59話 魔女と盛大な見送り
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【とある亜人の思い】~亜人差別~《ガッシュview》
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「……仲間の為、家族の為、愛する者の為、街の為。己の信念を貫き、多くを守った勇士達に対し、ここに感謝と哀悼の意を表する……全員、黙祷!」
スッ……
セリアベールの墓地にて開催される『氾濫』終息記念の後夜祭。賑やかに盛り上がり、華々しかった前二日間と違い、今日の後夜祭は今までに、それぞれの大切なものを守るべく勇敢に戦い散っていった者達に感謝を示すためのしめやかな祭りとなるのだそうだ。
(……悔しいが、この街は我々にとって住み良い。差別もなければ、迫害もない)
私は居並ぶ同胞と共に、この街の英霊達に黙祷を捧げつつ思う。
セリアベール……かつて『生誕』を司る女神アルティレーネの祝福を受け、保護された国『セリアルティ』その王家の末裔、ゼオン・ユグライア・セリアルティが代表を務める冒険者の街。
この街に住まう人々は皆、情に厚く我々『亜人』に対しても分け隔てなく接してくれる、一見理想的ではあるが……
(それも、『氾濫』と言う脅威があったからこそだ。その脅威が取り除かれた今……)
恐らくは我々『亜人』にとって、悪い方向へ変わって行くだろう……この場に居並ぶ住人達に対し、今までと変わらぬ『平等』の姿勢を貫くと熱弁するゼオンを見てそう思う。ゼオンが健在の内は良い、しかし、代を重ねて行く毎に必ず変わって行く。
我等は『人間』と違い、長い時を生きる者達だ。故に、『人間』が如何に欲深いかを知っている。
かつての私達の祖先は『人間』により故郷を侵略され、焼き払われ、多くの同胞がその命を落とし、生き残った者達は隠者のような生活を余儀なくされたと伝え聞いている。それも、故郷の資源を求めての行動でだと言う。
「忌むべき『亜人』! 魔物の成れの果てたる者達よ! 鉄槌が下される時が来た!!」
祖先の故郷を侵略してきた軍勢の指揮者が祖先に放った言葉だ……『魔物の成れの果て』だと? 逃げ惑い、泣き叫ぶ女子供をすら容赦なく蹂躙したと言う者達がよく言えたものだ……一体どちらが『魔物』だと言うのだ?
(この世界は……腐っている……何が平等だ、笑わせるなよ……)
ゼオンの演説を聞き流し昏い笑みを浮かべる私は、そこで視線を感じた。
(見られている!? 一体誰に!?)
内心の焦りをかろうじて表に出さず、目線だけでその視線の主を探すが、見つからない……気のせいだったのか? そう思っていたらその視線が外れたことを感じた。一瞬、勘づかれたかとヒヤリとしたが……やはり気のせいだったようだ。
(もっとも油断ならぬあの魔女も我等には顔を向けてはいない……杞憂であったようだな)
この街を救った新たな英雄。『魔の大地』からの来訪者と言う魔女はゼオンの傍らに立ち、微笑みを浮かべてこの場を見守っている。
(恐ろしい相手だ……あの女の息がかかっている以上、この街での派手な行動は出来ぬ。とのボスの判断は正しかろう)
あれだけ大規模化した今回の『氾濫』は、私の記憶にもないのだ。それをあろうことか、誰一人とて死者を出すことなく切り抜け、その元凶までも抑えたあの化け物は、ゼオンを始めとしたこの街の有力者達と懇意にしている様子だ。ネハグラとジャデークを利用し、亡き者にするはずだったゼオンが、現在ものうのうと高説を垂れている事から、我々の作戦は失敗したのだろう。そして……まさかあり得ぬとは思うが、最悪、我々に勘づいているかもしれぬ。
(口惜しいが……今は雌伏の時……だが、いずれ必ずや我等が神、ディードバウアー様が貴様達を裁くだろう)
我々『亜人』の理想郷を築く為ならば、私は死すら厭わない! 精々束の間の平和を謳歌するがいい……
「っ!?」
み、見られている! 今度は勘違いではないっ! 視線に乗せられた凄まじい重圧が私を襲う! そのあまりの重圧に私は全身から冷たい汗が滴り落ちて行くのを感じる。な、なんなのだこれは!? あの魔女の仕業なのか? しかしあの魔女は今レーネとか言う金髪の娘と談笑していてこちらに見向きもしていないのだぞ!?
「おい、大丈夫かガッシュ? 顔色悪いぞ?」
「え……ああ、いや、済まない。どうやら昨日の酒が残っているようだ」
私の隣に並ぶ『人間』の冒険者ウーデムが、謎の視線の重圧に冷や汗をかく私を心配そうに見つめ尋ねてきたので適当に誤魔化す。
「ははっそっか、二日酔いじゃキツイな! ほら、付き添ってやるから休ませてもらおうぜ?」
「あ、ああ……済まない、ありがとうウーデム。感謝する」
ここで目立つような真似はしたくはなかったが、仕方ない……この重圧から逃れるために、今はこの冒険者と一緒に退席させてもらおう。
「いいってことよ! しかし珍しいじゃねぇか? ガッシュは酒強かったのに」
「ふふ、めでたい宴だったからな……つい飲み過ぎたようだ……」
肩を貸してくれるウーデムに苦笑いで答えると、彼は破願して、わかるぜと笑った。事実、私は今回の『氾濫』の鎮圧を喜ばしく思っている。この街には多くの同胞が暮らしているからな……無差別に破壊の限りを尽くす魔物共のせいで同胞が失われては目も当てられん。
私達が破壊を望む世界……目指す理想郷……それは……
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【成長した朋友】~見送り~《アイギスview》
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無事に後夜祭……鎮魂祭が終わった翌日。私達は『聖域』へと戻られるアリサ様達をお見送りするため、冒険者ギルド前の広場に集まっていた。
「じゃあ、ゼオン、ラグナース、リール、フォーネは馬車に乗ってちょうだいね?」
「「はーい♪」」
「わかりました。じゃあ、レイリーア。一足先に『聖域』で君を待っているよ」
「うん♪ ふふ、あんまりはしゃいじゃ駄目よダーリン?」
カイン殿に馬車を繋ぎ、『聖域』へと赴くゼオン達にアリサ様がお声をかければ、リールとフォーネは元気よく返事を返し、嬉しそうに馬車に乗り込んで行く。ラグナースはレイリーアと話をし、『聖域』の珍しい素材を見てはしゃがないように注意されている。微笑ましいな。
「了解だ嬢ちゃん。エミル、昨日の話だがくれぐれも……」
「ええ、わかっていますよゼオンさん。彼等の動向には目を光らせておきます」
ゼオンはエミルに引き継ぎを済ませ、『聖域』へと出発することになっている。そして昨日の後夜祭で黒フードの一味であろう者をアリサ様が『悪意感知』と『視点操作』にて看破され、私達に伝えられたのだ。留守を預かるエミルに十分な警戒を促し、ゼオンも馬車に乗る。
「ネハグラとジャデーク達はちょいと狭いけどこっちね?」
「まぁ、これは屋根のない馬車? でしょうか?」
そう言ってアリサ様がポーチから取り出した物は、確か……リヤカーと呼ばれていたものだ。以前『聖域』に着いたばかりの時、ティリア様が映像で見せてくれたので、私達も知っている。ネハグラの妻のファネルリアを始め、二家族の面々は珍しそうにしながら、そのリヤカーに乗り込んだ。
「いいですか皆さん。決して無理だけはなさいませんように。時には退く勇気も必要になりますからね?」
「はい! 了解しましたアルティレーネ様!」
一方で『黒狼』のメンバーと、ガウス、ムラーヴェに対し念を押すように助言するアルティレーネ様と、元気よく返事をするその面々。先に『聖域』に渡り、彼等とは一日の長がある私達『白銀』と言えど、まだまだ未踏の地も多い『聖域』は油断できる場所ではない。
「ではファムや行ってくるぞい、留守を頼む。ギドよまたうまい酒を土産にもってくるでな、その時は儂等三人で楽しもうぞ♪」
「あいよ! 気を付けていっといで!」「応、楽しみにしとるぞドガ!」
そして私達だが、レイリーアは馬車に乗り込んだラグナースと会話を済ませ、ドガはファムとギドに挨拶をしているところだ。
「ゼルワ、魔導船は問題ありませんか? 今回は大人数ですからしっかり点検しておかないと」
「ああ、大丈夫だぜサーサ! バッチリだ!」
サーサとゼルワは『聖域』に渡るための要になる魔導船の最終チェックを行ってくれている。内海に囲まれた『聖域』に渡るには船が必須。抜け落ちのないようしっかり点検してもらいたい。
「あぁ~ん! 心配だよーっ! ミストちゃん、セラちゃん、ブレイドくん! ちゃんとお弁当持った? おやつもこの袋に入ってるからね? ポーション足りる? もうちょっと詰めておこうか?」
「だ、大丈夫ですよぉ~アリサ様……」
「お母さんかよお前は……?」
「アリサ姉ちゃん心配しすぎだって!」
むぎゅうぅ~っとミストとセラを抱きしめて、ブレイドの頭を撫で回して心配そうに案じるアリサ様は、さながら我が子のお出掛けを、過剰なまでに心配する過保護な母親のようだ。こう言ってはセラ達に失礼かもしれないが、微笑ましく思えてしまう。
「うぅ……約束よ? 絶対無茶しないで? 危ないって感じたら迷わず逃げるんだよ? バルドくんよろしくね? ね?」
「は、はい。了解ですよアリサ殿、俺もつまらない意地張って仲間を失うような真似はしたくありませんからね」
先日、墓地でロッドと話をした後から、バルドには何かこう……ゆとりと言うか、気持ちに余裕が生まれたようにも思える。私が言うのもなんだが、今や『白銀』と『黒狼』との間にはそれなりの力量の差が生じている。……まぁ、『聖域』のみなさんから見れば微々たる差だろうが。
(以前のバルドなら必死にその差を埋めようと躍起になっていたが、今はどうだ……その力量差を素直に認める度量の深さがかいま見える)
うむ、流石だバルド。君は必ず強くなる……私は必ず君達を全員無事に『聖域』まで送るよ。
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【Aigis】~Aegis~《アリサview》
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「ガウス、ムラーヴェ。君達も無理するんじゃないぞ?」
「応! 勿論だデール。『聖域』の美女達をこの目に拝まずに死んでは未練タラタラで悪霊になってしまうからな!」
「然り! 目的を果たすまで俺達は絶対死なんさ。泥を啜ってでも生き延びて見せよう!」
今日はいよいよ私達が『聖域』に帰る日だ。ギルド前に集まった人々は多く、その中にはゲンちゃんを始めスラムの住人達の姿も見える。街の殆どの人が見送りに集まってくれたみたいだね。ふふ、嬉しいな♪ また直ぐに来ることになるって話してたけど、それでも、こうして集まってくれるなんてね。
まぁ、『白銀』と『黒狼』、そしてデールのおっさんと馬鹿話してるガウスとムラーヴェの見送りもあるんだろうけど。
「ほらぁ、いい加減離してくれアリサ! ゲン達にもちゃんと挨拶しとけって!」
「えへへ、ごめんごめんセラちゃん! じゃあ、今度は『聖域』で会おうね?」
抱きしめていたセラちゃんに叱られて、彼女達に挨拶した後、ゲンちゃん達とも会話する。また来るって事、学校が出来るのが楽しみだって事とかを話して、沢山感謝されたよ。
ディンベルのおっちゃん達、各ギルドの代表者とも二三話した。料理の事とか、ポーションを始めとしたお薬の事とか、アルティレーネを交えてお洒落な服飾の事とか♪ 話に華が咲いてしまうと止まらなくなるので、ほどほどにしといたよ。そして……
「アイギス……」
「はい、アリサ様」
暫しの間離れる事になる私の恋人(仮)。今日から出発して、彼等が『聖域』にたどり着くのは多分四~五日後くらいかな?
「……待ってるからね?」
「はい、必ず『聖域』に辿り着いて見せます……」
彼の鎧の胸にそっと手を添えて、額を当てる……どうか彼が、彼等が無事に『聖域』にこれますように。
「ひとつ……魔法を授けてあげる。アイギスなら必ず使うことができると思うから」
そう言って私はひとつの小さな魔方陣を魔力で描き、アイギスに見せる。
「有り難いのですが、私に使えるでしょうか……? 昔から魔法は不得手でして」
「大丈夫……この魔法はアイギスの心の内からの願いで発動するとっておき……貴方の名を冠した私にとっても大切な魔法……」
瞳を閉じて、この魔法がアイギスを、大事な仲間達を守る一助になりますようにって願いを込めて、アイギスの心に届かせるよう、彼の鎧の胸に添えた手から魔方陣を彼の内に染み込ませる。
「……『神の護り手』! 不思議です、自然にわかる……この魔法の有り様。その発動方法まで!」
「大事に使ってね! じゃあ、私、待ってるから……絶対『聖域』に帰って来なさいよ?」
離れている間のことを思うとちょっと寂しさが募るけど、アイギス達『白銀』は今後拠点を私達の『聖域』に移すんだからちょっとの間の我慢だ。アイギスの鎧を軽くコツンってして、明るい笑顔を見せてやる。
「ええ! 待っていてください、ふふ、直ぐに参りますから!」
うん! アイギスもいい笑顔だ。授けた『神の護り手』について少し話をして、私はアルティレーネや、ユニ達の元に移動したのだけど……
「あら? アルティ、アリスにバルガスとネヴュラはどうしたの?」
「アリサお姉さま、お帰りなさい。そのお三方でしたらあちらでアリサお姉さまと同じく、冒険者の方達に挨拶していますよ」
カインとユニ、ミーナと、馬車内にいるゼオン達とで談笑をしていたアルティレーネに、姿の見えないアリス、バルガス、ネヴュラが何処にいるのかを聞けば、そんな答えが反って来たので、アルティレーネの指差す方を見てみることにする。そこには、多くの冒険者達に囲まれる三人の姿があった。
「何やってんのあれ?」
「バルガスさんとネヴュラさんは防衛戦で大活躍したそうで、感銘を受けた冒険者達に別れを惜しまれているみたいですよ?」
ワイワイ騒いでる集団を見れば、冒険者の数人がバルガスと握手したり、ネヴュラに頭を撫でられる女性とか、アリスに蹴っ飛ばされて「ありがとうございます!」とかのたまう連中がいたりと……いや、マジで何やってんの? って思ってカインに聞いてみる。
「なるほどねぇ~それならカインのとこにも来たっていいと思うけどね? あんなに頑張ったんだし」
「カインちゃんのとこにも沢山の冒険者さん来てたよアリサおねぇちゃん♪」
「ええ、大勢の方が涙ながらカインに沢山お礼の言葉をかけてくれました。なんだか私も自分の事のように嬉しく思ってしまいましたね」
「出発の邪魔になっちゃ悪いからって皆手短だったけどな」
別れを惜しまれてって言うなら、カインだって結構な人気だったし、防衛戦では命懸けで戦ったのだ。なのに何故冒険者達は来ないのか? って不思議に思って口に出せば、ユニ、アルティレーネ、ゼオンからその答えが出てきた。ほほう! それは良かった! カインのあの必死の戦いはやはり、多くの冒険者達の心に響くものがあったんだろう。私もカインの意外な一面を見れて感心したもんね。
「えへへ、実はそうなんですよアリサ様。なんだか照れくさかったですけど……嬉しかったですね」
そう言ってブルルって鼻を鳴らすカインは本当に嬉しそうだった。
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【人気の仲間達】~尚アリスry~《アリサview》
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「「また来てくれよバルガスさん!」」「「貴方に救われたこの命、無駄にしません!」」
「「俺達絶対強くなります!」」「「ありがとう、本当に!」」
おおっ! バルガスってば凄い人気だね。屈強な冒険者達から止むことなく感謝の言葉が投げ掛けられているぞ。
「うむ。うぬ等の力となれたのであれば我も幸いぞ! 我はこれより『聖域』に帰り更なる高見を目指す……うぬ等も日々の研鑽を怠るでないぞ?」
「「「「はいっ! どうかお元気で!!」」」」
うおおーっ! って雄叫びみたいな歓声もあがる始末だ。強面の武人なバルガスは最初、正直怖がられるんじゃないかなって思ってたけどね。終わってみれば大人気のようで嬉しいね。
さて、じゃあその強面の奥さんはどうなのかな?
「「ネヴュラさん、もうお怪我は大丈夫なんですか?」」「「多大な連続魔法行使の後遺症とかは!?」」
「ご心配ありがとうございます皆さん。おかげさまで問題なく……」
うむうむ、ネヴュラの周囲には魔法使いや、僧侶と言った、主に魔法を主体とする面々、後衛職の冒険者が多く集まっているみたい。女性が特に多いね、まぁ、ネヴュラは美人なうえに強いから憧れの的なんだろう。
「「よかったぁ~」」「「私達を助けて下さって本当に、本当にありがとう!」」
「「こうして今日を向かえられたのもネヴュラさんが命懸けで守ってくれたお陰です!」」
「「私達このご恩は一生忘れません!」」「「また旦那さまと来て下さいね!」」
いいねいいね! ネヴュラもすごく感謝されてる♪ 大事な仲間が感謝されてるのって本当に嬉しいよ!
で、問題児のアリスはどうなのかな? あの子はそんなに目立った活躍ではなかったけど、みんなに生きる希望を与え続けた、縁の下の力持ちのような仕事をしてくれたんだよね。
「「アリス様好きだぶらっ!?」」「「俺達のパーティーにゅぶあっ!?」」
「あーっ! もういい加減しっつけぇでっすねぇ!」
バチーン! ベチーン! グリグリグリー!
うわぁ……なんだあのカオス? 見ればアリスの周りには男女問わず、パーティーへの加入をお願いする冒険者や、告白しようとして突撃する者をその平手でべっちんべっちんとひっぱたくアリスがいる……しかも誰か踏まれてるし……そして、ひっぱたかれた連中は揃って「ありがとうございます!」ってお礼を言ってるのが意味不明でワケわからん。
「ま、あんた達も結構頑張りやがりましたね。このアリスちゃん、正直見直しまっしたよぉ?」
「「うおおーっ!」」「「アリス様からお褒めの言葉をもらったぞー!!」」
「「やったぜぇ~!」」「「アリス様バンザーイ!」」
……うん、まぁ、よくわかんないけど慕われているならいいか。アリスも満更でもなさそうだし。
「「アリス様俺とお付き合いをべぇっ!!」」
べっちーん!
「お断りでっすよぉ~後五万回くらい生まれ変わって出直してくるでっす! またひっぱたいて振ってあげまっすから!」
……さて、後は珠実かな? あの子はどうしたんだろう? アリス達から目を逸らして今度は珠実の姿を探すことにする。珠実は並列存在と言う離れ技で大活躍してくれたからね、さぞ感謝されてることだろう。あ、あの僧侶達や街の住人達が作っている人だかりかな?
「珠実様~なんて、なんて素敵なもふもふ~♪」「ちょっと! 長いわよ! 今度は私の番!」
「お主等~そろそろ解放してくれんかの?」
「「そんなぁ~! 珠実様、もうちょっと! もうちょっとだけ!」」
ああ、いたいた。どうやら街の住人達にその自慢のもふもふ尻尾を撫で回されているみたいだね。ただ、その人気っぷりから流石の珠実も辟易してるようだ。困り顔で耳もぺたーんと垂れてしまっている。
「あはは♪ たまちゃん大人気だね!」
「ふふ、慕われていますね。その分無下にもできないのでしょう? アリサお姉さま、助け船を出してあげて下さい。私達も出発しませんといけません」
「そうだね、名残惜しいのはわかるけどまた直ぐに来るしねぇ」
みんなの様子を映し出した映像通信を見ていたユニと、アルティレーネが笑う。確かになんかずっと見ていたい気もするけどね、ここはアルティレーネの進言通り、みんなを集合させていい加減『聖域』に帰るとしよう。
「アリス~バルガス~ネヴュラ~珠実~! そろそろ行くわよ! 集まって!」
「うほほーい♪ マスターかっしこまりぃ~!」
「は! 直ちに参ります!」
「畏まりましたアリサ様!」
「ホレ! もう終いじゃ! ではの皆の衆!」
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【いい人達】~魔女さん帰る~《アリサview》
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バルガスとネヴュラが馬車の御者席に座り、アルティレーネは神槍ティレーネに、アリスは傘に、私は箒アリアに腰掛け飛び立つ準備を整える。珠実はカインの背に乗ってぐてぇ~ってしてるね、街のみんなに撫で回されたのが堪えたんだろう。
「い、いよいよ? ねぇ、いよいよ飛ぶの!? 飛んじゃうのユニちゃん!?」
「スッゴクどきどきするよぉ~! あーネハグラさん達と変わってもらえばよかったかな? あのリヤカーなら屋根がないぶん景色見渡せそうだし!」
いよいよ出発ってなって馬車の中にいるリールとフォーネがはしゃぎ出す。そりゃあ普通に生きてたら空を飛ぶなんて経験出来ないからね、どきどきもするんだろう。
「うん! 飛ぶよ~♪ リールちゃんお空から見るふーけいはスッゴいよぉ~楽しみにしてて!」
「おおお、俺はこのミーナちゃんと、ずっとずっとぉ遊んでるから!」
「駄目ですよゼオンさん。ミーナ様が嫌がっておられます。離してユニ様にお預け下さい」
「ニャアーッ!」
うおおぉい、そんなラグナース殺生な! って別の意味で騒ぐのはゼオンだ。なんぞ? 高いとこが怖いのかね? ラグナースに注意されて抱っこしてたミーナに逃げられて、おろおろと狼狽してる姿は実に情けない。
「き、緊張するわね。あ、あなた、シャフィー手、手を繋ぎましょう! は、離しちゃダメ! 駄目よ? 絶対に、ね!?」
「ファネルリア、わ、私達も私達もよ!? みんなで繋ぎましょうよ!」
「ママ? どうしたの、お空飛ぶんだよ?」
「わくわくするね~♪」
「ちょっと緊張するけど、大丈夫だろ?」
「アリサ様を信じろお前達」
アリアに繋がれたリヤカーで騒ぐのは主にネハグラとジャデークの奥さん達だ、ファネルリアとナターシャが怖がるのは屋根がなく、身を預けるには心許ないリヤカーに不安タラタラだからだろう。実際は私が不落の魔法をかけてるから大丈夫なんだけど。う~ん、確かにちょっと見てくれも悪いかな? 『聖域』に戻ったら改造しようか。
それにしても、シャフィーちゃんとネーミャちゃんは子供故かはしゃいでるね~。ネハグラとジャデークは私に全面的な信頼を寄せてくれているようで落ち着いたものだ。少々顔が強張っているけどね。
「では、参りましょうぞ! カイン殿よろしいか?」
「ええ、それでは帰りましょう! 僕達の『聖域』へ!」
バサァッ!!
バルガスの号令を聞いてカインがその美しい翼を大きく広げると、アイギス達『白銀』にバルドくん達『黒狼』の面々に、ゲンちゃん達スラム街のみんな、ディンベルのおっちゃんや、ギルド代表者達、集まった冒険者達に、街の住人達からも歓声があがる。
「じゃあなーっ! アリサー! みんなーっ!」
「次に会うのは『聖域』ですね! 必ず行きますから!」
セラちゃん、バルドくん。二人とも色々頑張ってほしいね。バトルも恋もさ♪
「絶対辿り着いて見せるからなーっ!」
「ユニちゃんもシャフィーちゃんもネーミャちゃんもミーナちゃんも珠実さまもーっ! 待っててねーっ!」
ブレイドくんとミストちゃん。まさかのメルドレードの転生体ってのには驚いたね、剣聖剣技を教えるのが楽しみだよ。ミストちゃんはこれからもそんな彼を支える良い彼女でいてほしいね。
「俺達も……っ! 直ぐに……『聖域』に行く……っ! それまで、暫しの別れ……」
「まだまだ沢山、皆さんから学びたいですからね! 必ず赴きます!」
「アリスちゃーん! ワタシのこと忘れちゃヤーでっすよぉ~♪」
デュアードくんとシェリーが恋人同士ってのはちょっとビックリしたね。勉強熱心な二人だし、『聖域』で色々伸びてほしい。
そしてミュンルーカ。まさかアリスとあそこまで意気投合するなんて思いもよらなかったよ。これからもアリスと仲の良い友達でいてあげてね?
「アリサ様ーっ! このムラーヴェは必ずや『聖域』に馳せ参じます! その暁には貴女にお仕えすることをどうかお許し下さいっ!」
「レーネ様ぁっ! 俺も同じく、貴女様にお仕えするため死力を尽くします!」
ムラーヴェにガウス。まさか街に来て最初に出会った二人がここまで入れ込んでくれるなんて想像もできなかったよ。無事に『聖域』に辿り着けるよう祈っておこう。
「この街を救って下さって本当にありがとうございます! ゼオンさんを宜しくお願いします!」
任せといてよエミルくん。しっかり妹達に会わせますともさ。しっかり者で頼り甲斐のある彼は、同時に苦労人でもあることがわかったからね、次に街に来たら沢山お土産を持ってこよう。
「『聖域』か、まだ見たこともねぇ鉱石とかありそうだな……俺もいずれ行って見たいもんだ」
「セリアルティが復興すれば目と鼻の先さね! アリサちゃんや、その時はあたしも招待しておくれ」
ギドさんとファムさんは街に残ってお留守番だ。ラグナースみたいに仕入れって称して一緒に来てくれても良いのにね? ファムさんが言ったようにセリアルティが復興すれば『聖域』にアクセスしやすくなるし、今よりも気軽に移動できるかもね。
「アリサ様ーっ! 何から何まで俺達を気にかけて下さってありがとうございます! 俺達は貴女から受けたご恩を絶対に忘れません!! お元気でーっ!」
両の腕をブンブンと振り、大声でお礼をしてくれるのはゲンちゃんだ。周囲にはスラムのみんなの姿も見える。スラムの代表者として皆を思い、自身よりも優先させる、心優しい『人狼』。彼等とはこれからも長い付き合いになりそうだ。
「受け取ったレシピの謝礼もまだ済んでいないからな。必ずまた来てくれよ皆!」
「お料理や、お洋服それからあれもこれも! アリサ様や、レーネ様の御教授を楽しみにお待ち申し上げておりますわね!」
ゲンちゃん達の隣に陣取るのは商業ギルドのマスターのディンベルのおっちゃんと、その美人秘書のミリアさん、そして各ギルドの代表者達だね。渡したレシピをしっかり教えるって約束もしたからね、待っててね~♪
「んじゃ、アリサ様~先に『聖域』に戻ってて下さいや~♪」
「私達も直ぐに帰りますから~!」
「無事に帰れたら美味しい料理作ってほしいわね!」
「ほっほっほ♪ 儂は酒が楽しみじゃ!」
「アリサ様から授かったこの『神の護り手』で必ず全員を『聖域』にお連れします!」
『白銀』達は『聖域』を帰る場所って思ってくれているみたい。素直に嬉しい。彼等はもう私達にとっても家族同然の存在だからね。
彼等が『聖域』を訪れたことで、私の物語は大きく動き出した……きっとこれから更に彼等の存在は私にとっても、この世界にとっても大きなものになっていくだろう……特にアイギスには、私自身……特別な感情を抱いている。
「「「ありがとーう!! さようなら~!」」」「「「またいつでも来てくださいね!!」」」
「「「新たな英雄達に! 『聖域』の盟友達に!!」」」
「「「「ありがとう!!」」」」
その言葉と同時、私達は街の大空へと羽ばたいた。緩やかに飛び上がったけれど、見下ろして見れば、もう見送ってくれた人達が小さな点にしか見えない。
「ほんの数日しか滞在しなかったけど……出会った人達みんないい人ばかりだったね」
『迅雷』とか言う下衆もいたけど、出会った人達みんな、とってもいい人達だった。前世ではろくな巡り合わせがなかった分驚きだよ。人嫌いだった私は一体何処行った? って、改めて思う。結局は環境が改善されれば、人はいくらでも変われるのかもしれないね。
「……ディードバウアーを甦らせようとする『亜人』達も、もしかすると同じなのかもしれませんね」
「でっすねぇ~ま、フォレアルーネ様がもう答え見つけたってこってすし。すぽーんって帰ってお話を聞きましょー♪」
私の独り言を拾ったアルティレーネが黒フード達にその考えを当て嵌めて思案すると、アリスの明るい声がそんな悩みを打ち消して行く。
「うん、そうね! 可愛い妹達に早く会いたいし。帰ろうか!」
そうしてセリアベールを長年苦しめてきた『氾濫』を解決した私達は、数日振りの『聖域』への帰路についたのでした。
冒険者A「行ってしまったな……アリサ様達(´・ω・`)」
冒険者B「ああ、だがまた直ぐに来るって言ってたぞ(・_・?)」
冒険者C「楽しみね(^ー^)何でもオシャレな装備も色々広めるそうよ(^o^)」
冒険者D「ああ~そうすれば私もアリサ様や、アリス様のような可愛い服着れるのかしら~(*/∀\*)」
冒険者E「それだけではありませんぞ!( ・`ω・´)アリサ様がもたらしたポーションが今後一般的に流通するそうですな(*つ▽`)っ」
冒険者B「マジか!?Σ( ゜Д゜)」
冒険者A「そいつは朗報だ!ヽ(´∀`)ノ」
冒険者F「ふへへ……(* ̄ー ̄)アリス様もまた来て踏んでくれないかなぁ~(*´∀`*)ポッ」
冒険者C「踏まれてたのはあんただったのF!?Σ(゜ω゜)」
冒険者D「ドン引きなんだけど……何で私こんなのとパーティー組んでるんだろ?(;´д`)」
冒険者G「くぅっ(´ノω;`)どうすればアリサ様に罵ってもらえるんだ!?(≧□≦)」
冒険者A「悪党にでもなればいんじゃね(´・ω・`)?」
冒険者C「そうなったらパーティーから叩き出すわよG!( `Д´)/」
冒険者G「バカタレ~!ヽ(♯`Д´)ノそんなことしたらアリサ様に嫌われてしまうだろうがΣ(゜Д゜ υ)」
冒険者E「Gは変態なれど根っからの善人ですからな( ̄▽ ̄;)」
冒険者B「CとDなら喜んで罵ってくれるし、踏んでくれんじゃね?(,,・д・)」
冒険者CとD「「え、イヤよ?(¬_¬)」」
冒険者G「ちがーう!(≧Д≦)俺っちはアリサ様に罵ってもらいたいんお!(>д<)ノ」
冒険者A「ハイハイヾ(・ω・ヾ)ほら、『悲涙の洞窟』改め『セリア洞窟』に行くぞ~?(*゜∀゜)=3」
冒険者達「おー!(ノ≧▽≦)ノ」




