8話 魔女と『聖域』防衛
【天馬は駆ける】~ペガサスview~
『聖域』の再生が始まった! 同時に「魔神の残滓」が沢山わいて出てくる。
「この『聖域』を汚す不浄な奴等め! 僕の雷で消し去ってやる!」
僕は聖なる魔力で身を包み、嘶きと共に解き放つ!
「聖雷!」
ズガガガァァーンッ!!
空気を切り裂くような雷鳴が轟き、「魔神の残滓」達を消し去って行く。凄い!
自分でやったことだけど、魔女さまの聖なる祝福で強化された僕の雷は今までとは比べられないような威力をもっていた。
「それにすぐさま回復してくる! これなら何回でも放てるぞ!」
普段なら、僕の魔力が枯渇するからそう何度も使える魔法じゃないんだけど、この蒼炎のオーラに守られている限り、魔力が即座に回復して何度でも使えそうだ! なんて思った矢先、僕の横を魔女さまの聖炎が通りすぎ、早くもわいた敵を灰にした。
「ペガサス、油断しないで。周囲を警戒してね!」
僕の肩越し、顔の斜め上に四角い額縁が突然現れて、魔女さまの顔を映して声を届けてきた。確か魔女さまは映像通信って言ってたっけ? 結構距離が空いてるのにまるですぐ隣に魔女さまがいらっしゃるみたいだ、不思議!
「ありがとうございます! 魔女さま! 頑張ります!」
僕は「魔神の残滓」達の攻撃をかわしては雷で焼き払ったり、鬣で切り裂いたりしながらお礼を言う。
『聖域の魔女』アリサさま……本当に不思議なお方だ、僕達では全然想像もつかないような魔法を次々に使う。時にそれは女神様達をも驚かせていた。
冒険者とかにいる魔法使いとも違う不思議な衣装、ホウキに乗って空を飛ぶなんてことしてる人なんて見たことがない。
しかし、その実力はおりがみつきで僕が手を焼いたミッドルも一瞬で蹴散らした。そして今もそのお力に沢山助けられている。
僕はあの方をもっと知りたい、出会って間もないけど。お話した感じとても優しそうだったし、お側にいるととても心地良いんだ。
「それに、次は何をやるんだろう? って、ワクワクさせてくれるんだよね!」
だから、絶対にこの戦いを乗り越える! 魔女さまと女神様達、世界樹のユニちゃん……そして、僕の同胞達の未来を勝ち取る為に!
【聖虫は思う】~セイントビートルview~
有難い。何度そう感じたことだろうか?
アリサ殿は言った、ここで立ち向かわねば今を生きる生命を見殺しにしてしまう。と、そう言ってくれたのだ。
我等虫系の魔物は総じて弱い。それは聖虫となってもそう変わらぬ。
先の戦いで主だった同胞は無念のうちに散り、今やまともに戦えるのは我くらいなものだ、そう、我等は「今を生きるのに精一杯」なのだ。
「故に負けられぬ……残してきた女、子供達は戦えぬのだ」
我は自らを風の弾丸とし、「魔神の残滓」達を貫く。レッサーデーモン、合成魔獣共を次々に倒して行くものの、息をつぐ暇もなく黒い紫煙からまた奴等は現れる。
闇の魔法弾や、様々な属性の魔法が飛び交うも我を覆う蒼炎はその総てを打ち消した。
「素晴らしい! アリサ殿が与えてくれたこの力! 存分に振るわせてもらおう!!」
魔力を高め更に加速する、一向に尽きぬ魔力に物いわせ放つ魔法破壊の暴風!
ズゴオオォォーッッ!!
我を中心に暴風が吹き荒れ「魔神の残滓」共を風圧で叩き潰し、切り裂いては滅ぼす! うむ、威力が格段に上がっている!
「セインちゃん凄い魔法持ってるじゃん! ちょっと真似していいかな?」
我の前にアリサ殿の映る四角い板のような物が現れる、これはアリサ殿の通信魔法だ。自分も戦いながら我等の動きも把握しているのか。いやはや、どれほど多彩な魔法を使われるのか……底知れぬお方よ!
「うむ! 我の魔法が役に立つのであれば遠慮など無用!」
「ありがとー! じゃあやってみるね!」
アリサ殿はそう言うと、小さいホウキが飛んでくる。確かおぷしょんとか呼んでいたものだな。
ホウキが起き上がりくるくるとその場で空を掃くと、凄まじい竜巻が巻き起こる!
ビュオオオッッーッ!!
なんとその竜巻は周囲の「魔神の残滓」を巻き込んで、暴風の檻に集めていく!
「おぉ! これは!!」
間髪入れず放たれた聖炎がその竜巻に吸い込まれ、集められた「魔神の残滓」をすべて灰にした。
「よし、上手くいったね! かき集めて一掃! セインちゃんの魔法を見て思い出したんだよね」
なんてことないように言ってくれるアリサ殿。これは参った、敵わぬな。だが、心強いことこの上ない!
「見事だアリサ殿! 『聖域』再生まで我も死力を尽くそう!」
【我等空の覇者】~ガルーダview~
あの日、魔神の手によって世界樹が呪われたあの日から、我等は空を駆ける事が出来ずにいた。
呪いを受けた世界樹は我等空の住民の悉くをその葉で、その枝で、その魔法で撃ち落としてしまったのだ。
空を舞う我等が飛ぶことを許されぬその屈辱、歯痒さ……そんな惨めな思いをしながら幾星霜、雌伏の時と何度己に言い聞かせ耐えて来たことか。
《だが、遂にそれも終わり、今再び自由に空を駆ける事が出来るようになった》
『聖域の魔女』と呼ばれるあの少女。
彼女が世界樹に掛けられた魔神の呪いを解呪してくれたお陰だ。更に彼女は黄龍殿に掛けられた呪いすらも難なく解呪した。
《アリサ殿、であったな。心より感謝したい!》
「なんぞ、ガルちゃん? お礼言うにはまだ早いんじゃないの?」
驚いた、聞いていたのか……? 通信魔法の応用、と言うにはあまりにも高度であろうその映像から魔女殿の様子が伺える。一体どれだけ緻密な制御を成しているのか、興味が尽きぬな。
《ふっ、そんなことはない。こうして空を駆ける事が出来るだけでも有難いものよ》
「魔神の残滓」の陣容に変化があった。レッサーデーモンはアークデーモンに、合成魔獣はより巨体に。それぞれ強力な個体が現れる。
「10分でここまで強化してくるのか……モコプーが心配ね」
《なに、心配いらぬ。今に我が朋友、眷属達が駆けつけよう》
光の翼。我が翼を光の剣とし、駆ける! 「魔神の残滓」は成す術なく光の粒子となって散って行くのみ! そうして我は高度を上げる。
熱光線。両翼を大きく広げ、炎熱の熱線を射ち放つ! 熱線はアークデーモンを、合成魔獣を焼き斬り発火し燃やす。
「それって増援イベント!? いいね! どれどれ……」
魔女殿はそう言うとなにやら視線を中空に向ける。いべんと? とやらは何かわからぬが、どうやら我等には見えぬ何かが見えているのだろう。
「あ、これだ! 無数の青いマーク、フェニックス! それに……ヤタガラス! グリフォンの大部隊!!」
《うむ! やはり来てくれたか!!》
我の朋友、不滅の焔鳥。フェニックス!
太陽の使者、導きの鳥。八咫烏! そして眷属たるグリフォン達。心強い増援の到着だ!
「ありがたや~! 早速モコプーの応援に向かってもらいたいんだけど、私が指示出していい?」
《ああ、勿論だ! 彼等も魔女殿に感謝していたからな、快く引き受けてくれよう》
「オッケー!」そう言うと魔女殿は、合流を果たした朋友達と二三、会話する。
ふむ、今更ではあるが、よく他種族と会話が通じるものだな。我にモコプーは通信魔法が使えるのでわかるが……セイントビートルは意志疎通が難しい、あの身振り手振りから一体どうやって読み取れと言うのか?
フェニックスと八咫烏は通信魔法も使えるし、理性的なので十分に会話が可能だろうが……グリフォン達との会話は難しいのではなかろうか? 彼等は魔獣に近い存在で野生的なのだ、当然、通信魔法など使えぬ。
「──と、言うわけだから、お願い! モコプーを助けてあげてくれないかな?」
《かしこまりました、アリサ様。このフェニックス、あなた様の御為に働きましょう!》
《同じく、八咫烏。アリサ様を勝利へと導いて御覧にいれましょう!》
《《ぐわぁぁーあっ!!》》
なんと、フェニックスと八咫烏の二羽はともかく多数のグリフォン達も揃って魔女殿にその頭を垂れたではないか!!
「みんな、ありがとう。聖なる祝福! 一緒に頑張ろう!」
《魔女殿はグリフォン達とも意志疎通ができるのか?》
「あー、うん。そういやなんでだろうね? アルティ達が何かしたんじゃないかな?」
《ふむ、まぁなんにせよ、戦力が増えたのだ。気張らねばな!》
【それでも希望を謳う】~モコプーview~
アークデーモンが放つ闇魔法闇の炎がわたしをまるっと包み、漆黒の炎で焼き尽くそうとしてきます。
(ちょっと~! わたし焼いて焼き鳥にしても美味しくありませんよぉ~!?)
その度魔女さまの聖なる祝福に助けられている状況です。はい、情けないですね。
合成魔獣の引っ掻きや、噛み付きを魔女さまの箒がシールドで防いでは、カウンターとばかりに様々な魔法で返り討ちにしてくれます。いや~、魔女さまさまですねぇ!
(嫌ですいやです~! おさわり厳禁ですよ!?)
わたしはその大きな体のせいで格好の的になるんですよ。そして、この場の誰よりも戦う術を持っていません。平和主義者ですからね。
そんなわたしができる事といえば、騒いで目立って敵を引き付ける事です。わたし達モコプーはこの世界で希望の象徴とされているだけあって、こういう「魔神の残滓」達のように悪~い輩からよく狙われるんですよぉ~。まったく、いい迷惑ですね!
(家族や友達も、真っ先に魔神に殺されちゃいました……)
忘れもしませんよ……のんびりして平和で優しかったあの日々が、生活が、突然壊されたあの時を。
魔神は勇者達に倒されましたけど……その残滓達が『聖域』に蔓延り、世界樹が呪いを受けてしまったので空を飛ぶこともできず……今の今まで怯えて過ごしてきました。
(その世界樹の呪いも解呪されて、女神様達も無事に顕現。黄龍様の呪いも解けて……ようやく希望が見えてきたんです)
そして今、最後の呪いに立ち向かおうと言ってくれた魔女さま。
嬉しかったです……確かに『聖域』の再生が解呪条件なら、世界樹に任せておけばいずれ、何百年後かに勝手に、何事もなかったように解呪はされるでしょう。
(でもそれって、何百年と「魔神の残滓」達に怯えて暮らせってことじゃないですか? 嫌ですよ、わたしはもっと自由に暮らしたいんです。あの日々を取り戻したいんです!)
だから、魔女さまの言葉が嬉しかった。わたし達のような者達の思いも汲んでくれた事が、なによりわたしを奮い立たせてくれる!
(だから、わたしは謳い続けますよ。世界の希望を!)
さぁ! 来なさい「魔神の残滓」共め! お前達が討ちたい希望はここですよ!
希望の光!
わたしは全身をペカーって光らせます! 勿論ただ光るだけじゃありませんよ~? 魔女さまの聖なる祝福には及びませんが、仲間達の力を強化してバリアを張るんです!
(いや、ほんと……魔女さまの支援には遠く及びませんけどねって! いっぱいキター!!)
そうです、希望の光は文字通り「希望の光」。「魔神の残滓」共にとっていい標的です。周囲の敵がわたしに向かってきます! 正直怖いです!
「ちょっとモコプー! 無茶しないの!」
(あぁ~魔女さまのバリアとわたしのバリアがあってもこわーい!! なる早で助けてくださいねぇ~!)
「馬鹿ね、気負いすぎよ。少し耐えなさい、心強い味方が向かってるから」
映像通信でわたしの様子を伺っていたんでしょう、心情をみすかされているみたいで、軽口をたたくわたしを諫めてくれます。本当に敵いませんね。
(はてさて、それはともかく心強い味方ですか?)
わたしはひたすら「魔神の残滓」共から逃げまどって、その味方とやらが来てくれるのを待ちます。
「それでさ、モコプー。あなた、何か違和感感じたりしてない?」
ガキィンッッ!! と、箒がシールドで合成魔獣の攻撃を防いで、ゴオオォォーッッ!! 轟音を響かせて雷撃の粒子砲が敵を消し去ります。これは青龍さまのブレスですね、ほんとに何でもできちゃうんですねぇ~魔女さま凄い!
一方ではもう一つの箒が竜巻にアークデーモン達を巻き込み、聖炎で一掃しています。
(違和感、ですかぁ? 一体何に対してでしょう?)
「解呪の条件について。『聖域』の再生がそれって……大雑把すぎじゃない?」
どうやら魔女さまはこの呪いの『発生源』が何処かにあると思ってるようです、なるほど~言われてみれば確かに「『聖域』の再生」という条件は曖昧に思えます。
「多分、ティリアさまは明確に助言できないんだと思う」
(あぁ~他の神様の目がありますもんね。それで曖昧にしてヒントを与えてくれたってことですか? 結構ギリギリ攻めてきたんですね……感謝しなきゃいけませんねぇ~!)
「確証はないんだけど、確信はしてる。私も探って見るから、モコプーも何か感じたら教えて!」
(了解ですよ~! 一時間も逃げまどうのもきっついですからね、頑張って探してみます!)
わたしの勘の鋭さを見込んでくれたんでしょう、魔女さまは「お願いね」とわたしを頼ってくれました。ふふ~ん♪ 嬉しいですねぇ!
増援のフェニックスさまと八咫烏さま、それにグリフォンさん達が到着してくれましたから、魔女さまの依頼に注力しましょう!
【感じる違和感】~アリサview~
私は考える。ペガサスを支援しながら並列意思、思考加速を駆使して聖炎を維持。
「ティリアさまが教えてくれた、この呪いの解呪条件。『聖域』の再生」
セインちゃんをオプションで支援、前世でやってたMMORPGでのLv上げ方法に敵をかき集めて大火力の範囲魔法でバッタバッタと倒すという非常に効率の良い狩り方があったのを思い出したので実行してみたけど、上手くいったね。
「随分と曖昧な条件だと思ったんだよね、ユニに掛けられた呪いみたいに明確に目に見える訳じゃないのかな?」
ユニは三層の呪いに囚われていた、それはしっかりと目で見てわかるものだった。黄龍は赤黒い禍々しいオーラを纏っていた、間違いなくそれが魔神の呪いだろう。では、今回は?
《アリサ殿、であったな。心より感謝したい!》
「なんぞ、ガルちゃん? お礼言うにはまだ早いんじゃないの?」
映像通信からガルーダの声が聞こえた、なんかお礼言われたけど気が早いと思う。
《ふっ、そんなことはない。こうして空を駆ける事が出来るだけでも有難いものよ》
ん、そうか、ユニが呪いを受けたから空を飛ぶと撃ち落とされてしまったんだっけ。私も葉弾で攻撃されたね。
鳥なのに空を飛べないのはさぞ生きづらかっただろう。
ガルーダが言うにはそろそろ増援が来るだろうと言うのでマップを確認。有名な不死鳥フェニックスと、ヤタガラスがグリフォンをいっぱい引き連れて私の元にやって来た。
《お初に御目にかかります、魔女さま。私は不死鳥フェニックス》
《同じく初めましてに御座います、わたくし導きの霊鳥八咫烏と申します》
《我等此度の異変に立ち向かうべく馳せ参じまして御座います!》
《魔女さま、どうかこの戦! 我等にも「魔神の残滓」共の御首あげさせてくださいませ!!》
いや、何処の武士だねキミ達は?
ぐわぁっぐわ~!!
二羽の挨拶の後グリフォン達がなんか言ってる。え~と、なになに?
《べっぴんだ! べっぴんだ! ウヒョー♪》《やっべ! チョー美人なんだけどぉ!?》
《俺等のご主人だ!》《めっちゃタイプゥ♪》《お近づきになりてぇ~!》
《カレシとかいるんスか? いないなら俺なんてどースか!?》
……なんつーか、チャラいなコイツ等、状況わかってんのかな?
「あなた達って食べたら美味しいかしら?」
《ぎゃあぁーっ!》《か、勘弁して下さい!》《さ、サーセンっしたぁ!》《チョーシこきました! 許して下さい!》
ちょっと魔力をこめて殺気を飛ばすと、態度を一変させるグリフォン達。大丈夫かなコイツ等。まぁ、このチャラさは今ならいい方向に向かいそうだし、いいや。
《申し訳ございませぬ魔女さま! こやつらには後でキツく躾を施します故、どうかご容赦を!》
八咫烏がめっちゃ畏まって謝罪してくる、そんなに怒ってないってば。その旨を伝えるとみんな安堵のため息をうつ。
《皆、久方振りの空に気が昂っているのです。そして、それを叶えてくれた魔女さまに少しでも助力出来れば、と》
フェニックスがそう説明してくれる、そっかぁ~ガルーダと同じで空飛べないでいたから、嬉しいんだねぇ。なんにせよ頼もしい援軍にはかわりない、事情を説明して協力してもらおう!
「──と、言うわけだから、お願い! モコプーを助けてあげてくれないかな?」
《かしこまりました、アリサ様。このフェニックス、あなた様の御為に働きましょう!》
《同じく、八咫烏。アリサ様を勝利へと導いて御覧にいれましょう!》
《やるぜやるぜーっ!! 俺等のご主人、アリサ様のためにっ!!》
やった! 引き受けてくれた。なんか私がグリフォン達の主にされちゃってるけど、この勢いに水をさすのは忍びないね。
「みんな、ありがとう。聖なる祝福! 一緒に頑張ろう!」
フェニックス達を蒼炎のオーラが包む、聖なる祝福の効果にテンション爆上がりのグリフォン達を引き連れモコプーの応援にすっ飛んで行く。頼りにしてます!
《魔女殿はグリフォン達とも意志疎通ができるのか?》
「あー、うん。そういやなんでだろうね? アルティ達が何かしたんじゃないかな?」
まぁ、その辺は落ち着いたところで聞いてみるとして。モコプーもさっきから頑張ってる。
モコプーはレウィリリーネが言ってたように、世界の希望の象徴だ。そのせいもあって、「魔神の残滓」のような邪悪な存在の標的になるみたい。
自分の事をよく理解してるようで、とにかく目立って敵を引き付けるものだから、私のオプションの撃墜数が一番多くなるポジションになっている。
「今もなんか光って目立ってるし……気張りすぎでしょう?」
でも、やっぱりモコプーも覚悟を決めてる。そうだよね、こんな魔神の影に怯えて暮らすなんて嫌だよね。
「ちょっとモコプー! 無茶しないの!」
(あぁ~魔女さまのバリアとわたしのバリアがあってもこわーい!! なる早で助けてくださいねぇ~!)
「馬鹿ね、気負いすぎよ。少し耐えなさい、心強い味方が向かってるから」
その性質上モコプーが一番「魔神の残滓」に狙われる為、フェニックス達を向かわせたんだけど、それだけじゃなくて、勘の鋭いモコプーならこの呪いの違和感に気付くんじゃないかと思ったからだ。
「それでさ、モコプー。あなた、何か違和感感じたりしてない?」
(違和感、ですかぁ? 一体何に対してでしょう?)
「解呪の条件について。『聖域』の再生がそれって……大雑把すぎじゃない?」
おそらくそれは答えじゃない、ヒントだ。
主神であり、今回の立会人であるティリアさまは当然、他の神々から監視されているだろう。
身内の創造した世界だからといって贔屓にするわけにはいかないだろうし、魔神の襲撃というイレギュラーが起きた。ということで、今を譲歩されているはずだ。
「多分、ティリアさまは明確に助言できないんだと思う」
(あぁ~他の神様達の目がありますもんね。それで曖昧にしてヒントを与えてくれたってことですか? 結構ギリギリ攻めてきたんですね……感謝しなきゃいけませんねぇ~!)
「確証はないんだけど、確信はしてる。私も探って見るから、モコプーも何か感じたら教えて!」
間違いないって私の勘がそう告げるんだ。もしかしてこれが「女の勘」ってやつなのかな?
(了解ですよ~! 一時間も逃げまどうのもきっついですからね、頑張って探してみます!)
再生すれば呪いが解ける……? 再生しないと呪いは解けない?
何かが違う。そう、違うんだ……それはなに? この違和感は何なんだ?
【げんちゃんはいい女】~白虎view~
地上に降りて、げんちゃんと背中合わせで「魔神の残滓」共を凪ぎ払う。
倒しても倒してもわいて来やがるコイツ等の相手を始めて、はや二十分ってとこか?
「ハッハァーッ!! 弱ぇ弱ぇっ! テメェ等なんざ相手にもならねぇぜ!」
「びゃっくん、油断しないでね? 相手も徐々に強くなってきてるんだから」
地上じゃ木々が邪魔になって身動きできねぇってことで、小回りの利く人型になったげんちゃんが俺を窘める。わーってらぃ!
「応よ! しかし、げんちゃんのその姿は久し振りに見たな! 相変わらずいい女じゃねぇか!」
「あはは、ありがとう。でも、アリサさま見ちゃうと自信無くしちゃうなぁ~」
俺は大地を操り土槍でイービルデーモン達を刺し貫く。何体か回避した奴が俺達に向けて魔法を放とうとしやがるんで咆哮でぶっ飛ばす!
げんちゃんは上手く水を操って合成魔獣共をぶった斬る。水圧剣つったか? 可愛い顔しておっかねぇ技使うぜ。
合成魔獣を盾にしたイービルデーモンがげんちゃんに斬りかかるが、げんちゃんはシールドを展開させて受け流し、難なくカウンターで斬って捨てた。馬鹿が! そんなの効くわけねぇだろ? 俺等の盾役なんだぞ?
「あぁ~姐御は、なんつーか人間離れしてる感じするよな? どっちかってーと、女神寄りじゃねぇか?」
「うん、だよね……美人過ぎ! しかも主神様と瓜二つとか、もうどれだけハイスペックなのかな!?」
ズガガガガッッ!!
「うんうん! アリサおねぇちゃんは凄いキレイだよ♪」
幼い声と一緒に大量の木の葉が飛んで来て周囲の敵が一掃される。世界樹の核、ユニの支援砲撃だ。ありがてぇぜ!
長ぇ事苦しめられた呪いを解呪してくれた姐御を慕ってるユニ。わかるぜ、俺等だって気持ちは同じだ!
「ありがとうユニちゃん! 助かるよ~!」
「ありがとよユニ! 一緒に頑張ろうな!」
「えへへ、どーいたしまして♪ がんばるよ~!」
へへっ! なんかユニの笑顔見ると俄然ヤル気がみなぎるぜ! 絶対守らねぇとな!! げんちゃんも同じ気持ちみてぇだ、闘志が迸ってらぁ!
「こりゃぁっ! この青二才共ぉ! いちゃついとらんで仕事せんかぁっ!!」
うぉ!? うるせぇ! ジジイが怒鳴りやがった、馬鹿野郎! 誰がいちゃついてんだ!?
「もう! 黄龍様、ユニちゃんの支援が得られないからって八つ当たりしないでください!」
「ばばば、馬鹿を言うでない! 誰が羨ましがっとるか! いや、羨ましいんじゃが!!」
「黄龍うるさい。ちょっと教えてほしいんだけどさ、あんた確か今まで異界とやらで療養してたのよね?」
お、姐御がジジイになんか聞いてんな。しっかしすげぇもんだ、俺等を支援しつつ、この謎の四角の薄っぺらい箱? で全員とやり取りして情報共有したり、何気にグリフォン共まで従えちまった。
今も聖炎が飛んできては「魔神の残滓」を焼き払っていく。
「おぉ、そうじゃそうじゃ。折角のんびりしておったんじゃが、ある日、何やら魔神の声が聞こえてきてな……それが魔神の呪いと気付いた時には四神共と戦っておったわ」
「なるほどね、じゃあその異界には自由に行き来できるの? 入り口は? 目に見える物なの?」
「なんじゃ、魔女よ? 儂等の棲処に興味でもあるのか? 自由には行けぬな、入り口が隠されておるでの」
おっ! 姐御が俺等の棲処に遊びに来んのか!? 大歓迎だぜ! 手下共に言って美味い飯と酒を用意させねぇとな!
「アリサさま、私達の棲処の入り口は、一定の魔力を持たなければ見えないし、許可がなければ開かないようになっていますよ? アリサさまでしたらなんの問題もないでしょうけど」
「……隠されてる入り口、一定以上の魔力の保持……ちょっとだけその入り口って見れないかな?」
んん? なんか歯切れが悪ぃような? 姐御は考えこむような仕草を見せる。真剣な顔だ……こりゃあ、なんかありそうだぜ!
「『四神の棲処入り口』で検索……ヒットした! ドローン行って!」
姐御はそう言うと、新たに小せぇ箒を、ひのふのみ……五つ呼び出しては東西南北、中央に飛ばした。おぉ、速ぇぇ~! 話からして俺等四神の棲処の入り口に飛ばしたのか?
「ふぅん、これが入り口かぁ~空間が僅かに歪んでるように見えるけど、魔力足りないと普通の風景に見えるって感じ? あんた達四神の領地みたいなもん?」
「応! 一定の魔力を持つ奴なら「見る」事はできるぜ。入るにゃぁ俺等の許可が必要になるけどな」
流石に誰でも入れるって訳にゃいかねぇぜ、棲処は人間達で言うプライベートルームってやつだからな。
「領地なぞ、そんな大層なもんじゃありゃぁせんよ。せいぜい庭付き一戸建て、といったところかのぉ」
「うん、そんなに広くはないけど快適空間です」
「へぇ~じゃあ今度みんなで遊びに行こうか? ねーユニ♪」
「うん! 行きたい行きた~い♪」
「おっほぅ!! ユニちゃんなら大歓迎じゃ! いつでも来てえぇぞ~♪」
「こーじぃちゃんのとこは……うぅ~ん……」
「な、なんで悩むんじゃぁ? じいちゃん寂しいぞい?」
ジジイがしょんぼりしてやがる、自業自得だろうがよ?
「でもアリサおねぇちゃん、どうして今そんなこと聞くの?」
あー、だな。何で今なんだ? さっき考えてるみてぇだったが、何かあるなら教えてほしいぜ。
って聞こうとした、そん時。
(魔女さま! 見つけましたよ~! 「なんか変な場所」!!)
モコプーが通信魔法を飛ばしてきた。
【シミュレーションゲームで途中、勝利条件が変わるアレ】~レウィリリーネview~
あたしのせいだ、あたしのせいだ! なんて勘違い!!
全力の再生は止められない、無理に加減を変えれば確実に失敗になる。そしてあたし達が本来の力を行使できるのは後にも先にもこの一回きりだ。つまり、後戻り出来ない。
「一時間もかかる」ではなく、「一時間しかない」んだ!
「ティリア姉さんの立場を忘れて、その言葉を鵜呑みにした……あたしのせいだ……」
あたし達神々の頂点に立つティリア姉さん、当然身内をえこひいきなんて出来ない立場。
それでも、なんとかあたし達を助けたくてくれた、他の神々にも疑問に思われないギリギリのヒント。それを……あたしはっ!
「レウィリ、それなら私達も同じです、ティリア姉さまに会えて浮かれてしまいました……」
「反省は後にしよう二人共! 今は早くこの事実を皆に伝えなきゃマズイっしょ!?」
ティリア姉さんは、本当は……「『聖域』を再生していくと魔神の呪いの発生源が顕になるから、それを全て消滅させれば解呪される」と言いたかったんだ。
そう、この呪いの解呪条件は《『聖域』の再生》ではなく。
《『聖域』に隠された呪いの『発生源』を破壊する事》だった!
再生する途中、『聖域』の数ヵ所の澱みが浄化されずに残っている事で漸く気付けた。この澱みこそ呪いの『発生源』!
フォレアの言う通り早くこの事をアリサに伝えなくては!
「隠蔽破壊」
『聖域』をアリサの魔法が駆け抜けていく、これは何!? 一体どんな魔法を使ったの?
「うおぉーっ! アリサっちスゲー!!」
「見てレウィリ! 今の魔法で呪いの『発生源』が全て目に見えるように!!」
「……っ!? 嘘、まさかアリサは自分で気付いたの……?」
凄い! だって、今から事実を伝えて対応してもらうつもりだったのに!! アリサは解呪の条件に疑問を感じて自分で探っていたって言うの?
『顕になる』、そう言っても『発生源』のある場所の空間が少し歪んで見える程度の筈なのに。今やもうその姿、中空に浮かぶ五個の『黒水晶』がハッキリと目に見えている!
「呪いの『発生源』を見つけたよ! これからあの『黒水晶』をぶっ壊しにって、なんて顔してるの三人共! しっかりしてよ、タイムリミットは後三十分! 私達を最後まで信じて続けて! 絶対間に合わせるから」
「アリサさん!」
「アリサっち!」
「アリサ……」
映像通信からアリサがあたし達に渇をいれてくる。やっぱり気付いてたんだ、解呪の条件も、このままじゃ失敗する事も。
凄いよアリサ……ありがとう、本当にありがとう!!
「んっ! 信じる! アリサ、頑張って!!」
万感の思いを込めてアリサに託す! アリサを信じる!
「本当に頼もしいです、アリサさん……」
「アリサっちがいてくれればだいじょーぶっ!」
アルティ姉さんもフォレアも気持ちは同じ、ふふっなんか嬉しい。
思い返してみれば、ティリア姉さんにアリサになる前のアリサを紹介された時、正直不安だった。
機械仕掛けの神の創造した世界の住人だったアリサは、魔法も魔力も、いや、魔素すら存在しない世界の産まれだ。正直、魔法が当たり前のあたし達の世界に順応出来るかすら怪しいって思った。
それに、ちゃんと会話が出来るのかも危惧していた。
不幸な星の下に産まれた人間とは少なからずいるもので、アリサはそんな人間の一人。
不幸の大小はそれぞれだけど、アリサの場合は特に巡り合わせが悪いようだったのを浄化前の魂から読み取れた。
人は育つ環境によって、その性質を大きく変える生き物だ。アリサは幼少期を悪童達に囲まれ育ち、様々な悪さを学ぶ。
そして少年期、学問を教わる学校と言う学舎で師に諭されるも、級友は容赦なくアリサの悪行を責め立て、差別や嘲笑の対象にしていた。それがアリサの人嫌いの始まり。
それでも、多少歪に育ったものの。余程、師が優秀だったのか、アリサは悪人になったり、腐ることもなく、根は優しいままだった。
青年期、産まれ育った地から逃げるように。仕事を都会に選び離れるものの、やはり巡り合わせの不幸は訪れる。
田舎者の成人直後の人間など、都会の悪人達にとって絶好のカモでしかなく、アリサは騙され続けてその心を更に擦りきらせていく。気付けば誰とも関わろうとせず、猫と共にひっそりと暮らしていた。
酷く寂しい人生を送ったアリサ。そんな人をこんな過酷な状況のあたし達の世界に招いていいものか悩んだのだけど……
「そういう人じゃないと駄目なのよ、この子は誰よりも「痛み」に敏感だわ……悲しみも、苦しみも、辛さも、寂しさも……知ってるからこそ、誰よりも優しい心を持てる」
そう言うティリア姉さんの顔はとても優しくて、印象的だったのを覚えてる。
「信じなさいって! ぜぇ~ったい! 大丈夫だからさ!」
今ならわかる。ティリア姉さんがアリサを選んだ理由が。
呪われた世界樹を見て、流したアリサの涙。「痛み」を誰よりも知る彼女はきっと、誰よりも優しいんだって!
あたしはそんな優しいアリサが好き。大好きと言ってもいい。
頭を撫でてくれるその優しくて柔らかい手が、ニッコリ笑顔で「可愛いね」って言う声も、笑顔も……何よりその心が大好き!
「あたしは、あたし達は、これからもずっと……ずっとアリサと一緒! だから絶対成功させる!」
呪いの『発生源』を守護するかのように、今までにないほどの量の紫煙が集まり形を成していく。
「アイツ等!! そうかよ……魔神に魂まで売り渡したってのかっ!!」
「随分懐かしい顔ぶれだ……良いだろう、何度でも滅ぼしてやる!」
「まさかこうして先代様の仇に合間見える事があるなんて、本気で私を怒らせましたね!」
「上等よ! 残り滓に成り下がったあんた等を今度こそ完全に消してやるわ!!」
『四神』の対をなす『四凶』を具現させて行く。
白虎が、青龍が、玄武が、朱雀がその姿を見ては気勢を揚げ吼える。先の魔神に属し戦い倒された筈の『四凶』達が今、「魔神の残滓」となって再び『四神』達と邂逅した。
そしてアリサと黄龍が向かう五個目の『黒水晶』を守る紫煙が形取ったその姿は……
《勝利条件》
『聖域』再生までに呪いの『発生源』である五個の『黒水晶』を破壊すること。
『聖域』再生まで後三十分……
アリサ「皆さんにお聞きしたいのですが~!」
ユニ「どうしたのアリサおねえちゃん? 誰に話してるの?」
アリサ「毎話毎話、一万文字オーバーって読むの大変でしょうか?」
ユニ「いちまん……?」
アリサ「もっと短い方が良いのか悩んでおりまして、差し支えなければどうかご意見頂けたら幸いで御座いますm(_ _)m」
ユニ「あ、お手紙?」
アリサ「うん、なんでも私達の今後に関わる重要な案件なので、必ず読み上げるようにって……」
ユニ「ユニ達のこれからに? え~? 誰に頼まれたの?」
アリサ「変なおじさん」
ユニ「い、一体誰っ!?」