72話 魔女と冒険者達の再会
────────────────────────────
【リリカさんを救え!】~会議は中断~《聖女view》
────────────────────────────
「マスター、そうと決まれば早速あのむっつりんさんを迎えに行きまっす?」
「そうねアリス、試練は『聖域』でいくらでも用意できるからね」
アイギスの生家である『ルヴィアス魔導帝国』の『ランバード公爵領』。そこに、この世界『ユーニサリア』の『龍脈の源泉』の一つが存在している事が判明した。
但し、『ランバード公爵家』はルヴィアスの統治を是としない、ジェネア王国のクーデターの対称となり滅ぼされてしまっていたのである。
アイギスの世話係りであった、妖精『スノウリリィ』のリリカと言う女性の無念の『想い』が、死を告げる嘆きの妖精『バンシー』によって掬い上げられ、更に『龍脈の源泉』から莫大な魔力の供給を受けることによって、今。帝国全土に悲しい嘆きの雪を降らせ続けている。
皮肉な事だが、『龍脈の源泉』の活性化は、『世界樹』の呪いを解呪した為らしい。
その事実を知った私達は、急遽予定を変更。『世界樹』を成長させる為の、大切な魔力の供給源である『龍脈の源泉』。世界に六ヶ所あるその一つを保護するため、ティターニアの大切な同朋を、アイギスにとって大事な家族を救う為に動き出す!
「あ~大丈夫かなぁ……多分俺、アイギス君に嫌われてるっぽいんだよなぁ~」
「はぁ? なんでよ?」
「皇帝陛下が『ランバード公爵家』を特別扱いし過ぎた為ですよ。それがジェネア王国の反感を買い、クーデターの原因の一つになったのですからね!」
「まったく、この愚帝には困ったものですよ……」
向かうメンバーはルヴィアスとティターニア、私こと聖女アリサさんと、今現在アルティレーネの課した試練……私達の支援を受けずにここ。『聖域』の『世界樹』に辿り着く事。……を成すため、別行動をしているアイギスだ。
その試練を中断し、アイギス達を呼び寄せることにしたのだけど……
「アホぽん……」「ん。アホたれ」「アホち~ん……」「……アホっぺですね」
なんでもアイギスに嫌われてるらしいルヴィアス。その理由を聞けば、バロードくんとオルファちゃんが頭を抱えつつも教えてくれたよ。何やってんだか……構いすぎて嫌われるっていう典型的な例か……これには妹達もあきれて、揃い「アホ」と口にしてしまっている。
「うう、ごめん……アイギス君が産まれてくれた事があまりにも嬉しくてさ……」
しょぼぼーんって私達に頭を垂れるアホ……じゃなくて、ルヴィアス皇帝陛下。彼がアイギスの誕生を喜んだのは、アイギスがかつての朋友……勇者アーグラスの転生体だからだ。
魔神側にスパイとして潜り込んだルヴィアスは、アーグラスに北方大陸を平定したら『公爵』の位を用意しておくと約束していたらしい。残念ながらアーグラスは魔神と相討つ形になってしまったけれど、彼はアイギスとして転生し、その約束を果たしたのだ。この事にルヴィアスは滅法喜び、『ランバード公爵家』を大層重用したらしい。
「えへへ、だいじょーぶだよぉルヴィアス様♪ ユニがアイギスおにぃちゃんに、ちゃんと「嫌わないであげてね」ってお願いしたげる!」
「ユニちゃん~! うぅ、なにこの子、天使!? 天使なの!?」
にこーって満面にその天使の微笑みをたたえたユニにフォローされて、めちゃんこ喜ぶ皇帝陛下でございます。涙目にまでならんでもいいじゃんか……
「アリサお姉さま、私達姉妹はユニの……『世界樹』への『龍脈の源泉』からの魔力供給の調整のフォローに回りますね」
「過剰に『龍脈の源泉』から魔力を吸っちゃうと、『世界樹』にも結構な影響が出るからね」
「具体的に言うと、またあの魔素霧が発生しちゃう」
「そうなっちゃうと、ユグラっち達が耐えられないかんね~結構デリケートなんよ?」
ほほう、なるほどなるほど……ユニは一度『世界樹』に戻って、活性化した『龍脈の源泉』からその魔力を吸って、嘆き続けるリリカさんの力を弱め、私達が近付き易いようにすると言う大役を買って出てくれたのだ。そのフォローに妹の女神姉妹があたってくれるなら安心だね!
「へーんしん解除! っと、んじゃ先ずはアイギスを連れて来て、事情の説明とルヴィアスとの和解からになるのね? アイギスは私が連れて来るから、聖女とティターニア達はリリカさんをどう鎮めるかってのを相談しててちょうだい」
「アリサおねぇちゃん、ユニも行く~♪」
変身魔法を解除して、『人猫』の姿から、普段の魔女の姿に戻ったもう一人の私が『無限円環』から映像通信を通して指示を出してくる。ユニもアイギス達のお迎えに行きたいそうなので快く了解する。
「行ってらっしゃいアリサ。健闘を祈ってるわ」
「私の力が必要な時はいつでも喚んで下さいね!」
ミーナを抱き抱え、『無限円環』内の『アリサさんの引きこもりハウス』から、こちらに戻る為、外に出る魔女にシェラザードとゆかりがそれぞれ一声かけてくれるのがまた嬉しいね。
「うん! アリサさんに任せなさい♪」「にゃあ~ん♪」
シェラザードとゆかりにサムズアップで応えた魔女がミーナを連れて、会議室の『∞』を発光させて戻ってくる。
「なんじゃあ~元のむっちんぼでーに戻ってしもうたのか……儂ゃ残念じゃあ~」
「やかましいわよシドウじいちゃん。さて、アイギス達は今どの辺にいるのかな?」
元の魔女に戻ったその姿を見たシドウがなんぞほざいとるぞ? まったくこのじいちゃんは筋金入りだねぇ……魔女はそんなじいちゃんを軽くあしらい、レイヴンを模したオプションを召喚した。
《おお、わたくしにそっくりです!》
「そうそう、あんた誰かしらを導くっての得意じゃん? だからこう言う場面だとピッタリじゃない?」
別に今まで通り、アリアを模したオプションでも問題ないんだけどね。私の中で最近、オプションを身近な仲間の姿に模す事がブームだったりするのだ。実際そのオプションを見たレイヴンはとても嬉しそうにしてるし、私も楽しい。
────────────────────────────
【お出迎え】~走るおにぃちゃん達~《ユニview》
────────────────────────────
「って訳でまたまたやって来たよぉ~『セリアルティ王城跡地』! アリサおねぇちゃんの『転移』はホント便利だよねぇ~♪」
「ユニには教えても大丈夫かなぁ~? この『セリアルティ王城跡地』にも『龍脈の源泉』があるんだよ?」
ユニはアルティレーネ様が出した試練を受けてる最中の、アイギスおにぃちゃん達をお出迎えするために、アリサおねぇちゃんと一緒に『転移』でこの『セリアルティ王城跡地』にまで戻って来たの! えへへ、アリサおねぇちゃんと一緒にいたくてちょっとわがまま言っちゃった♪ こうしてアリサおねぇちゃんと二人きりになることって最近なかったから凄く嬉しい! って、ミーナちゃんも一緒だったね。
そんなアリサおねぇちゃんは、ユニに『龍脈の源泉』についてお話をしてきた。
「もちろん知ってるよぉ~? 逆にユニはアリサおねぇちゃんが知ってる事にビックリなんだけど……」
「ああ、やっぱり『龍脈の源泉』から魔力の供給を受けてる『世界樹』だけあって知ってるんだね? 私は前世でチラッとそう言う話を聞いたの覚えてたから気付けただけなんだけど……」
むむん! それだけで気付くアリサおねぇちゃんはやっぱりすごい!
「ユニはティリア様から教えられたから、流れてくる魔力がその『龍脈の源泉』からのものだってわかったんだけど……あ、ちびレイヴンちゃんがアイギスおにぃちゃん達を見付けたみたいだね!」
「お、ホントだ。結構近くまで来てたんだね……時間的にこの王城跡地で一泊して明日の朝に『聖域』に渡るつもりだったのかな?」
アリサおねぇちゃんに凄いねって言おうとしたとき、先行して飛ばしたアリサおねぇちゃんのオプション。レイヴンをちっちゃくした、ちびレイヴンちゃんから映像通信が送られて来たの。
「ほほ~ん……こりゃまた見事な陣形敷いてるねぇ、中央にサーサ達魔法使いを置いて、魔物が近付けないようにしてるのか」
「早速声掛けようアリサおねぇちゃん♪」
「ふむん、ちょっとイタズラしちゃダメかなユニ?」
ええ~駄目だよアリサおねぇちゃん! もう~何言ってるの?
アイギスおにぃちゃん達を見付けて、その様子を確認したアリサおねぇちゃんはティリア様やフォレアルーネ様がよくする、「悪巧み」を考えてる時みたいな、うへへ顔してそんなこと言い出した。アイギスおにぃちゃん達が組んでるじんけーを見て何かちょっかい出したくなっちゃったの?
「もうっ! 『聖域』でみんな待ってるんだから、遊んじゃダメ! 早くリリカちゃんを助けてあげないといけないんだからね~?」
「はーい。ごめんなさい。じゃあ声掛けるよ~?」
あむちょって『セリアルティ王城跡地』の中央の広場にテーブルと椅子、用意したお菓子のクッキーを食べて映像通信を見つつ、ちびレイヴンちゃんを操作するアリサおねぇちゃんだ。ユニはミルクでクッキーをあむあむ♪
「はーい♪ みんなぁ~元気? アリサさんだぞーい♪」
「アリサ様!」「おー♪ アリサじゃねぇか!」「元気だぜ~アリサ姉ちゃん!」
「ユニちゃんも一緒だぁ~♪」
わぁ~って、アリサおねぇちゃんの映像通信に気付いたアイギスおにぃちゃん達が、ちびレイヴンちゃんの前に集まって来る。えへへ、みんな元気そうで安心しちゃうね!
「ちょいと緊急事態が発生したわ。試練は一時中断! 貴方達は急いでこの『セリアルティ王城跡地』まで来てちょうだい!」
「緊急事態ですって!?」「あー、いや……とてもそうは見えないんだが?」
レイリーアちゃんがびっくりして聞き返してくるけど、バルドお兄ちゃんはややあきれ顔してる。
「めっちゃピクニックを楽しんでるようにしか見えないですよアリサ様……」
「否否否! アリサ様が『緊急事態』と言うからには緊急事態なのだ! 急ぎ向かいましょう皆さん!」
「然り! レーネ様が課した試練を中断するほどの事態! 俺は行きますぞ!?」
サーサちゃんもユニ達がお菓子食べてる姿を見て、えぇ~? って顔するけど、ムラーヴェさんとガウスさんの言う通り緊急事態なんだよ~?
「待てムラーヴェ、ガウス! 私達も行く! それでアリサ様、その緊急事態とは一体?」
「……アイギス。貴方に関係することよ?」
アイギスおにぃちゃんが逸るムラーヴェさんとガウスさんを慌てて引き留めて、アリサおねぇちゃんに向き合った。アリサおねぇちゃんは、ちょっとつらそうな顔を見せて、アイギスおにぃちゃんに呼び掛ける。
「とっても、とっても大事なことなのアイギスおにぃちゃん……だから急いでここまで来て?」
「…………」
ユニも真剣にアイギスおにぃちゃんに呼び掛ける。それが伝わったのか、アイギスおにぃちゃん達は事態を重く受け止めてみんなで顔を見合わせて頷く。
「畏まりました。アリサ様、ユニ殿! 急ぎ『セリアルティ王城跡地』に向かいましょう! 皆! 駆け足だ! このまま一気に行くぞ!」
オオオォーッ!!!
アイギスおにぃちゃんの号令でみんなが走り出す。待ってるから頑張って!
────────────────────────────
【みんな元気】~おねぇちゃん安心です~《魔女view》
────────────────────────────
「でも、アリサおねぇちゃん? どうしてアイギスおにぃちゃん達をここに走らせたの? 『転移』で向かえに行けばもっと早かったんじゃないかな?」
用意したテーブルと椅子にクッキーを片付けて、『セリアルティ王城跡地』の中央広場でどどーんと仁王立ちする私にユニがそう聞いてきた。
「うん、確かにそれが一番早いんだけどね……内容が内容だから、私もどう伝えようか迷っててね、ちょっと考える時間がほしいんだよ」
「あ……そっか……アイギスおにぃちゃんにとって、その、悲しいお話……だもんね」
そうなのだ。「連れてくる」などと軽々しく引き受けたものの、事情を知らないアイギス達は当然理由を聞いてくるだろう。その理由をどう説明したものか……今になって悩んでしまう。
「どう話せばいいと思うユニ? いっそのことズバッと言っちゃうべきかな?」
「う~ん……どうしたってアイギスおにぃちゃんには、つらい事実を知ってもらう事になっちゃうんだし……変に隠したりぼやかしても仕方ないと思うよ~?」
そう……だよね、未だ嘆くリリカさんに直面してもらう事になるし……うん。ここは包み隠さずに、一から経緯をきっちりと話して理解してもらうとしようか。辛い話だけど、彼女役の私がしっかり支えてあげなくては!
「いたっ! おおーい! アリサ様ぁーっ! ユニーっ!」
「わぁ~ゼルワお兄ちゃんはやーい! 一番だねぇ~♪」
「はぁはぁ……や、やるわねゼルワ……はぁ~足の速さじゃ敵わないわぁ~」
うんうんと考えをまとめて頷いていると、ゼルワがいの一番に到着した。その健脚をユニが凄いと褒め称えていると、次いでレイリーアがやってくる。うむ、流石は『斥候』と『弓士』だ。
「お待たせ致しましたアリサ様! 緊急事態とは一体なんなのでしょうか?」
「試練を中断するほどの事態ってなんなのですか!?」
そして、アイギスとサーサも合流。短い期間だけど『聖域』で訓練を続けた分、やはり『黒狼』の面々よりも速いね。その『黒狼』のみんなと、ガウスとムラーヴェ、殿を務めているドガの姿も視界に入ってきて、順々に私達の前にやってきたよ。
「アリサ~ユニ~来たぞ~!」
「済まないアリサ殿、ユニ殿。待たせてしまったか?」
ガッチャガチャと武器に鎧を鳴らせて走ってくるセラちゃんとバルドくん。うぅ、なんか大変そうだ、悪いことしちゃったかな?
「アリサ様……ミソスープに弁当……凄く、うまかった……感謝!」
「是非とも私にその『フリーズドライ製法』を御教授下さい!」
「アリサ様~ユニちゃ~ん♪ あれれ? アリスちゃんは一緒じゃないんですねぇ?」
デュアードくんにシェリーの二人は到着するなり、お弁当と携帯食にと、お試しで作った『フリーズドライ』による味噌汁についての感想を言い出した。『セリアベール』を出る前に作っておいたお弁当をお気に召したようでなによりなにより♪ フリーズドライ製法はまだまだお試し段階。ビニール袋のような便利な物がないので、包装紙に空気を遮断する魔法『空気遮断』を施さないと日持ちしないのだ。その辺りをもっと一般的な物に変えないと、流通させられない。
それで後に続くのがミュンルーカ。彼女は私達に陽気に声を掛けるけど、アリスの姿がないことに少し残念そう。
「アリサ様! ユニちゃん!」
「おいーっす! 二人とも~たった二日程度なのに、なんかもう久し振りって感じだぜ!」
元気いっぱいの声をあげるのはミストちゃんとブレイドくん。可愛いカップルは揃って私達の前に来て挨拶してくれた。うんうん、道中何もなかったみたいでお姉ちゃん安心です。
「ほれ! 急がんかお前達!? もう皆集まっておるぞ!?」
「うおおっ!! 言われずともぉーっ!」
「アリサ様! ムラーヴェ罷り越しましたぁーっ!!」
そして最後にガウスとムラーヴェをせっつきながら、その背にでっかいリュックサックを背負ったドガがやってくる。なるほど、確かにさっき話に挙がったように荷物を担当する人員ってのは必要なんだねぇ。
「……うん、全員揃ったみたいだね」
「えへへ♪ みんな元気そうでよかったよ!」
この『セリアルティ王城跡地』の中央広場に集合したアイギス達を見て、その元気な姿を見て、無事でなによりと、安心した私とユニはまず労いの言葉を掛けた後に、道中異常はなかったかを尋ねた。
それによれば、多少魔物の襲撃はあったそうだが別段てこずる事もなく、撃退して来れたとのことだ。魔物の襲撃は旅をしていれば少なからずはあるものだそうなので、別に異常と言うほどでもないらしい。
「──ですので、私達には特に異常はありませんよアリサ様」
「はい、それでは聞かせて頂けますか? 私に関する事とは一体……?」
その旨をサーサから報告されて、安堵する私にアイギスから何があったのかを聞かれる。
さて、それじゃあ包み隠さずに話すとしましょうか。
────────────────────────────
【なんて事だ】~落ち込んでる暇はない~《アイギスview》
────────────────────────────
「……冒険者は過去を詮索しない。って言う暗黙のルールがあるって、ゼオンから聞いたよ。今から話すことはアイギスの過去にまつわることなんだけどさ……」
アリサ様は少し不安気にそのお顔を曇らせ、私達に向かってそう仰った。ゼルワ達や、バルド達『黒狼』、そしてガウスとムラーヴェのいる前で話してもいいものかどうかお悩み下さっているのだろう。なんとお優しい心遣い……
「問題ありません。アリサ様! 『白銀』の皆は勿論、バルド達『黒狼』も、ガウスとムラーヴェも……今や私にとってかけがえのない朋友達です。遠慮なさらずに仰って下さい!」
アリサ様のお優しい心遣いを無駄になどできない。安心してお話頂きたい! いずれ落ち着いたら彼等には私の過去を打ち明けようとは思っていたことだし、それが少し早まっただけのこと。
「アイギス……その言葉、嬉しく思うぞ! 俺達も心して聞くことにしよう」
「どんな過去があろうと、アイギスはアイギスだって事に変わりねぇからな!」
おうっ!! そうだそうだ!
バルドとゼルワの言葉に皆が揃い同意の声を挙げてくれる。本当に……私は良い仲間に巡り会えた。彼等とアリサ様達がいてくださるのならば何を憂いる事があろうか。
「そっか……それを聞いて安心したよ。勿論私もアイギスを支えるつもりだから……しっかり聞いてね?」
そうして、ゆっくりと話し出すアリサ様。その内容は中々衝撃的なものであった……
まず、私の祖国である、『ルヴィアス魔導帝国』が大変な豪雪に見舞われていること。
幼少のおり、私の生家『ランバード公爵家』をよく気にかけて下さり、私とも遊んで下さったルヴィアス皇帝陛下が実は魔王であったこと。
そしてなにより……
「リリカがそんなことになってしまっているのか……」
流石に……ショックが大きい……アリサ様のお話を伺い、その事実を知った私はどうしても項垂れて『セリアルティ王城跡地』の広場の床を睨め付けてしまう……
多忙であった両親に代わり、乳母として、世話役として……時に姉のように私を育ててくれた『スノウリリィ』……十年前のあの日、迫るジェネア王国の刺客から必死に私を逃がし、『セリアベール』行きの船にまで導いたリリカが……
「アイギス大丈夫!? お願い、気をしっかりもって!」
「アイギス! しっかりしろっ!」
俯く私にアリサ様とバルドの声が掛かる。映像通信からは、変わり果てたリリカが今も尚その悲痛の叫びを挙げ、その嘆きは吹雪となって帝国全土に降り続けている。
「帝国の皇帝が魔王だとか、アイギスが公爵家の嫡男だとかそんなことどーでもいいぜ! なぁアリサ! この『スノウリリィ』を助けてやりてぇよ!!」
「そうです! こんなの悲しすぎます!」
「アイギスさん、お辛いかもしれませんけど……どうか顔を上げて!」
「お前の……大切な……家族、なのだろう……? 悩んだり……落ち込むのは……後だ……」
セラ、ミスト、ミュンルーカ、デュアード……そう……そうだな……アリサ様は彼女を、リリカの事を助け出すと仰っておられる……そのために私の説得が必要なのだと……
「アイギスさん! 行って下さい!」
「応、俺達は『聖域』でお前の……いや、お前達の帰りを待ってるからよ!」
ブレイド、ゼルワ……ああ、そうだな! リリカは私の大切な家族。その家族をこのままにはしておけない!
「皆、有り難う! 私は大切な家族を救うためアリサ様達と共に帝国へ飛ぶ!」
「その意気ですアイギスさん!」「然り! それでこそ『セリアベール』の英雄ですぞ!」
「そうこなくてはのぅ!」
「待ってますから、ちゃんと『聖域』に帰ってくるんですよ?」
「そうそう! あんたまだギドに借金してんだから、それ忘れちゃ駄目よ?」
私は俯いていた顔を上げて、仲間達に力強くそう宣言した。たった一人の大切な家族を救うため、私は行こう! ムラーヴェ、ガウス。そして『白銀』の仲間達からも熱い激励を受けて私は奮起する! 待っていてくれリリカ……私はこんなにも成長し、頼れる仲間にも恵まれたぞ?
「私は無事なのだと、リリカに教えてやらねば! アリサ様、ユニ殿。どうか私をお連れ下さい!」
「うん……絶対助け出そうね! よかった……貴方の心が折れなくて」
「うんうん! あ、そうだ……アイギスおにぃちゃん。ルヴィアス様のことあんまり嫌わないであげてね? ルヴィアス様とーってもはんせーしてるから♪」
私の心が折れないのは仲間達の支えと、何よりアリサ様が親身になってリリカを救うと仰って下さったからです……心から感謝します!
って、ユニ殿? 私は別に陛下を嫌ってはおりませんよ? ただ、まぁ……少々構いすぎるところがありますから……そこが少し苦手でしょうか? 何にせよ陛下とお会いするのも十年振りとなりますし……落ち着いていらっしゃるでしょうから大丈夫です!
「……落ち着いて……る?」
「う~ん……なんか飄々としてるようで、見るとこ観ててさ、ここぞって時は上手いことやってのけるんだけど、それと同じくらいアホアホムーヴかますんだよねぇ」
……え? もしかしてあまり変わられていないのだろうか? 昔も父と母、それに加え従者の方にまで叱られていらっしゃったが……不思議そうな表情のユニ殿に、あきれたお顔のアリサ様を見て若干不安になってしまう。
「その従者ってバロードくんにカレンちゃんとオルファちゃんかな? ついさっきその三人に殴られてたよ~あはは♪」
ぶふっ! や、やはり変わられていない! ええ、ユニ殿。私が幼少の際にもその三人に何かと叱られておられましたよ。私の呟きを拾ったユニ殿の言葉に思わず吹き出してしまう。どうやら陛下は今もあの三人を側に置いておられるようだ。
────────────────────────────
【バンシー】~『聖地』の妖精~《アイギスview》
────────────────────────────
「ルヴィアス陛下は私の生家……『ランバード公爵家』を「聖地と思われる場所に建てた」と、仰っておられましたが……」
《アアアァァー!! アイギスアイギスサマアァーッ! アアァァ……》
十年前に焼き払われ、今や屋敷の面影がかろうじて残る廃墟の庭で一人……亡霊となったリリカはバンシーにその無念の想いを拾われて憑依し、私の名を叫び続けている。バンシーの背後にうっすら見える亡霊となったリリカのその表情は歪み、泣き叫ぶもの……
いたたまれない……在りし日の彼女は、その美しい蒼白の長い髪を揺らし、優し気な瞳を細め、にこやかに微笑みながら私はおろか、他の使用人、更に両親にまでイタズラを仕掛けるような楽しい『スノウリリィ』だったのに……それがこんなにも変わり果ててしまうとは。
「『聖地』っていうのは間違いじゃないんだ……この世界にはアイギスん家みたいな『聖地』が他に五つあってね……ここ『セリアルティ王城跡地』もその一つなんだよ」
「ここもですか? あ、そうか! だからあの聖騎士団達がずっと残っていられたのか!」
恐らくだが……リリカは幼い私を船に乗せた後に刺客に討たれたのだろう……しかし、その身は朽ちても、私を想うその心は……魂は現世に留まり、『聖地』である『ランバード公爵家』の屋敷に導かれたのかもしれない……今のアリサ様とゼルワの話を聞いての予想だが……
「ティリアが言うには、アルティの祝福が残っているのも大きいそうだよ」
「アイギスさんの御実家にも女神様の祝福があるのですか?」
いや、アリサ様が仰っているのは『三神国』のことで、私の『ランバード公爵家』には女神様方の祝福は授けられてはいないはずだ、ムラーヴェ。
「聖騎士達が自我を保ち留まっていられたのは、アルティレーネ様の祝福が影響しているのであって、『聖地』である事はそんなに関係はないんでしょうね。アリサ様のお話ですと、『聖地』の活性化はユニちゃんの呪いが解呪されたからってことですし」
「それもつい最近の事なのよね? となればやはりこのバンシーの存在が大きいんだわ」
サーサとシェリーが議論を交わし始めた。なるほど、と思う。確かに多少魔力の多い土地ではあったものの、『世界樹』の解呪までは、ただそれだけの土地に過ぎなかった。
「バンシーは死を告げる妖精だと聞いておるが……アイギスよ、北方ではよく見かけたりするのかのう?」
「そのあたりも気掛かりですよねぇ~妖精同士で気が合うのか、バンシーにスノウリリィが憑依する~ってのも珍しいような?」
ドガとミュンルーカはこのバンシーが何処から来たのか疑問のようだ。どうだっただろう? 私がまだ幼かった十年前には領地にバンシーの出現情報など聞いたことがなかったが……この十年の間に変わったのか?
「……なんにしてもさ、ここで議論を交わしてても進展しないからね。ユニ、どう?」
「うん! 『セリアルティ王城跡地』のポイントには問題ないみたいだよ! アリサおねぇちゃん、お待たせしてごめんね?」
私達が何故直ぐに『聖域』へ移動しないのか? それは、ユニ殿がこの『セリアルティ王城跡地』の『聖地』としての状態を確認していた為だ。なんでも『世界樹』の成長にかかわる事だそうで、詳しくは話せないらしい。
「大丈夫だよユニ、後で他の場所も確認しようね?」
「うん! じゃあ『聖域』に戻ろう~きっとみんな待ってるよ!」
アリサ様とユニ殿はそう互いに微笑み、頷き合う。さあ、私も気を引き締めて臨もう。
二度目の『聖域』、十年振りとなる皇帝陛下との面会と帰郷……待っていろリリカ! 必ず君を救い出して見せる!
ルヴィアス「ああああ……緊張するなぁぁ~ヽ(´Д`;≡;´Д`)丿」
ゼオン「さっきからやかましいっての┐( ̄ヘ ̄)┌」
ティリア「そうよ~ちょっと落ち着きなさいよ、このアホぽん!(*`Д')」
バロード「正直……(-_-;)」
カレン「滅茶苦茶……(*゜ε´*)」
オルファ「うっっっざぁぁ~いぃ!(#゜Д゜)ノ」
ルヴィアス「だだだっ!Σ(゜Д゜;≡;゜д゜)だってさぁぁーっ!?(`□´)はっ!((゜□゜;))そうだアイギスくんはどんな感じに成長したんだい!?o(*゜∀゜*)o」
聖女「さっきからあっちこっちウロウロしたと思ったら……(^_^;)マジでうざい奴になっちゃってるわよルヴィアス(-ω- ?)」
ルヴィアス「気になるんだもん!(*つ▽`)っ あの可愛かったアイギスくんが一体どんなに立派に成長したんだろうって!(ノ∀\*)」
ラグナース「ルヴィアス様って長年帝国を統べておられる厳格な帝王だと思ってましたが……こんなに楽しい御方だったのですねぇ(´▽`)」
フォレアルーネ「楽しいっていうか、ただのアホっぺだよ( ̄▽ ̄;)ラグナっち」
アルティレーネ「神界にいた頃からちっとも変わっていません(;-ω-)ノ」
レウィリリーネ「ん……まぁ、やるときはしっかりやるんだけど……(-_-;)」
ルヴィアス「今は俺のことなんてどーでもいいじゃん!ι(`ロ´)ノどーなのどーなのティリア!?ヽ(#゜Д゜)ノアイギスくんはどーなの!?」
ティリア「はいはいヾ(・ω・ヾ)喜びなさい、アーグラスと瓜二つに成長してるわよ~( ̄ω ̄;)」
ルヴィアス「Σ(*゜д゜ノ)ノ……。・゜・(ノ∀`)・゜・。!!゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜」
全員(うぜぇぇぇーっ!!?(≧□≦))




