよ?」
そんなティリア姉さんを慰める兄貴に対し、ぷーって頬を膨らませるティリア姉さんだけど、俺が神鏡を見て笑っていることに気付き、からかわれてると思ったのか、ぷんぷんと怒って注意してきたじゃないか? あわてて俺は謝り、誤解だと弁明する。
「アリサが持ってる武器っつーのは……この包丁を細長くしたみてぇな剣のこったな? 確か『カタナ』っつったか? おめぇが好き好んで使ってんと同じ感じだな?」
「ああ、そうだよ兄貴。『緋神真刀流』って言うのは、そもそもがこの『刀』を扱うことを前提とした剣技だからね」
「何かアリサ姉さんは『剣聖剣技』に違和感を感じてたみたいよ? この『カタナ』がその正体って訳?」
そう。俺が嬉しくてにやけてしまったのは、『刀』が存在していない『ユーニサリア』に、アリサ姉さんが、伝わる剣聖の剣技の中から見つけ出した小さな違和感。そこから『刀』と言う武器の違いに辿り着いてくれた事に対してなのだ。
「勿論、『剣技』である以上『刀』でなくとも対応できるけどね……嬉しいな。やっぱり『転生者』だけあって気付きも早いようだ」
「ああ、大したもんだぜ。先人達の並々ならぬ研鑽を埋める『イメージ魔法』あってのもんだろうが、できねぇ事をなんかで補うつーのは当たり前のこったしな」
「そこはアリサ姉さんも弁えてるみたいよ? 常に自分の力は借り物だから~って謙虚過ぎるくらいだもの♪」
実に好ましい人物のようだ。いや、だからこそティリア姉さんに選ばれたんだろうけれど……あの魔神とはまるで違うね。強大な力を手にして増長したあの魔神のようになるのではないかと、危惧されていたが……ふふっ、そんな心配は杞憂だろう。
アリサ姉さんは、脈々と受け継がれてきた剣技を修めた先人達に対して、その能力で掠め取ってしまった形で自分が『緋神真刀流』を受け継いだ事に対して、少なからず罪悪感すら感じている善人だ。
「「多くの先人達の努力を踏みにじってる気がして、とてもじゃないけど威張れないよ。寧ろ、ごめんなさいの気持ちでいっぱいなんだよねぇ」って言ってたのよ? も~アリサ姉さんてばいい人すぎない?」
はははっ! まったくだね♪ 俺達三人はそんなティリア姉さんの言葉に揃って嬉しい笑い声をあげる。うん、俺も『ユーニサリア』の魔王問題が解決したら遊びに行こうかな。このアリサ姉さんにも、妹達にも久し振りに会いたい。
「それでRYOよ、魔王共の動向は何か掴めたのかよ?」
「おっと、そうだった。本来それが目的で来たんだった……」
兄貴の言葉に本来の目的を思い出した俺は、今現在の時点でわかる限りの情報を共有したのだった。
アルティレーネ「さぁ、ユニの為のブラを作りますよ!( ≧∀≦)ノ」
レウィリリーネ「おぉ~♪( ̄0 ̄)/」
フォレアルーネ「どんなのがいいかな~?(´-ω-`)」
レウィリリーネ「ん( ´ー`)大人に近付いた記念だし(*´▽`*)」
アルティレーネ「少し大人びたデザインにしましょうか?(^ー^)」
フォレアルーネ「オッケー(*ゝω・*)うちとしては、あのミーにゃんとか、リスちゃんがプリントされたのも可愛いって思うけどね~(o´艸`o)♪」
レウィリリーネ「確かに(_ _)でも、ユニは憧れのアリサお姉さんに少し近付けたって、喜んでいるはず……(  ̄- ̄)」
アルティレーネ「今までみたいに可愛い動物をあしらったデザインでも、ユニは喜んでくれるでしょうけれど……(´・ω・`; )」
フォレアルーネ「ぬふふ♪( *´艸`)それなら~あの新作を作っちゃおうか~?(ノ≧▽≦)ノ」
レウィリリーネ「……どうせなら、新シリーズもいっちゃお(°▽°)」
アルティレーネ「うふふ♪。:+((*´艸`))+:。いいですね!(o^∀^o)」
フォレアルーネ「ゆにゆにのもそうだけど、アリサ姉のも力入れないとね!(⌒‐⌒)」
レウィリリーネ「成長に合わせてサイズの自動調整かけて( ´ー`)」
アルティレーネ「他にも数点、ふふ♪( ゜∀゜)楽しいですね!ヽ(*´∀`)ノ」
フォレアルーネ「うんうん!o(*⌒―⌒*)o『セリアベール』にも『帝国』にも、うちらの作った下着を広めちゃおうね!(*`▽´*)」
アルティレーネ「……のような感じで、ノリノリで作りました!(ノ^∇^)ノ」
アリサ「あはは( ̄▽ ̄;)」
ユニ「ユニはミーナちゃんシリーズも好きだよ~ヽ(*>∇<)ノ」
アリス「女神様達の謹製、ともなればスンゲェお高くなりそうでっすけど(゜ω゜;)」
ティリア「まぁ~庶民には手が届かない値段が付きそうよね(^_^;)」
セレスティーナ「それでも求める人は購入するでしょうね(*´∇`*)」
リリカ「ええ(^ー^)どれも素晴らしい出来映えですもの!(^o^)」
アリサ「自動調整とかオミットして、デザインを売るようにすればそこそこのお値段にならない(´・ω・`)?」
レウィリリーネ「ん( ・-・)そうする……数点見本を渡してあげて、後は頑張って作ってもらうの(_ _)」
アルティレーネ「『セリアベール』の服飾ギルドの代表者の方も喜んでくれましたし、きっと頑張ってくれるでしょう(´・∀・`)」
ユニ「みんなオシャレさんになるね!゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜」




