76話 魔女と自覚する『想い』
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【お母様が雇った冒険者】~『猫兎』~《魔女view》
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引き続き『ルヴィアス魔導帝国』にあるアイギスの生まれ故郷の『ランバード公爵家』。
私達は魔王ヴェーラを退け、帝国全土に降り続く豪雪問題を解決したのだけれど、魔王ヴェーラに命を奪われた人々が、なんとも困った事に輪廻の輪から外されてしまっていると言う、新たな問題が浮上してきたのだ。
輪廻の輪から外された命は生まれ変わる事が出来ずに消滅してしまう。それは創世の三女神……私の可愛い妹達の定めた『生誕』『調和』『終焉』の循環から外されたと言うことであるため、正さねばならないのだ!
「……ジェネア軍が進行してきたって思われるルート上の、近隣の村に少なからずいるね……やっぱり」
《くっ……私が至らぬばかりに……》
《あなた……そうご自分を責めないで下さい……》
ヴェーラの操っていた『疑似体』には何かしら呪いのようなものがかけられていたのか、そもそもヴェーラ自身の権能だったのか? とにかく、そのジェネア軍の手にかかった人達が今も尚その場に留まってしまっている。
「アリサ姉さんなら『引き寄せ』で集める事が出来るわ。何人くらいいるの?」
「少ないよ? 五人くらいしかいないね。びっくり、ヴェーラの興味がこの公爵家に向いてたってのもあって、見逃されたのかな?」
「ん。公爵家を襲撃する前に事を起こしちゃったら無意味だからじゃない?」
「なるほど……アホっぺも「奇襲をかけてきた」って言ってたもんね」
私がティリアの質問に答える途中、疑問に思った事を口にすると、レウィリリーネが答える。それに相槌を打つフォレアルーネ。
そうか、なるほどね……ヴェーラは目的の『ランバード公爵家』を襲撃する前に騒ぎを起こして、ルヴィアスに勘づかれるのを避けたんだろう。うん? じゃあこの五人は一体なんでやられちゃったのかな?
「引き寄せて見ればわかるのではありませんか、アリサお姉さま?」
「そうだね、どのみち放って置けないし。『引き寄せ』っと」
シュンシュンシュンシュンシューン……
《うおお……くそぉ~伝えなければ!》《セレスティーナ様に、公爵閣下に、冒険者ギルドに……》
《ジェネア軍は危険だ……アイギスくん! 公爵家のみんなぁーっ!》
《誰か……誰かお願い! 私達の声を聞いて!》《死んでも死にきれないよ~……誰か、誰か!》
どうやら冒険者のようだけど……『引き寄せ』で引き寄せた五人は、その風貌、身なりから冒険者だろうと言うことが伺える。実際女の子が「冒険者ギルドに」って口にしてるし、間違いないだろう。
《ああっ! 『猫兎』の皆ですわ! 私が雇ったんです!》
彼等を見たアイギスのお母様が悲鳴にも似た叫びをあげて、その口を押さえ泣きそうな表情になる。
「ふぅむ、じゃあちょいと実際に聞いてみましょうかね? おーい、もう大丈夫だよ? 気をしっかりもって前を見てごらんなさい。『猫兎』~!」
《うぅ? はっ!? ここは、ど、どこだ!? みんな無事か!?》
《無事じゃなーい! あーあ、あたし達あのジェネア軍にやられちゃったみたい》
《ほ、ホントだ……身体が透けてる、あぁ~死ぬってのはあっけないもんだね……》
《……でも、ここ……何処よ? 私達ネルヴェスの村にいたのよね?》
《そう言えば……そうですね? って、この超美人のお姉さん誰ですか? うわぁ~えろいからだぁ~どんだけ男の人とえっちしてきたんだろ?》
……ゴンッ!!
《いだぁぁーい!? うぇっ!? ちょっと! どーして殴れんの? てか、声聞こえてるの!?》
「聞こえてるわよ! この兎娘! 私がなんだって!? えろいってならあんたのその格好の方がよっぽどえろいでしょーが!?」
全く失礼な! 声をかけたらこの五人……『人間』の男性と『人猫』の女の子二人に『兎人』の女の子二人のハーレムパーティー。そんな五人は辺りをキョロキョロ見回して、自分の状態を確認して現状を把握していた。
それで、『兎人』の一人、ポイーン♥️ な、お胸を申し訳程度に隠す上半身の装備に、ほとんど下着だろそれ? って言わんばかりの下半身の装備の子が、私を見るなりとんでもないこと言い出した! 頭きたのでゲンコツをその脳天にゴチーンしてやったのだ! ったく! 私はまだ清い乙女ですぅー!!
《ひどーい! 自慢の踊り子装備なのにぃ~!》
《ば、馬鹿やってないでミミ! あぁ、セレスティーナ様!》
《公爵閣下まで!? なんてこと!? あたし達、間に合わなかった……》
むぅ、どうやらこの痴女は踊り子らしい。あのRPGの四作目の姉妹の片割れを思い出すね。って、それはいいや。リーダーぽい、『人間』の男性と『人猫』の子がアイギスのご両親の姿を確認して、悲痛な叫びを挙げた。どうやら現状を把握したようだ。さて、それじゃあ色々と説明しておこうかな。
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【女神の救済】~正された姿に~《聖女view》
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《そんな……もう、十年も経っていたなんて……》
《ごめんなさい……私達にもっと力があれば……》
私達の説明を聞いた冒険者五人は揃って、ガックリと項垂れて落ち込み、アイギスのご両親達に謝罪している。彼等はアイギスのお母様に雇われ、予想されたジェネア軍の進行ルート上の村。ネルヴェスの村に赴き、村人達の避難経路の確保や、ジェネア軍の足止めを請け負っていたのだと言う。
《いいえ! 貴女達はよくやってくれました……女性だけでよくぞ村人達を逃し、私達にジェネア軍の進行を報せてくれました》
「え? あのお母様? 女性だけでって……?」
《アリサ様、彼女達は皆女性です。当時は『猫兎』と言えば、Aランク冒険者として必ず名が挙がる有名なパーティーだったのですよ?》
「ええ、私が冒険者を志したきっかけでもあります……当時は彼女達もよくこの屋敷に遊びに来てくださいまして」
「生意気にアイギス様に色目を使った不届き者もいましたねぇ~?」
《ギクゥ! あ、あらら~だだ、誰でしょーねぇ~そんなことしでかすのはぁ~?》
《あんたでしょミミ!?》
にゃんだと……!? え、じゃあこの『人間』の男性って思ってた人も!? ってか、おい! そこの踊り子兎~当時十歳のアイギスに何してくれてんだぁ~?
私がアイギスのお母様の発言に驚いて聞き返せば、この五人はみんな女の子のパーティーで、お父様が言うにはAランク冒険者。『ランバード公爵家』とは親しくしてたらしく、アイギスも色々彼女達の冒険譚を聞いていて、冒険者を目指すきっかけとなったらしい。
しかし……この踊り子兎だ。コヤツはアイギスに取り入ろうとして、当時からなにかと誘惑していたってリリカさんから今リークがあった! むぅぅ! 要注意人物である!
「はいはい! みんな、話が盛り上がるのはいいけど!」
「ん。続きはあなた達を救済してから沢山話そ?」
「そうですね、うふふ♪ またまた賑やかになりますよ」
「うんうん! みんないい人ばっかだし、うち等も遠慮なく助けてあげられるよ!」
ちょいと~妹達、もっとこの冒険者達の話を聞きたいんだけど……って、思うんだけど。いかんいかん、優先すべきは輪廻の輪から外された彼等の救済だもんね。
「さあ、始めましょう……レウィリ、フォレアいいわね?」
「ん」「オッケー!」
「アリサ姉さんは聖女と魔女の権能で、彼等の『想い』と『祈り』を汲み取ってあげて!」
「うん、わかったよ」「みんなの元気な姿をイメージすればいいんだね!」
アルティレーネの号令に応えるレウィリリーネとフォレアルーネ。そして、ティリアに促され、私と魔女も救済の儀式の為に立ち上がる。
やることは基本的に『聖域』を再生した時と同じらしい。ただ、今回は彼等の存在を在るべき姿……つまり、輪廻の輪に戻した後。『根源の核』から『星幽体』『精神体』『物質体』まで、全部再生することになるんだそうだ。
「紡がれよ。ほぐされし『終焉』。今一度輪廻の輪に還り、在るべき姿を取り戻せ……」
まずはフォレアルーネがその神気を放ち、集まった輪廻の輪から外されたみんなを、正しく終わらせて輪廻の輪に導く『終焉の導き』を発動させると、みんなの前に大きな光の門が現れる。
《おお、なんと温かな光か……》《心が洗われるかのようですわ……》
《おっと、始まったようだね、じゃあアイギスくん少し待っていてくれたまえ》
《すぐに戻るよ。そうしたらまた沢山話をしよう!》
「私も行って参りますアイギス様、女王様、皇帝陛下……」
アイギスのご両親に冒険者の男装麗人ちゃんと、『人猫』の一人にリリカさんがアイギスや、ティターニア、ルヴィアスに声をかけて、一人、また一人と門に入って行く。
ちょっとだけの辛抱だからね。悲観しなくても大丈夫だから。私達を信じてね?
「辿れ、在りし日の姿。在りし日の記憶。正されし定めそのままに……」
全員がフォレアルーネの『終焉の導き』の門に入れば、今度はレウィリリーネの番だ。『辿る調律』。彼等一人一人の記憶を辿り、正しく再生させる大仕事。三人の妹の中でも特にレウィリリーネは大変なので私と魔女も一生懸命に『祈り』と『想い』の権能で、彼等の記憶がごちゃ混ぜにならないようにサポートする。
うん。アイギスとティターニア、それにルヴィアスも地に膝をつけ、揃って祈りを捧げてくれている。よく見れば映像通信越しに、『聖域』のみんなも私達を応援してくれているね。
「うん……いいわ、相変わらず丁寧ねレウィリ。アリサ姉さんもサポートありがとう。ここまでの工程に異常なし、さぁアルティお願いね!」
「お任せ下さいティリア姉さま!」
妹達のお仕事をじっくり監視して、ミスやトラブルがないか見守っていたティリアからも、問題無しのゴーサインが出た。
「甦れ甦れ。正しく紡がれ直された『終焉』と『調和』の祝福受けし者達。『生誕』のアルティレーネが告げる! 『失われし時の返還』」
パアァァー……
アルティレーネがその権能を告げれば、フォレアルーネの『終焉の導き』の門が淡い光の粒子となり、『ランバード公爵家』のお屋敷跡の周囲に降り注ぐ。それらはゆっくりと、収束していき、それぞれが人の形を形成していく!
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【親子再会】~甦る皆~《アイギスview》
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「ガルディ! セレス!!」
「おおお……私は、私達はっ! ああ、陛下……セレス……アイギス、皆……」
「ああ……まさか、まさかこんな奇跡が起こるなんて! あなた、アイギス! 陛下、皆!」
なんと……なんと言う奇跡! 今私の目の前には懐かしく、そして、愛しく、親しい……十年前のあの日のお姿のままの両親。使用人の皆。『猫兎』の五人。そして……
「アイギス様……リリカは、只今戻りましてございます!」
十年前に命懸けで私を救ってくれたリリカの姿があった!
「うおおぉ! よかった! よくぞ還って来てくれた!!」
「リリィ! ああ、無事に戻れて私は、私はっ! うわぁ~ん! 嬉しいですわぁーっ!」
アリサ様と女神様達の奇跡の行使によって、甦った両親に駆け寄り、涙を流すルヴィアス様。同じく、大切な同朋のリリカを抱きしめ号泣するティターニア様だ。私も涙で視界が霞む。
「おやおや、皇帝陛下。お気持ちはわかりますが、まずはアイギスくんとの感動の再会をさせてあげましょう?」
「えっと、妖精女王様もいいですかね?」
「あ、ああ……そうだね! 済まない」「ええ、勿論ですわぁ~ぐすぐす」
『猫兎』のリーダーである『人間』の女性、レジーナさんがルヴィアス様に、『猫人』の女性、ネネさんがティターニア様の側により、両親とリリカを私に向き合わせるように促してくれた。
「「「…………」」」
私。父上。母上。こうしてお会いすることは十年振りのこと……何から話せばいいのか……なんとお声を掛ければよいのか……ああ、うまく言葉が紡げない……そんな私達三人を皆が温かく見守ってくれている……すぐ側にリリカと魔女と聖女のアリサ様が……少し離れて女神様達と、ルヴィアス様にティターニア様。そして『猫兎』の五人に使用人の皆が……
「ふふ、アイギス……お家に帰って来たらなんて言ってたの?」
「あはは♪ 随分長いお出かけだったねアイギス!」
私の左右に寄り添うアリサ様が優しく微笑み、肩を抱いて下さる。ああ、そうだ……私は今、帰って来たのだ……皆に沢山の心配をかけてしまったけれど……
「父上! 母上! アイギスただいま帰りました……ご心配をお掛けしましたが……私は……っ」
「ああ、ああ! お帰りアイギス!」「お帰りなさい! アイギス!」
バッ! っと、父上と母上に抱きしめられる……感無量とはよく言ったものだ……私はその温かなぬくもりに、確かに触れることのできる大いなる愛に……恥も外聞も忘れて涙した。
「ぐすっ……本当によかった……感謝致します『聖域の魔女』アリサ様……ご尽力下さった女王様、皇帝陛下……そして女神様……」
「ううん……私達がアイギスに会えたのはリリカさんが命を張って守ってくれたからだよ……だからお礼を言うのは私の方かな」
「そうだね、本当にありがとうリリカ。君には感謝してもしたりない」
「まったく! 私の妖精国から出て行ったきり一つも連絡を寄越さないで……便りのないのは元気な証と思っておりましたのに!」
一方でリリカはアリサ様をはじめ、ルヴィアス様とティターニア様、女神様達に感謝をして頭を下げている。アリサ様とルヴィアス様は私を守ってくれたリリカに逆に感謝しているが、ティターニア様は連絡をしないでいたことにご立腹の様子を見せる、しかしお顔が笑っているのでそれほどお怒りと言うわけではないのだろう。
「積もる話もあろうが、アイギスよ。今は他の皆にもその立派に成長した姿を見せてやってくれ。なぁに、私達にはこれから沢山の時間があるのだ」
「ええ、そうですねあなた。さぁ、アイギス。私達の自慢の息子の成長した姿を見せてあげて」
「はい! リリカ、皆! 心配をかけてしまったな!? ご覧の通り無事に帰ってこれた! 待っていてくれて、本当にありがとう!」
ワアアァァァーッッ!!! 坊っちゃんお帰りなさい!! よくぞご無事でぇぇーっ!!!
父上と母上に促され、私はリリカを始めとした長年古くから『ランバード公爵家』に仕え、支えてくれた使用人の皆の元に駆け寄り、声を掛けて回った。ああ、皆も十年前のあの日の姿のまま変わっていない! 私の成長した姿を見て涙ぐむ者もいるが、私の目から見ても、自分だけが成長したかのような錯覚を受けてしまうな。
「よかった……よかったね、アイギスくん……ボクも嬉しくて涙が止まらないよ!」
「うん。うん! あたし達の想いも報われたね!」
「薄れていく意識の中でさ、ジェネア兵達が真っ直ぐに公爵家に歩いて行く姿を見たとき……本当に無念の想いでいっぱいだったのよ……」
「うんうん! でも、本当に立派になっちゃいましたねぇ~アイギスくん!」
「ふふふ、十年か……いまや君は二十歳か。私達よりもお兄さんになってしまったね?」
『猫兎』の皆さんにもしっかりと挨拶だ。彼女達も私達の再会に涙し、皆で喜んでくれた。十年前は私が彼女達を見上げて、冒険譚を聞かせてほしいと、せがんでいたものだが……
「そういや、あんた達って何歳なの?」
「アイギスさんのお母さんなんて、『人間』にしては随分お若いようですけれど……」
「「「うわあっ!!? め、女神様!?」」」
「「こ、これはお救い頂いた礼もせずに大変な失礼を!!」」
ヒョイっとそのお顔を私達の間に覗かせるティリア様とアルティレーネ様に『猫兎』の面々は驚き飛び上がったり、その場でひざまづいたりと慌ただしく反応した。
「ん。そんなに畏まらなくていい……」
「そーそー♪ ヴェーラのクソババアが全部悪い! うち等は君達を正しくあるべき姿に戻したってだけだよん?」
「うん、でも……」
続けてレウィリリーネ様とフォレアルーネ様もお側にいらっしゃった。「畏まらなくてもよい」と言うレウィリリーネ様だが、『猫兎』達は一介の冒険者に過ぎない。正に天上人であらせられる女神様達を前にしてますます固くなってしまっていた。
そんな彼女達にもいつも通りの対応のフォレアルーネ様が仰られたお言葉に、聖女のアリサ様が廃墟となった我が生家を見る。
「全部を元通りって訳にはいかないのよね……ルヴィアス。これから『ランバード公爵領』はどうするの?」
「ああ、それなんだけど……正直十年経ってるからなぁ~下手に『元に戻ったからまた公務お願い』なんて言ったら帝国中が混乱しそうなんだよね」
魔女のアリサ様が寂しげに私達の屋敷跡を見ながら、ルヴィアス様に問うた。それにはルヴィアス様も頭を抱えお悩みの様子だ。確かに十年の間、『ランバード公爵家』が無くとも帝国は回っていたのだし、そこに復活したからと言って加わっては、多くの問題を生んでしまう事になりそうだ……それに、そんなことになれば、嫡男である私も冒険者を続けられなくなってしまうだろう、そして……なによりも……愛しのアリサ様と離ればなれとなってしまう。
そんなのは嫌だ! 私はアリサ様のお側にいたい!
「ルヴィアス様。叶うならば今まで通りにお願い致します。私は冒険者『白銀』のリーダーとして仲間達と共に……そして一個人として、一人の男として、あ、アリサ様のお側にいたいのです!」
「「あ、アイギス!」」
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【流石に自覚した】~好感度上げるぞ!~《魔女view》
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「……そうですな、陛下。何卒、我が息子アイギスの頼みを聞き入れて下さいませぬか?」
「私達も今更政治に関わろうとは思いませんわ。領民達も新しい生活を送っているのでしょうし……」
あぁ、アイギスのご両親がルヴィアスになんか言ってる、言ってるけど……わ、私はそれどころじゃない! アイギスが……アイギスが……私の側にいたいって! うわぁぁーっ!! 嬉しい! 嬉しいよぉっ!! 正直、少し不安だった……ご両親にリリカさん、使用人のみんなと一緒にこの『ランバード公爵家』に残りますって言うんじゃないかって……
(でも、アイギスは私の側にいることを望んでくれた!)
(どうしようどうしよう!? あぁーんもぅ! これはもうさ、認めるしかないよね!?)
私は傍目には少し顔を赤らめているものの、平静ですよ~って風を一生懸命に装ってるんだけど。内心はもう心臓ドッキドキ! 私を選んでくれたアイギスに対して、物凄い勢いで早鐘を打ち出す! 聞こえてないよね!? 大丈夫よね!?
あぁ、確信した……私は、私はもう……どうしようもないくらいにアイギスの事が好きなんだ。今までなんだかんだ言って誤魔化して来たけど、もう無理! 認めるしかないよ!
「そうか、わかった……ガルディ達には散々苦労かけっぱなしだったからな、今後は家族で仲良く暮らしてくれよ! 勿論使用人の皆もだ!」
「とか言って~あんた彼等の住むとこ暮らすとこはどーするつもりなのよアホぽん?」
落ち着け~落ち着くんだ私~! とにかく気持ちを自覚した以上、これでもかってくらいにアイギスの好感度を稼ぎまくって、告白~は、ちょっと怖いな……前世の記憶が引っ掛かって、どうにも踏み出せないよ……アイギスからしてくれないかな?
(じゃあじゃあ、アイギスに告白してもらえるくらいに好感度稼ごうよ!)
(そ、そうか! いいとこいっぱい見せてアピールすればいいんだね! よーしやろう! アイギスに告ってもらうぞ作戦だ♪)
そしてそして! 夢に見た初の……こっ! 恋人同士になるんだ! きゃーっ♥️
頑張ってアイギスの彼女(仮)から(仮)が取れるように突っ走ろう! で、早速好感度を稼げそうな話題がルヴィアスとティリアの間でされているじゃない! 行動よ! 即行動!
「あ、えっと……ど、どうするかなぁ~あっはっは!!」
「お父様もお母様も、リリカさん達使用人のみんなも『聖域』で暮らしませんか? あ、そうそう、貴女達『猫兎』もどう?」
うっひっひ♪ アイギスをゲットするにはそのご両親や、親しい人達からの印象も大事だよね! それに子供の頃のアイギスの話とかすっごい聞きたいし! 是非とも彼等とは我が『聖域』で一緒に暮らしたい! お願いしまっす!
「まぁ! それはとても良いお考えですわぁ~アリサ様! リリィ! そうしましょう! アイギスさんのご両親も使用人の皆さんも! 冒険者の方達も! そうすればみんなまた一緒ですわぁーっ!」
「ん♪ 歓迎する!」
「いいじゃんいいじゃーん! わはーっ! めっちゃ人増えて凄い賑やかになるよ!」
私がここぞとばかりの提案に、ティターニアとレウィリリーネ、フォレアルーネも諸手を挙げて賛成してくれる! なんて有り難い援護射撃か!
「有り難う御座いますアリサ様、ティターニア様、レウィリリーネ様、フォレアルーネ様! 父上、母上! リリカに皆も、『聖域』には私の仲間、『白銀』と『黒狼』と言う冒険者パーティー達も共にいるのです!」
「おお、そうか! それは是非とも会って礼をせねばならんな!」
「うふふ。貴方がそんなに嬉しそうに話してくれるなら、反対なんてしませんよ」
「私はアイギス様とご主人様達に従います。ふふ、奥様の仰る通りとても良い笑顔……さぞや気心の知れたお仲間なのですね?」
よっしよし! アイギスがとっても嬉しそうに私達にお礼をした後、ご両親達にニコニコと説明すれば、みんなも二つ返事で了解してくれたよ。フォレアルーネが言ったようにホント賑やかになりそうだね!
「へぇ~アイギスくん達の仲間の冒険者達か! とても興味があるね! 皆はどうだい?」
「ええ、行って見たいわね! 『聖域』って『魔の大地』って呼ばれていた世界の中心にある大きな島でしょう?」
「私達が十年前に行って見たいって、話してた所じゃん! 行く行く!」
「うんうん! どのみちこのままだと色々困った事になりそうだし!」
「あはは……あたし達って十年前に死んだ事になってるだろうしねぇ~」
あ~そうか、考えてみれば彼等って世間では十年前に亡くなったって認識されてるのか……そりゃ行き場もないわけだ。じゃあ尚更『聖域』に来てもらおうってのはありなんだね。
「決まりですね! 勿論私も賛成しますし歓迎しますよ。宜しくお願いしますね皆さん」
アルティレーネも嬉しそうに女神ックスマイルを全開でニコニコーってしてる。それを見たみんなも素直に「はーい!」って元気よく返事する。うんうん♪ よろしくねみんな~!
「んじゃ、この『ランバード公爵領』は『聖地』認定って事にしましょうか。いいわねルヴィアス?」
「ああ、それならさ! 問題の解決と同時にその原因が、この『聖地』があのクソババアに穢されたからだって伝えればいいかな? それなら『聖地』だから立ち入るなって理由も通りやすくね?」
「相変わらずあんたは……小賢しいって言うか……まぁ、いいわ。とにかくこの『龍脈の源泉』には私の神気以上の力じゃないと立ち入れない結界を張っておくわ」
そして、ティリアとルヴィアスが今後誰もいなくなる『ランバード公爵領』について話し合いを始めた。そもそもこの地は『ユーニサリア』の『龍脈の源泉』の一つ。誰もいないのを良いことに、心無い悪党達に踏み入られては困るのだ。
そのために『聖地』として世間に周知させ、更に誰も入れないようにティリアが直々に結界を張ると言う。
「うえぇ~? それってティリア姉とアリサ姉にしか入れないってことじゃーん?」
「そーよ? あのね、本来なら『龍脈の源泉』を見つけ出して保護するのも創造神の役目なんだからね? まったく、あんた達はいつまで経っても半人前なんだから……もっと精進なさい!」
フォレアルーネがそのあまりもシンプルな結界にびっくりして声を挙げてしまったのが、まぁ……運の尽きというか……ティリアのお小言が始まってしまいましたよ。「あうぅ~ごめんなさい~」って情けない声を出して主神様のお説教を受ける妹達だ。
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【思い出のお屋敷】~いいとこ見せます!~《聖女view》
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「……うーん、でもさ生まれ故郷に帰れないのって悲しいよね? なにか私に出来ることないかな……あっ!!」
ティリア以上の神気を持つのは、彼女の加護で『無限魔力』を授かっている私だけだ。それはおいそれとこの地に戻れないって事になる。今まで過ごしてきた故郷、そこに帰れないなんて寂しいよ。そう思い、なにかしてあげたいって辺りを見回す私の目に、焼き払われて無惨に佇むお屋敷跡が映った。
「聖女のアリサ様、焼き払われた屋敷がどうかされたのですかな? いや、しかし『遍在存在』とは凄いものですな!」
「警備兵と『猫兎』が報せてくれたおかげで、使用人達も屋敷の炎上に巻き込まれる事はなかったのですが……ジェネア軍には敵わず……」
私がお屋敷跡を見て声をあげると、アイギスのお父様とお母様が側に寄って来てお話してくれる。うん。きっとこのお屋敷にはアイギス達家族の、大切な思い出が沢山つまっていることだろう!
「お父様、お母様……私に出来ることがありました! このお屋敷を私に預からせて下さい! 綺麗に元通りの姿に戻して、『聖域』に持って行きましょう!」
「「「ええぇーっ!!? そんなことが可能なんですか!!?」」」
そう! この思い出がつまったお屋敷だ! このお屋敷を復元して、そっくりそのまま『聖域』に移動させる! なんて素敵! 我ながらグッドなアイデアだと思う!
「ん♪ いいと思う!」
「ティリアどう? 建築班のリーダーとしてのご意見は?」
私の提案に使用人さん達がびっくらこいて目を丸くするけど、勿論可能ですとも! 私が最初に目を覚ました、あの『聖域』のお屋敷を復元したときのように。この『ランバード公爵邸宅』も復元した後に、『中継基地』と同じ要領で、コンパクトにしてやれば簡単に持ち運びが出来るのだ!
「そうね……どうせだしお庭も再現してあげましょう? アホぽんが散々迷惑かけちゃったお詫び~ってわけでもないけどさ。ねぇ?」
「それについてはマジでごめん……てか、アリサ様ってそんなことも出来んの?」
お庭も再現か! いいねそれ♪ あ、なんか使用人さんの一人がめっちゃ喜んでる、もしかしたら庭師さんかもしれないね。ティリアはルヴィアスをおちょくりながらも、結構ノリノリな様子だしオッケーだろう。なんかルヴィアスの私の呼び方が変わってるけど、そこは別にいいや。
「出来るよ~ほら、こんな風にね?」
パアアァァーッ!
私はお試しとばかりに、崩れたお屋敷の門に手を触れて元の綺麗な姿に直って~ってイメージを固め、魔力を通して直して見せた。すると、それを見ていたみんなからわぁーって歓声が挙がる。
「うわぁ~凄いねこれは! アイギスくん、君はとんでもないお方と懇意にしているのだね!」
「ええ! 凄いでしょうレジーナさん! それだけではないのですよ!? アリサ様はそれはもう……」
感嘆の声をあげてほへぇーって直った門を見上げる『猫兎』のリーダーの男装麗人、レジーナさんに私の事を嬉々として話して聞かせ始めるアイギス。そんなに褒めないで~照れるよ~!
「本当に凄いわね! 私ますます『聖域』に行って見たくなったわ!」
「ふふ、ありがとうネネさん。如何でしょうお父様、お母様。それに使用人のみなさん? お屋敷も取り残されてしまっては可哀想じゃありませんか?」
私の魔法を見て『猫兎』の『人猫』の一人のネネさんが、『聖域』にますます興味を抱いたようだ。その事にちょっと嬉しくなった私は軽くお礼して、『ランバード公爵家』のみんなに呼び掛ける。
「なんと有り難い事でしょうか! 反対なんてする理由がありませぬ、是非ともお願い致しますアリサ様!」
「ええ、ええ! アリサ様の深いお慈悲……素晴らしい慈しみのお心! 感謝の念にたえません……ありがとう、本当にありがとうございます!」
「またこのお屋敷でアイギス様のお世話をさせて頂けるのですね! ああ、夢のようです!」
ありがとう! ありがとうございます! ありがとうございます!!
わぁ♪ よかった! みんなも喜んでくれてる! アイギスのお父様とお母様、リリカさんも涙ぐんでくれてるし! よーし! アイギスも嬉しそうに見てるからね、いっちょいいとこ見せてやろうじゃないの!
「あなたもまたみんなと一緒に過ごしたいよね? 優しい住人達の明るい笑顔を見守り続けてきた、あなたの大切な記憶、私に教えてくれる? また彼等の笑顔を見るために……」
直った門に両手をあてて、お屋敷に問い掛ける……この子だってこのまま朽ちたまま、ひとりぼっちでこの場に佇んで忘れ去られるなんて嫌だろう……長年『ランバード公爵家』のみんなを見守ってきた、その尊い記憶をどうか私に見せて……あなたの『想い』私が拾うから。
フワァー……
「ん……ありがとう……そう、素敵だね。みんな、みんな笑顔だね……任せて?」
見えた。ううん……お屋敷が私の呼び掛けに応えて、その大切な思い出達を見せてくれた。アイギスのお父様の子供の頃とか、お母様が嫁いで来て盛大なパーティーが開催された時の様子とか……一生懸命、でも楽しそうに働く使用人のみんなの姿とか……アイギスが産まれて、喜ぶみんなにルヴィアスとリリカさんの姿。ああ、バロードくん達もお祝いに駆け付けて来たんだね……『猫兎』達もいる……
「うん……うん。そうだね、こんなに沢山の『想い』があるんだ……大丈夫。さぁ、取り戻そう!」
お屋敷が見せてくれた記憶を頼りに、私はゆっくりと魔力を放つ。アイギスのお父様達の大切な思い出を辿り、在りし日の姿を取り戻させるために……
アリサ「わしょーい♪└( ゜∀゜)┘やったるでぇ~ヽ(*≧ω≦)ノ」
ティリア「アリサ姉さん張り切っているわねo(*⌒―⌒*)o」
アルティレーネ「お屋敷を復活させる事が嬉しいのでしょうか(・_・?)」
フォレアルーネ「いや、あれは……アリサ姉ってば、うしし(*´艸`*)」
レウィリリーネ「ほら、アイギスしっかり見届けて(。・`з・)ノ」
アイギス「は、はい( ; ゜Д゜)いつ見ても鮮やかです、流石はアリサ様!(^ー^)」
ルヴィアス「いやいやマジか?((゜□゜;))みるまに屋敷が直って行くぞ!(゜A゜;)」
使用人A「おぉ~俺達の部屋も復活だ!(ノ^∇^)ノ」
執事「懐かしゅうございます(_ _)」
使用人B「まったくで!( ´ー`)」
使用人C「よくアイギス坊っちゃんが遊びに来てくださっておいででした( ゜ー゜)」
メイドA「その度に私共は探しに行くことになってましたね(ーー;)」
アイギス「あ、いや……済まない(^_^;)当時は私も子供だったからな(゜ω゜;)」
リリカ「うふふ( *´艸`)あそこはアイギス様のお部屋ですね(*´∇`*)よくおねしょを私から隠そうと必死だったアイギス様の姿が思い出されます(u_u*)」
ガルディ「ふはは!(´▽`)あったあった!(^ー^)」
セレスティーナ「リリカの報告を聞くたびに我が子の成長が感じられて嬉しかったですねo(*⌒―⌒*)o」
アイギス「や、やめて下さい( ; ゜Д゜)は、恥ずかしすぎる!(>_<)」
庭師「おお~ヽ( ゜∀゜)ノ庭も復活だ!(´▽`)ほら、ご覧くださいアイギス坊っちゃん、坊っちゃんが降りられなくなって泣いていた木ですぞ(^-^)」
メイドB「あはは♪( ´∀`)その時助けたらわんわん泣いて私に抱きついてましたね~(。-∀-)♪」
アイギス「あ、あの時は父上と母上に構ってもらいたくて……やめろぉ~(つд⊂)」
警備兵「ハハハ♪(´▽`)ありましたなぁそんなことも、この門を守って十数年、色々ありました(´・∀・`)」
レジーナ「懐かしいね(゜ー゜*)警備兵さんや庭師さん、メイドさん達に使用人の皆とも顔馴染みになるくらい通った屋敷だよ(゜ー゜)(。_。)」
ニャモ「冒険者としてあちこち旅するのも楽しかったけれど、この『ランバード家』のお抱えも居心地よかったわよね(^ー^)」
ネネ「皆さんが迷惑かけないか、いつもハラハラさせられましたけどぉ~?(¬_¬)」
ミミ「ちょっとネネちゃん!Σ(´д`*)そこであたしを見ないで!(*`Д')」
モモ「あはは~(´∀`;)アイギスくんの訓練ってことで、いっぱいお庭にドッカンドッカンしちゃってごめんなさい……人( ̄ω ̄;)ももちー反省してます(;´д`)」
ランバード家の皆「「気にせず気にせず!(^ー^)それもいい思い出です!(ノ≧▽≦)ノ」」
アリサ「ふふ(*^-^)みんないい人達だね♪ヽ(*>∇<)ノ」