51話 防衛戦決着【後】
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【勝利するために】~導く~《レイヴンview》
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ワタクシが救援に駆け付けたとき、街の南側の防衛線はかなりの劣勢に陥っていました。その最たる理由があの竜。アースドラゴン!
「くおおっ!! なんの……っ! これしきの……ことで!」
「「デュアード! 済まねぇ、大丈夫か!?」」「「くそっ! なんちゅう固さだよこのトカゲが!」」「「デュアードさんへの強化魔法重ねて!」」
一人の騎士らしき青年がアースドラゴンの攻撃をその盾で受け止める。大したものですね、あの巨体の攻撃を受けきれるとは! 彼を中心に、アースドラゴンに攻める冒険者達なれど、如何せん火力が不足している様子。他の魔物の相手もしなくてはならず、攻めあぐねておるようですね。
《駆け付けてみたものの……困りましたね。ワタクシではあの竜の守りを突破出来ません》
かつての『懐刀』にも迫ろうと言わんくらいの難敵であるアースドラゴンには、悔しいですがワタクシの攻撃では傷は付けられても、決定打に欠けてしまう。
《と、するならば……やはりアリス様が『四神』を召喚するまで、何としても皆を耐えさせておくこと》
アースドラゴンを上手く引き付け、彼等冒険者達を『見通す瞳』まで導かなくては!
《ならば! 『穿つ氷焔』!》
「グオオオォォーッ!!」
よし! ワタクシに注意が向きましたね、さぁ、『四神』が来てくれるまで時間を稼ぐとしましょうか!
「「おお! 増援か!」」「「ありがてぇ!」」「「このまま一気に攻めましょう!」」
「いや、待て! 俺達は……あの、目玉……『見通す瞳』の破壊に、向かう……べき!」
ヒュンヒュンッ! アースドラゴンが飛ばす無数の『岩棘』を避けつつ、『穿つ氷焔』を放ちアースドラゴンの鱗を急激に冷やします。さて、そろそろでしょうか?
《喰らいなさい『黒炎の閃光』!!》
局所的に超高熱を発生させるワタクシの『黒炎の閃光』が冷えたアースドラゴンの鱗に直撃し爆ぜる!
「グガアァァーッッ!!」
バギィィーンッッ! アースドラゴンの叫びと鱗の割れるけたたましい音!
「「うおおっ!!」」「「すげぇぞあの三本脚のカラス!」」
「急げ! 今のうちだ……あの目玉を……破壊する!」
なかなか冷静に状況を判断出来る者が冒険者にいるようで助かりますね。ええ、ワタクシがアースドラゴンを引き付けている間にあの『見通す瞳』の破壊を頼みますよ!
しかし、ワタクシの見通しが甘かったのか、アースドラゴンも意地があるのか……背中の鱗を破壊され怒りに火がついたアースドラゴンが動きを変えました!
「グルワアァァーッッ!!!」
ドゴオォォォーンッッ!!!!
「「うがあぁぁっ!!」」「キャアァァーッ!!」「「がっ! くっそ! すげぇ揺れだ、立っていられねぇ!!」」
「アースクエイク! まずい……っ!」
しまった! 何と言うことでしょうか! アースドラゴンの咆哮で局所的に起きる大地震! その凄まじい揺れに冒険者達は立つことが出来ず地に伏せ、ある者は地割れに呑み込まれそうになる。死者が出ていないのが不思議なほどです!
「くっ……『見通す瞳』までの道が……っ!」
デュアードと呼ばれた青年が立ち上がり忌々しそうに前方を見つめる。そう、アースクエイクの影響で地面が隆起し、『見通す瞳』までの道が閉ざされてしまったのです。
「「なんてこった! あれを登ってなんて悠長なことしてらんねぇぞ!」」
「「不味いわ……さっきの地震で怪我人続出よ!」」
《もうひと度あの地震を打たれたら彼等は……!!》
これは困りましたね……彼等を勝利に導くにはそれこそ、一撃であのアースドラゴンを撃破するか、全員を『浮遊』で空へ上げるかの二択!
《ふっ……とても無理ですね……己の無力さをまたも味わう事になろうとは……》
そんな二択を可能にするのはそれこそ、アリサ様や女神達くらいなもの……ならばせめて特攻を仕掛けてみましょうか? この身を奴の体内で爆散させればあるいは!
「馬鹿なことを考えるでないぞレイヴンや?」
はっ!? この声は珠実様!? 驚いたワタクシはバッと振り返りその声の主の姿を見ました。
「あんたはそもそも戦闘向きじゃないからね、無理しちゃ駄目よ? アリサが悲しむわ」
「安心せい! 妾はこう見えて『懐刀』ぞ? 冒険者全員に『浮遊』かけるくらい容易いことじゃ!」
なんと心強いことか! 珠実様が朱美殿を連れ立って救援に駆け付けてくれたのでした!
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【格好つけて】~舐めプした結果~《朱美view》
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「ホレ朱美よ急ぐのじゃ! レイヴンの奴めあの竜に特攻を仕掛けんとしておるぞ!?」
「なんですって!? 冗談じゃないわ! 全力で飛ばすわよ!? 着いてきなさい珠実!」
「何を抜かすこの小童が! お主こそ妾に遅れるでないわ!」
ギャースカギャースカと並走する珠実と言い合いしながら私は全速力で南に飛翔する。早まった真似しないでよレイヴン!
私も『鳥』だからゼーロやレイヴン、レイミーアやエスペル達の気持ちが痛いほどよくわかるのよ……『世界樹』の呪いが解かれ、自由な空を取り戻してくれたアリサへの忠誠心は、それこそバルガス達聖魔霊よりも強いかも知れないくらい。だからこそ鳳凰の奴はホントに許せなかった……実の弟じゃなければ問答無用で焼き払ってやるとこよ!
「やれやれ、そう熱くなるでない朱美よ。アリサ様の『想い』に報いるならば決して命を粗末にしてはならん」
「ええ……そうね! アリサはきっと心許した相手の痛みを強く感じ取ってしまうわ。だからこそレイヴンを止めないとね!」
そうしてなんとか間に合った戦場の空。見ればアースドラゴンが起こした地震で地形が大きく崩され、冒険者達も難儀している様子だわ。しかし、彼等も大したものね。誰一人として諦めていない、互いに手を取り合い助け合いながらあの『見通す瞳』を破壊するのだと動いている。
《珠実様、朱美殿! 救援に感謝します……ワタクシが至らぬばかりに申し訳御座いません。どうか彼等を救って下さいませ!》
「ええっ! 任せなさいレイヴン! 珠実、貴女は冒険者達をお願い! 私の戦闘は熱いわ、巻き込まれないようにしてちょうだい?」
「うむうむ、こまい所は妾が引き受けよう。お主はあの竜と目玉に思い知らせてやると良い!」
レイヴンが私達に気付いて寄ってくる。間に合ってよかったわ! さぁ、ここからは私の時間よ……冒険者達を珠実に任せて、さて……まずはあのアースドラゴンに挨拶代わりの一撃でもお見舞いしてやりましょうかしら!!
「『紅き炎剣』」
ピイィィィーンッッ!!
「グガアァァオオォォーッッ!!?」
斬って焼く。超々高熱を一本の線としてアースドラゴンの尻尾に放つ! アースドラゴンは尾を切断された痛みに絶叫し私を見上げ、憎しみを込めたその瞳で睨み付けてきた。
「地を這う惨めな大トカゲ……私が消し炭にしてあげるわ。覚悟しなさい?」
「グルオオアアァァーッッ!!」
するとアースドラゴンは怒り心頭といった感じで『石化ブレス』を放ってくる。当然私はひらりと身をかわし、反撃の『炎嵐』で更にアースドラゴンを焼く!
「ギャオオオォォーンッ!?」
「憐れね、悔しければその退化した翼で飛んでご覧なさいな?」
先程アースドラゴンを「地を這うトカゲ」と、揶揄したけれど、それは奴が飛べないから。他の竜と比べて一回り大きな体躯は重量感があり、事実その筋力と体力は他の竜達を遥かに上回る。けれど、その代償として翼が退化し、空を飛ぶことが出来なくなっているのだ。
「「うおおぉ? う、浮いてる!」」「「ちょ、ちょっと怖いわね!」」
「「凄いぞあの赤い鳥!」」「「なんにせよ助かった! ありがとう九尾様!」」
ふと見れば珠実が冒険者達を『浮遊』で浮かせ、街近くに待機している『僧侶隊』の元まで運んでくれている。オッケー! これで巻き込むことなく戦えるわ!
「グルウゥゥッ!!」
「と、言っても……一方的にしかならない。まぁ、時間もかけたくはないし、直ぐに終わらせてあげるわ!」
「ガオオォォーッッ!!」
っ!? 一気に勝負を決めようと、魔力を高め始めたその時、アースドラゴンが魔法を放った! 甘く見すぎたかしら!? アースドラゴンの魔法を受けた私の全身がまるで巨石を乗せられたが如く重くなり動きが鈍くなる!
「重力魔法!? やってくれるじゃない!」
「バルオォォーッッ!!」
しまった! 体が重くなったところにアースドラゴンの魔法『水晶の乱雨』が放たれる! 私は咄嗟に自身を『炎熱城壁』でガードする!
ザシュザシュザシューッ!!!
「うああぁっ!! いったーいっ!?」
突き刺さる突き刺さる! 痛い痛いって!! くぅっ! 『炎熱城壁』なら大抵は私の身に届く前に燃え尽きる魔法も、この水晶の槍の雨はいくつか貫通してくる!
「はぁはぁ……やってくれるじゃない! 腐っても竜ってことかしら!?」
もう頭に来たわ! 本気で消し炭にしてあげる! そう思った矢先、あらぬ方向から思いもよらぬ攻撃が私を襲った!
ドゴォォォーッッ!!!
「きゃあああぁぁーっっ!?」
真後ろから思い切り何かにぶん殴られた! あまりの衝撃に私は空中を錐揉みしつつ吹き飛ぶ! な、何よ!? 一体何にぶん殴られたの!? 何とか体勢を立て直し状況を確認してみれば……
「ははっ……まさか斬られた尻尾を重力魔法で操って武器にしてくるなんてね!」
アリスに散々しごかれて、実際に力が上がって……自惚れてた……悔しいけどコイツ……竜はやっぱり強いわ!!
「このたわけ者が!」
バチーンッ!!
「あいたぁっ!? ちょ、何すんのよ珠実!?」
「黙れこの未熟者!!」
ドオォォーンッ!! キィィィーンッッ……
いつの間にか側にいた珠実に頭をひっぱたかれて思わず文句言うんだけど、逆に怒られちゃったわ! なんなの!? って思ったら珠実はアースドラゴンの尻尾……私を吹っ飛ばしたやつだ、それを右手をかざしただけで爆発させ跡形もなく消し飛ばし、それと同時、左手に魔力を収束させていく!
「なっ!? 訳がわからないわ! なんであの尻尾があんな簡単に吹き飛ぶのよぉ!?」
「まったく、妾が何をしたかもわからぬか? だから未熟者と呼んだのじゃ!」
ううっ!! 聞けば尻尾を操る重力魔法の制御に干渉し暴走させて爆発させたと言うのだ。とても信じられない! だって右手を一瞬かざしたって思ったらもう尻尾が爆発してたのよ!?
「ちぃとばかりしごかれて強うなったと思い上がったお主には理解出来ぬよ。そうれ、魔王に操られし憐れな竜よ、地に還るがよい!」
「グガアァァオオォォーッッ!!!!」
ドオオオォォォォーンッッ!!!
嘘でしょう!? 珠実が左手に収束させていた魔力を一条の光にして、アースドラゴンに向け撃ち放ったら、凄まじい轟音を伴って大爆発を起こしたわ!
「『魔素粒子砲たまみんばぁじょん』じゃ! 中々の威力よな♪」
「たまみんばぁじょんって……アリサが世界樹の呪いを吹き飛ばしたやつ? って! あれは、『黒水晶』!?」
「そういうことじゃ! まったくもって忌々しい! 消え失せるがよい!」
珠実が魔素粒子砲を放った左手を眼前でぐっと握り締めた、するとアースドラゴンの体内から現れた『黒水晶』が粉々に砕け、塵になる。
「塵も残さぬよ! そうれ!!」
ゴオオォォォーッッ!!!
そしてその左手を指パッチンすると炎の柱がその場に立ち上ぼり『黒水晶』の塵を消滅させたのだった! うぅ! 格好つけて駆け付けたのに、全部珠実にもっていかれちゃったわ……これは『聖域』に戻ったら猛特訓が必要ね!
「やれやれ、その前にお主はあの目玉を何とかせい。訓練なら後でいくらでもしてくれるじゃろう~アリスがの♪」
「はっ! そうね! すっかり忘れてたわ……任せて、直ぐにぶっ壊してくるーっ!」
珠実の言葉に思い出す! そうよあの『見通す瞳』を破壊しなきゃまた余計な魔物が召喚されちゃうわ! 私は気を取り直し、アースドラゴンの重力魔法から解放された身体に魔力を込めて、あの目ん玉目掛け体当たり!
ビューンッ! ドッガァーンッッ!!!
「ふぅ、これでちょっとは格好付いたかしらね!」
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【驚異の大魔獣】~ベヒーモス~《水菜view》
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《カイン!》
「うわぁぁっ!!」
「危ないっ! 『守護の陣』!!」
北。大魔獣ベヒーモスはあまりにも圧倒的でした。今も必死に私とカインが、冒険者達がその進行を食い止めるために戦っています……いますが!!
レイミーアがカインの危機に声を上げた。ベヒーモスの巨大な角がカインを刺し貫かんと迫っていたのです、絶妙の間合い! これはかわせないと判断し私は咄嗟に『守護の陣』をカインに施しました。しかし!
バギィィーンッッ!! ヒヒーンッッ!!
「そんな! カイン!!」
私が施した『守護の陣』が小さな抵抗で砕かれ、ベヒーモスの角がカインの翼。その片翼を貫いてしまいました! カインは嘶き、貫かれた片翼から赤い血を撒き散らし地に落ちて行きます!
「ちぃっ! やはり厄介な奴じゃのぅ、水菜はそのまま皆を護っておれ! カインは妾がなんとかしよう! レイミーアはアリスの力を共鳴させて皆の命を繋げ! よいか!? 誰一人として死なせるでないぞ!!?」
「りょ、了解です! 珠実様!」
《畏まりました! 『不死鳥』の名に懸けて誰も死なせはしませんとも!》
一緒にこの北の戦いに合流した珠実様が指示を飛ばします、ベヒーモスの攻撃で重傷を負った冒険者達も多く、珠実様はそんな彼等の救助に手一杯。後方に控える、ミュンルーカと呼ばれた女性を中心とした僧侶隊に次々と怪我人を移動させています。
レイミーアはアリスさんの魔法と、自身の『不死鳥』としての権能を使って、普通なら死んでもおかしくない重傷を負った者を生き長らえさせている!
私は兎に角、皆をベヒーモスの攻撃から護るべく全力で防御魔法を行使し続ける。しかし、結果はカインが落とされてしまったことで、攻撃の要を失い、ジリ貧です!
オオオォォーンッッ!!
「カイン殿! くっ! 動ける者はカイン殿を護るんだ! 俺達の友をこれ以上傷付けさせるな!」
「「おぉーっ!」」「「勿論よ! カインさん頑張って!」」
「「耐えて見せる! アリサ様とレーネ様が来るまでな!」」
落ちたカインに他の魔物が群がって、とどめをさそうとしてくるのを懸命に防ぐ冒険者達。バルドと呼ばれた剣士はその鎧を砕かれながらも指揮をとり、また、その血塗れの姿に心を奮い起たせる冒険者達も皆傷だらけ……
「負けられません! 『四神』玄武! その誇りに懸けて! 『盾』としての役目に懸けてここは一歩も通しません!」
「バルオオァァァーッッ!!!!」
吼える! 私とベヒーモスは互いに対峙し、決して通さない! 力ずくで通る! その意志がぶつかり合う! ベヒーモスの巨大な前肢からその鋭い爪が振り下ろされるのをかわし、なんとかその動きを封じようと『水牢』を仕掛けるも、強引に振りほどかれる。
「ええ、そうでしょうね! ならば『水圧剣』!」
ズバァァーッッ!!
「ガオオォォーッッ!?」
手応え有りました! 『水圧剣』でベヒーモスの前肢に大きな深傷を負わせる事に成功です! これでその歩みも遅くなるでしょう!
「ガアァーッッ!!」
ズドォォーンッッ!!
ベヒーモスがお返しだと言わんばかりに咆哮をあげると、周囲の魔素が急速に収束し爆発を起こしました! その衝撃に吹き飛ばされる!
「うあぁっ!? これは、『爆裂』!?」
ぐふっ! しまった……『水圧剣』の効果に一瞬緩んだ隙が、私の防御を少し遅らせてしまいました。ミドリガメの姿でしたら彼方まで飛ばされていたところです。
「はぁはぁ……なんのぉ~これしきぃ~!」
うぐぐっと、全身に力を込めて立ち上がります! そしてベヒーモスを見れば、その全身にこれまでにない魔力を滾らせているのがわかりました! これは、マズイです! ベヒーモスの、所謂『必殺技』である『星の爆発』の為の魔力収束!
「いかん! 全員ベヒーモスに攻撃を集中させろ! 絶対にアレを撃たせるな!」
おおおぉぉぉーっっ!!!!!
バルドさんの大声に冒険者全員がベヒーモスの攻撃を止めるべく動き出しました! 私もひたすらに全力で攻撃を仕掛けます! しかし、多少よろめきはするものの、ベヒーモスに滾る魔力は留まりません!
「カイン! この馬鹿者め! 今のその身体で無理をすればどうなるかわからんのじゃぞ!?」
「珠実様! そんな事言ってる場合じゃありません! あの攻撃が放たれたら下手すればこの大陸ごと消し飛びます!」
カイン!? なんて無茶を! 珠実様の怒声にその方を見れば、なんと! 傷付いた翼でこちらに飛んでくるカインの姿があるじゃありませんか! 背に珠実様を乗せて!
「ええい! 仕方あるまい! 二尾では心許ないがやるぞ! 合わせるのじゃカイン!」
「了解です! アルティレーネ様が、アリサ様が護ろうとするこの街の人々! 僕の全霊をもって護って見せる!! 『天地雷鳴・雷神撃』!!」
「その眉間穿ってくれよう! 『天狐轟雷槍』!!」
ズゴオオォォォーッッ!!!!
珠実様の魔力が編んだ巨大な槍が、物凄い速度と轟音を立ててベヒーモスの眉間に突き刺さりました! そこに、まるでその槍に導かれるようにカインの放つ轟雷が幾重にも落ち続けベヒーモスを撃ちました!
ゴガアァァーッッ!! ドゴオォォーンッッ!! ズガガガーンッッ!!
まだ、まだ終わらない轟雷! なんて威力でしょうか!? 珠実様の助力を得ているとはいえ、カインがこれほどの力を持っていたなんて知りもしませんでしたよ! あの轟雷に撃ち続けられたら私達『四神』も、とてもではないけれど耐えきれないかもしれない!
「カイン殿! もういい! 無茶をするな!」
「「そうよ! カインさん十分よぉ!」」「「あぁっ! また傷口が開いて……カインさん!」」
「うぐぐっ!! まだ、まだ……ベヒーモスの魔力が散っていません! バルドさん達冒険者の皆さんが見せてくれたその意地と矜持! 僕はっ! 僕も倣います! 僕の意地が勝るか、それともっ!!」
ヒヒーンッ!!!
ブシュゥッ!! ああっ! カインの翼がまた血を!? ベヒーモス、倒れて!!
カインの意地をのせた嘶きが、轟雷鳴り響く爆音を切り裂いて戦場にいる誰もの耳に、心に届く! 誰もが歯をくいしばり、祈り、見守り、願うその最中……
「カイーンッ!!!!!」
遂にカインが力尽き再び地に落ちていってしまう。背に乗る珠実様の絶叫が止んだ轟雷の代わりに響いた。
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【よくもやったな!】~お返しだーっ!~《アリサview》
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「カイーンッ!!!!!」
珠実の絶叫が響く。その片翼を貫かれながらも、懸命に皆を護ろうとした気高き天馬。カインが意識を失い地に落ちようとしている。
「『引き寄せ』」
シュンッ!
「あぁぁっ!! アリサ様ぁーっ! 来てくださったのじゃな! カインがカインが!?」
「うん、わかってる。大丈夫よ、泣かないで珠実。『部位復元』」
危なかった。私は咄嗟に『引き寄せ』でカインと珠実を側に引き寄せる。私の姿を見て珠実が抱きついてきたので、優しく受け止めてあげた。
シェラザードとの戦いの後、映像通信を見てみれば、街の北の防衛が大変な事になってて、慌てて転移で飛んできたんだ! びっくらこいたもんでアルティレーネ達を置いて来ちゃったよ。
私はカインの翼に空いた大穴を『部位復元』で治し、かつ、治癒魔法で全身の傷を癒してあげた。
「アリサ様……すみません、力及ばず……」
「カイン……大丈夫だよ。頑張ってくれて有り難う、後は私に任せてゆっくり休んでて」
私はカインの頭を優しく撫でて労う。
「珠実も有り難うね。頑張ってくれたご褒美、後でいっぱいあげちゃうからね♪」
私に抱きつく珠実の事も忘れずに。尻尾が二本になっているのはなにか理由があるんだろう。後で聞いてみよう。
「さて、あぁ、ミュンルーカ達があそこで待機してるのか……で、あのでっかいのがなんかやらかしそうって事ね? オッケー、理解した!」
どうやらあのでっかい魔獣が魔力をためるにためて、ドッガァーンッッ! ってやらかそうとしてるのをみんな必死になって止めようとしてたらしいね。
私は『短距離転移』で珠実とカインをミュンルーカ達、『僧侶隊』の所に移動させて、自分はあのでっかいのの前に移動する。
「あ、アリサ殿! 来てくれたのか!」
「「あぁっ! 危ないわアリサ様!」」「「ベヒーモスが大魔法を放とうとしています!」」
お、腰掛けた箒アリア越しに声の方を見ればバルドくんを始めとした冒険者達が私を見上げてる。うわぁ、みんなボロボロだね! 頑張ったんだね……
「やいやい! そこのでっかいの! よくも私の大事な仲間を傷付けてくれたわね!?」
「グルウゥゥゥーッ!」
目下のでっかい魔獣を指差して文句を言ってやる、でもコイツ魔力をためる事に集中してるのか反応が鈍いね。
「そんなに時間かけなきゃ撃てない魔法なんぞ役にたつのかね? ほいっ!」
パチン!
「ガアァァッ!?」
私が一つ指パッチンしてやると、でっかいのがためていた魔力が一瞬のうちに霧散し、風に流されて消えていく。でっかいのはまるで訳がわからず、といった様子で私を見上げ睨んでガアァーッッ! って吠える。
「ぎゃんぎゃん吠えないでよ、うるさいから……『浮遊束縛』」
「ガオッ!?」
図体がでっかいぶん、この魔獣はいちいちうるさい。なので私の神気で編んだ魔法帯でぐるぐる巻きにして、『浮遊』で浮かび上がらせて、正面に連れてくる。
「え~? 何されたかわかんないって? 磁石よ磁石」
でっかいのが私を見て唸るので、ちょいと種明かしをしてあげる。単純な話し、魔力を磁石に例えたのだ。磁石のプラス極とマイナス極が反発して離れようとするように、魔力を反発する性質をこのでっかいのに施してやったってだけ。魔力を集めようとしても、その魔力が勝手に離れていくようになったため、このでっかいのは魔力を持つことは出来なくなった。
「さて、それじゃあお仕置きの時間だよ? たとえ『黒水晶』で操られてるんだとしても許してあげないからね!」
そう言って箒アリアを『状態変更・杖』させて、でっかいのの眼前に突き付けてやると、懸命に縛鎖から逃れようともがきだす。
「久し振りにドガーンっとぶっぱなすよ! 冥土の土産に持っていきなさい! 『魔素粒子砲』発射ぁーっ!!」
ズドオァァァーッッ!!!!!
ユニの呪いを解呪した時以来の『魔素粒子砲』が大出力でアリアから放たれ、でっかいのを跡形もなく消し飛ばし、露出した『黒水晶』もろとも、完全に消滅させる。伊達に普段から『貯槽』に魔力を貯蔵している訳ではないのだよ!
「そしてそこの目ん玉!」
中空に浮かぶ『見通す瞳』もドッカン!!
ウオオオオォォォーッッッ!!!!!!
様子を見守っていた冒険者達から大歓声があがった。アリアを箒に戻して、ちょっとずれた帽子をかぶり直して、みんなの様子を確認してみる。うん、バルドくんも水菜もレイミーアも傷だらけだけど、誰も死んじゃったりはしてないみたいだ。よかったよかった!
ワァァーッッ!! うおおおぉぉーっ!!
うん、各方面からも冒険者達の勝鬨が聞こえるね! みんな勝ったみたい!
「ふぅ~なんとかなってよかったぁーっ! この後は珠実とゼオン、他のみんなからも詳しい話しを聞きたいし、全員の怪我治して報告会かな!?」
盛大にホッとする。正に激戦だった……各方面に配置したバルガス、カイン、ネヴュラ、アリスも頑張ったし、増援に来てくれたガルーダナンバーズ、『四神』達、そして珠実。きっと彼等がいなかったら被害は甚大になっていただろう。
「さて、残った敵性マークは……うん、これはアリスのとこか。後は各方面にチラホラと、あぁ消えてくね。冒険者達が残党狩りしてるのかな?」
一応各方面に出てきたボスっぽい連中と目ん玉はやっつけたし、大丈夫だと思うけどミニマップを確認してみる。すると目立つのがアリスとエスペルを中心に、六羽のグリフォンと、鳳凰……以前エスペルがお友達って呼んでた鳥だね。が、円を描くように飛んでアリスとエスペルを護ってるみたい。防御円陣なんて空戦ごっこで一回見せただけなのに、もう実戦で使ってるなんてすごいね!
どうやらアリスは冒険者達が絶望して生きる希望を失わないように、魔法でみんなに勇気を分け与えているみたいだね。途切れることのないように行使し続けているぶん動けないから、グリフォン達に護ってもらってるのか……エスペルは時折『希望の光』を発動させて、一定数の魔物を惹き付けているのね。
「それならまずみんなをまとめて治療しちゃうか。そうすりゃアリスも動けるだろうし……」
しかし、そうは言っても冒険者は結構な人数がいる、彼等をまとめて癒すとなると……はて、どうしたもんかしらね……と、思わず天を仰ぐ。なんか曇ってきた、雨でもふるかなこれは?
「雨……いいね! 雨でもふらせてみるかぁ~♪」
曇り空を見て雨降りそうって思ってたら、いいイメージがわいたぞぅ♪ 折角みんな頑張って勝利したのだ。どうせなら天気雨がいい、そして祝福するかのような綺麗な虹を仰ごう!
「雲さんちょいと邪魔よあっち行け!」
バァーンッ!!
両手を左右にばっと伸ばし広げて、その場でくるんっと一回転。魔法でちょちょいと空を覆う雲を霧散させて、お天道さんこんにちは~♪ 今度は両手を上に~はい!
「『祝福の聖雨』」
パラ……パラパラ……パラパラパラ……サアァー……
ゆっくり、そして静かに降り注ぐ癒しの雨『祝福の聖雨』が空に虹を描いた。この魔法は範囲回復魔法を突き詰めたもので、今回のように大規模な戦場に散らばる仲間達を識別して、怪我は勿論、魔力や気力、精神力なんかもがっつり回復させてくれるのだ! あ、敵さんにはただの雨にしかならないからね? むっふぅ~イメージ魔法って最高だね♪
「「うおおっ!? こいつはすげぇ!」」「「傷がみるまに塞がっていくわ!」」
「「ははっ! 気力も体力も充実だ、まだまだ戦えるぜ!」」
「有り難い! よし、みんな再度集結! これより残敵を掃討する! セリアベールは俺達の街だと言うことを魔物達に教えてやれ!!」
オオォォーッッ!!!
うんうん、バルドくんが皆をまとめあげて残った魔物達に向かっていく。『聖なる祝福』と『祝福の聖雨』の相乗効果で、相当地力が上げられてるし、残った魔物もそんなに強いのはいないし、安心していいだろう。
「さて、大事なのはこれからだね……」
この戦いで『氾濫』は解決したけど、色々反省すべき点もあったはずだ。ゼオンの問題も気になるし……またみんなで集まって話し合わないとね。
アリサ「珠実!Σ(゜Д゜;≡;゜д゜)こっちにも珠実!Σ(゜ロ゜;)」
珠実A「ふはは(о^∇^о)」
珠実B「驚いておるようじゃなアリサ様(ノ≧∀≦)ノ」
アリサ「あああ、あんたって子は~ヽ(*≧ω≦)ノ」
珠実C「アリサ様のこんな愉快な顔を見れるとはのぅ( *´艸`)」
珠実D「してやったりじゃ~♪ヽ(´▽`)/」
アリサ「えぇ~い(*´∇`)そんな手で私を誘惑するとは!(σ≧▽≦)σ」
珠実E「うわぅっΣ(・ω・ノ)ノ捕まったのじゃ~(’-’*)♪」
アリサ「うっふっふ~(*´艸`*)み~んな捕まえてなでなでしてやるわよぉ~♥️」
珠実A「きゃーっ(*>∀<*)皆逃げるのじゃぁ~゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜」
珠実ーズ「「「わーいわーい(*゜∀゜人゜∀゜*)♪鬼さんこちら~ヾ(≧∀≦*)ノ〃」」」
アリサ「待て待て~ヾ(≧∀≦*)ノ〃」
ミュンルーカ「あ~((゜□゜;))アリサ様楽しそう(°▽°)」
僧侶隊「「「交ざりた~いヽ(*>∇<)ノ」」」
冒険者達「「「面白そうだなぁ~(o・ω・o)」」」
街の住人達「「「スタンピートが解決して嬉しそうに鬼ごっこ(´・ω・`)?」」」




