75話 魔女の逆鱗
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【逆鱗に触れた】~愚かな魔王~《ルヴィアスview》
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「……『存在固定』」
魔女さんが口を開いた。今までその瞳を閉じて迫るジェネア兵士達を最小限の動きで撃退し、静観していたのだけど……え? あかうんと……なんだって?
俺が一体なんの事だと、疑問に思いつつも何度も復活しては襲い掛かって来るジェネア軍を魔法で蹴散らしたその時、変化に気付いた。
「ギィッ!!? なんだ!? 小娘ぇっ! 貴様何をしたあぁっ!!?」
「はあはあっ! ジェネア兵士達が……」
「ふぅふぅ~消えたまま……ですわね……漸く打ち止めですの?」
そう、今まで何度も靄になって消えたと思ったら、また直ぐに現れて来たジェネア兵士達が消えたままなのだ! ヴェーラの驚愕した表情と声から察するに、魔女さんが何かしたんだろう。アイギスくんもティターニア陛下も、息を絶え絶えにしつつもその現状を確認したみたいだ。
「操作もログアウトも許可しないわ」
「ギィィッ!? 馬鹿なっ! う、動けぬっ!?」
それだけじゃない! ヴェーラのバンシーさえもピタリと動きを止めたのだ! 突然の不可解な事態にその醜い顔を更に歪め、冷や汗をかくヴェーラのバンシー。俺も何が起きてるのかって、魔女さんに訊きたいんだけど……なんか、魔女さんがすげぇ神気纏ってて、無表情なのよ!? 怖ぇっ! さっきから鳥肌ヤベェんだけど! 魔女さん、実はすげぇ静かにブチギレてる!? ヴェーラは魔女さんの逆鱗に触れたんだ!
ガシィッ!!
「ギィヒッ!!?」
「ねぇ? 自分が作ったキャラクターを操作して、この世界を壊して回ったのは、楽しかった?」
静かにヴェーラのバンシーに近寄って、その肩を掴んだ魔女さんが囁いた。「自分が作ったキャラクター」っていうのはそのバンシーとジェネア軍達のことか?
「そりゃあ楽しかったわよね? ゲーム感覚で遊べるんだもの……『強制憑依解除』」
「ぐっがぁぁっ!!? や、やめろやめろぉっ!!」
ズッ……ズズズーッズバァァーンッ!!!
魔女さんがその肩から手を、何かを引っ張るようにして離すと、なんと『スノウリリィ』のリリカがヴェーラのバンシーから引き摺り出てきたではないか!
「リリカ!!」「スノウリリィ! 私達の同朋!」
「アイギス様! 女王様!!」
既に『物質体』は失われてしまったものの、『精神体』は無事だったようだ。うっすらと透けてしまってはいるけれど、元々妖精の彼女なら、アイギスくん達にもちゃんと視認することが可能だからね。
「ああ、なんてことに……可哀想なリリィ。でも、大丈夫ですわ! 必ずアリサ様がお救いくださいますの! もう少しの辛抱ですわよ!」
「リリカ……随分心配をかけてしまったな……君のおかげで、私はっ……帰ってこれたのだ!」
「ああぁ……ありがとうございます女王様……そして、ご立派になられましたねアイギス様……」
おっと、待ちたまえ君達。気持ちはわかるし、感動の再会に水を差して申し訳ないとも思うがね、今は魔女さんとヴェーラに注目すべきだぞ? 俺が彼等に近付き、警戒を弛めないよう注意を促せば三人共に頷き、魔女さんに目を向ける。
「例えその『ゲーム』で貴女のキャラクターに殺されるのが、この世界に一生懸命に生きる本当の人達だとしても、心も顔も、そのバンシーみたいに醜く歪んだ貴女には、とても楽しかったわよねぇ……そうでしょう?」
……魔女さんはヴェーラのバンシーの背後に立ちながら、バンシーを見ていない。目を向けるのは遥かに上空? いや、まさか! 魔女さんにはヴェーラの本体が見えているのか!?
「おのれっ! おのれぇーっ!! 小娘が知った風な口をきくんじゃないよ!!」
「知らないわよあんたのことなんてね……ああ、でもね、それももうおしまい……ねぇ? 知られていない概念なら私達が自分に辿り着く事はないって思った?」
「きっ、き……貴様ぁ……貴様は一体……」
淡々と無感情に言葉を紡いでいく魔女さん……正直理解できないけど、なんらかの方法でヴェーラの『人形』共のカラクリを打ち破ったんだろうって事は察することができる。だけど、その事を勝ち誇る訳でもなく、してやったりと得意気になる訳でもない。
彼女の中にあるのはただただ、怒り。静謐で、しかし世界を焼き尽くすような激しい怒りを秘めて、恐らくヴェーラの本体に話し掛けている。
(やっべぇよ……ティリアお前……とんでもない人を選びやがったな……)
おっし決めた! 俺は絶対魔女さんに逆らわない! 何があっても絶対敵対しない! 『ルヴィアス魔導帝国』は今この時点で『聖域の魔女』の傘下に加入しまっす! もう何でも命令してチョーダイ! 余程変なのじゃなければ帝国の総力を挙げて遂行させてもらいますから!
「ギィィィーッ!!! 小娘がぁぁっ! 何なんだお前はぁぁっ!?」
「うるさいわ……」
―黙りなさい―
「ーっ!!?」
マジかよ……魔王にすら届かせる『言霊』なんてティリアにしか使えないだろ普通!? ヴェーラのバンシーは……いや、これは本体にまで魔女さんの『言霊』が効いちゃってるか? 動くことも、喋る事もできなくなり、棒立ちだ。
「何が起きてるのか知りたいのならそこで待ってなさいよ。ティリア達があんたを消すために向かっているからね」
「ーっ!!?」
バンシーから伝わる驚愕と怯え。あぁ……馬鹿なヴェーラ……お前もう終わりじゃん。ま、同情する気にもなれんけどさ。コイツのせいでどんだけ多くの人が犠牲になったことか……公爵一家だけじゃない、その領土の領民達含めると……ああ、クソッ! また怒りが込み上げてくる!
「……それじゃあ、さようなら。永遠に、ね」
「ーっ!!」
シュゥゥン……バアァァーンッッ!!!
魔女さんがバンシーに手を翳したと思ったら、バンシーの内部に一気に神気が収束して爆ぜた! ヴェーラのバンシーは塵も残すことなく消滅……って、嘘だろ? 今のってティリアの『存在消滅』じゃねぇのか!?
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【旦那様】~『神界』にて~《闘神view》
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「おーおぉ? マジにいやがった」
「ーっ!!?」
ティリアから報告を受けた俺は、あいつの言ったポイントに探りをいれに来たんだが……ははっ! マジにいやがったぜ。ティリアが義姉にしたっつう『機械仕掛けの神』の世界からアルティレーネ達の『ユーニサリア』に転生した……アリサの『言霊』を受けて、更に『存在固定』までされて身動きも、口もきけずに固まってるクソババアがよぉ~?
「おい、ティリア。居たぜ? アリサの言った通りだな!」
「ありがとうTOSHI。んじゃ、早速転移させましょうかね?」
俺はヴェーラの姿を確認するとティリアとの通信回線を開いて報告をする。ふん、身柄を拘束しねぇで済むのは楽でいいもんだぜ。
あ? ああ、悪い悪い。状況が飲み込めねぇよな?
先ず、ここは『神界』だ。ティリアを主神に置いて、俺達神が住んでる。……まぁ別世界って訳だな。んで、俺は『闘神』のTOSHI。ティリアの旦那よ。
え? ティリアって既婚者だったのかって? ああ、そうだぜ? アイツと俺は元々神でもなんでもなくてな……俺は普通の……ああ、いや、普通じゃねぇかも知れねぇけど、『人間』でよ。ティリアは『天使』っていう種族だったんだわ。
話を戻すぜ? この話はすげぇ長くなっちまうからな。機会があればそん時にな♪
「さて、散々好き放題やってくれたな? あぁ? このクソババア……」
「ーっ! ーっ!!?」
コイツ喋れねぇくせしてうるせぇな!? まぁいい、さっさと嫁んとこに連れてって消してもらうとするか。
ドガッ!! シュゥゥン……
こんなクソババアとグダグダなんざしてられねぇって思った俺は、さっさと終わらせるために、ティリアの用意した転移陣にババアを蹴っ飛ばして転移させた。後はティリアが裁くだろうぜ。俺はヴェーラのアジトの家捜しをしねぇといけねぇからな。
「ったくよぉ~! やっぱあん時魔神の野郎は殺しとくべきだったぜ……ストーカーみてぇに俺の嫁を狙いやがって! 挙げ句に義妹共の世界まで滅茶苦茶にしやがるし……」
ガサガサ……ゴソゴソ……と、俺はヴェーラのアジトを片っ端からひっくり返し、今までにあのクソババアがやらかした、若しくは、やらかそうとしてた数々の資料だのなんだのを回収していく。おぉい、『機械仕掛けの神』の世界の資料まであんじゃねぇかよ?
「んでもって、ティリアが召喚したあのクソガキ……アーグラスとか言う野郎は人の嫁を口説こうとしやがるし……ったく!! モテる女の旦那はつれぇ~わぁ~!」
まぁ、でも……あの野郎はなんだかんだ言って魔神を止めやがったからなぁ~ティリアには俺がいるって知ったら潔く身を引きやがったし……「ティリアの笑顔が見たいから」とかキザなセリフ吐いて魔神と相討ちやがった……あぁ、実に漢気に溢れた熱いヤツだったな!
「俺とティリアの養子としてこの『神界』に迎え入れてやってもよかったんじゃねぇか?」
「なに? アーグラスの話? そうしたいのはやまやまだったけどね……そうすると彼の仲間達と離れ離れになっちゃうじゃない? アーグラスだけ特別扱いなんてできないし、かといって全員を迎え入れる訳にもいかなかったでしょ?」
一人でブツブツ文句垂れながらババアのアジトの家捜しなんざ、端から見りゃただの危ねぇヤツでしかねぇからティリアに話を振って見たらそんな答えが帰って来た。確かに、もっともな意見だぜ。魔神討伐に貢献したのはアーグラスだけじゃねぇもんなぁ~。
「……なに? TOSHIってば子供ほしいの?」
「あ? ああ……そうだなぁ~なんかお前と一緒にわたわたって駆けて、いつの間にかお互いに神だ~なんだ~なんぞになっちまってよ。慌ただしいのは退屈しねぇが、そろそろ落ち着きてぇなぁ~っては思うわな。それこそ子供作って育ててよ……のんびりしてぇもんだ」
嫁に直球で聞かれると流石にテレちまうな、でもいつかはマジにのんびりしてぇ~とにかく、今の神界は魔神騒動の後処理と『ユーニサリア』で魔王になった馬鹿共のせいでてんてこ舞いな状態だ。しかもフィーナとセルフィの二人もティリアに呼ばれて『ユーニサリア』に行っちまったし……
「それについてはごめんってばぁ~!」
「ああ……大丈夫だ。悪い悪い、つい愚痴っちまったな? どれ、俺も早ぇとここっちの問題片付けておめぇの姉貴って奴のツラ拝みに行くかね」
「……手出しちゃ駄目よ~? アリサ姉さんはあっちでアイギスとラブラブなんだから?」
ははっ! わかってるつーの!
「でも子供かぁ~私はユニみたいな可愛い子がほしいなぁ~」
「おー。確か『ユーニサリア』の『世界樹』の『核』が『聖霊』になったんだっけか?」
俺もティリアから『ユーニサリア』の状況をチラホラとは聞いちゃいるんで、大まかな事態は把握してるんだが、まだこの目で確認はしてねぇんだよな。話を聞くに、そのユニって娘は素直でいい子ちゃんらしいな?
「俺はやっぱ男の子がいいな! 一緒に遊んで反抗期にゃケンカしてよぉ~将来は一緒に酒飲むんだ!」
「もう! それなら別に女の子でもいいじゃないの……でも、やっぱり理想は一姫二太郎よね♪ 『生誕』のアルティでも拝んどこうか?」
うん、俺はやっぱ子供ならわんぱくでやんちゃな小僧がいいぜ! わかってねぇなティリアはよぉ~同じ男同士で色んな遊びをしてぇんだって!
一姫二太郎ってのは、「女の子一人に男の子二人を授かる」って勘違いされがちだが、本当の意味は「一番目に育てやすい女の子を、二番目に男の子を」っていう、子を授かる理想的な順番の事だ。それを妹のアルティレーネに頼むのか?
「ワハハ! そいつはいいな! アイツの困った顔が浮かぶようだぜ! まぁ、そんくらいしねぇと俺達が子を授かる。なんて難しいからな」
「そうね、変に位上がっちゃったせいで子供が出来にくくなっちゃったもんね……よし、遍在してる私からアルティにお願いしておくわ! 後は、その……頑張ろうね……♥️」
『不滅』の俺達……神は、定命の奴等から羨ましいって言われる事も多いんだがよ……こういう普通の幸せを掴むのにも何かと苦労があるんだぜ?
「こっ恥ずかしいぜ……クソババアはどうなった?」
「うん。魔神以来の完全消滅よ! アイツの思考を覗いてみたけど……ホントにクズだったわ……」
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【優しき姉】~誰よりも憤る~《ティリアview》
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「ヴェーラはね、アリサ姉さんが言ったように……遊び感覚でこの世界にさっきの人形を送り込んで来て、魔神達と一緒に破壊を続けていたのよ……」
「なんっだよっ!!? なんだよそりゃぁーっ! ふざけやがって!!」
《くっ!! そのような……そのような理由で、我等の同朋達が散って言ったというのかっ!?》
ガアアアァァァァァーッッッ!!!!!!!! ビリビリビリビリィィーッッ!!!!
その咆哮だけで『聖域』が、いいえ……世界そのものが壊れるんじゃないかって、錯覚しそうな程、みんなの怒りの叫びがこの神殿内に響き渡る!
ボゴォッ!!!
あ、建設途中の柱がマジにぶっ壊れたわ! みんなの怒りはもっともよね。彼等は本当に命を賭けてこの世界を、『聖域』を護る為に戦って戦い抜いたのだ。それを、その必死な想いを、その必死な姿を嘲笑うようにゲーム感覚で遊んでましたですって!?
「落ち着きなさい! 貴方達のヴェーラに対する怒り! 至極最もよ! 私も当然キレたわ!」
ビリビリビリーッ!!!
みんなを一端落ち着かせる為に私は言葉に神気を乗せて大声で叫んだわ! ビリビリと大気を震わせて、昂るみんなに届ける! って、あ、一般人のジャデークとネハグラ家族に冒険者達とかゼオンとかラグナースとか諸々のみんなが腰抜かしちゃった! まぁいい、続けよう。
「既にヴェーラ本体の身柄は拘束! 魔神以来の完全消滅を施した!! こんなことじゃ今まで苦渋を舐めさせられたみんなに対して、謝罪にもならないかもしれないけど、どうか落ち着いて!」
ザワザワ……私の宣言にゆっくり、少しずつ場が静まって行く。ふぅ、どうやらみんな落ち着いてくれたみたいね……よかったって思ったんだけど、アリサ姉さんが鋭い目付きで私を睨んでる!?
「ティリア……『神』ってのはなんなの? あんなのがのさばってるような世界なら殴り込んでぶっ壊してやりたいんだけど?」
ひぇっ!? ちょっとアリサ姉さん!? うわ、これはヤバい! あのクソババアの所業はアリサ姉さんの怒りのリミッターを余裕で振り切らせていたみたい! どど、どうしよう!?
「おいおいおい!? 落ち着けってアリサの嬢ちゃん!!」
「そうですアリサ様。先程の議題の内容と同じだとお考え下さい」
そのただならぬ雰囲気に殺気を隠そうともせずに、全身に滾らせるアリサ姉さんを見て、私と同じくヤバいって感じたんだろう。ゼオンが慌てて窘めはじめて、ラグナースも額に冷や汗を浮かべながら説得を試みる!
「『人間』と『亜人』のお話だよアリサちゃん!」
「どちらにも善人と悪人がいるって言うお話通り、『神様』にも『善神』と『悪神』がいる……そう言うことですよ?」
そして次いで、声を掛けてくれるのはリールとフォーネの二人。そうよアリサ姉さん! 以前妹達が言ったように『神』なんて結局ひとつの種族なんだよ?
《その通りだ。アリサ殿……我等の為に憤ってくれるのは嬉しく思う、しかし……》
「極論に走るでないわ、この未熟者が。魔女よ、ヌシが言うておるのは、「あの国の人間に酷いことをされたから国ごと滅ぼそう」と言うておるようなものじゃぞ?」
こう言うときに頼りになる『聖域』の古参! ゼーロとシドウだ! 特にシドウは私達の中でも一番の古株だからね、その説得力も相当だ!
「ごめん……でも……でもさ! こんなの、こんな理不尽あんまりじゃない!! アイギスのご両親が何をしたって言うの!? リリカさんは!? 使用人のみんなは!? 領民達はっ!!? それだけじゃない、『聖域』のみんなだって!!」
みんなの説得に謝罪するアリサ姉さんだけど、誰よりも人の痛みをわかってしまうが故に、その叫びはあまりにも悲痛だった……親しく、そして愛しく感じているアイギスの悲しい過去に……『聖域』の大切な仲間達を想うあまり、その胸中は張り裂けそうな程に苦しく、悲しいのだろう……アリサ姉さん、優しすぎるよっ!
「アリサおねぇちゃん!!」「アリサお姉さん!」「アリサ姉~!」「マスタぁ~!」
そんなアリサ姉さんを見ていられずに、走りよって抱きつくユニと妹達にアリスだ。私も、私だって思い切り抱きしめてあげたい!
「アリサお姉さま、そこなのです……「神に頼るな」「神を信じるな」「神にすがるな、崇めるな」と、私達がこの世界の住人達に呼び掛けるのは……」
アルティもアリサ姉さんにゆっくり近付いて、椅子に座る彼女の前で屈みこんで、そっとその手を取り瞳を見つめ、悲しそうに話し出す。
「だって、この世界を壊そうとした魔神達も「神」なのですから……以前ティリアお姉さまがお話した、魔神が堕ちた理由を覚えておいででしょう?」
「みんな……アルティ……うん……」
「アリサおねぇちゃん……せめて、せめてあの人達だけでも助けてあげよう? 輪廻の輪に還してあげなきゃ……」
悲しくも優しい涙を流すアリサ姉さんを妹達とユニ、アリスが慰める。神なんて一つの種族に過ぎず、その頭をやってる私だってその善性と悪性についてなんてわからない。その辺はこの世界の住人達となんら変わりはないんだ……なまじ変に力を持っているせいで厄介な存在になってしまうのが問題だけども。
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【優しいみんな】~だから立ち直れる~《魔女view》
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「……うん……うん。ユニ……ありがとね……みんなも……」
「アリサおねぇちゃん……泣かないで……」
ぎゅう……私を心配そうに、泣き出してしまいそうな顔で見上げるユニをしっかりと、優しく抱きしめる。妹達、私の聖霊達と見守る『聖域』のみんなの優しさに包まれて、私の憤りが静かに収まって行く。駄目だね、こんなことで我を見失っちゃうようじゃ……私は暫くユニの、みんなの優しさに甘えて、ささくれ立った心を癒してもらう。
「うなぁ~ん」
スリスリ
ふふ、ミーナも椅子に座る私の足に顔をスリスリさせて、慰めてくれる。そうだ。ここで一人、落ち込んでいても何も解決しないよね!
「よしっ! みんなありがと! そして、ごめん! 心配かけちゃったね、気を取り直して輪廻の輪から外されちゃった彼等を助けだそう!」
「おねぇちゃん!」「お姉さま……!」「アリサ姉~!」「ん♪」
「それでこそアリスのマスターでっす!」「よかった、持ち直したわねアリサ姉さん!」
私は閉じていた瞳を開き、俯いていた顔を上げてみんなに笑顔を見せる! そうだ。今は泣いてなんていられない、アイギスのご両親に使用人のみんな、そして『ランバード公爵領』のみんなをちゃんと助けてあげなきゃ! 私が力強く頷くと、妹達もアリスもユニも嬉しそうに顔を綻ばせて笑ってくれる! うん、私一人で抱え込む必要なんてないんだ!
「よかった……アリサ様が笑顔になって下さった……」
「私達帝国のせいでアリサ様が悲しまれるなんてあってはならないことです……」
「本当に……申し訳なく思います。そして心から感謝を!」
あぁ、気にさせちゃったかな? ごめんねバロード、カレン、オルファ。大丈夫! この通りみんなのおかげでちゃんと立ち直れたし、それにチミ達のせいではないじゃん? おバカなクズ魔王のせいだし!
「アリサお姉さま。ここは私達創世の三神も!」
「ん……巻き込んでしまったのはあたし達の責任……」
「だから! もうがっつり力を振るわせてもらうよ!」
そして意気揚々と名乗りを挙げる妹達。いい子達だ……この子達だって魔神や魔王達に被害を受けただけだと思うのに……その事を自分達の責任だと救済の手を差しのべようとしている……
「うん。私も力を貸すから安心して! みんなも見届けてね?」
「おおっ!! す、凄い……凄いですよこれは! ね、ミュンさん!」
「ああぁ……ホント、本当にワタシ~僧侶やっててよかったですよ~!」
アルティレーネにレウィリリーネ、フォレアルーネの創世の三神に、主神のティリア。えっと、ついでに私も……この『ユーニサリア』の神が揃い踏みしてその力を行使するって言う宣言に僧侶のフォーネとミュンルーカが興奮気味にはしゃぎ出す。
「こんな歴史的瞬間にまみえた事……俺は誇りに思うぜ」
「ええ、僕もですよゼオンさん。ありがとうレイリーア、『白銀』の皆さん。一介の商人に過ぎない僕までこの場にいられるのは君達のお陰だね」
「うふふ♪ やだダーリンったら! アタシ達は自分にできることを精一杯やっただけよぉ~?」
立ち並ぶ私の自慢の妹達を見て、ゼオンが、ラグナースがその目を細め、眩しそうに見てる。ラグナースはきっかけを作ってくれたレイリーアと『白銀』に感謝してるね。ふふ、思えばなんか不思議な縁だよね。
って、ガウスにムラーヴェ? それにジャデークとネハグラ一家達? そんなに隅っこで「恐れ多い」だの「本当にここにいていいのか?」とか話し合わなくていいからね?
「よーし! じゃあ行こうか! 私の『転移』で送るね! みんな、しっかり見守っててね?」
「ええ、しっかり見届けさせて頂くわ。頑張るのよ貴女達」
「たまには神様らしいとこ見せるんだぞ~!」
そんなみんなとのやり取りですっかり復活した私は、妹達を帝国に送るための転移陣を嬉々として準備して、みんなには映像通信でしっかり、見守ってくれるようにお願いした。『無限円環』内のシェラザードがにっこり微笑んで手を振り応援してくれる! ジュンは両手をパンパンさせてアオオーって雄叫びを挙げて可笑しそうにからかってくるね。その仕草なんか可愛いぞ~♪
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【輪廻の輪から外された人達】~助けよう!~《聖女view》
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「……あの、魔女さん……いや、アリサ様。今回はホント、何から何まで世話になっちゃって……」
「待ちなさいよルヴィアス。ホントに大事なのはここからなんだから。まだ元凶を叩いたってだけで、失われた命の救済も何もできていないでしょう?」
魔王ヴェーラを消滅させた後……私は暫くその場に立ち尽くしていた……ように、ルヴィアス達には見えていたみたいだ。いや、実際そうなんだけど……それは、魔女を通してユニ達の思いやりの気持ちをこころゆくまで噛み締めていたからだ。
さっきまで怒りのリミッターがぶっ飛んで、ぐるっと回って自分でも驚くくらい冷静になっていたけどさ……ユニやアリス、ミーナに妹達のおかげでその怒りと悲しみも霧散させることができたよ。
シュウゥゥーンッ!!!
「お待たせ、四人とも!」
「妹達を連れて来たよ! これでもう大丈夫!」
「お手数をおかけしてごめんなさい。後は私達にお任せ下さい!」
「ん。輪廻の輪から外されちゃったみんな、安心してほしい」
「ホントに迷惑かけちゃってごめん! お詫びにもならないかもだけど、うち等頑張るから!」
ルヴィアスのおずおず~って感じのお礼に待ったをかけて、これからやろうとしていることを説明しようとした時、タイミングよく魔女とティリア達が『転移』で飛んできてくれた。
「ティリア様! まぁ! それに女神様方までも! ご覧なさいリリィ。創世の三女神様達に主神様も来てくださったわ! もう安心でしてよ!」
「あああ、なんて神々しいのでしょう……どうか、どうか私などよりご主人様達をお救い下さいませ!」
ティターニアが彼女達の姿を見て、その顔を喜色に染めて、リリカさんにもう安心だと呼び掛ける。リリカさんは自分よりもアイギスのご両親を優先させてほしいってお願いしてるね。優しい人だなぁ~。
「まさか……いらっしゃるのですか? 父上、母上……そして、皆も!?」
「うん。みんな見守ってくれているよアイギス」
「貴方が立派に成長した姿に喜んでくれてるよ……」
私と魔女はそっとアイギスに寄り添って、ご両親に使用人のみんながずっと見守ってくれていたこと。アイギスが立派に成長したことに喜んでくれてることを教えてあげる。
「ほら、見て」
パアアァァァーッ!!
私は魔法でアイギス達にもご両親達の姿を見れるようにしてあげた。すると……
《ああ、アイギス……無事でよかった。感謝致します『聖域の魔女』アリサ様》
《消え行く前に我が子の成長した姿に、おお……女神様にまで後拝謁頂けるとは……》
「父上! 母上!! ああ……十年前のお姿から変わらずに……っ! 私です、アイギスです!」
我が子の無事を安堵するお母様と、その成長した姿。更に妹達に会えたことで胸一杯、と言った感じのお父様の姿を確認できたアイギスが二人に叫ぶ。
《おおっ! 私達が見えるのか? 私達の声が届くのか? 我が子よ!?》
「はい! 御心配おかけしました……父上、母上……私、アイギスは無事です!」
《ああ……なんと言う幸運でしょう! もう貴方に姿を見せることも、声を届ける事も出来ないと思っていたのに!》
《《坊っちゃん!!》》《《アイギス坊っちゃま!》》《《アイギス様!!》》
「ああ……皆も! 待っていてくれたのだな!? ありがとう……本当にありがとう!」
それに気付いたご両親はとても嬉しそうに涙で瞳を潤ませ、アイギスの側に寄ってくる。うん、よかった、ちゃんと彼等を会わせてあげることができたよ。使用人さん達も気付いてみんなやって来てアイギスとの再会を喜んでいる。うぅ。アリサさんももらい泣きしそうです。
「ガルディ! セレス! 久し振りだ……そして、済まない……俺はお前達にどんなに詫びても許されないほどの結果を与えてしまった……本当にっ済まないぃ!!」
ルヴィアスも駆け寄ってきた。そして思いっきり土下座でアイギスのご両親達に謝罪。ガルディとセレスってのはアイギスのお父様とお母様のお名前かな?
「はい、アリサ様。私の父が『ガルディング・ベンガル・フォン・ランバード』で、母が『セレスティーナ・ベンガル・ジェナ・ランバード』と申します」
アイギスに聞いてみたら、なんだそのめっちゃ長い名前は?
《陛下……そんな、どうかお顔をおあげ下され。我等は誰も恨んでなどおりませぬぞ?》
《そうですわ陛下。最期の最期に我が子の立派に成長した姿を見ることができたのです……何を思い残す事が御座いましょうか?》
《そうですよ陛下! 俺達はアイギス坊っちゃんの無事なお姿が見れただけで満足です!》
みんなっ! ああ、なんて……なんていい人達なんだろう!? 駄目だ、涙出る……自分よりも誰よりも、アイギスの身を案じ続けて……
「みんな! そんな悲しい事言うなよぉぉ!! なぁ! アリサ様! ティリア! アルティ、レウィリ、フォレア! お願いだ……彼等を、ガルディ達を救ってくれ! 頼むよ!」
「ぐすっ! わ、私からもお願い致しますわぁぁぁーっ! こんな……こんなお優しい方達が消えてしまうなんてあまりにもあんまりですわぁぁーん!!」
「女王様……あぁ、ありがとうございます! リリカはそのお気持ちだけで十分です……」
「私からも、私からもお願い致します! アリサ様! 女神様方!!」
ルヴィアスを筆頭にティターニアとアイギスも私達に向かって頭を下げてお願いしてきた! うん、みんな気持ちは同じだ。こんな優しい人達が輪廻の輪から外れて消えてしまうなんて、そんなの悲しすぎるよ!
「はい! お任せ下さい……皆さんの優しい想いはしかと私達が受け止めました」
「ん……とても、とても温かい思いやりの心……」
「へへ♪ 任せてよ! うち等とティリア姉にアリサ姉で力を合わせればきっと出来る!」
「ええ、やるわよ! アリサ姉さんもいいわね? 絶対にみんなを助けてハッピーエンドでこの問題を解決しましょう! 全力全開! 『解放』!!」
ズワアアァァァーッッ!!!!!
うっほっ!!? すっげぇーっ!!!? ティリアがなんぞ叫んでその右手を大きく天に掲げたと思ったら、ティリアを始めアルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネが天も地も震わせる程の凄まじい神気を立ち上らせた!
「さぁ、アリサ姉さん。ヴェーラに輪廻の輪から外されたみんなを集めて!」
「オッケー! ささ、アイギスのお父様にお母様~それとリリカさん達使用人さん達も! みんな集まって下さいね!」
ティリアの呼び掛けに応えて、私はアイギスのご両親達に集合してもらうんだけど……
「少ないね……ヴェーラにやられちゃったのって公爵家の人達だけしかいないの?」
「ヴェーラの目的はあくまで俺を誘き出す事だったからね……それにガルディの配下は優秀でさ、襲撃を受けた直後に速攻で俺に連絡くれた上に、領民達を迅速に避難させてくれたんだぜ!」
私が集まったみんなを見回して見たところ精々が数十人ってところだ。その事に疑問を感じルヴィアスに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。
《陛下からジェネア王国に不審な動き有り。との報せを受けておりましたので、警戒を強めていたのです》
《それが幸いしてこの領土の民達は無事に隣国に逃げのびたようですわ》
「私もおかげでアイギス様を無事に『セリアベール』行きの船にお乗せすることが叶いました。いつ事が起きてもいいように手配をしておいたのですよ?」
ふぅむ……アイギスのお父様にお母様が、ルヴィアスに注意を促されて警戒を強めていたおかげで部下さん達も迅速に民達を避難させることができて、リリカさんもアイギスを船に乗せる事ができた……って言ってもねぇ……一応領土全域にヴェーラにやられちゃった人が他にいないかを検索するとしようか……国が軍を挙げて進行してきたんだ。被害ゼロなんて事は有り得ないだろう。
セラ「び、びっくりして腰抜けた……(;゜0゜)」
バルド「だ、大丈夫かセラ?( ; ゜Д゜)」
ガウス「おおお……ティリア様の一喝で、完全に身動き取れなくなった!(;゜Д゜)」
ムラーヴェ「危ない……(;´Д`)もう少しで気絶するところだったぞ(-∀-`; )」
大地「おいおい(´・∀・`)大丈夫かよお前ら?( ´ー`)」
水菜「しっかりしてください、あなた方はこれからこの『聖域』で暮らすんでしょう?(^ー^)」
爽矢「ふふ(゜ー゜*)それならばこのくらいは馴れてもらわねばな( ・∀・)」
朱美「ああ、ほらほら大丈夫よ~怖いお姉さんですねぇ~(*´∇`*)い~い?( ´ー`)あの白い人は怒らせちゃ駄目よぉ?(^-^)」
シャフィー「ふぁ、はいぃ(>_<)」
ネーミャ「だだ、大丈夫です!(^o^;)ちょっとびっくりしただけですから(°▽°)」
ブレイド「びびびってねぇし!ヽ(´Д`;≡;´Д`)丿へーきだし!?((゜□゜;))」
ミスト「はうぅっ!(;>_<;)びっくりしたよぉ~( 。゜Д゜。)」
シドウ「あぁ~ホレ!( `д´)オヌシ達もしっかりせんか?(^_^;)」
ネハグラ「(;゜0゜)あばば……」
ジャデーク「( ̄q ̄)」
ファネルリア「はわわ(゜Д゜;)私達とんでもない所に来ちゃった……(´;ω;`)」
ナターシャ「い、今更何言ってるのよファネルリア(゜A゜;)あなたも気絶してないで起きてよ!(T0T)」
リン「ふはは♪(*`▽´*)コヤツらには少しばかり刺激が強かったようだな(^-^)」
ジュン「しっかりするんだぞ~(ノ≧▽≦)ノほら~ハチミツ食べろ~(*´∇`)」
リール「わあぁ~♪(゜▽゜*)美味しそうなハチミツ~( ☆∀☆)」
フォーネ「私達もほしいですジュン様~(’-’*)♪」
ラグナース「い、意外とタフですねぇ、お二人は( ̄▽ ̄;)」




