6話 魔女と聖域【後】
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【ブクブクアワアワ】~Gすら一撃~
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だいぶ世界樹に近付いてきたと思う。
道中襲って来た魔物は、一度その実力を知りたかったので、セインちゃんに対処を頼んでみた。
「承知! 我が力、とくと御覧下され!!」
気合いの入ったジェスチャーで私にそう伝えると、セインちゃんは向かってきた魔物……
かの有名なワイバーンに向かってとんでもないスピードで突っ込んだ! と思った瞬間には、ワイバーンの首がポロンと落ちていた。
「セインちゃん凄い! 目にも止まらぬ一閃だったね」
「え、今何が起きたんですか? セイントビートルが消えたと思ったらワイバーンの首が飛んだんですけど?」
ペガサスには見えなかったみたいだね、セインちゃんの角でワイバーンの首を斬ったんだよ。
そしてもう一方のワイバーンの翼を顎で引き裂き旋回、更にもう一体に、風の魔力を身に纏い、自身を弾丸にして突撃を敢行。その胴体を貫通させる。
(あ、あっという間に三体のワイバーンが落ちたんですけど~?)
モコプーも目を点にして驚いてる、まぁ、それはいいんだけど。セインちゃん気付いてるかな?
翼を引き裂かれた一体が、落ちながらもこちらに向けてブレスを吐こうとしてるんだよね。
「ん~、テンション揚がりすぎて気付いてないか。雷光っと」
ズガァァーンッ!!
ブレスを吐こうとしていた落ちていってるワイバーンに手をかざして、ペガサスが見せてくれた雷をイメージした魔法、雷光を試してみた。放たれた光は稲妻になり一瞬でワイバーンを灰にする。
「……これ、素材取って来いってクエストだったら失敗よねぇ?」
「は? 今のって僕のと同じ魔法? 数十倍の威力ありそうなんですけど?」
おぅ……初めて試す攻撃魔法はちょっと気を使った方が良さそうね。自分でもちょっとびびった。
「済まぬアリサ殿、お手数をかけた」
セインちゃんの方も終わったようだ、もともとどのくらいの強さだったのかは、わからないけど。修練を積んで来たって言葉に嘘偽りはないみたいだね。
「ふふ、セインちゃんの事だから次は大丈夫でしょ? お疲れ様、カッコいい上に強いとか素敵じゃん!」
「う、うむぅ……手放しには喜べぬ」
あれ? しゅんってしちゃった、取り逃したの気にしてるのかな?
「あの雷魔法見ちゃったら……ねぇ?」
「アリサさんが規格外なだけで、セイントビートルはとてつもなく強くなっていますよ。自信を持って下さい!」
なんか~フォレアルーネが苦笑いして、アルティレーネがセインちゃんを慰めてるんだけど?
「そんなに凄くないよ、私なんて魔法だけで他はからっきしだよ? セインちゃんとバトルしたらあっという間に間合い詰められて負けるって」
そもそも、武器を手に持って白兵戦なんて無理! 心得もないし、例えば剣。持ち上げられるかどうかも怪しいよ、見てこの細腕。レイピアっていうんだっけあの細い剣? あれなら持てるかな?
「「「「(……)」」」」
え、なにみんなして? 何で揃ってジト目になってんの?
「いや、アリサ殿……この神の護り手を破る手立てが無いのだが」
「あったら困ります」
即答ですよはい。真顔ですよはい。困ります、そんなの困ります。
まぁ、実を言うとまだイメージはあるんだけど……ちょいと試さないと怖いからね。
「ん、事実上アリサにはどんな攻撃も届かない」
「えっと、セインちゃんが間合い? に入ってもシールド? に弾かれて」
「そのシールドを掻い潜っても神の護り手が防ぐんですよね?」
(間違いなくその間に魔法で焼かれますよね、それ~?)
レウィリリーネ、ユニ、ペガサス、モコプーが、セインちゃんVS私のシミュレーションを始めました。そこまで近付かれたら私の負けでしょう?
「ん? あれ、なんか来る? なんだろうあれ? ぱっと見蜘蛛に昆虫の翅ついてるけど」
ミニマップに敵性マークが十数個、真っ直ぐこちらに向かってくる。自動鑑定では。
ピコーン
『翅蜘蛛。空の殺し屋。数十体のグループで行動する習性があり、高速で目標に接近し、粘性の高い糸で絡めとる。致死性の高い毒を持つうえ、一度狙った相手を執拗に追い回す。全ての属性に耐性をもつ』
って、見たまんまの名前なのかーい。
「翅蜘蛛だっ!! マズイ、ヤツの毒にやられたら一巻の終わりだぞ!?」
「モコプー女神さま達を守るよ!」
(うわ~怖いけど逃げないぞ~!)
蜘蛛って益虫のイメージあるんだけどな、その見た目で嫌がる人多いけど、私別に嫌いじゃないんだよね。まぁ、確かに毒蜘蛛もいるか。
「蜘蛛だったらコレが効く筈!」
取り出したるは昨日お風呂で使った石鹸。
これを泡泡に泡立てた石鹸水を、翅蜘蛛達にぶっかける。ぶっかける。
翅蜘蛛達は石鹸水をなんとも思っておらず、その身に降りかかっても気にせず突っ込んでくる。
「ちょっ!? アリサっち効いてないじゃん!?」
「不発!? 失敗!?」
フォレアルーネとレウィリリーネが慌てて、武器を構える。
まぁまぁ~慌てなさんな。
「なるほど! 呼吸器を塞いだんですね!」
アルティレーネが正鵠を射る。その通り、石鹸の泡が翅蜘蛛の呼吸器を塞ぐのだ。
すると、当然息ができずに窒息してポクチーン。はい、さようならだ。
石鹸水の泡をまともに浴びた翅蜘蛛達は、その速度が見る間に落ちて、遂には一匹残らず仰向けになって地面に落ちて息絶える。
「なんとっ!? こうもあっさりと……」
「なんと言っても、あのGすら一撃だからね!」
あ、でもG相手には食器用洗剤の原液だったかな?
と、まぁ……どんなに完璧に見えても何処かに穴はあるものだ。私も注意してあの手この手、色々考えておこう。少しでも穴を少なく、小さく。二重三重に張り巡らせて本体に届かないように。
「アルティ姉さんは知ってたの?」
「えぇ、でもまさかこれほど上手くいくなんて思わなかったわ」
「実戦で試そうって気にすらならないよね……普通に武器で、魔法で戦おうってしちゃうな~」
魔物相手にそうしてれば、それが常識になるだろうからしょうがないんじゃないかな?
私は臆病だからね、『戦い』をうまく避けるように、自分が怪我しないように、姑息な手を使うよ~卑怯でも小賢しくてもなんだっていい、脅威を退けられればいい。のんびりだらだライフ送るためにね。
「さぁ、もうすぐ世界樹に着くよ」
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【鷲が慌てる】~ドローン~
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「ユニは世界樹の、え~と……樹の周辺の状況って見えたりできない?」
ちょっと気になったので聞いてみる。目的地の状況が今どうなっているか、ユニなら世界樹の視点で見れるんじゃないかと思ったんだよね。
「え、ん~? アリサおねぇちゃんが送ってくれてるこの映像通信みたいな?」
「うん、そうそう」
「出来ないよ?」
おうふ、残念。
「アリサさん、ユニに無茶言わないで下さい。普通はアリサさんみたいな器用な真似出来ません」
「ん、アリサは前世で培ってきた知識、経験、技術があるから」
「う、無理言ってごめんね。ユニ」
考えてみれば確かにその通りだ、ここは元いた世界じゃないし。そもそもユニは今まで樹だったんだよね。いけないいけない、反省だ。
「ううん、今は出来ないけどアリサおねぇちゃんが教えてくれたら、きっとユニも出来るようになると思うんだ!」
だから色々教えてほしいな♪ って、ユニはにこーっ☆
あぁ~! この天使の微笑みがまぶしい~!
落ち着いたら一緒に遊びながら楽しく教えてあげたいな。
「オプションを先行させて飛ばすか、ドローンって言うんだっけ? こういうの」
なんだったかな……確か高所とか、危なくて近付けそうにないトコを、ラジコンのヘリコプターみたいなのにカメラを積んで飛ばして、遠隔で撮影して点検するってのがあったんだ。
無人偵察機とか、ドローンとか言うんじゃなかったかな?
「映像通信に、オートマッピング、自動鑑定を乗せて、一応マイクも、通信魔法の応用で映像出力~うん、こんな感じかな~?」
ほいほいほーいっと、みんなにも見えるようにリヤカーにも送って。よし、できた。
(えぇ~なんですかこれぇ~? こんなに視覚情報あっても処理できないと言いますか、普通は制御出来ませんよねぇ? プープー!)
「まぁ、確かに『並列意思』ないときは処理おっつかなくて無理だったよ?」
脳が焼け切れそうになって、自爆してヘドロ沼に落ちたくらいだし。
(へーれつ……? え、なんですかなんですか? わたし気になります~!)
「モコプーうるさいって! 落ち着いたらアリサっちに聞きなよ!?」
(プープー、はぁい……魔女さま絶対教えてくださいねぇ?)
フォレアルーネにまで怒られてるよ、このまんまるポンポンは、やれやれだね。
「はいはい、後でね。よし、ドローンオプション、行ってこーい!!」
ドシューバシューッ!
用意した二つのオプションは、元気よく世界樹に向かってすっ飛んでいく。
「速い! もう見えなくなりました!」
「むぅっ! 凄まじいスピードだ、これでしかと情報が得られるのかアリサ殿?」
ペガサスがびっくりしては、セインちゃんが大丈夫かと不安がる。
モニターに流れる映像からドローンの視点がちゃんと機能している事が確認できているので、上手くいったみたい。
「大丈夫だよ、ちゃんと映像が送られてきてる。ほら見てみ?」
「「おぉ~!」」
ペガサスとセインちゃんはドローンから送られてくる映像を映したモニターを見ては感嘆してくれている。うーん、もうちょっと早くにこのドローンに気付けていれば良かったね。実際便利だわ。
「アリサさん! ちょっとドローンを止めてこの映像の影を見てください!」
「ん、早速なんか見つけた?」
アルティレーネが見ていたモニターを良く見てみると、確かに大きな影。あれは鳥かな? が見えた。
「もうちょっと近付けて、確認できない? アリサ?」
「オッケー、ちょい~ちょい……これでって、おぉ~でっかい鷲だね!」
レウィリリーネの指示でドローンの一台を細かく動かして、見えた鳥の影に近付けると、モニターにはこれまた見事な大鷲が映し出された。
鷲をこんなに間近で見るのは初めてだけど、いやぁ~格好いいねぇ。
「やっぱり、ガルーダだ。あたし達の声が聞こえる? ガルーダ、返事して」
《こっ、この声! 女神か!? 何処だ!?》
「ここです、ガルーダ。お久しぶりですね!」
レウィリリーネとアルティレーネの呼び掛けにキョロキョロする鷲。なんか可愛いんだけど、少し焦ってるようにもみえるね。なにかあったのかな?
ドローンをガルーダの眼前に移動させて、モニターを見せてやる。
《おぉっ!! 女神達、丁度良い! 昨日の魔法使いはおらぬか!?》
「がるちゃん、なにかあったの? ユニのことわかる?」
やっぱり、なんか焦ってるみたい。昨日の魔法使いって私のことかな?
ユニは以前からガルーダを知ってるみたいで、「がるちゃん」なんて可愛いく呼び掛けてる。
《主は……世界樹!? いや、昨日の核か!? 無事であるか!?》
「うん、元気いっぱいだよぉ~♪ がるちゃん、そんなに慌ててどうしたの?」
《うむ! 大変なのだ! 黄龍殿が暴れておるのよ!!》
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【怪獣達】~コレもファンタジーの定番かも~
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東西南北を守護する『四神』というのがいる。
東の『青龍』、南の『朱雀』、西の『白虎』、北の『玄武』。
そして中央に座するのが四神の長たる『黄龍』だ。
魔神との戦いで世界樹を守っていた黄龍も、大怪我を負った。その傷はいまだに癒えておらず、とても戦えるような状態ではないって話。
今はその身を異界に隠し療養している筈……と言うのが今しがたアルティレーネが、私に説明してくれた内容だ。
その黄龍がなぜ姿を現し、暴れるのだろうか?
《黄龍殿は魔神との戦いで呪いを受けておったのだ! それが先日急に発動した!》
どういう事? 何で急に……魔神が勇者達と相討ってどのくらい時間が経ってるかわからないけど、昨日ユニの呪いを解呪したばっかりなのに……ん、まさか?
「先日って、まさかユニの呪いの解呪が発端!?」
タイミングから考えれば、そうなんじゃないかな?
《おぉっ! 貴殿は昨日の魔法使い! 頼む黄龍殿の呪いを解いてやってくれ! 今は四神が必死で抑えておるが、長くは持たぬ!》
「……多分、呪詛喰らいの呪い。魔神は黄龍に、ユニにかけられた呪いの解呪を条件に発動する呪いをかけたんだと思う」
レウィリリーネが冷静に分析する。うん、タイミング的にそれは当たりだと思う。
恐らく今日の朝まで四神が頑張って黄龍を止めていたんだろうね。
「サイアク! あの馬鹿魔神!! アリサっちお願い!」
「う~……こーじいちゃん嫌いだけど、アリサおねぇちゃん。助けてあげて!」
「行ってください、アリサさん。私達の護衛にはガルーダにも加わってもらいますから」
うん、ガルーダが私の代わりに護衛してくれるなら安心かな。セインちゃんもペガサスもモコプーもいるし、神の護り手も健在だ。
ドローンを一台ここに戻して、女神達の状況も確認できるようにして私は先行しよう。
「わかった! ペガサス、女神達の牽引をお願いね! ガルーダは女神達の護衛を!」
「お任せ下さい!」《任された! 黄龍殿を頼む!》
リヤカーに繋いだシャックルとベルトスリングをペガサスの胴? 腰?に繋ぐ、今は緊急時なのでこれで我慢してもらおう。後で馬車の構造とか勉強しようかな?
帽子が飛ばされないように、しっかり被って加速っ! 途中でガルーダとすれ違ったので、片手をあげて挨拶。
「ドローンの映像は……うわ、なんぞこれ?」
ドローンから送られて来た映像を見た瞬間、怪獣大決戦かと思った。
真っ先に目につくのは青い龍と黄金色の鱗に包んだ全身から赤黒く禍々しいオーラを出してる龍。前者が青龍で後者は魔神の呪いを受けた黄龍だろう。
どっちも凄く大きい。モコプーが何十羽横に並べば釣り合うだろうか?
青龍の左右にはこれまたでっかい朱色の羽毛に包まれた綺麗な鳥、朱雀に。ミーナを数百倍に大きくしたような白い毛皮に黒い虎縞の猫、じゃなく、まんまの虎、白虎。
空なんだけど普通に立ってる虎……彼等には地上だろうが空中だろうが関係ないのかな?
「あれ? 亀いないじゃん?」
残る玄武の姿が見えない、もしかしてもうやられちゃったの?
青龍の後ろには世界樹がある、丁度幹が剥がれ落ちた場所。昨日ユニがいた場所だ。
「これはマズイね、急ごう!」
四神の一体の玄武が不在ってことはそれだけ追い詰められてるってことじゃないの?
「玄武は先代が魔神に倒されちゃったから、今は若い子の筈だよ。まさか黄龍に!?」
モニターからフォレアルーネが最悪の予想を言い出す。何て事だ! ユニが解放されてすっかり安心してた。くそぅ~魔神めっ!
《いや! 玄武はまだ健在だ! だが、流石にそろそろ限界だろう、魔法使いの少女よ頼む!》
女神達の側に置いたドローンの送る映像からガルーダの声が聞こえてくる、うまく合流出来たみたいだね。そして玄武はまだ無事でいるそうだ! じゃあ頑張ってなんとかしなきゃ!
「がるちゃん! アリサおねぇちゃんは『聖域の魔女』さまだよ! 魔法使いじゃないの!」
《む? そうであるか、では魔女殿とお呼びすればよいか?》
騒ぐ女神組を横目にアリアを加速させる。頑張れアリア!
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【最早手遅れ】~黄龍もとんだアホである~
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「このっ! いい加減正気に戻りやがれ! クソジジイがぁーッ!!」
白虎が大声量の咆哮を黄龍に叩き込む。衝撃波で相手にダメージを与える技みたい。
口調から察するに、白虎はヤンキー? いきがりたい年頃のにいちゃんって感じかな?
「いい歳してハジケたりしないでよ!!」
朱雀が凄まじい熱量の炎嵐を放ち、黄龍の全身を燃やす。
火属性魔法と風属性魔法を組み合わせれば、私にもできるかもしれない。
声の感じから、女の子かな? はすっぱな感じがするけど、実際はどうなんだろ?
「兄者! これ以上の狼藉は流石に見過ごせんぞ!!」
その上から畳み掛けるように、青龍が雷のブレスを浴びせる。
凄いね電磁粒子砲? バチバチとスパークする極太のビームみたいだ! 今度真似しよう。
兄を「兄者」って呼ぶの初めて聞いた……というか兄弟なのね?
「うおぉ、すんごい迫力、あのなかに突っ込んでいかなきゃいけないの、私?」
ようやく四神と黄龍の戦いの場を肉眼で見える位置まで来た私。ガオオーッ!! ゴオオォォーッ! バリバリバリーッッ!! とか火炎に雷、咆哮が飛び交うのを見てもう帰りたい。
まぁ、そんな訳にはいかないんだけど。
「効かぬ効かぬ効かぬなぁぁーッ!」
わーお、黄龍は先程の攻撃をまともに全身で受けたにも関わらず、びくともしていない。恐らく魔神の呪いで強化されているんだろう。
リアルな龍、その大きさもそうだけど。圧倒的な力がまた恐ろしい。
「いい加減しつこいぞ小童共! 道を開けぇい!」
黄龍が吼える。白虎の倍以上の威力の咆哮、こっちにまで衝撃が来る。距離があるためシールドで弾く事が出来たけど、正面の四神達は大丈夫かな?
「あぶねぇ! 助かるぜげんちゃん!」
「げんちゃんありがと!」
「感謝するげんちゃん!」
おぉ、上手いタイミングで全員にバリアが張られた! 私みたいに常時張り続けるんじゃなくて、相手の攻撃をピンポイントで防いでるみたい。
「ん? 四神が「げんちゃん」って呼ぶのって……玄武だよね? どこにいるん?」
マップに玄武で検索をかけてみる、すると白虎のマークと重なって表示されているのがわかった。
どいうこと? 白虎は玄武なの? 意味わからないんだけど。
気になったので白虎を注意深く観察。
「あ、背中になんか乗ってる!」
白虎の背に緑色の小さなのが乗って、ちょっと動いてるように見える。もしかしてあれが?
「ミドリガメじゃんよ……えぇ~、世代交代したって言うけどミドリガメかい!」
なんか一気に力が抜ける、なんなのコレ。
「いい加減にすんのはテメェだぜ! ジジイ!」
「世界樹が失われれば、この世界の生命総てが死に絶える! 兄者、目を覚ませ!」
「ふへぇーっ! ガルーダが呼びに行った応援はまだなの!? そろそろキツイよ!」
おっと、いけない。躊躇してる場合じゃないね!
「グワーハッハッハッ!! この馬鹿共めっ! 誰が世界樹の破壊なぞするか!」
黄龍が四神達の呼び掛けに高笑いで応える、ん? 世界樹をどうにかする訳じゃないの?
じゃあ一体何で世界樹に向かってるんだろう?
「見よ! あの世界樹を! あの若々しく生い茂る、青さの残る葉! 不浄な大地にも健気にそびえるその幹!」
黄龍の言葉に私と四神達は揃って世界樹の様子を見る、うん、確かにそのまんまだね。でも、それがなんだって言うのよ?
「そしてそしてぇぇ!! 樹皮を脱ぎその柔肌をあらわにしたその姿ぁぁ! もう、辛抱たまらん! 儂は……儂はぁぁーっ!!」
黄龍が吼える! これは純粋に叫んでるだけみたいだね、凄くうるさい。
で、なんか変な事言い出したぞ!?
「世界樹ちゃんをペロペロちゅっちゅしたいんじゃあぁぁーッ!!!」
──私、帰っていいかなぁ?
「うわぁ~だからこーじいちゃんキライ!」
「変態……」
ユニがうんざりしてる横でレウィリリーネがもっともな一言。うん、激しく同意したい。
「昔もお酒飲む度に来ては、ユニに巻き付いてスリスリしたり、ペロペロしたりで凄い気持ち悪かったの!!」
「うわぁ~マジか、こーじぃ……絶対ゆにゆにに近付けないようにしなきゃ」
「黄龍……見損ないましたよ、昔はあんなにも勇敢に戦っていたのに……」
コレには流石の女神達もげんなりしたみたい、正直私も四神達も思わず汚物を見るような目になる。最早手遅れでしょうコイツ。
呪いのせいで理性が吹っ飛んで、酔っ払い状態ってトコなの? それにしてもこれはひどい。
とにかく、四神と合流しよう。黄龍をさけるようにぐる~っと迂回して、四神の前に降りて行く。
「お待たせ、話しはガルーダから聞いたよ! 私はアリサ、女神達の依頼で来た『聖域の魔女』よ」
アリアをうまいこと操作して、四神達を驚かせないように気を配る。黄龍に対して殺気立ってるだろうから慎重に。
「おぉ、マジか! 俺は白虎だ! 頼むジジイの呪いを解いてやってくれ! 普段はあんなにおかしくねぇんだよ」
「きゅーきゅー!」
白虎が心底助かった~みたいな顔でうったえてくる、長の豹変に辟易しているんだろう。
ミドリガメ、もとい。玄武は喋れないみたいだね。なになに?
玄武なりたてです! もう私達の手に負えないから、どうかお願いします? はいな、なんとかしてみましょう。
「ほわー魔神の呪いを解いたのがこんなに可愛いお嬢さんだったなんて、ちょいびっくり! 私は朱雀よ。落ち着いたら沢山お話しましょうアリサ!」
おぉ、話してみればなかなか気のいいお姉さんって感じだね! うん、色々話そうね。
「助かった、我は青龍。あの錯乱している愚兄の弟だ……アリサ殿、済まぬが宜しく頼む!」
我が兄ながら恥ずかしい限りだが……あー、うん。身内の暴走っぷりをまざまざと見せられたうえに、その対処を他人にお願いしないといけない。キッツイわねそれは、心中お察しします。
私の姿を確認して安堵する四神達、その表情から本当にギリギリだったみたい。良かった間に合って!
「ごめんね、まさか呪いがもうひとつあったなんて知らなくて! ありがとう、耐えてくれて! 後は任せて!」
「あぁん! なんじゃあお主は!」
吼える黄龍に身構える、さぁ、頑張らないとね!
オプション、シールド展開! 飛行魔法発動、アリア状態変更・杖!
絶対に失敗できない、失敗はユニを失う事と同義だ! 最初から全力で行くよ!
「かぁーっ!! なんちゅう見苦しいヤツじゃ! ボォンキュッボォン! ではないか!?」
え?
「嘆かわしい! 貴様といい、朱雀といい、玄武といい、近頃の娘ときたら無駄に育ちおって!! 良いか!! おなごとはな、ツルペタこそが至高なんじゃ!! 膨らみかけこそが究極なのじゃあああぁっー!!」
バオオオォォォーッ!!
「女神どももそうじゃ!! 嘆かわしい! 嘆かわしい! 次女を見習わんかぁぁーッ!!」
──私、帰っていいかな?
何が悲しくてこんな駄龍にセクハラ受けにゃならんのよ?
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【魔女の制裁】~変態死すべし~
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「アリサ、そいつやっちゃって……」
「ちょっ! レウィリ姉落ち着いて! 呪いのせいでおかしくなってるだけだって!!」
「いえ、消えてもらった方が世のためかもしれませんね」
「アルティ姉までーっ!」
レウィリリーネの殺気がこもった意見にアルティレーネが同意。うん、私もそう思うけどフォレアルーネが必死に止めてるからね、少し冷静に……心底冷えた目で黄龍を睨む。
件の黄龍は「どうだ言ってやったぜ!」みたいなドヤ顔で勝ち誇ったかのように高笑いしている。
ドッゴオオォォーンッ!!
「ぶげらぁっ!!?」
キレた。人を不快にさせてなに喜んでるんだこのド変態が?
属性を与えない純粋な魔力で極大ハンマーを編み上げ、黄龍の脳天に叩き付ける。
うん、コイツは死んでいいと思う。
ピヨピヨとヒヨコがくるくるしてるように、目を回して気絶した黄龍が地面に落ちていくので、風魔法で強制的に浮きあげる。
ゴオォォーッ!!
四神達の長で、魔神の呪いにより強化されてるなら遠慮なんていらない。しない。
浮かせる為の風魔法が何故か雷を伴う強力な雷光旋風でも、何も問題無いよね!
「さぁ、こんな馬鹿につける薬なんてないかもだけど……注射してやる!!」
ユニにも使った神々の雫の注射器を展開、数十本ブスブスッ!
「グギャアアァァーッ!?」
お、目が覚めたかな? ここからが本番だぞ、この駄龍め!
オプションから連続で解呪魔法の魔法弾を連射! 私は火属性魔法と風属性魔法を組み合わせて、さっき朱雀が見せた炎嵐を試し打ち。
ズゴオオオォォーッッ!!
「ウギャアアァァーッ!! 熱い! 馬鹿な儂の鱗をも焼くほどの火炎だとぉ!?」
効いてる効いてる、じゃあ次はコレだ!
青龍の見せた雷ブレスを真似て見る。アリアに魔素を収束させて、あのビーム砲みたいなブレスをイメージして解き放つ!
ガガガガーッッ!!
「グワアアァァーッ!! おっ、おのれ小娘がぁ! 舐めるなぁっ!」
直撃した雷ビームは黄龍を感電させて動きを鈍らせた。
黄龍は悲鳴を上げつつも四神の長としての意地があるのか? 強引にビームを弾いて、光のブレスで反撃してくる。
「貯槽!」
黄龍の放った光のブレスの目の前に異空間、貯槽に繋がるマンホールを展開させて、その蓋をパカッっと開けてブレスを受け入れる。文字通りエネルギーをまるっと貯める事ができるこのタンクは、ミーにゃんポーチを作った時の失敗から閃いた魔法。
ミーにゃんポーチと違って入れた物全てをエネルギーに分解してしまうので、一度物を入れちゃうと跡形も残らない。
まぁ、要は使いようで、でっかい携帯ゴミ箱と思えば便利かもしれないね。それに、エネルギータンクなので魔力にすることもできる、その魔力はいざというときに使おう。
「なんじゃとおぉっ!?」
「すげぇ! ジジイのブレスを歯牙にもかけねぇのか!!」
「今のは喰ったのか? 兄者のブレスを?」
「凄いわアリサ! 圧倒的じゃない!」
「きゅーきゅぅ!」
これがあれば昨日の魔素粒子砲をいつでも撃てたりするんだよ、無駄に放出するよりこうしてためこんでおけばエコにもなるし。
「ならばこれならどうじゃぁーっ!!」
ブオォンッ!!
黄龍がその身を鞭のようにしならせ、私を叩きつけようと体当たりしてくる!
その大きさのせいで軌道が読みやすく、簡単にかわせるんだけど、ビュオォって風圧が凄いわ。
「おっと! 巨体の割りに機敏ね、切り返し早い!」
ビュオンッ! ブオォンッ!
何度も何度もそのにょろにょろの身体をぶんまわして攻撃してくるんだけど、目回ったりしないのかな?
あ~っ鬱陶しい! じいちゃんなのに元気よすぎ! 朱雀の気持ちがわかったよ。
めんどくさいからこうしてやる!
ガシィッ!!
魔力で手をイメージ! でっかい両手で黄龍の尻尾を掴んでって、コラ! 暴れるんじゃないの!
「ウガッ! な、なんじゃ!? 尻尾が動かん!」
ガシィッ!!
「グワアーッ!? な、なんなんじゃこれはぁぁ~っ!?」
魔力の手をもう一組作ってそちらで黄龍の首根っこを捕まえる。そして~こうだっ!! シャシャシャシャー!! きゅっ!
「グギャッ!!?」
「駄龍の蝶結び完成~!」
黄龍の長い体躯を紐に見立て、コンパクトに結んでやったのだ!
さぁ、これで勝負あったでしょう? 私はアリアを黄龍の眼前に突き付ける。
「黄龍、あんたもう呪いなんて解けてるでしょう? まだやる?」
「ぐぬぅ~っ! 小娘、主は何者じゃ? というかほどかんかっ!」
ふふん、どうやら正気には戻ったみたいだね。さっきの反撃は怒り任せの攻撃なんだろう。
まぁ、こっちの方が怒髪天を突く勢いで、怒りゲージがぶっ飛んだんだ。だからほどいてなんてやらない。
「すげぇ……あのジジイが赤子の手を捻るように、いとも簡単に無力化されちまったぜオイ!?」
「我等の攻撃も容易く模倣されたな」
「アハハ! 見てよじいさんの情けないカッコ! ざまあないわね!」
「きゅぅ~っ!!」
四神達の評価を聞き流して、周囲の敵性マークを検索。うん、反応無し。
「みんな~もう大丈夫だよ。合流しよう!」
「おぉ~流石アリサっち! ペガサス、スピード上げて!」
「任せて下さい!」
映像通信の女神達に解決した旨を報告、さぁ、合流しよう!
「こりゃ! 質問に答えんか! そしてほどけぇ~っ!」
「るっさいなぁ~っ! なんでその状態で偉そうにすんのよ? 私はアリサ、女神達の依頼を受けた『聖域の魔女』よ」
「なんじゃと? ふん、では主は転生者じゃな……となると、主神も絡んでおるな?」
お、なんだこのじいちゃん。なかなか察しがいいじゃないの。
冷静になれば普通に知恵者なのかな?
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【むっちんぼでー】~偉いのに聞け~
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「さて、黄龍。申し開きすることはありますか?」
「そんなもんないわい! それよりユニちゃんをペロペロさせい!」
ドゴォッ!
「ゲバァッ!」
アルティレーネの詰問に変態発言で返す黄龍の脳天に、二度目のハンマーが落ちる。
女神達と合流した私達は今、黄龍に事情聴取をしている最中です。
レウィリリーネが予想した呪詛喰らいの呪い。もし、それが当たっているなら、黄龍の呪いの解呪を条件に、また呪いが発動した者がいるのかもしれない。
うん、ややこしいね、こんがらがりそうだ。
「こーじぃ、他に魔神の呪い受けたヤツとか見てないん?」
「ぐおぉ……無遠慮に儂の頭をぶったたきおって~っ! むぅ、儂も総ては知らぬ。それよりユニちゃんをブギャァッ!?」
ドガァッ!!
はい、三度目。ホント懲りないじいちゃんねぇ。
「はぁ、マジでいい加減にしろよジジイ……」
「兄者……嘆かわしい」
「もう、嫌……このじいさん」
きゅぅ~。ってげんちゃんも。四神達のため息が重なって、その残念さがめっちゃ伝わってくる。
私の背に隠れてるユニも心底嫌そうな顔をして、離れない。
「こーじぃちゃん、まともな時は普通に物知りなおじいちゃんなのに……」
ふむ、このままだと話が進みそうにないね。しょうがない。少し助言してみようか。
「黄龍、あんた今全員に気持ち悪いって思われてるのわかってる?」
「なんじゃと!? 言うに事欠いて儂が気持ち悪いじゃとぉ! 無礼ぞ! このむっちんぼでーの小娘ガビャァッ!?」
ドッゴーンッ!!
「四度目ね。何回ぶん殴ればいいのかなぁ~? あのね、ユニがいつもの、落ち着いてて、優しい物知りなおじいちゃんの方がいいのになぁ~って言ってるのよ?」
「うぐほほぅ! ほう、ほう! そうであったかそうであったか! フハハ、これはいかんいかん。儂としたことが、ちと頭に血がのぼっておったようじゃな」
……チョロくない? この駄龍。まぁ、これで落ち着いてくれるならいいか。
《落ち着かれたか、黄龍殿?》
「黄龍様、大丈夫ですか?」
(黄龍さまが呪いを受けていたって聞いた時は肝が冷えましたよ~)
「黄龍様、落ち着かれたようで何よりでございます」
ガルーダ、ペガサス、モコプー、セインちゃんが黄龍に近付いて、それぞれ声をかける。
確かに焦ったよね、なんとかなってよかったよ。
「うむ、済まぬな皆よ、迷惑をかけた……魔女よ戒めを解いてくれぬか?」
うん、大丈夫そうだ。蝶結びをほどいてあげよう。魔力の手を操作して……魔力の手って呼ぶか、わかりやすいしね。チョイチョイっと。
「ん、次変な事言うならあたしが自ら処す」
レウィリリーネはまだ怒ってるみたい、しょうがないなぁ。
「レウィリも落ち着いて、可愛い顔が台無しだぞ~♪」
「アリサ、あたしは……むぅ~……むふ~♪」
なでなで。レウィリリーネに目線を合わせて、優しく頭を撫でてやる。この子は頭を撫でられるのが好きみたいで、強張った表情が次第にふにゃ~って笑みに変わっていく。うん、可愛いね。
「あ~っ! レウィリリーネさま良いなぁ~アリサおねぇちゃんユニもユニも~!」
「うん、いいよぉ~。ユニも長旅お疲れ様~撫で撫で」
ユニもおねだりしてくるので、勿論応えてあげる。うんうん、にぱーって笑顔が最高に可愛いね♪
二人ともニコニコ。周りに拡がるほんわか空間。
そうそう、こういうのが良いのよ。ミーナもリヤカーのクッションにまるまって欠伸をしてる。あれだけドタバタ騒いでたのに、大物だねぇこの子は。
「アリサさん後程私も……あ、いえいえ! こほんっ! 黄龍、些細な情報でも構いません」
アルティレーネが慌てて取り繕う。なんだかんだで、この子も甘えたかったりするのかな?
と、今は魔神の呪いの事だよね。一応この『聖域』全体に検索をかけてみたけれどヒットは無し。
だからといって安心はできないからね。
「ふむ、さっきも言うたように儂も総ては把握しておらんのじゃ。だが、知る者はおるじゃろうて」
「え!? だれだれ!? 教えてよこーじぃ!」
おぉ~! 呪いが残ってるかを知ってる人がいるのか、一体誰なんだろう?
「なぁに、お主等もよく知っておるじゃろう……主神様じゃよ」
黄龍『おじいちゃん』『変態』
青龍『おじさん』『苦労人』
朱雀『頼れそうなお姉さん』
白虎『ヤンキーアニキ』
玄武『妹』『実は小さくて大きい』