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TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
60/211

58話 魔女とお祭り

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【ちびっこ達と一緒に】~賑わう街~

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 ちゃーちゃ~ちゃらら~♪

 街中に軽快で明るい音楽が流れている。


「さぁーよってらっしゃい~美味しい芋煮だよぉ!」

「たーんと食べておくれ! 今日はなんとめでたいお祭りさぁ♪」


 わーわー♪ ガヤガヤ♪ 賑やかな喧騒、道行く人は多くて、みんな笑顔。


「わーい! ほらほら見て~シャフィー、ミストちゃん♪ 美味しそうな食べ物が沢山売られてるよ~♪」

「ネーミャぁ~走ると危ないよ~? ごめんなさいアリサ様、ネーミャったらはしゃいじゃって……」

「ふふ、大丈夫だよ。シャフィーちゃんも気にしないで楽しんでね♪」


 はーいって元気に返事するシャフィーちゃん。うん、やっぱり小さな女の子には満面笑顔が一番だよね。

 今日はセリアベールの『氾濫(スタンピート)』終息記念のお祭りの本祭だ。記念すべき祝祭、急遽開催になる祭りにもかかわらず街の住人達は慣れたもので、一夜明けて廻る街並みは見事なお祭り仕様に様変わりしているじゃないの。昨夜はただ騒いでるだけじゃなかったのか……


「たった一夜でこれだけの装いを仕上げてくるとは……いやはや、見上げたものじゃの、のう、アリサ様や?」

「ホントにね……こんなに屋台なかったわよね昨夜……どんだけ祭り好きなのよ? この街の住人は……」


 一夜にして街中に屋台が規則正しく建ち並び、完全にお祭りモードになった街並みに珠実と一緒にあきれかえる。お祭り好きの連中っては聞いていたけど、凄い行動力だこと。


「ははは! すげぇだろアリサ姉ちゃん、ユニ! ホントこの街は祭り多くてさ!」

「なにかあるとすぐに飲めや歌えや~って騒ぎになるんです!」


 ネーミャちゃんとシャフィーちゃんを追いかけては捕まえて、はぐれないように手を繋ぐブレイドくんとミストちゃんはこのグループの年長さんだね。しっかりしててお姉ちゃん安心です。


「すっごい楽しそうな街だね! ユニもなんだかわくわくしてきちゃう! アリサおねぇちゃん、せっかくだしなにか食べてみようよ!」

「にゃぁ~ん!」

「ふふ♪ そうだね、みんな何が食べたい?」


 私と手を繋いで隣を歩くユニも笑顔全開でとっても楽しそう♪ 私の肩に乗るミーナは「食べる」って言葉に反応したのかな? 耳元で鳴かれてちょっとくすぐったい。ふふ、でもホント連れてきて良かった。


「確かにノリと勢いはあるんだけどな、食べ物に関しては何処の屋台も似たり寄ったりだぜ~アリサ?」

「ふふ、いいよいいよセラちゃん♪ 色んな食べ物見て、食べて、感じて、そこからまたなにか新しい料理にアレンジしたりできるかも~って考えるのが楽しいんだし」


 やれやれってポーズして苦笑いを見せるセラちゃんにそう返す。まぁ、まだまだ食事情が発展途上のこの世界だし、どの屋台も似たようなラインナップになるのは仕方ないだろう。寧ろそれらをしっかり食べて、どんな食材があってどんな調理をしているかを確認して、更に手を加えるなりしてどんどん発展させていきたいね。


「はぁ~アリサはすげぇなぁ~美味い料理いっぱい作れて、更にまだまだ挑戦するだなんて!」

「えへへ♪ セラちゃんもそう思うよね! すごいでしょアリサおねぇちゃんは!」

「私達もいっぱいアリサ様から教えてもらいたいです! ね、ネーミャ?」

「うん♪ アリサ様。沢山教えて下さい!」


 あらまぁ~もぅ~このかわいこちゃん達ったら♪ ふふ、私は単に食い意地張ってるだけだよ? どうせならより美味しいの食べたいって思ってるだけなんだけど、そう手放しに誉められると照れちゃうな。


「あらーっ! 『黒狼』のやんちゃボウズじゃないの!」

「おや、ホントだ! なんだいなんだい、ウフフ、またえらいべっぴんさん達に囲まれちゃってーっ! ほら、焼き串食べていきな!」

「あはは! こりゃ両手どころか全面花畑だねぇ~まったく隅に置けないボウズだよ! ほら、リンゴのジュースだよ、お飲み!」

「おわあっ! ちょっ! おばちゃん達そんないっぺんに食えねぇし飲めねぇよ!」


 あはは♪ 私達の中で一人だけ男の子のブレイドくんが屋台を切り盛りしてるおばちゃん連中に捕まってもみくちゃにされてるよ。お祭りっていう空気も手伝ってか、おばちゃん達はすごく気前よく私達に串焼きやらジュースやらを手渡してくる。私がお財布から代金を支払おうとすると……


「いいんだよ~アリサちゃん! そんな無粋なもんはしまっとくれ!」

「そうそう! アリサちゃん達のおかげでアタシ達こうしてお祭り騒ぎができてるんだからね!」

「そうよそうよ! この串焼きだってアリサちゃんが広めてくれたんだろう?」

「あはは! アタシ達の方がお礼言わないといけないからね! 遠慮せず受け取っておくれ!」


 ありゃりゃ、なんかめっちゃ感謝されてしまった。折角の厚意を無下にはできないからね、ありがたく頂くとしましょう~♪ かわいこちゃん達に一人一人配って、ジュースで乾杯♪


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【リクエストです♪】~シチューとハンバーグ~

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「美味しかったねぇ~♪」

「うん! 串焼きだとお野菜も美味しく食べられたよ!」


 おばちゃん達から串焼きとジュースをご馳走してもらってご機嫌のシャフィーちゃんとネーミャちゃん。他のみんなも満足そうだ。


「アリサ様がスラムで始めた串焼きがもう街中に広まってるなんて凄いね!」

「ああ、いや、あんだけ簡単で美味いってくりゃ~そりゃ広まるか!」

「やっぱりコーチョを料理に使うって発想がでかいよな! 俺考えもしなかったぜ!」


 いつの間にやら街中に広まっていた串焼きだけど、私がスラムでゲンちゃん始め、子供達とゼオンに作ってあげたのが最初だったねぇ、私は隠す気なんてサラサラないし、広まってくれるなら手間が省けていい。『黒狼』のチビッ子三人衆が感心してるけど……うーん、逆に胡椒のあの香ばしい香りを嗅いで食用に使おうとは思い至らないものかね?


「コーチョって言えば……アリサおねぇちゃんの作るハンバーグとシチューがまた食べたいなぁ~♪」

「ユニ、あの時作ったやつ? また食べたくなったの?」


 ユニの言ったハンバーグとシチューは以前『聖域』で作った、ブイヨン→コンソメ→シチュー&ハンバーグのメニューのことだろう。なかなかに手間がかかる料理だから、このセリアベールに広まるのはまだ先の話になるだろうねぇ。


「ユニちゃんが食べたいっていうお料理!?」

「私達も食べてみたい!」


 おやおや、ネーミャちゃんとシャフィーちゃんが目を輝かせておるぞ♪ 折角のユニのリクエストだし作ってあげましょうかね?


「マジ? そんなに美味いならアタイも食いたいぞ!」

「俺も~! アリサ姉ちゃんのメシはなんでもウメェし、『聖域』に出発する前に食えるだけ食いたいぜ!」

「私も! あ……でも、アリサ様のお料理に慣れちゃうと、今までのご飯が食べられなくなりそう~でも食べたいです!」


 そう続いてくるのはセラちゃん、ブレイドくんにミストちゃん達。ふむ、確かにこのセリアベールから私達の『聖域』までには数日を要することになるし、その間当然だけど私の料理は食べられない。また、以前アイギスも言ってたけど、その旅の間の食料は携帯食が主で、とても美味しい物じゃないって話だ。


「ほう、『しちぅ』に『はんばぁぐ』とな……ユニやそれらは妖精共がよく、「失敗しょっぱい黒こげだぁ~!」とか騒いどるアレのことかの?」

「あはは! そうそう、それのことだよたまちゃん♪ 未だに上手に作れた子がいない『聖域』の中でもとってもむつかしぃーっお料理なの!」


 話を聞いていた珠実がユニに、シチューとハンバーグについて呆れたように聞いている。いやぁ~教える順番間違えたんだよねぇ……集った妖精さん達に教え始めた頃ね、流石に手が込みすぎてたみたいで失敗作が続々と量産されてしまったのだ。まぁ、そのおかげもあって、妖精さん達にはどのくらいの物から教えてあげればいいかわかったので、無駄にはならなかった。

 しかし、お手軽簡単レシピを挑戦させてたんだけど……どうやら時折シチュー、ハンバーグに挑んでいるらしいね。


「そ、そんなに凄い料理なのユニちゃん!?」

「わぁ~! ねぇねぇ~どんなお味なのぉ~? 私達も食べてみたーい♪」

「じゃあ、みんなで作ろうか? どうせだし私もディンベルのおっちゃんから屋台借りて売ってみよう」

「「おっしゃー!!」」「「わぁーいっ♪」」


 おぉ♪ 口にすると中々に面白そうだと思う。セラちゃんとブレイドくんが嬉しそうに雄叫びをあげて、シャフィーちゃんとネーミャちゃんは互いに手を握りあって嬉しそうにピョンピョン跳ねる。


「妾も是非口にしてみたいものじゃ。して、アリサ様。材料や調理場はどうするのじゃ?」

「道具も色々使ったよね? 結構広い場所じゃないとこーりつが悪いんじゃないかな?」


 確かに、珠実とユニの言ってることはもっともだ。大量の食材と広い調理場、その両方を用意するとなると……


「ゲンのとこ行こうぜアリサ! スラムは広いし、東だから食材はいっぱい売られてるぞ!」

「そいつはいいぜ! 俺も久し振りにあいつ等と遊びてぇや!」

「そう言えば確かに、最近ご無沙汰だったね。ふふ、みんな元気にしてるかな?」


 おっと、私が悩む間もなくセラちゃんがズバッと解決策を出してきた。確かにスラム街は大量の食材を売られる商店が建ち並ぶ大通りのすぐ側だ、大きな広場もある。セラちゃん、ブレイドくん、ミストちゃんの口振りから察するに『黒狼』もまた、『白銀』と同じようにスラムのみんなを気にかけているみたいだね。

 いや、『白銀』と『黒狼』だけじゃない……ゼオンを始め街のみんながゲンちゃん達スラムの亜人(デミヒューマン)を大切な仲間として見ている。それはゲンちゃん達もちゃんと感じていて、少しでも街の人達の力になって恩返ししたいと考えているようなんだよね。


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【ゲンちゃんのトラウマ】~珠実の御守り~

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「……要はさ、人間(ヒューマン)だろうと、亜人(デミヒューマン)だろうと、『置かれた環境』次第だろ? 悪者に囲まれて育った奴は、どんな種族の奴でもさ。悪いこと覚えて、やっぱ悪い奴になっちまうのが大半だろうし」


 沢山の食材を、その身の丈に見合ない大きな風呂敷に包んで私の前に持ってきたセラちゃんが言う。


「ほう、セラよ、お主……ことのほか物事を考えておるようじゃな?」


 そして、隣で興味深そうに、私の調理する様を見ていた珠実が存外に失礼な返しをする。


「たはは、意外(ことのほか)は余計だぜ~珠実様? 脳筋なのはバルドの方だって!」

「カカカッ! いやいや済まん済まん。つい口が滑ってしもうたわ♪」


 かんらかんらと笑う珠実に苦笑いのセラちゃん。はい、やって来ましたスラム街です。大通りの商店街で沢山の食材を買い込み、ゲンちゃんに挨拶した後、また広場を使わせてもらう事を了解してもらい、おっ始めたアリサさんのゲリラ屋台だ。

 メニューはユニのリクエストにあったシチューとハンバーグ。それにアレンジをしたハンバーガーにコンソメスープ。より多くの人に行き渡るように、時間の流れがこちらより速い『無限円環(メビウス)』にいる私……そうだね、『聖女アリサ』とでも呼ぶか。に、作らせることでいっぱい数を用意した。


「いつ見てもアリサ様の魔法は不思議ですね、『魔法の鞄(マジックバック)』の存在は知っていましたが……」

「おー、ゲンちゃん♪ 楽しめてる? 広場を使わせてくれてありがとね♪」


 セラちゃんが買って来てくれた追加の食材をミーにゃんポーチに詰め込んで、『無限円環(メビウス)』内の『聖女アリサ』の元に送っていると、ハンバーガーを美味しそうに頬張るスラムの代表者、人狼のゲンちゃんがやってきた。


「はい! 俺も皆もそれはもうこれでもかってくらい大喜びです! 広場も自由にお使い下さい! いやぁ~このハンバーガー……美味すぎますね、クセになりそうです!」

「あはは、ハンバーガーはバンズに挟む具材変えることで簡単にアレンジできるから、色んな種類を用意できるんだよ♪」


 私は特にチーズバーガーが好きだったなぁ、この世界じゃまだチーズにお目にかかれてないけどいずれ挑戦したいな。


「美味しい~!」「アリサ様ありがとー♪」

「あはは♪ ほらほら~ブレイドくんこっち~!」


 楽しそうに歌ったり、踊ったり、遊んだりと賑やかな喧騒のスラム街で、子供達が笑顔でおしゃべりしたり料理を食べたりして、私にお礼を言ってくれるので、笑顔で手を振って答える。ブレイドくんやミストちゃん、ユニにミーナ、シャフィーちゃんとネーミャちゃんもみんな一緒になって楽しそう♪


「九尾様もセラさんも本当にありがとうございます。こんな俺達を気遣ってくれて……」

「なんだいなんだい! 水くさいぜゲン! 同じ街の仲間だ、遠慮なんていらないんだぞ?」

「妾はこの街に来て日が浅い故に詳しくは知らぬが、お主達は街の者から気持ち、一線を引いておるように見えるのぅ……聞けばお主達はお主達なりにこの街に貢献しとると言うではないか? それなのに、何故じゃ?」


 お祭りを楽しんでいる子供達や、スラムの住人達を微笑ましく見守っていたゲンちゃんは、改めて私達にお礼してきたんだけど……うん、確かにセラちゃんの言うように水くさいとも思う。珠実は率直に疑問に感じたようで、暗にもっと堂々とすれば良いのではないか? と、問い掛けつつ、その理由を探るつもりだろう。

 実のところ、ユニと珠実をこのスラム街に連れてくることは昨夜のお墓参りの後、密かに決めていたんだよね。なんだか私が、「スラムに行こう」って、提案する前に、ここに来ちゃったけども……

 ゲンちゃん達からは悪意を感じる事はないし、問題はないと思うけど、実際に相手の心が読める珠実と、私と同じくらい悪意や、邪念等と言った負の感情に敏感なユニの二人からも、見て、感じて、大丈夫っていう太鼓判がほしいのだ。


「……そう、ですね……やはり『トラウマ』でしょうか……? この祭りの場に相応しくない話ですし、多くは語りませんが……俺はどこかで恐れているんだと思います」


 そう言うとゲンちゃんは寂しそうに俯いてしまう、尻尾も耳も力なく垂れてしまってクゥン……と言う悲しげな声が聞こえてきそうだ。そんなゲンちゃんの心情を察したのだろう、珠実の耳も立派な九つの尾も、しょぼーんと垂れて床掃除する箒みたいになってしまっている。


「そうか、あい。済まぬ! 野暮な事を聞いてしもうたの……詫び、と言うのも烏滸がましいが、ゲンよ、これを受け取るのじゃ」

「え? 九尾様……これは?」


 誰にでも触れてほしくない過去っていうのはあるものだ。珠実もこれ以上ゲンちゃんの過去に踏み入るのは流石に失礼だと思ったんだろう、一言謝罪をして、何か渡そうとしてるね。なんだろう? 前世にあった「御守り」みたいな平べったい巾着に入った物だ……気になるね、聞いてみよう。


「あーっ! ゲン良いなぁ~『九尾』の珠実様からもらえる物なんてすげぇのに決まってるぞ!」

「いやいや! そんな!? 俺は何か頂けるような事は全然していませんよ!?」


 おっと、セラちゃんが心底羨ましそうにゲンちゃんに詰め寄ったぞ。ゲンちゃんは、ゲンちゃんで、『女神の懐刀』と言う凄い立場の珠実から、突然の申し出に驚き戸惑っているみたい。


「珠実、その御守り……かな? それはどんな有り難い効果があるのかね? いきなり受け取れ言われてもゲンちゃん困っちゃうぞ? 説明してあげて」

「ふむ、いや、本当に大した物ではないんじゃ……ホレ、中身はこれじゃ」

「ん? 毛と木屑?」


 私が戸惑い困ってるゲンちゃんのフォローに、珠実に対してその御守りなんぞ? って聞くと、珠実は御守りの中身を私達に見せてくれた。その中身は三種類の小さい毛の束と、数片の木の屑みたいだ……はて? 中身を見てもさっぱりわからんぞい?


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【価値観の相違】~危険物~

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「これは『神狼フェンリル』こと、リンと、『天熊』のジュン、そして『九尾』の妾の尾からの抜け毛。で、この木屑は『黄龍』のシドウの角の削り滓じゃ」

「「「えええぇぇーっ!!?」」」


 ちょっとたまみんや! なんてものをゲンちゃんに渡そうとしてるのよ!? ほら! ゲンちゃんもセラちゃんもびっくりして私と一緒に大声あげてんじゃない!


「そんなのもらっても扱いに困るじゃない、もうちょっと考えようよ?」

「そ、そうですね……これはあまりにも……」

「うんうん、そうだよな。どうすりゃいいか困るよな?」


 私が珠実にそう意見を言うと、ゲンちゃんは冷や汗をかいて焦るし、セラちゃんも困り顔になる。


「「「こんなしょーもないの」凄いの」」


 え?


「「え?」」


 私、ゲンちゃん、セラちゃん。三人揃って口にした言葉の相違に思わず目をパチクリさせて、互い互いに顔を見合せる……そうしていると、セラちゃんの瞳がどんどんジト目になっていって……


「アリサぁ~? お前なぁ……常識外れもその辺にしとけよぉ~?」

「ふ……『懐刀』の皆様の体毛と、角の欠片……途方もない価値のある、至高の宝ですよ!?」


 え~? そりゃいくらなんでも大袈裟過ぎるでしょうよ? セラちゃん、そんな呆れた目を向けないでよ? ゲンちゃんも驚きすぎだって。


「いや、珠実も言ったように抜け毛じゃん? こうやってブラッシングしてやれば今も抜けるぞい?」

「うむ、そろそろ寒ぅなって来る故なぁ~冬毛に生え変わる換毛期なのじゃ。あ、アリサ様。もそっと頼みたいのぅ?」


 イメージ魔法でブラシを具現化させて軽く珠実の尻尾をブラッシングしてやれば、ホレ~換毛期ってこともあってゴソッと抜け毛が出てくる。あ、珠実。今はみんなに料理配ってるからまた後でね?


「リンもジュンも同じようなもんでしょ? それよか何? あのジジイの角の削り滓? バッチぃでしょ、ちゃんとポイしなさい、ポイっ!」

「「か、価値観~!!」」

「ふむぅ~やはりいらんかの……それならばアリサ様の言うように処分しようかのぅ」


 まってまってぇぇーっっ!! って大騒ぎするゲンちゃんとセラちゃんが、それはもう大仰な身ぶり手振りで慌て出す。


「待て! マジで待てって! アリサも珠実様も、もう少し自分の影響力ってのを理解してくれ!」

「そうですよ! 貴女様方のような桁外れの魔力の持ち主達の、その……抜け毛であっても俺達には強すぎる魔力の塊なんですよ!?」


 はぁ……そ、そうなんだ。いや、そこまでなのかね? 二人の剣幕に思わずたじろいで珠実と顔を見合せる。


「アリサも珠実様も自分の抜け毛のせいで悪党が力を持ったりしたら嫌だろ? いいか、今のブラッシングで抜けた毛もしっかり回収するんだ。アタイ等には爆発物に等しい代物なんだからな!?」


 は、はい! セラちゃんの本気で怒った顔と声にビビってそう返事する、そして同時に思い出す。あれはユニを保護した時、長すぎるユニの髪をレウィリリーネが切り揃えた時……「世界樹の魔力の塊みたいな物ですから、扱い方次第では危険なんですよ」と、アルティレーネが説明してくれたんだった……あの時はふぅん、なるほど~ってしか思わなかったけど……


(私達の及ぼす影響って、思ってる以上に大きい物なのかもしれない……思いつきやその場の勢いで行動しないように気を付けた方が良いのかも!)


 この件は一度『聖域』のみんなとよく話し合った方が良いだろう、その時セラちゃん達のような冒険者や、ラグナースのような一般の人の意見もちゃんと聞いて、色々擦り合わせが出来れば今後の活動の参考にできるかもしれないね。


「なになに~? アリサおねぇちゃん。セラちゃんもたまちゃんも何か面白いことあったの~?」

「ああ、ユニさん。子供達の遊び相手になって下さってありがとうございます!」


 ふんすふんす! って鼻息を荒くして私達に注意してくれたセラちゃんの背後から、スラムの子供達を引き連れたユニが顔を出した。おいかけっこや、鬼ごっこ、以前に私とアイギス達で教えた文字当てクイズとかで楽しそうに遊んでいたんだよね、可愛かったよ♪


「どーいたしましてだよゲンちゃん♪ アリサおねぇちゃんシチューちょうだーい♪」

「ボクはハンバーグ食べたーい」「わたしはコンソメスープ!」

「「ハンバーガー♪」」「「ポテトフラーイ!」」

「応! 任せな♪ お前達いっぱい食べるんだぞ!」


 元気一杯にお腹を空かせて来たんだろう、子供達はみんな笑顔を溢れさせて料理のリクエストだ。私とセラちゃんも嬉しくなって、喜んで配ってあげる。やっぱり子供達の笑顔は見る方も元気になれる素敵な魔法だね♪


「シャフィーにネーミャ……それにうちのガキんちょ二人はどうしてるんだユニ?」

「ん~? みんなあっちでりばーし大会に出てるよぉ♪ ブレイドくんは一回目ですぐに負けちゃったけど、女の子達は勝ち残ってるんだ!」


 おお、そりゃ凄い! 姿の見えない四人の行方をセラちゃんがユニに尋ねると、そんな答えが返ってきてちょっと驚いた。

 リバーシは私がラグナースに見本の一式を渡した後、構造もルールも単純でわかりやすい事も相まってディンベルのおっちゃんを通し、瞬く間に量産され、更にこの祭りでちょっとした催しってことで小規模な大会を始めたのだ。


「ほぉ、それは大したものじゃセラよ、ここは妾とアリサ様が請け負う故な、お主も応援に行ってやるとよいぞ♪」

「お、そうだな! じゃあ任せるぜアリサ、珠実様!」


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【複雑な気持ち】~亜人差別~

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「……さて、アリサ様や。ちとよいかの?」

「うん、どうだった珠実?」


 子供達に料理を渡し終えて、ちょっと一息つけるタイミング。私と珠実、そしてユニとミーナでまったりしていると、珠実が話しかけてきた。


「先程のゲンと言う者じゃが、アヤツは間違いなく善人じゃの」

「この、すらむって場所も人達もね~悪い気配ぜんぜん感じないよ! アリサおねぇちゃん」


 ふむむん、それはよかった! 万が一にでもこのスラム街から黒フードの連中の仲間が出た。なんて事があったら目も当てられないからね。ユニはユニで子供達と遊びまわりつつも、周囲の気配を感じ取ってくれてたみたいだね。何も言わずとも察してくれる出来た妹だ、おねぇちゃん嬉しい♪


「しかし、『トラウマ』と申したあの時じゃが……ちと読んでしもうての……」


 表情を暗くした珠実が歯切れが悪そうに続けた、さっきのゲンちゃんの様子のことだね。


「どうやらここにおる者共は、過去に酷い亜人差別を受けておったようなのじゃ……」

「っ!? ……何よ……それ……」


 『亜人差別』……その言葉を聞いて、もの凄く気分が悪くなるのを自覚する。人は自分達と違う存在に対して恐れを抱くものではあることは理解しているけれど、それがこんな身近に起きていたなんて……


「アリサおねぇちゃん、たまちゃん、差別ってなぁに?」


 話を聞いていたユニが私達に差別について尋ねてくる、私達の表情からあまり良い言葉ではないのだと察しているのだろう。その顔は不安気だ。私は出来るだけマイルドに説明してあげることにした。


「むぅーっ!! ダメだよそんなの! どうしてこの街の人達みたいに仲良くできないの!?」

「うむ、ユニの言う通りじゃな。亜人だろうと、人間だろうと、神であろうと、妾達であろうと心持つ者達じゃ、仲良く出来ぬ訳はないのじゃが……」


 ゲンちゃん達が過去に酷い差別を受けていた……彼等は流れに流れてこのセリアベールにやって来たって聞いたし……もしかすると地域によっては今もそんな風習が顕著なのかもしれない。

 少し紐付けて考えてみよう……ネハグラとジャデークを利用してゼオン……かつての三王家の子孫を狙った黒フード達の目的は、魔王ディードバウアーを復活させ、この世界を破壊することだ。

 そして、その黒フード達の正体はロッド少年の話では『亜人(デミヒューマン)』であろうとのこと、更にロッド少年はこうも言っていた……「彼等がこの世界を破壊しようとする、その理由を考えてみてほしい」と……ゲンちゃん達が亜人差別を受けていた事実を鑑みるに、この騒動は間違いなくそれが原因なのだろう。


「……複雑だわ、私も前世では結構つまはじきにされてきたから余計にね」

「ふぅむ……『亜人(デミヒューマン)』が『人間(ヒューマン)』に恐れられる最たる理由はやはり、魔神共が召喚した魔物共に類似しておる点があるからじゃろうなぁ」

「むかーしに怖い思いをした人達によって、今にも語り継がれてるんだね……」


 世界を壊されるのは困るけど、そこまで追い詰められてしまっている黒フード達のことを考えるとやるせなくなってしまう……きっと過去には珠実が言ったように魔神に召喚された魔物に襲われた街や村なんかもあったんだろう……その魔物の中には狼の魔物もいたのかもしれない。人狼のゲンちゃんは、とばっちりみたいな感じで差別受けちゃったりもしたのかも……


「取り敢えずじゃ、アリサ様、この御守りをもちっと上手く使って、この「すらむ」に住まう者達を守ってやりたいと思うのじゃ。何か良い知恵はないかの?」

「あー、さっきセラちゃんにも怒られたけど、直接渡すのが不味いんだよね? 魔力が強すぎるから。で、同じ理由で、人の手の届くトコに置くと悪用されちゃうかもってことだったね……」

「たまちゃん優しいね♪」


 うーんってちょっとネガティブ思考に陥っていると、珠実が手に持った御守りを私に見せて有効活用する方法はないかと聞いてくる。ユニの言う通り珠実はなんだかんだ言っても優しい、良い子だね。


「そうだね、『待ち望んだ永遠(アルカディア)』とまではいかなくても、似たような結界を張るための媒体に使えないかな? 私が張った神の護り手(イージス)は一時的なものだしさ」


 このスラム街には新たに学校が建設される予定もあるからね、多くの人々が集まる場所になるんだし、変なトラブルの防止のためにも結界みたいなのを張っておけば安心だろう。


「ほう、それは良い案じゃな! 簡易な悪意阻害程度ならば、この御守りに周辺から少しばかり魔素を集める術式を組んでやることで半永久的に稼働する結界が張れそうじゃ」


 私の案を聞いて嬉しそうに表情を明るくした珠実は、「早速話してくるのじゃー!」って言ってゲンちゃんのとこに駆けて行った。


「色々と気にかけてくれて、本当に有難いね♪」

「ふふ、ユニもねこの街好きだよ! みんないい人達だもん!」


 シチューを食べて美味しい~♪ ってしてたユニもこのセリアベールを気に入ったみたい。ニコニコ笑顔を私に向けてくれる。釣られるようにミーナもにゃぁ~ん♪ って一鳴き。私はそんなユニとミーナに微笑み返し、次に起こるであろう騒動の前の一休みを堪能するのだった。

アリサ「珠実とリン、それからジュンの抜け毛ってのはわかるけど、シドウの角って(・_・?)」

珠実「うむ(*-ω-)あやつら龍共は位が上がるにつれ、頭の角を尖らせると言う習性があるのじゃ( ゜ー゜)」

ユニ「爽矢とシドウじいちゃんだと、確かにシドウじいちゃんの角の方がとんがってるよね(^-^)」

アリサ「へぇ~(-∀- )面白い習性があるのね、よりとんがった角持ってるのが偉いのか( ´ー`)」

珠実「中には角を削るのがめんどくさいとか言う、無精者もいるようじゃがなf(^_^;」

アリサ「あはは(*゜∀゜)無精髭ならぬ、無精角なのか(*≧∀≦)」

ユニ「ふふふ……そう言うたまちゃんだって、時々毛繕いをおサボしてるのをユニは知ってるのだよ(*´艸`*)?」

珠実「うっ!?Σ( ゜Д゜)ま、まぁ、たまには……(^_^;)リンやジュンほどサボってはおらぬぞ?ヾ(・д・`;)」

アリサ「あはは(´▽`*)でもわかるわぁ~身嗜みとかたまにサボってだら~ん(゜ρ゜)て、したいときあるもんね(’-’*)♪」

ユニ「アリサおねぇちゃんもそう言うときあるんだね?(o・ω・o)」

アリサ「そりゃあね(_ _)みんなの前ではシャンとするけどさ、たまにはだら~んってしたいよ(*´∇`*)」

珠実「うむうむ(*-ω-)そうじゃ毛繕いと言えばモコプー共の毛繕いは一見の価値ありじゃぞ(((*≧艸≦)ププッ」

ユニ「あ、そうだね!(°▽°)アリサおねぇちゃん、見たことある(´・ω・`)?」

アリサ「モコプー達の?( ´~`)見たことないなぁ( ;´・ω・`)」

ユニ「面白いよぉ~(*´▽`*)嘴でちょんちょんやるんだけどね♪」

珠実「その格好がまるで一つの巨大な綿毛じゃて(*´艸`*)その綿毛がちょこまかと小刻みに動くのじゃ(^∇^)」

アリサ「えぇ~(*´▽`*)なにそれ見てみたいなぁ~♪(*>ω<*)」

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