56話 魔女とゆかりとシェラザード
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【その後のシェラザード】~黒竜も一緒に~
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「ごめんみんな! お待たせ!」
「アリサお姉さま、お帰りなさい」
「「お帰りなさいアリサ様!」」
「防衛の様子は如何でしたか?」
「『黒狼』の連中は? 冒険者達は? 街のみんなは!?」
「これこれ、そう焦るでないぞ? アイギス、ゼルワ」
映像通信を見て、街の北側の防衛が大変なことになっていたのを確認した後、それを解決するべく転移で移動。あのでっかい魔獣ををやっつけて、色々手を尽くしてる間、『悲涙の洞窟』で待機していたみんな……アルティレーネと『白銀』達のもとに帰ってきて、置いていってしまったことを謝罪する。アルティレーネは慌てることなく、いつも通り挨拶。サーサとレイリーアが揃ってお帰りなさいをしてくれて、駆け寄って来ては街の様子を聞いてくるアイギスとゼルワ、そんなに焦んないで、ちゃんと話すから。ドガは落ち着いたもので、私に詰め寄るアイギスとゼルワを窘めてくれる。
「うん、なんとか間に合ったよ。みんな無事! 今は元気に残敵の掃討戦にヒャッハーしてる」
「おお! それは良かった!」
「すげぇぜ! 誰も死者が出なかった『氾濫』なんて初めてのことじゃねぇか?」
「それもこれも、『聖域』から応援に駆け付けて下さった皆様のおかげですね!」
街の現状を伝えるとアイギスは嬉しそうに安堵して、ゼルワは誰も犠牲が出なかったことに驚きと歓喜の声をあげ、サーサが私達に感謝を伝えてくれる。
「これは大きな区切りじゃのぅ……アルティレーネ様、アリサ様。改めて感謝致しますじゃ」
「ホントね……アタシからもお礼させて! ありがとう、アルティレーネ様、アリサ様!」
しみじみと頷きドガが、顔を綻ばせるレイリーアが改めて私達に感謝してくれる。うん、みんなの力になれたようでよかったよ♪
「いいのですよ皆さん。寧ろ私達から謝罪しなければいけません……私達神が不甲斐ないばかりに、知らず魔王に苦しめられていたのですから。本当にごめんなさい」
『白銀』達の感謝にそう答えるアルティレーネ。妹達女神も死力を尽くしてこの世界を守ろうとしたけど、魔王の影響は大きなものだった。これからもその爪痕をこうやって癒していかないといけない。今回はその第一歩だ。
「ぐるうぅ~」
「ああ、ごめんね怪我させたまま放置しちゃって……あんたも『無限円環』入ってその狂戦士化と怪我治そっか?」
今までの間私の『光の檻』に囚われてぐったりしてたダークドラゴン……長いな、黒竜でいいか。が、怪我の痛みに耐えるように唸るので、ほったらかしにしてしまった事を謝って、『無限円環』に入るように促す。
「ワカッタ……」
「うんうん、素直で良い子ね♪」
コクンって頷いた黒竜を見て素直な良い子って感じて、その顔を撫でてあげた後、私は手のひらに小さな『∞』を浮かび上がらせる。これは『無限円環』の入り口とでも言えば伝わるかな?
「はい、一名様ごあんな~い♪ この先にいる私の指示に従ってちょうだいね?」
シュウゥゥンッ!!
そうして黒竜は私の『無限円環』に吸い込まれていく。
さて、じゃあ後はみんなで戻って色々と報告を聞くとしよう!
「──で、その後アイギス達は残敵の掃討作戦に回ってて、今に至るってことよね? それはわかったわ。じゃあ、今もシェラザードはアリサ姉さんの『無限円環』の中にいるのね?」
「ダークドラゴンも可哀想にねぇ~取っ捕まって理性吹っ飛ばされちゃってたなんて!」
「ん。続きが気になる……ダークドラゴンもシェラザードも大丈夫そう?」
セリアベールの街の墓所。件の『死霊使い』に利用されたのであろう、三名から一通り話を聞いた後。私は妹達にシェラザードとの戦いの後の事を語って聞かせている。まぁ、映像通信である程度見てもらっていたので、黒竜辺りの事をちょいと捕捉した程度だ。
だが、『無限円環』内は私のプライベートルームってこともあって、まだ誰にも見せていなかった。その辺どうなっているかとか、シェラザードと黒竜がどうなっているかとかを順を追って話そう。
「まぁ、悪い事にはなってないからそこは安心してちょうだい。あはは、まぁ……後は呆れないで聞いてもらえると嬉しいなぁ~」
「つまり、呆れ果てるような状態になっていると言うことですね?」
「はぁ~ま、悪いようにはなってないってだけでもよしとしますかね……」
うぐぅ……アルティレーネとティリアが既に呆れたジト目を私に向けてきているじゃないか! うむむ、しかし今回はマジになにも言えない、呪いを受けていたとはいえ、あのブッ飛んだ言動で、ブイブイ云わせてたシェラザードが……まさか、あんなになるなんて誰が予想できようか……
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【その後のシェラザード】~『無限円環』内部~
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「はい、いらっしゃーい♪ 黒竜さん一名様ごらいて~ん♪」
「なっ!? この空間に入っただけで狂戦士化が解けた!」
外にいる私……便宜上『魔女アリサ』とでも呼ぼうかな? からこの『無限円環』に送られて来た黒竜が、シェラザードにかけられた狂戦士化が解けた事にびっくりしている。
「そうそう、ここは私が創った特別な空間だからね。『精神体』『物質体』『星幽体』から『根源の核』まで全部……そうだね、入ってきた人の『存在』そのものを全部掌握できるんだ」
「馬鹿な……そんな御業……『神』そのものではないか……お前は一体……」
驚いてるね黒竜、ふふ、目をまるくして口をあんぐり開けて、ポカーンとしたその顔は結構面白いよ♪
「いやいや神様だなんてそんなこと……って、一応『亜神』だからあながちそう言われても否定できないのか~」
大それたことを言う黒竜に慌てて否定しようとするけど、全部が全部間違いって訳でもないので否定しきれない。取り敢えず、私の自己紹介とこれまでの経緯をかいつまんで説明しておくことにした。
「成る程……『聖域の魔女』アリサ様か、概ね理解しました」
「それはよかったよ、と言うか……キミ、女の子だったんだね?」
「え? あ、あれ!? いつの間に人化している!?」
私と戦った時はそりゃ見ただけで震え上がりそうなほど、おっかないドラゴンだった黒竜。だけど今私の目の前に佇むのは、私と同じくらいの背丈の女の子だ。
「ここは謂わば『精神世界』だからね、貴女の『精神体』が剥き出しになってるんだよ」
私の『無限円環』は先に説明したように、『精神体』、『物質体』、『星幽体』、『根源の核』を私が把握する事が出来る世界だ。その目的はシェラザードの呪いを解呪するためってのが一番なんだけど、それが済んだらまたすごしやすいように創り変えようと思う。
「結構な美人さんだったのね、なんかいっぱい傷付けちゃってごめんねぇ~」
「え、あ、いや……気にしないでくれて、いい、です。アリサ様」
謝罪する私に戸惑いながらも返事するすっぽんぽんの黒竜ちゃん。マジマジと彼女を見てみると、黒竜ってだけあって髪は綺麗な黒髪、なんだけど、左右の前髪に赤いメッシュが入り、腰まで伸びた毛先は赤いグラデーションがかかっている結構なオシャレ具合だ。
そして、バランスの取れたプロポーションは素直に美しいと感じてしまう。アルティレーネや、ティリアにも負けない謹製の取れたシャープな顔立ちもそうだし。一見するとキツイ感じを与えるつり目なのに、ちょっと不安そうな表情がそれを感じさせない。何より……
「……綺麗な瞳ね。なんかずっと見ていられる」
「ん? 私の『竜眼』が気になる、のですか? アリサ様のその白銀の『神眼』も吸い込まれそうなほど美しいですが……」
どうやら黒竜の瞳は『竜眼』とか言う特別なもののようだ、私は単に綺麗な紫色したその瞳に見とれてただけなんだけどね。あ、そうだ! 折角だし……
「ねぇ、貴女名前はあるの?」
「名前? いえ、普通にダークドラゴンとしか……」
「オッケー! じゃあ、折角だし私が名前つけていいかな? 貴女も大事な私の家族になるんだしさ! ね? いいでしょ?」
この子はシェラザードに無理矢理従わされて、私と戦って大怪我負ってと、まぁ……結構踏んだり蹴ったりな目に会って来た。そんな彼女に思わず手を差し伸べたくなってしまったのは、私の驕りかもしれないし、自分でも何様だって思うけど……ここはエゴを通したい。
「名前……家族……私で、その……良い、のか? ……ですか?」
「勿論! これから仲良くしようよ?」
私の提案に戸惑い、俯いて、少し不安そうにしながら是非を問う黒竜に私は、ユニのようににこーって笑顔で二つ返事。そうすると黒竜は安心してくれたのか、微笑みを返してくれて嬉しそうに頷いてくれた♪
「うん! じゃあ、貴女の名前は『ゆかり』♪ その綺麗なゆかり色の瞳を見たら一発でこの名前が浮かんだの! ねぇ、どうかな?」
「ゆかり……私は、ゆかり。……不思議、心に染み渡るようにアリサ様の思いが広がって行く……ありがとうございます! 私は今後ゆかりと名乗り、アリサ様と共にあることを誓いましょう!」
じ~んと感慨に耽るように、目を閉じてゆかりと言う名前を呟いた黒竜は、なんとまぁそれは嬉しそうな表情を見せてそう言ってくれたよ! やったぜ!
「これからよろしくね、ゆかり♪」
「はい! アリサ様♪
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【その後のシェラザード】~むきぃーっ!~
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「さて、じゃあシェラザードの様子でも見てみるか。だいぶ根深く呪いが浸透してるみたいだったけどどうなったかな?」
「うう、またなにかしら術をかけられたりしないだろうか……?」
私は不安そうにするゆかりの手を取って、『無限円環』内を移動する。私の世界なのでその気になれば一瞬でシェラザードの所まで移動は出来るんだけど、折角だしゆかりにこの世界の出来栄えを見てもらい感想がほしいって思ったのだ。
「とても美しい……天空に浮く大陸。見渡す限りの花園……あの山の頂きに見える白は雪ですか……緩やかに流れる川のせせらぎ……ああ、心が洗われるようですね。浮遊大陸を結ぶ虹の道も幻想的で、とても素晴らしい世界だと思います」
「でしょでしょ! ふふ、やった、高評価頂き♪ 天空都市とか浮遊大陸とか、天空の城とか国って凄い憧れるんだ!」
多分に前世の記憶に影響されているけど、天空の~ってやっぱりロマンあると思うのよね!
「成る程、実は外の世界にも浮遊大陸は存在しているのですよ? 確か創世の女神達によって『迷宮』が創られたはずです。ご興味あれば行ってみるのも良いでしょうね」
「マジか!? 後で妹達に聞いてみよう!」
ヒャッホーッ! って心踊らせて喜ぶ私をくすって微笑み、ゆかりは拡がる一つの大陸、名前つけてなかったねどうしよう……取り敢えず『精神の大地』とでも呼ぼうかな? の、花園を歩き、周囲の景観を見渡して素敵な感想と、情報をくれた。折角素敵な力を授けられて転生したんだし、やっぱり冒険はしてみたいよ!
「その時はゆかりも一緒に行こうね?」
「はい、私で良ければお伴します!」
うんうん! その浮遊大陸の『迷宮』に行くときはゆかりだけじゃなく、アイギス達『白銀』や、バルドくん達『黒狼』。アリスや、ユニも連れてみんなで大冒険とかしたい!
そんな会話をしてゆかりの緊張もだいぶ解けてきた頃、花園を抜けた私達の前には大きくて、陽光……まぁ、イメージ魔法で再現してる太陽だけど、を受けてキラキラとその水面を反射させる美しい湖が現れる。
「ああ、これは見事な! って、湖の中心に浮かぶのは……魔王!?」
「そそ、この湖は全部『神々の雫』だからね。この『精神の大地』で『神々の雫』漬けになってもらって、精神の呪いを解呪してるの」
精神は幽体を伴って物質に還る。これが私の『無限円環』内での絶対法則だ。核の部分は私にしかアクセスできない、更に深部の別空間で管理するようにしてる。一番大事な部分だしね。
湖の中心には『精神体』のシェラザードがぷかぷか浮いているけど、その瞳は閉じられたままだ。まだ魔神の呪いが解呪しきれていないのだろう。
「端から見れば水死体ですね……」
「あはは、大丈夫大丈夫! ちゃんと生きてるから。ゆかりもどうせだし一泳ぎしてくるかね?」
いまだにすっぽんぽんのゆかりを見て、この湖で泳いでみては? と提案する。折角だし私も浸かろうかな~?
「そうですね、折角ですし……少しだけ……ん、気持ちいい……」
ちゃぷちゃぷ。
静かに、そ~っと足からゆっくりと湖に入って、腰くらいまで浸かったところでゆかりは『神々の雫』を掌に掬い、上半身にぴちゃりぴちゃりとかけていく。う~ん……中々に色っぺぇ~シーンだこと♪ って、そうじゃなくて……
ゆかりもシェラザードから無理矢理、狂戦士化させられたことで『精神体』が少なからずダメージを負っている状態だったから、それとなく湖に入るように促したのだ。
「……なによ~ティリアの馬鹿主神、人を散々振り回して……って、あら? ここは……?」
「ん? ようやっとお目覚めかね、ぶっとび魔王ちゃん?」
肩まで湖に浸かってほわあぁ~ってその顔をとろけさせて、めちゃ気持ち良さそうにしてるゆかりを微笑ましく見てると、真ん中でぷかぷかしてたシェラザードが目を覚ましたようだ。
「あなたっがぶっ!? けほっ! ちょっと! なによコレ!? 少し飲んでしまったわ!?」
「あーあー、大丈夫だよ『神々の雫』だからね」
「なんですって!? 貴女、やっぱりティリアなんじゃない! むきぃーっ! 貴女はいつもそうやって人をからかって! もう我慢できないわ!」
じゃぼじゃぼーっ!! って水を掻き分けて私に向かってくるシェラザードはぷんすか怒ってるけど、戦っていたときの邪悪な気配はまったく感じない。うんうん、解呪はうまくいったようだね。というか、いまだに私をティリアと勘違いしてるね。そう言えば『神々の雫』はティリアにしか創れないって妹達が言ってたから、そのせいか。
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【その後のシェラザード】~フラッシュバック~
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「……ふぅぅぅ~~んっ!! あのシスコンのアルティレーネのしでかしそうなことね! ふんっ! いいわ、貴女の名前と、世界樹の核につけたって言う名前を考えても嘘じゃなさそうだし……貴女はティリアじゃないって信じてあげるわ! 有り難く思いなさいよ!?」
「やかましいわ! 私の妹達を悪く言うなら本気でブッ飛ばすよ!? って、私とユニの名前がなんだって?」
ゆかりと同じように、シェラザードにもこれまでの経緯を説明して、私とティリアは別人だってことを何回も話してようやく納得したらしいこの魔王女神なんだけど、話してる途中で私を含め妹達に仲間達をディスること数回。その度私にひっぱたかれること数回。まったく、今のシェラザードはその力を全部私に封印されて、一般人とほぼ変わらないって言うのに、いちいち喧嘩腰なんだから! んで、なんか納得したその理由が私とユニの名前らしいのだけど、どう言うことだろう?
「もうっ! この無礼者! 何回もひっぱたいて! って、あら? 聞いていないのかしら、あの姉妹が創った世界、貴女がいる世界ね。『ユーニサリア』って名前がつけられたのよ?」
ほほう! それは初耳だね! なるほどなるほど、確かに私の名前は妹達が一生懸命になって考えてくれた名前だって聞いてるし、ユニの『ユニ』って名前を提案してきたのも妹達だ、あの時は色々な名前が候補に挙げられたけど、一番しっくりきたのが『ユニ』だった。
「それは私も初耳だ。シェラザード、その話しは本当なのか?」
「貴女も結構な無礼者ねダークドラゴン! 様くらいつけなさいよ!?」
「うるさい! 私を無理矢理従わせておいて何を言う! この場で噛み砕いてやろうか!?」
「痛ーいっ! こらっ! ホントに噛み付くんじゃないわよ!?」
ガブーッ! 一緒に話を聞いていたゆかりにとっても妹達の世界の名前については初耳らしい、その真偽を確かめるためシェラザードに質問したらこれだ。実はあんた達って仲良いんじゃないの?
「まぁ、後で妹達に聞いてみるとするよ。でさ、あんたの今後だけど……」
「イタタ……イヤよ?」
まだなんも言っとらんわい。
「イヤよ! 呪いは解けたし、『神界』に還れって言うんでしょう!? そしてあの馬鹿主神に殴られて、こき使われるんでしょう!? そんなのイヤよ!」
「あー……ティリアはあんたが呪いを受けてたって知らなかったみたいだし、そんなことにはならないと思うんだけど……」
参ったね、完全に駄々っ子だわこりゃ……私がいくら説得しても首を横に振り続けるばかりで、うんって言わないや。
「貴女にはわからないわよ! いつの間にか魔神に呪いをかけられて、意識を奪われて、いいように利用させられて! 私が何をしたって言うの!? 何で誰も助けてくれなかったの!? 気付いてくれなかったの!?」
まるで堰を切ったように泣き叫ぶシェラザード……見てて凄くいたましい……その姿はまるで私の前世の姿を表しているようで……胸が痛む……
「アリサ様……?」
「……なんで、どうして貴女が泣くのよ……同情なら……っ!?」
気付くと私は一筋の涙を流していた。そして、シェラザードを抱きしめていた……
「……貴女、そう……貴女も同じ、だったのね……世界や立場こそ違っても……同じような痛みと辛さを受けていたのね……」
「うう……うああぁぁ……シェラザード……」
彼女を抱きしめ私は泣いた……シェラザードの悲痛な叫びが前世の自分をフラッシュバックして、まるで我がことのようにその痛みがわかってしまったのだ。
「……お互いに、落ち着いたでしょうか?」
暫くの間、私とシェラザードは抱きしめ合ったまま、泣いて泣いて泣きわめいた。そして涙と一緒に色々なものが流れ落ちたみたいで、幾分気持ちも落ち着いたようだ。そんな頃合いを見計らって、ゆかりが静かに声をかけてくる。
「うん……ごめんねゆかり、みっともないとこ見せちゃったね?」
「いいえ……とんでもない、私にも二人の痛みが伝わってきたかのようでした。そのせいか、シェラザードへの怒りも霧散したみたいです」
「貴女にも迷惑をかけてしまってごめんなさいね、ダークドラゴン……」
私達が謝罪すると、ゆかりは優しそうな微笑みを返してくれたのだった。
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【その後のシェラザード】~さぁ、定番のお着替えよ!~
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「ねぇ、アリサ……いい加減服が欲しいのだけど?」
「あー、そうだね……ゆかりもシェラザードもすっぽんぽんのままじゃイヤよね」
『精神体』のシェラザードの呪いが完全に解かれている事を確認した私達は、次の大陸……『星の大地』でいいか、に向かい歩き出した、その直後だ、シェラザードが服を欲しがった。今まで湖に浸かってたからあんまり違和感なかったけど……うん。屋外の野原に素っ裸の女の子二人に一人だけ服を着てる女の子。これはいかん! 一体どういう状況だと、あらぬ誤解を受けてしまう!
「私は別に構いませんが……私達以外誰もいないのでしょう?」
「ダークドラ……いえ、ゆかりは竜だからあまり気にならないのね……?」
ふふふ、なんだか少しぎこちない感じはするけど、私達三人、少し仲良くなれた気がするね。
さて、ここでちょっと考える……シェラザードとゆかりに似合う服はどんなのだろう? 先にも述べたようにゆかりは黒髪にバランスの取れたプロポーションをしているため、正直何を着せても似合うだろう。
一方シェラザードだけど、中々の高身長に、白を基調に薄いピンクがかった少しふわっとしたその巻き毛はポニーテール。憑き物が落ちた今のその顔は優しげな垂れ気味の目に長い睫毛、深いグリーンの瞳は見る者に知性の高さを窺わせる。なにかね? 女神ってのはその容姿も選考基準に入るのかね? なんて疑ってしまうくらい整った顔立ちは素直に美人って感想が洩れる。
「二人とも何着せても似合いそう……リクエストはない?」
「動きやすければそれだけでじゅうぶんですよ?」
「そうね……少しゆったりした服がいいわね……」
オーケーオーケー♪ そう言うことなら私の好みで決めさせてもらおう! 先ずはゆかりだけど、彼女を見て印象的だと思った黒髪に赤いメッシュと毛先の赤いグラデーションから湧くイメージは、黒のジャケットにミニスカート、そして膝丈まであるブーツ! いずれも赤のラインや、ワンポイントを施しパンクな見た目で凄くカッコいい!
「そして下着は白にうっすらと紫がかかったお清楚上下! どーよ?」
「こ、これが……私……? 正直、人が着る服、と言うものに今まで不思議に思っていたのですが……そう、あれやこれやと様々に身に付ける物を変えて、一体何が楽しいのか、と……」
魔法でゆかりにイメージした服を着せて、どんっ! って二つの姿見も用意。自分がそのパンクな服装になっているのを見て、ゆかりは目をパチクリさせる。うーん、やっぱり今まで竜だったから違和感すごいのかな?
「でも……何だろう……鏡に映る、この服を着た自分を見ていると……ワクワクしてくる!」
「それが楽しいってことよ? 貴女もやっぱり女の子ね。ファッションを楽しめるのだもの」
「そうそう! 思った通り似合う~素直にかっけぇわぁ♪」
表情を綻ばせて嬉しそうな笑顔を向けてくれるゆかりに、私とシェラザードはうんうんと頷き、彼女をほめる。いやぁ~マジ似合う!
「シェラザードには……まず下着、エロいのね?」
「ちょっと……ガーターベルトって……あ、でもこの淡いピンクのブラとショーツはいいわね」
ポンポンとシェラザードの下着をイメージ魔法で具現させて見せてみる。妹達が今まで色々と用意してくれていたおかげで、私もすんなりと用意することができるようになってしまった。
「さぁ着たわよ。それで、服はどんなのを用意してくれたの?」
おう……タッパあって、スタイルいいからガチにモデルみたいだねシェラザードは、スラッと伸びた美脚を包むニーソックスにガーターベルト、淡いピンクのブラとショーツ……エロい。ネヴュラとはまた違う色気がある……そんな彼女には、ニットセーターとロングスカートを用意。リクエストにもあったゆったりしたオシャレ服だ。靴にはありあわせで申し訳ないけどパンプスを。
「へぇぇ……これはまた……私の動きやすい服装とはうって変わって……なるほどなるほど! アリサ様、着替えやファッションを楽しむと言うことが少し理解できたかもしれません!」
「いいわね! 素敵じゃない♪ 私この服気に入ったわ! ありがとうアリサ」
うんうん、喜んでもらえたようで何よりだよ。ふふん♪ 前世のMMORPGで自分のアバターに沢山着せ替えさせてた経験がいきたね! 因みに、私は『聖鎧』を脱いだ聖女服だったりするんだけど、白を基調にしてて、シェラザードのニットセーターにロングスカートも白とクリーム色なもんで、ゆかりの黒ベースに赤いポイントがめっちゃ目立つ。
「二人ともよく似合ってるよ! ふふ、その服はプレゼントするから、好きな時に着てね♪」
「あら、いいの? 嬉しいわ、いずれ何かお返ししなきゃいけないわね♪」
「ありがとうございますアリサ様! 一生の宝物とします!」
元々私の神気を使ってイメージを具現させた衣服なので、私には何の損もないしね。それを聞いた二人は嬉しそうにその表情を明るくしてくれたのだった。
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【その後のシェラザード】~引きこもりハウス~
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「綺麗な星空ですね……」
「本当ね、『星の大地』って名前はまんますぎて捻りがないけど……」
シェラザード、ほめるかディスるかどっちかにしてくれんかね? この大陸、いや……この空間自体がまだまだできたてなのよ。大陸の名前もさっきとりあえずでつけたばっかりだし、ゆかりのようにもっと素直な感想ちょうだい。
「ここには『星幽体』が訪れる事になるんだ、夜にしてるのは単に雰囲気作りでしかないんだけど、悪くないでしょ?」
私自身、『星幽体』ってのがなんなのかよくわかってないんだよね、『根源の核』を守る最後の一枚ってくらいしか知らない。とても大事なものだから丁寧に扱わないとって気を付けてるけども……
「精神は幽体を伴って物質に還る……っていうのが、アリサの創ったこの世界のルールなのでしょう? じゃあ早速私達の『星幽体』を確認しましょう」
「そうだね、呪いも消えてるみたいだし還しても大丈夫だね……ほいっと」
目を閉じてゆかりとシェラザードの『星幽体』の状態を確認する。この『無限円環』に送られてきたばかりの時、ゆかりはちょっと傷があったくらい、シェラザードは結構根深く魔神の呪いが浸透していたのだけど、今は綺麗さっぱりと消滅している。これなら二人に還しても大丈夫だ。
私は『神々の雫』漬けにしておいた二人の『星幽体』をこの場に呼び寄せて、二人に還してあげた。
「ゆかりの『星幽体』と『物質体』は竜の姿してるんだね、『精神体』が女の子なのは知性を表しているのかな?」
「そうね、竜種……特にゆかりのように古代から存在している個体は、強い力と深い知性を育んできた者が多いから……知ってる? 『懐刀』の四体なんて貴女の妹達よりも以前から存在しているのよ?」
シェラザードが自分の『星幽体』をその身に宿し、異常がないことを確認しつつ私が呟いた言葉に答えてくれたんだけど、マジか……いや、でも、黄龍のシドウや、珠実なんかはアルティレーネ達を子供扱いしたりするから、言われてみれば納得できる。
「そうですね、シェラザードの言う通りです。私は今まで竜の姿で十分と思っていましたけど、これからはこの人の姿で過ごそうと思います」
ゆかりも無事に『星幽体』を宿すことができたようだ。
「おやおや、シェラザードさんや私ってば一人の女の子をオシャレの楽しさに目覚めさせてしまったようでっせ? ふへへへ♪」
「ぷっ! なんなのよその口調は? でも、私が言うのもなんだけど……ゆかりはようやく自由になれたのだから、これからは好きに生きるといいわ。アリサ、ゆかりをお願いね?」
あいよ~♪ 任せておきたまへよ。って、シェラザードは少し寂しそうだね、まぁ……魔神に利用されていた、とはいえ、妹達の世界『ユーニサリア』を滅茶苦茶にしたのは消せない事実なわけだからね……
「さぁ、次は『物質体』ね……アリサ、案内をお願いね」
「ほいほい、んじゃ行きましょうか。アリサさんの引きこもりハウスへ♪」
「引きこもりハウス……」
ティリアがシェラザードにどんな罰を与えるかはわからないけど、できるだけ擁護しようって思う。シェラザードはどうしても他人って思えないからね。まぁ、ティリアもシェラザードが魔神から呪いを受けてたって知らなかったようだし、その辺も考慮するとそんなに酷い罰にはならないだろう。
一方でゆかりだけど、彼女は何の問題もない、って思う。実際ゆかりはシェラザードの創った異空間の番人をしていただけだしね。
「そうそう、暇な時間ができたら遊ぼうって思って創っておいたんだ♪ 色んなゲームとか沢山あるよ!」
「あら、それは面白そうね? 早く行ってみたいわ!」
「げぇむ? 一体どのような……気になりますね」
気を取り直して、次はいよいよラスト! 『物質体』の回収に向かうべく私が創った引きこもりハウスへと虹の橋をかける。ゆかりもシェラザードもそれを聞いて「なんぞ?」って首を傾げるので、ちょいと教えてあげた。
ゆかり「アリサ様……この「ぶらじゃあ」と言うもの、少し窮屈というか、動きにくいというか……(;´д`)」
シェラザード「あら、初めて着ける下着に違和感を感じるのは仕方ない事だわ( ´ー`)」
アリサ「サイズが合ってないとかじゃないんだよね(-ω- ?)」
ゆかり「ええ、なんというかかさばるような……くすぐったいような……外してはいけないでしょうか(-_-;)?」
シェラザード「外さない方がいいわよ( ・-・)外して動き回ると、痛くなるから(>_<")」
アリサ「揺れも抑えてくれるからね、頑張って馴れようか(^ー^)」
ゆかり「……そ、そうですか( ゜□゜)」
シェラザード「……貴女が言うと説得力があるわね(;¬_¬)」
アリサ「……苦労が多いのよん(;-ω-)ノ『聖鎧』着てる時はより抑えられていいんだけど……(^o^;)」
シェラザード「まあ、そうでしょうね(_ _)あ、ゆかり、スカートにも注意よΣ(゜Д゜〃)?」
ゆかり「スカートとはこの下に穿いてるヒラヒラだな?(* ̄ー ̄)これはいいな(*´▽`*)動きやすい♪」
シェラザード「ああっ!Σ(*゜Д゜*)そんなに足を開いちゃ駄目よ(>o<")パンツ丸見えじゃない!(#゜Д゜)ノ」
ゆかり「はっはーっ♪ヾ(@゜▽゜@)ノ捕まえてみろシェラザードщ(゜д゜щ)カモーン」
シェラザード「ま、待ちなさいってば!(; ゜ ロ゜)」
アリサ「これは、私が受けた以上の淑女教育が必要そうだわね(゜A゜;)」