74話 魔女と卑劣な魔王
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【いざ公爵家】~あの魔法にはお世話になった~《聖女view》
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「吹雪が弱まったわ! ユニが上手くやってくれたみたいね」
「ああ、これなら視界も確保しやすい! 行くよ女王陛下、アイギスくん!」
「ええ、エスコートお願い致しますわぁ~♪」
「くっ……なんのこれしき! 私が足を引っ張る訳にはいかない!」
吹き荒ぶ猛吹雪の真っ只中。私達四人はその『ルヴィアス魔導帝国』の『ランバード公爵家』空中に『聖域』から『転移』してきた。ユニとアルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネが『世界樹』から『龍脈の源泉』の魔力を吸い上げることで、この吹雪を起こしているバンシーに憑依した『スノウリリィ』……アイギスの大切な家族から……言葉は悪いけど横取りして多少は弱まったんだけど、生身の人間であるアイギスにはまだまだ厳しいか?
「任せてアイギス。『猛威防ぐ領域』」
フワアァァ~
私達を優しい光のころもが包み込む。今なお吹き荒ぶ吹雪がそのころもに弾かれて、身を切るような寒さも軽減されていく。はい、その名前からおわかり頂けただろう、あの名作RPGのブレスを軽減してくれる魔法をイメージしてみたのです!
「ありがとうございますアリサ様! かなり楽になりました」
「すっげ……瞬間発動のうえに広範囲の高性能すぎない!? これなら『竜神』のブレスもそよ風になっちゃうよ!」
「助かりますわアリサ様。ずっとこの吹雪を防ぐために魔力を割くのも大変でしたの!」
いいってことよ~♪ アイギスとティターニアは私の魔法行使を結構見てるので、驚くこともなく普通にお礼してくるけど。ルヴィアスは逆にびっくりしたようで、目を点にしてなんぞ喚いてる。どうやら前世でもゲームとかで有名だったバハムートってのがいるらしいね。『竜神』なんて言うくらいだ、さぞやおっかないんだろうなぁ~敵にならないことを祈っておこうか。
「よし、じゃあ地上に降りて接近しようか。ルヴィアス周囲警戒! 十分注意して!」
「了解! でも魔女さん、一体どうやって憑依したリリカを救い出すんだい?」
「アイギスとティターニアの説得で自分から憑依を解いてくれるのが理想的だけど……いざとなったら私が強引に引き剥がすわ」
私の『猛威防ぐ領域』がしっかりと機能し、四人とも問題ないことを確認した私は、地上に降りてリリカさんの待つ『ランバード公爵家』のお屋敷跡に接近することにした。アイギスは飛ぶことできないからね。
ルヴィアスがリリカさんの救出方法について訊ねてきたので答える。要は『セリアルティ王城跡地』で、ビットに仮の『物質体』を与えた時の逆を行えばいいだけの話だ。そう難しい事ではないのだよ。
「あっさり言うんだもんなぁ~やっぱり魔女さん怖いわぁー……」
「ルヴィアスさん? 女性に対してそれは失礼というものでしてよ? アリサ様はこう見えて結構そういうところを気にされますの。お気をつけ遊ばせ?」
「ティターニア様の仰る通りですよ、ルヴィアス様? お気をつけ下さい」
いや、うん……まぁ~気にならないって言えば嘘になるけどさ。う~ん、ティターニアもアイギスも私を気遣ってのことだろうし、ここは何も言うまい。
「あー……うん。そうだね! 気を付けるとしよう。済まない魔女さん」
「いいよいいよ。さぁ、もうリリカさんの叫びが聞こえて来そうなとこまで来たよ! みんな準備して!」
針葉樹に囲まれているちょっとした森を抜ければ、やや広い空間が広がっており、その広場の中心にはお屋敷跡、門壁らしき残骸。何より特筆すべきなのは、その広場の周囲には一切の積雪が見られないと言う事だろう。
「魔力を帯びた雪。……つまりはこう言うことなのねルヴィアス?」
「そうだね、この魔素濃度からも察っせるように、発生源は完全に魔力そのものが雪に変えられているんだ」
焼けたお屋敷跡が不釣り合いに見えるほど、その広場は緑が溢れ、花が咲き誇る水辺は『聖域』にも負けず劣らずの美しい景観を見せる。まるで砂漠のオアシスかのようだ。
しかし吐く吐息は白く、私の『猛威防ぐ領域』により軽減されているものの、身を切るような寒さは間違いなく現実だ。
「スノウリリィがこの地の魔力を媒介に吹雪を起こしているのですわね……帝国に降る雪はそれに巻き込まれているのですわ!」
「なんにせよ、彼女……リリカを止めなくては!」
ティターニアとアイギスの言葉に私達はお屋敷の、おそらく門だったのだろう、その朽ちた残骸の前で今もなお叫びを挙げる彼女を見やる。
「アア……アイギス……アイギスサマァァーッ!! アァイギスサマァーッ!」
「リリカっ! 私だ! アイギスだ! 随分待たせてしまったが、私は帰って来たぞ!?」
「リリィ! 私ですわ! 女王ティターニアですの! 大切な同朋の貴女を助けに来ましたわ! どうか正気に戻って下さいまし!!」
駆け寄るアイギスとティターニアの説得が始まった。お願い! 届いて!
そうアイギスとティターニアの背を見つめ祈るその時だ、私の目に二つの『想い』が映る。その二つの『想い』の光は、ゆっくり、しかし、十年の月日で存在が希薄になってしまったのか、うっすらとしか感じられない。けれど確かにそこにあって、肩を抱くように、その背を支えるように……ピタリとアイギスに寄り添う二つのその温かな光は……
「アイギスの……ご両親……?」
「え? 魔女さん、公爵夫妻が来てるのかい!?」
「まぁ! それは心強いですわね! リリィ! 貴女を想う光が見えますか!?」
そっか、貴方達も待っていてくれたんだね? アイギスを……愛する大切な息子が帰って来るのを……ルヴィアスが驚き私に確認してくるので首肯で答えた。ティターニアの言葉通り心強いや。
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【思わぬ相対】~バンシーの正体~《魔女view》
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「アリサ姉! 大変だよ! アルティ姉と、レウィリ姉から今連絡あってさ!」
「フォレア? 一体どうしたの、そんなに慌てて!?」
バンシーの鑑定結果がフェイクであることを見抜いた私達。どれ、じゃあいっちょその隠されたホントの情報を見破ってくれようとしている矢先に、フォレアルーネが会議室に飛び込んで来た。
フォレアルーネは額に汗を浮かべ、非常に慌てた様子だ。そのただならぬ姿に全員緊張するのが伝わってくる。
「ルヴィアスのとこの『龍脈の源泉』の魔力に凄く嫌な気配を感じるんだって! 今はレウィリ姉の『神気浄化』でなんとかできてるけど、そんなに長くは吸ってられないみたい!」
「嫌な気配」とはまた曖昧な表現だね。けれどその言葉の意味するところは、やはりあのバンシーにあるんだろう。
「了解! ユニ達には無理しないように伝えて。『猛威防ぐ領域』を強化することで耐えられるから!」
「わかったーっ! 頑張ってアリサ姉!」
そうしてぴゅーんと『世界樹』へと戻っていくフォレアルーネを見送り、改めてバンシーの正体を看破するためにオプションを通して、魔法を試みる。ふふっ、前世の有名なRPGによく何者かに化けた相手の本当の姿を映し出す重要アイテムがあったっけ。
「今回はそれをイメージしよう……名付けて! 『真実を映す神鏡』」
私のオプション……そう言えばちょっと前までドローンと使い分けて呼んでいたけど、やれること変わらないのでオプションに統一した。……が、今まさにアイギスとバンシーが接触するというタイミングで割り込み、その魔法を行使する。
「こ、これは! アリサ様の魔法!?」
「ルヴィアスも試して見て! 嘘っぱちの鑑定結果が出るの! この魔法は私……『聖域の魔女』の魔法だよ、アイギスも一度離れて!」
「マジかよ!? 普通のバンシーの鑑定結果が出るけど……そうか! リリカの情報が何一つないんだ! これは確かにおかしいね!」
「何か変な違和感を感じるとは思っておりましたけれど、そう言うことですのね!」
割り込んできた箒アリアにアイギスが驚いて少し後退。聖女の説明にルヴィアスもリリカさんが憑依したバンシーに鑑定を試みる、同じ妖精ということなのか、はたまたその女王としての権能か、ティターニアは察して臨戦態勢を取る!
ピロリロリーン♪
『擬態バンシー』。スノウリリィを憑依させた魔王ヴェーラの『疑似体』。帝王ルヴィアスを誘い出す為、『ランバード公爵家』に配置され、スノウリリィの力で帝国全土に渡り魔力雪を降らせ続ける。
「何だって!? あのババア、いつの間に復活してたんだ!?」
「ルヴィアス、アイツって勇者達に倒されたの? 私はあの洞窟に配置されていたから知らないのよ」
「ああ、ナーゼの神弓フォレストスノウに射抜かれ動きが鈍った隙を、アーグラスの神剣レリルティーネに斬り裂かれて果てた筈だ!」
おおっと……いやはやまさかの大物ですよこれは! 看破したバンシーの正体にルヴィアスとシェラザードが驚いて大声を挙げて、その魔王ヴェーラが倒された時の話をしているけどさ、私が気になるのはこの『疑似体』ってとこだ。
「さて、ティリアさんや。このヴェーラって魔王について詳しく教えてくれるかね?」
「マジか……コイツは厄介よアリサ姉さん。ヴェーラは『神界』でいつの間にか行方不明になってた女神でね……当時は私達も頑張って探したんだけど結局見つからなくて、そしたらいつの間にかこの『ユーニサリア』に『魔神』と一緒に攻めて来たのよ……」
「非常に腹立だしい魔王です……我々人間も亜人も……この世界に生きる総てを、道具としか見ていないその物言いといい……」
ほう、「いつの間にか行方不明に」ってくだりが気になるね……もしかしたらコイツ……
ビットが滅茶苦茶怒ってる……どうやら神故の傲慢を絵に描いたような魔王みたいだね。
「アアイギスサマ……タス……ケ……ギギ……ギィヒヒ……ギィヒ……」
その時バンシーの様子が変わった。アイギスに助けを求めるような悲しい顔を見せたと思ったら、途端、ガクン! と動きが機械染みたカクカクな動きをし始め、気味の悪い笑い声を挙げたのだ。
「ギィヒ! ギィヒヒっ! ぎゃぎゃぎゃ! 見つけたァァーっ! この裏切り者めがぁ~ギィヒヒ! まんまと誘い出されてくれたねぇぇ~ルヴィ坊や!!」
「ちぃっ! 離れろアイギスくん! ヴェーラ! 貴様まさか俺を討つ為だけに『ランバード公爵家』を!?」
「ぎゃぎゃぎゃ! そうさ! なーにが『ルヴィアス魔導帝国』だぃ? あたしのジェネアにいいようにやられといてねぇ~? ぎぃひひひ! まぁ大事にしてた公爵領をぶっ壊した時のお前さんの嘆きは心地よかったけどねぇ~ぎゃひひひ!!」
……とんでもないクズ魔王だわコイツ!! 正体を看破されて本性を現した魔王ヴェーラは、心底不愉快になる笑い声と下衆な笑みを浮かべ楽しそうにルヴィアスに詰め寄ってくる! ルヴィアスは近くにいるアイギスを下がらせて、彼を庇うようにヴェーラと対峙する。その顔を怒りに染めて!
(アリサ様。貴女まで怒りに囚われてはなりませんわ! 先ずはどうにかリリィを保護しなくてはいけませんわよ!?)
(……大丈夫だよティターニア、人ってね怒りの限界突破すると、逆に物凄く冷静になるんだよ?)
聖女を通して魔女の私にも耳打ちするティターニアの声が届く。そう、そうなんだよね……私はこの自分勝手な魔王にプッツンしてしまった。自分の目的のためにこの『ランバード公爵領』をジェネア王国に攻めさせて滅ぼした……それだけじゃない、アイギスの大切な家族すらもコイツは……コイツは、私を怒らせた……
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【酷い魔王】~怒る皆~《アイギスview》
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「ギィーッヒッヒッヒ! 魔神とあたし達の目を掻い潜ってよくもあの小娘共に味方しおったなぁ~この小僧がぁっ!? 折角この世界を絶望渦巻く死の世界に変えてやろうとしてたのにねぇーっ!!」
「黙れババア……貴様の悪趣味に俺達を巻き込むな!」
許せん! 下卑た笑い声をあげ、嘲笑う魔王ヴェーラに、私を庇うルヴィアス様が怒気を顕にして叫ぶ! このヴェーラとか言う魔王は己の愉悦の為だけに魔神に協力し、あまつさえ私の家族をルヴィアス様を誘き出す為にと言う下らない理由でその対称としたのか!?
キィィンッ!!
私は煮えたぎる怒りのままに剣を抜き放つ! 父上、母上……そしてリリカ、よくしてくれた使用人の皆……領民達の仇! この手で討たせてもらおう!!
「ギャヒヒヒ!! 無駄無駄無駄ぁ~♪ あたしを倒そうなんて思っとるようだがねぇ~あたしは一人じゃぁ~ないのさ! ほれ! このようにねぇ!」
ブゥゥゥーン……
ヴェーラが天にその右手をかざすと、鈍く響く不快な音を立てて周囲に黒い靄が発生する。その黒い靄は私達を取り囲み、徐々に人の姿を形取って行く!
「な、なんですのこれは!? まるで『呪いの紫煙』のようですわ!」
「ジェネア王にその兵士達……成る程、十年前のクーデターは貴様の仕込みか!?」
それは十年前のあの日、突如として私達家族を襲ったジェネア王国の兵士達! いや、それどころかその王すらもいるではないか!
「ギィヒヒ! そうさぁ~先の大戦じゃあ、あのいまいましい勇者共に散々邪魔されて身を隠したけどねぇ~ヒッヒッヒ! そこの出来損ないの転生体じゃあどうすることもできまいて!
だんまり決め込んでるその小娘と一緒になぶって、痛めつけて、弄んであたしが満足するまで悲鳴を挙げさせた後に苦しませて殺してあげよう!」
ルヴィアス様の怒りを買い、その国土ごと水底に沈められたジェネア王国。まさかその総てがこの魔王の手先だと言うのか!?
「来るぞ! 応戦しろアイギスくん! ティターニア陛下!」
グオオオォォォーッ!!!!!
まるで『屍人』のごとき風貌のジェネア兵達がおぞましい雄叫びを挙げて私達に迫って来る! いいだろう! 十年前の無力な自分とは違うのだと教えてやる!
「舐められたものですわね……この程度の戦力で私達を倒そうだなどと! ちゃんちゃら可笑しいですわ! 大人しく同朋をお返しなさい! 下衆婆!!」
ビュオオォォーッ!!! ズバアァァーンッ!!!
ティターニア様の魔法、エアリアルストームが吹き荒び、迫るジェネア兵士を凪ぎ払う! 凄まじい威力だ! 正直ティターニア様がこれほどの実力者だったとは思いもしなかった!
「同朋~ギィヒ! ギィヒヒ!! 取り込んだ雪女か!? ギィーッヒッヒッヒャ!! あの雪女なぁ~ギャヒヒッヒッ!! よう鳴いたぞぉ~? 「アイギス様アイギス様」ってねぇぇーっ!! ギヒヒ、妖精ってのは同族を疑うことを知らん馬鹿ばかりだからねぇ~このバンシーの姿で近付いたらまんまと騙されおったわぁ! ギャギャギャッ!!!」
「なんだと……っ!!? 貴様ぁっ! 貴様がリリカを!?」
「っっ! 許せませんわぁ……」
ふざけるな……ふざけるなよ!? こんな理不尽があってたまるか!!?
「邪魔だーっ! どけぇっ!」
ザシュッ!! ザンッ! ズバアッ!!
「ブチキレたぞ! このクソババアがぁーっ!! 消し炭になりやがれ!! ライトニングテンペスト!!」
ズッガアアァァーンッッ!!!
私の剣がジェネア兵士達を斬り伏せて、凪ぎ払い、ルヴィアス様の雷魔法が次々にその兵士達を灰に変えていく! 叶うならもっと別の形で陛下とはご一緒したかったものだが……
「ギャッギャッギャ!! 無駄無駄ぁ~無駄なのさぁ~! ギィヒヒ! そいつらはねぇ、何度倒そうと、何度殺してもすーぐに生き返る化け物さぁ!! ほーれ、こんな風になぁ!!」
ブゥゥゥーン、ブゥゥゥーン、ブゥゥゥーン……
「くっ!! どうなっておりますのこれは!?」
「おかしい! 不死でも不滅でも粉々に砕けた肉体をこうも早く再生出来るわけがない!」
「アリサ様はご無事……ですね! 何か突破口はありませんか!?」
不可解な! いくら私が斬っても斬っても、ティターニア様の魔法でまな板の上の魚の如く三枚におろされようと、ルヴィアス様の魔法で灰にその姿を変えようと……何度も何度も何度も!! このジェネア軍は起き上がって、時に消えた! と、思ったらまた現れて……
不愉快な魔王ヴェーラの笑い声を聞きながら、私達はアリサ様を護るように円陣を組んで、その一向に終わりが見えない戦いを続ける。ジェネア兵達がそれほど強くないのがまだ救いか?
「だがこのままではジリ貧だ! 魔女さん、何か手立てはないかい!?」
「ルヴィアスさんの言う通りですわ! このままでは私達の魔力が底を突いてしまいますわよ!?」
ルヴィアス様とティターニア様がアリサ様に叫ぶ! 確かにその通りだ。今まで『セリアベール』の『氾濫』で鍛えられたとはいえ、私も疲弊がかさんでくる。
アリサ様は黙したまま必要最低限の動きで迫るジェネア兵を倒し続けておられる……きっと何か深いお考えがあるのだろうが……
「……『存在固定』」
そう思っていると、ついにアリサ様がその瞳を開き、静かにひとつの言葉を発したのだった。
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【公爵家の皆様】~お初にお目にかかります~《聖女view》
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《ああ……なんと言う事だ……我が子が生きていてくれたことは嬉しい……しかし!》
《今は……今は来てはなりません……ああ、愛しい我が子!》
ルヴィアスとティターニアの怒りの魔法がジェネア兵達を討ち倒し、アイギスの振るう剣が斬り捨てる。
アイギスの大切な家族、ティターニアの大事な同朋、リリカさんを救い出す為にやって来たこの『ルヴィアス魔導帝国』の『ランバード公爵家跡』で、予想だにしなかった魔王ヴェーラとの戦いとなった私達。けれど、その戦いを見守る光がある。
《坊っちゃん……ああ、ご立派になられて!》
《皇帝陛下までも……ですが、どうか、どうかお逃げになってくださいまし!》
私には……ううん。私にしか見えていないその光達は、かつてこの『ランバード公爵家』で過ごしていた人達だ。アイギスのご両親に、仕えていた使用人達……みんながみんな、アイギスを、私達を案じてくれている。きっととても優しい人達だったのだろう……溢れんばかりの思いやりの心を感じるよ。
《大丈夫だよ……貴方達の『想い』はちゃんと届いてる……》
《!? ああ、私達の声が聞こえるのですか!?》
《でしたら、どうか! どうかアイギスを連れてお逃げ下さいませ!》
私が彼等の声に応えて呼び掛ければ、アイギスのご両親だろう。二つの光が寄り添ってきた。うっすらとだけどその姿が見える。厳しさと、優しさを同時に内包したその力強い瞳は、確かにアイギスのお父様だとわからせる。
お母様は我が子を想い、その瞳を不安に曇らせてしまっているけれど、大きな優しさ、母性を秘めていることがわかる。整った顔立ちはとても美しい大人の女性、きっとアイギスはこのお母様に似たのね? はっきりとその姿は見えないけれど、生前はさぞや美男美女のカップルだったんだろうね。後で詳しくお話を聞かせてもらいたいものだ。
《あのジェネア兵達は、王を含め総てが魔王ヴェーラの人形のようでございます!》
《何度倒しても、靄に包まれて消えて……そして》
《その靄が晴れるとまた何事もなかったように現れて襲ってくるんです!》
『ランバード公爵家』の執事さんとメイドさんだろうか? もう一人は甲冑を身に付けているからこのお屋敷の警備員さんかもしれない。お父様とお母様にならい、私の側に寄って来てアドバイスをしてくれる。その彼等の言葉にあった『人形』と言う単語を聞いた私は、自分の考えに確信が持てた。
《つまりこのジェネア軍全部が、魔王ヴェーラの『擬似体』って訳だね。『真実を映す神鏡』もそう言ってるし……なるほど、道理で余裕綽々な訳だ》
魔王ヴェーラの本体は、ここから遠く離れた安全な場所……もしかしたら最初から『神界』にいて動いていないのかもね。……そこから、この『擬似体』を操って、私達を襲わせ楽しんでいるんだろう……この世界はおろか、『神界』にも、オンラインゲームのような概念はないみたいだし。
《なんと……そのような恐ろしい魔法が存在したのですか……?》
《おのれっ! 自分は手を汚さず高見の見物とは!? 我等の……この世界の命をなんだと思っているのだ! 魔王ヴェーラ許せん!!》
私の説明を聞いたお母様が驚きの声をあげ、お父様はその『人形』に命を奪わせる魔王ヴェーラに激しい憤りをおぼえているようだ。
「ボォァアアァァーッ!!」
《あ、危ない! お客様! お逃げになって!!》
おや、私にも襲い掛かってきたか。変な叫び声挙げてからに……ああ、メイドさん。心配してくれてありがとうね。大丈夫だよこのくらい、ホイっと!
「ぐあぁぁーっ!!?」
《す、凄い!! あの者……いえ、人形は確か兵士長だったはず。それをあんな小さな火球一つで!!》
私に剣を振りかざして襲い掛かってきたジェネア兵士の格好をした、魔王ヴェーラの『擬似体』を火球を放って燃やしてやる。執事さんがびっくりしてるね、大したことじゃないよ~? それよりも燃やしてやったその兵士長だ。ふむ……靄になって消えたと思えば、次の瞬間にはまた何事もなかったように五体満足でその場に立っている。
《リスポーンするポイントをこの『ランバード公爵家』前にしてるのか、それとも、ログアウトからのリログインでもしてるのか……どっちにせよこの場に私って言う転生者がいたのが運の尽きよ?》
《て、転生者……? あ、あなた様は一体……?》
あらやだ! 私ったら仮とは言え恋人のお父様とお母様に、その知人の方々に名乗ってもいなかったよ! 大変大変! ちゃんとご挨拶をして、これこれこう言う訳ですって説明をしなきゃね!
「ブチキレたぞ! このクソババアがぁーっ!! 消し炭になりやがれ!! ライトニングテンペスト!!」
うおうっ!? ルヴィアスが魔王ヴェーラとの会話にキレて大きな魔法をぶっぱなしてる。済まんね、もうちょっと頑張ってくれたまへ。私はアイギスのご家族にお話をせねばならないのだよ。
《と、言っても。悠長に話してばかりもいられないわね……まず、私はアリサ。女神達からの依頼で『聖域の魔女』になった転生者よ。今回この『ランバード公爵家』にお邪魔したのは──》
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【管理権限譲渡】~王手だ~《魔女view》
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「ヴェーラの奴が最初から『神界』にいるですって!? 本当なのアリサ姉さん!?」
「多分ね~あんたの『遍在存在』に、珠実の『並列存在』ってさ、アルティもルヴィアスも使えないって言ってたし、結構難しいんだろうけど。この『擬似体』ならほとんどリスク無しで行動出来るんだよ」
会議室で一緒に映像通信で、聖女とルヴィアス、アイギスにティターニアと魔王ヴェーラの『擬似体』達の戦いを見守る私達。試練を中断し、この『聖域』に連れてこられた『白銀』と『黒狼』にガウスとムラーヴェなんかは、急な話の展開にあわくっている。申し訳ないけどこちらも取り込み中なので、説明は聖魔霊家族にお願いしよう。
「ティリアは私の前世の世界にも遍在してるんでしょう? オンラインゲームってやったことない?」
「う、確かにアリサ姉さんが前世を過ごした世界にもいるけど……テレビゲームはあんまりやってないのよね」
で、冒頭で驚いているティリアと『遍在存在』『並列存在』『擬似体』について話をするんだけど、わかりやすい喩えのオンラインゲームには触れた事がないと言う。
「でもなんとなくはわかったわ! さっきの執事の言ってた『人形』って言葉でね! 要は別の場所でその『人形』を操ってるってことよね? アリサ姉さんがオプション操ってるみたいに?」
「なるほどなぁ~お伽噺の魔神戦争の一節にも、『幾度倒されても甦りまた現れる』って記述があるんだが……」
「つまり、あの戦いの時から既にヴェーラは本体ではなかった。そう言うことなのですね?」
うん、その通りだよティリア。魔王ヴェーラはおそらくこの映像通信のような魔法で状況を見ながら、この『人形』達を操ってる筈だ。そしてそれは、今ゼオンがお伽噺の一節に今と同じ状況を示す記述があると言う事から、この世界に攻めこんで来た時からの事なんだろう。
厳しい顔つきをしたアルティレーネが『世界樹』から出てきて頷いている。その後ろにはレウィリリーネにフォレアルーネ、ユニの姿も見える。バンシーの正体が判明した今、『龍脈の源泉』から魔力を吸い続けるのは、ヴェーラに『ランバード公爵領』こそが、『龍脈の源泉』だって勘づかれる恐れがあるとして、ティリアが中断させたのだ。
「むぅっ! この婆さん嫌い……この世界の命を道具としか見ていないの!」
「うぇっ!? ちょっと!! 大変だよアリサ姉! この人達ってクソババアにやられちゃった人達でしょ!? 見てよアルティ姉! レウィリ姉! 輪廻の輪から外されてる!」
「ヴェーラ!! なんて事を!」
「た、大変だ!! アリサおねぇちゃん! 助けてあげられる!?」
みんなと合流して、一緒に映像通信を見たレウィリリーネがヴェーラの『擬似体』……醜く顔を歪め笑う老婆のバンシーを確認するなり怒り出す。そしてフォレアルーネが画面にかぶりつくようにして慌て出した! 聖女に寄り添うアイギスのご両親と使用人のみんなを見るなり、アルティレーネとレウィリリーネにも見るように促す。
確かこの魔王は「絶望渦巻く死の世界に~」とか言ってたけど、それはこう言うことか。本来なら生命は生まれ育まれ、そして死んでは輪廻してまた生まれる。というこの世界のルールに沿ってぐるぐると巡りめぐるのだが、魔王ヴェーラの『擬似体』によって倒されてしまった『ランバード公爵家』のみんなはその輪廻の輪から外されてしまっているそうなのだ! ユニも大変だと言うことを理解し、私に助けるようお願いしてきた。
「危険過ぎるぞコイツ! おい、シェラザード! 何か良い知恵はないのか!?」
「確かに、このままヴェーラを放置したらこの世界に生命が生まれなくなってしまう……ヴェーラの奴はきっと、私とゆかりが「テレビゲーム」を遊ぶみたいに、この『人形』達を操っているのよね?」
事態を理解したゆかりが『無限円環』を映す映像通信越しから叫んで、隣に座るシェラザードに怒鳴ってる。シェラザードも由々しき事態だと頷き思考を巡らせる。
「ティリア、アルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネ。一時的に『ユーニサリア』の管理権限をアリサに渡せないかしら? 事態、状況を誰よりも理解しているのはアリサだわ。多分対策も考えてあるんでしょう?」
「マジか!? そんなこと前代未聞なんだけど……アリサ姉にならいいかな?」
「私は構いません! このままヴェーラを見逃しては取り返しがつきませんから!」
「ん。了承する……アリサお姉さん、頼ってばかりでごめんなさいだけど、お願い」
「いいわ! この世界はイレギュラー認定されちゃってるんだし、ドーンとやりましょう! 主神としてアリサ姉さんに権限の一時譲渡を承認します!」
そうしてシェラザードが妹達に呼び掛けた、なんとまぁ思いきった判断したもんだね! この世界の管理権限だって? そりゃとんでもないのを託されたものだわ……妹達も二つ返事で了承してくれているし、絶対的な信頼を寄せてくれているのをひしひしと感じますよ! これにはしっかりと応えなきゃいけないね。
「いいかしらアリサ姉さん!? 一時的にとは言え、この世界の総ての情報が一気に流れてくるわ! 余計な情報に振り回されないで、ヴェーラだけの情報を探すのよ!? でないと、頭がパンクしちゃうわ!」
ティリアが権限を譲渡する前の注意点を教えてくれる。何でも妹達も総てを把握できてるわけではなくて、インターネットのように都度必要と思われる情報のみを調べる時に使う、データバンクのようなものなんだそうだ。そりゃ一人の人間に扱えきれるもんじゃないわね。
私がその注意点を理解して、ゴーサインを出すと、妹達が揃って私に手をかざす。
「うぐぅっ!? こりゃまたすんげぇ情報量だわ……『並列意思』フル稼働! ヴェーラのアクセス履歴検索! ぐぬぬ……『存在情報』は何処だぁ~? よっし発見!!」
妹達がこの『ユーニサリア』の管理権限を私に一時的に譲渡する事を承認すると、私の頭に天文学的な数の情報が飛び込んでくる! あぎゃぎゃ! こりゃ凄い! クアッドコアの並列意思を焼ききれそうな程にフル回転させて尚、脳がショート起こしそう! ぬうぅぅんって身体中の神経が切れそうになって、鼻血出そうなのを根性で堪える! 何かユニを助け出した時の事を思い出すね!
余計な情報を拾わないように注意を重ね、丁寧にヴェーラについての情報のみを調べあげて……そして、遂に見つけた! ヴェーラの『存在情報』! よっしゃぁ! 見つけたぞこんにゃろーっ! やったろーじゃねっかよぉ!
「……『存在固定』」
さぁ、『王手』よ? お婆さん!
アリサ「バハムートかぁ~(°▽°)」
ゆかり「一応私達「竜」の神って事になってます……い・ち・お・う(¬_¬)」
シェラザード「あはは(^_^;)相変わらず仲が悪いわよねあなた達( ̄▽ ̄;)」
アルティレーネ「本当に「竜」は各々がプライドが高くて喧嘩ばっかりしてますからね(-_-;)」
レウィリリーネ「ん。シドウや爽矢達「龍」は逆にとても仲がいいのにね(・・?」
アリサ「んむ「竜」と「龍」の違いってやっぱアレかね(・_・?)」
シドウ「儂と爽矢のようにニョロニョロしとるのが「龍」じゃ~(´・∀・`)」
爽矢「兄者……ニョロニョロって(;´д`)」
フォレアルーネ「プププ( *´艸`)ずんぐりむっくりでお腹が出てるのが「竜」だね~(*´▽`)」
ゆかり「何でそんな例えになるんだこら!( `Д´)/「竜」の中でも私はすたいりっしゅなんだぞ!?(≧□≦)」
朱美「こないだのアースドラゴンみたいに、重くなりすぎて飛べなくなるのもいるようだけどね(^∀^)」
珠実「その飛べなくなった奴に、いいようにしてやられておいて何を言うんじゃ己は?(ーωー)」
朱美「あうっΣ(´д`*)それは言わない約束でしょぉ~?(T^T)」
アリサ「しかし、やっぱバハムートって言ったら、カウントダウンからのドッカンやってくるのかね?(ノ≧▽≦)ノ」
ティリア「あの有名なヤツ(-ω- ?)似たような事はするけど、わざわざカウントダウンなんてしないわよ? アイツ(-∀-`; )」
アリサ「えー(´ 3`)パーティーメンバーに魔法反射かけてカウンターでボボーン!ヽ(`ω´)ノってのが面白かったのになぁ~(*゜∀゜)」
ティリア「あ、それ四作目でやったらカウントダウンが速すぎて間に合わなかったわ(>_<)」
アリサ「お、四作目やったの?( ´ー`)あれのバトルスピードを最速アクティブにすると難易度跳ね上がるよね~?(^o^;)」
ティリア「そうそう(´^ω^)ジャンプした奴だけ難を逃れてポツンと取り残されてさ~あはは(^∀^;)」
みんな「な、何の話なんだろう?(;´д`)」




