48話 魔女と街の防衛
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【防衛戦】~北~《バルドview》
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「うおおおっ!! 負けるかよぉっ!!」
ザシィッ! ズバァァッ!!
セリアベール防衛ライン・北。俺達『黒狼』のメンバーはそれぞれ、各方面に分散し、冒険者達の指揮をとることになった。俺……バルドとカイン殿がこの北を担う!
東にはセラとネヴュラ殿が、南にはデュアードとアリス殿。西にはシェリー、ブレイド、ミストにバルガス殿が配置についている。ミュンルーカはフォーネと一緒に冒険者ギルドで負傷者の治療のために詰めているところだ。
アリサ殿の魔法『聖なる祝福』を受けた俺達冒険者は、次々に襲い来る魔物達を相手に善戦している。魔王の『見通す瞳』から召喚される魔物の中には、格上とされるヤツも多くいるのだが、その最たる例がホーンライガーだろう。
「よくもアイギスさんの腕を奪ってくれたな! この野郎っ!!」
「ホーンライガー絶対殺す!!」
前回の『氾濫』で、俺の朋友アイギスの片腕を奪ったという事実からも、特に目の仇にされている。
「いかん! お前達深追いするな!」
アイギスを慕い、仇敵に怒りを見せるのは朋友としても嬉しいものであるが、それに囚われ周りを見なくなってしまうのはいただけない。
「し、しまった! 囲まれちまった……」
「くっ……私としたことが熱くなりすぎてしまった!」
俺が叫んで注意するも、時すでに遅し。執拗にホーンライガーを追った二人の冒険者が魔物達に包囲されてしまった!
「ちっ! ここから間に合うか!?」
俺は全速力で駆け出し、彼等の助けに入ろうとするが、あろうことか目前にデビルクスが立ち塞がる。『デビルクス』……こいつはかの一つ目の巨人、サイクロプスの上位種であり、身の丈はサイクロプスとさほど変わらないものの、知恵が回り、魔法も操る危険極まりないSランク指定の怪物。
(だが! 『聖なる祝福』を受けた今の俺なら……!! 迷っている暇はないっ!)
今は躊躇している時ではない、一刻も早く魔物に囲まれた二人を助けなければ!
「『聖雷』!!!」
ズガアアアァァァァーンッッッ!!!
「グワアアオオォォォッッ!!?」
「なっ!? 何だっ!?」
耳をつんざき、大地が震えるほどの強大な雷がデビルクスを、その周囲の魔物を切り裂き塵にする! なんという凄まじい威力だ……一体誰が?
「大丈夫ですか!? 今のうちに離脱してください! 皆さん! どうか突出しすぎないで!」
「カインさんか!? 有り難い! 感謝します!」
「た、助かったぜっ! 救援感謝する! お言葉に甘えて戦列に戻る!」
あの轟雷はカイン殿が放ったものだったようだ。しかし、凄まじい威力だな……先の手合わせでは全く手の内を見れなかったが、これほどとは!
「ふっ! 俺も負けられん!」
俺は改めて愛剣『黒狼』を構え、眼前に立ちはだかる魔物達に向かい、斬り込んで行く!
「おぉ! バルドさんだ! 俺達もバルドさんに続くぞっ!!」
オオオォォォーッッ!!!
「負傷した者は直ちに下がれ! 余裕がある者は動けない者に手を貸してやれ!」
「門近くまで退避すれば街の者がギルドまで運んでくれるぞ!」
「おっと! ギルドに詰めてる僧侶の姉ちゃん達目当てに! なんてのは無しだぜ~?」
ふっ、この状況でそんな軽口が出せるならばまだまだいけるな! 俺は迫る魔物を斬り捨て、立ち塞がるイービルプラントを切断してのける。カイン殿はカイン殿で周囲の魔物をその雷と、鬣を組み合わせた魔法を駆使して次々に焼き払っている。
(アリサ殿のオプションから構想を得たと言っていたが……やれやれ、今の俺ではとても敵わんな……)
俺達の目標はあの『見通す瞳』の破壊だ。映像通信には遂に、アルティレーネ様とアリサ殿、そしてアイギス達『白銀』が、魔王との決戦に突入した様子が映し出されている。
正直彼等と肩を並べて戦いたかったが、あれほどの力の差を見せつけられてはな……共に戦えないのも悔しいが、足手まといになるのはもっと悔しい。
「俺も『聖域』に渡り強くなって見せる……アイギス、その時は手合わせしてもらうぞ!」
ザシュゥッ!!
「ギャワンッ!」
「ウオオーンッッ!!」
ちぃっ! キリがない! 群れを成し突っ込んで来るソードッグを何体も何体も斬り捨て、『見通す瞳』への道を拓こうとするが、如何せん数が多い!
「うわああっっ!!?」
「ウソだろ! なんだよありゃあっ!?」
「あ、あんなのどうやって倒せって言うのよ!?」
俺と同じく『見通す瞳』に向かっている冒険者達が、目の前で起こったあまりの事態に悲鳴じみた声をあげた。それもその筈……俺も驚き、目を見開いた。
目指す『見通す瞳』から召喚された一体の魔物。その大きさときたら冒険者ギルドの建物を二つほど横に並べたかのよう。筋骨粒々と一目でわかるほどに発達した全身。歯向かう者は容赦せんとでも言わんばかりに頭から前方に捻り伸びる巨大な二本の角。その眼光だけで相手の戦意を喪失させる赤黒く光る双眼、総てを咬み切らんとする恐ろしく鋭い牙が生え揃う巨大な口……その魔物が俺達に向けて咆哮をあげた。
グアオオオオォォォォーッッッ!!!!!!
「べ……ベヒーモス……」
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【防衛戦】~東~《セラview》
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あ~防衛始めてどんくらい経ったっけ? 結構長いこと戦ってるような、さっき始まったばっかりのような?
「すげぇ~! アリサってマジにすげぇんだな! こんな魔法あったなんて!」
「私も話には聞いておりましたし、実際にこの『聖なる祝福』を纏ったゼーロさんにお相手頂いた事もありますが……」
ビュゴオオォォーッッ!!
「「グォアァッ!?」」「「ギャンッッ!!」」
そう言って襲いかかって来るバーンタイガーの群れに『氷嵐』をぶっぱなし……
ズゴオオォォォーッッ!!
「「ピィッ!?」」「「ピギューッ!?」」
フリーズバードの大群を『炎嵐』で凪ぎ払うネヴュラ。
「「うおおぉぉーっ!!」」「「すげぇぜネヴュラさん!!」」
この東を守る冒険者達からもでっかい歓声があがってる! いやぁ~ホントに助かるぜ! これだけ大規模な『氾濫』は今までになかったからな……もしアリサ達『聖域組』が来てくれなかったらとてもじゃないが耐えきれなかっただろう。
「実際に自身で体感するとその素晴らしさがわかりますわね、この全身に漲る万能感。流石は我等の神であらせられるアリサ様……さぁ、セラさん! 一気に駆けますよ!?」
「おぉっ!! 行くぜみんなーっ! あの目玉野郎をぶっ壊せ!!」
ウオオオォォォォーッッ!!!!
アタイ達は雄叫びをあげて、魔物を次々に召喚してくるあの目玉。『見通す瞳』を破壊するべく、魔物を蹴散らして突き進む。ついさっきまでやたらと鳥系の魔物が多く現れて、動くのも四苦八苦してたんだけど、アリスが対抗して『聖域』からいっぱいグリフォンを引き連れた、これまたすげぇ連中。神獣だか神鳥だか、聖獣だかなんやらとを応援に喚んでくれたんだよな。おかげで空から襲われるって脅威が極端に減って進撃が可能になったんだ!
「あらよっと!」
「グオオッ!」
ザシュゥッ! アタイの戦斧が一閃二閃! 迫って来たグリズリーの腕を、首を斬り飛ばす!
「しかし、すげぇな……って、アタイそればっか言ってるな」
「あら、今度は何にたいしての凄いなのですか?」
うん、アタイ同じことばっか言ってる気がする。まぁでも正直な感想なんだししょうがないじゃん? 隣を並走するネヴュラもなんか気持ち楽しそうだな?
「あの空飛んでる『聖域』の連中さ、入り乱れて戦ってるように見えて、実は凄く動きが……何て言うのか、とーせー? されてるっていうかさ?」
「あぁ、なるほど……よくお気付きですね。Sランクは伊達ではないと言うことかしら?」
アタイの感想に感心したような目を向けるネヴュラは、実際にあの空を駆ける連中について語ってくれた。
「彼等『ガルーダナンバーズ』はアリサ様が組織したのですよ? ふふ、アリサ様としては「こんなんどうかなー?」って、軽いノリのようだったのですけどね? そしてグリフォン達はアリサ様から名付けを頂くため、全員が我こそはと躍起になった結果、比類無き空戦部隊が出来上がったのです」
ほへぇ~なんか、もう……ホントに色々すげぇや。ゼオンの執務室で『聖域』で起きたっていう出来事をざっと説明受けたけど……アリサってマジに慕われてんだな。バルガスとネヴュラなんて神様扱いしてるし……
「「うおぉっっ!? セラさん! 何かすげぇの出てきたぞ!」」
「「キャアアァーッッ!!」」「「うがぁぁっ!!」」
ドオォォーンッッ!!!
そんな時だ、アタイ達の進む先。目玉野郎の近くで大きな爆発みたいな音が周囲に響くと同時、最前線の冒険者達が悲鳴をあげた!
「マジか……」
「ヘカントンケイル……これは、厳しくなりそうですね」
大量に巻き上げられた土煙から、その姿を現したのはサイクロプスやデビルクス等と言った巨人族の中でも上から数えた方が早いくらいの上位種。四本の腕にそれぞれ剣だの斧だの、槍、鉄棍を持ち、間接を守る防具にゴッツイ兜を被った化け物だ。
「「ふざけんなよ! でけぇ図体に武器と防具までつけやがって!」」
「「おわあぁぁっ!? あぶねぇ! 踏まれるならアリサ様が」アリス様がいいんだが!?」
ははっ! このバカ野郎どもめ! この状況でそんなアホなこと言えるなら上等だ!
「よーしっ! 行くぜみんな! ヘカントンケイルがなんだってんだ!!」
「今の私に出来る限りの防護魔法をひたすら重ね掛けします! 皆さん! それでもあの化け物の攻撃は脅威です! 十分な警戒を!」
「いいかみんな! 密集するな! 散開して撹乱しろ! アイツの一発でまとめて吹き飛ばされるぞ!?」
ウオオオォォォォーッッ!!!!!!!
アタイの発破を切っ掛けにネヴュラがみんなにこれでもかってくらい、数々の防御魔法を張り巡らせる! いいねぇ~! いけるぜ! 突如現れた巨大で強大な化け物だろうとなにするものぞ! 吠えるアタイ達の指揮は下がるどころか、寧ろ猛るに猛りまくってるぜ!!
「見てろデカブツ! 小さい奴には小さい奴なりの戦い方ってのがあんのさ!!」
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【防衛戦】~西~《シェリーview》
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「はああぁぁっ!!」
ズバアァァーンッ!!
「「ギャンッッ!!」」「「グオォーッ!?」」
「疾れぃ! 魔剣一閃!! ぬぅぅりゃあぁーっ!!」
フィイィィンッッ!! ズバババァァーンッッ!!
「「ガオオォォッッ!!」」「「グギャアァオオォッッ!!」」
す、凄まじいわね!? この防衛戦を始めてからと言うもの、私は、いえ……私達冒険者はバルガスさんのその圧倒的な強さに目を見開いた。
彼が渾身の気合いと共に、その剣を振り抜けば、その刃は剣閃となって迫る魔物達を真っ二つに切断し、攻撃を仕掛けて来た魔物のありとあらゆる武器、爪、牙、魔法に至るまで、その悉くを「効かぬわっ!!」って弾き返してはまた蹴散らしていく。
「すんげぇぇ……バルガスのおっちゃん強えぇぇ~!」
「うん! なんだかとっても安心感があるよ!」
「ブレイド、ミスト! 二人とも気持ちはわかるけど、感心ばかりしてないで、周囲を警戒してね!?」
『見通す瞳』を目指して、ひたすら突き進むバルガスさんの背中に感嘆のため息を洩らすうちの子二人。私も気持ちは同じだからあまり強くは言えないけれど、注意はしておかないとね。
「「いくぜぇ! バルガスさんに続けぇ!」」「「あの目玉をぶっ壊せ!!」」
破竹の勢いで突き進むバルガスさんのおかげで、私達の士気はもう、これでもかってくらいに高い。アリサ様の『聖なる祝福』の効果も相まって、並み居る魔物も何のそのよ! でも、経験上わかる。こう言う「勢いに乗ってる時」ほど危ないのだと。
「ミスト、あなたまで熱くならないで。魔法使いは常に冷静に物事を判断しなくてはいけないわ」
「は、はい! シェリーさん! ブレイド危ない! 大地よ隆起せよ! 『土壁』!!」
ボゴォッ!! ドガァッ!!
「グオォンッ!?」
「うおぉあぶねぇ! サンキュー! ミスト! おらぁっ! 喰らえバーンタイガー!!」
ズバァーッ!!
「ギャオオォッ!!」
うん、いいわね! ミストは素直なのが良いところだわ! 如何にバルガスさんが強く、一騎当千の働きを見せたとて、この戦場の全体から見れば大きいものではないはず。一人で総てを護りきるなんて無理な話でしかない。でも、そこをフォローする私達がいるならば、必ず護りきれるわ!
「なかなか良い太刀筋をしている……その若さで大したものよ!」
「へへっ! まだまだだけどな!」
ふふ、ブレイドったら頑張って背伸びをしては、バルガスさんの隣に立とうってしてるみたいね。バルガスさんも何か嬉しそうに見えるわ。
「息子のパルモーにも剣を学ばせたかったのだがな……あやつめ、「剣なんかよりネヴュラの魔法がいい!」などとぬかしおって目もくれぬ有り様よ! ぬぅん!」
ザシュッ!! ズバァーッ!
「グワオオォォッッ!!?」
うわ、凄い! ホーンライガーを一刀で斬り伏せた! っと、感心してる場合じゃあないわ、『聖域』からの応援、『ガルーダナンバーズ』と言ったかしら? その猛攻を潜り抜けたプテランバードにミッドル達が迫って来ている!
「あらら、お父さんとしてはやっぱり寂しいですね? 風よ切り裂け! 私の敵を打ち払え! 風刃!」
「爆ぜよ紅蓮の焔、盛れ炎熱! 火炎爆発!」
ミストと私は慌てることなく、冷静に詠唱を紡ぎ、迫る脅威に確実に魔法を当てて行く! 普段なら苦戦を強いられる魔物でしょうけれど、『聖なる祝福』によって大幅な強化を受けている今なら十二分に戦えるわ!
「よっしゃぁっ! どんどん行くぜ!?」
「まって! 『見通す瞳』からまた何か召喚されるみたい!」
ブレイドの雄叫びと一緒に駆ける私達、でもその時『見通す瞳』が今までとは違う禍々しい魔方陣を展開させた。嫌な予感がここに来て増した!
「「うおぉっ……!?」」「「マジか、初めて見るぜ……」」
私達の後に続く冒険者達の驚愕の声が背中越しに聞こえてくるわ。そうね、私も見るのは初めてよ……その有名な名前は知れ渡っていても、実際に目にする事なんてないって思ってた。
全身は赤黒く、その身を護る鎧の如く纏う業火は地獄のそれ。一軒家のような巨大な体躯は引き締まり、一目でその能力の高さが伺える。何より特筆するべきなのが、その三つの頭だろう。
グオオォォーンッッ!!!
ビリビリビリーッッ!! 召喚された大魔獣、地獄の番犬ケルベロスがその三つ頭を揃え吼える! 大気は震えその衝撃で何人か吹き飛ばされ、何人かは恐怖で竦み上がる。
「「うわぁぁっ!!」」「「ま、マジかよ!?」」
「狼狽えるでない!! しかと前を見よ! ウヌ等がこの場に立つは誰が為ぞ!!」
あわや統率が、陣形が乱れパニックに陥るその寸前バルガスさんの一喝が響き渡る!
「思い出せ! ウヌ等の後ろには何がある! 誰がおるか!!」
そうよ! その通りだわ! 私達がこの場に立つのは大切な人を、その人達が暮らす大切な街を護らんが為!
「おおっ!! そうだぜ! 俺達はセリアベールを護る為に来てるんだ! たかがでっけぇ犬っころがなんだってんだ! やってやるぜ、俺は『黒狼』のブレイドだぁぁーっ!!!」
「私だってやるよブレイド!! もう前みたいな無様なんて晒さない! 私は『黒狼』のミスト! 絶対負けないからぁっ!!」
猛る! 小さな少年と少女が負けるものかとケルベロスにも劣らぬ咆哮をあげた! あなた達……成長したわね。
「「お、おおぉぉっ!!」」「「そうだぜ! ビビってる場合じゃあねぇ!!」」
「「こんな子供に教えられるとはね……」」「「おぉっ! やってやろうじゃねぇか!!」」
少年と少女に触発されて奮起する冒険者達もまた吼える! 落ちかけた士気も更に大きなうねりとなって場を支配する。そうよ、私達は絶対負けない。さぁ、この犬を排除して『見通す瞳』を破壊するわよ!
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【防衛戦】~南~《デュアードview》
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激戦。その言葉が最も合うのがこの南だろう。『見通す瞳』からは絶え間無く強力な魔物が召喚され続け、俺達は休む事も出来ず手にした武器を振るい続けている。かくいう俺も、もう何体の魔物を倒したことやら?
「ゼオン聞こえますか!? マスターからの情報でっすよ! この状況で火事場泥棒してる大馬鹿がいるみたいでっす!」
「わかってる! 情報を頼りに今その馬鹿共を取っ捕まえる部隊を出してるぜ!」
くっ……! そんな事をする奴がいるのか? ふざけるなよ……皆必死で戦っているというのに!
「急ぎなさい! マスターは今魔王と決戦の最中なんでっすよ!? くっだらねぇことでそのお手を煩わせんじゃあねぇーっ!!」
「済まねぇ! こっちは俺達に任せてくれ!」
映像通信で叫ぶアリスさん。済まない、アリサ様に余計な仕事をさせてしまったな。
「「クソッ! この状況でそんな事しやがる奴がいんのかよ!?」」
「「済みません! アリサさん、アリスさん! 『聖域組』の皆さん!!」」
「「セリアベールの恥だ! そのアホは魔物のエサにでもしてやれ!」」
グオオォォーンッッ!! ギャオオォォーンッ!! グワオオォォッッ!!!
そんな俺達を嘲笑うかのように吼える魔物達。自慢の槍で斬って突いて払っても、まるで終わりの見えない戦いに心が疲弊してくる。
「マズイ……このまま、だと……士気が……」
「ちぃっ! 情報が多すぎでっす! 頭がパンクしそうですよぉ! これ以上の情報を扱いながら魔王と戦うマスターはどんだけ凄いんでっすかねぇ!? えっと、北にベヒーモス、東にヘカントンケイル、西にケルベロスが召喚されたですってぇ~!?」
な、なんだって!? いずれもSランクオーバーの大物じゃないか!?
「『ガルーダナンバーズ』各小隊長! それぞれに各方面へ応援を! 誰を向かわせるかは済みませんが任せます!」
《こちら『ガルーダナンバーズ』隊長ゼーロ! アリスへ、了解した! 各小隊長へ通達! 現在の空域を部下に任せ、各方面に召喚された魔物の排除に当たれ!》
突然の凶報に恐れおののく俺達だが、アリスさんはぷんぷん怒りながらも、戦況を把握し、だいぶ優勢となった空の部隊に指示を飛ばす。あの大きな鷲、ガルーダがあの大部隊の隊長なのだろう、アリスさんの指示を受け取ったようだ。
「ユナイト了解! 我は西に行く! 待っていろバルガス殿!!」
《ならばこのレイミーア、北に! カイン、今助けにいきますよ!》
セイントビートルとフェニックスが西に、北に飛んでいく。……西にはシェリー、ブレイド、ミストが一緒にいるはずだ、頼む、助けてやってくれ! 北にはバルドが奮戦している。まがりなりにも俺達『黒狼』を束ねるリーダーだ、そう簡単にはやられはしないだろうが、フェニックスが増援に入ってくれるなら心強い!
《我は東に行く! レイヴンは南へ! 鳳凰よこの場を任せるぞ!》
《お任せをゼーロ殿! 健闘を祈ります!》
《おっと! お前等死ぬんじゃねぇぞ!? ちゃんと俺っちをアリサ様に紹介してもらわねぇといけねぇんだからな!?》
ガルーダが東へ、八咫烏がこの南へとそれぞれに移動する。残るグリフォン達はあの鳳凰が指揮をとるようだな。
東にはセラがいるのだが、よりによってハーフリング相手に巨人のヘカントンケイルと来たものだ……無事でいてくれよ!?
そして、北、東、西にそんな大物が召喚されたとなれば、だ……当然。
「「ドラゴンだぁぁーっ!!?」」「「うっげぇぇっ!! マジかよ!?」」
ギャオオオオオォォォーッッッ!!!!!!
「かあぁーっっ! こりゃまたむぇんどぉっくせぇっ~のを召喚してきやがりまっしたねぇ! いっちばんタフなアースドラゴンじゃあねぇですか!」
イービルプラントを蹴り飛ばしながら、ズシンズシンッと俺達に向かい、その歩を進ませるのは『見通す瞳』から召喚された、巨大な竜、アースドラゴン! 土や岩のような体色を持ち、翼は退化し、その名残か随分小さい為空を飛ぶことはないし、その歩みも遅い。だが、その分恐ろしい怪力とタフネスを誇る。今この状況で相手をしたくない奴だ。
「ちょいとデュアードさん、アリスも対抗して『四神』喚びまっすから、がむばって耐えんしゃいね!?」
「了、解っ! 『黒狼』が盾役デュアード! 推して参る!! 皆、続けっ!」
「「クソッ! やるしかねぇか!」」「「街を護る為に頑張るしかないわね!」」
むぅ……仕方がないとは思うが、やはり皆の士気が下がってしまっている。こう言う時、バルドならば激を飛ばすのだろうが……俺には上手い言葉が見つからない。
「しゃあねぇでっすねぇ……冒険者の皆さん! 気合い入れまっしょい! 無事にこの戦いを終えれば、マスターからのすんげぇぇごほーびが待ってるんでっすよおぉ!?」
「「すんげぇぇ……」」「「ごほーび!?」」「「ま、まさか……ふ、踏んでもらえるのか!?」」
ザワザワザワッ!!? ……え? いや、お前達? いいのかそんなことで? 瞬く間にアリスさんの言葉が全員の耳に届き、どよめきが生まれたかと思えば……
「もっちのろんろん! おらぁっ! 気合い入れて勝ちにいきましょおぉぉーっっ!!」
ウオオオォォォッッ!!!!
……なんて現金な奴等、いや、俺も人の事は言えないんだが。やっぱり冒険者って言うのは愛すべき馬鹿達なのだな! ふっ……思わず笑みがこぼれる。
「さぁ、行くぞ……未来を……勝ち取る!」
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【防衛戦】~街~《デールview》
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「急げ! 重症だぞ!」
「あまり揺らすな! 頑張れよ僧侶隊も数人こちらに向かっているからな!」
「くっ、す、済まない……だが、この蒼炎のオーラのおかげで命拾いしたぜ……すげぇなあのアリサって嬢ちゃんの魔法は……」
私の横を負傷した冒険者が街の住人達によって、僧侶隊が待機している冒険者ギルドへと運ばれていく。外ではかなりの激戦が繰り広げられているようだね。
「うおっ! すげぇ傷だ、大丈夫かなあいつ?」
「パッと見出血も止まっているようだし、僧侶の治癒魔法を受ければ大丈夫だろう。それより急ぐぞムラーヴェ、デール! 不届き者を取っ捕まえねばな!」
隣を並走するギルド職員ガウスとムラーヴェも運ばれる怪我人を目にし、心配するが、そこは僧侶隊に任せよう。ガウスが言うように今は自身の仕事に専念しなくてはいけないからね。
あのお嬢さんが報告してくれた火事場泥棒。起きる氾濫毎に、必ずと言っていいほど現れるこの手の犯罪者を許しておくことはできない。特に今回の氾濫は今までに類を見ないほど大規模なもの。この街の……いや、もしかすると、世界そのものの命運を賭ける程の規模となっている。
「そんな中で他者の金品を奪い富を得ようとする輩……」
「全くもってふざけた奴等だ、到底許されるものではないぞ!」
「しかも、あのお嬢さんの邪魔までするとはね……これを捕り逃しては街の恥だぞ二人とも?」
応!! 私の言葉に力強く頷く二人。お嬢さんのおかげで、この広い街のどこにその犯罪者がいるのか、私達は既に把握している! 待っていろ、必ず捕まえてくれる!
「許さんぞ! 俺達のアリサ様の邪魔など断じて許さーんっ!!」
「応よ応よ! 我等がレーネ様に仇なす愚か者め、このガウスが成敗してくれる!」
おいおい、何なんだ二人の、この熱の入りようは? 捕まえて事情を聞かねばならないのだからちゃんと加減してくれたまえよ?
「ゼオン、エミル! 後、なんつったっけ? お尻好きーなおっさん!? 聞こえる?」
「応! どうしたよ嬢ちゃん!?」
「アリサ様!? 僕達と通信していて大丈夫なのですか?」
「女性のお尻は確かに好きだがね、私はデールだよ。お嬢さん、出来れば覚えてもらいたいねぇ」
「「うおおぉ~! アリサ様ぁご無事ですか!?」」
街を駆ける途中、お嬢さんから映像通信なる通信がはいった。何度見ても見事な魔法だね。あまりの便利さに感心してしまうよ。
しかし、ゼオンとエミルだけでなく、私にまで声をかけて来るとは……一体何事だろうか? 魔王との戦いはどうなっているのか? アイギス達『白銀』は無事だろうか? 私の名前を覚えてくれないだろうか? あぁ、ついでにこのガウスとムラーヴェを黙らせてくれないだろうか? 疑問や願望が尽きないが、今は話を聞こう。
「火事場泥棒の他に大きい悪意を持った反応があるのよ! 多分、火事場泥棒は陽動でこっちが本命だと思うわ。狙いはゼオン。あんたみたいね……なんぞ恨みでも買ってんのあんた?」
「ははっ! 街の代表者なんてやってりゃ、そりゃあ恨みの十~二十は知らん内に背負ってたりするもんだぜ? わざわざ報せてくれてありがとな、何、命狙われるなんて今まで一度や二度じゃあねぇ……安心してくれや!」
ほう、私達が追ってる奴は囮と言う訳か、成る程……わかりやすい常套手段ではあるものの、しっかり対応しないと大きな被害を出してしまうからね。心配して私達に教えてくれるとは、ふふ、優しいねぇ。ゼオンはゼオンで、馴れたものだ、実際に彼が暗殺されかけた事は一度や二度では済まない。過去にも何度かあったことだ。その都度エミルや私、ギルド職員が……時にはゼオン本人が凌いで来たりしたのだ。
「どの国にも属さず、冒険者達と懇意にする富多き自由な街、セリアベール。その利権を求める国は多いのですよ……」
ゼオンと一緒にいるエミルが狙われる理由を簡潔にお嬢さんに説明しているね、私からも少し捕捉を入れておこうか。
「今は『氾濫』と言う問題を抱えているものの、一年を通して穏やかな気候、得られる資源も豊富、広い大陸故にまだ見ぬ未開の地もある。他国から見れば是非とも手にしたいと思うものだよ、お嬢さん」
「うむ、そして今まさにその『氾濫』も解決しようとしている矢先だ」
「代表者を消すタイミングは今が絶好のチャンスと言うわけだな……」
「ハハハ! かつての代表者ゼオンは『氾濫』を解決するため、勇敢に戦い散っていったのだ! とか言えば反感も起きねぇだろうしな!」
私の捕捉に、ガウスとムラーヴェが更に首謀者が動いた理由を、ゼオン本人がその後に予想される展開を述べる。つまりはそう言うこと、なのだろう……問題は誰が絵を描いているか。だが……ふむ、捕まえてしまえば早いな。
「……嫌だなぁ、そういうの。……あんた達に悪意を持った反応をマーキングしたマップを送るわ。私達はそういう人間の問題には関わらないから、この件に関してこれ以上の手助けはしない、きっちり解決しなさいよ?」
お嬢さんはそう言うと、私達に街の地図が描かれた不思議な映像を残し、通信を切った。魔王との戦いに、街の防衛を指揮するアリス嬢との連携に集中するのだろう。
受け取った地図に目を通すと、赤い点が五つ。内三つは北に一つ、南西、南東に一つづつ、丁度三角形を描いて小刻みに動いており、残り二つは……
「おいおい! 既に冒険者ギルド内に二つ反応があるじゃねぇか!?」
「冒険者に扮しているのか? まさかと思うが、職員の誰かとかか!?」
冒険者ギルドには、先の負傷した冒険者達が多くいる。その対応に当たる僧侶隊にギルド職員。そして民間の協力者達と沢山の者がひっきりなしに出入りしているのだ。ゼオンとエミルも映像通信を利用し、まるで軍司令部の様相を呈している。
「慌てんじゃねぇ、アリサの嬢ちゃんのおかげで来るって事前にわかるんだ。いくらでも対処できらぁな」
「ええ、ここは僕達に任せて貴方達は残りの三つをお願いしますよ」
「了解したよエミル。さて、どうするね二人とも?」
そうだね、執務室にエミルと二人で詰めていれば、もし悪意を持った赤い点が近付いて来ても十分に対処できるだろうね。ゼオンとエミルは心配いらないだろう。そして捨て置けないのが、火事場泥棒三組だ、巡回しているギルド職員と合流すれば数の不利も補えるだろう。何処に向かおうか?
「よし! 俺は南西に行く! ムラーヴェは南東だ! デール、貴様は北を頼む!」
「応! 任せておけ! ふはは! アリサ様に良いところをお見せするぞ~♪」
「ああ、わかった! 相変わらず決断が早くて助かるよガウス! ムラーヴェも宜しく頼むよ!」
迷うことなく直感でズバッと決断するガウス。少し羨ましく思えてしまうね。ムラーヴェはお嬢さんにお熱……いや、あれは崇拝だろうか?
タッタッタッタッタッタッ!!
ふぅふぅ、走る走る。やれやれ、寄る年波には勝てないねぇ~早々に息があがってしまうよ。はぁはぁ……さて、地図に示されている場所はここだが……普通の民家だ。
「日頃の行いのせいかねぇ、まさか巡回している冒険者ギルドの職員に一人も会えないまま着いてしまったが……」
誰ともすれ違わなかったのにも少々違和感を覚えるが、仕方がないね。十分に警戒して……
「いるね……よし、そこまでだ!」
私は悪意を持つ者の姿を確認し、躍り出る。相手は如何にも怪しげな黒いローブに身を包み、その顔もスッポリと覆うフードのせいで見えない。幸い、相手も一人だけだ、そこは助かるね。
「…………」
シュッ!! キィンッ!!
「おっと、有無を言わさずかい? 残念だがね、その程度の腕では私には届かない!」
黒いフードの者は私の姿を見ても、動じる事はなく、冷静に手に持つナイフで斬りかかって来た。私はそのナイフを素早く、腰に提げていた愛剣を抜き放ち弾く!
小さい。人間の子供くらいだろうか? かといって、ハーフリング等背丈の小さい種族は結構いるから断定は出来ない。
「神妙にお縄につくことだ! 君にはなにかと聞かせてもらわなくてはね!?」
ヒュンヒュンッ!! キィンッギンッ!!
幾度か交わる私と黒フードの斬檄。なかなかの手練れのようだが、そろそろお顔を拝見させてもらおうか!!
シュッ! スパァッ!!
「……!」
「なにっ!? 馬鹿な! 君は!?」
ダダッ! ターンッ!! ブゥゥンッ……
「ま、待て!!」
嘘だ……そんな……
私は叫ぶと同時にかざした手を下ろし、呆然と消えてしまった相手がいた路地を見る。私の剣が裂いたフードから見えたその顔は、間違いようもない……忘れようもない……
「ロッド……」
かつての教え子のそれだった……
ミュンルーカ「はふぅ~忙しい忙しい!(>д<*)」
フォーネ「はい、次の方~ヾ(・ε・。)」
リール「うわっ( *゜A゜)僧侶隊めっちゃ忙しそう( ; ゜Д゜)」
ゲン「ギルド到着(*`・ω・)ゞさぁ、もう大丈夫です! 僧侶隊お願いします(;>_<;)」
冒険者A「痛てて(×_×)運んでくれてありがとな、ゲン(^ー^)」
僧侶隊A「ヾ(・ω・ヾ)こっちこっち!( `д´)すぐ治療にはいります!」
スラム住人「おーい! こっちも怪我人だ('A`)ノよろしく頼む( `ー´)」
リール「僧侶隊の護衛部隊って言うけど、お手伝いで終わっちゃいそう(^_^;)」
街住人A「なに、それならそれで良いことだよ(^o^)!」
街住人B「おーい( 」゜Д゜)」こっちもだ!」
僧侶隊B「了解!直ぐ行きます(・・;)」
フォーネ「はひーっ!(>д<*)キリがない!」
冒険者B「いや、しかしアリサ様の聖なる祝福のおかげで、なんとか命拾いしてるな(´・∀・`)」
冒険者C「よっしゃ! 復活だ( `Д´)/また行ってくるぜ!」
冒険者D「おおっ!( ̄0 ̄)/俺もだ! 待ってろ魔物共!」
ミュンルーカ「うーん、さながらゾンビアタックみたいになってる(;´д`)」
リール「あはは(^_^;)倒してもまた復帰してくるもんね、魔物達から見たらそう映るかも(´・∀・`)」




