表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
53/211

52話 魔女と魔王の影

────────────────────────────

【身内の敵】~狐の少女~《ゼオンview》

────────────────────────────


「……嫌だなぁ、そういうの。……あんた達に悪意を持った反応をマーキングしたマップを送るわ。私達はそういう人間の問題には関わらないから、この件に関してこれ以上の手助けはしない、きっちり解決しなさいよ?」


 ブゥンッ……アリサの嬢ちゃんはそう言うと、一枚の地図が写し出された映像を残して俺達との通信を切った。魔王との戦いに集中するんだろう。写し出されたその地図を見てみれば、俺達……俺とエミルがその地図上に青い点で示され、悪意を持った赤い点が二つ。この執務室に近付いて来ているのがわかる。


「ふふ、「関わらない」と仰ってもこうして情報と地図までお与え下さる……お優しい方ですねアリサ様は……ねぇゼオンさん?」

「ははっ! 全くだぜ。こいつがありゃぁ、事前に襲撃なんざ察知できちまうじゃねぇか?」


 ははは、まったく、マジで有り難いのなんの……覚悟している事とはいえ、やっぱ命を狙われるってのはかなりのストレスだからな……この悪意持った奴が示される地図はガチに助かる!


「よし、エミル。コイツらが何処の誰の手先か探るためにも隠れんぞ?」

「そうですね、部屋に誰もいないのを見て、毒づいて何かしらヒントを出すかもしれませんし……」


 俺。冒険者ギルドマスターの執務室には、マスターとサブマスターにしか知られていない隠し部屋ってのがあんのよ。取り敢えずまー、そこに隠れて刺客の面でも拝んでやろうじゃねぇの。


「ふむ、おもてが割れればその先の調査も捗ると言うものよ。童や、オヌシ顔に似合わず考えが回るようじゃのぅ?」

「「っ!?」」


 突然の背後からの声に、俺とエミルは直ぐ様跳び退き剣を抜く! 何だ!? この少女は一体何処から侵入しやがった!?


「かかかっ! 良き良き。声をあげぬは手練れとる証拠。

 童達よ安心せい。妾は『聖域』を守護せし女神の『懐刀』の一人。『九尾』こと珠実じゃ。守護神たるアリサ様たっての頼み故な、オヌシ等を助けに参った」


 なんだって? 突然俺達の背後に現れたこの狐耳にその九本の尾を持つ少女は、呆気に取られる俺達を見て愉快そうに笑っている。『九尾』……その存在はお伽噺『魔神戦争』にも登場する有名な奴だ。物語の最後を締め括るのは、なんせこの『九尾』の嘆きだからな。


「なんじゃ? そのようなことまで伝わっておるのか? こっぱずかしいのぅ~その一節は忘れてたもれ?」

「なっ!? お前、心が読めるのか!?」

「お、驚きました……まさか伝承が本当だったなんて……」


 恥ずかしそうに頬を掻く『九尾』の言葉に、俺とエミルは戦慄を覚えた。エミルの言う通り、伝承……『魔神戦争』には『九尾』は心を読むとあり、それが通じぬは魔神や女神達のみであったと言う。


「よいよい。今はここで議論しとる暇はないじゃろうて、どれ、先ずはオヌシ等の憂いを一つ晴らし、戦いの指揮に専念してもらうとしようかの? ホレ!」


 珠実と名乗る『九尾』の少女がその手に魔力をこめ、顔の近くでくるくると回すと……


「うわぁぁっ!?」「なんだこれはっ!?」


 廊下で二つの叫び声が聞こえてきた。俺とエミルは思わず執務室の扉に目を向ける。すると、勢いよくその扉が開き、魔力の帯によって身動きを封じられた二人のギルド職員が転がり込んで来たじゃねぇか!?


「お前らは、ネハグラにジャデーク!」

「そうですか、貴方達が……」


 見ればその二人は片や解体班のネハグラと、鑑定班のジャデークだ。成る程、コイツら二人は元々余所者……数年前にこのセリアベールにやって来た奴等だ。職員として採用する際の面接でも、その後の仕事ぶりから見ても結構真面目な奴等と思っていたんだが……


「「……っ!」」


 二人は俺達を見ると、作戦失敗を悟ったのだろう。何も言わず、悔しそうに俯いた。


「さて、童達。思うところはあるじゃろうが、後にせよ。今は外で懸命に戦っておる者達を導く事が先決じゃ……見よ、あの目玉が召喚した魔物達にだいぶ苦戦を強いられておる!」

「ちぃっ! 仕方ねぇ! エミル切り替えろ! コイツ等の処遇は後だ!」

「はい! ゼオンさん鼓舞を! 冒険者達の士気が落ちてしまっています!」


 珠実……様の言葉に俺とエミルは即座に気持ちを切り替える。見れば四方の戦況がだいぶ劣勢に追い込まれてしまっているのだ! 冒険者達の士気は落ち、絶望が広がろうとしている!


「ふむ、妾も力となろう。下に待機しとる僧侶共も借りてゆくぞ?」

「うむうむ、妾は南に赴こう。アリスの尻拭いをせねばならん」

「ならば妾は西じゃ、脳が筋肉でできとるアホウ共に知恵を授けねばな」

「かかかっ! しからば妾は東と行こう。爽矢にゼーロがおれば安心じゃとは思うがの?」

「やれやれ、妾は北か……あの巨獣が相手ではちと骨が折れるやも知れんが……」


 はぁっ!? いやいや! どーいうことだってばよ!? 珠実様が一気に五人に増えたぞ!?


「へ……『並列存在』!? ゼオンさん見てください、中央の珠実様の尾が一本に対して、他四人の珠実様は二本です!」

「はぁぁぁーっ!? マジかよ! じゃあもしかしてその気になりゃ九人になれんのか!?」

「ほう~そこなエルフは察しがいいのぅ♪ 如何にもその通りじゃ。しかと敬うのじゃぞ?」


 へへぇ~!! コイツはすげぇ助っ人が来てくれたもんだぜ! よっしゃ! 早速『僧侶(クレリック)隊』に連絡して各方面に檄を飛ばすとするか!!


────────────────────────────

【報告】~死霊使い(ネクロマンサー)~《エミルview》

────────────────────────────


「ほう……『死人』とな?」

「はい、間違い御座いません……私が追っていた火事場泥棒とおぼしき者は……かつて私が師事していたロッドと言う少年でした……」


 珠実様が『並列存在』を駆使して。冒険者達と『聖域組』が奮戦し、そして……魔王との決着を着けたアリサ様の御尽力により、各戦場が落ち着きを取り戻してきました。

 今は魔物の残党を駆逐しているところのようで、その指揮を『黒狼』の皆さんがとられています。アリサ様は置いてきてしまった『白銀』達と、アルティレーネ様を向かえに『悲涙の洞窟』まで『転移(ワープ)』で一度お戻りになられました。なんせ『転移(ワープ)』での移動なのでほんの一瞬でしょう。

 アリス様達以外の『聖域組』の皆さんですが。『四神』様と、ガルーダナンバーズと呼ばれた方達は颯爽と『聖域』へと帰って行きました。とてもお世話になりましたし……後ほど改めて『聖域』に出向き、御礼申し上げねばなりませんね。

 そしてアリス様、カインさん、バルガスさん、ネヴュラさんは、アリサ様の『祝福の聖雨(ブレスレイン)』のおかげもあり、重症だった傷も癒え、今我々と共におります。


「ふむ、デール。貴様の方もそうだったか。実は俺達が追っていた曲者も『死人』だった。あれは前回の『氾濫(スタンピート)』で亡くなった冒険者だな……」

「俺達が追っていたのはまさかのエミリアだぞ!? 正直胸糞悪い……すげぇ青白い顔して無表情でな……皆が戸惑ってるうちに霞みのように消えてしまった」


 そして、ゼオンさんの執務室。今回の事件の重要参考人である、ネハグラとジャデークを珠実様が魔法で深い眠りにつかせておき、火事場泥棒を追っていたデールさんと、ガウス、ムラーヴェの報告を聞いているところです。話を聞く限り、三方共に『死人』と出会ったと……

 デールさんの出会ったと言う「ロッド」とは、アイギスさんとバルドさんの同期だった少年ですね。心優しい彼は師であるデールさんに日頃お世話になっているお礼にと感謝の気持ちを込めた贈り物を作るため、一人で素材を集めているところを魔物達に襲われ命を落としたのです。それ以来、デールさんは新人の育成に力を入れるようになりました……

 ムラーヴェが言う「エミリア」とは、二~三年前にこのセリアベールにやってきた流浪の踊り子でした。その身一つ、芸一つで世界を旅する孤高の踊り子でありながら、その実力は冒険者のAランクにも及んだ、各地でも有名な方でした。残念ながら彼女も『氾濫(スタンピート)』によりその命を落としています。


「……解せねぇな、それならなんで俺達を『死人』に狙わせねぇんだ?」

「おそらくこの二人は「使い捨て」なのでしょう。家族でも人質にとられているか……何者かに操られているか……」


 ゼオンさんの疑問に僕達は揃って、深い眠りについている襲撃者二人に目を向けます。詳しい事情を聞きたいところではありますが、事が事です。ネヴュラさんが仰ったように彼等が本当に「使い捨て」なのであれば、情報を話そうとしたら、何らかの呪いのようなもので殺される可能性があるのです。


「ふむぅ、珠実様の御力でなんとかできませぬか?」

「うぅむ……妾もそれなりに器用な方であると自負しておるが……」


 バルガスさんが珠実様に問い掛けますが、珠実様もまた難しいお顔をされていらっしゃいます。何せ彼等は貴重な情報源。下手を打てば僕達は何の情報も得られず、今後後手に回ってしまう事になるのは必定です、慎重にならざるをえないのでしょう。


「それにしても……『死人』ですか、『死霊使い(ネクロマンサー)』がまだこの時代に存在していたのですね」

「ん? エミルん。今の時代って『死霊使い(ネクロマンサー)』っていねぇのでっす?」


 エミルんって……僕の何気ない一言に反応したアリス様が、不思議そうなお顔をされ首をかしげ聞いてきました。


「あぁ、アリス様。『死霊使い(ネクロマンサー)』は、『終焉』の女神フォレアルーネ様のご意志に逆らう者であるとして、禁忌職と全世界で指定されているのですよ」

「然り。世界は女神様が定めた『生誕』『調和』『終焉』の循環にて成り立つとされ。『死霊使い(ネクロマンサー)』はその循環を乱すとされています」


 おっと、僕の代わりに返答してくれたのはガウスとムラーヴェの二人。彼等が言うように『死霊使い(ネクロマンサー)』とは、いたずらに死者を使役し己の利を掴もうとする者達である。そう言うイメージですね。


「変ですねぇ……僕の記憶では、死者を尊び、敬意を持って助力をしてもらい。感謝を込めてお礼と共に還ってもらうっていう、それはそれは尊い神聖な職業だと聞いていましたけど?」

「どこぞで歪んじまったんじゃねぇのでっすぅ? 女神様達が封じられた後の歴史で何かとあったんでっしゃろ~?」


 その説明にカインさんは首をかしげ、アリス様は考察を巡らせます。ですが直ぐにそれを止めて……


「ま、そんなことどうでもいいんでっすよ。アリス達は世界の住人達の問題には関わりませんからね、争いたければ勝手にどうぞ~ただし、世界をぶっ壊そうとか抜かす連中には全力でぶっころがしにいきまっすよぉ~?」


 ええ、僕達は今回のこの戦いで『聖域』の皆様がそう言うスタイルを通す理由がよくわかりました。『聖域』に住まう皆様と僕達では、あまりにも隔絶した差があります。仮に戦があったとして、『聖域』の皆様のお力を借りることが出来たのなら? それはもう、その時点で勝敗が決してしまうのです。それはもう戦ですらありません。


────────────────────────────

【魔王の影】~ディードバウアー~《アルティレーネview》

────────────────────────────


「争う事もまた、この世界に住まう者達の営み。それを私達は否定しません。私達、神が恐れるのは『停滞』と世界そのものの破壊なのですよ」


 ちょっとユグライア達を驚かせてやろうかなって、いたずらを仕掛けようとコッソリと冒険者ギルドの執務室の扉の前まで来ていた私達。ですがどうにも気になるお話をしているようで、暫く聞き耳を立てていたのです。


「「アルティレーネ様!」」

「「お帰りなさいませ。アルティレーネ様」」


 そっと入室した私達に気付いたユグライアと、エミルさんが椅子から勢いよく立ち上がり、バルガスさんとネヴュラさんは恭しく綺麗なお辞儀をして出迎えてくれました。


「やれやれ、ノックもせんと躾がなっておらぬのではないかのぅ女神よ? おおかた妾達を驚かそうとでも企んだのじゃろう?」

「あらっ! ふふふ、珠実は鋭いですね♪」


 うふふ、流石に珠実は私の意図に気付いたようですね。伊達に長い(永い)付き合いではありませんから仕方ありません。ですけれど仕掛人は私だけではないのですよ?


「む? アリサ様は一緒では、っふにゃぁぁ!?」

「い・る・よぉぉ~♪ たまみぃ~♪」


 ワシワシワシ! なでなでなで~ふわふわふわ~! と、まぁ~完全隠蔽したアリサお姉さまが実はそそそと、珠実の側に近寄っていたのです。不意を突いたアリサお姉さまはもう無遠慮に珠実の事をひたすらに撫で回します。


「はわわぁ~ああぁぁ~だ、駄目じゃぁ~こ、こんな! こんなの耐えられぬぅぅ~ふにゃぁ~♪」

「むっふぅ~♪ 頑張ってくれたご褒美だよ珠実。ありがとね!」

「アリサの嬢ちゃん!」「「アリサ様っ!」」「マスタぁっ!?」

「「お帰りお待ち申しておりました! アリサ様!」」


 はわわ……へろへろ~もう無理じゃあぁ~と、とてもお見せできないような顔になっている珠実をよそに、皆さんも突然現れたアリサお姉さまに大変驚かれた様子です。ふふふ、大成功ですね!


「え、いやその……待ってくれ。理解が追い付かないのだが……レーネ様を今なんと呼んだのだ?」

「おや、ガウス、君もかい? どうやら私の空耳ではなかったようだね?」

「説明を求めたいのだが? 話してもらえるだろうなゼオン?」


 あら! そうでした、ここでは、私……「レーネ」なんでしたね? ガウスさんとデールさん、ムラーヴェさんが別の意味で驚いた様子です。まぁ、でも、もうすでに結構な人達に私が女神だとバレているようですけれど……


「あ、ああ……? あれ? お前達アリサ嬢ちゃんの映像通信(ライブモニター)観てねぇのか? 魔王シェラザードとの闘いの様子も? んじゃしょうがねぇか」


 ユグライアが改めて彼等に私達の事を説明されました。すると三人は畏まった様子で、私達に膝をつき、それぞれに感謝をしてくれました。


「そんなに畏まらなくてもいいよ。それより……ふぅん、この二人がそうなんだ? そしてその背後に『死霊使い(ネクロマンサー)』の存在か……うん。下手に尋問しないで眠らせたのは良い判断だね。流石珠実♪」


 アリサお姉さまが三人を立ち上がらせて、話を戻します。

 珠実の魔法で今も深く眠りについている、ユグライアを狙った二人のギルド職員。お話を聞く限り、とても真面目な方達であるとの事ですが、気になるのは背後にいると言う『死霊使い(ネクロマンサー)』ですね。


「マスター……その二人について何かわかりますかぁ?」

「うん……鑑定と『記憶の断片(メモリーピース)』使って視てみたけど……アルティ」


 アリスさんが二人を見つめるアリサお姉さまに問い掛け、アリサお姉さまが一つ溜め息をつくと、真剣な表情で私に向き直りました。


「ディードバウアーって、知ってる?」

「なんですって!?」


 驚きました……『ディードバウアー』その名は……


「マジか!? 七大魔王の一柱。ディードバウアーかよ!?」


 ユグライアが皆を代表するかのように驚愕の声をあげました。そう、ディードバウアーとはシェラザードと同じように、かつて魔神と共にこの世界に降り立った魔王の一柱。


「……フォレアに話をしなくてはいけませんね。ディードバウアーはかつて『ルーネ・フォレスト』と激しく戦い、滅亡に追いやった魔王です……」


 アーグラスさん達が駆け付けるまで、死に物狂いで防衛した『ルーネ・フォレスト』の兵士達の奮戦空しく、王城は滅ぼされてしまいましたが、民を逃す事は出来たのです。王の末裔、リールさんもこの時代に過ごされている。


「そっか……魔王が関わっているならそれはもう私達の問題でもあるね」


 その通りです。この世界に住まう住人達の問題ならば私達が関わることはありませんが、魔王がその背後にいるなら話は別です。シェラザードと同様、決着を着けなくてはいけません。

 ともあれ、今はもっと詳しい情報が欲しいところです、アリサお姉さまのお話に耳を傾けましょう。


────────────────────────────

【二人の事情】~何故~《アリサview》

────────────────────────────


「やめろ! 妻と子供には手を出すな!」

「あなたっ!」「お父さぁん!」

「……ならば我等の要望を聞くのだな?」

「くっ! お前達は何者なんだ!?」

「我々はこの世界の破滅を望む者……とだけ答えておこう。さて、お前達に一つ仕事をしてもらおう」


 事の始まりはどうやら数ヵ月前に遡るみたいだ。

 まずこの二人。ネハグラとジャデークは血をわけた実の兄弟であり、それぞれに家庭を持ち、仲の良い家族二組み。兄のネハグラ、弟のジャデーク。北西のゲキテウス国のそれなりに裕福な家に産まれ育ち、冒険者ギルドの職員となって職場結婚と、それなりに順風満帆な人生を歩んで来たみたいだね。

 二組の家族はある日このセリアベールが『氾濫(スタンピート)』に悩まされていること、冒険者ギルドの職員が不足していること。様々な事情を知り、自ら望んでやってきたのだと言う。中々に正義感と言うか、生真面目な性格みたいだね。

 ゼオンが面接をして、経験者でもあったため即採用。と言うか、転勤かねぇ? されて、一生懸命働くその姿は同僚達にも評価されるくらいらしい。

 さて、そんな真面目なこの家族。仲も良くて、ある日のお休みに里帰りをしたそうな。うんうん、ご実家に元気な姿を見せに行くのはこっちの世界でも大事な事なんだろうね? 私は家族間冷えきってたから知らんけど。

 事件はその里帰りが済んだ後の、セリアベールまでの帰り道で起きたようだ。『記憶の断片(メモリーピース)』で覗ける相手の姿は真っ黒なフードに身を包んだ、背丈バラバラの集団。皆相当な手練れらしく、二組の家族は抵抗も空しく、その身柄を拘束されてしまう。


「妻や子を思うならば、セリアベールの代表者。ゼオン・ユグライア・セリアルティを殺せ!」

「なんだとっ!? 俺の素性知ってやがるだと!?」


 私の魔法『記憶映像再生(メモリープレイヤー)』で、ネハグラとジャデークの記憶を動画で観てるゼオンがびっくりして声をあげた。


「落ち着いてゼオン。ここからが大事なとこだよ」


 ゼオンの素性を知っているこの黒ずくめの集団。一体何者かは確かに気になるけれど、それよりもっと重要なのがここからだ。


「かつての三神国の末裔を贄に我等が神、ディードバウアー様を復活させる!」

「なっ!? なんだって……!?」


 黒フードが大袈裟な手振りで空を仰ぎ高らかに宣言したその言葉に驚きを隠せないネハグラ。


「かの破壊神がこの腐った世界を滅ぼした後に我等の理想郷を築き上げる……」


 ここで『記憶映像再生(メモリープレイヤー)』が途絶えた。ふむ……アルティレーネの話からもディードバウアーって奴はかつての魔王の一柱らしいし、読み取った情報からまだ復活はしてないみたいだけど。


「…………」


 場が静まる。この事態に驚く者、静かに考えをまとめる者、唖然としている者と。三者三様に反応がわかれている。外からは『氾濫(スタンピート)』に勝利した冒険者達と街の住人達の喧騒が響いている。


「……折角『氾濫(スタンピート)』問題が解決したと、思っていたのですが……」

「はぁ~「三神国の末裔を~」って言ってるくらいだ、エミル。リールとフォーネの嬢ちゃん達を連れて来てくれや?」

「ええ、了解です。彼女達もまた狙われる可能性がありますからね」


 カインが重々しい空気の中、口を開くと、ゼオンが大きく溜め息をついてエミルくんに指示を出す。この黒ずくめの集団に狙われる可能性があるとして、リールとフォーネの二人を呼びに行かせたみたいだね。


「ガウス、ムラーヴェ、デールのおっさん。わかってると思うけどこの事は他言無用よ?」

「はっ! 畏まりましたアリサ様!」

「このガウス、決して他言せぬことレーネ様に誓います」


 仰々しく私の言葉に頭を垂れるガウスとムラーヴェだけど、デールのおっさんはなにやら思案顔で私達に訊ねてきた。


お嬢さん(フロイライン)、アイギスとバルドには一通り話を通しておきたいんだが……『死霊使い(ネクロマンサー)』が呼び出したと思われる『死人』の一人に少なからず因縁があってね……」


 なるほど、そう言うことか。うん、『白銀』と『黒狼』には話しても構わないだろう。

 頷く私を見て、険しい顔を少し弛緩させるデールのおっさんを横目にして、私は今も眠りについている件の二人の側に寄る。


「取り敢えず、事情を直接聞いてみようか。さっきも言ったけど魔王が関わっている以上、私達の問題でもあるんだし……うん、案の定『追跡魔法』がかけられてるね」

「ははぁん……さっきの黒フード達の中にはそれなりの実力者がいるってこってすねぇ?」

「ふむむ……ご家族が人質にとられている以上、そう簡単には話さないでしょう。アリサお姉さま、どうされるのです?」


 まだ制御のおぼつかない『記憶映像再生(メモリープレイヤー)』では、これ以上の情報を得られないと判断した私は二人を起こして直接話を聞くことにする。それで、珠実が危惧したことから、なんらかの魔法が二人にかけられてると思い、じっくり鑑定させてもらった。

 かけられてる魔法は二つ、一つは口に出した『追跡魔法』だ。まぁ、二人を利用しようとしたことからこれは容易に想像できたね。ただ、アリスが言ったように中々に高度な魔法であるので、結構な使い手がバックに控えているみたいだ。そして、アルティレーネが心配しているのがもう一つかけられてる魔法だ。


「まぁ、呪いだよねぇ……」


────────────────────────────

【救出】~まだ見ぬ大陸~《アリサview》

────────────────────────────


 こういう場合大抵、自分達の正体に辿り着けないように、嘘の情報を与えておいたり。情報を漏らそうとしたら、なんらかのペナルティが起きたりとかってのが定番だよねぇ~? んで、この二人もご多分に洩れず、犯人達の情報を他人に話して、助けを求めたりすると発動する呪いがかけられているみたい。


「まぁ~今まで散々見てきた魔神の呪いに比べて、随分可愛いモンだけどね。まずは……『事象擬態(カモフラージュ)』をかけて~『切取り・貼り付け(カット&ペースト)』ほい」


 私は側にあった手頃な椅子二つに『事象擬態(カモフラージュ)』の魔法をかけて、眠っている二人にかけられていた呪いと、『追跡魔法』を切り取り、用意した椅子に貼り付ける。以前使った『コピー&ペースト』の応用だね。


「おぉ、二人からその椅子に呪いと魔法を移し変えたのか。アリサの嬢ちゃんはマジで器用だな!」

「「流石は我等の神!」」「流石アリサ様じゃ!」


 さすアリ~♪ バルガスとネヴュラ。そして珠実が私を絶賛すると、便乗するかのようにアリスと、ガウス、ムラーヴェにカインまでがはしゃぎ出す。だからそれやめんしゃい。


「騒がないで下さい。まだお二人のご家族が囚われたままなのですよ?」

「そうそう、アルティの言う通りよみんな。じゃあ起こすからね?」


 騒ぐみんなをアルティレーネが窘める。そう、本題はここからなのだ。

 私は二人にかけられた珠実の眠りの魔法を解除して、起こしてあげた。


「うぅ、ここは……」

「に、兄さん……俺達は一体……はっ!」


 目を覚まし、現状を把握しようとした二人は私達を目にすると、途端慌て出す。


「……これは……ギルドマスター、説明をお願い出来ますか?」

「ああ、いいぜ。お前達二人が俺を殺そうとしてること、家族が人質にとられていること、呪いと『追跡魔法』がかけられてること、全部話そうじゃねぇか」


 ネハグラが様子を探るようにゼオンに問い掛けるも、既に事態を把握した私達にはそんな小細工は通じない。ズバリ確信を口にしたゼオンに二人の兄弟は一瞬目をまるくして、後に観念したように項垂れた。


「そう、ですか……総て把握されているのですね……」

「無念……許せナターシャ、ネーミャ……」


 この世の終わり。そんな表情で床を見つめる二人。ジャデークがこぼした名前は奥さんと娘さんかな?


「安心したまえよネハグラ、ジャデーク。君達二人の呪いと魔法はそこのお嬢さん(フロイライン)が既に解呪されているからね。後は君達のご家族を救出すれば解決だ」

「なっ! なんだって!? それは本当ですかデールさん!」

「お嬢さんって……あぁ! 解体場に『白銀』と一緒に未知の魔物を持ち込んでいらしたアリサさん!」


 デールのおっさんが二人を励ますように優しく説明してあげると、二人は驚いて私を見る。うんうん、プテランバードとかホーンライガーとかをアイギス達と一緒に解体場に持っていった時、職員さんがみんな驚いてたんだけど、二人はその職員さんの一人だったんだね。

 因みに、アイギス達『白銀』は今、街の冒険者達にまじって残敵の掃討にあたっている最中だったりする。魔物達をちゃんとやっつけておかないと、散り散りになって周辺の村や集落に襲い掛かるかもしれないからね、もう少し頑張ってもらおう。


「まぁ、そう言う事情がある以上ゼオンもお前達を責めたりはせんだろう」

「然り。家族を救出し、情報を得る。その方が余程有意義であるな!」

「ムラーヴェとガウスの言った通りだぜ、ネハグラ、ジャデーク。まずは色々とアリサの嬢ちゃんに話してやってくれや」


 私達の言葉に感動したのか、死中に活を見出だしたのか、二人は涙を流し、深々と謝罪をしつつ状況を話してくれた。と言っても、内容は『記憶映像再生(メモリープレイヤー)』で概ね把握しているので、二人からは大体の場所を教えてもらう。


「祖国ゲキテウスから南下して、港町ハンフィリンクスから定期船でこのユグライア大陸に帰って来たのですが……」

「リージャハルに着いた後の出来事です。俺達は船旅の疲れを癒すため宿を求めました」


 二人の話を聞きつつ、映像通信(ライブモニター)に世界地図を表示させて、ゲキテウス国、ハンフィリンクス、リージャハルと名前があがった都市や街、村をマーキングする。


「ふむむん~ゲキテウスは『聖域』のお隣さんなのねん。更に北に行けばフォレアのルーネ・フォレスト跡地か……」


 こうして、改めてこの世界の地図を見るのは初めてだね……うん。前世でRPGやってるとき世界地図を見て凄いわくわくしたのを思い出すよ。


「いや、すげぇな……これがこの世界かよ……俺達のセリアベールは~おぉ、ここだな!」

「素晴らしいね。この地図はとんでもない価値があるものだよ!」


 嬢ちゃん俺にもくれよ~って子供みたいに駄々こねるゼオンはデールのおっさんに相手させておいて、怪しいのはやっぱりリージャハル周辺かな? 今もオプションを待機させているので、ちょちょいと操作してその映像を別に用意したモニターに映し出す。


「よし、大体の当たりはついたね。人質にとられた家族の名前を教えてくれる?」

「あ、はい! 妻のナターシャに娘のネーミャです」

「妻のファネルリアと娘のシャフィーです」


 あいよ~四人の名前でリージャハル周辺に検索……!! 見つけた! 良かった無事みたい!

 オプションから送られてくる映像通信(ライブモニター)には、リージャハルから少し離れた……これは、孤島だろうか? そこにポツンと佇む小さな家が映し出されている。四人の反応がその家から出ているので、ささっとオプションを操作し、『引き寄せ(アポート)』で救出する。


「うおおっ!? ファネルリア! シャフィー!」

「ナターシャ! ネーミャ!」


 映像を見守っていた二人の悲鳴じみた叫びが執務室に木霊する。大丈夫だよ、慌てないで。

 私は四人が落下しないようにまず『浮遊(フロート)』で浮かせて、次は見つからないように隠蔽魔法をかける、ついでにバリアも張って、オプションをこのセリアベールに戻すように操作する。

 囚われていた四人はどこも怪我とかしていないみたいだね、ちょいっと鑑定もかけてみたけど、酷いことされたりもしてないし、魔法や呪いがかけられたりもしていないようだ。四人とも何が起きたのかわからずにびっくりして固まっちゃってるけど、まぁ、仕方ないか。


「よし、じゃあちょいと迎えに行ってくるよ。直ぐ戻るからちょいと待ってて」


 そうみんなに話して『転移(ワープ)』で四人を運ぶオプション……ユナイトを模したままだったねそういえば。の元に移動して、無事に保護できたよ。さてさて、保護したはいいけど……今後どうしたもんかしらね?

 セリアベールを悩ませていた『氾濫(スタンピート)』が解決したのはいいけど、『無限円環(メビウス)』内のシェラザードのこと。今しがたの『死霊使い(ネクロマンサー)』とその背後に見え隠れする魔王ディードバウアーのこと。そして『聖域』で起きたっていう面白いこと。

 それだけじゃない、セリアルティの復興や、セリアベールへの知識や技術の提供を約束しているし、リールとフォーネを妹達に会わせてあげたり、『白銀』達に加えて、『黒狼』も『聖域』へとやって来るだろう。

 なんだか一気に世界が広がって、やることも沢山できた。色々忙しくなりそうだけど……まぁ、頑張るとしましょうか!

ゼオン「なぁなぁ~アリサの嬢ちゃん~この地図俺にもくれよぅ(´ρ`)」

エミル「ちょっ( *゜A゜)はしたないから止めて下さいゼオンさん( ;゜皿゜)ノシ」

デール「まったく(´~`)いい大人がみっともないよゼオン┐(´∀`)┌」

ゼオン「オメェにだけは言われたくねぇわ! この尻撫デールがぁ(#゜Д゜)ノ」

アリサ「仲良いわねあんた達……(-_-;)」

ガウス「この三人は以前は名を馳せたパーティーですからな(*-ω-)」

ムラーヴェ「色々な意味で有名な連中だったのですよアリサ様( ̄0 ̄;)」

アルティレーネ「うふふ( *´艸`)若かりし頃のユグライアですか、きっとやんちゃな子だったんでしょうね(^∇^)」

アリサ「あ~エミルくんはさぞや苦労したんだろうねぇ(つд;*)」

エミル「わかって頂けますかアリサ様( ;∀;)昔からゼオンさんは好き勝手あっちこっち僕達を振り回して、デールさんは気付くと女性にぶたれてるしで……。・゜゜(ノД`)」

アリサ「あんた達……エミルくんがストレスで禿げる前に落ち着きなさいよ(¬_¬)?」

デール「おやおや、私は落ち着いているとも! あっはっは(゜∀゜ )♪」

ゼオン「どの口が言うんだこの野郎(゜Д゜#)オメェに尻撫でられたっつー苦情何件きてっと思ってんだ(ノ`Д´)ノ彡┻━┻!?」

エミル「ああああ、もう……(x_x)」

アリサ「あらら(-∀-`; )ケンカ始まっちゃったよヽ(;´ω`)ノ」

アルティレーネ「うふふ♪ 今もやんちゃなんですね(*´▽`*)」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ