61話 魔女と女神の秘薬
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【ミーナの洗礼】~にゃあ~んからのドーン~
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ぺしぺし、ぺしぺし。
「ううぅん……暑い……重いぃ~……」
「なぁぁ~ん?」
ぺしぺし、ぺしぺし。
「むぁぁ……ちょいと~ミーにゃん……」
胸に圧迫感と熱を感じ、私は眠りから覚める。なんぞ? と、思って見れば、ミーナがベッドに仰向けになった私の胸の上に、でで~んと箱座りして、その右手で私の顔をぺしぺし叩いてくるではないか。これは「退屈だから構え」って言うおねだりだ。こちらの都合などお構い無しのわがままな要求に、懐かしさと同時、嬉しさも感じるね。
「あいあい……ちょいと待ってねぇ~……見ての通り動けんのだよ。ミーナさんや」
「にゃあおぉ~?」
起き上がってちょっと遊んでやろうって思いはするんだけどね、両隣で私にくっついている妹達のおかげで身動きが取れんのだよ。それを感じ取ったのかミーナはあろうことか、アルティレーネの横っ腹にドーン!
「はうっ!?」
続いてユニの顔を塞ぐように、そのお腹をでで~んと乗せて、両手を伸ばして私の肩に乗せてくる。
「うむぅーっ!?」
「うおぉい? やりたい放題ねあんた!?」
「うにゃぁーん?」
アルティレーネが突然の衝撃に呻いて目を覚まし、ユニが息苦しそうにして目を覚ましたようだ。マジで構ってもらうためなら手段を選ばない相棒だわね。
「はうぅ……こんな起こされ方されたのは初めてです……」
「んぅーっ! ひどいよミーナちゃん!」
「うーにゃっ!」
妹二人の抗議の声もどこ吹く風よって言わんばかりのミーナは、私に撫でられて、嬉しそうに鳴く。その際に何度か撫でる手をガブガブ甘噛みされる。
猫と暮らしてるとさ、こう言う理不尽も付きまとうんだよね……そこもまた醍醐味なんだけど。
「はぁ、また随分早い時間に起きてしまいました……どうされますかアリサお姉さま?」
「そりゃ起きるよ。不寝番してくれてる三人の様子も確認したいし、朝食も作りたいし」
ミーナを撫で回し、取り敢えず満足させると、身仕度を整え始める。中途半端な時間に起こされた為かアルティレーネはう~んって悩み顔で私にどうするのか聞いてきたので、そう答える。
「夕べからお客さんも来てるみたいだし、一緒に確認しに行きましょう?」
「ああ、言われれば……まだいるようですね。懐かしいこの気配、まだ騎士団の者が残っていたのかしら?」
眠りにつく前に妙な気配とアリス達が接触したのを感じて、問題ないかな? って事を確認してたんだけど、悪い感じはしなかったし、アリス達も起こしに来なかったからそのまま眠ってたんだよね。
「おっと、お早うさん。随分早起きじゃねぇかアリサの嬢ちゃん」
アルティレーネと私は軽く身仕度を済ませて、その悪い気配はしない妙な客人を確認するため、ガチャって扉を開けて部屋を出る。ユニはまだ眠いのか、ミーナを抱き枕にして再びすやぁ~した。
「あら、お早うユグライア。貴方も随分早いではありませんか?」
「おはろ~ゼオン。もうちょっと寝ててもよかったんだよ?」
「おはようございますアルティレーネ様。
はは、いやなに……いつものクセってヤツかな? ギルドマスターなんてやってると、それなりに仕事があってなぁ~」
廊下でばったり出会ったゼオンは、服もしっかり着替えて、髪も整えているから、用をたしに起きてきたって訳でもないみたいだ。聞けば職業柄どうしてもこんな時間に起きてしまうらしい。ご苦労様です。
「んじゃ一緒に見に行く? このログハウスの外にお客さんが来てるみたいなんだ」
「客って……この家って外から隔離されてるんだろ?」
「そうです、ですから……その類いか、或いは迷い人かでしょう」
アルティレーネの言う「その類い」ってのは、このログハウスを認識出来るほどの力を持った者ってことだね。まぁ、そんな奴はそうそういない。悪意を持っていたりしたら私達は直ぐに気付くし。
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【ビット】~陛下と御対面~
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「ま、参りました!」
《ふむ……中々に見事な手前でありました、バルガス殿。貴公は未だ未熟なれど、まだまだ伸びましょう。精進は貴公を裏切らぬ故、励まれよ》
「すげぇ~ビットさん、マッジに強えぇでっすわ……」
「かのセリアルティには貴方程の強者が揃っていたのですか……?」
おおう? ログハウスの外に出てみれば、なんかバルガスが……木彫りの人形? みたいなのを前に膝をついているね。一体どういう状況なんだろう?
「あら……? 貴方、ビット? ビットですか?」
《おおっ! これはアルティレーネ様! ご就寝の所騒がしくしてしまい、申し訳ございません》
にゃんと? ビットだって!? え、その木彫りの人形が?
アルティレーネがなんか気配でわかったのか、バルガスの前に立つ木彫りの人形を見てはそんな事を言い出した。え、なんで? ビットってば他の騎士達と一緒に昇天したんじゃなかったっけ?
「マスター! おっはよんございまぁす♥️」
ムギュ!
「お早うアリス、バルガスにネヴュラ。何があったか教えてくれるかな?」
私の姿を見付けては嬉しそうに抱き付いてくるアリスを優しく受け止めて、撫で撫でしてあげつつ、一体何があったのかを聞いてみる。
「お早うございますアリサ様、アルティレーネ様、ゼオンさん」
「朝早くから不様な姿をお見せしてしまい、申し訳御座いませぬ……実はですな……」
同じく私達に気付いたネヴュラとバルガスもおはようをしては、側に寄ってくる。そしてバルガスが事の経緯を説明してくれた。それによると、どうもビットは団員達を全員見送った後、数日この王城跡地を見納めするべく留まっていたのだそうだ。
《やはり、私が産まれ育った場所ですからな……感慨に耽り、甦る未来に想いを馳せていたのです》
今でこそ朽ち果ててしまっているけど、きっとビットにはこのセリアルティに沢山の思い出が詰まっていたのだろう。今までは只々、アルティレーネの事を憂い、無念の内に待ち続けていたビット。
先日アルティレーネと再会したことで、その憂いも不安も晴れ。漸く自分の事を見つめ返す事が出来たのだと言う……旅立つ前に故郷をその目に焼き付けておきたいと思うのも無理からぬことだろう。
そんな時に私達が戻ってきて、『中継基地』をどどんと、設置した。外と隔離されたこのログハウスに何故ビットが気付いたのかは、彼が現在非常に存在が曖昧になっているからだ。
『物質体』はとうの昔に朽ち果てて、長い時間を過ごした『精神体』も擦りきれて、今や『星幽体』だけになりつつあるビットだから、この生者の世界と死者の世界の狭間、『隔離世』を認識出来たのだ。
「そんなビットさんにこのアリスちゃんが、仮初めの肉体として木偶人形を作ったんでっすけど……急造すぎたのでなんとか『根源の核』を保護する程度なんでっすよね……」
そんな出来損ないの木偶人形でバルガスと手合わせしては全勝したのだと言う話らしい。見ればかろうじて人の形をしているけど、腕や脚の間接部分など、一部に動かせない箇所もある。こんなのに憑依してバルガスに勝つなんて凄すぎない?
「ま、待ってくれ……ビット、ビットって……伝え聞くセリアルティ王国聖騎士団。その第三騎士団を率いたっていう伝説の武人かよ!?」
ビットの名前を聞いたゼオンが驚きながら、その身を乗り出してきた。前のめり~だね、どうしたのかね? 何をそんなにびっくらこいてんの?
「驚きもするぜ、アリサの嬢ちゃん。ビットって言えば勇者達ほどじゃねぇにしろ、その勇猛を歴史に残す武将なんだぜ!?」
《大袈裟な……陛下? 陛下ではありませんか!? いや……そのご子息様!?》
私が目をまるくして驚いてるゼオンを不思議に思い目をやると、それだけで私の言いたい事を察したゼオンは、ビットの事をそう説明した。それを聞いていた木偶人形に憑依した彼もゼオンの姿を見ては驚いている。世代は代わっているけど、主従の暫く振りの対面でもあるのか。
「いやいや、陛下だなんて! 俺はまだ一つの街の代表でしかねぇですわ」
《……ふふ、やはりご子息様ですな。よく似ておられる、顔立ちも、お考えも……》
木偶人形に謙遜したゼオンが苦笑い……端から見ると変な光景だわね。
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【女神の秘薬】~残り湯~
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「またこうして会えたのは嬉しいですけれど、ビット。このままでは貴方は彷徨う魂となってしまいますよ?」
アルティレーネがビットに対して、少し寂しそうにそう伝えた。彼女が言うには、只でさえあまりにも長い時間留まって居たため、彼の『精神体』は限界を向かえており、『星幽体』……どうやら『魂』と同意らしいね。それが剥き出しになりつつあるのだそうだ。
「……やがて、自我を失い、宛もなく彷徨った後、貴方の『魂』は擦りきれ『根源の核』もろとも消失してしまいます……ビット、そうなる前に輪廻の輪に還りなさい」
「えー……なんか残念でっすねぇ……」
「うむ……ビット殿の剣技も修めてみたかった……名残惜しゅうございますな……」
創丗の女神の言葉にアリスもバルガスも残念そうにしている。確かに惜しいね……ビット程の人格者が只消えてしまうなんて、そんなのもったいなさすぎる。いや……待てよ……
《そうですな……部下達も皆還って行きました。そして再びアルティレーネ様に、陛下にもお会いする事ができました……惜しむらくは、セリアルティの復興を見届ける事が出来ぬ事と、私達の騎士団剣技を伝える事が叶わぬ事くらいでしょうか……》
ビットの言葉に皆が寂しそうな表情になる。う~ん、剣技は多分他の騎士団達が伝えてたりするんじゃないかね? 復興を見届けたいっていう願いはなんとかしてあげたいなぁ……どうせ旅立つなら憂いなく気持ちよく旅立ちたいよね。
「剣技は文献に載っているのがあるな……実際に使える奴がいるかは別としてだが……王国の復興は必ず俺達が成し遂げて見せるぜビットさん!」
《陛下……お願い致します。アルティレーネ様、最後にまたお会いする事が出来て光栄の至り。このビット、皆様の作る未来を見守っております》
ゼオンが王国の復興を約束するとビットは優しく微笑み、私達に別れの挨拶を告げてくる。いかん、このままでは彼の『想い』を拾えない。
「あいや待たれい! ビットくんや、チミを未練タラタラで還らせる訳にはいかんのだよ! そう、この『聖域の魔女』さんの名に懸けても!」
「アリサお姉さま!?」「マスター!」「「アリサ様!?」」「アリサの嬢ちゃん?」
別れの雰囲気をぶっ壊す私の声にみんなびっくらこいて、バッ! って私に振り向いた。
「ぶっちゃけ『黄泉返り』って訳にはいかないけどね……アルティ達の決めた循環の環に反しちゃうからさ、でもね。その未練が晴れるまでの間なら留まっていられるようにできるわ!」
「なるほど! アリサお姉さまの権能でビットの『想い』を汲み取るのですね?」
そう、私がやるのはアルティレーネ達の世界の摂理に反する訳じゃなく、先にも言ったように未練を果たすまでの間だけ、存在を繋ぎ止めるというものだ。
《おおぉ……アリサ様、このビット。貴女様に心より感謝を! 是非に、是非にお願い致したく思います!》
「さっすがマスター! こいつは嬉しいでっすね!」
「我も、我も感謝致します! アリサ様!」
「うふふ、良かったですわねビットさん。私も何だか嬉しく思いますよ」
うん! みんなも賛成してくれてるようだし、私も頑張ってみましょうか! 既にヒントはアリスが木偶人形って形で示してくれているからね。要はビットの『精神体』を修復し、『星幽体』と、『根源の核』の保護を強固にしてくれる……『物質体』と同義となる『器』を用意してやれば良い。
「イメージするのは魔女の釜。はい、ドン! そしてここに私の神気を注いでっと……よし。ビットくんや、その木彫りの人形から出てこの、五右衛門風呂にお入りなさい~♪」
《か、畏まりましたアリサ様》
ログハウスの真ん前にイメージ魔法で具現化させた、大きな釜をどどーん! と置いて、私は神気をその釜に注ぎ込む。前世のお伽噺などで、鼻のながーい魔女のお婆さんが「ヒッヒッヒ」とか、怪しげに笑いながらまぜまぜしていたあの『魔女の釜』。大丈夫よ~これはそんなに怪しくないよ~?
「いや、アリサの嬢ちゃん……めちゃくちゃ怪しいぞ? 大丈夫なんだよなそれ?」
「大丈夫だってば、ビットくんどうよ? ほわほわあったかくて気持ちいいでしょ?」
《ええ、とても心地の良い温もりです。母に抱かれていた幼少の頃を思い出しますな》
ゼオンは心配しすぎだってば。見なさいな。アリスが作った急造の木偶人形から憑依を解いたビットが、ふわふわと浮いては釜に入って気持ち良さそうに目を閉じているでしょう?
「じゃあ、ここにこの秘薬を入れるよ~」
そう言ってミーにゃんポーチから、ある小瓶を取り出す。
「秘薬……? アリサお姉さま、それは一体どんな薬なんですか?」
「これはね、あんた達妹の力がほんのちょっと込められた『女神の秘薬』だよ」
私の『創薬』と『イメージ魔法』を使って出来上がった秘薬中の秘薬。アルティレーネの『生誕』、レウィリリーネの『調和』、フォレアルーネの『終焉』の力がバランスよくつまった至高の一品なのだ。まぁ、こんな機会じゃないと使い道もないんだけどね。
「え~? マスターってば、そんな物一体どうやって……?」
「残り湯」
へ?
アリスの質問に答えると、全員が目を点にした。
「妹達が入り終わった後のお風呂の残り湯を、こう~まぜて、そっから凝縮かけて丁寧に抽出したの」
「ななな……」
あれは履歴書を見た後の事だね。色々と試してみたくて、思い付いた事を片っ端からやってたら偶然出来ちゃったのがこの秘薬なんだよ~ん♪ って、アルティレーネが顔を真っ赤にしてワナワナ震えてるね。どうしたのん?
「だ、駄目ですーっ! アリサお姉さま! なんて物を作ってるんですか!? 止めてください! そんな恥ずかしい薬なんて使わないで!」
「えー? もう入れちゃったよ?」
ああああーっ! って大袈裟に取り乱すアルティレーネさんです。いいじゃん別に。
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【アバター】~便利なもう一人~
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「ううう……アリサお姉さま……なんてことしてくれたんですかぁ~? 私、私。もうお嫁にいけません!!」
「ゼオンにもらってもらえばいいんじゃない?」
「ユグライアは子も同然です!」
よよよって崩れ落ちるように尻餅をついたアルティレーネがなんぞ変な戯言を抜かしよる。だから大袈裟だってば、お風呂の残り湯なんぞ洗濯するときに使うんだし。
「おおっ! アリサ様! 釜が光っておりますぞ!」
「おっと、いい頃合いだね。ここで『神々の雫』を入れてっと……」
バルガスが釜の様子に驚いて私に声をかけるので、アルティレーネから目をはなして釜に注目。いい感じにビットの仮の『物質体』が構築されて来たので、安定させるために『神々の雫』を注ぎ込む。
「まぁ! 光が収まっていきますわ!」
「おおお? 皆さん見て下さいよぉ! ほら、アルティレーネ様も! ビットさんが、ビットさんが!!」
ネヴュラとアリスが少し興奮気味に叫ぶ。釜から放たれる目映い光が徐々に収まっていき、やがて完全に収まった。そして、そこには……
「こ、これは……おお、なんと言うことだ……っ!」
生前の頃に身に付けていたのだろう。それは見事な甲冑と騎士剣、騎士の盾を纏う、覇気に溢れる一人の騎士の姿がありましたよ。……ただ、釜の中に入ったままなのでどうにも格好がついてないけども。
「はい、出来上がり。どうよビットくん? なんか変なところはないかね?」
『浮遊』で彼を釜から出してあげて、みんなの前に降ろしてあげた後、仮の入れ物……そうだね、『アバター』とでも呼ぼうか。それに異常はないかを問う。
「素晴らしいです! ああ、この感じ……この鎧、この剣、この盾! ええ、あの決戦の頃のまま!」
ヒュンヒュンッ! ビュオンッ!
自身を試すように軽く剣を素振りするビットは、その表情を嬉々に満たして頷く。むぅ、見事な剣捌きだね、ゼオンが言った歴史に名を残した武将ってのは間違いじゃないみたいだ。
「おおお……素晴らしい程の剣の冴え! ビット殿、是非我に貴殿の剣を継がせてはくれまいか!?」
「面白そうね。私も習ってみようかな? 『剣聖剣技』との違いってのも、実際に感じてみたいし」
ビットの素振りを一緒に見ていたバルガスも、その見事さに唸りをあげ、彼の剣技を習いたいと言う。私も気になるので便乗することに。
「おお、バルガス殿はともかく……アリサ様も我等の騎士団剣技にご興味がおありか? 貴女様は私の恩人故、いくらでもお教え致します! とは言え、かのメルドレード様の剣技とはとても比べようも御座いませぬが……」
「まま、マスター! 一度ビットさんと立ち合ってみてほしいでっす!」
「名案ですなアリス様! アリサ様、ビット殿! 是非、是非に我にお二方の剣技を拝見させて頂きたく!!」
私とバルガスの申し出に喜ぶビット。そして何か興奮したアリスが私とビットとの立合いが見たいとか言い出した。ふぅむ、バルガスも興味津々のようだし。ゼオンにネヴュラもなんか、少しワクワクしてるようだ。
「ご飯作らないといけないからなぁ……『無限円環』にいる「聖女アリサ」を一回戻そうか?」
私もビットの騎士団剣技には興味があるのは事実。正直アリスの提案を受け入れたいと思うのだけど、これから起きてくるユニ達の朝ごはんも作らなきゃいけないのだ。なので、『無限円環』にいる『鏡映す私・私映す鏡』による「遍在存在」の私……「聖女アリサ」にお願いする事にした。
「はいはい、こういうとき便利だよね、この魔法♪ そうそう、シェラザードとゆかりは今もゲームに夢中になってるよ。交代交代でレベル上げしてるわ」
そんな訳でこっちに来てもらった「聖女アリサ」。その姿を見たビットはびっくりした顔で固まってしまう。
「相変わらず見事な魔法ですね、アリサお姉さま」
「そう? アルティだってその気になればこのくらい出来るんじゃない?」
「ななっなんとぉーっ!? アリサ様が二人に増えましたぞ!?」
はい、このように目ん玉飛び出そうな勢いでびっくりです。
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【遍在存在】~立合い~
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「いいえ、「遍在存在」はティリア姉様から「無限魔力」を授かったアリサお姉さまだから出来るのですよ。ほら、シェラザードと戦った時も彼女、驚いてアリサお姉さまの事をティリア姉様だと思っていたでしょう?」
「ああ、そう言われればそうね……」
取り敢えずビットには「魔女アリサ」に私達の魔法の事を説明してもらうとして。その間ちょいとアルティレーネと軽く会話を楽しむ。『鏡映す私・私映す鏡』による私の「遍在存在」について、アルティレーネ達妹もその気になれば使えるものだと思ったんだけど、どうもそうはいかないらしいね。
「精々が珠実と同じ「並列存在」止まりですね、それも彼女のように九体も出来ませんよ?」
「それを聞くと珠実って凄い子よね?」
全くですと頷くアルティレーネ。流石我等がたまみん♪ 『懐刀』なのは伊達じゃないね!
「そう言えば、シェラザードと……ゆかりさんはゲームをしてるとの事ですが、もう一日経過してますし……『無限円環』内では一年。ずっとやってるんですか?」
「ん、ああ、いやいや。『無限円環』内の時間経過は私が自由に調整出来るんだよ。今はこの『ユーニサリア』と同じにしてるよ?」
アルティレーネがふとした疑問を口にしたので答えてあげる。いやはや、流石に一年中ゲーム漬けなんてヤバいって。
「そうなのですか、本当にアリサお姉さまは器用ですね。でもシェラザードに聞いたのですね? この世界の名前……実はアリサお姉さまとユニにその名を分けたのは、お二人がまさにこの世界の要だからなのですよ?」
「大袈裟……」
思わず苦笑いでそう返す。ユニは『世界樹』なので、理解もできるけど、私もその要なのかと言われるとう~ん? ってなる。そりゃあ、私なりに色々頑張って来たけどさ。そこまでじゃないんじゃないかなぁ~?
「ふふ、アリサお姉さまはそのままでいて下さい。あ、ほら、戻ってきましたよ?」
「軽く説明しておいたよ聖女。私は朝ごはん作るからさ、ビットのお相手してあげてくれるかな?」
「オッケー♪ ああ、シェラザードとゆかりの分も作って~って、私だし言わんでもわかるか?」
ビットにこれまでの経緯とか、多少はしょりつつ説明して、ある程度納得してもらい、私とアルティレーネのとこに戻ってきた魔女。結局は二人とも私自身なので何も言わなくても伝わるんだよね。
「あいよ~セリアベールのお祭りの時にも手伝ってもらったし、そのお礼もかねて美味しいご飯作るね」
そう言えばそうだったね、あの時は大量にシチューとハンバーグを量産してたっけ。シェラザードもゆかりも美味しそうに食べてたよ♪
「いやはや、まこと驚かされてばかりですが……立合い、よろしくお願いいたしますアリサ様!」
「こちらこそ、貴方のその『アバター』の調子を確かめる意味も含めて、軽く動かして見ましょう。寸止めルールでいいよね?」
魔女がログハウス内に入るのと入れ代わり、私は外の広場でビットと向き合いアリアをミーにゃんポーチから取り出す。ギャラリーのアリスとバルガスがワクワクした様子で見守ってるね。ネヴュラとアルティレーネも興味深気に見つめている。
「未だ未熟な身故、かの『剣聖』の剣とまみえる事に高揚を抑えられませぬな……」
ビットは心底嬉しそう。剣を構えるその姿から喜びの感情が感じ取れる。未熟って言うなら私もなんだけどね、「こうだろう」って、自分勝手な解釈で影の魔王メルドレードから盗んだこの剣技を伝え拡める事に迷いはないけど、他人の努力である以上、驕るつもりはない。
「私もまだまだ「体験」が足りてないからね……よろしくお願いします」
「いざっ!」
キィンッ! ガガッ!! ガキンッ!!
そうして始まったビットとの立合いは、まずお互いに小手調べと言ったところ。ビットの振るう剣檄をいなし、受け流し、時に受け止めてこちらも返す。ビットはビットで盾で、或いは剣で、身のこなしで私の攻撃を防いでいる。
「なるほど、如何にも実戦の剣って感じだね。入り乱れる戦場で、どれだけ相手を「動けなくするか」ってとこに重点が置かれてる」
「流石……早くも見抜かれましたか、ではそろそろ!」
戦場で重要なのは、相手の息の根を止めることじゃなくて、動けなくする事。そして、如何に早く相手の回復役を潰せるかにかかっているとかなんとか、って話を以前『四神』達に料理をふるまっているときに聞いた覚えがある。その時は物騒だなぁ~なんてのんきに思っていたけどね。
さて、小手調べは終わり。って事だね、ビットの覇気が高まるのを感じるよ。
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【高め合う二人】~『剣聖』って凄かったんだね~
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ヒュンッ! ガッ! ビュオンッ!!
巧い……私の振るう剣がビットの盾に阻まれた、と、思ったら、流れるように逸らされて、疾風のごとき斬撃が飛んでくる。その斬撃をひらりとかわすのだけど、その間に間合いの取り合いをビットが制するカタチになってしまう。
ビュンッ! ヒュオッ!
うおおっ? あぶなっ!? 間合いを制されると言う事は相手の攻撃を許してしまうって事になるわけで、当然と言わんばかりにビットの激しい連撃が飛んでくる。なんとかかわしたけど、いやいや、凄いわ。マジに強いねビットは!
「なんと見事……あれではアリサ様は思うように間合いを詰められまい」
「なんて言うんでっすかね? マスターがビットさんにいいように動かされているみたいでっす!」
観戦しているバルガスとアリスが感嘆の声をあげているね。うん、私も同じだ。正直ビットがここまでの実力者だったとは、驚きである。
「ふふふ、貴方のリードで踊るのも中々楽しいけれど、そろそろ私もアプローチしたいわね。いいかしら?」
「はぁはぁはぁ、淑女に華を持たせるも騎士たる者の嗜み。お付き合い致しましょうぞ!」
ビットの盾による受け流しからのカウンターじみた反撃に、私は避けるのではなく返す剣で弾くと、今までと違う更に一歩を踏み込んだ速度で斬撃を彼に浴びせていく。
ビット達聖騎士達の剣がどこまでも実直な「剛の剣」ならば、メルドレードの「剣聖剣技」は「柔の剣」か? 否、そんな物ではない。その程度であれば『剣聖』などと謳われるものか。
「『剣聖』とは。只在るだけで勝利が確定する、人でありながら神にも等しき『究極』! その片鱗をこの目で、この身で体験出来るとは、なんたる僥倖か。アリサ様、お願いいたします!」
アクセルの回転を速めていく私の斬撃を必死で防ぐビットが懇願するかのように、私に訴える。いいよ、私のアプローチはここからだもの、しっかり味わってちょうだい!
「うおおっ!? ちょいっ! ほらバルガスさんにネヴュラん! ちゃんと見て! マスターがすんげぇ動きしてまっすよぉぉ!?」
「は、速すぎて追いきれませんわアリス様!」
「むぅぅっ!! ビット殿はついてゆけるのか!? 凄まじい! 我ならば二~三撃で沈んでおるわ!」
アリス、ネヴュラ、バルガスが興奮して大声あげてる、ちょっと~まだ寝てる人いるのよ? そんなに騒がないでーって、場違いな思考がよぎるけど、ビットの強さは本物だ。だいぶ息があがって来てるようだけど、メルドレードの影と戦った時の剣檄と同じくらいの手数を凌いでる。
その強さには敬意を払わなくてはいけないだろう。彼が望むのは『剣聖』の技、ならばお見せしよう!
「まずは、これだ!」
ビュンッ!
「なっ!?」
ピタリ。と、ビットの左の首筋にアリアを寸止め。一本取ったよ。ビットは右手に持った盾を掲げたまま、目をまるくして驚いた表情のまま動けずにいる。
「な、何が……? 私は右からの斬撃に盾で備えた筈……」
「『剣聖剣技奥義・鏡』……どう? まるで魔法だよね?」
初見殺しって言葉がこれほどしっくりくる技もそうはないだろう。因果反転、まさに魔法を技で再現すると言う離れ業を成し遂げたメルドレードの、『剣聖』の神業だ。
「魔神が恐れた訳ですよね……類い稀な剣技の数々に『神気』すら宿す事も可能にするのですから。メルドレード……本当に惜しい方を奪われました……」
「マジですげぇんだな……『剣聖』ってのは……俺には何が起きたのかすらわからんかった」
改めて『剣聖』の偉大さを感じたアルティレーネは、その失なった者を惜しむ。もし、魔神が人質など取らず、正々堂々とメルドレードと戦っていたなら……そう思うと本当に惜しい。ゼオンは口をポカーンって空けてひたすらびっくらこいている。口伝や書籍等で知った『剣聖剣技』を実際に目の当たりにして、想像以上だった~とかかな?
「さて、魔女が朝食を作るまでにはもう少し時間があるね。ビット、『アバター』には問題なさそう?」
「は、はい! 寧ろ生前よりも動きやすく感じますな!」
よしよし、ビットに用意してあげた仮の『物質体』の調子もよさそうだ。それならもう少し続けようか。
「じゃあ、続けて行くよ~? 堪能してちょうだいね!」
「感謝しますアリサ様!」
それから魔女が朝食が出来たよ~って呼びに来るまでの間、私達はお互いに剣を振るった。
勿論、私だけじゃなくて、ビットの騎士団剣技も沢山披露してもらったり、お互いに気になった点を指摘しあったりして、セリアルティ王城跡地での早朝は過ぎて行くのだった。
◆当時のミーナちゃんは体重五キロ◆
アルティレーネ「うぅ……(>_<)ミーナちゃんの飛び掛かりが思いの外強烈でした( ;∀;)」
アリサ「あっはっは。゜(゜^∀^゜)゜。まぁまぁ、タワーの上からじゃなかっただけマシだって( ´ー`)」
アルティレーネ「タワーですか(´・ω・`)?」
アリサ「そ、キャットタワーっていう、猫用の遊具でね(*´∇`)こう、全高二メートルくらいの高さのやつヾ(・ω・ヾ)」
アルティレーネ「あ、(;゜0゜)『聖域』の屋敷、今は神殿ですけど……そこにアリサお姉さまがイメージ魔法で出したあれですか(°▽°)」
アリサ「そうそう(^-^)で、前世で私、あの高さからダイブしてきたミーナに、文字通り叩き起こされたよ(;´∀`)?」
アルティレーネ「Σ(゜ロ゜;)ヒエェ……」
アリサ「熟睡してるところに、ドーンッ!ヽ(o・∀・)ノいい感じに鳩尾にヒットしたのよねぇ~(×_×)ゲホゲホッ! って咳き込んで、訳がわからないままに起こされて悶えたわ(o・ω・o)」
アルティレーネ「いやいや((‘д’o≡o’д’))笑い事じゃないですよね!?(;´゜д゜)ゞ」
アリサ「あはは(;゜∇゜)流石に危ないから、その後タワーを移動したわ(´∀`;)」
◆今はもう売ってない?◆
アリサ「練れば練るほど~ひっひっひ:+((*´艸`))+:。」
ゼオン「な、なんだよそりゃ?( ; ゜Д゜)アリサの嬢ちゃん、めちゃくちゃ怪しい奴になってんぞ?( ̄▽ ̄;)」
アリサ「昔こう言ってる怪しい魔女のおばあちゃんが出てた、お菓子のコマーシャル……えっと、宣伝があったんだよ(*゜∀゜)」
ラグナース「……随分狂気染みた宣伝ですね?(´゜ω゜`)」
アリス「一体どんなお菓子で……あ、いえ!(ノ゜Д゜)ノいいでっす!」
ネヴュラ「こ、怖くてとても聞けませんわ(;´Д`)」
アルティレーネ「ううぅ……(つд;*)残り湯……残り湯ぅぅo(;д;o)」
アリサ「もう~アルティ気にしすぎだって(;^∀^)」




