50話 防衛戦決着【前】
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【ケルベロス】~危機~《ブレイドview》
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「ぬぉぉおおっっ!!!」
「バルガスのおっちゃん!!」
ブシャアァッ!!!
なんてこった! ケルベロスの攻撃から俺を庇ったバルガスのおっちゃんが、巨大な爪にその身を裂かれ夥しい鮮血が飛び散る! くそっ! 俺が他の魔物に虚をつかれたその一瞬の出来事だ。またアイギスさんの時みたいに庇われるのかよ俺は!? 冗談じゃねぇ! このままじゃ絶対に終わらねぇからな!?
「「うおおぉぉ!! テメェ! この犬っころがぁ!!」」
「「よくもバルガスさんを!!」」「「舐めないでよ!! あんたなんて骨付き肉にしてやる!!」」
ウオオオォォォォーッッ!!!
冒険者総掛かりってのは流石に大袈裟かもしれねぇけど、結構な数の冒険者がこの犬っころ……ケルベロスを相手すんのに取られちまってる。
「す、済まねぇおっちゃん! 俺を庇ったせいで!」
「ふははははっ! なに、気にするな! 地獄の番犬とはこの程度か!? 効かぬわっ!!」
いや、バルガスのおっちゃん。全身血だらけにしてそんなセリフ吐いても強がりにしか聞こえねぇって! 突っ込もうとしたその時だ。
「バルガス殿! 助太刀に参ったぞ!」
「おおっ! ユナイト殿! かたじけない!」
すげぇスピードででっけぇ虫が飛んできた! 知ってるぞコイツ、セイントビートルっていう聖虫だ! アリサねえちゃん達『聖域組』の仲間なのか! それだけじゃねぇ、グリフォン達も三羽が増援に駆け付けた!
「冒険者達よ! ここは我等に任せ他の魔物を蹴散らせ!」
「「おっしゃあぁっ!!」」「「了解っ!!」」「「任せてくれバルガスさん!」」
ありがてぇや! 待っててくれバルガスのおっちゃん、セイントビートル! 他の魔物片付けて来るぜ!
「ブレイド! 突出しすぎよ!」
「よかったブレイド! もうっ! 熱くならないで!」
「うぉ、悪い悪い! シェリー姉ちゃん、ミスト!」
やべぇやべぇ、ついいつもの癖で魔物を追いかけちまってた。そのせいでバルガスのおっちゃんに庇われてちゃ世話ねぇぜ、反省しねぇと!
「行くぞ! 『聖刃乱舞』!!」
ドシュウウゥゥッッ!!!
うおおっ!? セイントビートルがものすげぇ魔力を纏って……おいぃっ! ケルベロスの三つの口に飛び込んで行ったぞ!? 自分から喰われに!?
ドガアァァァンッッ!!!
「グルオオアァァァーッッ!!?」
すげぇぇっ!! ケルベロスの三つ頭を一つ首ごと爆散させやがった!
うおおぉぉーっっ!!!
それを見ていた他の冒険者達からすげぇ歓声があがる! こいつは頼りになる助っ人が来てくれたもんだぜ!!
「勝てる! 勝てるよブレイド!」
「えぇ! このまま一気に押し込みましょう!」
ミストとシェリーの姉ちゃんも見えた希望に高揚する! 応! 絶対に勝って終わらせるぜ!
ザシュッ!! ズバァッ!!
「ガオオォッ!!」「グギャアァッ!!」
「オラオラ! 邪魔だぜテメェ等っ!!」
俺も負けじとグリズリーだのバジリスクだの、普段なら絶対に敵わない魔物をぶった斬る! すげぇや、アリサねえちゃんの『聖なる祝福』は!
「グルゥゥ……ガオオオォォーンッッ!!!」
ビリビリビリィッッ!!!
そん時だ! ケルベロスが大音量の咆哮をあげて魔力を昂らせた! するとどうだ、セイントビートルに吹っ飛ばされた筈の頭がみるみる再生して、今まで以上にその力を漲らせやがった!
「ぬぅっ!?」「うぐぁっ!?」
「おっちゃん!? セイントビートル!?」
今までとは比較にならねぇスピードでケルベロスは、一気にバルガスのおっちゃんとセイントビートルの懐に飛び込んでその一人と一匹を爪で裂いた!
「「ま、マジかよ!?」」「「バルガスさん!!」」「「セイントビートル!! 大変、早く回復を!!」」
「バルオオオオォォォォッッッ!!!!!」
ズドオォォォーンッッッ!!!!!
うがぁぁっっ!? や、やべぇっ!! ケルベロスがすさまじい威力の『咆哮』をぶっぱなしやがった!! バルガスのおっちゃんもセイントビートルも、俺達冒険者もグリフォン達も、そのあまりの威力に全員が吹っ飛ばされて地に伏せる!
「あっ……ガハァッ!! くそ……なんて威力だよ!? 生きてるかミストぉ!?」
「あぐぅ……そんな……ここまで来て……こんな、ぶ、ブレイド……」
「なんて……こと……この、ままじゃ……」
やべぇやべぇやべぇ!! とんでもねぇ大ダメージだ……起き上がろうにも衝撃で骨が砕けたのか身体が言うこと聞かねぇ……っ! ち、畜生……っ! ミストもシェリーの姉ちゃんも……それだけじゃねぇ、他の冒険者達も……まさかたった一発で、この様かよ!?
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【意志と希望】~生きて!~《アリスview》
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「ぬあぁーっ! もうやっべぇじゃないでっすかぁぁ!! 『四神』のみんな頼みますよ!? アリスは全員死なせないように全力出さないといけません!」
やっべぇでっす! 街の東西南北に召喚された『懐刀』並の魔物達相手に、防衛戦力が一気に崩されましたよぉぉっ!? ちぃっ! アリスが判断迷ってモタモタしちゃったせいでっすね……はんせーでっすよぉ!
「応! 任せとけアリス!」
「貴様に鍛えられた腕前、この戦にて存分に振るってくれよう!」
「配置は私達の担当そのままでいいわね!」
「急ぎましょう!」
いやはや、頼もしいでっしゃろい! 白虎の大地の一声を皮切りに、青龍の爽矢が、朱雀の朱美が、玄武の水菜が各々守護する方角に飛んで行きます。アリスに足りないのはああ言った決断力でっすね……学びになりますよ。
さて、それはそうと。最初に述べたように『黒狼』の皆さんを中心とした冒険者達と先行していた『聖域組』、そして増援に駆け付けたガルーダナンバーズも含め被害甚大でっす!
「死者が出なかったのは、マスターの『聖なる祝福』のおかげでっすね、ちょいとここで、この! アリスちゃんが気張りませんと!!」
ビシィッ!! っと、気合い入れてマスターにも負けないくらいの大、大っ魔法を発動させまっすよぉ~! 折角マスターが繋いだ皆さんの命、絶対に消させやしません! 誰か一人でも犠牲になればきっとマスターは悲しみまっす! そんなことになったらアリスはアリスを絶対に許せない!
「鳳凰! アリスが魔法を発動させてる間魔物を近付けさせないようにしてくだっさいね!」
《あぁっ!? マジかよ!? 流石に俺っちの部隊だけじゃ足りねぇぜ! モコプー来てくれ!》
(はいはーい! 話しは聞いてましたよ~魔女様の『神の護り手』はそう簡単に破られそうもありませんから、最低限の護りでも大丈夫だと思います!)
難点である、魔法発動中はアリス自身身動きが取れず、無防備になっちゃうってところ。そこをカバーしてもらうため、鳳凰に護衛を頼みましたが……まだまだ空を駆ける敵は多くいまっす。エスペルにも協力をあおぎますが、まぁ、やるしかないでっすねぇ! え? 隠れて使えばいいって? あ~残念ながらそうもいかないんでっすよぉねぇ……今から発動する魔法は持続的に、対象全体にアリスを中心として拡げる魔法なのですよ。
「『生きる意志』・『生きる勇気』!」
胸の前で手を合わせ、祈るまっす! アリスがこーんなことしたって似合いやしないんでっすけどぉ、今はマジにガチに祈りまっする! 兎に角生きるのを諦めたりしないで下さいよ皆さん! 今はかなりキツくてツラいとこでっすけど、必ずマスターが来てくれまっすからね!!
(鳳凰さん、グリフォンさん達! アリスさんを中心に円陣を!)
《円陣? おぉ! そうかわかったぜ! グリフォン達アリスの周囲を警戒しつつ旋回するぜ! 敵が近付いて来たら都度迎撃だ!》
「「グワーワッ!!」」
ふふ、今は鳳凰とエスペル、グリフォン達がめちゃんこ頼もしいでっすねぇ~♪
さて、アリスの魔法、『生きる意志』・『生きる勇気』が淡い光の粒子になってこの戦場に降り注ぐのを確認できましたけども……あぁ、やっぱ動けませんねぇ。
「ぐぅっ! 痛ぇ……くそっ! いっそ殺せ、楽にしてくれ……」
「あぁ……悔しいなぁ……私、ここで死ぬのね……」
「あれは……母さん、そうか……迎えに来てくれたのか?」
やっべぇでっすね。倒れ伏している冒険者さん達の中には走馬灯やら、あの世からのお迎えが見えてる者もいるみたいでっすよぉ~? そんな皆になんとか希望を持たせて生の諦感を振り切らせなくてはいけません。
「諦めんじゃねぇ! 皆、今僧侶隊とすげぇ味方が駆け付ける! だから頼むぜ……死ぬんじゃねぇ!!」
ん? この怒声はゼオンさんでっすね? そうですか、街の僧侶達も駆け付けてくれるんですね! あ~でも、すげぇ味方って誰です? アリスは『四神』の他に召喚はしてないんでっすけどぉ?
「ふははっ♪ 妾が来たからにはもう安心じゃぞ皆の衆! この女神の『懐刀』の一人。九尾こと珠実様のお出ましじゃぁ♪」
うえぇっ!? たまみん!? いつの間にこっち来てたんでっす!?
「驚いとるようじゃのアリスよ! 何、詳しい説明は後じゃ! ほれ、『四神』達。さっさとそやつらを片付けてしまえ!」
「応よ! 任せとけ! ケルベロスなんて犬なんぞぶん殴って躾てやらぁ!」
「ふっ、言われるまでもない。ヘカトンケイル? 今の我には物足りぬ相手よ!」
「ふふ、アースドラゴンなんて骨ごと消し炭にしてあげるわ!」
「こっちはベヒーモス……厳しくなりそうですけど頑張ります!」
なんにせよ有り難いでっす! アリスは動くわけにいかないのでそのままたまみんに指揮を任せまっすよ!
「うむ! アリスはそのまま皆の命を繋ぎ止めるのじゃ! 妾達が治癒してまわる故な! 水菜は無理するでないぞ! その巨獣は中々に面倒じゃからな!」
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【決着】~東~《ネヴュラview》
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『見通す瞳』から召喚されたヘカトンケイルとの戦いは、熾烈を極め、私達の陣営はかなりの劣勢となってしまいました。
振り下ろされる巨剣の衝撃波だけでも冒険者の方達は吹き飛ばされ、アリサ様の『聖なる祝福』と私の防御魔法で、ギリギリ一命をとりとめている。
「はぁはぁ……ネヴュラ、大丈夫かよ!?」
「えぇ……まだっ! まだ行けます!」
精一杯の強がり……正直に言いますとかなり限界に近いのですが、そんな弱音は死んでも吐けませんね。ヘカトンケイル……身の丈十数メートルはあろうその巨人を相手に、ありとあらゆる魔法を連続行使し続ける私は、脳が焼き切れそうになるのをギリギリのところで耐えながら……かつ、冒険者の方達を護ります。その時……
《ええいっ! 貴様等有象無象に構っていられるか!! 邪魔だ『熱光双破』!!》
ドオォォーンッッ!! ドドオォォーンッッ!
熱線を放ち上空の魔物を薙ぎ払っては急降下してくるガルーダことゼーロさん、有り難いわ! 救援に来て下さったのね!?
《ネヴュラよ無事……ではなさそうだな! ここは我が引き受ける! 一度退くのだ!》
「ネヴュラさん、すげぇ出血だ……くそっ! 動け! 俺達が足を引っ張ってちゃ世話ねぇだろ!!」
「動ける奴は離脱しろ! 少しでもネヴュラの負担を減らすんだ!」
ふふ、そう皆さんに指示を飛ばすセラさんもボロボロでしょうに……人情を重んじるセリアルティの末裔と、冒険者の方達。とても好ましく思いますよ? アルティレーネ様が愛したわけですね。
「ありがとうございますゼーロさん。ですけれど……今は退けません! アルティレーネ様が愛したセリアルティの末裔達……その方達を踏みにじらせたりはしません! 私は聖魔霊ネヴュラ! 『聖域の魔女』たるアリサ様に仕えし誇り高き騎士!」
飛びそうな意識に渇を入れるように叫ぶ! そう、私はここでゼーロさんに甘えて退くわけにも、負ける訳にもいきません! 限界ギリギリの魔法行使で瞳や鼻、口から血が流れるのを拭い巨人と向き合います!
「よくぞ耐えた。そして、よくぞ吼えた! 見事也!」
ドッゴオオオォォォォーッッッ!!!!!!
そんな声が聞こえた。そう思った次の瞬間、耳をつんざく凄まじい轟音と大気を震わす強烈な電磁粒子咆がヘカトンケイルに直撃しました!
「この窮地にて一歩も退かぬその勇姿! この青龍がしかと見届けた!」
《おお! 爽矢殿! 救援感謝する!》
「そ、爽矢様! 来て下さったのですね!?」
声の方を見ればそこには全身に雷を纏う青龍、爽矢様のお姿。ゼーロさんに加え、遂に『四神』の皆様も来て下さった! 私はその安心感で一瞬気を失いそうになってしまう。
「あ、あぶねぇ! ネヴュラゆっくりだ! ゆっくり降りてこい! 九尾様! ネヴュラがすげぇ怪我だ! 頼むよ助けてやってくれよ!」
《おっと、我の背に乗るが良い! 貴様の騎士としての誇り、我も倣おう!》
「ネヴュラよ、後は我等に任せ休むがよい! なに、心配はいらぬ! 我とゼーロがいればな!」
ふらり、そう空中でバランスを崩した私に慌てたようにセラさんが叫び、ゼーロさんがその背に私を受け止め地上に降ろしてくれました。感謝です。
まぁまぁ……珠実様も来て下さったのですね、有り難いわ。確かに啖呵を切ってはみたものの本当に限界ですし……ここはゼーロさんと爽矢様のお言葉に甘えましょう。
ゼーロさんの背からゆっくりと地上に降りると冒険者のみなさんが駆け寄ってくれました。あらあら? 貴方達は先程まで重症だったのでは?
「「ネヴュラさん! しっかり!」」「「もう大丈夫ですよ! 珠実様が治療してくださいます!」」「「皆! 群がるな! 珠実様を通せ!」」
「やれやれ、大した慕われっぷりじゃのうネヴュラよ? うむ! 見事な働きじゃったぞ、今癒してやるからの。気をしっかり持つのじゃぞ?」
あぁ、珠実様がみなさんを治療して下さったのですね……あら?
「珠実様……感謝します……でも、その尾はどうされたのでしょう?」
救援に駆け付けて下さった珠実様に感謝を申し上げ、疑問を尋ねます。だって、珠実様の自慢の「九尾」が「二尾」になっているのですもの……
「ふふふ♪ 主神やアリサ様のように『遍在』とまではゆかぬがの……妾は『並列存在』が可能なのじゃ! 驚け~その数なんと九体じゃぞ! 尾の数。と言う訳じゃ!」
ワッハッハ♪ と高笑いをする珠実様……なんと言うことでしょう……驚き過ぎて声も出ません!
「今はあのゼオンとか言う小僧に一人、後は東西南北に一人づつ妾が救援に向かっとるのじゃ。『ぎるど』なる建物におった下っ端僧侶共も引き連れておるでな?」
「各方面壊滅的被害って聞いて心臓止まるかと思ったよ! よかったぁセラちゃんもネヴュラさんも……他の冒険者達も、誰も死んでなくて!」
成る程、なんて心強いことでしょう……珠実様のお側にはお話の通りに連れて来られたのでしょう、フォーネさんと数人の僧侶の姿がありますね。
「ガアアアァァッッ!!!!」
《ふんっ! 何処を狙っている! 我はここだ!》
「なんだ? その攻撃は? 蚊ほどにも効かぬぞ!!」
ガギィンッ!! ズバアァッッ!! ゴオォォーッ!!
珠実様から治療を施され、意識がはっきりしてきたところでヘカトンケイルとゼーロさん、爽矢様との戦いを見守ります。巨人のヘカトンケイルと龍たる爽矢様とのぶつかり合いは、そのサイズから一挙手一投足全てが私達に突風を伴って来ます! 更にゼーロさんの放つ魔法も凄まじい!
「「すんげぇ迫力だぜ! あっヘカトンケイルの剣が!」」「「あぶねぇ! って、青龍が爪でへし折ったぞ!?」」「「うわっ! もう片方の爪でヘカトンケイルの腕を切り飛ばした!」」
「「うおぉっ! ガルーダの魔法すげぇ! ヘカトンケイルの腹に穴空けやがったぞ!」」
圧倒的です……ゼーロさんとタッグを組んでいるとはいえ、ヘカトンケイルは『四神』の皆様でも手を焼く相手と、少し前に『聖域』で聞いた覚えがあるのですけれど……
「うむ……『四神』達もゼーロの奴も強うなっておる! そういうことじゃネヴュラよ。アリスに散々鍛えられたのはアイの字達だけではないのじゃ♪」
「そう言うことだったのですね……これは私達、『聖域』に戻ったら今まで以上に励まなくては!」
ゼーロさんと爽矢様はその圧倒的な力でヘカトンケイルをねじ伏せます。その戦いを見れば誰もかつては手を焼いた相手。等と思われないでしょうね。
「ガアァァッッ!!」
《この力、覚えがあるぞ! そうであろう爽矢殿!?》
「うむ! 巨人よ貴様の強化の理由はこれであろう! やるぞゼーロ! 合わせよ!」
《任せろ! 喰らえヘカトンケイル!》
ズゴォォォッッッガガガガァァァーンッッ!!
「「おわあぁぁっ!?」」「「きゃあぁっっ!!?」」
爽矢様とゼーロさんが急速に魔力を収束させたと思ったら、轟雷と呼ぶに相応しい落雷……いえ、あれは天から振り下ろされる雷の剣とでも言えばいいでしょうか? その直撃を受けたヘカトンケイルはその身を真っ二つに裂かれ、業火に包まれ灰と消える。
「黒水晶……ここでもあれが……」
《やはり黒水晶か!》
「忌々しい、消えいっ! あの瞳とともにっ!!」
ズガアァァァァーッッッ!!!
私達家族にとっても因縁深い黒水晶。それこそがヘカトンケイルを強化し猛威を振るわせた元凶。爽矢様は忌々しいそれを、『見通す瞳』もろとも極大のブレスでもって消滅させました。
「「う……俺達……か、勝った?」」「「あぁ、私達……生きてるわ!」」「「勝った! 勝ったぞ!!」」
「あぁっ! そうだ!! アタイ達は勝ったんだ! みんな勝鬨をあげるぉぉっ!!」
ウオオオオオオオォォォォォッッッーッッ!!!!!!!!
状況を呆然と見ていた冒険者のみなさんの呟きを、セラさんがまとめあげ爆音とも言えそうな大歓声がセリアベールの東に響き渡りました。
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【なんか幼なじみが覚醒した】~虎さん~《ミストview》
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あぅっ! 駄目……立てないよぉ……く、悔しい……悔しいなぁ……折角アリサ様から凄い魔法で一時的にとは言えとっても強くなれてるのに。
「ケルベロスの『咆哮』でみんな倒れちゃった……」
ぐぐぐって何とか顔を上げてみる。目に入るのは沢山の倒れてる冒険者達と……持った大剣を両手で杖にして立ち上がろうとするバルガスさんと、ふらつきながら浮いては落ちる事を繰り返すセイントビートルの姿が……
(……どうして? 貴方達はどうしてそんなに頑張ろうってなれるの?)
バルガスさん達はいわば街にとってお客さんの筈なのに、どうしてそんなにボロボロになってまで一緒に戦ってくれるんだろう?
「ぬぅぅっ……ちと目が回ったわ! ユナイト殿いけるか?」
「ふぅ~なに、問題ない! 中々に良いきつけとなったぞ!」
そうこなくてはな! なんと雄々しく立ち上がりバルガスさんとセイントビートルは再びケルベロスとの戦いを始めた! 凄い……! そうだよね! お客さんに戦わせて寝てなんていられない! 立って! 立ちなさいミスト!!
「「野郎ぉ……!」」「「こんなことで終わるもんですかっ!」」「「アリサ様から『聖なる祝福』をもらった……そして……」」「「バルガスさんとセイントビートルから勇気をもらった!!」」
深く傷付き尚も立ち上がり、全身を血に染めながらも脅威に立ち向かうバルガスさんとセイントビートルの勇姿に心震えたのは私だけじゃない!! 他の冒険者達も次々に立ち上がり……
「負けないわよ! 私達の未来を潰えさせたりしないっ!」
シェリーさんも!
「一瞬だけどよ……見えたんだよな……! メルドレードの記憶がよぉっ!!」
ブレイドも!
「うおおおぉぉ!! みんなどけぇーっ!!」
立ち上がったブレイドが大声で叫ぶ! バルガスさんとセイントビートルはブレイドが何をするか察したのか、ケルベロスから跳び引いた!!
「いっけぇぇっ!! 『断絶』っ!!」
ギイイィィーンッッ!!!
ズバアァッッンッッ!! ブレイドが烈迫の気合いとともに剣を振り下ろすと、空を割るような甲高い音を鳴り響かせて一条の剣閃が走る!
「ギャオオオォォーンッッ!!」
「これは! 剣聖剣技・秘奥『断絶』!!」
ブレイドが放った剣閃はなんとケルベロスの頭を二つも切断して空の彼方に消えていった! す、凄い! 凄いよブレイド!!
「畜生! 胴体真っ二つにしてやろうって思ったのによ……外れちまった!」
うおおおおおぉぉぉっっ!!!
「見事! その少年凄まじい可能性を秘めているようだ!」
「うむ! 我も滾ってきおったわ! 皆! この戦何としても勝つぞ!!」
「「おおぉぉっ!」」
流れが変わったのを感じる! ブレイドが放った剣閃は私達全員の戦意を高揚させて大きなうねりを生んだ! 誰もが怪我してボロボロなのに、誰もが自分達の勝利を信じてる!
ガオオオォォォーッッ!!!
「「うおっ!?」」「「な、なにっ!?」」「「うわっ!? なんだあのでけぇ虎!!」」
さぁやるぞ! って、皆がケルベロスに突撃しようというその時、その大きな虎さんが現れた!
「やるじゃねぇかお前ら! バルガスにユナイトも気張ったな!」
「大地殿!」
「女神の『懐刀』九尾こと珠実様も参上じゃ! お主達の烈迫なる気合い、しかと見せてもろうたぞ! 及ばずながら助太刀に参った!」
「珠実様までも! おぉっ! 有難い!」
大地って名乗る大きな虎さんは、ケルベロスとの距離を一気に詰めてそのまま頭突きで吹き飛ばした! は、速いよぉ!
呆気にとられていた私達の前に冒険者ギルドで待機してる筈の僧侶隊の人達が治療に回ってくれた!
「急いで! 白虎様がケルベロスを引き付けている隙に皆を治すわよ!」
「重傷者にはアリサ様が用意されたポーションを使うんだ!」
「バルガスにユナイトよ! お主達も来るのじゃ! 妾が治癒してやるでの!」
わぁっ! 凄い! 珠実ちゃんって狐耳の子に魔法で治療をしてもらったけど、あっという間に治っちゃった! 私やブレイドくらいの子って思ったけど、その実力はとんでもないものみたい!
「かたじけない! よおぉしっ!! 行こうぞユナイト殿!」
「応!! 任せよ! 今度こそあの犬との決着をつけてくれる!」
治療を受けたバルガスさんとセイントビートルが覇気を漲らせて立ち上がる! 私達も続きますよ!
「待たんかこのたわけ者が! 熱くなるでない、今の状況をしかと見よ!」
かぁーっ!! って珠実ちゃんが逸る私達に一喝! その声に魔力を乗せているのか少しビリビリって空気が震えた。
「戦意が高揚し駆けていきたくなる気持ちもわかる。しかしじゃ! その勢いだけで突き進んではならぬ。見よ! あの目玉を! いまだに魔物を召喚せんと魔力を収集しておる!」
「はっ! そ、そうだわ……その通りよ皆! 例えあのケルベロスを倒せても『見通す瞳』があるかぎり……」
「そ、そうだ! また召喚されちまう!」
ザワザワっ! そ、そうだよ! その通りだよ! 大変……皆が熱くなりすぎて目の前のケルベロスにばかり集中しちゃうところだった! 元凶を討たなきゃいけないよね!
「ふぅ、私としたことが……ふふ、普段冷静になれ。なんて言っておきながら、これじゃ世話ないわね!」
「おいおいシェリー姉ちゃん、反省とか後でいいぜ! 皆聞いてくれ! バルガスのおっちゃんとセイントビートル……ユナイトを軸に部隊を二つに分けようぜ! あの犬っころはでっけぇ虎に任せて、俺達はあの目玉をぶっ壊すんだ!」
ぶ、ブレイド!? いつも猪突猛進のブレイドが! どど、どうしちゃったの!?
「ブレイド……」「「『黒狼』の坊主」」「「……悪く、ないんじゃないか?」」
「ふっ……一皮剥けたか? ますます将来が楽しみな小僧よ」
「よかろう……そう言うことならばこのユナイト。皆の道を切り開いてご覧にいれようぞ!」
他の冒険者達もブレイドの案に少し驚きながらも、真剣に考えて良さそうって判断したみたい! ブレイド凄いよ! これも成長っていうのかな?
「俺はバルガスのおっちゃんに着いていく。ミスト! お前も着いて来てくれよ!」
「う、うんっ! もちろんだよ! ブレイド!」
格好いい! 格好いいよブレイド! 私、絶対着いてく! どこにだって着いていくよ!
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【決着】~西~《珠実view》
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「わかったわ! じゃあ私はユナイトさんに着いていく! いいこと? 別れた二部隊は中央のケルベロスと白虎様の戦いの邪魔にならないよう左右に迂回して、最奥の『見通す瞳』の破壊するわ!」
「右翼はこのバルガスが率いる! 打ち洩らした魔物を任せることになるが頼むぞ!」
「「応よ! 任せてくれバルガス隊長!」」「「私達魔法士隊は陣の中央に!」」「「よっしゃぁっ! 行こうぜ! 目玉をぶっ壊すんだ!」」
うむうむ。妾の渇に目をさましたかのように次々と陣営が決まってゆくのぅ。それでいいのじゃ~昂る戦意そのままに突撃しても犠牲が増えるだけゆえな。
冒険者の強みとはなんぞや? それはこう言うことなのじゃ、一つの目的のために多数で手を取り合い一丸となって立ち向かう。その様たるや妾達をも震わせるものじゃ。
「左翼! ユナイト小隊集え! グリフォン列羽、我々の役目は無事に冒険者達を『見通す瞳』にまで送り届ける事だ! しかとエスコートせよ!」
「「「グワーワッ!!」」」
「「え、エスコートとかそんな……照れるわ!」」「「いや、何で君達照れるの?」」「「よっし! あんな少年に負けられるか!」」
どうやらまとまったようじゃの。冒険者達は綺麗に右と左の二部隊にわかれ突撃せんとしておる。どれ、ここは一つ妾が狼煙を上げてくれようかの!?
「よしっ! では行け皆の者! お主達の未来はお主達自身の手で掴み取るのじゃ! 突撃ぃぃーっっ!!」
うおおおおおおぉぉぉぉっーっっ!!!
皆の凄まじい雄叫びを聞き、妾はこの戦況を見る。おそらく西はもう安心じゃろう。アリスの判断の遅れにちと危うい方向に傾きかけたが、あやつはあやつで大魔法をもって皆の命を繋いでおる。己の失態をカバーしおった。
(……あのゼオンとか言う小僧が狙われた事で、アリサ様が妾を召喚する決め手となった……うむ、どう転ぶかわからぬものよのぅ)
「「珠実ちゃんの尻尾ふりふり可愛い♪」」「「わかる。撫で回したい!」」
おっと、気安く妾の尻尾に触れるでないぞ僧侶共。さてさて、それはそうとあのワンころを吹っ飛ばした大地の様子はどうかのぅ?
「ハッハーっ! どうした地獄の番犬さんよぉ! おるあぁぁっ!!」
「ガオオンッッ!?」
見れば大地の爪が再び再生したワンころの二つの頭。その一つを裂いたところであった。ふむ、大地の奴敢えてあのワンころを挑発し己に意識を向けさせておるな……成長したものじゃのぅ。
「グルアァァーッッ!!」
ワンころも負けておらぬ、恐らく魔王によって強化されておるのじゃろう。かなりの速度と力じゃ、遠目にはじゃれおうとるようにも見えなくないが、地にクレーターを量産するほどの取っ組み合いじゃ。
「うおっ!? いてぇっ! 野郎お返しだ!!」
「ガアアァッッ!!」
大地がワンころの胴体にその爪を突き刺す!
「ほおぉ~そうかテメェ……わかったぜ! その力の秘密がよぉ!!」
突き刺した爪から一気に巨大な魔力を解き放ち、ワンころの身体の内部に直接送り込む大地。するとどうじゃ、ワンころは狂ったように暴れだし、大地の爪から逃れようと懸命にもがき始めたではないか!
オラアアァァァーッッ!! グギャオオォォーッッ!!
大地の雄叫びとワンころの絶叫が木霊する。そしてワンころの体内から取り出される『黒水晶』! やはりあのワンころもヘカトンケイルと同じように魔神によって呪いをかけられ強化が施されておったのじゃな!
「ちっ! 腹立つぜ……こんなもんで俺達の世界を汚しやがって! 消えやがれ!!」
バルオオアアァァァーッッ!!!
中空に浮く『黒水晶』を忌々しげに睨め付け、大地が咆哮にてその魔力を爆散させ塵も残らぬほどに消し飛ばす。ワンころはそのせいか、大地の攻撃で弱ったのか、急速に力を失い地に伏せ……
「テメェも消えろ、大人しく地獄でも守ってやがれ! 『清浄なる地』!!」
大地の全身が眩い白光を放ち、その足でワンころを踏みつける! 白光は大地を走り、その地の不浄なるものを浄化させていくのだ。ワンころは勿論、冒険者達が倒して回った数々の魔物の亡骸も大地の魔法『清浄なる地』によって跡形もなく消えていった。
「消えよ『見通す瞳』! 『破壊の暴風』!!」
「受けよ! 我が剣! 我が神アリサ様より賜わりしこの力! 今こそ放たん!」
ズドオオォォォーンッッ!!!!
うむ! 見ればバルガスとユナイトが率いる冒険者達もあの目玉、『見通す瞳』の下までたどり着き、その破壊に成功したようじゃな!
「「うおおおぉぉっ!!」」「「やったぞぉぉーっ!!」」
「おっしゃあぁーっ! やったぜ! ミスト! シェリー姉ちゃん!」
「うんっ!! 勝った! 私達勝ったよブレイド!!」
「勝鬨よ! みんな他の部隊に届くように勝鬨をあげて!!」
うおおおおおおぉぉぉぉっっっーっ!!!!!!
ふはは♪ 見事見事! 冒険者達の勝鬨が大気をビリビリと震わせ妾達にもはっきりと聞こえてきおる。ようやったのぅ皆の衆……一時はどうなるかと思うたが。
連れてきた僧侶共にも歓声があがっておる、あっ! こら! どさくさに紛れて妾の尻尾に触れるでない! しょうのない奴等じゃのう~!
「はてさて、残るは北と南かの……他の冒険者達の命を繋いでおるアリスも気がかりじゃ……」
よもやこれほど大規模な戦となろうとはのぅ……少しばかり甘く見ておったやも知れぬな。
相手はかの七大魔王が一柱であるのじゃ……この現実を重く受け止めねばならん。
ユニ「あれ(´・ω・`)?」
リン「どうかしたのかユニよ( ・`ω・´)?」
ユニ「リンちゃん~たまちゃん見なかったヾ(゜0゜*)ノ?」
ジュン「珠実ならさっきアリサ様に召喚されてたんだぞー( ≧∀≦)ノ」
ユニ「ええっΣ(*゜Д゜*)!? そんなぁ~たまちゃんの尻尾もふもふしたかったトコなのにぃ~o(;д;o)」
シドウ「おろろ、それはまたタイミングが悪かったのぅユニちゃんや(´・ω・`; )」
ジュン「オイラでよければいくらでももふもふしていいんだぞ~ヽ(*´∀`)ノ♪」
リン「ふむ、それならば余でも構わぬぞユニ(・`ω´・ )」
シドウ「儂の髭も捨てたモンではないぞユニちゃんや(゜∀゜)」
ユニ「むぅ~ジュンちゃんもリンちゃんもシドウじいちゃんもバリバリしてるからヤっ!ヾ(*`⌒´*)ノ」
ジュン「ば、バリバリかぁ~(´・ω・`; )」
リン「け、毛繕いは欠かさずやっておるのだが(つд;*)」
シドウ「わ、儂も髭の手入れはしっかりやっとるぞい(;゜Д゜)!?」
ユニ「んーっ!!(;>_<;)みんなミーナちゃん撫でてから出直して来て!ι(`ロ´)ノ」
ミーナ「うなぁ~ん♪(o・ω・o)」
ユニ「ミーナちゃぁんヽ(*>∇<)ノもふもふさせて~ヽ(*´∀`)ノ♪」
懐刀達「「「もふもふさせて~ヽ(*>∇<)ノ」」」
ミーナ「フシャアァーッ!?((ヾ(≧皿≦メ)ノ))」
ユニ「あーっ!(;>_<;)逃げちゃったよ~もうみんなのバカァ~(o;д;)o」
懐刀達「「「そんなぁ~(´TωT`)」」」




