45話 魔女と『悲涙の洞窟』
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【『聖域』空戦部隊】~失敗料理はもう嫌~《ティリアview》
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《おーい……》
「『ガルーダナンバーズ、ユナイト小隊』皆異常なしだ! ゼーロ殿」
《同じく、レイミーア小隊異常なし!》
《レイヴン小隊異常なし!》
《うむ!》
《おーいってばよ~!?》
(エスペル小隊も異常ありませんよぉ~ゼーロさん♪)
《了解した! 皆そのまま別命あるまで待機せよ!》
了解っ!! って元気な声がこの建設中の神殿に聞こえてくる。やってるわね、ガルーダこと、ゼーロ率いる『ガルーダナンバーズ』の面々だ。
《聞けよおいぃ~!?》
《なんだ、さっきからピーチクパーチクと騒がしいぞ鳳凰よ?》
《いや、だからなんで俺っちがお前さんの部下になってるわけぇ~? おかしいだるおぉぉ~? えぇ~ガルーダ!?》
なんだか一羽ギャースカって騒いでるのがいるけど、あれは鳳凰ね? 『聖域』を再生するときも、会議したときも、アリスが『待ち望んだ永遠』を張ったときも……俺知ら~んって、グースカ寝てたのをゼーロが蹴っ飛ばして叩き起こし。私達の前に連れて来たのよね。その時もああしてギャイギャイ騒いだけど、私が一睨み利かせたら大人しくなったわ。サボリ魔のクセに変にプライド高いから、ゼーロの部下に組み込まれたのが不満みたい。
《ハハハ♪ ただの穀潰し風情が何を吠えるか? 不満ならば此度の戦にて我以上の戦果を出して見せれば良い!》
《まったく……大恩あるアリサ様にも顔を見せぬ貴方の不敬、本来ならば追放も有り得ますよ!?》
《然り。女神達の慈悲に感謝なさいませ?》
だけど、ゼーロにレイミーア、レイヴンの三羽からボロクソに言われてぐぅの音も出ないみたいね。
「ゼーロ? 空戦部隊の準備は出来ているのかしら? って、あんた……まさかまた喚いてるんじゃないでしょうね鳳凰?」
《うげっ! 朱雀姉ちゃん……いやぁ~そんな事ねぇよ~?》
「……あんまりふざけてると私が直々に焼き上げてやるから、そのつもりでいなさい? それで、どうなの?」
《あぁ、我等の準備は万全だ! いつでも行けるぞ?》
「グワーワッ!」「グワグワーッ!」「グワーオッ!」
《この通りグリフォン達も猛り、士気も上々。ご安心召され朱美殿》
様子を見に来たのかしら? 『四神』の朱雀こと、朱美が飛んで来てゼーロ達に話しかけてるわ。鳳凰を睨んでいるから、サボるなって釘を刺しに来たのね?
この様子からもうお分かりかしら? そう、今日はいよいよアリサ姉さん達が『悲涙の洞窟』に乗り込む日なの。
「シェラザードかぁ~ティリア姉知ってた? アイツ実はかなり前から魔神に感情操作されてたって話」
「は? えっ!? ちょっとフォレアそれ初耳なんだけど!?」
「ん……噂でしかなかった、あまり気にされてないけど……」
神殿の最上階のテラスで、鳥達の様子を見ていた私の側に妹二人がやって来て、サラっととんでもないこと言い出した。『悲涙の洞窟』に眠るヤンデレ魔王のシェラザードは、なんと随分昔、神界で魔神からちゃちゃを入れられていたらしい。
「……ちょっと、待って……よく思い出すから~んむむ……」
シェラザードは元々私の部下だ。基本大人しく、あまり目立たない子だった……ってのが印象に残ってる。後は色々手編みで何か作ってたわね……その時のシェラザードの表情見て、あ~恋してるんだな~って……
「思った事あったけど、その相手が魔神だったって事よね?」
「そうだね、うちもまさかあの嫌われ者の魔神が相手!? ってびっくらこいたけど……」
「感情を操作されていたと考えれば合点がいく……」
あちゃぁ~なんてこと……私の監督不行案件だわ。んん~でも、恋愛は自由だしなぁ……
「ま、なんにしてもアリサ姉とアルティ姉に任せたんだし。なんとかしてくれるっしょ?」
「神界に還して詳しく聞けばいい……」
「まぁ、そうね……にしても、今になってそんな情報……あの馬鹿から?」
過ぎたことだし、あんまり気にしてもしょうがないわよね。フォレアとレウィリが言うようにアリサ姉さんとアルティがふん捕まえたらきっちり話を聞きましょう。それより気になるのが、その情報の出所。
アリサ姉さん達がセリアベールに出発した後、この『聖域』に来訪者があったのよ。詳しくはアリサ姉さん達が帰ってきたら話すけど。
「うん……アリサお姉さんのクッキー一枚あげたら喜んで話した」
「相変わらずのアホだよねぇ~アイツ」
ふぅってため息ついて呆れるレウィリに、ナハハ♪ って笑うフォレア。……詳しくはまた今度ね? 楽しみにしてて。
「てぃりあさま~レウィリリーネさま~フォレアルーネさま~ごはんですよぉ~?」
「あ、ユニ。教えに来てくれてありがとう。今朝のメニューは何かしら?」
私達が話しているとユニが食事の用意が出来たと教えに来てくれた。アリサ姉さんが開いていた料理教室は中々に好評で、妖精達に留まらず、『懐刀』、『四神』達の棲処からも、それぞれの部下達がやって来るほどなのだ。今はそのアリサ姉さんが留守なのでお休みなのだけど……戻ってきたらまた再開するだろう。その時はきっと新しいメニューが献立に加わると思う。むふふ♪ 楽しみね!
「今日の朝ごはんはねぇ~『妖精さんの焦げ焦げハンバーグ』に『苦味たっぷり野菜スープ』それから『やっちゃった殻混じりのボロボロ目玉焼き』だよぉ~! ちゃんと残さずに食べてね!」
「「「…………ぉぅ」」」
にぱーって、最近は私達にも遠慮がなくなってきた、可愛らしいゆにゆにスマイルが私達を絶望のずんどこ……ドン底に叩き落とす。
「レウィリ……あんた……」
「……ごめん。失敗した、卵割るの難しいんだもん」
「あぁぁ……みんなの手前食べないって訳にいかないし~! うえぇ~! 早く帰って来ないかなぁアリサ姉~もう失敗作の料理はいやだぁ~!」
ハンバーグと野菜スープは妖精達、そして目玉焼きはレウィリが作った物だ。私がレウィリに視線をやれば、プイってそっぽ向くこの妹。まぁ、私とフォレアは作ってもらってる立場なので文句なんて言わないけど……
フォレアが頭抱えるのは、『命の有り難みに感謝して、作った物は残さず食べなさい』って言うアリサ姉さんの教えを推奨しているからだ。
「ゆにゆにのホットケーキ食べたいなぁ~? ね、だめぇ~?」
「だぁ~めぇ~! ユニのホットケーキいっちばん最初に食べてもらうのはアリサおねぇちゃんだもん!」
「はうぅ……アリサお姉さん早く帰って来て……」
フォレアが懇願するように、ユニにすり寄ってはホットケーキ食べたいって、泣きつくものの、ユニは頑なに拒否。いの一番にアリサ姉さんに食べてもらうんだって、今までずっと頑張って練習を重ねていたユニのホットケーキは、それはそれは美味しそうなのよね。きっとアリサ姉さんが作るホットケーキにも負けないんじゃないかしら?
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【準備は万全】~来るなら来い!~《ゼオンview》
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「いいかみんな! 予定通り行くぞ! Aランク配置に付け!」
オオォォーッッ!!
俺の号令がアリサ嬢ちゃんの魔法、映像通信を通して街中に響き渡る。先ずは先陣。Aランクの冒険者達が東西南北から街の外に出て配置に付くべく移動する。続いてBランク達だ。
「Bランク続け! Aランクの隙間を埋めるんだ!」
朝から皆の士気は高い。それもその筈、何て言っても今日はいよいよアリサの嬢ちゃんとアルティレーネ様が『悲涙の洞窟』に乗り込み、未踏領域を越えた最下層に潜り、そこに眠る魔王と決戦する日だからな。魔王の事はパニックになるのを防ぐために、一部を除いて伏せてある。
「じゃあ、アリス。街は任せるわよ? カイン、バルガス、ネヴュラもしっかりやんなさい?」
「はーい♪ おっまかせくっださぁ~いマスター! このアリスちゃんがいる限り守り通してご覧にいれまっしょい!」
「「はっ! お任せ下さいアリサ様!」」
「だいぶ良くしてもらいましたし、僕も街のみなさんを守るため頑張ります!」
そのアリサの嬢ちゃんとアルティレーネ様は『白銀』達と一緒だ、予定通り、『白銀』は道中の案内と露払いを担う。アリスの嬢ちゃん達『聖域組』は街の防衛についてくれる。
互いに激励しあってる中、アルティレーネ様が俺の側にやって来る。
「ユグライア、行ってきますね。しっかり街を守るのですよ?」
「お任せ下さいアルティレーネ様。貴女様も無事の帰還を!」
頷き合う俺とアルティレーネ様。遂に長いこと苦しめられてきた氾濫との決着の時って思うと、どうしても心が踊るぜ!
「じゃあ、行くよ! 転移」
アリサの嬢ちゃんの一声で『悲涙の洞窟攻略隊』……すなわち、アリサの嬢ちゃん、アルティレーネ様、『白銀』達が光の粒子に包まれ消える。いよいよ賽は投げられた。
「そう言えばゼオンさん。ガウスとムラーヴェのことはお話されたんですか?」
エミルの言葉に思い出す。すっかり忘れてたぜ……アイツ等何を思ったのかいきなり辞表出して、「俺達はレーネ様とアリサ様について行くのだ!」とか抜かしやがったんだよな。呆気に取られたが、どうもマジに言ってるようなんでそれなら最後に一仕事、『悲涙の洞窟』の魔物を少しでも減らせって頼んどいたんだ。
「まぁ、上手いこと合流するだろうぜ。あの二人もなんだかんだで一流だしな!」
「アリサ様が映像通信で連絡を取って下さったタイミングでお話しましょうか」
まぁ、『聖域』から帰還した『白銀』達をいの一番に出迎えたのがあの二人だ。アリサの嬢ちゃんとアルティレーネ様に絆されちまったんだろうなぁ。
「きっとアリサ様とアルティレーネ様があまりにも美しいから、『聖域』には美人さんが多いだろう! ってノリですよ?」
「アイツ等らしいっちゃらしいよなぁ……まぁ、実際どうかは行ってみねぇとわからんが」
呆れ顔のエミルに俺も苦笑いで返す。アルティレーネ様にもお誘い頂いてるからな、俺も一度『聖域』に行って神々にご挨拶しねぇとならんのだが……
「それもこの決戦を乗り越えてからだ。エミル、住人達の様子はどうだ?」
「ふふ、皆さん落ち着いていますよ。ミュンルーカさんとフォーネさんを始めとした僧侶隊も万全の状態で待機しています」
よし。流石に馴れたもんだぜ。伊達に今まで耐えてきた訳じゃねぇな!
「ちょっとゼオン! なんでガウスとムラーヴェがいるのよ!?」
おっと、映像通信が俺とエミルの眼前に出てきたと思ったら、アリサ嬢ちゃんが驚いた様子で聞いてきた。ははっ! 嬢ちゃんのこんな顔を見れて何かしてやったりって思っちまうな。
「悪い悪い! 言い忘れてたんだわ。そいつ等には先行して魔物を減らしてもらってたんだ」
「まったく、そう言うことはちゃんと教えておいてよね! んで、何か仕事辞めて来たとか言ってるんですけど?」
謝罪しつつ事の経緯をアリサ嬢ちゃんに説明しておく。すると、アリサ嬢ちゃんは呆れたようにため息ついて、仕方ないなと一言。まぁ、根は良い奴等だ、宜しく頼むぜ?
「わかったわ、兎に角彼等をそっちに戻すから防衛にまわしてちょうだいね?」
「了解だ。これから突入か? こっちは万全だぜ!」
映像通信に映るアリサ嬢ちゃんの背後には、「イエーイ♪」とか抜かすガウスとムラーヴェが映っている。「イエーイ♪」じゃあねぇよこの馬鹿野郎共。
「凄い、本当に『悲涙の洞窟』の入り口に着いている……転移魔法、実在していたのですね」
一緒に見てたエミルがその背景に感嘆の声を洩らす。確かに『悲涙の洞窟』の入り口だ。ついさっきまでここにいたアリサの嬢ちゃん達が一瞬で三日ほどの距離を移動しちまうその転移魔法。いやぁ~いいなぁ。便利すぎだろ?
「アルティの神気で魔王は気付くと思うんだよね。いつ魔物がそっちに召喚されるか。そこが読めないけど……十分注意して! じゃあ、行くよ!」
「応! 頼んだぜ!」
そう言って『悲涙の洞窟』に突入するアリサの嬢ちゃんとアルティレーネ様に『白銀』達。さぁ、魔王の奴はどう出てくるかね? アリサの嬢ちゃんやアリス嬢ちゃんの読み通り、このセリアベールや近隣の村に魔物を召喚してくるのか? はたまた、嬢ちゃん達を全力で迎え撃つのか……
「寝惚けててあっさり倒されてくれると楽でいいんだがな……」
「流石にそれはないでしょうね」
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【なにしてんの!?】~ガウスとムラーヴェ~《アリサview》
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「いいかい、あんた……どんなに無様でも、情けなくても。必ず生きて帰ってきな!」
「うむ……必ず帰ろう。約束じゃファム」
ドガがファムさんから兜を受け取り、身に付けている。
「「森を護りし精霊よ、今その子たる我等妖精にその力貸し与えたまへ、大いなる力に抗う勇気を分け与えたまへ」」
サーサとゼルワは向かい合いエルフのおまじないをしてる。
「『魔の大地』へと向かうと決めたあの日と同じさ、レイリーア。僕は君がちゃんと帰ってくるって信じているよ」
「勿論よダーリン! うふふ♪ アリサ様のおかげでこれからどんどん楽しい事が起きそうなんだから、こんなことで立ち止まってなんていらんないわ!」
ラグナースとレイリーアは二~三話をした後……きゃあぁぁ~♪ 間近で見ちゃったキスシーン! ちょっとびっくりしたけど頑張って平静を装います。で、私は……
「はい、アイギス。これは御守りね? あんた達がピンチになったとき必ずこれが助けてくれるから。ずっと身に付けててね?」
「ありがとうございますアリサ様! お心遣い痛み入ります」
アイギスと向かい合う形で、彼に身に付けさせるお手製のマント。彼の鎧とお揃いの白銀のマント。これはホントに特別で、私のある魔法が組まれている。
「……」
じっと見つめるアイギスの瞳は強い意思を感じさせる。決して諦めないと言う、不屈の精神。
本当は、待っていて欲しいのだけど……彼には、彼等には矜持や誇りがある。その心を無下にはしたくないし、出来ない。ならば、精一杯護ろう。
「ユグライア、行ってきますね。しっかり街を守るのですよ?」
「お任せ下さいアルティレーネ様。貴女様も無事の帰還を!」
アリス達防衛組と軽く挨拶を交わし、アルティレーネもゼオンと激励し合う。さぁ、準備は整ったよ! いざ乗り込むとしましょうか!
「じゃあ、行くよ! 転移」
アルティレーネと『白銀』達が力強く頷いた事を確認した私は、転移を発動させる。視界が一瞬真っ白な光りに包まれ、ホワイトアウトするが、直ぐに開ける。
「おぉぅ……マジに『悲涙の洞窟』だ……『聖域』でも何度か体験したけど……やっぱ転移魔法ってすげぇ便利……」
「まだ見たことない所とか、こういったダンジョンの中だと危なくて使えないけどね~」
ゼルワが周囲を見渡して、間違いなく『悲涙の洞窟』の入り口に移動したと知り、びっくらこいているね。ダンジョンとか閉鎖的な空間、障害物の多い場所とかでこれ使うと、かの有名な「壁の中にいる!」っていう事態になりかねないからね~便利ではあるけど使いどころも限られるんだよ。
「さて、ここからはスピード勝負です。私がこのダンジョンに入ることで彼女に気付かれるでしょう。妨害される手の緩い内に一気に駆け抜けます」
アルティレーネがそう言って神槍ティレーネを持つ手に力を込めた。私達は皆頷き合い、いざ突入! って思ったら……
「急げガウス! もう突入の時間だぞ!」
「応よ! 十分に役目は果たせた! レーネ様達をお出迎えだな!」
なんか騒がしい二人が『悲涙の洞窟』から出てきた。
「はぁっ!? ガウスにムラーヴェ!? あんた達何してんのよ!?」
「こりゃ驚いたわい! 儂等の突入前に先客とはのう」
レイリーアとドガも予期せぬ事態に目をまるくして驚いている。いや、ホントに何してんのこの二人は?
「おお! アリサ様! レーネ様、『白銀』のみなさん!」
「今から突入ですか? 何とか間に合ったようですな!」
二人が私達に気付いて寄ってくる、間に合ったってなんのこっちゃ?
「あらあら、どうされたのですか? 確か街の門衛をされていたお二人、ガウスさんとムラーヴェさんでしたね?」
「おお! レーネ様! 俺の名を覚えていてくださって光栄です!」
「俺達はアリサ様とレーネ様にお仕えしたく、マスターのゼオンに辞表を出したのです!」
「はぁっ!? 辞表って、お前達冒険者ギルドを辞めると言うのか?」
アルティレーネがガウスとムラーヴェの名前を呼ぶとこれまた嬉しそうにはしゃぎ出す二人。いや、待ちたまへよ? 私達に仕えたいから仕事辞めて来た!? 何してんのよ? ホントに何してんのよ!? アイギスもあんぐり口開けてびっくりだよ? 勿論私もだ。
もしかしたらゼオンが何かこの二人に指示でも出してたのかな? そう思った私は映像通信でゼオンに聞いてみる。
「ちょっとゼオン! なんでガウスとムラーヴェがいるのよ!?」
「悪い悪い! 言い忘れてたんだわ。そいつ等には先行して魔物を減らしてもらってたんだ」
「まったく、そう言うことはちゃんと教えておいてよね! んで、何か仕事辞めて来たとか言ってるんですけど?」
そこからゼオンに二人の経緯を説明されたんだけど、概ねさっき言った事が全部らしい。まったく呆れたわ……その即断即決出来る行動力には感心するけどね。
「わかったわ、兎に角彼等をそっちに戻すから防衛にまわしてちょうだいね?」
「了解だ。これから突入か? こっちは万全だぜ!」
取り敢えず、先行して魔物を減らしてくれたのは有難いので無下にはしない。って、「イエーイ♪」とか言ってピースしてんじゃないの!?
「はいはい、はしゃがないの! 魔物を減らしてくれてありがとうね。後は私達に任せて街の防衛にまわってちょうだい……期待してるから」
「おぉぉ! お任せ下さいアリサ様!」
「粉骨砕身! 必ずや守り通してご覧に入れます!」
やったぜーっ!! ってまた騒ぐ二人をしょうがないなって思いつつ、転移でゼオンの元に飛ばす。なんだかんだで良い感じに緊張が解けたし、結果的にオッケーかな?
「ふふ、困った二人ですね、まったく♪」
「ははは、笑える奴等だぜ! あのノリは見習ってもいいかもな♪」
ほら、サーサもゼルワも顔を綻ばせて楽しそうに笑ってる。見ればアルティレーネも、アイギスもドガもレイリーアも微笑んでいる。
「では改めて……」
「はい、アルティレーネ様。参りましょう! 『白銀』先行する! アリサ様とアルティレーネ様を五階層までお連れするんだ!」
「「「「応!」」」」
遂に『悲涙の洞窟』に突入する。
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【どんな魔王?】~アルティレーネ様!?~《アイギスview》
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「うっ! これは……」
「明らかに今までと空気が違いますね、少し重苦しいです……」
私が感じたダンジョン内の違和感にサーサも気付き声をかけてくる。『悲涙の洞窟』に侵入した瞬間、空気が変わった。まとわりつくようで重苦しい空気。最後にこのダンジョンに足を踏み入れたのはいつだったか、覚えてはいないが……こんな事はなかったのは確かだ。
「早速気付かれましたか……再生前の『聖域』のようです」
「だね、この感じ『聖域』を防衛した時に似てるわ」
アルティレーネ様が険しい顔で周囲を見渡すと、アリサ様もそれに倣う。
「急いだ方がいいって事ですね? アイギス。先頭は俺に任せろ! 斥候の務め果たさせてもらうぜ!」
「ああ、頼むゼルワ。なに、気負うことはない……いつも通りだ!」
「オッケー、殿はアタシね! ドガ~頑張って走りなさいよ?」
以前ティリア様が私達にお見せ下さった『聖域』再生までの戦い。セリアルティ王城跡地から紫煙立ち込めるその大地を見ていた時の私達ならば迷わず撤退しただろうが。今は違う!
「一言余計じゃレイリーア! まったくオヌシはいつもいつも……」
「はいはい、ブツクサ文句言ってないでさっさと前に出て下さいね?」
度重なる過酷な訓練を経て、皆見違えるような強さになった。だからと言って慢心するつもりはない。「いつも通り」私のその言葉にゼルワはサムズアップで応え、一足先に進む道を偵察に向かう。レイリーアは殿を務め、私、ドガが前衛。サーサが中衛となるいつものフォーメーション。
「大丈夫よ。この階層に敵対反応はないわ、一気に駆け抜けよう!」
「おーい! アイギス! ほとんど魔物がいねぇ、今のうちに一気に行こうぜ!」
ほぼ同時、アリサ様の声とゼルワの声が重なる。うむ! ガウスとムラーヴェの二人が頑張ってくれたのだな。私達は頷くと一気に駆け出す。
「!? 思った以上に早い対応ね。アリス聞こえる? オプションを配置しておいた村の上空に転移陣発生よ! そっちも注意して!」
「はいはーい! あんれまぁ~趣味悪っ! 見てくださいよぉマスター……『見通す瞳』を転移陣にするとか!? きっしょ!」
『悲涙の洞窟』を一階から地下二階、兎に角最短のルートを辿り一気に抜ける。そして三階層に差し掛かったところ、アリサ様が敵の動きに気付いた。やはり読み通り街や村を狙って来たようだ。映像通信で街のアリス殿と連絡を取り合うアリサ様。
「うわ……何ですかこのでっかい目ん玉は?」
「気持ち悪いのぅ~」
「なんか『このロリコン共めっ!!』とか言い出しそうね?」
私達にも見せてくださったその映像。それを見たサーサとドガの感想にアリサ様が妙な事を付け加える。
「アリサ様。この目玉は会話するのですか?」
「あっはっは♪ ごめんごめん! 私の前世にこんな妖怪が物語の中でいたのよ」
なるほど、そう言うことか。アリサ様の前世での世界とは中々面白そうな世界のようだ。
「さーて、あんな気色悪い目ん玉ささっとぶっころがしてやりまっしょい!」
「そうね、色々召喚されても厄介だし。手早く片付けるわよ!」
「お待ちくださいお二人とも。逆に利用しましょう!」
うにゅっ!? っと揃って変な声を出しては驚き、アルティレーネ様を見るアリサ様とアリス殿。なんだろう……やはり似た者同士のような、召喚主に似るのだろうか? しかしあの目玉……『見通す瞳』を利用するとは一体?
「アルティレーネ様~説明をもとめーちょでっすよん!?」
「うん、アリスに同意ね。アルティ、詳しく手短に、説明してちょうだい」
「簡単に言いますと、私達を見くびっている内に一気に近付きましょうと言う事ですよ?」
ん……? それはつまり今の目玉はあくまで様子見で、本腰を入れて攻めて来ている訳ではないと言うことだろうか?
「彼女……シェラザードの考えそうな事は手に取るようにわかります。何せ常に魔神と一緒で目立っていましたし、神界でも……あれ?」
「はいはーい! アリスぅよくわかりませぇん! そのジェラシードさんってどんなんなんでっすぅぅ~?」
「アリスちゃん、シェラザードよシェラザード。誰よジェラシードって?」
ははは! アリス殿はなんと言うか、うん、やっぱりアリス殿だなぁ。私達もだいぶ馴れてはきたが、たまに「えっ?」ってなるときがある。レイリーアも苦笑いして訂正しているな。
「私も知っておきたいかな……ねぇアルティ。ちょいと実演して見せてよ? そのシェアルームがどんな奴かをさ」
ぶふっ! あ、アリサ様まで! わざとか!? うむ、きっとそうに違いない。思慮深いアリサ様の事だ、敢えて間違えて場を和ませようとしているのだろう。
「えっ!? じ、実演ですか? ちょっと、その……恥ずかしいですが、仕方ありませんね……いいですか? シェラザードとはこう、ネヴュラさんのように妖艶かつ不敵に微笑んで……」
アルティレーネ様が立ち止まり、シェラザードの物真似を実演し始めた。え、こんなことで立ち止まっていいのだろうか? 私のそんな疑問を他所に皆注目されているので、口を挟む余地がない。
「うっふふ……忌々しい女神共、見ていなさい。貴女達の創造したこの世界、徹底的に壊してあげる。そうねぇ、手始めにこの大陸から始めましょう。矮小な者共の住む街や村を滅ぼして、それから魔素の立ち込める死の大地に変えてあげるわ! うふふ、アハハ! 素敵、素敵よ! きっと魔神様もお喜びになられるわ! アーッハッハッハ!!」
ポカーン……
そんな擬音が聞こえて来そうな静寂が三階層を満たす。私を始めとした『白銀』達、アリサ様と映像通信を通してアリス殿、バルガス殿にネヴュラ殿も皆が皆、アルティレーネ様のあまりの熱演に目が点となっている。
「わぁー! アルティレーネ様、そっくりです! そうですそうです! こう言う感じの魔王でしたよシェラザードって!!」
そんな中で嬉しそうに反応したのがカイン殿だった。いや、うむ……シェラザードと言う魔王が如何に危険な存在かと言うのは嫌と言うほど伝わったのだが……そうではなくて……
「っと、こう言う魔王なんですよ? わかって頂けましたかみなさん?」
「ぶはははははっ!! アルティレーネ様おもろっ! マジにチョーウケるんでっすけどぉ~? ぶふっ! ははは! げほっげほっ!!」
「あ、アリスさん! むせるほど笑わないで下さい! もーっ! なんですかぁ!?」
「ぷぷっ! いや、凄いの見たわ……アルティってばホント面白いわね」
映像通信越しに腹を抱えて大爆笑しては、むせて咳き込むアリス殿。チラッと映るバルガス殿とネヴュラ殿も笑いを堪えているのがわかる。私も気を抜くと声をあげて笑ってしまいそうなので気持ちはよくわかる。
アリサ様も笑いだしてしまい、アルティレーネ様は赤面して責め立てる。そのお姿のなんと愛らしいことか。ふふっ、いかん。笑いが堪えられない。
あっはっははっ!!
どうやらそれは私だけではなかったようで、ドガもゼルワもサーサもレイリーアも、皆で大笑いだ。ふふふ、良い……何と心地好いのだろう……自然全身に力がみなぎる。
(護って見せる……何者だろうと、この穏やかな時間を奪わせはしない!)
「むあっ! アルティレーネ様ぁ! 目ん玉が魔物を召喚し始めましやがりましたっしょい!」
アリス殿の言葉に映像通信を確認するアルティレーネ様とアリサ様。私も拝見させて頂く。
「主にCランク、精々がBランクです。冒険者達でも十分に対応出来るでしょうが、飛行する魔物もいますので、そちらをどうにか……」
「アリス聞こえた? 飛行する魔物はあんた達で対処して後は冒険者に任せて! 目玉にはまだ手を出さなくていいわ」
「あいあーい! 了解しましたよぅ♪」
中空に出現した大きな目玉がその瞳を怪しく光らせると、いくつもの魔方陣が展開され、多数の魔物達が現れる。スモールベアや、ロックウルフ、魔法を操るメイジバード等、多種に渡る魔物達だがいずれも以前の氾濫で出現した魔物だ。街の冒険者達で対処可能だろう。
「三階層も魔物がまばらだ、あの二人やるじゃねぇの。急ごうぜアイギス!」
「了解だ。皆、一気にいくぞ!」
私達は走り出す。魔王が油断している隙に、その懐まで詰めなくてはな。急ごう!
「しっかし……もうちょいと余裕あればじっくり探検したいんだけどなぁ~初ダンジョンなのにこんな急ぎ足とは……ん? アルティどうしたの?」
「あ、いえ……ちょっと思い出していたのですが、神界にいた頃のシェラザードってティリア姉さまの部下だったので、私も何度か会っているんですけど……とても大人しい女神だったんですよね」
アリサ様が箒に腰掛け飛びながらダンジョン内を観察していると、隣のアルティレーネ様が何やら思案している様子に気が付かれた。どうしたのか? と聞けば過去の魔王の事のようだ。
「魔神が問題を起こす直前にも会っているんですが、変わった様子はなくて……」
「あんなにぶっ飛んだ言動する奴じゃなかったってこと? 魔神がなんかしたんじゃないの? それか、隠し通してたか……何にせよ本人に聞いてみればいいよ」
アリサ様がそう言うとアルティレーネ様は「そうですね」と、前を見据えた。
「どんな理由があったにせよ、私達が創造した世界を滅茶苦茶にした事実は消えませんからね。ティリア姉さまからも本気を出していいと言われましたし、覚悟してもらいませんと」
昂っておられる、アルティレーネ様は静かに怒りを内に秘め、そのお顔は厳しい表情を見せる。『魔神戦争』からの続く因縁。それを絶ち切るべく、私達は五階層に辿り着いた。
アイギス「(*゜∀゜)=3、まさかあの二人がギルドを辞めるなんてな(-_-;)」
ドガ「まったく思い切った決断するもんじゃ(^_^;)」
サーサ「アリサ様が『聖域』に来られる事を拒んでいたらどうする気だったんですかねぇ(-ω- ?)」
ゼルワ「そん時にゃ普通に冒険者やってそうだけどな( ゜∀゜)」
レイリーア「まぁ、なんだかんだで結構腕が立つ二人だし上手くやるでしょうね(^ー^)」
アリサ「おーっほっほっほ(ノ∀≦。)ノよくってよ(*´▽`*)面倒を見て差し上げるわぁ♪」
アルティレーネ「アリサお姉さま、ちょっと違います( ̄▽ ̄;)それじゃあただの高飛車お嬢様ですよ(´・ω・`)?」
アイギス「……高飛車なアリサ様( 〃▽〃)あぁ、振り回されたいO(≧∇≦)O」
ゼルワ「アイギス……(o;д;)o」
アリサ「むつかしいわね……(´・ω・`; )こんな感じかな……ウフフ(*`艸´)仕方ないから使ってあげるわぁ~せいぜい私の役に立ちなさぁい(’-’*)♪」
アルティレーネ「あ(ノ゜Д゜)ノとてもそれらしくなってきましたよ(°▽°)もう少し悪っぽくして見ましょうか(*^▽^*)」
サーサ「(;´∀`)えっと……」
レイリーア「アタシ達何しに来たんだっけ?(´ε`;)ゞ」
アイギス「あぁっΣ(*゜Д゜*)ちょっと悪ぶったアリサ様♪(´ε`*)なんて素敵なのだ(*/∀\*)」
ドガ「おぬし……結局アリサ様ならなんでもよさそうじゃの(´-ω-`;)ゞ」
ゼルワ(ま、こんなにくだけたアイギス見れんのもアリサ様の存在あってこそだわな(´・∀・`))




