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TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
62/211

60話 魔女と王城跡地再び

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【王城跡地再び】~廃墟デート~《アリサview》

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「見えてきたよ、あれが『セリアルティ王城跡地』」

「おう……ここに来るのは冒険者時代以来か……変わってねぇや……」


 『セリアベール』から飛び立って『聖域』に帰る私達。『転移(ワープ)』を使えば一瞬で帰れるんだけど、それではあまりにも情緒が無さすぎて味気無い。折角ゲストがいるんだから遊覧空中散歩を楽しんでもらわなきゃね!

 そうしてやってきた『セリアルティ王城跡地』。街に向かう時もそうだったけど、ここで時間は夕暮れ時に差し掛かる。そのため、一度降りて『中継基地(サテライトハウス)』内で一夜を明かす予定だ。


「あんた高いとこ怖いんじゃなかった?」

「ああ、怖えぇ。今でも気を失いそうだぜ?」


 冒険者をやってた頃に訪れたことがあるって言うゼオンは、馬車の車窓から顔を覗かせ、かつて栄華を誇ったであろう王城の跡地を見下ろしている。高所に恐怖を覚えてる筈なのに、瞬きも忘れ食い入るように見入っているのは、亡き祖先を慮ってだろうか?


「……物悲しいね、私達の御先祖様の国もこんな感じになっちゃってるのかな?」

「どうでしょう? 『魔神戦争』が史実を元に書かれたのなら……」


 ゼオンに倣うようにして見下ろすリールとラグナース達のゲスト陣もみんなその顔を曇らせる。


「だいじょーぶ! だって、これからここってふっこーするんでしょ? それなら人もいーっぱい集まって『セリアベール』みたいに賑やかになるよ♪」

「にゃあーん♪」


 そんな暗くなりかけた雰囲気をユニの明るい声が吹き飛ばした。ミーナもそれにつられて可愛く一鳴きだ。


「そうだよリール! ユニちゃんの言う通りだよ!」

「ははっ! 違いねぇ、俺はやるぜ! 必ずこの王城を復活させてやらぁ! アルティレーネ様のためにも、俺の祖先達の思いに報いるためにもな!」


 フォーネもユニとミーナを見て明るく笑えば、ゼオンはやる気を滾らせる。「降りてじっくり見たい」って言い出すくらいだ。『中継基地(サテライトハウス)』を設置して夕飯の準備もしたいので、私達は再び王城跡地に降り立つ。


「じゃあ、アルティ。ゼオンと一緒に廃墟デートでもしてらっしゃいな。私は美味しいご飯作って待ってるからね」

「あら、うふふ♪ わかりましたアリサお姉さま。ユグライアも復興にやる気を漲らせていますし、護衛もかねて行って参りますね」

「あぁ~えっと……僕もついていくっていうのは野暮でしょうか?」


 手頃な広場に降りた私達は早速、『中継基地(サテライトハウス)』を準備して、みんなを家の中に招き入れる。ゼオンは少しだけ跡地を見て回りたいらしいので、アルティレーネに同伴をお願いした。その際に私が「デート」って言葉を使ったせいか、同じく見て回りたかったであろうラグナースが、遠慮気味に訊ねる。


「ははは! 構わんぜラグナース。て言うか、お前さんにも見てもらわねぇと計画が立てられんさ!」

「ああ、良かった。それでしたら遠慮なくご同行させて頂きますね」

「我等もお伴いたしましょうぞ」「私達も行きますわ」


 ゼオンの言葉に安心したラグナースは一緒に跡地を見て回ることになった。「計画」って言ってたから、きっと復興に必要なお金やら、人手、期間等と言った事細かい事を相談するんだろうね、そしてゼオンは件の黒フードに狙われているって立場なのを配慮したんだろう、バルガスとネヴュラもついてくれるようだ。


「それなら安心だね! えへへ、私達も参考のために見てみたいって思うんだけど、正直お腹空いちゃって」

「あはは、いよいよ『聖域』に出発って思うと、緊張でご飯食べられなくて~」


 リールとフォーネがくぅぅ~って可愛く鳴るお腹を押さえながらそんな事を言い出した。おやおや、それはいけないね、消化に良くて美味しいご飯用意しなきゃ。


「お二人もですか? 実は俺達も似たような感じでして……」

「娘達は元気よく食べていましたけどね……」


 二人の話を聞いたネハグラとジャデークは、同士を見つけた! と言わんばかりにその話題に飛び付いて、自分達も緊張であまり食事を取れなかったと言う。二人の奥さんのファネルリアにナターシャもちょっと顔を赤らめてお腹を押さえているのを見るに、同様なんだろう。で、その娘っ子等はと言うと、早速『中継基地(サテライトハウス)』に入って、ユニとミーナと遊んでいる。あれは探検ごっこかな? 物珍しそうに扉と言う扉を開けて、部屋の中を確認してはきゃっきゃと笑ってる。かーわいぃ♪


「ま、きゅーな変化っちゃ変化でっすしね。無理もにゃーでっすけど、ゆーっくりその変化を受け入れてけばいいんです。わたわたしたってしょーがないんでっすよ? 焦らずいきまっしょい」

「ああ、アリスの嬢ちゃんの言う通りだなぁ……おっし! んじゃ、ちっと見回って来るぜ!」

「ええ、行きましょう! ふふ、不謹慎かもしれませんが、少しワクワクもしますね!」


 リールにフォーネ、そしてこの二組の家族にとって見れば、アリスの言う通り、急展開で日常が変化していってるからね、ついていけなくなりそうで焦っちゃうのかな? よし、頑張って美味しいご飯作って今夜はのんびりしてもらうとしよう!


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【教えてたまみん】~天馬も遊びたい~《アリサview》

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「珠実様、やっぱり人の姿って便利ですか? 便利ですよね?」

「なんじゃカイン? そら便利かと問われれば便利じゃと答えるが……おぬし、人の姿をとってみたいのかえ?」

「はい! 是非僕にその人化の術を教えてもらえませんか!?」


 ほうほう……『中継基地(サテライトハウス)』で夕食を食べた後のまったりとした時間。私はミーナをブラッシングしてあげている最中、他のみんなも集まって雑談しては談笑したり、或いはゲームなどをして、思い思いにのんびり過ごしている。そんなときだ……『小さいは可愛い(ミニムーラブリー)』で小さくなったカインが珠実にそんなお願いをしてきた。


「人化の術かぁ~確か『懐刀』でも、リンとジュンは使えないのよね?」

「あっはっは♪ 『四神』のみんなは使えるのにねぇ~」


 カインと珠実のやり取りを聞いて思い出す、確かにリンとジュンは人型になれず、私の『小さいは可愛い(ミニムーラブリー)』で小さくしてあげたのだ。ユニが可笑しそうに笑うけど、『懐刀』は『四神』よりも上位の存在だよね? 何で人化できないんだろ?


「ふむ、『四神』共には童の頃より、妾が手ほどきした故な……しかしリンとジュンの奴は教えてやろうとしても、「小難しい事は嫌だ」だの抜かしおって避けておるのじゃ! まったく、だらしない奴等じゃ!」

「……なんか、その二人? とは気が合いそうな気がするぜ」


 私が疑問に思っていると、珠実がぷんすか怒りながらそう言った。リンとジュンはめんどくさがり屋さんなんだね~で、なんかゼオンがその話を聞いてほほう~って頷いてる。


「ゼオンさんも結構エミルさんに丸投げするところありますもんね……」

「おいおい、ラグナース? 人聞き悪いこと言うなよ~人には得手不得手ってのがあんだろ? 俺が下手に手ぇ出すよかエミルにやらせた方が早いってだけだ」


 あはは、なんか見た目の印象通りみたいだね! ゼオンは豪快さと大胆な感じで何かと立案するけど、その細部を詰めて微調整するのはエミルくんなんだそうだ。勿論エミルくんが反対すれば見直すそうだし、そんなに苦労してる訳じゃないのかもね。


「そう言えばカイン、以前もそんなことを言っていましたね? 何か思うところがあるのですか?」

「はい、アルティレーネ様。今さっきもそうですけど、楽しそうにお料理をなさるアリサ様達や、リバーシや、トランプと言ったゲームをする皆さんが羨ましく思ってしまって……僕も人の姿になれればご一緒できるのになぁ~って思いまして……」


 おやおや、そう言うことだったのか。確かにペガサスのカインは料理にもゲームにも参加出来ないからね、ちょっと寂しかったのかもしれないね。優しいカインのことだ、料理も食べさせてもらうばかりで少し引け目を感じてたりしたのかな?


「カインちゃんってばなんていい子なの!」

「うぅ、わ、私達も見習うべき? アリサちゃんの料理、無遠慮にばくばく食べちゃったよ……」


 フォーネが感動した! って言わんばかりにカインの話に飛び付いて来たけど、リールは気まずそうにしてる。あんた達の食べっぷりは見てて気持ちよかったし、そんな気にせんでいいのよん?


「かぁ~! 聞きましたかたまみん! このカインの言葉、そっくりあの熊と狼に聞かせてやりまっしょい?」

「うむうむ、まったくもってその通りじゃな! カインの爪の……蹄かの? 垢でも煎じて呑ませてやりたいもんじゃ!」


 あはは、一緒に話を聞いていたアリスもカインの純粋な望みに感心したみたいで、ジュンとリンにも聞かせてやりたいらしい。珠実もどうやら同じ考えのようだね。


「見事なお考えですなカイン殿。新たな事に挑戦するその姿勢……我も見習わねばならぬ」

「ええ、ご立派ですわカイン殿。私達も修練に励まなくては……『四神』の皆様方をも超える力を身に付け、アルティレーネ様の護衛としてふさわしくあらねば!」


 バルガスとネヴュラもカインに感心してやる気を漲らせているね。う~む……なんだか私も何かしら新しいこと始めてみるか? って気になってくるね。考えてみるか……


「ふわあぁぁ~う~ん……」

「シャフィー、おねむ?」

「うん……」


 おや? ファネルリアとお話してたシャフィーがぽやーんとしてはうつらうつらし始めたね。さっきまで元気におしゃべりしてたのに、子供ってホント電池切れたみたいに眠るよね。


「私も眠いよぉ~」

「ふふ、今日は沢山色々な経験をして気が昂っていたんだな?」

「そうね、いつもならもうとっくに眠ってる時間ですものね。アリサ様、子供達を寝かせてあげたいのですが……」


 ネーミャも眠そうに目を擦ると、うとうとし出したね。ジャデークとナターシャはそんな娘を見て優しく微笑んでいる。この子達は朝から元気いっぱいにはしゃいでたもんね。どれ、じゃあネハグラ達家族をお部屋に案内してあげよう。


「はい、この部屋使ってね? ほらほらぁ~シャフィーちゃんもネーミャちゃんもベッドでおねむしようね~♪」

「何から何まで、ありがとうございますアリサ様」


 『中継基地(サテライトハウス)』二階の部屋に予め用意しておいたふっかふかのベッドに娘さん二人を寝かし付ける。既にお風呂にも入ってパジャマ姿なので、着替えさせる必要がないから楽だね。ふふ、可愛い寝顔♪


「あんた達も馴れない空の旅で疲れてるでしょ? 遠慮せずにゆっくり休むんだよ?」

「そうですね、お言葉に甘えさせて頂きます。それではお休みなさいませアリサ様」


 家族を代表してネハグラがお礼を言うので、笑顔で返事を返す。うん、そりゃ疲れたよね。二組の夫婦は互いの娘を挟むようにベッドに横になると、直ぐに寝息をたて始めたので、静かに退室。


「お休みなさい、いい夢を~♪」


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【色々お話しまっしょい】~辛辣な二人~《アリスview》

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「私達もそろそろ寝ましょうか?」

「うん、ユニも眠くなってきたよ~」


 ネハグラさん達を部屋に案内したマスターが二階から静かに降りてくると、そう仰いました。やっぱり緊張で疲れていたんでしょーね。家族で仲良くすやぁ~しちゃったそうでっす。

 でも、気付いて見れば結構遅い時間になっていまっするので、ユニちゃん先輩もぽやぽや~って表情で眠そうにしちょります。マスターの仰る通り、今日はもうお休みなさいでっすね。


「では、警戒は我等が勤めましょうぞ」

「皆様はどうぞごゆるりとお休み下さいませ」

「今回は念のためアリスも起きてますよ。ですので安心して休んで下さいね」


 久し振りの真面目アリスになってみればマスターはちょいとばかり驚いた後、安心したように笑顔でアリス達に警戒をお任せしてくれました。にゅふふ♪ 嬉しいでっすね!


「じゃあアリス、バルガス、ネヴュラお願いね?」

「よろしくお願いしますねお三方」

「えへへ、お休みなさーい♪ また明日ね~」「にゃあぁん♪」


 マスターとアルティレーネ様、ユニちゃん先輩とミーナ大先輩がお部屋に入る際にそうお声掛けしてくださいまっする。マスターと一緒に寝るんでしょう、ちょい羨ましいでっする。


「何かすみません。よろしくお願いいたします」

「言われるとマジにねみぃな、んじゃ俺達も寝るわ……アリスの嬢ちゃん、バルガスさん、ネヴュラさん、申し訳ねぇが……」

「僕もお二人と同じお部屋でお休みしますね。万が一……なんて、無いに越したことはありませんけど念のため」

「なに、気にすることはない。ゆるり休むがよい。カイン殿よろしくお願いいたす」


 ゼオンのおっさんとラグナースさんも欠伸を噛み殺して、お部屋の前でそう言います。なかなか律儀でっす。バルガスさんの言う通り、遠慮する事にゃーでっすよ? んで、アリス達の警戒を掻い潜ってこれるような奴はそういないでしょうけど、カインも二人と一緒に寝てもらいます。


「ふふ、ほら貴女達もどうぞ? 珠実様をあまりもふもふしてはいけませんよ?」

「ありがとう~ネヴュラさん、わぁーベッドふかふか~♪ たまちゃんもふ~♪」

「これ! 今言われたばかりであろうが! しょうのない娘じゃのう!」

「えへへ、これはいい夢見れそう♪ それじゃお休みなさーい」


 ネヴュラさんに案内されたフォーネさん、リールさんは嬉しそうな笑顔でアリス達にお休みなさいします。たまみんは苦労するかもですが、まぁ、心底嫌って訳でもなさそうですし、ちょいと我慢してもらいましょー。それにしても、いいでっすねぇ~如何にもお友達みたいに接してくれてアリスもにっこりでっすよ♪


「さてと……」


 マスター達がお部屋で就寝されましたので、アリス達は夜間警戒のために一階に集合でっする。まぁ、この『中継基地(サテライトハウス)』は外界から隔離されておりますので、まず心配ないんでっすけどね~お客さんもいらっしゃいますし、アリス達がこうして警戒してるって事実があれば安心もひとしおでしょうからね。


「思えばこの『中継基地(サテライトハウス)』が『無限円環(メビウス)』の前身だったのかしら……?」

「かもしれぬな。アリサ様は常に先を見越しておられる……何ら不思議はあるまい」

「一度じっくりねっぽりその『無限円環(メビウス)』を見せてもらいたいでっすねぇ~あぁ、早く『聖域』に帰りてぇでっす!」


 話には伺っちょりましたマスターの『無限円環(メビウス)』でっすけど、アリス達はまだ見せてもらってないんでっすよね……あのむっつりんこと、アイギスさんの『白銀』達にアルティレーネ様しかまだ見たことないんです。早いとこ『聖域』に帰ってマスターにお披露目してもらいてーでっすねぇ♪


「それはそうと~お二人はぁ~今回の件をどう思ってますぅぅ~?」

「アリス様、またそんなおかしな口調で……そう、ですわね……正直に申しますと、複雑ですわね」


 おっほぅ? ネヴュラんってばそんな苦笑いせんでくだしゃんせ~話す内容が鬱っぽくなりそうなんで、あえておちゃらけとるんでっすよ~?


「うむ……我等からすれば『亜人(デミヒューマン)』達に同情する事態ですな。『セリアベール』のように、数多くの種族が入り交じりつつも、秩序を保っておる方が稀有な例でしょう」

「『人間(ヒューマン)』とは欲深く、臆病で己と違うものには直ぐに恐れを抱き排除しようとする、実に浅はかで哀れな愚か者の集まり……でしたからね」


 うっひょい! 何気にめちゃんこ辛辣でっすねぇお二人とも! いやぁ~でも、この二人って元々悪魔だっただけあって、『人間(ヒューマン)』の悪いとこ悪いとこをよーっくわかってるみたいでっす。アリスは『聖域』の意思の具現なので、その辺りはあんまり詳しくはねぇんでっすよね。


「あ~でもでっすよ? いくら悪い人間に酷いことされたからって、無関係の……それこそ『セリアベール』の、馬鹿だけど気の良い人達を巻き込んでいい理由にはならにぇーでっすよね?」

「その通りですわ。ましてや魔王を復活させ、この世界を滅ぼそうだなどと……到底許されない行為です」

「……それだけ追い込まれておるのだろう。単なる種族間のいさかいであるならば我等が動くことはなかったであろうに、魔王を復活させようとするのであれば黙ってはおられん」


 結局はそこなんでっすよねぇ……まったく、いくら自分や祖先、同朋達が虐げられたからって、世界をまるっとぶっ壊してもらおうなんて……馬鹿でっすねぇ、そもそも魔王が復活したとして、言うこと聞いてくれるとでも思ってんでっすかね?


「そこまで『亜人(デミヒューマン)』を追い込んだ『人間(ヒューマン)』も、また愚か者の集まりですわね……ですが私達は既に知っておりますわ」

「『セリアベール』で見たかの光景。『亜人(デミヒューマン)』だろうが『人間(ヒューマン)』だろうが、分け隔てなく共にあることが出来るのだ。それは我等の『聖域』も倣うべきところと、愚考致す」


 でっすねぇ。お二人の言う『セリアベール』の人々はそれこそ、種族の違いなど誰も意に介さず日々を過ごしていますもんね。


「今回の黒幕さんも、その環境を変えてやれば大人しくならんでっすかねぇ~?」


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【人代われば】~思考も変わる~《ネヴュラview》

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「問題は寿命による代替わりでしょう。『亜人(デミヒューマン)』と、『人間(ヒューマン)』とでは大きくそれが違いますわ」

「代替わりでっす? でもそれってそんなに大きな影響出ますか?」


 私が今回の事件の根本的な部分を『代替わり』にあると指摘すると、アリス様は首をかしげてそれにはどんな問題が生じるのかを問うてきました。よくよく考えてみれば、アリス様もまた『聖霊』として生まれて間もないのですよね。それでしたら人の営みに疎いのも無理もありません。


「そうですわね、簡単にご説明しますと。『人が代われば考えも変わる』と言うことですわ」

「ネヴュラ。簡潔すぎぞ?」


 もう、わかってますよあなた! これからちゃんとお話します。


「仮に、互い不可侵を誓いあった『人間(ヒューマン)』の国と、『亜人(デミヒューマン)』の国があるとしましょう。

 『亜人(デミヒューマン)』の国には『人間(ヒューマン)』の国も必要とする資源がありますが、それは『亜人(デミヒューマン)』の国にとっても必要な資源です」


 出来るだけわかりやすく説明するために、()()()()()()()()をぼかしてアリス様にお話します。


「ほほー、そうなるとその資源ってのが取れなくなるとヤベェ事に……」

「はい、その通りですわ。そしてお察しの通り『人間(ヒューマン)』の国の資源が尽きようとしておりましたの。当然ですわね、短命の『人間(ヒューマン)』はその分人口がとても多いのですから」

「ふむ、それだけ資源の消費が多かったのだな? それで、『人間(ヒューマン)』の国はどうしたのだ?」


 あら、あなたまで気になるの? うふふ、そう言えばこのお話を聞かせた事はなかったわね。


「新たに確保できる地を見つけるべく『人間(ヒューマン)』の国の王は動いていたわ。『亜人(デミヒューマン)』の国とは不可侵条約を結んでいたからね、と言っても、こっそり外交とかで交渉もして穏便に分けてもらったりしていたようですが……けれど」

「けれど? どうなったんでっす?」


 あらら、思った以上にアリス様ってばお話の続きが気になるご様子。ちょっと意外ですわね、「おもんね~あっきましたぁ~」とか仰られて、興味を無くすかと思いましたのに。


「その『人間(ヒューマン)』の国王が逝去しましたの。そして次代を継いだ新王は、「在るとも知れぬ地を探すより『亜人(デミヒューマン)』の国を獲れば良い」と言う方針を打ち出したのです」

「はぁぁぁっ!? いやいや! 馬鹿でっすかその新しい王ちゃまは? 不可侵条約結んでるじゃないでっすか?」

「当然、アリス様と同じように反対の声が多数挙がりましたわ。そうですよね、戦争しようとしてるんですもの。ですが、賛成する意見もあったのですよ?」

「……それだけ資源が枯渇しておったのか」


 これが先程言いました『人が変われば考えも変わる』と言うことですね。まぁ、正確には人だけでなく、それを取り巻く環境の変化が多分に影響しているのですけれど、先王はそれでも不可侵条約を守ろうとしていたのです。

 話を聞いていたアリス様は「マジか~」と言っては大層驚いたご様子ですね、夫は顎に手を宛て思案しているみたい。


「それで、どうなったのだ?」

「うふふ、聞きたいあなた? 正直気持ちの良い話じゃないわよ?」

「ここで止められたら余計気になりまっする!」


 どうやら二人共にこの話の結末が気になるみたいね。それならお話しましょう。


「圧倒的に反対意見が多く、新王もこの案は引っ込めるしかなかったの。ですが……彼等は恐ろしい事を企て始めるのですわ……それはつまり、『亜人(デミヒューマン)』の国へ攻めいる理由があれば良いのだと言う考えです」

「んなっ!? ちょ、ちょっと! ちょっと待ちんしゃいよ!」

「ネーミャちゃんもシャフィーちゃんも可愛いですわね。今回の件、あの子達が無事で本当によかった……」

「ネヴュラ……」


 ああ、懐かしいですわね……ふふふ、あの時ほど人の愚かしさを知った事はなかったわ。


「犠牲になったのは年端もいかない、『人間(ヒューマン)』の幼い少女。両親と健気に日々を生きていた、何の罪もない女の子。その子は国の兵士に秘密裏に殺害されて、それを『亜人(デミヒューマン)』の仕業であるとでっち上げたのです。

 そう、『亜人(デミヒューマン)』は悪であるとして、その国に攻め込む為の理由として、『人間(ヒューマン)』の新王が取った手段……」


 自分達の利益の為に、何の罪もない小さな女の子を犠牲にすると言う、吐き気すらもよおす程の邪悪。当時の私は悪魔だったけれど、この事実を知った時は一体、どちらが悪魔なのかと考えさせられたものだわ。


「何も知らされていない『亜人(デミヒューマン)』の国は瞬く間に侵略され、滅んでしまいました」

「なんちゅ~……うっへぇ……ひっどい話でっすねぇ……『人間(ヒューマン)』ってヤベェ種族でっすわぁ、そりゃ遺恨も残りますよねぇ」

「成る程……『セリアベール』もゼオンが代表である内は良いが、次代を継ぐ者によっては同じことが起こるやも知れぬと、此度の黒フード達は危惧しているのだな……」


 後味の悪い結末に心底嫌そうに、そのお顔をしかめるアリス様です。夫の言う黒フードですけれど、間違いなく、今の話の『亜人(デミヒューマン)』の国の生き残り達の子孫だわ。

 先日の後夜祭。墓地でアリサ様がその権能を用いて看破されたと言う人物達を見て、今の話を思い出したくらい過去の話ですし。


「はぁ……ネヴュラーん……その話って作り話じゃあねぇでっすよね? 話に出た『人間(ヒューマン)』の国って今も、のうのうと存在してるんでっす?」

「うふふ♪ いいえ、とうの昔に滅びましたわ。特に王族や政治に携わっていた者は根絶やしです」

「……なんか、見て来たかのように言いますね?」

「はい、だって私が滅ぼしたのですもの♪」


 ぶっふぅーっ!! あらあら、アリス様ったら、そんな盛大に吹き出さなくともよろしいではありませんか?


「ああ、我と出会って間もない頃の話か? 暫く姿を見せなくなったから何をしておるのかと疑問に思っておったのだ」

「うふふ、黙っていてごめんなさいねあなた。あの時、死にかけだったエルフとヴァンパイア数人が私を召喚したのよ。「あの『人間(ヒューマン)』の国に復讐を」って、魂を捧げてね」


 そうして先に説明した経緯を調べあげて、私は契約を果たした。と言う訳なのです。


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【思わぬ客人】~善き武人~《バルガスview》

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 大分昔の話であるな……先のネヴュラの話は、まだ我等が夫婦となる前の頃の話。

 ふぅむ……げに恐ろしきは人の恨みか。かの『魔神戦争』を生き延び、現在にまでその恨みを遺す執念には恐れ入る。


「正直、今回の件にマスターを関わらせたくはねぇ~でっす……」

「アリス様のお考えはよくわかりますわ……こんなドロドロとした醜い者達との関わりなど、アリサ様には無縁でいてもらいたいものです」


 アリス様のお言葉に同意する妻。うむ……我も同じ思いぞ。かつての世界で酷な目にあって来たと言う我等が神たるアリサ様に、こちらでもそのような醜い争いに関わらせるなど……!


「その為には我等が強くならねばならんな……」

「でっす! アリスもまだまだ未熟と知りました。これからは皆さんも含めた~とっくんたんれんもーくんれーん! の、毎日を開催でっす!」

「私達もついて行きますわアリス様!」


 うむ! 我もまだまだ未熟。先のケルベロス相手にあのような苦戦を強いられてしまうようでは話にならぬ……もっと精進せねば!


「取り敢えず、魔王ともガチ勝負して勝てるくらいにはなりたいでっすねぇ~魔王ってどんなもんなんでっしゃろね?」

「アリサ様がシェラザードを捕らえたことですし、一度お話を伺ってみたいですわね」

「手合わせは可能だろうか? 実際に戦いその力を肌で感じれば、わかりやすい指針となろう」


 過去に我等の前に現れた魔神は、正に異次元ともとれる強さを醸し出していた。それこそ、相対しただけで誰もが敵わぬと悟るほどに。そして、それを討ったと言う勇者の力もまた凄まじきものであったのだろう。


「なんと多くの猛者がいることか……むうぅ……滾ってきおる」

「あら、あなたどちらへ?」


 強者達に思いを馳せてみれば、我の内より沸々と闘志が煮出ってきおる! こうなればじっとなどしてはおられぬ。


「うむ、ちと素振りでもしてくる。動かねばいてもたってもいられん」

「たはは、こんな夜中に漲っちゃいまっしたか? んじゃ、このアリスちゃんもすこーしお手伝いしてあげまっすよぉ~♪」

「あらあら、それでしたら警戒も兼ねて私もご一緒しましょう」


 我がこのログハウスより外に出ようと扉に手をかければ、アリス様も妻もついてくる。わざわざ付き合ってくれるのか? 有り難い、感謝するぞ!


「思ったんですけっども、バルガっちってば根っからのパワーファイターでっすよね? こう、力いっぱい大剣ぶんまわして、バッタバッタと敵を薙ぎ倒して行く~ってスタイル」


 ログハウスの外、早速とばかりに我は愛剣を手に素振りを始めた。それを見ていたアリス様が我の戦闘スタイルについて聞いてくる。うむ、確かに仰られる通りであるな。


「それでしたら、いっそとっことーんまで突き詰めてみるのはどうでっしゃろ?」

「……えっと、長所をひたすらに伸ばす方針ですか?」

「でっす! こう、腕力なら右に出る者無し! ってくらい……あれ? ちょ、なんか出ますよ!?」


 む! 何奴っ!? アリス様と妻が我の素振りを見てアドバイスをしようとしてくれたその時だ、我等の前に淡い焔が現れる。これは、魂か? 隔離されたこのアリサ様の『中継基地(サテライトハウス)』にどうやって侵入したのだ?


ボウッ!!


《……なにやら、気配がすると思い来てみれば、貴公等はアルティレーネ様と共にいた従者か?》

「あっれぇ~? 誰かと思えば、ビットさんじゃねぇでっすか?」


 おお、彼は我等が街へ赴く前にこの王城跡地で出会った英霊。セリアルティ王国、聖騎士であったと言うビット殿ではないか!


「あら、お久しぶりですわね。でも貴方は転生するために旅立たれたと思っていたのですけれど?」

《うむ、団員達は皆旅立って行ったよ。私はその旅立ちを、皆が無事に済ませるのを見届けたところなのだ》

「おおぉ、流石は団長さん……最後まで部下を思って……くぅーっ! そうでっすよ、こう言う立派な『人間(ヒューマン)』だっているんでっすよねぇ!」


 見事。ビット殿は誠に部下思いの善き武人であるな……先に聞いたネヴュラの話に出た『人間(ヒューマン)』の王とはまるで違う。


《して、このような夜更けに如何された? 旅行く前にまたこうして会えたのだ、よかったら話しを聞こう》


 ビット殿の提案に我等三人は有り難く甘えることにする。折角だ、街での出来事やアルティレーネ様やアリサ様のご活躍などもお聞かせせねばなるまい! 思わぬ客人のおかげで退屈せずに済みそうであるな。

アリス「そーいえばお二人ってどーいう馴れ初めなんでっす(´・ω・`)?」

ネヴュラ「あら(/▽\)♪ 気になりますかアリス様ヽ(*≧ω≦)ノ」

アリス「ネヴュラんってば、なんかめっちゃ嬉しそうでっすね(;´∀`)」

バルガス「うむぅ……お恥ずかしい限りで……(-_-;)」

ネヴュラ「もう!(`ε´ )なんてこと言うのあなた!( `Д´)/私だってレイリーアさんのようにあなたを自慢したくなるのよ?(*/□\*)」

アリス「あー( ̄▽ ̄;)んじゃ、聞きまっすよぉ?((・ω・`;))」

ネヴュラ「ウフフ♥️有難う御座います!(*^▽^*)実を言うと、私の一目惚れなのですわ(/ω\)キャー」

バルガス「変わり者でありましょう(-ω- ?)我よりも見目も性格も良い男など、いくらでも居るであろうに(,,・д・)」

アリス「うーん( ゜Å゜;)びっみょーに答えづらいでっすけども、ネヴュラんどうなんでっすぅ( *´艸`)?」

ネヴュラ「私、モテましたの( ・`ω・´)キリッ」

アリス「は?( ゜д゜)ポカーン」

ネヴュラ「それはもう、サキュバスもかくやってくらいに……他の悪魔達にモテましたの!(*`▽´*)」

バルガス「(ーωー)」

ネヴュラ「なのに……この人ときたら私がどんなにアピールしても見向きもしないで剣ばかり振ってるんですもの!(`皿´)キィーッ」

アリス「ほうほう( =^ω^)ニヤニヤ」

ネヴュラ「最初は私の魅力に興味を示さない、生意気な男をなんとしても落として、手酷く振ってやろうって企んでおりましたの!L(゜皿゜メ)」」

バルガス「むぅ、当時は「こやつは何がしたいのだ?」と思っておった(  ̄- ̄)」

ネヴュラ「( ;´・ω・`)このようになびきもしませんでした(T-T)」

アリス「バルガスさんや、ぼっくね~んじんすぎまっしょい!(*≧∀≦)」

ネヴュラ「もうっ!(*`Д´)ノあなたったら! まぁ、そんな風に頑張って振り向かせようとしてた時に召喚されてしまったのですが……(´ノω;`)」

アリス「ははーん(  ̄▽ ̄)逆にそれが功を奏したんでっすねΣd(・∀・´)」

ネヴュラ「そうなのです♥️ 「押して駄目なら引いてみろ」とはよく言ったもので、離れてみて私も彼を本気で想っているって気付きましたの(’-’*)♪」

バルガス「むぅ……恥ずかしながら、いつの間にやらネヴュラが側にいることが当たり前のようになっておりましてな……その、いなくなると落ち着かぬように……f(^ー^;」

ネヴュラ「うふふ♥️ 召喚された時は「よくも邪魔してくれたわね!」って、随分憤りを覚えましたけれど、結果的にこうして結ばれるきっかけになりましたから、良かったですわ(*´艸`*)」

バルガス「失ってから気付く気持ちもあるものですな……(´ω`*)」

アリス「うひゅぅ~♪o((〃∇〃o))((o〃∇〃))o♪ごっちそーさまでっすぅよぉぉ~♥️゜+.(*ノωヾ*)♪+゜キャー」

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