47話 魔女と憐れな魔王
暑さと腰痛で、遅々として執筆が進みませぬ( ノД`)…
皆様も腰痛にはじゅうぶんお気をつけ下さいませ。
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【防衛戦】~貴様見ているな!?~《アリスview》
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「オラァッ!!」
「舐めんな魔物共ぉ!」
うーん、皆さん頑張ってまっすねぇ~街の防衛を始めて数十分。冒険者の皆さんの士気は高く、魔物達を次々にぶっころがしておりまっする。
「今のところ順調そうですな、アリス様」
「でっすねぇ~でも、そろそろ魔王も痺れを切らす頃でっしゃろい?」
バルガスさんが臨戦態勢を維持したままにアリスに話しかけてきます。まぁまぁ、そう焦らんと~アリス達が出張る程の魔物はこれからでしょうし。
「アリス様! 『見通す瞳』に反応です!」
「お、来ますか……カイン! バルガスさん、ネヴュラさん! ここからが本番でっすよ!」
ネヴュラさんから『見通す瞳』に反応があったと報告が来ました。より強力な魔物を召喚するつもりなのでしょう。冒険者達には厳しい戦いになりそうでっすよ。
「アリス! こっちはもうすぐ最深部に着くわ! もう遠慮はいらない、動くわよ!」
「マスター! 了解でっす!」
映像通信からマスターがお声をかけてくれまっす! 早いでっすねぇ~もう最下層に着いちゃうんでっすか!
「「うわああぁぁっ!! マジかよ!?」」
「「え、Sランク相当の魔物達じゃねぇか!?」」
むむ、来やがりましたね! って、いち早くバルガスさん達が突っ込んで行きました。うんうん、流石! 頼みますよ! 次々に召喚されるホーンライガー、イービルプラント、デビルクス、バーンタイガー、フリーズバード、ミッドル、プテランバード等。『聖域』には当たり前のように彷徨いている連中でっすけど……
「マスター!」
「わかってる! アリス、あの目ん玉ぶっ壊すわよ! 冒険者達の士気を下げないで!」
了解ですよぉぉーっ! アリスは『見通す瞳』に向かい、ビシイィィッッ!! ってポーズかまして叫びます!
「貴様! 見ているな!?」
ドッゴォォーンッッ!!!
「あー! アリス狡い! そのセリフ私が言いたかったのに~!」
「あっはっは~♪ まぁまぁ、いいじゃないですかマスター♪」
うおおぉぉーっ!!!
派手に目玉を吹っ飛ばし、それにビビった魔物をバルガスさんが、ネヴュラさんが、カインが飛び回り撃破して行く様を見た冒険者達が歓声をあげます。さぁ、ここでもう一押し……鼓舞がほしいんでっすけど……
「皆! 怯むんじゃねぇ!! 俺達には心強い味方がついている! 彼等を信じ、共に戦うぞ! 俺達の街、護りきるぜぇぇっ!!」
オオオオオオォォォォーッッッ!!!
ナイスっ!! ゼオンさんがここぞとばかりに皆さんに対して檄を飛ばしてくれました、Sランク相当の魔物が召喚されたことで、気持ち下がった士気は再び盛り上がり、最高潮に達しています!
「うん、これならいける……昂るみんなのその『想い』を形に! 『聖なる祝福』!!」
ゴオオォォォーッッッ!!!
うおおぉっ!? 来ました来ました! すげぇでっす! これが……これがマスターの権能の一つ『聖なる祝福』ですか!? 『聖域』の意志の具現たるこのアリスちゃんも体験するのは初でっす!
「「おおぉ……身体が燃えるようだぜ!」」
「「喰らいやがれホーンライガー!!」」
ドシュドシュッ!! ザンザンッ!! ドゴオォンッ!!
街のあちこちから冒険者達の雄叫びと……
「「ガオオオォォッッ!!」」
「「グギャアァァーッッ!!」」
魔物達の断末魔が響き渡りまっす!
「「やれる! 今なら俺達でも十分Sランクの魔物と戦えるぞ!!」」
「「魔力が、気力が溢れてくるわ! 魔法士隊! 多段詠唱開始します!」」
「「応! 行くぞ前衛部隊! 魔物を魔法士隊に近付けるな!」」
いやはや……すんげぇでっすね、どんだけ強烈な強化魔法なんですか? ついさっきまでの焦りは消えて凄まじく組織立った連携を見せる冒険者達。中でも見事なのが集まった魔法使い達による、時間差詠唱で放たれる魔法の数々。
「まるで弾幕ですわね、凄まじいものだわ!」
「おぉ、すんげぇわ……ドドドドッ!! って、要塞の砲撃みたいね!」
ネヴュラさんもマスターもその攻撃を絶讚しとりまっする! うん! アリスちゃんからも称賛を送りたいくらいでっすよぉ~だって、あんだけぶっぱしてるのに、ちゃんと味方の冒険者達には当てないようにしてるんでっすよぉぉ? コイツは並の練度じゃあありゃーせんよ!? 相当の訓練を経て初めて成せる絶技でっす!
「いいぞ! 皆撃ち続けろ!! 『聖域組』の連中に俺達の意地を見せてやれ!」
「そうです! 今まで何度も氾濫を乗り越えて来た僕達の力は決して伊達ではありません!」
オオオオオォォォーッッ!!!
ゼオンさんが、エミルさんがそれぞれ吠えます! ええ、すみませんね……正直皆さんのことみくびっていましたよ……正直これほどの連携を見せてくれるとは夢にも思っていませんでしたからねぇ……
「アリスさん! 『見通す瞳』が再召喚されました!!」
「アリス! 気を付けて、魔王が強烈な魔力を注いでる! ヤバイのが召喚されるかも!」
むむっ! 再召喚まで意外と早かったでっすね! カインが教えてくれた各方角に、今度はでっかい目ん玉が一つづつの計四つ! しかも既に召喚を始めてやがりまっす! マスターがヤバいって言うくらいです、こっちも『聖域』から戦力召喚を始めた方がよさそうでっすね!
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【出撃】~制空権は我等のもの~《ゼーロview》
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「ティリア! 『聖域』の部隊に応援要請! アリスの召喚指示に従って!」
「オッケー! 任せてアリサ姉さん! みんな聞こえたわね!?」
アリサ殿の映像通信より主神ティリアに声が掛かる。うむ! いよいよ我等の出番と言う訳だ! 今日この日の為、我等はアイギス殿達にも負けぬ程の厳しく激しい訓練に明け暮れていた。今の我等ならばかつての『四神』達をも凌駕するであろう! その確信がある!
「こちらアリス! 『聖域』にて待機中の皆さんに協力要請しまっす! 現在魔王が召喚した魔物に対して戦力が不足! 主に上空が劣勢でっす!」
《ならば迷うことはない! 我等『ガルーダナンバーズ』を呼ぶがいいアリス!》
《空はワタクシ達の戦場、お任せを!》
《ふふ、街の制空権。瞬く間に奪い返して御覧にいれましょう!》
叫ぶアリスに間髪入れず答える我、八咫烏のレイヴン、フェニックスのレイミーア。今こそ羽ばたくとき! 我等の反撃の狼煙をあげようぞ!!
「頼もしいでっすよ。ただ、気を付けて下さい! 街の冒険者達が防空するために、魔法で濃い弾幕を張っています! 召喚した直後に被弾なんて笑えねぇでっすよ!?」
《ははっ! 笑える♪ トロクセェ冒険者達の魔法なんか俺っちに効くかよ?》
「鳳凰殿、油断めさるな……冒険者達の意地というのは侮れぬものですぞ?」
ほう、その街の冒険者達は脅威に怯むことなく立ち向かうか。天晴れな心意気だ! 出来れば見下している鳳凰の目を覚まさせてくれるとよいがな。その鳳凰はユナイトの忠告にも何処吹く風で聞き流している、こやつは一度痛い目にあうくらいが丁度良いであろう。
「じゃあ、お願いしますよ! 『転移陣』展開!」
ブウゥゥーンッッ!!
建設中の神殿の中庭に鈍く響く音とともに、アリスが展開させた『転移陣』が出現する。
「ゼーロちゃん、頑張って! アリスちゃん達を助けてあげてね!」
《ふっ、任せよユニ! 行くぞ! ガルーダナンバーズ出撃だ!!》
「「グワーワッ!!」」「「グワグワッ!」」「「グオオォーンッ!!」」
(では行ってきますよ! 同胞達、しっかりお留守番してるんですよぉ?)
「「ぷっぷー!」」
猛る眷属のグリフォン達、モコプーの代表たるエスペルを引き連れ我等は『転移陣』へと飛び込んでいく!
一瞬視界が歪み、そして開ける。するとそこは怒号飛び交う大きな街の直上だ。
「待て! 魔法士隊! 弓兵隊! 撃ち方待て!!」
「聖獣ガルーダ、鳳凰! 不死鳥フェニックス! 神鳥八咫烏、モコプー! 皆さん『聖域』からの増援です!」
おお、流石はアリサ殿だ、『悲涙の洞窟』にて魔王と戦っている最中であろうにも関わらず、街にも映像通信を展開させているとは! あの者はこの街の王と従者か? 戦闘の指揮を採っているようだな。
「ゼーロ! 待ってまっしたよぉ! ゼオンさん、空は彼等に任せて地上の魔物に集中を!」
「了解! 掩護に感謝する! 聞いたなお前ら! 空は彼等に任せろ! 間違えても誤射すんじゃねぇぞ!?」
「「オオォォーッッ!!」」「「ありがてぇ! 済まねぇが頼むぜ!!」」
うむ! 凄まじい士気の高さよ! 我も否応なしに昂ると言うもの!
「ガルーダナンバーズ! ありがとう! お願い、街を守って! 『聖なる祝福』!!」
《お任せくださいませアリサ様! ワタクシ達が来たからには魔物共に好き勝手はさせませぬ!》
《うおおぉぉ? すげぇ! なんだこりゃ……力が漲って来やがるぜぇ!》
アリサ殿の権能『聖なる祝福』を受けた我等から蒼炎のオーラが立ち上る! 我等はこれで二度目となるが、鳳凰は初であったな!
《ふふふ……今こそ日々の訓練の成果を見せるときだな》
《敵は、ほう……フレスベルグの群れに、ミッドレイダーですか》
《ケツァルカトルにキマイラ、ビーストファルコン等々~選り取り見取りですね》
(ふふふ、参りましょう~ゼーロさん!)
《おうおうっ! こんなに昂るのは久し振りだぜ! ガルーダ号令かけろよ!》
我の言葉に続くレイミーア、レイヴン。敵は……
主に氷を魔法で操る蒼き羽毛の鷹、凶鳥フレスベルグ。
かのミッドル共の上位種ミッドレイダー。
プテランバードの上位種ケツァルカトル。
獅子の体躯に蛇の尾、巨大な翼を持つキマイラ。
獰猛で好戦的なな隼ビーストファルコン。
他にもワイバーンや、ミッドル、プテランバード等見馴れた連中もいるようだな。
エスペルも鳳凰も猛っている、うむ! 敵の陣容は確認した! 後は行くのみ!
《ガルーダナンバーズ散開! 空の覇者は我等と奴等に教えてやれ!》
バアアーッッ!!
我の号令の下、編隊を組んでいた各小隊が散開を始め、魔王の手先達に向かって行く!
《アリサ様がご用意された『神の護り手』を破壊しようとしている不届き者を落とします! エスペル、力を貸して下さい!》
(お任せ下さいレイミーアさん! グリフォンさん達行きますよ!)
「グワーッ!」「グワグワッ!」
レイミーア小隊がエスペル小隊を引き連れ、街に張られたアリサ殿の『神の護り手』を破壊せんと攻撃を加えるフレスベルグの群れに突っ込んで行く。あの護りは街の者達にとっても心の支えとなる重要なものだ。それが攻撃をされたとなれば不安も募ろう! 一刻も早く群がる敵を排除せねば!
(さあ! 来なさい魔王に操られた憐れな魔物達! 『希望の光』!)
パアアァァーッッ!!!
エスペルが放つ『希望の光』の影響を受け、街に張られた結界を攻撃していた魔物達がエスペルに向かっていく。それを迎え撃つレイミーアとグリフォン達。
《うむ、流石はエスペルとレイミーアだ。安心して任せられる……ほう、我と正面切っての反抗戦を挑むか?》
エスペル達から目を離し前方を見やれば、あのミッドルの親玉とも言われる存在、巨大な蛇の体躯に四枚の鳥の羽根を持つミッドレイダーが我に向かい飛んで来る。
《愚かな! 身の程を知れぃっ!!》
「ギシャアアァァーッッ!!」
ズバアァァーンッッ!!!
ミッドレイダーが放って来た『乱気刃』もろとも、『光剣』ですれ違い様に撫で斬り! 真っ二つになったミッドレイダーは断末魔の叫びも上げることなく墜ちて行く。
「「「うおおおぉぉーっっ!!?」」」「「すげぇ! 一撃で墜としやがった!!」」
「「流石は伝説に語られる神獣だぜ!!」」
その様子を目にしていたのであろう、冒険者達が驚きの声を上げているな。なんの、この程度まだまだよ! さて、他の連中の様子はどうだ? まさか遅れをとる者などおらぬだろうな?
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【憐れな魔王】~呪物~《アリサview》
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《それで回避しているつもりですか!? 見越し射撃も知らぬと見えますね!》
ドオォォンッ!!
八咫烏のレイヴンが放つ『魔力矢』が、まるで吸い込まれるように前方を飛ぶフレスベルグに突き刺さり爆散させる。いいね、私と遊んだ『空戦ごっこ』の成果が出てるじゃん♪
映像通信で、街の防衛の様子を伺っているんだけど、これなら心配はいらないかな?
「シェラザード! 聞きたいことがあります!」
ギィインッ!!
「あら、今更私に何が聞きたいのかしら、アルティレーネ!?」
ズドォォーンッッ!!
眼下ではアルティレーネと魔王の激しい攻防が繰り広げられている。アルティレーネがその身に神々しいオーラを纏い、ものっそい速度で神槍ティレーネを振るい魔王に攻撃! 魔王も当然負けておらず、アルティレーネの権能『絶対命中』をどういうわけか受け流して、強烈な魔法で反撃してくる。
その攻防の度に周囲には爆風が吹き荒れ、この『悲涙の洞窟』の最下層が振動する。
(シェラザードも『因果関係の書き換え』で受け流しているのかな? これが神と魔王の戦い……)
傍目にはとんでもない戦いに見えるんだろうけど、二人とも全然本気じゃないんだろうね、互いに様子見ってとこなんだろう……しかし、アーグラス達はよくもまぁこんな連中に勝てたもんだわね?
「みんな! 油断するなよ!」
「はっ! 当たり前だぜ! この程度の連中に負けるかよ!」
アイギスとゼルワが吠える。彼等『白銀』は今、魔王が召喚した魔物達を相手に戦っている最中。予定通りアルティレーネと魔王の戦いに横槍が入らないようにしてくれている。
「キリがありませんね! ですが私達にも『聖なる祝福』があります!」
「ええっ! どんどん来なさい! 片っ端から潰してやるわ!」
「アルティレーネ様の邪魔はさせんぞい!!」
アイギスの剣がバジリスクを両断し、ゼルワのナイフがヴェノムリザードの首を切断。サーサの魔法が羽蜘蛛を切り刻み、レイリーアの矢がワイバーンを撃ち墜とすと、ドガの戦斧がホーンライガーを叩き潰す。
私は私で、この場に召喚される『見通す瞳』を直ぐ様魔法で破壊してるんだけど……魔王の魔力は底無しか? なんて思われる程に、まるで『聖域』の再生の時を彷彿とさせる程に無限湧きしてくるので、全然気が抜けない。
「貴女は然程魔神に関心がなかったと思っていたのですが、何があってそこまで心酔するようになったのです!?」
バチィィッ!!
魔王の放つ強力な『魔力弾』は一般的な魔法使いの物と比較して、数十倍の開きはありそうな威力を誇る。某漫画の大魔王様が使う初級魔法って言えばイメージできるかな? 運悪くその流れ弾に当たったアックスソルジャーって言うサイの魔物がいたんだけど、一瞬で粉々になって消えたよ。危ない危ない! その『魔力弾』を片手で軽く受け止めては握りつぶすアルティレーネもまた、おっかないねぇ~。
「ふん……そうね、確かに関心はなかったわ。でもね、あのお方は私を気にかけて贈り物を下さったのよ! 御覧なさい、この美しい純白の指輪を!」
右手の薬指にはめられた指輪を私達に向けて見せびらかす魔王シェラザード。確かに指輪だ。だけど……それは彼女が言う純白などではなく。禍々しいほど黒ずんだ物だ。
「アルティ……あれって『黒水晶』よ? つまり彼女は……」
「そう言うこと……なのですね?」
そう、その指輪に嵌められた水晶は、大きさこそ違うけど、『聖域』に隠されていたあの黒水晶と同じ物だ。つまりシェラザードは神界にいた頃から魔神に目をつけられていたのだろう。周囲の神に、それこそ主神のティリアにすら気付かせないようにゆっくりと時間をかけて、彼女を呪いで蝕んでいったのだと思う。
「ーッッ!!」
(落ち着いてアルティ。ここで怒りを爆発させちゃ駄目……よく観て聞き出しなさい)
久々に使う個人通話で、魔王に悟られないようにアルティレーネを窘める。魔神のやらかした所業に怒りを感じるのはわかるんだけど、ここで焦っちゃ駄目だって思うから。
(他にもそう言った贈り物貰ったりしてないか聞いてみて。ほら、あのネックレスとか怪しくない?)
(アリサお姉さま……ありがとうございます。ついカッとなりそうでした)
うん、どうやら落ち着いてくれたみたい。私はこうなってしまう前のシェラザードを知らないから、まだ冷静でいられるけど……もし、私の大切な人達がこんな仕打ちを受けていたら……って考えると、ブチ切れていたかもしれない。
「そうですか、ではそのネックレスなんかも贈り物なんでしょうか?」
「そうよ~! うふふ♪ 素敵でしょうこの美しいエメラルドとサファイアが織り成す神秘的な輝き……何度見てもうっとりしてしまうわ!」
どうやら私の読みは当たったようだ……シェラザードの言う『エメラルドとサファイアのネックレス』は、そのどちらも使われておらず、代わりに『黒水晶』が使われていて、怪しく黒光りしている。これまた一目で『呪物』とわかるような代物。
正直ここまで来るとこの魔王が憐れに思えてくる。自分の気持ち、感情までも呪いによって操作されて、総てが魔神にとって都合の良い存在に変えられてしまって……あっ、待って……ティリアはこのこと知ってたのかな? そう思い『聖域』と繋がっている映像通信に目を移すと、そこには顔面蒼白にしたティリアがワナワナ震えていた。
「ウソでしょう……? じゃあ、じゃあ何? あの子はただ利用されてただけだった……?」
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【落ち込むわぁ】~未熟な主神~《ティリアview》
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何てこと……シェラザードに魔神がそんなものを贈っていたなんて、しかも、それを誰にも気付かせなかったなんて……
「ティリア姉! しっかりしてよ!」
「ん、落ち着いて……贈り物を内緒にするなんて別に難しい事じゃない」
「そうですわ、もしかしたら最初は本当に純白の指輪に、エメラルドとサファイアのネックレスだったのかも知れませんわよ?」
フォレアが渇を、レウィリが、ティターニアがフォローを入れてくれるけど……ショックが大きくて私はその場に座り込んでしまった。
「はは……以前『竜神』に『未熟』って言われたけど……その通り過ぎて涙出るわ……」
悔しい……私が、いえ……私達の誰かがシェラザードをもっと気にかけていたなら、彼女がこんな事になるのを防げていたのかもしれないのだ……贈り物の件や、編み物編んで恋する乙女のような表情を見せていたこと……思い返して見ればヒントがいくつかあったのだ。
「もっとしっかりあの子とコミュニケーションを取っていれば……防げたかもしれないのに!」
「ええいっ! 嘆いておっても始まらぬ! 主神よ反省や後悔は後にせい! 今はどうすれば良いかを考える時ぞ!?」
シドウの一喝にハッとなる。そうね、その通りだわ! 切り替えなきゃ!
「早ぇ話、『黒水晶』ぶっ壊せば呪いが解けんじゃねぇ?」
「それも至難の技だと思うわ。なにせ相手は元、神様なのよ?」
「身に付けているアクセサリーだけを破壊するって事ですか? 厳しいですね」
「アリサ殿とアルティレーネ様を信じるしかあるまい」
『四神』達が冷静に打開策を講じている。そうだ、結局は呪いなのよね。
「少し手荒いですが、叩きのめして無力化させます! 呪いの解呪はその後でゆっくり行いましょう!」
「おーっ! やっちゃえアルティ姉! 呪いで操られてたからって、ウチ等の世界を滅茶苦茶にした事実は消せんのだーっ!」
「ん……可哀想だけどその通り……ティリア姉さんは後でいっぱい謝って」
うぅっ! 妹達が過激だわ……でも仕方ないのかしら? フォレアが言うようにこの世界を壊しかけた魔神一味の一角。そして今も、また同じことを繰り返そうとしている彼女をなんとしても止めないといけないのだから。
「わかったわ、あんた達に託す! そんでもってレウィリの言った通り、いっぱい謝るわよ!」
アルティ、アリサ姉さん……お願いね!
そして再び始まるアルティとシェラザードの激しい攻防。事実を知ったアルティは、神槍ティレーネに呪いを打ち消す『祓いの神気』を纏わせシェラザードに斬りかかり、アリサ姉さんは『解呪魔法』を撃ちフォローしている。
「ちっ! 相変わらず顔に似合わず野蛮な女ね! それに、そこの主神擬き! さっきから鬱陶しいわよ!」
ズドォォーンッッ!!!
魔力爆散! 果敢に攻めて来るアルティに苛立ちを隠せず、シェラザードは魔力を爆発させて、アリサ姉さんの援護射撃、『解呪魔法』もろともアルティを吹き飛ばす。
「ふふ、そう言う貴女は意外と短気なんですね? 神界での貴女はもっとお淑やかに見えましたけれど?」
「あ~、やっぱ『解呪魔法』じゃ効かないか……メルドレードもそうだったしなぁ」
空中で身を捻り、綺麗に衝撃を受け流すアルティに、バリアで防ぐアリサ姉さん。うん、まだまだ余裕がありそうね。頼もしい二人だわ!
「でもさ、流石にこう何度も何度も呪いが続くと、いい加減学ぶわよね……正直メルドレードの方が厄介だったわ」
「なんですって!? この主神擬きが! 私があの出来損ないより与し易いとでも言うの!?」
「そーよ? 確かにあんたは魔王っていうだけあって力は凄いけど……めっちゃわかりやすいもん……魔神もさぞ扱いやすかったでしょうね? 利用される訳だわ」
むあぁっ!? ちょっとアリサ姉さん? 煽りすぎじゃない!?
って、一瞬焦ったんだけど。アリサ姉さんの表情を見て理解したわ……そして思い出す。アリサ姉さんの前世での出来事。
魔神に騙されて、良いように利用されて。終わった、と思った今も利用され続けるシェラザード。そして前世で同じような経験を何度もしてきたアリサ姉さん……自分の過去に重ねているんだろう……憐れむような、泣き出しそうな……そんな複雑な表情だ。
ドオォォーンッッ!! バギィィンッッ!! ブウゥゥンッッ!
「黙りなさい! この小娘が! ーッ!? なんですって!?」
「ほら……わかりやすく『防壁破砕』組み込んだ魔法撃って来る」
挑発されたと受け取ったのだろう、シェラザードが放ったのは、シールドや、バリア系の魔法を破壊して無効化する『防壁破砕』の効果が上乗せされた『火神の一撃』! 触れる物総てを灰に化す超極熱魔法だ。それに対し、アリサ姉さんは『貯槽』を展開、シェラザードの『火神の一撃』が吸い込まれて消えてしまう。
「自分が魔神に良いように利用されてる事に気付けない憐れな女神……シェラザード、あんたの『想い』……私が拾ってあげる!」
「ふふ、あはは……アハハハハっ!! たった一つの魔法を無効化した程度で何を思い上がっているの小娘!!」
違うわシェラザード……アリサ姉さんが啖呵を切るのは覚悟の現れ。甘く見てると痛い目に会うわよ? アリサ姉さんとシェラザードの掛け合いをきっかけにアルティも神槍ティレーネを構え直す。
「そう思うなら四の五の言わずにかかって来たらどうです? 見苦しいですよ、無駄な強がりは?」
「貴様ぁっ!!」
ズドオオォォォーンッッ!!!!
あからさまなアルティの挑発に激昂し、その魔力を一気に神気に昇華させるシェラザード。アリサ姉さんとアルティは逆に、ゆっくり、そして静かに全身に神気を漲らせる。
「アリサおねぇちゃん、アルティレーネ様。がんばって!!」
今までの様子見は終わり、ここからが本番だ。高まる緊張感が映像通信を通して『聖域』の私達に届く。ユニは両手を胸の前でおさえ、祈るように応援する。
「大丈夫だユニ……アリサ様ならばあのような者に遅れをとることなどあり得ぬ」
「どう見ても小者じゃ。これならわざわざアリサ様が出張らんでもよかったやもしれぬぞ?」
「しかし随分と短気な奴じゃのぅ~儂等は直接戦った訳ではないが、こんな奴じゃったのか?」
「オイラこいつは魔神の取り巻きの一人ってしか覚えてないぞー?」
『懐刀』がシェラザードをディスる、ディスる。リンはユニの傍らに座り、彼女を慰めて、珠実、シドウ、ジュンは映像通信を見入っては各々に感想を述べている。
「ううん、シェラザードはこんな感じじゃなかったよね?」
「ん……大人しくて思慮深い女神だった。あたしも色々相談にのってもらったりしてたから覚えてる」
「そうね、以前との違いに私も驚いたものよ」
フォレアとレウィリがアリサ姉さんと、アルティレーネと戦うシェラザードを映像通信越しに見てはそう応える。そう、シェラザードは……今の姿からは想像できないかもしれないけど、知的で大人しくて静かな女神だったのだ。その彼女を知っているからこそ、以前魔神と一緒にこの世界に魔王となって現れた時は信じられない気持ちでいっぱいだった。
「彼女も私達家族のように、魔神に良いように利用されていたと考えれば、この変貌も納得です!」
「あのいけすかない魔神め! 手段を選ばないね! 『聖域』の『黒水晶』の番を押し付けて来たときも、ボク達を道具としか思ってなかったみたいだし!」
フェリアとパルモーもかつて魔神に利用された過去がある分、憤りも大きいみたい。
なんにせよ、今は見守るしかできないわね。アリサ姉さん達が決着を着けたら、詳しく話を聞かなくちゃ!
アリサ「あぁ、因みに『檄を飛ばす』って『頑張れ~』って意味に捉えられがちだけど、これって間違いらしいね(,,・д・)」
アリス「ほえ( ゜□゜)そうなんでっす(; ゜ ロ゜)!?」
アルティレーネ「『激励』の『激』と読みが同じだからとかなんとか……(・_・?)」
アリサ「人集めて自分の考えを言って、同意を求める。とかが本来の意味だ~とかどこぞで聞いた(´・∀・`)」
シェラザード「何をさっきからごちゃごちゃと!ヽ( `皿´ )ノ」
大地「……思慮深い(¬_¬)」
水菜「女神……?(¬∀¬)」
フォレアルーネ「いや、ホントだってば!(;´Д`)」
ティリア「あのはっちゃけっぷりからは確かに想像つかないかもだけどね(;´゜д゜)ゞ」
シェラザード「ほらほら! さっきまでも余裕は何処にいったのかしらぁ~(*`▽´*)!? アハハハッ(゜∀゜≡゜∀゜)死になさい! 主神擬きが(゜Д゜#)!」
朱美「いや、どう見ても変わりすぎでしょ?( ̄0 ̄;)」
ティリア「なんかまたイラッてしてきたわL(゜皿゜メ)」えぇいっ! やっちゃえ二人ともーっ!(y゜ロ゜)y」
レウィリリーネ「ティリア姉さん、落ち着いて……(-_-;)」