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TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
5/211

5話 魔女と聖域【前】

────────────────────────────

【ユニ】~ゆにゆにするんじゃぁ~

────────────────────────────


「それでは名付けましょう……世界樹(ユグドラシル)、あなたの新たな名は……『ユニ』。今後そう名乗りなさい」


 アルティレーネがかしこまって、世界樹の女の子にその名を告げる。

 やっぱり神様なんだねぇ、後光が見える……気がする。

 『ユニ』……私達が話し合いで、あーでもない、こーでもないと、騒ぎながら頑張って考えた名前だ。

 ユニはアルティレーネの前にひざまづき、頭を垂れて一礼。


「ちゅ、ちゅちゅしんでっ! 拝命致します。女神アルティレーネさま」


 噛んだ、むわーっ! 可愛い!

 馴れない礼式に、おたおたしつつも一生懸命に頑張ってるのが伝わってくるね。


「おめでとう、ユニ。これからもよろしくね♪」

「ん、めでたい……ユニ、あなたに幸せな未来が訪れますように」

「おめっと~ゆにゆに♪ これから楽しく過ごそうね!」

「ユニ……私、ユニ!! 素敵な名前! ありがとう……女神さま、アリサおねぇちゃん……本当にありがとう~!」


 自分の名前を噛みしめるように呟いて、喜びと感謝を伝えて、ユニは涙ぐむ。


「──っ! いいえ……いいえ! 私達こそ……っ!」


 歓喜に涙をたたえるユニに感化されたのか、アルティレーネが泣きそうな表情で思いを吐露する。

かがんで目線をユニの高さに合わせ、その瞳を真っ直ぐに見つめる。


「ごめんなさい、ごめんなさいユニ……私達が至らないばかりに、あなたがどんなに辛い思いをしたか!?」

「あ、アルティレーネさま……!?」


 おっとっと、ユニを抱きしめて泣いちゃった。

 そっか、アルティレーネは世界の創造神で、その3人の長女だ。いろいろな責任やら感じていたんだろうね。特に世界樹は最初から一緒だったんだし。


「ありがとう、今まで……よく、耐えてくれました……ありがとう……その優しい心のままに産まれてくれて……ユニ、あなたは私達の誇りです!」

「あ、アルティレーネさま……う、うぅ……うわあぁーんっ!!」


 ユニも感極まったのだろう、役目を果たせずにいたユニもまた女神達に負い目があったのだ。

 それが今、赦された……うん……私も泣きそう、本当に良かった。


「ん、よかった……本当に」

「ぐすっ、うん……マジで、マジでよかったぁ~わぁーん! ゆにゆに~!」


 レウィリリーネもフォレアルーネもユニを抱きしめて一緒に嬉し泣き。

 その涙が今までの苦労を物語ってるようだ。


「ナァ~ん」

「ん、おいでミーナ♪」


 ミーナもおめでとう、良かったねって言ってるみたいに一鳴き、そんなミーナを抱っこして、ふと思う。

 ユニとミーナ。

 初日、アルティレーネは……私がミーナを具現した。そう言っていた。

 昨日、世界樹の(コア)は、ユニとなって私達の前にその姿を見せた。

 それは、女神達の記憶にもない、稀有な例らしい。

 ミーナは、きっと私がもう一度会いたいと、心の底から願った『想い』が形を成したんだと思う。

 そして、ユニは……多分きっかけは私の魔力、そして神々の雫(ソーマ)での後押し……その神々の雫(ソーマ)も私の魔力で浄化したものだ。かつての自分に重ねて、心の底から助けたいと願った、私の『想い』を乗せて。


「つまり、『魔女』にはそう言った『想い』をなんらかの形にできるってことか」


 ミーナとユニは『聖霊』として、今私達の前にいる。

 この力を与えてくれたのは多分……主神のティリアさまかな? もし会えたら感謝しないとね。


「アリサおねぇちゃん、ミーナちゃん! 一緒にお話しようよ♪」

「アリサ、あたしにもミーナ抱かせて」

「あ、じゃあ~うちはゆにゆにを抱っこしよ~っと♪」

「え? じゃ、じゃあ私は~アリサさんを~♪」


 あはは♪ みんな笑ってる。いい笑顔だね!

 ねぇ……これで少しは勇者達の『想い』に報えたかな?

 ……魔神と相討った勇者達、この光景が見える? 繋がったよ、あんた達の『想い』。

 ……できるなら、会ってみたかったな。

 どうか、安らかに……


(充分だ……ありがとう……俺達の戦いは無駄じゃなかった)


 一瞬、そんな声が聞こえた気がした。


────────────────────────────

【クワガタ+カブトムシ】~もちもち~

────────────────────────────


「では参りましょう、『聖域』を再生させるために」

「ん、目指すは中央」

「いざいざ! 世界樹向けてでっぱーつ!」


 おーおー、気合い入ってますね。


「──いや、待ちたまへよチミ達」


 魔神の呪いを解呪したからって、蔓延る魔物がいなくなる訳じゃない。

 その只中を進むにあたって、それなりの服装ってのがあると思うのよ? 森の中でもあるしね。

 レウィリリーネは、なんか魔導士っぽい、でも要所要所に可愛らしさを強調するリボンや、フリルをあしらったローブ。うん、わかる。

 MMORPGとかで魔法をメインに戦う職業に就いたプレイヤーが着るような服だ。

 フォレアルーネは、一見するとなんだろう……探検家?

 ポニーテールの頭にサンバイザー、長いマフラーに皮のベスト、肘まで覆うグローブ、そしてミニスカートにニーソックス、厚底ブーツ。チラリと覗くおへそがチャームポイント。

 強いて例を上げるなら、マイナーでもメジャーでもない微妙なラインだったゲームに登場した、レンジャーという職業のキャラクターに似ているけど。

 まぁ、動きやすそうではあるし。いいだろう。


「アルティレーネさんは、どこのパーティーに行かれるおつもりなんですかねぇ?」


 問題はそう、このアルティレーネだ。

 何を勘違いしているのか、ドレス姿である。それこそ一国のお姫様か、大貴族の御令嬢が晩餐会でダンスを踊るようなドレス姿。


「アリサさん、私の呼び方が戻っていますよ! 愛称ですよ愛称!」

「……ねぇ? 妹さん達、この子って天然箱入り娘なの?」

「「……見ての通り」」


 はぁ~主神の妹って立場上、きっと大事にされてきたんだろう。それこそ本当のお姫様のように。


「だいじょぶだよ、アリサっち! アルティ姉のドレスはそんじょそこらの伝説の鎧とかよりよっぽど高性能だからさ」

「ん、万が一でも絶対安心」

「もうっ! 何ですか3人でコソコソと。服装ならユニはどうなんですか?」


 ユニの服装は、私を含めたみんなの渾身の力作。

 まずは帽子に、ミーにゃん麦わら帽子。

 一目見ると、麦わら帽子をかぶったユニの頭にミーナがだら~んと脱力して乗っているように見えるね、可愛い! 勿論リボンも忘れていない。

 その首には、ミーナがにゃーんと言い出しそうな顔の、ワンポイントフリルチョーカー。

 服はと言うと、これぞお嬢様のテンプレ装備! 純白のタンクトップワンピース!

 大袈裟過ぎない程度にフリルをつけて、スカート部にシルエットになったミーナが歩く姿を一周あしらえた。

 更に私とお揃いのミーにゃんポーチ。

 でっかいミーナの顔をしたポーチで、額がパカッて開く小物入れ。ではなく、何でも入るマジックバッグだ、屋敷の箪笥がミーナの頭に吸い込まれるのは簡単には忘れられそうにない光景だったよ。

 しかもこのポーチに入れた物は、時間が停止するので保存に便利!

 女神達の持っていたマジックバッグの実物を見せてもらえたお陰で、完璧にイメージすることが出来たのだ!

 足首に白いシュシュ、モノクロサンダルを履かせて完成した我らの大天使。


「この大天使に何の問題が?」

「うんうん、ないね!」

「むふっ、こう見えて実は全部が全部高性能の魔装具」


 そうなのだ、ユニが着ている服には私が思い付いた数々の魔法が付与されているのだ! それに。


「私達が全員一丸になって守るんだから、何の問題もないでしょう?」

「うぅ、はい……」


 はい、論破。

 私達はみんなで屋敷を出ると、この『聖域』の中心である世界樹へ向かおうとしている。

 魔神の呪いが解呪された事で顕現はできたものの、その力はまだまだ十全とはいかない女神達。

 確実に『聖域』を再生するために、神達が本来在るべき場所。『神界』との(ゲート)を開き、主神ティリアの許可を得て、その立ち会いの下、女神本来の力を行使するのだそうだ。

 その(ゲート)世界樹(ユグドラシル)であり、鍵となるのが、(コア)であるユニだ。


「それでは女神様。僭越ながら世界樹までの道中、(わたくし)めが露払いを担いますので」


 わざとらしく畏まって女神達に一礼、確かスカートの両端を軽くつまみ上げて足を交差させて、頭を下げる……だったかな? アルティレーネの見よう見まねだけど。


「ぶはははっ! アリサっちへったくそ~♪」

「ん、なってない」

「うふふ、後でみっちり教えて差し上げますね」


 ぐすん……容赦ないな、お茶目しただけなのに。ちょっとは飴ちょうだいよ。


「アリサおねぇちゃん、カッコいいよ!」

「あ、ありがとぉ~ユニぃ~」


 ユニだけが嬉しい言葉をかけてくれる、ありがたや~。ホンにええ子や~。


「ま、冗談はさておき。世界樹の葉っぱが飛んで来なくなったから、鳥とか飛べる魔物がいっぱいいるみたい」


 上空に視線をやれば、鳥らしい影があちこちに散見される。あきらかに馬みたいなのとか、蛇みたいなのも見えるけどね。いや~やっぱり異世界だわぁ~。


「霧が晴れて、少しづつですが聖獣達も活発に動き出したようですね」


 おや、聖獣なんているのか。間違えて攻撃しないように気をつけておこう。自動鑑定を少し強化。


「なんにしても危ない事に変わりないね、はいっ、みんなこれに乗ってちょうだい」


 イメージして取り出したるは、リヤカー。これをアリアで牽引して飛ぶのだ。


「ん、ちゃんとクッションもある。さすがアリサ」

「オープンな馬車みたいで楽しそうじゃん!」

「わーい! 一緒に乗ろうミーナちゃん!」

「にゃあー!」

「何から何まで……アリサさんありがとうございます」


 物珍しいのかな? みんなちょっとワクワクしてるように見えるね。

 ミーナにいたっては生前家の外に出ない、箱入り娘だったのもあってすごく嬉しそう。

 前世での話だけど、家の前に車に轢かれた猫の死体を見て、ミーナを家猫にしてたんだよね。

 でも、今なら魔物がこようと守ってあげられるからね。一緒に沢山外で遊ぶんだ!


「みんな乗ったね~じゃあ、神の護り手(イージス)!」


 超重要人物達の護衛クエストだ、万全をきそう。護りはこれで良いとして。


「魔物が寄って来るだろうし攻撃手段もほしいよねぇ~でもなぁ、目の前でスプラッターなのは見たくないし、見せたくない」


 リヤカーに乗ったみんなをチラッと見やると、ミーナが用意したクッションを前足でもみもみしているのが見えた。4人はそんなミーナをニコニコして見ている。


「わかる……猫のもみもみは可愛いんだよね、そしていい魔法のイメージがわいたよ、アリア!」


 ミーにゃんポーチからアリアを取り出して声をかけると、「わかってますよ」と言わんばかりに姿を箒に変える。流石相棒♪

 アリアに座り、シャックルとベルトスリングをイメージして具現させて、アリアとリヤカーを連結させる。


「さぁ、いくよ! ちょーっと刺激的な空の旅、お楽しみあれ~♪」


 リヤカーと自分に魔力をこめて、ゆっくりと螺旋を描いて飛び上がる。

 乗客をびっくりさせないように、空から見える景色を楽しめるように。


「おぉ~綺麗~♪ 霧が晴れるとこんななんだね!」


 私が楽しんじゃってるよ。昨日は霧で昼間でもどんよりしてたんだけど、今は澄んだ青空が広がり遠くまで見渡せるくらいだ。


「ここからでも世界樹が見える、うん、葉に乗った朝露が日の光を浴びてキラキラとまぁ~気持ちよさそうだね!」

「うん、すっごく気持ちいいよ~♪」


 ユニが嬉しそうに、晴れやかな笑顔を見せてくれる。そっか、樹だもんね、沢山お日様の光浴びて元気いっぱい! って感じなのだろう。


「ん、またこの光景が見れた……アリサのおかげ、感謝」

「おぉ~! テンション上がる~♪ サイッコーに気持ちいいじゃーん!」

「あはは、下は見ない方が良さそうですけどね……」


 あー、まぁ、あくまで霧が晴れて空が澄み渡った~ってとこまでで、まだまだ地上は淀んでるからね。川はヘドロのままだし、大地は全体的に黒ずんでいて緑が少ない。

 ギョーワギャーワと至るところから魔物の叫び声がこの空まで届いてるし。


「って、早速来たね!」

「あれはプテランバード! 獰猛な鳥型の魔物です!」


 え、鳥なのあれ? プテラノドンじゃないのか、が、ひーふーみーよー……6頭私達に向かってグワグワ言いながら飛んでくる。

 私はリヤカーに隠蔽魔法をかけて、女神達を相手に認識させないようにする、そうすると、ターゲットが私に移ったようでリヤカーを素通りする進路を取っている。


「いやぁ、近くで見るとなんか感動するなぁ~まんまプテラノドンじゃん」


 この世界には普通に恐竜がいるらしい、いずれTレックスとかも見てみたいね。

 まぁ、今はコイツ等と遊んでる暇はないので、追い払おう。


弾性空気弾(もちもちエアもっちー)!」


ポポポポーン!!


 手をかざして弾性空気弾(もちもちエアもっちー)を連射する。みんなに用意したお手製のもちもちクッションの空気版、非常に弾性が高く、粘性が一切ない。ぶつかってもボヨヨーンと相手を弾く、非殺傷魔法だ。

 とは言え、呼吸器に入ると危ないかもしれないね、もちもちだからさ。


モニーン! ボヨーン!


「クエェェーッ!?」


 一頭、また一頭と弾かれては明後日の方向に吹っ飛んでいく様は結構面白い。


「あははははっ! 今クエェェーッって言った♪」

「ふひゃははははっ! 近付いては勝手に吹っ飛んでってる! おもろすぎ~♪」

「ふ、ふふっ! な、なんだかプテランバード達が可愛く見えてきますね。ふふっ、あははは!」

「ぷふっ……あの「何が起きた?」って感じの顔がまた……プフーっ!」


 帽子を抑え、視点操作にデュアルモニターで周囲を警戒しつつ、みんなの様子を伺うと、どうやら楽しんでくれてるみたいだね。

 だいたい自転車くらいの速度で進んでいるので、世界樹は視界に映れどまだ遠い。


「あらら、帰ってっちゃったよ、バイバーイ♪」


 フォレアルーネがちょっと残念そう。プテランバード達は私達を攻撃しても無駄と悟ったのか、弾き飛ばされるのが嫌になったのか、足並み揃えて帰っていく。その際にグエグエーとか、グワワーとか言ってたのが、「チキショー!」「覚えてやがれー!」とか聞こえたのは幻聴かな?

 そうやってスイスイ飛んでいると、またもや敵性マークが近付いて来る。


「今度はなによ? ってあのいっぱいの点々か、虫の大軍ってとこかな?」


 進む左手の森の木々から、ザワザワっと黒い点々柱が立ち上るとこちらに向かってくる。

 どうも見た目バッタのような。


「うげぇ! ダイナゴンの群れじゃん!? 最悪っ!」


 フォレアルーネが心底嫌そうな顔で叫んだ、ダイナゴンって……やっぱりバッタか、ふざけた名前だこと。


「虫は駄目……気持ち悪い」

「ダイナゴンはなんでも食べちゃう悪いヤツだよ! アリサおねぇちゃんやっつけられないかな?」


 虫嫌いの女の子って多いよね……私は平気だけど。しかしこっちのバッタは素で悪食か、魔素のせいで魔物化したのかな? これから稲や麦を植えての『美味しいごはん計画』の障害だね!


「任せて、佃煮にしてあげる!」

「嫌です、そんなの食べたくないです!」


 え~、結構美味しいんだけどな……まぁ、見た目まんま虫だから駄目な人はホント駄目だろうからなぁ~ふむぅ、となると虫取アミで一網打尽にしてやるか。

 そう、普通サイズじゃ駄目だ、あの点々全部スッポリいけるサイズで~んん~ほいっ!


ブオォンッ!


 バカでっかい虫取アミを魔力で操って、点々柱をまるっと飲み込ませては、爆竹をイメージした火魔法を放つ。


花火(ファイアフラワー)!」


パパパパァーンッ!!


 けたたましい炸裂音を響かせてイナゴ達が連鎖して爆ぜていく、これだけだと「汚ない花火」で終わってしまうので、虫アミの持ち手を導火線に見立て火属性魔力を走らせる。


ドォーンッ!!


「たぁまぁやぁ~ってね!」

「わぁー! すごーい!」


 虫アミが色とりどりの大輪の花火を咲かせみんなを楽しませる。

 こういう風に自由に魔力を操作するのって凄く楽しいんだよね、色々遊んでみたくなるよ♪


「綺麗……あたしも知りたい、アリサ、後で詳細希望」


 レウィリリーネがお得意の詳細希望してくる、いいよ~落ち着いたら一緒に遊ぼうね。


「はわわ、終わりましたかぁ~もう虫いませんか?」

「にゃぅぅ~」


 アルティレーネはミーナをぎゅーってして目をつぶってる、それで良いのか? 創造神。


「終わったよ~ミーナが苦しそうだから離してあげて、アルティ」


 離さない。眉を八の字にして不安そうに私の背中をみてる。はぁ~。


「あんたねぇ~仮にも創造神なんでしょ? この虫達も3人が創ったんじゃないの?」


 自分達が創造したのならちゃんと見てあげなさいな。


「仮じゃないモン、ちゃんと創造神だもん……アリサさんの意地悪」


 あらら、拗ねちゃった。しょうのない子だこと。思わず苦笑い。


「ふふっ! なんか今のアリサっちの言い回し、ティリア姉にそっくり」

「ん、言われてみれば確かに」


 おっと! またなんか来るぞ! 敵性マークが無反応のところをみると敵じゃないのかな?

 油断せず相手を確認、どうやらまた虫型の魔物みたいだね、って結構速い!

 バリアにぶつかって、べちゃっってなったら嫌なので、牽制の意味で前方にシールドを展開させる。すると接近してきた虫が速度を落として、シールドの手前で止まった。


「お、おおぉっ! かぁっこいいぃ~♪」


 思わず目が星になりそうだ!

 目の前にあらわれたその虫はちょっと大きめなクワガタ虫。ミヤマクワガタとヘラクレスオオカブトを足したような大きなアゴと角を持ったクワガタだ!


「やっば! なにこの子ちょーかっけぇ!! おいでおいで!」


 シールドとバリアを解除して、ミヤマヘラクレス(仮)を手招きしてみる。するとどうだ、私の言葉を理解したかのように寄って来て、なんとビックリ! ペコリとお辞儀したのだ!


ピコーン


『セイントビートル。世界樹を守護する聖なるクワガタ。とても賢くあらゆる魔法を操る。他種族との意志疎通も可能』


「あーっ! セインちゃんだ! 良かった、生きててくれたんだね!」


 ユニが真っ先に反応した、なるほど、魔神の呪いを受ける前は守ってもらっていたんだろう。リヤカーを隠蔽しているからセイントビートルからは気付けないけど。


「セイントビートル! うわぁ懐かしい!」

「ん、全滅したと思ってた」

「魔神と勇者達の戦いに協力してくれた勇敢な戦士、セイントビートルです! 良かった、生きていてくれたんですね!」


 おぉ~! なんぞ凄い評価受けてるぞ! ってアルティレーネ、この子も虫なんですけど?


「あんた、セインちゃんって言うの? 世界樹を守ってたっていう?」


 話しかけてみるとセインちゃんは一生懸命ジェスチャーを駆使して、私に語りかけてくる。


「ふんふん、魔神が世界樹を狙った時、仲間と勇者達と共に懸命に対抗したけど歯が立たず破れ去った。生き残った者も呪いを受けた世界樹の葉弾(リーフバレット)に貫かれてしまった。自分は最後の生き残りとして、今まで修練を積み、先日いざ使命を果たさんと世界樹に向かったが、あなたが呪いを解呪した。」


 そこまで私に伝えて、セインちゃんは深々と頭を下げた。


「ありがとう、勇敢なる魔法使いの少女よ……我らの悲願を果たして頂き、心より感謝する。これで『聖域』が再生するだろう、数百年という時間はかかるだろうが、今度こそ我、命を賭して世界樹を守らん! 再び女神降りるその日まで」


 かっけぇ~……ヤバい惚れそう! 騎士かコイツ!


「どういたしまして、誇り高き世界樹の騎士。私はアリサ、女神達の願いを叶える為に遣わされた『聖域の魔女』よ」


 セインちゃんに合わせて少し畏まって返答すると、セインちゃんは心底驚いたみたいで。「女神様達は御無事か!?」って聞いてくるので、リヤカーに入れてやる。


「感動の再会に積もる話もあるだろうし、ゆっくりしててね」


 するとリヤカーが賑やかになる、女神達はセインちゃんの無事を喜び沢山感謝しているし、ユニはわんわん泣いて、セインちゃんの仲間を死なせてしまったことをひたすらに謝っている。

 セインちゃんはセインちゃんで、我々の力不足のせいで世界樹は何も悪くないのだと必死に宥めている。落ち着くまで頑張れ~。


「悪いのは全部魔神だとは思うんだけどね……」


 全面的に魔神が悪いのは間違いない。だけど、本当にそれだけだろうか? 他の神々、そして主神たるティリア。彼等は魔神がこういった行動を起こすと予想出来なかったのだろうか?

 

ブンブンッ!

 

 いけないいけない、首を振って考えを改める。……駄目だね、レウィリリーネも言ってたように神も万能じゃないんだ。疑うのはやめよう、いくら前世から受け継いだ人嫌いっていっても、警戒しすぎて恩人まで疑っちゃ駄目。引っ張られ過ぎても駄目!


パンパンッ!


 変な考えに至ってしまった自分に、反省するように頬を叩く。

 さぁ、気を取り直して世界樹に向かおう。


────────────────────────────

【プープー】~ヒヒーン~

────────────────────────────


 世界樹に向かうこと数十分、や~来るわ来るわ魔物達。やっぱり鳥型が多いよね。

 弾性空気弾(もちもちエアもっちー)が大活躍しては、リヤカーの女神達を楽しませる。

 ユニも落ち着いたようで、セインちゃんとミーナと一緒にニコニコしてる。うんうん、よかったね♪ やっぱり女の子には笑顔が一番だよ。

 ちょいとミニマップと敵性マークを示す魔法を改善、敵意のない相手を青で、敵意あるのを赤と、色分けして表示させる。今まで赤しか表示させてなかったからね。

 っと、早速青いマークがあるじゃんか。


「上かな……って、なんだとぉーっ!?」


 ほわわああぁぁーっ!!! モコモコが飛んでるーっ!!

 なんだ、どう例えればいい? 物凄く太ったヒヨコ? まん丸ポンポンか!?

 でっかい球体に申し訳なさそうなほどちっちゃい翼をパタパタして飛んでるポンポン。

 物理的にあんな小さい翼であの質量が飛べる筈ないので、魔法で飛んでるんだろう。

 視点操作と通信魔法の合わせた映像通信(ライブモニター)をリヤカーに送る。


「まぁ、モコプーじゃないですか! 相変わらず愛らしい姿です!」

「ん、この子達が魔神にやられた時は世界が絶望に染まった」

「モコプーは希望を象徴する聖鳥なんだよ、だから真っ先に魔神に狙われたんだよね」

「おっきくて可愛い~♪」


 へぇ~希望の象徴か、なんかピッタリのような、そうでもないような? よくわからないね。

 視点操作で色んな角度から見てみる、ほわぁ~可愛いなぁ~♪ もうちょっと小さければ一緒に遊べただろうに、惜しい!


(あー、あー、わぁたぁしぃのぉ~声、聞こえますかぁぁ?)

「うおっ! ビックリした、通信魔法か……送り主はあんたね、まん丸ポンポン!?」


 高度を上げて、まん丸ポンポンと並走する。マジででっかいな、一軒家くらいだ。


(良かったぁ~聞こえてた~わたしぃ~モコプーっていいます~初めまして『聖域の魔女』さまぁ~♪)

「随分のんびりした口調ね、あんたセインちゃんとの会話聞いてたの?」

(うん~わたしぃ、耳良いんですよぉ~。で~その時~ちょっとだけ女神さまの気配感じたんですけどぉ~どいうことかなぁ~って思いまして~)


 どうやら耳だけでなく、感覚も鋭いようだ。こんなにずんぐりむっくりなのに。


(いまなにかいいましたぁ~?)

「言ってないわよ」


 うん、鋭い。

 モコプーにこれまでの経緯と今の状況を伝えて、リヤカーと一緒に隠蔽して魔物に狙われないようにしてあげる。サイズが大きいから結構大変だったよ。

 ちょいと気になって、視点をいじる。箒で空飛んで、リヤカー曳いて。これって運送屋みたいだね。宅急便でもやりますか~?

 やめよう。なんか前世の記憶がそれ以上は駄目だと言っている。


「でも空輸って便利よね。あー、魔物が邪魔しに来ちゃうか」


 魔物に対抗出来る手段がないと流行らないね、私はミーにゃんポーチも対抗手段もあるからいけるけど、ん、ミニマップに敵性マークの赤と無害の青あり?


「こっちに気付いてないのかな? 動いてない」


 視点をズームして確認すると、なんか羽根生えた蛇が数匹で、一頭の馬を取り囲んでいる。あれか、最初に見えた影か。馬は見事な翼を持ってる事から察するに、かの有名な天馬……ペガサスじゃないかな?

 もしかして戦ってるのかな? って思った矢先、蛇が馬に噛み付こうと三匹飛び掛かった! しかし馬はヒラリと身をかわし、ヒヒーンッ! と雄々しく嘶く。すると襲い掛かった三匹の蛇に雷が落ちた。

 おぉ~! 今のって雷魔法だね! 私も使ってみようかな。


「あれ……もしかして、あんまり効いてない?」


 よく見れば雷に打たれた三匹の蛇はけろってしてる、馬は上手に攻撃を避けて、体当たりや、後ろ足を使った蹴り飛ばし、たてがみに魔力をこめて、首を振り回し苦無のように飛ばしたりと、多彩な攻撃を繰り出すものの決定打に欠けるみたい。

 蛇の方は、合計五匹のようだ。数に物を言わせて一斉に火を吐いたり、二匹で飛び掛かって、馬が避けたところに残りの三匹が襲い掛かったりと上手く連携して馬を追い詰めている。


ピコーン


『ミッドル。常に群れで行動する空の狩猟者(ハンター)。非常に狂暴で好戦的、連携攻撃を得意とし、的確に獲物を追い詰める。体内に毒線を持ち牙から分泌させる。毒は麻痺毒。火、風、土属性に強く、冷気に弱い』


『天馬ペガサス。雷鳴と雷光を運ぶ幻獣。女神の守護を担うが、とても大人しく温厚』


 ん、ペガサスの情報少ないな。まぁいいや、助けてあげよう!


「ペガサスが襲われてるみたいだから、ちょっとスピードあげるよみんな!」

「ミッドル……このハイエナども、ペガサスを狙うなんて身の程知らず!」


 映像通信(ライブモニター)を見たレウィリリーネが、言葉に怒気をはらませる。


「大変! アリサさん、ペガサスは戦いに向いていないんです! お願いします、助けてあげて下さい!」

「きっとうちらの気配感じて探してるんだ、モコプーと同じように!」

(わたし遅いので気にせず行ってあげてくださぁ~い)


 モコプーが付いてこれないか……ちょっと困ったな、置いていく訳にも行かないしね。


「アリサ殿、ここは我が先行しよう!」


 セインちゃんが、名乗り出る。有り難いんだけど、ちょいと待ってて。試したいことがあるんだ。

 私はオプションを一つ、杖アリアに模して展開、昨日よりちょっと大きめで、それを手に取る。

 撃ち出すのは氷の弾丸(アイスショット)、イメージするのは……!


「ロックオン、ふふふ、落ちろカトンボ!」


 一度は言ってみたいセリフをここぞと使って、視点をズームにしたままミッドルに向けてオプションを構える、そう、スナイパーライフルだ。

 バシュバシュバシュッ!! オプションから五発、青い冷気を伴う閃光が放たれる。


「ギャッ!?」「グギャーッ!」「ゲギョッ?」「ギャギャ!」


 放たれた氷の弾丸(アイスショット)は正確にミッドルの頭を撃ち抜いていく、しかし少し距離があった一匹が回避行動を取って弾丸をかわそうとする。しかし!


「ギャッ!!?」


 かわした筈の弾丸が鋭角に軌道を変え、逃げようとしたミッドルの一匹を撃つ。


「昨日の葉弾(リーフバレット)には手を焼かされたからね~参考にさせてもらったんだよ♪」


 追尾機能だ。上手くいったね! おーおー、ペガサスもビックリしてキョロキョロ辺りを見回してるよ。早速側に行こう。


「アリサっちスゲー、これ言うの何度目だろ?」

(はぁ~っ!? なんなんですか今の!? 魔法の静謐発動に加えてこんな超長距離を追尾機能付きで撃ち抜いたぁ~!?)

「プープーうるさいモコプー、アリサの力はこんなものじゃない」


 モコプーってプープーって鳴くんだ、変な鳥だねぇ。


「頼もしい限りです、何度感謝しても足りませんね」

「アリサおねぇちゃん、本当に凄いなぁ♪」

「我もあの高みに至れるであろうか? 精進せねば!」


 そんなに絶賛されるほどでもないんじゃないかなぁ~、背中がむずがゆいよ。


「向こうもこっちに気付いたね、あぁ、警戒してるのかな?」


 ん~敵じゃない子にも警戒されちゃうのはちょっとなぁ~……むぅ。


「ねぇ、ここからは隠蔽解いていいかな? ペガサスも警戒しちゃってるんだよ」

「ん、問題ない」

「うちらだってそれなりに戦えるって!」

「確かに魔力は温存しなくてはいけませんが、ご安心を。勇者達と共闘したのは伊達じゃありませんよ?」


 え? 「力を貸した」って聞いてたけど、勇者達と一緒に戦ってたのか。てっきり武器とか防具を貸し与えてた~くらいに思ってたよ。


「案ずるなアリサ殿、女神様の為、世界樹の為! 今こそ我が武を示さん!」


 セインちゃんが元気良く私の隣を並走する、ふふ、頼もしいね。


(あー、わたしも頑張ってみますよぉ~、この体なら盾になれるでしょうから~)


 モコプーもそれなりに覚悟してここにいるんだね、ちょっと頼りなさそうなんて思ってごめんね。

 神の護り手(イージス)があるから大丈夫だとは思うけど、念のために、展開するオプションを増やし、警戒を強め隠蔽魔法を解除する。


「よし、ペガサスに姿を見せてあげて女神達!」

「あいよ! おーい! ペガサス~久し振りーっ!」

「ん、元気」

「よくぞ無事でいてくれました!」


 三者三様にペガサスに声をかける女神達。ペガサスもそれに気付き駆け寄って来る、うん、嬉しそうだ。女神達の目にも、撫でられるペガサスの目にも涙が浮かんでいる。良かったね♪


「ねぇ、セインちゃん。他にも女神達や世界樹を守ってた子っているのかな?」

「うむ、勿論だアリサ殿。元々この『聖域』は名の通り、創世の神が降り立ち、我等神の遣いが集う聖なる領域。世界樹にかけられた魔神の呪いの解呪を皮切りに、多くの同胞達が蔓延る魔物どもを一掃せんと立ち上がっている」

(うんうん、でもまさか、既に女神さま達が顕現してるとは思ってなかったですよ~?)


 おおぅ、どうやら昨日の私と世界樹の戦いが、みんなの反撃の狼煙になったみたい。

 女神達は昨日から顕現してるけど、あの屋敷自体、周囲からの認識を阻害してるから気配も感じなかったんだろうね。


「ありがとう、魔女さま。女神さまと世界樹を守ってくれて。僕はペガサス。女神さま達を乗せる天馬」


 ペガサスも私に並走して、挨拶をしてくれる。あー、なんだねチミぃ~普通に喋れるんかぃ。


「どういたしまして、私はこの『聖域』の魔女を任命されたアリサ。よろしくね。女神達との挨拶はもう良いの?」

「はい! 女神さま達がお元気そうで本当に良かった! ユニちゃんにも驚きましたけど、とても喜ばしい事だと思います!」


 後、あの聖霊の猫も可愛いと思います。とか付け加えたペガサス。わかってるじゃない! 私のペガサスへの評価がグンって上がったぞ!


「魔女さま、よろしければその荷台を僕が曳きましょうか? 馬車みたいになりますけど、似たようなものだと思うので」


 荷台って、リヤカーの事か……それをペガサスが曳くと、馬車みたいに……?

 有り難いんだけど、今回は丁重にお断りする。今は護衛クエストの最中だからね。


「無事に『聖域』が再生されたらお願いするよ」

「はい! その時はお任せ下さい!」


 まんまあの超名作RPGの六作目みたいで、心惹かれるね。その時はこんなリヤカーじゃなくて立派な幌馬車を用意したいものだ。


「いや~しかし、大所帯になってきたね。世界樹に到着する頃にはどうなってる事やら」

~今回の犠牲者~

・プテランバードさん達

 アリサ「プテラノドンでいいんじゃないの?」

 ユニ「沢山もちもちして帰ってた」


・ダイナゴンの群れ

 アリサ「甘口の佃煮」

 ユニ「爆竹虫アミ花火」


・ミッドル共

 アリサ「見えるっ! そこっ! でもよかったかな?」

 ユニ「カトンボさん達」

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