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TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
56/211

54話 魔女と女神の課す試練

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【祭りの目的】~下手な考え~《デールview》

────────────────────────────


「デール! どうだった貴様の方は?」

「いや、何もなかったよ……この騒ぎにかこつけてまた現れると思ったがね……」

「うむ、ガウスもデールも何事も無しか……俺の方も同じくだ。やはりゼオンを狙うためのその場キリだったということか?」


 祭りの喧騒のなか、ガウスとムラーヴェが各々の方角から現れ、私と合流した。

 アイギス達『白銀』にバルド達『黒狼』、お嬢さん(フロイライン)……いや、アリサ様とお呼びするべきだな……『聖域組』を中心に街中一丸となって尽力した結果、遂に長年苦しめられて来た『氾濫(スタンピート)』が終息したのだが、途中騒動に乗じて街の代表者たるゼオンが暗殺されかける。という事件が裏で起きていた、アリサ様が急遽召喚した女神の『懐刀』である『九尾』こと珠実様のおかげで事なきを得たのだが、警戒はしておくに越したことはない。


「ふむ、そうかも知れん……しかし賑やかだな?」


 今は『氾濫(スタンピート)』終息を記念した街全体をあげての祝祭が開催されている。これは勿論、漸く頭を悩まされて来た街の大きな問題が解決したお祝いでもあるが、ゼオンの暗殺を企てた謎の『死霊使い(ネクロマンサー)』と黒フードの集団を誘き出すためでもあるのだ。まぁ、結局現れなかったけどね。

 私達三人は細い路地から大通りに移動するその間、街の様子をくまなく観察する。ムラーヴェの感想を裏付けるように、住人達は皆歌に躍りに食事に酒にと、大いに楽しんでいるようだ。見ればゲキテウス兵にエルハダージャ兵も互いに談笑しつつ宴を楽しんでいるね。


「なんにせよだ。大して頭のよくない我々がここでどうこう考えていても何も解決せんのだ。結果を報告し、レーネ様方の知恵を借りるべきだろう?」

「おいおい、ガウス。頭よくないって自分で言ってしまうのかい?」


 確かに私も学がある方ではないがね、自虐が過ぎるのではないか?


「デール、貴様も常日頃から冒険者に教えているだろう? 「自分が出来る最善の行動をすべき」とな? なら、今の俺達にとっての「最善の行動」はなんだと思うのだ?」

「俺達は別に考えを放棄したわけじゃない。頼れる人がいるなら迷わずに頼るべきだと判断したんだよ」

「やれやれ……これは一本取られたね。そう言うことならば行こうか。今なら執務室に集まっていると思うしねぇ」


 そうやって自分を自覚し、出来ること、出来ないことを即座に見極める事ができる。そんな君達二人のような冒険者が増えてくれれば……いや、それは今後の私の課題だね。新たに設立されるという教育機関。そこの講師の一人として私は声をかけられている。


(今回は私にとって良い学びとなった……この経験、しっかり学舎に来る者達に伝えよう)

「しかし何故犯人はわざわざ『死人』を使ったのだろうな?」


 賑わう冒険者ギルド内を歩く途中、ムラーヴェがそんな一言を発した。ふむ、追い詰めたロッドが霞のように消えてしまった事から、足がつくのを防ぐ為か? 単に我々に動揺を与える為か? 色々と考えられるが……


「そもそもあれは本当に『死人』なのか? 普通『死人』なら何も残さずに消えるなんて出来まい?」

「うーん、『幽霊(ゴースト)』や『思念体(ファントム)』の類いだったのか? だが私は実際にロッドと剣を交えたんだがね……」


 実体を持たない『幽霊(ゴースト)』や『思念体(ファントム)』ならば物理的な干渉は不可能な筈。しかし、私が対峙したロッドはナイフでもって斬りかかり攻撃をしてきたのだ。


「考えてもわからんね。ガウスが言ったようにここはお嬢さん(フロイライン)達の知恵を借りよう」

「然り、下手な考え休むに似たりだ」


 ははは、手厳しいねガウスは。しかし『氾濫(スタンピート)』を解決し、漸く新たな一歩を踏み出そうとしているこの街に暗い影を落とそうとしている問題。早々に解決せねばなるまい。その為にはやはり『超常存在(デウスデア)』たるお嬢さん(フロイライン)達の力を借りることが一番の近道だろう。ディードバウアーなる魔王が背後に見え隠れしている以上、彼女達も協力してくれると言うし。


「ゼオン? 失礼するよ? デール、ガウス、ムラーヴェ三名。巡回警備から帰還した」


 私達はゼオンの執務室の前まで来ると、報告をするため、その扉をノックした。


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【おのれゼオン!】~俺もほしい~《ガウスview》

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「応! ご苦労さん! 入ってくれ!」


 執務室の中からは賑やかに談笑する声が聞こえている。デールが扉をノックし、呼び掛けるとゼオンの野太い声が掛けられた。


「失礼。おやおや、賑やかだね」

「レーネ様! このガウス只今戻りまして御座います!」

「あぁ、アリサ様! なんと微笑ましい光景……尊い……」


 俺は迷うことなくレーネ様にひざまづき、頭を垂れる。ほら、デールそんな呆れたような目をしとらんで貴様も頭を垂れるのだ! ムラーヴェ! 幼子と戯れるアリサ様を見て惚けているんじゃない!


「あはは、そんなに畏まらなくても構いませんのに……」

「お帰りなさい三人共~チミ達もケーキ食べんしゃい♪」


 なんと有り難いお言葉! このガウス心より感謝します! 俺達三人を労うようにアリサ様が小皿に乗せたケーキなる菓子と紅茶を淹れて下さった。ナターシャとファネルリアがテーブルに案内をしてくれるので、俺達は揃い席に着く。


「至れり尽くせりで恐縮です! 有り難く頂きます」

「ありがとうお嬢さん(フロイライン)。とても美しい菓子だね、ふむ、ケーキと言うのか……遠慮なく頂くよ」

「ありがとうございますアリサ様。丁度喉が渇いておりまして、助かります!」


 うむ、ムラーヴェが言った通り、俺も喉が渇いていたところ。そして小腹も空いていたところだ。デールもそうなのだろう、何せ街中からそれはそれは、食欲をそそる美味しそうな匂いがあちこちから漂って来ていたからな!


「うおっ!? こ、これは!!」「むぅっ! なんと言う美味!」「おおおっ! これが天上の食べ物か!?」


 フォークを使い一口サイズにカットした、ケーキなる菓子を口に入れたその瞬間の一声だ! 俺達三人揃って驚愕する! なんと言う美味! なんと言う奥深き味! 甘すぎず上品に口溶け、舌に残る後味がもっともっと! と、俺の手を動かせる!


「お気に召したかしら? イチゴのショートケーキにチョコソースを使ってみたの。まだあるから落ち着いてゆっくり味わって食べてね?」

「ありがとうございますアリサ様! こんな美味初めてです!」

「然り! 塩辛い肉とはかけ離れたうまさ! このガウス感動しました!」

「うん! これは凄いね。お嬢さん(フロイライン)の言う通り、しっかりと味わって食べなくては勿体ない」


 アリサ様が仰るイチゴのショートケーキ。素晴らしい菓子だ、やはりこの『聖域』からこられた御方達についていくと決めた俺の判断は間違っていなかったようだな。ムラーヴェもデールも、しばしこの菓子に酔いしれる。


「落ち着いたとこで報告を聞かせてくれるか? 街におかしな様子はなかったか? 怪しい人物がいたりは?」


 イチゴのショートケーキを十分堪能し、紅茶で昂った心を落ち着かせたところでゼオンから声がかかった。


「街の様子はそれはそれは賑やかなものだ、皆喜んで宴に参加しているね」

「うむ、祭り好きのセリアベールの住人らしい盛大な宴だな! 隣国の兵達も楽しんでいたぞ!」

「まぁ、街の様子に異常はないんだが、怪しい人物なら今俺達の目の前にいるな……」


 デール、ムラーヴェ、俺と順に巡回してきた街の様子をゼオンに報告する。そして何よりも見過ごせんのが……


「目の前に……って、まさか俺かよ!?」

「他に誰がいる! ゼオン……いい年をしたおっさんが人形遊びか? しかもなんだ! レーネ様を模した人形だと!? 俺にもくれ!」


 そう! 実はずっと気になっていたのだ! ゼオンの肩に乗りふわふわ浮いたり、よちよちと歩く、愛らしくも何処か神々しいその自律人形(オートマタ)!!


あはははははっ!!!


「だ~か~ら~! こうなるって言ったじゃねぇかよアリサの嬢ちゃん!?」

「あはは! あ~可笑しい♪ 駄目よゼオン~もう変更は受け付けませ~ん!」


 俺がそのあまりにミスマッチな状態を指摘すれば、場にどっと笑いが起きた。うむ! やはりおかしいよな! ゼオンのような武骨な男が可愛い人形を持っているなど。


「ふふふ……これもお嬢さん(フロイライン)の仕込みかい?」

「そうそう、この「あるちぃ」は私のオプション……まぁ、魔法って思ってくれていいよ」

「ふふ、今回狙われたゼオンの為に、アリサ殿が護衛として用意してくれたそうだ」


 デールの問いにアリサ様が応える。ほう、アリサ様の魔法なのか! 凄いな、一見すると普通のぬいぐるみにしか見えん……しかし羨ましいぞゼオン! バルドさんがこのぬいぐるみはゼオンの護衛とのことだが、むむぅ、俺もほしいなぁ~!


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【足手まとい】~頑張るもん!~《アイギスview》

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「……ロッドが利用されたらしいなデール?」

「ああ、間違いようもない……忘れようもない……確かにロッドだった。あの時の姿のまま、変わらず、私の前に現れたよ……」

「だとしたら、許せん……裏で糸を引いている黒フードの集団、そして『死霊使い(ネクロマンサー)』……」


 私達の師、デールから聞いた衝撃の事実。私とバルドの同期の桜であったロッドが噂の集団に利用され、害をなそうとしている。私が改めてその事をデールに確認すれば、彼はその表情を曇らせ、起きた顛末を語る……それを聞いたバルドは拳を握り締め、静かに怒りを滾らせているようだ。ああ……わかるぞバルド、君の怒り……私も同じ思いだ!


「ゼルワ、サーサ、ドガ、レイリーアそして『黒狼』の皆、どうやらこの問題は私とバルド、そしてデールにとっても因縁がある事件のようだ」

「おお、どうやらそのようじゃのぅ……」

「……お前と……バルドの……同期、だったか……?」


 私は集った皆に向き直り声をかける。ロッドが利用されていると知った以上無視は出来ない。この件に関わる事を決めたその旨を伝えておかなくては。私の言葉に頷くドガ、確認するように呟くデュアードに、私は首肯でもって答えた。


「俺とアイギスはこの件の解決に向けて動きたい。協力してくれるか?」

「へぇ~『黒狼』とチーム組んでのミッションって訳ね! アタシは賛成よ? 不謹慎かもしれないけど楽しそうだもの!」

「俺も賛成! 憧れのアイギスさんと一緒できるなんてサイコーじゃねぇかよ!」


 バルドが協力を願えばレイリーアとブレイド少年がすかさず賛成してくれる、確かに一緒のチームとして活動する……という事は今までしてこなかったかもしれないな。これを期にもっとお互いパーティーという枠を越えて交流しようか。


「……ぶっちゃけていいでっす? ねぇ~みなさぁん?」


 私達『白銀』も、バルド達の『黒狼』の面々も初となるチーム活動に盛り上がっているところ、水を差すかのようにアリス殿が口を開いてきた。


「アリス、空気読んでよ? それって今言わないといけないこと?」

「じゃあ伝えるの止めときますかぁ? アリスはどっちでもいいでっす」


 アリス殿が言わんとしていることを察したのか、アリサ様は止めようとしている。なんだろうか? そこまで思わせ振りにされると逆に気になってしまうのだが?


「いえ、アリサお姉さま。しっかり話しておきましょう。中途半端が一番よくありません」

「な、なんだよ!? アリサもアリスもアルティレーネ様まで……アタイ達に何か問題があるのか?」


 暫し瞑目し私達の話に耳を傾けていたアルティレーネ様も、椅子から立ち上がりアリサ様に声をかけた後、私達を見回した。そのただならぬ雰囲気に身が引き締まる思いだ、セラはその空気を感じ取ったのだろう、はっきり伝えてもらいたいようだ。


「わからぬのか……御主等童共では足手まといだと言いたいのじゃよ。あぁ、因みにそこな聖魔霊夫婦にカインもじゃぞ? 妾としては『四神』共もそうじゃが、未熟も未熟よの?」


 ……なにも……言い返せない。総て珠実殿の言う通りすぎて。思い返せば今回の氾濫(スタンピート)も結局『聖域』の皆さんに助けられてばかりだったのだ。


「私達が未熟なのは私達自身が一番わかってるよ! だからみんなで強くなるんだって決めたんだもん! 私達も『聖域』に渡ってもっともっと強くなって、アリサ様やアルティレーネ様、『聖域』から来てくれたみんなから受けた恩を返すんだもん! その意志を、想いを足手まといなんて言葉で片付けないで!!」


 っ!! ミスト……重苦しい空気に静まり返った執務室に、ミストの悲痛な叫びが木霊した。彼女は珠実殿の両肩を掴み、私達の心を、想いを必死に代弁してくれている。そんな彼女の姿に私達はとても大きな勇気をもらえた!


「見事ですミストさん。珠実様。確かに貴女達『懐刀』や女神様達から見れば、僕達はとても弱々しい存在かもしれません」

「うむ……なれど想いや、心、その意志は決して引けを取らぬものよ!」


 カイン殿もバルガス殿も、私達と同じ想いなのだろう。その瞳には大きな闘志が宿っているのがわかる。そうだ、それは彼等だけではない、私も、私達『白銀』も、バルド達『黒狼』も皆同じ想いを抱いている!


「ふふ、良き哉良き哉♪ 少女よ、よくぞ吼えた! ここで呑まれるようであれば間違う(まごう)ことなく主等を見捨てておったところよ……」

「でっすねぇ……まぁ、自覚があるのはわっかりまっしたでっすけども……っと、アルティレーネ様?」

「心意気は見事です。それでは貴方達に一つ試練を与えましょう」


 私達の想いを察したのだろう、珠実殿は愉快そうに笑う。どうやら我々の覚悟を確かめる為に、敢えて憎まれ役をかって出たのだろう。そんなやり取りを見ていたアリス殿も納得してくれたようだ、そしてアルティレーネ様が厳しい表情で私達に試練を言い渡す。


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【妹が課す試練】~大丈夫かな?~《アリサview》

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「アイギスさん達『白銀』並びに、バルドさん達『黒狼』……それから、ガウスさんとムラーヴェさん」

「「「「はっ! アルティレーネ様!」」」」


 アルティレーネの真剣な表情で気持ちが引き締まったのだろうか? 『白銀』達、『黒狼』達、ガウスとムラーヴェが一斉にアルティレーネに向き直り、アイギス、バルドくん、ガウスとムラーヴェが揃って声をあげて応える。


「貴方達は互いに協力しあい、私達の助けを借りず自力で『聖域』に、『世界樹(ユグドラシル)』まで辿り着きなさい。誰一人欠けてもいけませんよ?」


 おお、そう来たか……アイギス達『白銀』だけならそんなに難しくはないだろう。しかし、『黒狼』とガウスにムラーヴェははっきり言って危ない。氾濫(スタンピート)決戦の時のように私の強化魔法(バフ)による支援は受けられないのだから。


「上等だよ! アルティレーネ様、アタイ達を見くびらないでくれよな!」

「……セラの、言う通り……必ず、俺達を……貴女達女神に……認めさせる……っ!」

「っしゃあっっ!! やるぜ俺は! アリサ姉ちゃん『聖域』着いたら剣聖剣技教えてくれよな!」


 燃えてるねぇ~セラちゃん。ほっぺにクリームつけたままだけど。デュアードくんも静かに滾らせているみたい、物静かな印象だけど実は結構な熱血漢なのかな? で、ブレイドくん。大丈夫かねチミィ? 勢いだけで辿り着けるような甘い場所じゃないぞ『聖域』は?


「了解しました! このガウス。レーネ様にお仕えしたいその覚悟を示してご覧にいれます!」

「覚悟か、そうだな。『白銀』と『黒狼』の皆さんとしっかり協力して進まねば!」


 そしてガウスとムラーヴェ。やれやれ、大丈夫かね? 特にガウスは熱が入っているのが気になる、勇み足で転びそう。その辺、一見冷静そうに見えるムラーヴェがフォローしてくれるかな?


「そして、バルガスさん、ネヴュラさん。私の護衛を自称するならばせめて、『四神』に打ち勝てる程の力をつけなさい」

「っ!! 『四神』に!? 畏まりました、全霊をもって!」

「……全力を賭して!」


 バルガス夫婦にはこれまた中々に厳しい目標を出すアルティレーネだ。ネヴュラとバルガスはその言葉を重く受け止め、力強く頷く。確かに……女神の護衛って言うなら、それこそ『懐刀』レベルか? 「せめて」っていうアルティレーネの言葉はまだまだ優しいのかもしれないね。


「……カインはそもそも戦闘に向いてないのよねアルティ?」

「そうですね……アリサお姉さま、何かお考えがあるのですか?」

「いや、そもそもさ……カインは私達が街に着いたら『聖域』に戻すってのが、当初の予定だったじゃん?」


 アルティレーネが皆の返事に満足そうに頷いた後、カインを見たのでちょい口を挟む。そうなんだよね、カインが私達と一緒に街に入りたそうにしてたから予定を変更して、『聖域』に戻らずに今回の戦いに参加してもらったのだ。しかも、北側の防衛では大怪我を負いながら必死にあのでっかいのを食い止めようとしてくれた。


「カインにはもっと別のことしてもらいたいなぁ、私に預けてくれない?」


 これはまだ『勘』の域を出ないんだけど、カインにはなんかこう~色んな可能性を感じるんだよね。暫く私についてもらって何かと試してもらいたい。


「そうですか……わかりました。アリサお姉さまにお任せします。ですがあまり甘やかしちゃ駄目ですよ? 甘やかすなら私達おほんっ! カインいいですね?」

「あはは……了解しました! アリサ様、よろしくお願いします!」


 今自分達を甘やかせって言おうとしたね? ふふ、まったくしょうのない子だこと♪


「うん、これから色々と忙しくなるからね。カインが手伝ってくれるなら助かるよ!」


 いやホント……マジに忙しくなりそうなんだよね。そのためにもカインには何かと頑張ってもらおう!


「アリスはアリスで自身も『懐刀』も『四神』も……み~んな引っ括めて鍛え直さないといっけにゃーでっす……むふぉぉ~やりまっすよぉ……マスターが安心して任せてくれるよーに!」


 アリスはアリスでやる気に満ち溢れてる。冷静に考えると、この子もまだ『聖霊』として生まれたばかりなんだよね……『懐刀』すら凌駕するほどの力を持っていても、長い歴史の『聖域』の意志を持っているとしても、だ。


「いい子ね、アリス。これからも頼りにしてるからね?」

「はっはうぅっ! ま、マスター!? ああ、そ、そんなに優しく撫でて……ど、どうしたんでっす? アリス、アリス……嬉しすぎて爆発しちゃいまっすよぉぉ?」


 撫で撫で♪ ふふ、なんだかそう考えるとアリスが凄く愛しく見えてきたんだよね。いつも何かとブッ飛んだ言動する子だけど、アリスも私の大切な『家族』だ。今回も沢山頑張ったし、甘やかしてあげてもいいだろう。


「……大体はまとまったみてぇだな。アリサの嬢ちゃん、アルティレーネ様?」


 そんな光景を微笑ましく見守っていたゼオンが口を開いた。


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【下心は強い】~『想い』を探して~《アリサview》

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「しかし……本気で行くのかいガウス、ムラーヴェ?」

「無論よ! 俺は今後死ぬまで、否! 死んでもレーネ様にお仕えし続けるのだ!」

「嘘つけ馬鹿者め。『聖域』の美しい女性とお近づきになりたいからだろうが?」

「然り! それも否定せんっ!」


 デールのおっさんがガウスに、本気で『聖域』に行く気なのかと聞けば、それはもう見事な忠誠心を感じる答えが返ってくる。ちょっと感心したんだけど、ムラーヴェがすかさず突っ込んだ言葉に速効で呆れ果てた。ある意味、もう清々しいわ……下心丸出しで『聖域』なんて言う危険な場所に来るつもりだとか……


「そう言う貴様とて同じなのだろうが!?」

「応よ! 貴様だけにいい思いはさせんぞ!」


 お前もかムラーヴェ! ……コイツら馬鹿者が過ぎるんじゃありませんかねぇ?


「何か、済まんなアリサの嬢ちゃん……迷惑かけるようなら遠慮なく叩き出してくれていいからな?」

「あはは……まぁ、妖精達と暫く過ごしてもらって。ゆっくり役割見つけてもらおうって思ってるよ」


 まぁ、それもこれも彼等が無事に『聖域』に辿り着けたらの話だ。さっきも言ったけど、アイギス達が一緒とはいえ、彼等には脅威となる魔物が多数生息してるからね。健闘を祈っているけど、命の危険を感じたら無理せずリタイアしてほしい。命大事にだよ。


「なんですなんでっす~二人ともお嫁さんでも探してんでっす~? そいですと、妖精達にあぷろっちしたらいいんじゃねぇでっすかね? なかなかにべっぴんさん揃いでっせぇ~ウヒヒ♪」

「アリスさん、とてもお下品ですよおやめなさい。でも、確かに妖精達には女性が多く、その見た目も麗しい者が多いですね」


 ガウスとムラーヴェの『聖域』に来る動機を聞いたアリスが、これまたいやらしい笑みを浮かべて、アルティレーネに注意されている。


「聞いたかムラーヴェ! これはいてもたってもいられんな!」

「応応! ささっ! 『白銀』に『黒狼』の皆さん! いつ出発しますか!?」


 やれやれ……ガウスもムラーヴェもはしゃいじゃって~しょうがないんだから! 鼻息荒く詰め寄って来る二人にアイギスもバルドくんもたじたじだ。


「落ち着け二人とも。逸る気持ちはわかるが!?」

「ああ、少なくとも俺達はこの祭りが無事に終わるまでは、例の連中を警戒するために街にいるぞ」


 アイギスは二人を宥めて落ち着かせようと、バルドくんはこの祝祭が終わるまでは警戒は解かないでいる構えみたい。確かに、騒ぎを起こすならお祭りで賑わっている今は絶好のタイミングだと思う……もしかしたらこの祭りが誘いだって知ってるのかな? 何にせよ油断はできないね。


「そーいやゼオン、エミルの奴はどうしたんだい? あれこれ小難しい事考えるのはアイツの仕事だろ?」

「あぁ、エミルはゲキテウスとエルハダージャの隊長達に、今回の氾濫(スタンピート)の説明がてら祭りを楽しんでるとこだぜ? で、『聖域』に出発するのは、俺も業務の引き継ぎとかあるし、祭りが終わった後がいいんだが……」


 私が黒フード達の動向について考えていると、セラちゃんが姿の見えないエミルくんの行方をゼオンに尋ねた。どうやら彼は救援に駆け付けてくれたお隣さんの隊長さんと一緒にお祭りを見て回っているみたいだ。うん、ケーキ残しておいてあげよう。

 このお祭りは、今日、明日、明後日と前夜祭、本祭、後夜祭の三日間行われる予定だそうだ。まぁ、本当に長い年月苦しめられてきた一番の問題が解決したのだから、そのお祝いも盛大なものになるのは無理もない。


「ええ、わかりました。それでは私達もこの祝祭を楽しみつつ、例の黒フードの連中の動向を探るとしましょう」


 アルティレーネがゼオンの言葉に頷き、お祭りの間黒フード達を探す事になった。ふむ、それなら私はオプションを操作して、人質にとられていた件の妻子達が監禁されていたあの一軒家をくまなく捜索してみようか……?


「アリサ様。一つお願いがあるのですが……」

「うん? どったのアイギス?」


 黒フード達の足掛かりを探すなら、何処を……って考えていた私にアイギスが声をかけてきた。真剣な表情だ、何か思うところがあるのかな?


「一度ロッドの……私達の同期の墓を見ては頂けませんか?」

「おお、アイギスそいつはいい判断だな! アリサ様なら『セリアルティ王城跡地』の時みたいに死者の『想い』を感じ取れるかもしれねぇ!」


 おぉ、そう言うことか……『死霊使い(ネクロマンサー)』の仕業であろう、街に現れた『死人』は三人。内一人はアイギスとバルドくんの同期の子って話だった。もし、彼等に話を聞けるならそれは大きな手掛かりになりそうだ。


「わかった。それなら早速行こうか? 案内してくれる?」

「はい! 宜しくお願いしますアリサ様!」


 そうして私達はアイギス達の案内で、セリアベールの墓地へと足を向ける事になった。


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【静かな墓地】~怖がるSランク~《アルティレーネview》

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「うぅ……な、何もこんな夜中じゃなくてもいいんじゃないかぁ?」

「はうぅぅ~怖いよぉ……ブレイドぉ~絶対、絶対! 手離さないでね!?」

「セラもミストも無理についてこなくてよかったんだぞ?」

「わかったわかったってミスト、そんな強く握らなくても離さねぇから! ちょっといてぇよ」


 うふふ、可愛らしいですね。アイギスさんの提案でセリアベールの墓地に赴いた私達。アリサお姉さまの権能で、利用された三人の死者から黒フード達の情報を得られるかもしれない。その一縷の望みのため、薄暗い森を歩いています。

 街には光石による色とりどりの明かりが、この夜の帳が落ちた時間でも煌めいていて、祭りの賑やかさが伝わってくるようです。


「情けない……天下のSランク……」

「道はしっかり整備してるが、灯りはなぁ~あんまやると落ち着いて眠れねぇだろう?」


 デュアードさんが怖がってバルドさんにしがみつくセラさんと、ブレイドさんの手をぎゅうって握るミストさんを見てはあきれたように呟きます。私には何が怖いのか理解できませんが……ふふ、可愛いので何も言わずに見守りましょう。そしてユグライアの言うことはもっともです。死者達はゆっくりと静かに、フォレアの『終焉』の祝福を得て、私の『生誕』の祝福を待つ者達なのです。いたずらにその眠りを妨げてはいけません。


お嬢さん(フロイライン)本当に……彼と、ロッドと話が出来るのかい?」

「どうかな……こればっかりは、「できる」って断言はできないよ。私は残された『想い』に少し呼び掛けてあげるだけだもん」

「セリアルティの騎士達のように強い『想い』をロッドが残していてくれているなら、或いは……」

「いずれにせよ、行ってみればわかる……」


 デールさんは少し狼狽えているようですね……かつての愛弟子にもう一度会えるかもしれない。もしそうなら、どんな顔をして会えばいいかわからずにいるのかもしれませんね。ビット達のように強い『想い』を残しているのは稀かもしれませんが、アイギスさん、バルドさん希望を持ちましょう。


「着いたぜ。ここがセリアベールの勇士達の眠る墓だ。まぁ、冒険者が大半だけどな……件のロッド少年も流浪の踊り子のエミリアも、前回の氾濫(スタンピート)で命を落として、今回『死人』になって現れたっていう冒険者エイブンもここに眠ってる」


 ユグライアが立ち止まり、その墓地の入り口の看板を私達に見えるようにして説明してくれます。どうやら、勇士とは身寄りがない者達で、セリアベールのために貢献した者達の事を指すようですね。ムラーヴェさんがエミリアと言う踊り子に、ガウスさんがエイブンと言う冒険者にそれぞれ会ったと言いますし……たとえ『想い』が残っていなくても、黒フード達の痕跡でも残っていれば……


「……ん。感じる、微かにだけど三つ……」

「本当ですかアリサ様~じゃあ、早速行ってみましょう!」

「待ちなさいミュンルーカ。アリサ様、その三つの反応はどちらからでしょうか?」


 どうやらアリサお姉さまが残された『想い』を見つけたみたいですね。逸るミュンルーカさんをシェリーさんがひき止めて、アリサお姉さまにその反応がある場所を確認しています。


「んっと、一つはそこのお墓で、も一つがちょいその先……あ、あのお墓だね、で、最後の一つがあの奥のお墓だよ」

「ビンゴ……手前のがエミリアの墓だぜ……その先はエイブンのだな」

「奥のは……アイギス、貴方の同期、ロッドさんのお墓ですよ?」

「……ああ、少し、緊張するな」

「俺もだ……」「私もだよ……」


 アリサお姉さまが指差すその三つのお墓は、正にお話に出ていた踊り子の方と、冒険者の方……アイギスさんの同期だった少年のもののようですね。ゼルワさんとサーサさんの言葉に、身を引き締めるお三方、アイギスさんとバルドさんとデールさんです。


「……うん。嫌な気配とかは感じないしそんなに身構えなくても大丈夫だよ。寧ろ優しい感じがするね」

「アリサ様や、映像通信(ライブモニター)で、『聖域』の女神達も一緒に話を聞いてもらうと良いのではないかの? 妾達では気付かぬところもあるやも知れぬ故な」


 珠実がアリサお姉さまの袖をくいくいって引っ張りそう提案します。端から見ると姉におねだりする可愛い妹のようでちょっと頬が弛んでしまったのは内緒です♪ それはそうとティリア姉様に妹達と情報を共有しておくのはいい考えです。


「そうだね……どうせだしミーナとユニを召喚して一緒にお祭り見て回ろうかな♪」


 そう言って楽しそうに映像通信(ライブモニター)を展開させるアリサお姉さまでした。さて、『死霊使い(ネクロマンサー)』に利用されたとおぼしき三名から有意義な情報は得られるでしょうか?

アイギス「バルド達『黒狼』とパーティーぐるみの共同戦線か、何気に初となるか(´・ω・`)?」

バルド「ふふ、個人個人で組んだりすることはあっても、全員揃って……と言うのは確かに初めてかもしれんな( ゜ー゜)」

セラ「アタイは結構レイリーアと組んだり、サーサと組んだりしてたけどなヽ(*´∀`)ノ」

サーサ「確かに……私とレイリーア、セラとシェリーとは女同士つるんだりしてました(´・∀・`)」

レイリーア「そうねぇ~後ろから援護しつつ、セラがピョコピョコ跳ねる姿見て、可愛いなぁ~って思ってたわ(’-’*)♪」

シェリー「間違えて貴女に魔法当てないよう気を付けていたのよ( `Å´)?」

セラ「ははは(* ̄∇ ̄*)動き回るスタイルだかんなぁ~アタイは(^o^;)」

デュアード「俺は……ドガと、ゼルワ……ああ、アイギスともたまに組んだ……(・-・ )」

ドガ「儂はギドやらファムの手伝いしたり、バルドやデュアードの手伝いしたりじゃなぁ(*´ー`*)」

ミュンルーカ「あー……ワタシが教会でお手伝いしてるときに連れてかれた時ですか( ̄▽ ̄;)」

ゼルワ「へぇ~なんだかんだで皆結構一緒してんだな(・_・?)」

ブレイド「俺とミストはゼルワ兄ちゃんと狩りに出たり、街で遊んだりしてたぜ(ノ^∇^)ノ」

ミスト「うん、楽しかったね~おにごっこ(≧ω≦。)」

アリサ「へぇ~冒険者同士で仲良いんだねぇ( ´ー`)ムラーヴェとガウスは(-ω- ?)」

ムラーヴェ&ガウス「「仕事に明け暮れる毎日でした(。・`з・)ノ」」

アリサ「おう……(-_-;)お疲れ様です(^_^;)」

アルティレーネ「冒険者が如何に自由かがよくわかるお話ですね(^-^;」

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