49話 魔女と円環
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【魔王との戦い】~飛ばされる『白銀』~《アリサview》
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「おかしいです……アクセサリーは全て破壊したのに、呪いが解ける様子がないなんて……」
「多分……多分だけど、精神まで呪いが及んでるんだと思うよ」
アルティレーネとシェラザードの激しい攻防をじっくり観察していた私。アルティレーネの正確無比な攻撃はシェラザードの身に付ける呪具をピンポイントで破壊したのだが、一向に呪いが解ける様子が見られない。
「アルティレーネぇ……よくもあの御方から賜ったアクセサリーを壊したわね!! 死になさい!」
フィィィィンッッ!!!
うおっ! 危ない! お気に入りのアクセサリーをぶっ壊されて怒り心頭のシェラザードが、触れるものを原子崩壊させる『死の光線』を乱発する!
「狙いも定めず苦し紛れの攻撃など、そうそう当たるものではありません!」
「黙りなさい小娘!」
ガギィィンンッッ!!!
放たれる『死の光線』を飛び回り、掻い潜り、シェラザードの懐に飛び込むアルティレーネの槍がシェラザードの持つ杖と交差する。魔王シェラザードは、見た目通りの後衛タイプ。白兵戦となればアルティレーネに分があるか?
しかし、私の仮定が正しかったとして……どうやって彼女の内面の呪いを解呪したものか? アルティレーネが時間を稼いでくれている内に解決策を見付けないといけないね。シェラザードが召喚した数多くの魔物と戦ってくれている『白銀』達も心配だ。
街の方はアリスが『四神』を召喚したようだし、ゼオンの暗殺についても手を打ったからもう心配はいらないだろう。各地に点在する小さな村も、私達がシェラザードを襲撃したことで、そちらを気にする余裕がないのだろう、『見通す瞳』を破壊したことで終息したようだ。
(気にかけなきゃいけないのは二つ。一つはシェラザードの呪いを解呪する方法。一つは『白銀』達……まぁ、こっちは奥の手があるから最悪それで……)
チラっとアイギス達『白銀』の様子を伺いつつ、考える。そう、似た状況が前世のゲームにもあった。彼女の内面、それも深い内側……先に述べた精神の部分に根付く呪いを解呪するには……
「まぁ、乗り込むか。取り込むか……どっちかかなぁ?」
どちらもリスクの大きい手段ではあるんだけど、一番有効な手段でもある。問題はどちらを選ぶにせよ暴れてる今の彼女をなんとかしないといけないわけで……結局最初にアルティレーネが出した答え。ぶっ飛ばして大人しくさせてから解呪する。ってのが最適解になるのかな?
(不意を突ければあるいは……)
「うふっ! あはははッ! 良いことを思い付いたわ……貴女達、あの勇者共と随分仲が良さそうよねぇ~?」
むっ! なんぞ!? アイギス達にターゲット変更!?
「させませんよ? 彼等は私達の大切な友人なのですから!」
「あらあら、目付きが変わったわね。いいわ、もっと見せなさい。貴女の苦渋に歪む顔を!」
ブウウゥゥーンッッ!!
「何!? これはっ!?」
「マズイ! 飲み込まれる!」
シェラザードが邪悪な笑みを浮かべ、魔物達と戦うアイギス達『白銀』に向けて手をかざしたと思ったら、彼等の目の前に黒く巨大な渦が現れた! アイギスとゼルワがいち早くその異変に気付き、飛び退くものの……
「うおおぉぉっ!?」
「嘘でしょう!?」
「きゃあぁーっ!?」
ズゴオオォォォーッッ!!!
黒い渦は彼等をその悲鳴と一緒に飲み込んでしまった。
「アイギスさん! 皆さん!? シェラザード! 一体何をしたのです!?」
「あはは! いいわ、その絶叫……うふふ、とてもいい顔をしているわよアルティレーネ」
叫ぶアルティレーネに心底嬉しそうな表情を見せるシェラザード。恐らく今の巨大な渦は強制転移陣だろう。アイギス達はシェラザードが作り出したここではない何処か、異空間に飛ばされたのだと思う。
「二度も勇者を失った気分はどうかしら? 転生に失敗してろくに力も持たないまま、この私の前に姿を見せるなんてね」
「……貴女、そこまで狂ってしまっているのですか?」
煽るシェラザードの言葉に怒気をあらわにするアルティレーネ。凄い殺気だ、やれやれ……間に合うかなぁ?
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【無力】~不屈~《アイギスview》
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「うっ……ここは?」
「うげぇ~気持ち悪ぃぃ~!」
「ぬぅ~内蔵を引っ掻き回されたようじゃわい……」
「うぅ……吐いていいですか?」
「フラフラする~って、サーサ吐いちゃ駄目よ?」
『悲涙の洞窟』の最下層でアルティレーネ様とアリサ様、そして魔王シェラザードとの戦いの最中に次々と現れる魔物と戦っていた私達『白銀』だが、突如現れた巨大な黒い渦に飲み込まれ、ここに飛ばされてしまった。
渦に飲み込まれる時に散々身体を振り回されたせいで、立ち上がるのも覚束ないが、何とか立ち直り周囲を見渡すと、ゼルワが頭を抱えながらも立ち上がり、ドガは腹を抑え、サーサは口に手をあてて気持ち悪そうにしている、吐くなよ? レイリーアは足下をふらつかせながらも立ち上がっている。どうやら全員無事のようだ。
「……魔物も消えてるわね、私達何処に飛ばされたのかしら?」
「くそっ! 今もアリサ様とアルティレーネ様が魔王と戦ってるっていうのに!」
レイリーアが改めて現状を把握するため、私と同じように周囲を見渡している。ゼルワも自分が何処かに飛ばされたことを理解し、魔王と戦っているアリサ様とアルティレーネ様の力になれない事に憤りを感じているようだ。
「何も……ありませんね。見渡す限りの荒野が広がるだけで」
「なんてこと! 結局アタシ達アリサ様とアルティレーネ様の足を引っ張ってしまったのかしら?」
サーサが言うように全方面、何処を見ても、何もない枯れ果てた大地が続く荒野に立ち尽くす私達。レイリーアの言葉が胸に突き刺さる……あれほど勇んで戦いに挑んで見ても結果はこの有り様だ。魔王の一手で私達は無力化されてしまった……知らず剣を握る拳に力が入る。
「私達は、こうも無力なのか……」
この空間? 世界? わからないが、抜け出す方法も手段も何も思い付かない自分があまりにも情けなくて俯いてしまう……こんなことなら素直にアリサ様達にお任せしていればよかったのか? どうすればあの魔王に届くほどの力が身に付くのか? いや、それよりこれからどうすれば良いのか? 思考が巡り動けなくなってしまう。
「やれやれ、そう嘆くでないアイギスよ。皆もよく自身を見てみぃ?」
ドガの言葉にはっと我に帰り、俯いていた顔を上げて仲間達を改めて見る。
「蒼炎が……『聖なる祝福』が消えずに残っている!」
「本当だわ! じゃあまだちゃんとアリサ様と繋がってるってことよね!?」
そう、よく見れば私達を包む蒼いオーラ。アリサ様が授けてくれた蒼炎が、この果てない荒野に飛ばされた私達をしっかりと包んでくれているのだ。レイリーアの言う通り、これこそ私達とアリサ様を繋ぐ証拠。
「よし……諦めるものか! 必ず生還するぞみんな!」
「「「「おうっ!!!」」」」
そうだ、私達は絶対に諦めない……例え魔王との間に隔絶した力の開きがあったとしてもだ! 最後の一瞬まで足掻いて見せよう!
「よし、ではこの場所がスタート地点だ。私達はこれからこの荒野を彷徨う事になる。わかりやすい目印を……」
改めて決意を胸に、いざ行かんとする私達。似たような景色の続く荒野に目印を立てながら進もうと皆に提案しようとしたその矢先……
「おい、アイギス! お前のマントが光ってるぞ!」
「なに? アリサ様から頂いたマントが……はっ! まさか、私達を導いてくれるのか!?」
「マジ!? じゃあアリサ様はここまで予想してたってこと?」
ゼルワが驚いて私が身に付けている白銀のマントを指差す。このマントは決戦前にアリサ様から直々に受け取った大切な御守り……そう思っていた、レイリーアが言う予想とは違うのだろう……「このマントが貴方達を守るからね」アリサ様の言葉が思い出される。そう、私達の事を気にかけて下さっているのだ。
「万が一に備えて、マントに姿変えておいて良かった……」
「「ああぁっ! アリサ様!!」」
ゼルワとサーサが声を揃えて叫ぶ。光を放つマントが、その姿を変えていく。美しく荘厳な白銀の光を放つ『聖鎧』に身を包み、その背には純白の二対四翼、『願いを乗せた翼達』を背負い。手には一目で見る者達に「それ」と解らせる神剣、『聖域を護る神剣』。ふわり広がる艶やかで美しい黒髪、かつて見た夢の君……そのままの姿で私の愛しい人が来てくれた。
「お待たせ。アイギス、みんな」
「アリサ様……」
私達に向き直り優しく微笑む『聖なる戦乙女』のアリサ様。私は嬉しくもあり、お手を煩わせてしまった己の不甲斐なさが相まって、まともにそのお顔を見ることができない……
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【黒い竜】~『四神』も手を焼く~《アリサview》
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「お待たせ。アイギス、みんな」
「アリサ様……」
こんなこともあろうかと、アイギスに『鏡映す私・私映す鏡』の私を変身魔法でマントに変えて持たせておいたんだよね! やっぱり切り札ってのはこういう時に使うべきだよ。
「見てたから状況はわかってる。落ち込んじゃう気持ちもね? だけどそこは持ち前の切り換えの早さを見せてほしいかな……あんまり時間ないし」
私に会えたことでこの空間から脱出できると、一瞬喜んだ『白銀』の面々。だけど同時に、結局私の世話になってしまったという事実に気落ちしてしまったみたい。みんなチラッと私を見て申し訳なさそうな表情だ。
パンパンッ!!
「よしっ!! みんなアリサ様の仰られる通りだ! 悔しがっていても仕方がないぞ! 今は一刻も早く戦場へ戻るんだ!」
アイギスが自分に渇を入れるように、両の手のひらで自分の頬を叩いた。そしてメンバー達を励ます。うーん、流石リーダーやってるだけあって、しっかり持ち直すね!
「うむ、そうじゃな! 帰りを待つ者の為にもここで止まってはおられん!」
「そうね! ささっと終わらせてダーリンとの甘い時間を過ごしたいわ!」
「へへっ! それにあのうまそうな「ケーキ」も待ってる事だしな!」
「もう~ゼルワったら、食い意地張っちゃって!」
ドガが手に持つ戦斧を握り締めその瞳に闘志を宿す。レイリーアもおちゃらけているもののその顔は不敵な笑みを浮かべている、ゼルワは昨日作ったケーキを思い出して舌をなめずり食欲を漲らせ、サーサの失笑を買っているね。
「アリサ様。至らぬ私達を気にかけて下さり有り難う御座います! また、そのお手を煩わせてしまい申し訳ありません」
強い瞳を私に向けてそう言うアイギスの顔は晴れやかだ。上手く切り換えができたようだね。その辺正直凄いなって思うよ。私は結構引き摺っちゃうからさ。
「それで、アリサ様。ここは一体何処なのでしょう? 辺り一面何もない荒野が広がるばかりですが……」
サーサが少し不安そうに訊ねてくる。まぁ、突然見知らぬ場所に飛ばされて、帰る手段もなければ不安になるわよね。
「うん、ここはシェラザードが用意した異空間だね。ほら、ちょいと前に水菜の棲処に遊びに行ったでしょ? それと同じ感じだよ」
ドオオォォーンッッ!!!
「グルアァァァーッッ!!!!」
「なんだ!?」「うおっ!? ドラゴンかよ!」「び、ビックリしました!」
「みんな慌てないで!」「陣形を組むんじゃ!!」
私がサーサの疑問に答えていると、突然空から大きな竜。前世で言うところの西洋竜が目の前に降り立ち咆哮をあげた。
ダークドラゴン。闇の竜とか黒竜とか言われる奴。強靭な肉体と圧倒的な攻撃力を持ち、闇の属性魔法を最も得意とし、他の魔法も操る。『四神』達にも難敵と言わしめる強敵だ。しかも魔王シェラザードによって強化されているみたい!
「コイツがこの空間の番人って訳だね! やれやれ、ブチギレしてるアルティがシェラザードをフルボッコにする前に戻らないといけないのに」
「え? アリサ様それって……?」
ゴオォッッ! 見た目の巨体に似合わず素早い動きで私達に迫るダークドラゴン。レイリーアの疑問に答える間もなく戦闘開始されてしまったね。
「ごめんね、時間が惜しいから手早く終わらせるよ! 『神の護り手』!」
ガギィィィンッッ!!!
アイギス達に『神の護り手』をかけると同時、私は飛翔。ダークドラゴンの爪がアイギス達を襲うけど、『神の護り手』がそれを防いだ。
「うおぉっ!? ヤベェ! こんな魔物がいやがるなんて思わなかったぜ!」
「い、今の一撃でわかりました……わかってしまいました、この魔物は『懐刀』の皆さんにも劣らない!!」
「悔しいが今の私達では手も足も出ない……!」
「み、見えなかった……アリサ様がいなかったらアタシ達……」
「むぅぅっ! 己の未熟さを痛感するわい!」
そう、正直な話彼等が魔王に挑むには妹達が言ったようにまだまだ時期尚早なのだ。
魔王とは。かつて『神界』に住まう神の成れの果て。例え勇者一行の生まれ変わりである彼等とて、到底敵う相手じゃないんだよ。ましてや妹達の加護も、特別な武具すらも持たないのであれば尚更。生身の普通の冒険者がここにいること事態おかしいってレベルなんだよね。
「それでも、アイギス達は今ここにいる。きっとこの先大きく挫折して大きく成長するよ! その可能性を私は守る。だから今は私の戦いを見守ってて!」
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【竜退治】~私達の可能性~《アイギスview》
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二対四翼を大きく広げ、飛翔する戦乙女のアリサ様と、ダークドラゴンとの戦いは終始アリサ様の圧勝だった。
まずアリサ様はダークドラゴンを私達から引き離す為、『追い出し』の魔法でその巨体を吹き飛ばす。
「ガオオオォォッッ!!?」
突然の衝撃に驚いたのだろう、ダークドラゴンが叫びをあげるその一瞬、『短距離転移』で一気に距離を詰めたアリサ様の神剣が煌めきその角を両断。
「うおっ!? あれに反応しやがった!」
「何とか角で済ませたってところか……あの一太刀。首が飛んだと思ったが」
そう、驚くべき事にダークドラゴンはあの一瞬に対応して見せた。そして目の前のアリサ様にゼロ距離からのブレス! を、まるで予見していたかのように『貯槽』を展開して無効化させるアリサ様!
剣聖奥義の歩方『圧縮』と『短距離転移』にて縦横無尽……否、それどころではない。この空間総てがアリサ様のフィールドだ。ダークドラゴンの素早い爪の振り下ろしも、その鋭利な牙による噛みつきも、巨大な尾による凪ぎ払いも……何もかもが明後日の方に放たれ、アリサ様には掠りもしない。
「ダークドラゴンがアリサ様と向き合ってる……あっ! 噛み付いた!」
「けど……当たってない……んですか?」
レイリーアとサーサがアリサ様の戦いをマジマジと観察する、ダークドラゴンの眼前に悠々と佇むアリサ様に苛立ちを覚えたのだろう、ダークドラゴンがアリサ様に噛み付いたのだが。アリサ様は微動だにしていないのに、何故か噛み付きが外れた。
「グッ!? ガアァッ!!?」
ガチィィンッガチィィンッ!! と、何度も何度も繰り返しアリサ様を食い千切ろうとその牙を鳴らして噛み付くダークドラゴン。だが、結果は変わらなかった。
「な、何が起きとるんじゃあ……ありゃ!?」
ドガも目の前で起きている意味不明な現象にその目をまるくして驚いている、相手をしているダークドラゴンは恐怖すら感じたのか後退り、グルゥゥ……とその顔を伏せ気味に上目遣いでアリサ様を睨み付けている。
「アリサ様……そう言うことなのですね……私達にも至れる境地があるのだと。そう教えて下さっているのですね?」
「うおぃ? アイギス、どういうことだってばよ?」
私が一人納得していると、説明しろと言わんばかりにゼルワが詰め寄ってきた。
「アリサ様は今、剣聖剣技・奥義の歩方『霞』を私達に見せて下さっているんだ」
「なんと!? あれは魔法ではなく技だと言うのか?」
ドガを始めメンバーが絶句する。剣聖剣技・奥義の歩方『霞』。相手の攻撃を一瞬の刹那、最小限の動きで回避する絶技。攻撃をした者の目にはそのあまりの回避速度に相手が一瞬霞んで見える事からその名がついたのだとか……
剣聖メルドレード。人の身でありながら神をも凌ぐその剣技は今も伝説に語られる。勇者アーグラスを赤子扱いし、弟子に取る。魔神すらもその剣技に恐れをなして、搦め手を用いることでしか勝利できなかった……など。彼の逸話はどれも信じられないようなものばかりだ。
「……そうか、ははっ! つまり俺達にはまだまだ可能性があるんだってこったな!」
「かの剣聖並みにとは、また随分と敷居が高いかも知れんが……その絶技をこう目の当たりにすると……ホッホッ、滾ってくるのう!」
ゼルワもドガもアリサ様の意図に気付いたのだろう、サーサとレイリーアも含め気落ちしていた心が再燃したかのように、強い眼差しでアリサ様とダークドラゴンの戦いに注目している。
「あんたなかなかやるじゃない? やっつけちゃうのはちょいと勿体ないかな……」
「ガアアァァッッ!!!」
悠然と眼前に佇み、笑みすら見せるアリサ様に対し「舐めるな!」とでも言うように吼えるダークドラゴンは一瞬の内に強力な魔法を発動させる! 闇魔法『奈落』! 一条の光さえ呑み込み総てを無へ還す大魔法だ! お伽噺『魔神戦争』の一節にも語られるかの大魔法がアリサ様を呑み込まんと迫る!
「『断絶』」
ギイイィィィーンンッッ!!!!!!
アリサ様が神剣を一閃! 耳をつん裂くようなけたたましい炸裂音を響かせ、ダークドラゴンの放った『奈落』ごとダークドラゴンの両翼をも切り捨てる!
剣聖剣技・秘奥『断絶』! 文字通り総てを絶ち斬る究極! アリサ様から師事を受けているからこそわかるその高見!
「ギャオオォォアアァァッッッ!!!!」
「大人しくしてなさいね? 『光の檻』」
フィンフィンフィンッッ! 両翼を失ない、その痛みに悶えるダークドラゴンの周囲にアリサ様のオプション、神剣を象ったそれがダークドラゴンを包み込み檻となす。敗北を悟ったのだろう、ダークドラゴンは観念したかのように頭を下げぐったりとその檻に捕らわれた。
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【想定外の擬き】~『無限円環』~《シェラザードview》
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バギィィンッッ!!
私を護る防御結界を構築する魔方陣がまた一つ、アルティレーネの攻撃によって破壊される。この小娘の権能『絶対命中』の正体である『因果関係の書き換え』に対応する魔方陣がだ。
「くっ! またしても……ええいっ! さっきから邪魔なのよこの主神擬きがぁっ!!」
「あれま、お下品ね? お里が知れるわよ~?」
「この程度の小細工で私を止められるとでも思いましたかシェラザード!?」
また一つ魔方陣が壊された! このままではアルティレーネの攻撃が私に届いてしまう! なんとか止めようと様々な魔法を放つものの、この忌々しい主神擬きがその全てを打ち払い、無効化し、時に吸収したりと。兎に角邪魔をしてくる!
何なのよ!? 出来損ないの勇者達を異空間に追いやって絶望を味あわせてやったと思ったのに……何なのよコイツ等は!?
「どうしたのですシェラザード、先程までの勢いは?」
「アイギス達を異空間に放り込んでしてやったり。なんて思ったんだろうけどね、ちょっと見通しが甘いんじゃないかな?」
くっ! ついに最後の魔方陣までも破壊され、私はアルティレーネの攻撃を自力で凌ぐ事を余儀なくされてしまった。しかし、やはりは魔神様も敬遠した権能だけあって、一撃もかわせない! アルティレーネの神槍『ティレーネ』が、私自身に張り巡らせていた防御陣をいとも容易く貫き……
ザシュッッ!!
「ああぁっ!!」
私の右腕を刺し貫いた! ああっ! ううっ! い、痛いっ痛い!!
なんてこと!? まさか、まさかこの小娘がこれほどの力を持っているなんて……
「『神を縛る鎖』!」
ガギイィィンッッ!!
「うああぁぁっっ!!?」
しまった! 痛みに悶えている間に擬きの放つ阻害魔法の鎖が私に巻き付き、完全に動きを封じられてしまった! なんなのよ、この擬きは!? コイツさえいなければ間違いなくアルティレーネに勝てたと言うのに!?
「なんなのよ!? この擬き! 貴女さえ貴女さえいなければ!!」
悔しい! 永い永い時を掛けて準備をしてきたのに、この擬きのせいで総てが台無しになってしまった! 許さない! 絶対に許さないわっ!!
「……シェラザード、いい加減気付いても良いのではありませんか?」
「あんただって本当はもうわかってる筈だよね? 魔神に利用されてるだけだって」
右腕を貫かれ、全身を鎖で縛られる私の目の前で『神槍ティレーネ』を構えるアルティレーネと、杖を構える擬きがまた意味のわからない事を言い出した。一体何を言っているのよ? 私が魔神様に利用されているですって!?
「ふんっ! 何を訳のわからない事を言っているのかしら? そんな言葉に惑わされたりしないわよ! さぁっ! 殺すなら殺しなさい! でも残念だったわねぇ~例え私を殺したとてあの出来損ない達は帰って来れないわよ?」
ふふふ、憎たらしい女神共を地獄に落としてやりたかったけれど……せめて一矢報いてやるわ。貴女達が懇意にしているあの出来損ないの勇者達を葬れただけでもよしとしましょう。また復活するまで永い時間眠りにつくことになるけれど、いいわ。次こそ貴女達のこの世界を崩壊させてやるから!
「……あぁ、もう……なんか見てらんないよ。アルティ、ここは私に預からせてくれないかな?」
「アリサお姉さま……わかりました。何かお考えがあるのですね? お任せします」
何よ擬き! その哀れみの瞳を私に向けるな!
ドッゴオオォォーンッッ!!!!!
「なっ!? 何事!?」
私が擬きに文句を言ってやろうと思ったその瞬間、この部屋の中央で閃光が爆ぜた! 凄まじい轟音と爆風が一気にこの最下層を支配する。げほっげほっ! もうっ埃が立つじゃないの!!
「私達にいいようにしてやられて、頭に血がのぼってるんでしょう? ちょいと冷やしてやる必要がありそうよね?」
なっ!? ど、どういうことよこれは!!? 爆ぜた閃光の中から現れたのは、あの主神もかくやと言えるほどの神気を纏う、まるで騎士のような姿をしたもう一人の擬き! 更に異空間に放り込んでやった筈の出来損ない共とズタボロにされ、結界に閉じ込められたダークドラゴンだった!
「お帰りなさいアイギス、みんな。さて……シェラザード」
「あ、貴女!! やっぱりティリアなんでしょう! 遍在存在なんてふざけた事主神以外に出来るものですか! 何よ何よ! そうまでして私をコケにして!」
ふざけてるわ! 何よ、いつもいつも掟掟ってうるさく言ってたクセに! 結局妹が最優先なんじゃないの!
「無様が過ぎるわ……本当に見てらんない。いくよ私!」
「文句なら後で聞いてあげるわ、勿論妹のティリアと一緒にね!」
そういい放つと同時、二人の擬きの魔力が私を包み込み中空に浮かせられる。擬き達は互いに鏡合わせの動きで腕を振り、魔力を神気に高めては一つの魔法を発動させる。
「「『無限円環』」」
現れたのは『∞』。その横になった8の字を象る巨大な円環。その魔法が発動されると、私の総てが溶けるかのようなイメージを伴い吸い込まれていく。
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【なんと黒竜が起き上がり】~仲間にry~《アリサview》
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イメージするのは以前みんなで遊びに行った、水菜の棲処。そしてアイギス達を閉じ込めたシェラザードの異空間。更にアリスの『待ち望んだ永遠』を参考にした私だけのプライベートルーム!
「「『無限円環』」」
シェラザードを間に私と、『鏡映す私・私映す鏡』の私が織り成す大魔法がまばゆい白光を放ち『∞』を描いていく。
シェラザードを飲み込み悠然とその姿を佇ませる円環に『白銀』達は息を飲む。
「あ、アリサ様……これは、一体……?」
「うん。シェラザードは魔神に呪いをかけられてたみたいだからね、しかも大分深く……それこそ、精神の根元って言えばいいかな? だから内面からその呪いを解いてやらないといけないんだ」
アイギスが中空に浮かぶ巨大な円環を見て私に問い掛けてくるので答える。
そう、彼女の呪いを解くには表面だけじゃ駄目なんだ、精神の根元……う~ん、『魂の根源』とでも言えばいいのかな? そこから治療してやんないと解呪は出来ない。
『無限円環』はその為の魔法でもあって、肉体と魂を分離させて、魂に直接『神々の雫』をぶっかけてやることができる。
「ああ、見てください! 『光石』の輝きが!」
「おお! あの禍々しい色が消えたぞい!」
サーサとドガが辺りを見回して声をあげた。シェラザードが『無限円環』に取り込まれたことで、彼女の憎悪に反応していた『光石』もその輝きを変えていく。いや、戻して行く。
「アリサお姉さま……ありがとうございました、私だけではシェラザードを救うと言う選択肢は取れませんでした、本当に……貴女に来ていただいてよかった……」
改めてアルティレーネが私達に深々と頭を下げてお礼をしてきた。女神達にとってもシェラザードが呪いの影響を受けていたってわからなかったみたいだけど、まぁ、神界に還すか、『無限円環』に捕らえるかの違いだけだと思うし、そんなに改まることはないと思う。
「気にしなくていいよアルティ。じゃあ私はシェラザードの面倒見てくるから、後はよろしくね、私!」
「うん、お願いね私。こっちは『迷宮核』とこのダークドラゴンをなんとかして、街に戻るよ」
『鏡映す私・私映す鏡』の私はそういって『無限円環』の中に入って行く、あの子も私なんだけど、呼び会うのにちょっと紛らわしいなぁ~後で何か考えないとね。
「アリサお姉さま『迷宮核』は私が創り変えましょう。ふふ、セリアベールの街が冒険者の街と称されることは存じていますからね、『氾濫』ではなく、少しだけ街やこの大地に住まう者達に冨が得られるように……余剰魔力は、『世界樹』に回すようにしましょう」
鼻歌まじりにご機嫌のアルティレーネは嬉しそうに部屋の奥に安置されている『迷宮核』を操作し始める。淡く輝くそのクリスタルは、アルティレーネの操作で明滅を繰り返しているね。何をどうやっているのかはさっぱりわかんない、後で聞いてみよう。
「グルルゥ……」
「と、捕らえられてるとはいえ……やっぱ怖いわね、でも、なんかもう敵意を感じないわ」
「ああ、しっかし……落ち込むぜぇ~俺達それなりに強くなった! なんて思ってたのによぉ~」
アイギス達『白銀』の面々は『光の檻』に捕らわれてすっかり大人しくなったダークドラゴンをおっかなびっくり見ては感想を漏らしている。レイリーアは敵意がないってわかってもやっぱり怖いみたいでダークドラゴンから後退り。ゼルワはそのダークドラゴンを見ては大きなため息をついてその場でヤンキー座りして盛大に落ち込んでる。
「でもほら! みんなこうして無事なんですよ!? 喜びましょう?」
「うむ! そうじゃな! ホレホレ!! お主等落ち込んどる暇はないぞい! こうしとる間も街では戦いが続いとる筈じゃ! 一刻も早く救援に向かわねばならん!」
「ああ! ドガの言う通りだぞみんな! アリサ様とこのダークドラゴンとの戦いを見て感じた事を踏まえて救援に向かおう! アリサ様お願いします!」
見かねたサーサが励ますと、ドガとアイギスがもう待ちきれないって感じでウズウズしてレイリーアとゼルワに呼び掛け、私にも詰め寄って来た。まぁまぁ、待ちたまへよチミ達~?
「焦らないの。この子をどうするか決めないといけないし……ねぇ? あんた、良かったら私達に力を貸してくれないかな?」
「……ワタシ、オマエニマケタミ……ゴウインニシタガエタマエノアルジ、オマエガフウジタ」
おう、なんかカタコトで、わかりづらいけどちゃんと意志疎通はできそうね。
「あら、その子シェラザードに狂戦士化させられたせいで大分理性があやふやになってしまったようですね? 竜族とは『竜言語』と言う言語を操り、様々な魔法をも扱える非常に賢い存在なのですよ?」
『迷宮核』の操作が終わったのか、アルティレーネが側に寄ってきて、一緒にダークドラゴンを見つめてはそう言うのだ。成る程、この子はシェラザードに強引に従わされた上に狂戦士化までされ、高い知識と理性を奪われていたのか。
「貴方が私達に牙を向けないと約束するなら、その傷も含めて色々なんかこうぜ~んぶ治しちゃうんだけど……どうする?」
「……タノム、ワタシハ、コノママオワリタクハ、ナイ……オマエニシタガウ……」
よしよし! 素直でいい子そうじゃないの。しっかり治してその背中に乗せてもらおうかな!
「ダークドラゴン。その言葉、創世の女神の一柱たるこのアルティレーネがしかと聞き届けましたよ? 違える事はつまり私達への裏切りとなります。良いのですね?」
「ニゴンハ、ナイ……」
アルティレーネが険しい瞳でキッとダークドラゴンを睨み付け釘を刺している。まぁ、今まで魔王に従っていた竜だし、そう簡単に信用はできないんだろう。だけどここまで言ってるんだし私は大丈夫だと思う。話してる今も全く悪意も邪気も感じないしね。
「よし! じゃあこの子を治して、私達も街に救援に行こう!」
おぉーっ!!
みんなの元気な掛け声がこの洞窟の最下層に響く。魔王は落とした! 後は召喚されて残っている魔物達から街をしっかり、防衛するだけだ!
アリスがいるし、『四神』達も召喚されてるみたいだし大丈夫だと思うけど急ごう! ゼオンの方にも手をうったとはいえ気になるところだからね!
アルティレーネ「迷宮核をいじるのは久し振りですね(^ー^)」
アリサ「いやぁ~迷宮核ってこんななんだね。FFのクリスタルみたい( ・-・)」
アルティレーネ「魔物の強さや配置はどうしましょう(・_・?)」
アリサ「下層に近付くほど強いのが出てくるってのが普通じゃない( ゜ー゜)?」
アイギス「まぁ、大抵のダンジョンはそうですね(*-ω-)」
アルティレーネ「ふむふむ、そうです! 以前アリサお姉さまが苦労されたと仰った、ロンダルなんたら~の洞窟を再現しましょうか♪ヽ(´▽`)/」
アリサ「えっ!Σ(´□`ノ)ノ だ、駄目よ! あんな地獄ダンジョンにしたら誰も攻略出来ないって!(-∀-`; )」
ドガ「地獄ダンジョン……そこまで言われると、ちと見てみたい気もするのぅf(^_^;」
レイリーア「フロア毎にボスを用意するのはどうかしら(´・ω・`)?」
ゼルワ「お、いいねぇ~(’-’*)♪それなら、滅多に会えないレアな魔物とかもいると面白ぇんじゃね(゜▽゜*)?」
サーサ「宝箱に擬態した魔物とかいてもいいかもしれませんね( ´ー`)ゼルワのような斥候が大活躍です(*´∇`*)」
アリサ「あ~ひと○いばこはトラウマだったわぁ~(-_-;)あ、入る度に構造が変わる迷路にしようよ、次のフロアに進むには五個の勾玉を台座に納める必要があるの(*つ▽`)っ」
アルティレーネ「いいですね(o^-')b !それなら長く親しまれるダンジョンになりそうです(°▽°)」
アイギス「……難攻不落のダンジョンになりそうですね( ; ゜Д゜)」




