7話 魔女と『聖域』の再生
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【開かれる門】~姐御ぉ!~
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「世界樹の門を開き、『神界』へ繋げ、主等女神は本来の力を行使して、『聖域』を再生させるんじゃろう? それには主神ティリアの許可と立ち会いが必要な筈じゃ。第二の魔神を生まぬ為にな」
このじいさん、凄いじゃない。マジで物知りだわ!
でも、そっか……ティリアさまが立ち会うのは、そんな理由があったのか。
……勇者達を召喚したのも、そのティリアさま。
アルティレーネはティリアさまを「優しくて厳しい方」って言っていた。
どういった条件で勇者達を選んで召喚したのか? どんな気持ちで魔神という脅威に立ち向かうように導いたのか?
そして……その勇者達が──
(魔神と相討ちになった時、どんな思いをしたんだろう……?)
きっと……辛かっただろうな……そして、歯痒かったんじゃないかな? 自分が動ければそれが一番早く、一番被害も少なくて済んだんだろうし。
(魔女さま? どうしたんですか……何か泣きそうな顔してますけど?)
んぅ、本当に鋭いなこのまんまるポンポン。
「ううん、大丈夫……ちょっと思うことがあっただけだからね」
まぁ、神様達の世界だ、私のような元一般人には計り知れないのも当然だけど、そのトップともなれば様々なしがらみがあるのかもしれないね。
「……またティリア姉さまにお手数をお掛けするのは、心苦しいですが……そうも言ってられませんね」
「ん、アルティ姉さん、そんなに気にしなくていいと思う」
「そーそー、コレで魔神関係のあれこれすーっぱり終わらせてさ。後はティリア姉が遊びに来たいって思うような世界にすれば、それが恩返しになるんじゃないの~?」
アルティレーネは躊躇いながらも、ティリアさまに頼るのが一番の近道だと理解してる。レウィリリーネとフォレアルーネの後押しもあって即決したみたい。
そうだね、きっと今まで本当に厳しい世界だったんだろうから、これからはもっと楽しくて、優しい世界にしたいよね。それこそ、ティリアさまも「面白そう」って思ってもらえるくらいに。
「主神様が遊びに来る世界とか想像つかねぇなぁ~」
「ん、なんだねビャっくん? あんまり乗り気じゃないの?」
フォレアルーネの言葉に白虎がボヤくので気が進まないのかなって思って聞いてみた。
「あ、アリサの姐御……いや~俺達にとって主神様っつったら文字通り天上人なもんで、気が乗らねぇって訳じゃあなくて、よくわかんねぇって気持ちなんですわ」
姐御って呼ばれた。うーん、私のイメージってそんななの?
でも、そっか……普段感じないけどアルティレーネ達も神様なんだよね。そしてティリアさまはそんな神様達の一番上にいる人。そんな大物が遊びに来るって言われても、困るか。
「余程の事しない限り大丈夫だと思うわよ? そう、余程の事をね」
朱雀が黄龍を見て呆れ顔になる。あー、うん。そうね。
私が頷くと青龍、白虎がうんうんと釣られて頷いて玄武がきゅーって鳴く。
「そうですね、今は一刻も早く『聖域』を再生させて、世界樹の自浄作用を世界中に拡げなくてはいけません」
アルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネの三人は互いに顔を見合わせて頷く、そうして私達の方へ振り向くと、自分の魔力でリヤカーから浮遊した。
「我等創世の三神、その名において世界樹に命じます!」
おぉ、三人が光り始めた! 神聖な魔力を纏ってオーラみたいになって溢れ出してるよ。
三人はユニを見つめ、手をかざす。
「私はアルティレーネ、司る生誕の印をここに示しましょう」
アルティレーネがそう言ってかざした手を天に向け、纏った魔力で魔方陣を描く。
「ん、あたしは調和を司るレウィリリーネ、その印、示す」
「終焉を司るフォレアルーネ、印をここに!」
続いてレウィリリーネとフォレアルーネも、それぞれが上空に魔方陣を描いていく。あの魔方陣は多分ログインIDみたいなものなんだろう。
「世界樹ユニ! 今『神界』への門を開きなさい!」
「はいっ! 認証完了しました。門、開きます!」
ユニはそう言って、空を見上げ両手を掲げる。その瞬間、世界樹が眩い明滅を繰り返し、一筋の光が天に昇っては三姉妹の魔方陣の三倍ほど大きな魔方陣を描いていく。あれが門なのかな?
もしかして、私って今凄い光景を目にしてるんじゃないだろうか?
まだ昼間なのに、空が暗くなり、世界樹から立ち昇る光の存在を一層際立たせる。
上空を見上げて見ればひとつのでっかい魔方陣を、三つの魔方陣が三角形をかたどるように囲んでいる。それぞれが、アルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネの三人が描きあげたものだ。
「おぉぉ……でっかい魔方陣が、開いてく!」
「うむ、いよいよ主神様のおなりじゃて」
「が、柄にもなく緊張してきたぜ……」
上空のでっかい魔方陣が左右に、それこそ『門』が開くように、中央から開かれて行く。
黄龍の言うように、いよいよ主神ティリアさまが降りてくるのだろうか? 白虎もそうだけど、他の四神達、同行してきた聖獣達も思わず緊張に息を飲む。
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【魔女さんママになる?】~やはり猫は無敵~
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そうして降りてきた光の……一瞬、鳥に見えたけど、そのシルエットは人だ。
凄い……二対の純白の大きな翼。肩甲骨くらいまで伸びた白銀の髪に前髪の生え際辺りから二本のアホ毛。頭上には複雑な魔方陣のような天使の輪。
純白のワンピースにブーツ、ニーソックスと白ずくめだ。
「だけど、そんな事じゃなくて……肌が粟立つこの感覚!」
「凄まじい『神気』よの……あれでも何百分の一じゃろうが、いやはや……」
「つくづく、魔神の愚かさがわかると言うものよ……」
《あの主神様に楯突いたのですからな……》
そう、何よりも凄まじいのは、この圧倒的な気配? 魔力とも違うなにか。
黄龍は『神気』って言ったけど、なるほど。神様が持つ独特のオーラだろう。それは例えるなら、高純度の魔力をこれでもかってくらい圧縮しているような感じ?
青龍とガルーダが言うようにこんな相手に喧嘩吹っ掛けた魔神はつくづくアホでしょう?
「アリサおねぇちゃん! ぎゅってして~っ!」
お役目を果たしたユニが甘えてくるので、もちろんぎゅってして頭を撫でてやる。ん? 少し震えてる、ユニも緊張してるんだね。
「大丈夫だよ、ユニ。ティリアさまは優しい方だっていうし、きっと今まで頑張ったユニの事褒めてくれるよ~?」
まぁ、もし褒めてくれなくても私が目一杯褒めるけど!
「う~、褒めてもらえるかなぁ? 世界壊そうとしちゃって、怒られたりしない?」
「大丈夫だよ~本質を見抜けないような方じゃないって、ほら、一緒に見届けよう」
「うんっ!」
これは確信を持って言える。悪いのは明らかに魔神なんだからね。
他のメンツの様子を見ると、朱雀、白虎、玄武は身震いしてマジにびびってる。モコプーは私の後ろに回り込み盾にしようとしてるし、青龍、ペガサス、セインちゃんはずっと頭を垂れている。お辞儀なのかな? モコプーは後でイタズラしてやろう。
動じてないのは黄龍とミーナくらいだ、黄龍は感慨深そうに女神達を見つめている。なんか孫を見守るおじいちゃんみたいな雰囲気だ。あ、実際におじいちゃんか。
ミーナはのんきにペロペロ手を舐めて顔を洗っては、「くあー」ってあくびしてる。いやいや、大物だねこの子は。
《しかし、その聖霊の猫は大したものであるな、魔女殿。まったく動じておらぬ》
「そういうガルちゃんも堂々としてるじゃない?」
「ガルちゃんもすごーい! ユニはドキドキしてる!」
ガルーダが私とユニの側に飛んできた。
《いやいや、主神様の『神気』にあてられて、緊張がおさまらぬ。まぎらわせたくて二人に話しかけてしまった、済まぬな》
「あはは、いいよぉガルちゃん♪ ユニもきんちょー? してるもん」
「ふふ、落ち着いたら沢山話そうね♪ ほら見て、ティリアさまがアルティ達の所に」
純白の光を纏うティリアさまが、見上げるアルティレーネ達姉妹を目にしたようだ。姉妹達もそれに気付いたのだろう、手を降って声をかけ始める。
「ティリア姉さま、お久しぶりです。ご足労痛み入ります」
「ん、ティリア姉さん。久し振り」
「やほ~♪ ティリア姉! 元気してた?」
降臨したティリアさまが、バサァッ! って翼をはばたかせて三姉妹と合流する。キラキラと粒子みたいなのが舞って凄く綺麗だなぁ~なんて思っちゃうね。見ようによっては流れ星みたいに見えるかもしれない。
親しげに挨拶してるトコみると、本当に仲がいいんだね。
「えぇ、本当に久し振りみんな。こうして直接会うのは何年振りかしらね?」
ティリアさまの第一声だ。綺麗な声……そして優しそうな声……
「事情はわかってるわ、見てたからね。でも、その前に……」
チラッ、うおぉ!? こっち見たぞ!?
「近くにいらっしゃい、アリサ、世界樹」
おやおや、主神さまからのご指名受けちゃったよ。ちょっとビックリだけど断る理由もないので参りましょうかね。ペガサスからリヤカーを引き継ぎ、アリアでゆっくり移動させる。
ゆらゆらと近づいてティリアさまのご尊顔を拝見。
「久し振りね世界樹」
「は! はい、お久し振りでしゅ! てぃりあさま!」
やっぱりそう簡単には緊張解けないね、ユニが噛んだ。私もちょっと噛まないように気をつけなきゃ、でも……間近でティリアさまのお顔を見て驚いたよ。
「そして、はじめましてアリサ。ふふ、と言っても、私はあなたが今のあなたになるまでを見ていたし、知っているから変な感じなのだけど。こうして話をするのは初めてね……」
サファイアブルーの瞳を細め、にこやかに微笑むティリアさま。
宝石のようなその瞳にじっと見つめられると、総てを見透かされているような気がしてくる。『神眼』って言うのかな? 吸い込まれそうな感覚に陥るよ。
「改めて、私はティリア。アルティ達の姉よ、主神を務めさせてもらっているわ」
「あ、はい。はじめましてティリアさま。アルティ達にはいつもお世話になっています……それにしても……」
「ふふふ、どーしたの? そんなに見つめちゃって」
ティリアさまの顔をまじまじと見つめる私を面白がるように、クスクスと微笑む。
いや、だってしょうがないじゃん。ティリアさまの顔立ちは私と瓜二つなんだもん!
思わずアルティレーネ達を見て、「どういう事?」って目線を送る。
「ふふっ、そっくりでしょう? アルティったらあなたの肉体を再構築した時、私みたいにしたいって言ってきかなくてね♪」
「ティ、ティリア姉さま! それは内緒にしてくださいって言ったじゃないですか!」
あー、成る程ね……ホントこの子はお姉ちゃんっ子なんだねぇ。
「だからアリサっちがティリア姉に会ったら一発でバレるって言ったじゃん、アルティ姉?」
「ん、浅はか」
「ユニは全然気付きませんでした!」
あはははってみんなで笑う、アルティレーネは恥ずかしそうにしてたけども。お陰で気が楽になったかな。
「それに私と同じ顔なのに、フォレアがあてつけみたいにすんごいスタイルにするし! なによその胸! 腰! お尻! 美脚! うらやましい~っ!」
ティリアさまが「むぅ~っ!」って眉間にシワをよせて文句言ってくるんだけど? 知らんがな。
あうっ! ツンツンつつかないで~っ!
というか、ティリアさまは凄く整ったバランスのスタイルをしてると思う。めっちゃ綺麗。
「三人が48時間かけて、ティリアさまにあてつけした成果が私って訳? なにしてんのよあんた達は……」
「う、それはそのぅ~そっくりそのままにティリア姉さまを模倣するのは流石に失礼かと思いまして……」
ゴニョゴニョと言葉を濁すアルティレーネはばつが悪そうだ。まったくもぅ。
「はぁ、まぁ済んだことだししょうがないわね。それより、世界樹」
「ふぁっ!? ふぁい! てぃりあしゃま!!」
いきなり話し掛けられてユニがビックリしてまた噛んだ、かわいい!
「ふふ、そんなに緊張しないでユニ。あなたも本当に久し振り、あんなに小さな苗木だったのに……随分大きくなって」
ユニの目線に合わせて膝をおるティリアさま。うん、思った通り優しいね。ユニの頭を撫でるそのお顔は慈愛に満ちているのがわかる。
「てぃりあさま、ユニは……」
「大丈夫よユニ。わかってるわ……今まで苦しかったわね、辛くて、悲しくて……本当によく耐えてくれたわ……私からもお礼を言わせてちょうだい。ありがとう。そして、助けてあげられなくてごめんね」
「てぃりあさま……うぅ、てぃりあさまぁ~っ! うわぁ~ん!!」
ティリアさまはそう言うとユニを優しく抱きしめる。うん、やっぱり怒ったりしないよね。
ユニはアルティレーネ達姉妹にも、主神のティリアさまにも同じように抱きしめられて、赦されたんだ。よかったね、ユニ。
「アリサ、あなたにも感謝を。ありがとう。妹達を、ユニを……この世界を助けてくれて」
「うぇっ! あ、あのっ……」
私まで抱きしめられた、ちょっと驚いて言葉に詰まる……ユニを抱きしめたことはあっても、こうして誰かに抱きしめられた事なんて前世の子供の時くらいなんじゃないだろうか?
「あなたを選んでよかった……開始早々バッドエンドになった妹達のこの世界。どれだけ私が直接乗り込んでやりたかったことか……ありがとう、アリサ」
あぁ、やっぱりそうだったんだ。ティリアさまも苦しかったんだね。大切な妹達が一生懸命に創造した世界を魔神に壊されて、助けに行きたくても掟がある。
勇者達の召喚は本当に苦肉の策だったんだろう。
「お礼を言うのは私の方です、ティリアさま」
「アリサ……」
抱きしめるティリアさまに応えるように、そっと頭を撫でてみる、優しく慈しむように。不敬だーとか言って怒られないか心配だけど、そうせずにはいられないんだよね。
「ありがとうございます、ティリアさま。私を選んで下さって、お陰でまた大切な家族に会えました。素敵な友達ができました」
ずっとお礼が言いたかった。ティリアさまが私を選んでくれたから、今こうしてミーナと一緒にいられる、アルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネ……そしてユニ。とっても素敵な友達もできたんだ。感謝しかないよ。
それに、頼られるばかりで誰にも甘えられないであろう『主神』という立場。その重圧は私には計り知れないけど、でも、だから、私だけでも……
「ティリアさまもだいぶお辛かったのではありませんか? きっと姉妹達と同じくらいに、ううん。それ以上に苦しかったと思います……あなたこそ頑張りましたね」
なでなで~ぎゅぅ。
ユニにするように、ティリアさまの頭を撫でて、ぎゅって抱きしめる。頑張った人はちゃんと報われなきゃ駄目だ。
世界を壊された妹達の嘆き。助けにいけない苦しみ。勇者達を死地へと向かわせ、死なせてしまった辛さ。悲しみ。一体どれだけ背負ってきたのだろう……ティリアさまは、ティリアさまこそ報われなきゃウソでしょう?
「……申し訳ありません、ティリアさま。主神さまに対して私ごときがとんだ失礼を……如何様にも罰してください」
抱きしめる手をそっと離し、右手を胸に一礼する。主神さまを撫でて抱きしめるなんてやっぱりやりすぎたと思ったから、でも、例え罰せられても後悔はないかな。
「──アリサ」
「はい」
ティリアさまはうつむいて私の名前を呼ぶので、しっかり応える。さぁ、どんな罰でも受けますよ! 覚悟はできてます。
「……」
ガシッ!
無言で両手を掴まれた!? な、なにされるんだろっ!?
「ママって呼んでいいっ!?」
「はぁーっ!!?」
ちょいっ!? なにを言い出すのってあーっ! 急に抱きつかないで~っ! ビクーッってなるから~っ!!
「誰かに優しくされて褒められるなんてーっ! もう何百年もなかったの!! 私、私! もう嬉しくて嬉しくて!! わぁーんアリサママぁ~っ!」
えぇ~っ!? なんてこったい! まさかの百年単位で抱えてたなんて流石に予想外だった、とんでもない反動が私にふりかかってきてる! マズイ! このままだと未婚の母にされてしまうじゃないか!? 元男で結婚経験もないっていうのに、母親だと!?
「おぉ、落ち着いてください! 今はそんなことより妹達のお願い聞いてあげてーっ!!」
「そんなことってなによアリサママ! 大事なことでしょ~っ!」
「ママじゃなぁ~い!」
だ、駄目だこりゃ手に負えないよ! 誰か助けてくれそうなのは!?
「うぅ、やっぱりティリア姉さまに頼りすぎていたのでしょうか……ごめんなさいティリア姉さま! 私達が至らないばかりにっ!」
「ん、ティリア姉さん……こんな一面あったんだ……ビックリ」
「アリサっちスゲー! ティリア姉まで手懐けちゃったよ♪」
いや、感心してないで止めなさいよあんた達!
「アリサおねぇちゃんすごーい! てぃりあさまのお母さんになるの!?」
「ならないよ!」
そんな純粋な目で見ないでユニ~っ!
「ふぁふぁふぁ! こりゃ愉快! あの魔女が主神様の母親とな? 長生きはするもんじゃ!」
「スゲェぜアリサの姐御!! 主神様と対等どころか母親になっちまうなんて! 俺、一生ついてくぜ!!」
「ふふ、流石ねアリサ! ますますあなたと仲良くなりたくなったわ!」
「うむ。これで『聖域』は安泰だ」
「きゅーきゅぅ!」
なに笑ってんだジジイ!? またぶっ飛ばすぞ! 四神達もやんややんや囃し立てるんじゃないの! えぇぃっ! 他の聖獣達は……って駄目だ、四神と一緒にワイワイ騒いでる。こうなったら!
「最強の癒し! みーにゃんぱんち!」
「あぎゃ!?」
素早くミーナを抱き上げ、その両手をティリアさまの顔に押し付ける!
「はぁぁ~! かわいい~肉球ぷにぷに~っ♪」
「なあぁ~ん?」
ティリアさまはミーナを抱き止めて頬擦り。ふぅ、やっぱりミーナは最強のようだ。
「落ち着いてくれましたか? 流石に母親は無理があるでしょう?」
「むぅ~……まぁ、今はこのかわいこちゃんに免じて見逃してあげるけど、後でちゃんとお話してもらうわよ~?」
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【最後の呪い】~愚かな選択~
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ミーナのお陰でようやく落ち着いてくれたティリアさまからやっと離れることができた私は、四神達と聖獣達と一緒に女神達を見守っている。
ティリアさまの暴走? で、だいぶ脱線してしまったけど、これからアルティレーネ達による『聖域』の再生が行われようとしている。
私達は周辺を警戒して、邪魔が入らないようにしているってわけ。
東西南北を四神達、北東にガルーダ、南東にセインちゃん、北西にペガサス、南西にモコプー、だけじゃ不安なので私のオプション。箒アリアを二つ配置。黄龍はいつでもヘルプに行けるように待機。私はユニとミーナを守りつつ、索敵。みんなに報せる役目だ。
「魔女よ、セイントビートルから話は聞いておるじゃろうが、儂等はこの『聖域』から魔物共を掃討せんと立ち上がった」
隣のじいちゃんこと黄龍がそう私に確認をとってくる。うん、ユニの呪い解呪をきっかけに反撃が始まったって言ってたね。
「ここで勘違いしてもらっては困るのが、儂等が「魔物」と呼ぶ連中は、「魔神の残滓」と言うことじゃ」
「え、そうなの? 全部一緒だと思ってたけど……いや、でも、そっか『聖域』は聖獣とか神獣達の住みかだもんね」
「この騒ぎに便乗してくる馬鹿共もおるじゃろう、そういう輩は一度痛い目を見れば尻尾を巻いて逃げていく故な、ほっといてえぇ」
ふむ、成人式に騒ぎ立てる馬鹿達みたいな奴等かな?
なんにせよ邪魔してくるのは敵ってことだ。『聖域』の再生は女神達含むみんなの悲願。
逃げるなら追わないけど、向かってくるなら遠慮しないよ。
「アリサ、聞いて。ティリア姉さんが言うには魔神の呪いはあと一つ」
映像通信からレウィリリーネが呼び掛ける、やっぱりまだあったんだね。
「眷属呪縛……私達の女神としての本来の力の発現が起動条件だそうです」
「一度発動すると解呪されるまで延々と「魔神の残滓」がわいてくるっていう、ふざけた呪いよ」
「解呪方法はこの『聖域』の再生だって! ヤバいよアリサっち~うち等再生中は動けないから無防備なんよ?」
アルティレーネが呪いの発動する条件を教えてくれる。ティリアさまが言うには無限わきする敵を相手にしなきゃいけないらしい。
フォレアルーネが焦る、それは再生が終わるまで続くうえ、その間彼女達は動けない。
正直厳しいね、問題は『聖域』の再生にどれだけかかるのか?
「『聖域』の再生に掛かる時間は?」
「……全力でやる。でも、『聖域』は広い……一時間、一時間耐えて!」
「アリサ、倒しても倒しても解呪されない限り終わらない戦いよ? 再生は世界樹を中心に内部から干渉するから結界は張れない。そして妹達は動けない、私は干渉できない」
それを一時間続けなきゃいけない。失敗すれば今度こそ世界が崩壊するだろう。
「魔神の残滓」によって『聖域』は破壊され、世界樹も失われるだろうから。
正直に言おう、私の心は決まっている。だけど……
映像通信を各地に配置している皆に届ける。
「みんな、聞いてたよね? 一時間、『聖域』だけじゃない。この世界の命運を掛ける時間」
「……」
全員の緊張が伝わってくる……そうだよね、覚悟を決めるには唐突すぎる。
「みんなの意思が知りたい。呪いは女神達がその本来の力を発現しなければ発動しない、時間はかかるだろうけど世界樹の自浄作用でも再生はできるでしょう?」
「そうじゃなぁ、無理して危険な橋を渡ることもないかもしれんのぅ」
「そんなのスッキリしねぇ! 俺は戦うぜ! 魔神から尻尾巻いて逃げるなんてごめんだ!!」
現状維持もやむなし、そういう黄龍と、立ち向かうべし、と吠える白虎。
きっと前者が正しい選択なのだろう、後者は感情で動いて大局を見ずに世界を危機に晒す愚行だ。
「……アリサおねぇちゃん。アリサおねぇちゃんは……どう、思ってるの?」
ユニが私を真剣な瞳で見つめてくる。うん、答えよう。
「──かつて、魔神と相討った勇者達。彼等はどうしてティリアさまの召喚に応じて魔神と戦ったんだろう?」
「っつ!」
私の言葉にティリアさまが息を飲む。
「ずっと疑問だった、どうしてわざわざそんな危険な事引き受けたんだろう? 単なる正義感? ううん……違う、きっと……その願いが真摯だったから。だから応えたんだ」
本当はどうかはわからない、でも、そう信じたいんだ。……きっと私は馬鹿なんだろうね。
「私はその勇者達が繋いだ世界を守りたい。ここで引き下がるのは、今を生きる生命を見殺しにすることじゃない!」
100を生かすために10を殺すみたいなのは嫌だ。
「アリサさん!」
「アリサ……」
「アリサっち!」
三姉妹が声を揃えて私を呼ぶ。
「そんなことしたくないよ、賢い選択じゃないとは思うけど……ここを乗り越えて、私は……みんなで笑いあいたい!」
これが私の答え、私の想いだ。
今までだったら……一人きりの私だったら絶対にこの答えには至らなかった。
アルティレーネが、レウィリリーネが、フォレアルーネが……そして、ユニがいてくれるから。
私は戦おう、他ならぬ朋友達のために! 散った勇者達の想いに報いるために!
「アリサっ! ありがとう……ありがとう! あの子達の想いまで汲んでくれて……」
「よう言うた!! 魔女よ! この老骨、獅子奮迅たる働きをして見せようぞ!」
《そうだ! 今こそかつての勇者達の無念を晴らす!!》
ティリアさまは感極まって涙ぐみ、黄龍が吠えガルーダが昂る。
「よっしゃぁっ! 流石姐御だぜ! そう来なくちゃなっ!!」
「賢いとは言えぬ、だが! それが良い! 共に悲願を果たそうぞ!!」
「きゅーっ!!」
「良いじゃない! 私こういう展開大好きよ! やりましょうアリサ!」
四神達はそれぞれに気概を揚げる。
「やります! 僕は女神様達の為に、同胞達の為に『聖域』をよみがえらせたい!」
「同意! 散っていった同胞の意志を継ぎ戦う!」
(ちょっと~みんなテンション揚げすぎでしょう? もう~こうなったらわたしも便乗するしかありませんよね~っ! やりましょう~やっちゃいましょう~っ!)
昂る、昂る……みんなの気勢が。みんなの想いが……っ!
私は『想い』を具現する『聖域の魔女』、このみんなの想いを一つの魔法に昇華する!
「聖なる祝福」
イメージしたのはティリアさまを抱きしめた時に感じた『神気』。
みんなの想いが、みんなの意志が私を媒介にして具現する!
頭上に掲げた私の両手から全員に蒼い光が降り注ぎ、蒼炎のごときオーラを纏わせる。
「これは、兄者との戦いで傷付いた身体が癒えてゆくっ!」
「それだけじゃないわ! 魔力も一気に回復したわよ!」
「すげぇ……全身に力がみなぎってくるぜ!!」
体力とか気力? 精神力だの魔力とか色々含め、怪我も自動で回復するとんでも効果に加え、魔を討ち、邪を滅する効果、更に多くの強化がかかるとっておき。
ずっとイメージは出来てたんだけど、何かが足りなくて上手くいかなかったんだよね。でも、ティリアさまの『神気』を感じたことでようやく完成したよ!
「アリサおねぇちゃん! ユニを世界樹に戻して!」
「わぁ!? びっくりしたぁ~どうしたのユニ?」
リヤカーから身を乗り出してユニが訴える。ちょい、危ないよ?
「世界樹にって、昨日ユニがいたとこ? 一体どうするの?」
「今のままじゃユニはなんにもできないから……アリサおねぇちゃんの邪魔になっちゃう、ミーナちゃんも巻き込まれるかもしれないし」
あぁ~確かに……全力で守るつもりではいるけど、危ないのは間違いないね。ミーナと一緒に避難しててもらおう。
「わかった、じゃあユニにミーナのことお願いするから、避難しててね」
「違うよ~ユニも戦う! 世界樹に戻ればそれができるんだよ? 葉っぱ撃ったり、魔法使ったり、枝でブンブンってしちゃうよ!」
なるほど、そう言うことか。昨日はそれに散々手を焼かされたから、味方につければ心強いね。固定砲台みたいな活躍してくれそうだ。
「うむ、それが良かろう。世界樹はいわばユニちゃんの家じゃ、今のユニちゃんは元気にお出掛け中ということじゃな。ペロペロしたい……ではなくてな、世界樹内に戻れば自衛も可能じゃろう、その猫も守れる筈じゃ」
一瞬また変な事を言いかけたジジイを睨む、けどまぁ、わかりやすい例えだ。ミーナも匿ってもらおう。
「そっか、わかったよユニ。ミーナをお願い……一緒に頑張ろうね!」
「うんっ! 今度はユニがアリサおねぇちゃんを、みんなを助けるよ!」
ユニとミーナを世界樹の核があった場所まで運び、中に入れる。
「○いるだーおーん♪ えへへ、ミーナちゃんはユニのお膝でねんねしててね」
いやいや、ユニちゃんや、その入り方ならフ○ードインじゃないかな? っていうか何で知ってるのよ?
樹皮の剥がれた部分に吸い込まれるように、中に入ったユニとミーナ。一体この中ってどうなってるんだろうね? 機会があったら私も入ってみたいな。
空になったリヤカーをミーにゃんポーチに収納して、アリアを杖にして飛行魔法を発動。
「アルティ、レウィリ、フォレア! そして、ティリアさま! これが私達が出した答えです! どうか信じて『聖域』を再生してください!」
みんなの想いは一つだ、迷うことなんてない。聖なる祝福の効果もあって気力も魔力も体力も充実。士気は最高潮! どんとこいって感じだ。
「アリサさん、みんな……ありがとうございます! 信じます!」
「うちも燃えてきたーっ! 任せて! 絶対再生させるから!」
「ん! 信頼には信頼で応える!」
三姉妹も心は決まったようだ、その瞳には決意の光が宿っている。
「ティリア姉さま、どうか見届けて下さい。あなたの妹達の成長を、この世界の行く末を!」
「……わかったわ、約束する。どんな結果になろうと、最後まで見届けるわ。でも、どうせなら魔神との因縁を見事断ち切って見せてくれると嬉しいわね!」
「「「はい!!」」」
ティリアさまは一瞬瞑目し、頷くと声高らかに宣言する。
「主神ティリアの名において、女神アルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネの力の行使を許可! 私が立ち合う!」
門を三角形で囲む魔方陣からまばゆい光が三姉妹達に降り注ぐと、その三人が『神気』に身を包む。
同時、周囲に靄のような黒い紫煙がたちこめ始め、赤黒いオーラを纏った悪魔じみた異形が現れる!
「おいでなすったぜ! 姐御! 地上の奴等は俺と玄武が引き受けた! 行くぜげんちゃん!!」
「きゅーっ!!」
最後の呪いが発動した。白虎と玄武は地上に現れた「魔神の残滓」に対応すべく降りていく。
悪魔じみた、そう思ったけど鑑定結果を見る限り、レッサーデーモンと合成魔獣の混合チームのようだ。
レッサーデーモンは、人間の成人くらいのサイズに黒ずんだ紫色の肌、禿頭に触覚だの角等が生えており、大きな蝙蝠の翼を持っている。前世の漫画等の知識にある姿そのものだ。
合成魔獣にいたっては、「おぞましい」の一言に尽きる。こちらも漫画知識で知ってはいるが実物は気持ち悪すぎる。
例えばそれは、一見ライオンのようだが、身体中に不自然な穴があり、その穴から蛇が顔を覗かせる。
例えばそれは、馬のように見えて頭がトカゲ、背には蛙の頭があって長い舌を延ばしている。
酷いのは巨大な百足の頭部が無数の人のそれで、その足は人のそれだったり。
「見るに堪えないね……酷すぎる」
こんなの相手しなきゃいけないのはキツイ、特に精神的に。嫌悪感が振り切れそうだ。
私は杖アリアを両手に持ち、大きく頭上に掲げてイメージした魔法を発動させる。巨大な太陽のような炎塊が具現し、その焔を雨のように降らせる。
聖炎。邪心に染まる者を焼き尽くす炎弾だ、その聖なる炎はミニマップ上を赤く染める敵性マーク、「魔神の残滓」達に次々と着弾し消して行く。
「さぁ! 来るならきなさい! 魔神に縛られた哀れな影達!!」
消したそばから靄が再び拡がり、次々に「魔神の残滓」が現れる。なるほど、確かに終わらない戦いになりそうだ、だけどね!
「回帰せよ回帰せよ……消える灯火、失われる命よ。死は始まり。生誕に還る道程なりて……終焉のフォレアルーネが命じる! 『永劫回帰』!!」
「芽吹け、生まれよ、生命の息吹。回帰せし命は祝福されし新たな始まりを告げる。私は生誕のアルティレーネ! 『再生の祝福』!!」
「生誕し、育まれ、消えゆく。その輝き汚されるなら私が浄化する、調和のレウィリリーネが告げる! 世界よ共鳴せよ! 『浄化共鳴』!!」
アルティレーネ達によって『聖域』の再生が始まった。世界樹を中心に円環状に力が拡がっていく。黒ずんだ大地は見る間に緑茂る肥沃な土地へとその姿を変える。いや、本来の姿を取り戻していく!
「見よ! 遂に『聖域』の再生が始まった! 良いか小童ども! 再生が済むまで何としても凌ぐのじゃ!! 魔女に続けぇぃっ!!!」
「「「「「《(オオォーッッ!!!)》」」」」」
『聖域』再生まで、後一時間!
ユニ「これからは『お母さん』って呼んだ方が良い(´・ω・`)?」
アリサ「ユニまで~やめて、お願いだから(つд;*)」
ティリア「アリサママ~(*つ▽`)っ 私もかまって~(σ≧▽≦)σ」
アリサ「うぎゅ(;´д`) だ、抱きつかないでください~( ; ゜Д゜)」
アルティレーネ「わ、私もっ……か、か、かまってほしいぃ……です、ママ゜+.(*´pωq`)゜+.」
レウィリリーネ「二人とも止めて……これじゃ黄龍を責められない(ーдー)」
フォレアルーネ(何気に身内の恥だって言ってる。レウィリ姉容赦ないな(;゜д゜))
次回更新遅れるかもしれません。m(_ _)m