46話 魔女と光石
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【光石】~光る意志~《アリサview》
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正直『ダンジョン』ってもっと暗くてジメジメしてるイメージがあった。
突入した『悲涙の洞窟』だけど、天然の物か魔法に依るものかはわからないけど、壁や天井? に埋まっている鉱石が青みのかかった淡い光を発しており、松明や、魔法を使わなくてもある程度明るい。
「『光石』と呼ばれる天然の鉱石です。この付近ではよく採掘されていまして。街にも照明として利用されていますよ?」
「そうなの? こんな青い光の照明あったっけ?」
地面に落ちているその鉱石の欠片を一つ拾ってまじまじと観察してみる。アイギスが言うには街の至る所にこの『光石』が使われているそうだけど……こんな青い明かりが点いてる所見たことないんだけど?
「その『光石』の面白い特徴として、魔力を込める者によって、その色を変えるってのがあるのよアリサ様」
「へぇ~それは面白そうだね。レイリーアが魔力を込めると何色になるの?」
「アタシがやると黄色くなったわっと!」
レイリーアの放つ矢が迫ってくるミノタウロスの一頭の眉間を貫く。
今私達がいるのは『悲涙の洞窟』四階層。街の冒険者達の間では一~三階層迄を『上層』と呼び、四~五階層を『下層』と呼ぶのだそうだ。その理由が現れる魔物の強さがガラリと変わるから。
「あ~数多くて面倒だな! 蹴散らせ! デュアルウィンド!!」
ごちるゼルワが投げ放つのは、彼の風属性魔力を纏う『デュアルナイフ』と言う、鋭利な刃が上下に一つづつ付いたナイフだ。まるでかの有名なRPGのブーメランの技みたいで格好いいね。
彼の言葉通り蹴散らされていく、スケルトンや、ヴェノムリザード達。
スケルトンは名前の通り、人骨があらゆる武器を手に持ち攻撃を仕掛けて来る魔物。リアルで見ると怖い。
ヴェノムリザードは見るからに毒々しい黒紫色の体色と、毒液を吐き出すっていう魔物なんだけど、見た目可愛いサンショウウオなので思わず油断しちゃいそうだね。
「ガウスとムラーヴェも流石に二人だけでは『下層』迄は手が回らなかったのでしょうね、でもここまで一気に来れたのは大きなアドバンテージですよ!」
ボコンッ!!
「ギャインッ!?」
襲って来たソードックの頭を、杖でぶん殴るサーサ。ソードックは犬型の魔物で、前足の肩? から鋭い剣のような骨が露出しているのが特徴。素早い動きで獲物を切り刻み、動きが鈍ったところを必殺の牙でとどめをさすおっかないわんわんだ。
「ゼルワがやると確か赤だったのぉ、サーサは緑じゃったか? 儂は青が深くなるのじゃが! ヌゥウン!」
「ブモオォォッ!!」「モオォッ!!」
ドガが戦斧をふるい、ミノタウロスを二頭まとめて両断する。
前世の世界でも有名なモンスターとして名高いミノタウロスは、牛の頭に人の体躯をした獰猛な魔物だ。何処から手にいれたのか斧や、大剣、棍棒等を手にし襲い掛かってくる。
「こんな雑魚に構っていられるか。『白銀』推して参る!」
ザシュッ! ズバッ! ザンッザンッ!!
「モォォッ!?」「ギャワンッ!!」「ッッ!?」
マントを翻し駆けるアイギスがミノタウロスを、ソードック、ヴェノムリザードにスケルトンを瞬く間に斬り捨てて行く。その姿は美しくまるで剣舞を見ているようだ。
(格好いいじゃん♪ イケメソだから余計に映えるね!)
『聖域』で私と剣聖剣技の鍛練を経て、アイギスの動きは凄く良くなっている。五人の中でもそれが抜きん出てわかるので目立つんだよね。安定感のあるリーダーってのは仲間達にとっても心強いものだ。
「さぁっ! 皆急ごう、五階層は目の前だ!」
応! って元気な掛け声と一緒に再び走り出す『白銀』達。その後からアリアに腰掛けてふよふよ飛ぶ私と、神槍ティレーネに乗るアルティレーネが続く。
「ふふ、はいアリサお姉さまも試して見て下さいね」
「お、拾ってたのアルティ? ありがと♪ じゃあやってみるね!」
並走するアルティレーネが手を差し出し、私に手のひらサイズの光石を見せて試して見てと言う。私も興味がるので遠慮なく受け取って、軽く魔力を込めてみる。すると……
「お、おぉ~なんかふわぁ~って感じで光るんだね。ピンク……んん、白っぽいから桃色?」
「うふふ♪ やっぱり、思った通りでした!」
私が魔力を込めた光石はほわほわ~って感じで桃色の光を発している。それを見たアルティレーネはどこか嬉しそうにして手を合わせはしゃぐ。
「お二方、五階層に続く階段……おや、これはとても暖かく優しい光ですね。アリサ様もお試しになられたので?」
「うん♪ えへへ、何か可愛い光だよね!」
五階層に続く階段に辿り着き、先行しているアイギス達『白銀』が、私達二人に突入の由を聞いてくるんだけど、そこで私が手にする桃色の光に注目が集まった。アイギスが私の手元を見て感想をもらす。うむ、我ながら、なかなかぷりちぃな光じゃないかな!
「はい。では皆さんに少しだけこの石の秘密を教えて差し上げましょう♪」
えっ? ちょっとアルティレーネがなんか場違いな事を言い出したんだけど……って、石ころ拾ってきゃっきゃとはしゃぐ私が言えたことじゃないけども……いいのかな?
「大丈夫です。焦りはミスを生みますから、少し余裕を持ちましょう。さて、この『光石』ですが、これは『光る意志』と呼ぶのです。魔力を込めた者の最も強く思う意志が色を伴い、光って教えてくれるのですよ」
「へぇ~ありふれているものだけど、結構神秘的な石ころなのね? それで、アルティレーネ様、アタシの黄色はどんな意味なの?」
うんうん、確かにアルティレーネの言うことはもっともだ。なるほど、ここらで一端落ち着いておくのも大事だね。それにしてもだ、ほえ~なんか面白い石だったのね! レイリーアの黄色はどんな意味なんだろ? 私も気になる。
「レイリーアさんの黄色は『明るい』『陽気』等と言った意志、考えを持つ方に多くあらわれます。ふふ、ピッタリじゃありませんか?」
「おぉ~確かに、レイリーアがいるといつも明るい雰囲気になりますものね!」
「ムードメーカーっぽいもんね! 多分フォレアも黄色になるんじゃないかな?」
アルティレーネの説明を聞いて納得する私とサーサ。レイリーアはいつも明るくて、場を楽しい空気にしてくれるからね! フォレアルーネも似たところあるからきっと二人は気が合うだろう。
「ゼルワさんの赤は『情熱』『人情』等ですね。胸に熱い思いを秘める激情家に多いです」
「マジか~なんかそう分析? みたいにされるとちょいと恥ずかしい気がすんな……」
ポリポリと頬をかいてゼルワが照れている。ふふ、なんか気持ちはわかるよ。
「ほほぅ、結構当たっとるのぅ。ゼルワは結構カッとなりやすいヤツじゃから……」
「熱血漢ですものねゼルワは。大地さんと仲良くなったのにも納得ですよ」
そう、一見すると、結構爽やかそうな印象を受けるゼルワだけど、中々に熱血漢のお兄さんなんだよね。『聖域』でも『四神』の白虎こと、大地と仲が良くて訓練とかで一緒にいるところを何度か見かけている。「やぁってやるぜっ!!」とか言わせたいキャラだ。
「サーサさんの緑は『優しさ』や『慈しみ』等を表します。比較的大人しい方が多いですよ」
「え……大人しい……か? サーサは怒ると……」
「何ですかアイギス? よく聞こえませんねぇ!?」
ヌッ! っと、アイギスの顎に杖を突き付けてニッコリ微笑むサーサさんですよ。も~余計な事言わないのアイギス。でも、うん。サーサはなんだかんだで優しい子だからね。一緒に料理しててもパーティーの事を考えて勉強してるのがわかるし。
「深い青。ドガさんのこの色は『冷静』『深慮』と言った、落ち着いた方が多いのです」
「えぇ~? こんな呑んだくれドワーフがですか? それこそ何かの間違いじゃないでしょうか?」
ぺちぺちドガの兜を手のひらでやるサーサが、プフーw
「ほっほっほ。皆何かと熱くなりがちじゃからのぅ~儂のようなジジイは冷静に物事を見なくてはならんのじゃ。サーサよ、本来ならこれは中衛を担うヌシの役割じゃぞ?」
「うっ……わ、わかっていますよ。出来る限りそう勤めますとも……」
手を止めてぐぬぬってなるサーサ、ドガが冷静なのは年の功かな? 黄龍のシドウも冷静だし、落ち着いて話せば知恵者だもんねぇ……変態だけどさ。
「そう言えばアイギスは何色になったの?」
「私は白でしたよ」
「白ですか……やはり貴方は……白は何事も最後まで諦めない『不屈』そして何者にも穢されない『清廉』を示す強い意志の持ち主にあらわれます。私の知る限り、これはアーグラスさんしかいませんんでした」
アルティレーネの説明にみんながアイギスを見てほぉ~って感心の声をあげる。凄いじゃんアイギス……って、なんでそこでムスッって顔になるのよ? はは~ん、そっかわかったぞ!
「そんな顔しないでアイギス。貴方はアーグラスじゃない。私はアイギスっていう個人をちゃんと見てるから。ね?」
「あ、アリサ様……はい。ありがとうございます……貴女のその言葉に私はどれだけ救われていることか……」
あうっ!! なんて優しい微笑み見せるんだコイツは! めっちゃドキッってしたんですけど!? 胸がキュンってなったんですけど~やーん♥️
「はいはい、アイギスもアリサ様もいちゃついてないで……それでアルティレーネ様。アリサ様の桃色にはどんな意味があるの?」
ちょっ! レイリーア、いちゃついてなんてないからね!? あー聞いてない!
「ふふ、うふふ♪ 聞きたいですか聞きたいですよね? うふふ、アリサお姉さまの桃色は~」
「「「「「桃色は~?」」」」」
え、ちょっと……なんでそんなにニッコニコなのアルティレーネは? そこはかとなくいや~な予感がするんだけど!?
「『愛』です!」
おおぉーっ!!
ぐわあぁぁーっ!!? な、なんだどっ!? 『愛』って!? 待て待て!? 待てってばよおいぃっ!! みんなも感心してこっち見るんじゃないの!? は、恥ずかしいじゃん!!
「すげぇぴったりですね!」
「うむ。アリサ様ほど愛情深い御方はそうおるまいて」
「そうね! アリサ様の愛情あってこそ今のアタシ達がいるんですもの!」
「ティリア様に見せて頂いた世界樹の呪い解呪。『聖域』の再生。そして私達との出会いまで、アリサ様の愛情を沢山感じています!」
「窮地を救われ、腕を治して頂いたうえ、更なる高見へ登る為の機会さえも与えて下さった……まさに大いなる『愛』! アリサ様、このアイギス必ずやその『愛』に報いて見せます!」
「ぶっころがしいぃぃーっっ!!!!!!」
ドドーンッッ!!!!
「「「おわあぁぁーっっ!!??」」」「「うきゃあぁぁーっっ!!??」」
「やめんかーいっ! あ、ああ、『愛』とかっ! こっ恥ずかし過ぎるわ!?」
はあはあっ……お、思わず弾性空気弾でみんなを吹っ飛ばしちゃったよ。だってだって恥ずかしいこと言うんだもん! アリスの口真似も出るってもんだ!
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【未踏領域】~玉座の裏に、ではないけど~《アリサview》
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「あらら、アリサお姉さまったら。照れ隠しにしてはやりすぎですよ?」
「う……そ、そんなこと言われてもしょうがないじゃん!」
ごろごろごろ~って五階層に転がり落ちていく『白銀』のみんなを追いかけて、私とアルティレーネも降りていく。アルティレーネは私をやりすぎと注意してくるけど、それならあーいうことするんじゃありませんよ?
「ごめんごめん、みんな~? 大丈夫だった!?」
「アリサ様、ええ、問題ありません!」
「アハハ♪ アリサ様が照れ屋だってすっかり忘れてたわ!」
「私達こそからかうような言動をしてしまって、ごめんなさい」
おぉ、みんな何事もなかったようにピンピンしてる。まぁ、あのくらいで怪我なんてするほどやわな鍛え方してないか。アイギスとレイリーア、サーサが追ってきた私達に振り返って、無事と謝罪をしてきたよ。
「ふはは♪ いやはや、済みませんでしたのぉアリサ様」
「あ~俺もつい口に出しちまって、済みませんアリサ様……ってお前ら早くどけってばよ! 重いわ!」
ドガと一緒に私に謝るゼルワ。なんだけど、みんなの下敷きになってぐえぇ~ってなってるね。そりゃ倒れた背中に四人乗せてりゃそうなるわ。
「ここが五階層……凄く禍々しいね……」
起き上がる『白銀』達を背に、私は降り立った五階層を見渡して見た。
五階層は一~四階層のように入り組んだ迷路ではなく、広いホールのようになっている、ただ、明らかに違うのは魔物が一体もおらず、光石が酷く不気味などす黒く光る濃い紫色の光を発していることだ。
「なんだこりゃ……五階層ってこんなんじゃなかったよな?」
「魔物がいないのもそうですが……光石がこんな色に光ることなどありませんでしたね」
ゼルワとサーサもこの異様さに冷や汗を流している。
「「おいおい、なんだこりゃぁ? 五階層がおかしくなってやがる!」」
「「これって氾濫の前兆なの!?」」
映像通信を通して、私達の様子を見てる街の冒険者達も騒然として声をあげているね。どうやら普段はこんな状態じゃないみたいだ。
「シェラザードが私達に気付いている証拠です。光石のこの禍々しい光は『憎悪』『怒り』を表すもの、セリアベールの皆さん、気を引き締めて下さい。これより私達は本当の最下層に突入します!」
アルティレーネが前に出て告げる。既に魔王は目覚め、私達を迎え撃つ構えでいるのだと。その心を憎しみに染めて私達を、この世界を滅ぼそうと動き出そうとしている。そんなこと絶対にさせない。私の、私達の、のんびりだらけたスローライフのためにもね!
「アリス、バルガス、ネヴュラ、カイン。そして『黒狼』、街のみんな。聞こえたわね? 戦闘が激化する可能性があるわ! 十分気を付けて!」
「「「了解!!」」」
「「はっ! この程度の魔物共じゃ物足りねぇって思ってたとこだ!」」
「「魔王だろうとなんだろうと私達は屈しないわよ!」」
「「来るならドーンと来やがれ! この不細工目玉野郎が!!」」
映像通信から街のみんなの気概を感じる。いいね! 凄いパワーを感じるよ!
「アリサお姉さま、隠された入り口を顕にしてください。あの『黒水晶』の時と同じです」
「オッケー、いくよ隠蔽破壊!!」
バアーッ!! 私の魔法隠蔽破壊が五階層を疾る! すると広場中央の空間が歪み、六階層へと続く入り口。その階段が床に現れる。
「マジか……マジに未踏領域があったんだな!」
「ああ、強い魔力で隠蔽されていたのだな……今まで誰も気付けなかった訳だ」
「……魔法使いとしては悔しいものがありますね」
「サーサ、気持ちはわかるけど、切り替えていきましょう! いよいよ長年苦しめられてきた氾濫に終止符を打てるのよ!?」
「レイリーアの言う通りじゃな! ここぞ分水嶺じゃ、気を引き締めて行こうぞ!!」
その階段を見て『白銀』のみんなも驚いている。サーサは今まで気付けなかった事を悔しがっているけど、ここはレイリーアとドガの言う通りだ、切り替えてほしい。
「そうですね! ささっと終わらせてアリサ様の作られたあのケーキを食べましょう♪」
「あーあれな! めっちゃうまそうだったもんな♪ 俺も楽しみだぜ!」
うんうん! いいね。みんな笑ってる。うまく切り替えるもんだね~この辺もSランクってとこなのかな? 決戦を前にして変に気負わず自然体でいることのどれだけ難しいことか。
「マスター! 召喚はどうしまっす? もうパパ~っと喚んじゃいましょかい?」
「駄目よ。『聖域』の戦力は謂わば切り札なのよ? 本当に危なくなるまで温存よ。冒険者のみんなも私達にその意地と矜持を見せて!」
映像通信越しにアリスの「やっちゃいまっすよぉ~!」ってな声と、そんな質問来たので答える。オプション飛ばしてる村々もまだまだ余裕あるし、こんな序盤から『聖域』の戦力投入なんて気が早すぎる。
「おっけぇぇでっすよぉ~! おらぁ~聞きやがりましたか冒険者達!? こんじょー見せやがれなさいでっすよぉぉーっ!」
「「オオオオォォォーっっ!!!!」」
うんうん! 凄い士気の高さだ。見る限りだいぶ優勢のようだし、そう簡単に崩されはしないだろう。
「みんな、これから私は中継にソース割くから出来るだけ魔物を近付けないでくれるかな?」
「了解ですアリサ様! 聞いたなみんな。これより私達『白銀』は『悲涙の洞窟』未踏領域に踏み込む! 我々と『聖域』、セリアベールを中継するアリサ様に一歩も敵を近付けさせるな!」
「「「「応!!」」」」
「時間をかけたくはありません。私が先行しましょう! 『白銀』の皆さんはアリサお姉さまを守りつつ続いて下さい!」
ダッ!!
アルティレーネが手に神槍ティレーネを持ち、六階層へと続く階段を駆け降りる。それに続く『白銀』と私達。予定通り私はサポートに徹するべく、自分の周りに映像通信を展開させていく。情報統制室の如く、モニターがズラリと並んだ。
「うわっ凄い数の映像通信ですねアリサ様。これを全部把握するなんて凄すぎます!」
「そうね……オプションをある程度自律式にしてるけど、数が数だしちょいとキッツいかな? サーサは間違っても真似しないようにね、あっという間に神経焼き切れて廃人になるから」
「真似したくてもできませんってば……」
クアッドコアの並列意志があっても、結構キツイ程の情報を処理している状況だ。集中したいとこだね。
「これは……うって変わって、なんだ……城壁のような……?」
「むぅ! 黒曜石の城とでも言わんばかりじゃの、アイギス来るぞい!!」
六階層は岩だらけの五階層までとまるで違い、きちんと整備された石壁が覆い、貴重とされる黒曜石による石像や、装飾が至るところに施されたまるで豪華な城の内部に入り込んだかのような錯覚さえ覚える造りになっていた。
「キラーマンティスの群れとか冗談でしょう!?」
「狼狽えるんじゃねぇレイリーア! 今の俺達から見れば大した魔物じゃねぇぜ!」
ギギギィィーッッ!! ギチギチギチギチィィーッッ!!
前方に見える三叉路から群れを成して迫ってくるのは、身の丈三メートルはあろう巨大カマキリ達だ。昆虫の世界でも圧倒的な強者のカマキリ。前世のRPGでも、かなり終盤に登場してプレイヤーを苦しめた奴だ。驚いたレイリーアが声をあげるが、ゼルワはちゃんと戦力を分析してるみたいだ。
「邪魔です」
ヒュンッ!
その一言と一緒にアルティレーネが槍を薙ぐと、ズゴオォォォーンッッ!!! と言う凄まじい轟音を伴い剣閃がキラーマンティス達に襲い掛かる!
「「「!!!????」」」
声にならない悲鳴をあげて、一瞬の内に倒れていくキラーマンティス達。しかし、やはり掻い潜って来た個体もいるようで……
「邪魔はさせん!」
「行かせるか!」
「てめぇらに構ってる暇なんてねぇんだよ!」
ドグシャァッ!! ザンッ!! ザシュッ!!
ドガの戦斧に、アイギスの剣に、ゼルワのナイフに叩き潰されて、切り裂かれて倒れていく。
「アリサ様には近付けさせたりしないわ!」
「岩槍! 貫いて!」
レイリーアの放つ矢が、サーサの魔法がそれぞれを撃ち貫きあっという間に駆逐されていく。
「『聖域』で妖精さん達に渡した魔除けの指輪持ってくればよかったかな?」
「いいえ、アリサお姉さま。シェラザードに操られているこの魔物達にあの指輪の効果は期待できません」
うぇ? マジで? そう私が疑問に思うと、どうも魔王によって操られている魔物は狂化されているそうで、魔物が「何か嫌だな」って感じて避ける魔除けの指輪の効果は無くなるのだそうな。
「私を感じている以上『隠密』と言った類いの技能も無意味でしょう」
「正面突破あるのみ、か。望むところだ!」
「へっ! 上等だぜ! やってやろうじゃねぇか!!」
あ、惜しい。ゼルワそこは「やってやるぜ!」って言ってほしかった。って、そんな冗談はともかく、アルティレーネの説明にも闘志を滾らせるアイギス達『白銀』が頼もしいね!
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【忌々しい!】~見てなさい!~《シェラザードview》
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「お出でなさい『見通す瞳』」
ふふ、驚いたわアルティレーネ……まさか貴女の方からわざわざ来てくれるなんてね。一体どうやって魔神様の呪いを解呪したのかしら? 興味はあるけれど……うふふ、絶望の最中にじっくりいたぶって聞いてあげる。
「うっふふ……忌々しい女神共、見ていなさい。貴女達の創造したこの世界、徹底的に壊してあげる。そうねぇ、手始めにこの大陸から始めましょう。矮小な者共の住む街や村を滅ぼして、それから魔素の立ち込める死の大地に変えてあげるわ! うふふ、アハハ! 素敵、素敵よ! きっと魔神様もお喜びになられるわ! アーッハッハッハ!!」
あぁ、昂るわ! アルティレーネ! 今から貴女の泣き叫ぶ姿が見えるよう! たまらないわね、貴女の綺麗な顔がグシャグシャになる様を思い浮かべるだけでも! 思い知りなさいな、大切なものが奪われるその悲しみを! 苦しみを! 絶望を!
ほら、見なさい。今から街や村を壊してあげるわ!
「ふふふ、可愛い抵抗をしているようね。いいわ、簡単に壊れてしまってはつまらないものね」
『見通す瞳』から見ることの出来る街と村は、冒険者達が召喚される魔物相手に必死に抵抗を続けている。
「あら……? あれは……セイントビートルかしら? ふふふ、あんな小さな虫に守られるなんて……あはは! なんて情けないのかしらね?」
村の周囲をブンブンと飛び回る小さな豆粒。何かと思い目を凝らして見てみれば、それはセイントビートルだった。他の村にも同様に二~三匹のセイントビートルが飛び回って、召喚される魔物から村を守っているようだ。
「ふん。女神に守るよう指示でも受けたのかしら? たかが二~三匹の虫けらなんて物量で潰れるわよね。放っておきましょう、それより街はどうかしら?」
『聖虫』等と揶揄されても所詮虫にすぎない。召喚される魔物の数に圧されて無惨に潰れるがいいわ。
村の様子から興味をなくした私は、多くの種族が住み着いた街の方へと目を向ける。
「あらあら、この時代にも『飛行』を使える者がいるのね? ふふふ、正直侮っていたわ。しかもペガサスまで味方につけているのね?」
セイントビートルといい、ペガサスといい……意外な存在に多少驚いたけれど、それだけね。見れば『飛行』で自在に空を飛べる者は三人しかいない……あら? あの二人……何処かで見たことがあるような気がするわね?
「……まぁ、どうせ殺すのだし。どうでもいいわね、あの傘をさした変な娘もまとめて蹂躙してやるわ! さあっ!! 刮目なさい! 遊びは終わりよ!」
私はそう言うと、より強い魔力を込めて召喚を続ける。言葉通り今までの魔物はほんのお遊び。低級の弱い魔物達だ。だが、ここからは違う、濃縮を繰り返し続けた魔力を注ぎ召喚する魔物達は強大そのものだ。
街を囲うようにして守りの陣を敷く冒険者。それを更に囲うように魔方陣が展開されて、魔物達が飛び出してくる。
ホーンライガー、イービルプラント、デビルクス、バーンタイガー、フリーズバード、ミッドル、プテランバード、etcetc!!
「ふふふ、いずれも貴方達程度の冒険者じゃ太刀打ちできないでしょうね。さぁ、聞かせなさい! 貴方達の悲鳴を! 嘆きの声を! 断末魔を! それらすべてを魔神様に捧げるわ!」
そう私が高らかに宣言すると同時、あの傘を持った娘が『見通す瞳』に向き合い、右手の親指を下に、人差し指でこちらを指差し、左手で顔をおおい、妙なポーズで何か叫び出した。
「何よこの小娘!? 「貴様見ているな!?」ですって? 生意気なっ!?」
私が文句を言うが早いか、映像がプツリと途絶えた。他の村に召喚した『見通す瞳』までも、まるで示し合わせたかのように同時に破壊されたようだ。
「ふん……馬鹿ね、『見通す瞳』さえ破壊してしまえば、もう魔物を召喚されることはないとでも思ったのかしら?」
あんな物はいくらでも用意出来るのよ? このダンジョンに侵入したアルティレーネ達がここに来るまで、まだ時間がありそうだし……うふふ、遊んであげるわね? 私を退屈させないでちょうだい。
そうして再度、『見通す瞳』をこの大陸の街と村に召喚させる。街の東西南北に各一つ、村に一つづつ、そうね……少し強化しておきましょうか?
「便利な魔法ではあるけれど……もう少し細かい機能をつけたいところね……」
『見通す瞳』は、遠く離れていてもその様子を伺える便利な魔法。だけれど、その場から動かせない。音声は拾えない。等、痒いところに手が届かない点もある。
まぁ、その辺りはこの世界を破壊した後で暇潰しに考えてみましょう。さて、街と村はどうなったかしら? もう破壊されて住民が泣き叫んでいるかしらね?
「あら……? 意外ね。この時代の冒険者はそれなりに強いのかしら?」
再び開けた『見通す瞳』からの映像を見て驚いたわ。あれだけの魔物達が劣勢を強いられているじゃない。それに、冒険者達が纏うあの青白いオーラは何かしら? もしかするとあのオーラこそが魔物達を退けている理由?
ならば村の方はどうだ? そう思った私はそちらに目を向けて、また驚いた。街に召喚した数より少ないとはいえ、それでも結構な数の魔物で村を襲わせたのだ。それが全滅している!
「おかしいわ! 『見通す瞳』の破壊から、再召喚までものの十数秒しか経っていないのよ!?」
そのほんの一瞬とも言える時間で十数体はいた魔物を、二~三匹のセイントビートルと数人の冒険者で全滅させたと言うの?
「なんて忌々しいっ! 女神共の息がかかっているとでも言うの?」
まったく腹立たしい連中だわ。折角じわじわと苦しませてやろうと思っていたのだけれど……仕方ないわね。予定よりだいぶ早いけど、もっと強力な魔物を喚んであげましょう。
ドドーンッッ!!! ガラガラガラーッッ!!!
そう思い召喚するべく魔力を込めた矢先、この最下層の一室。私が創造した『迷宮核』が安置されている部屋の壁が激しい音とともに崩れ落ちた。
「あら、躾がなっていないようね? ノックくらいはするものよ? ねぇ……アルティレーネ?」
「ふふ、ただの魔物に成り果てた貴女に礼節を説かれるなんて思ってもいませんでしたよ、シェラザード」
振り替えって見ればそこには優雅に微笑む憎たらしい女神、アルティレーネと……
「ふふ、うふふ……これはこれは。あはは! 誰を連れて来たのかと思えば、なんて懐かしい顔ぶれかしら!」
思いもよらぬ女神の連れに笑みがこぼれてしまう。だって、私達を討った勇者とそのパーティー達がいるんですもの! しかもかなり弱体化しているじゃない!
「嬉しいわ! アルティレーネ、貴女わざわざ私の為に勇者達を連れて来てくれたのね? ふふふ、しかも何? 吹けば飛びそうなほど弱々しくなって、転生に失敗でもしたのかしら?」
考えてみれば今の時代にまで勇者達が生きている筈はないので、転生したのだろうけれど。それにしても弱い。見ただけで分かるほどに弱いわ。
「そして……イメチェンにしてはやりすぎじゃないかしらねぇティリア? お得意のルールを破ってまで干渉してくるだけじゃなくて……そんなに自分の体型がコンプレックスだったの?」
もう一人。神界時代の私の上司、主神たるティリアが変装のつもりか、髪の色だけでなく、その体型まで変えて……更に妙な格好をして一緒にいた。
「わはは♪ だってよ~ティリア? 笑われてるぞあんた?」
「文句はフォレアに言って下さいね、ティリア姉様」
……どういうこと? この二人は何を言っているのかしら?
「不安ですかシェラザード? ふふふ、安心してください。貴女の相手は私一人ですよ?」
不敵な笑みとともに槍を構えるアルティレーネ。なんですって……? 私の相手を一人で務める? 随分見くびられたものね!
「ふん……いいわ。その人を見下した態度、直ぐに後悔させてあげるわよ。そして嘆きなさい! 貴女を叩き潰してこの世界を滅ぼしてあげる!!」
うふふ、さあっ! 始めましょう。魔神様の仇、私がとる!
ティリア「( ゜皿゜)……」
ユニ「てぃりあさま~なんでそんな面白い顔してるの?(σ≧▽≦)σ」
ティリア「レウィリ、フォレア、ちょっとこっちいらっしゃい( ゜ー゜)」
フォレアルーネ「え、ヤダ(;¬_¬)」
レウィリリーネ「ん……逃げる(((・・;)」
ユニ「ん(・_・?)てぃりあさま~「こんぷれっくす」って言われたのを気にしてるの(-ω- ?)」
ティリア「えぇいっ!(≧□≦)二人ともそこに直れぃぃーっっヽ(♯`Д´)ノコリャーッ」
フォレアルーネ「アハハヾ(@゜▽゜@)ノやーだよ♪」
レウィリリーネ「ん、今更変えようがないんだからあきらめて、ティリア姉さん(-人-;)」
ユニ「あ、二人とも逃げてった! わーい楽しそう♪ヽ(´▽`)/ユニもユニも~(o^∀^o)」
ティリア「あぁぁ(|||´Д`)もぅ……待ってよユニ~! おいかけっこじゃないのよぉ~。゜ヽ(゜`Д´゜)ノ゜。」
レウィリリーネ「ん? ユニもおっかけてきてる(ノ゜Д゜)ノ」
フォレアルーネ「あ~多分うちらが遊んでるって思ってるんじゃないかな(^_^;)」
レウィリリーネ「ちょうどいい……その体で上手くティリア姉さんを誤魔化そう(゜-゜)(。_。)」
ユニ「わーい♪ レウィリリーネ様~フォレアルーネ様待って~(*≧∀≦)」
ティリア「えぇーいっ! あんた達待ちなさーいヽ(#゜Д゜)ノ」
シドウ「なんじゃなんじゃ(-ω- ?)」
リン「楽しそうでなによりであるな( ´ー`)」
ジュン「オイラもまざってくるぞーっ!ヽ(*>∇<)ノ」




