44話 魔女とチョコレート
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【色々嬉しい】~脱がされた!~
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「ゼオン! ディンベル! お前達狡いじゃないか!?」
「そうですよ! 私達に内緒でこんなに美味しいの食べて!」
はい、みなさんおはやふございます。アリサです。セリアベールに到着して二日目の朝。只今商業ギルドの会議室にて、冒険者ギルドと商業ギルドの両マスター、ゼオンとディンベルのおっちゃんが、他ギルドの代表者達に文句を言われている最中なの。
昨日スラムで出会った商業ギルドのマスターこと、ディンベルのおっちゃんから私の料理は間違いなく各ギルドの代表者達にも喜ばれる筈だと、太鼓判押してもらえたので。料理する様を実演しながら振る舞っているんだけど……
「いやいや、そう怒らんでくれ。俺は別に内緒にしていた訳ではないぞ?」
「おうおう。お前ら俺の手紙はエミルから受け取っただろうが? そこで行動を起こしたか、起こさなかったか。その違いだぜ?」
もぐもぐ、んぐんぐ、ごっくん……しっかり味わってコロッケを食べた代表の一人が、美味しい~♪ って表情を綻ばせたと思ったら、直ぐにキリッ! って真剣な顔つきになって……
「そう言うときはちゃんと私達に声をかけてって言ってるのよ~!?」
「そうだそうだ~ちゃんと連れ出せ~! この唐揚げ? 滅茶苦茶好みなのだが!?」
「私達が引きこもりって知ってるでしょう? ちゃんと引きずり出してよね! それにしても素晴らしいパンね、今までの黒くて固いのはなんだったの?」
むははは♪ なにかねコイツらは? 面白い連中だこと。
「「お前らなぁ~……」」
ゼオンとディンベルおっちゃんが揃ってため息をつく。あきれるのも無理もない。コイツらの言ってること滅茶苦茶だもんね。
「拝見した感じ、少々手間が掛かるようですが……それを補って余りある美味しさ。練習は必要でしょうけれど、広める事には賛成……いえ、寧ろ我々からお願いするべきですね!」
「同じく! 只、今食べさせて頂いたのは受け取ったレシピのほんの一部。まだまだ沢山あるが、街にある飲食店すべてに広めるのかね?」
「あぁ、そこは分けたらいいんじゃないかな?」
中にはちゃんとまともな意見を出してくれる代表者もいるので助かる。さて、確かに持ってきたレシピは結構な数になる。だけど、和食、洋食、中華といった風に分けてあるから、それで広めるといいと思うよ?
「一通り飲食店の店主達にそれぞれを食べてもらってね? きっと好みが別れると思うのよ」
「なるほど……しかしアリサ様。我々にはこの料理の数々を作るための知識も経験も足りておりません」
あぁ、そこが心配なのね……
「うん、そこはちゃんと私が作るよ。氾濫を解決してからになるけどね♪」
「「「なんと!?」」」
ガタガタッ!!
私の言葉に代表のみんなが揃って驚いた表情を見せて、椅子を倒しながら立ち上がり私を見る。
「こ、今後もアリサ様の知恵をお与えくださるのですか!?」
「そりゃあ勿論、レシピだけ渡してほったらかしになんてしないよ? 間違えて広められても嫌だし」
代表の一人が確認を取ってくるのでそう答えた。先にも言ったように、氾濫問題が片付いて、余裕が出来てからになるけど、しっかりとこれらのレシピを作れるようになるまで面倒を見るよ。間違った手順で覚えて、「大したことないな」なんて思われたらヤだし。
「「「おおお……有り難う御座いますアリサ様!!」」」
「まぁまぁ、お礼なんていいって、それより話を続けよう? 次はポーションとか薬品の類いね」
「「「了解です!!」」」
それから私が『創薬』で作ったポーションや、塗り薬、石鹸や理容品の数々がまた喜ばれたよ。特にポーションは医療ギルド、薬業ギルドだけじゃなく他のギルド代表にも好評を受けた。
「こ、これで火の車だった我々も救われる!!」
「全然売れてませんでしたからね……お客さんのため息混じりの「背に腹は代えられない」っていう、諦めの表情も見納めよぉ~♪」
「ポーションの世話になる機会の多い冒険者にはなりたくない! とか言う連中も減るぞ……」
いや、本当に有り難い……と、ゼオンを始め各方面から喜びの声があがったよ。氾濫で大量にポーションが吐き出されては、直ぐ次に備えてまた作る。を繰り返し、レシピの見直しにさく人手がなかったのだそうな。
「彼等もまた『今を生きるのに精一杯』だったのですね……アリサお姉さま、必ず氾濫を解決致しましょうね!」
「うん、そうだね。絶対に解決しようアルティ……って、くっつきすぎじゃない?」
私と一緒に来ていたアルティレーネが、椅子に座る私の背後からハグして離れない。頭に顎乗せてぐりぐりしないで。痛くはないけどくすぐったいよ?
「だって、街に来てからと言うものアリサお姉さまったら、私のことほったらかしにしすぎです! 妹をもっと甘やかして下さい。あっち行ったり、こっち行ったり。気付けばアイギスさんといちゃついて……も~!」
ちょっ!? 確かに色々動いてたけど、最後のなによ!? あ、アイギスとはその……うぅ、確かにちょっと浮かれてはしゃいじゃったかも、恥ずかしい。
「ごめんごめん。ないがしろにしちゃってたね、謝るから許して~って、アルティも何か彼等に見せたいのがあるんじゃなかったの?」
ハグしてたアルティレーネの腕を優しく離し、立ち上がって向き合い、ハグのお返しして頭をなでなでして甘やかす。
因みにこの場に集まった各ギルドの代表者達にはアルティレーネの素性も説明してある。ゼオンの事も、『セリアルティ』復興の話しも一通り話して納得と理解をしてもらっているのだ。
そしてこの妹。なんでも「私も街のみなさんに是非とも広めたい物があるんです!」と、意気揚々と私についてきたのだ。
「うふふ、『聖域』に戻ったらこの三倍は……って、そうでした。実は妹達とも相談しておりまして……えっと、男性の方は少し目をつぶっていて下さいますか? 私が広めたいと思っているのは女性用の下着ですから」
おう……そう言うことか……確かにサーサとレイリーアに『聖域』で妹達が下着を渡したら凄く喜ばれていたね。
「まぁ! それでしたら別室をご用意致しましょう!」
「とても興味があります! 直ちに!」
アルティレーネの言葉に目を輝かせるのは、ディンベルおっちゃんの秘書のミリアさんと服飾ギルドの代表者だ。素早い動きで隣の部屋を割り当て、男性達を移させる。なんかごめんね~作りおきしといたホットケーキと牛乳渡すから隣で楽しんでてね。
「ほほう、ホットケーキとな!? これはまたうまそうだ!」
「「俺達はこれを食べて隣で駄弁ってるから気にしないでくれ!」」
「牛乳って牛の乳か、うむ。頂こう!」
ぞろぞろと、隣部屋に移動する男性陣がみんな出払った事を確認したアルティレーネが、「それでは」と、マジックバックから取り出す女性用の下着の数々。
「「きゃああ~♪ 素敵!!」」
「可愛い! これなんてフリルが沢山付いて、あぁ、なんて素敵!」
キャーキャー♪ ワイワイ♪ うん、かしましいかしましい。集まった女性陣のきゃあきゃあと賑やかな声に少し辟易する。気持ちは、まぁ……私もだいぶわかるようになった、以前は理解出来なかったけど……徐々に考えが女性のそれになってきてるってことらしいね。
「実際どんな感じかしら? 着てみたいわ……」
「あら♪ それでしたらどうぞ着てみて下さい。それに素敵なモデルもいますから、どんどん意見を出してくれますと嬉しいですね!」
服飾ギルドの代表者がアルティレーネの用意した、淡いピンクのブラとショーツを手にして、実際に着てみたいと言う。アルティレーネはその要望に快くOKを出した。
「あぁーっと! 私は用事思い出したから、後はみんなで~」
ガシッ!!
ガッチリと肩を掴まれた。振り返って見ればそこにはニコニコといい笑顔のアルティレーネと各ギルド代表の女性達。
「逃がしませんよ? モデルさん♪」
うおおおーっ!? くそぅ! やっぱりモデルって私か!?
アルティレーネからその言葉が出た時いや~な予感したんだよ! だからささっと退散するつもりだったのに!
「さぁ、皆さん。先ずは今アリサお姉さまが着ていらっしゃる下着からご覧になって下さい。そ~れ~♪」
「にゅわぁぁぁーっ!!?」
ポンポンポーン!!
アルティレーネがそう言って、私の肩を掴んでいた手を大袈裟に頭上に掲げると、どういうことか私の魔女服が脱がされてアルティレーネの両手に綺麗にたたまれて収まる。
「わあぁーっ! アリサ様の下着姿、なんてお綺麗なんでしょう!」
「あ、アルティ~! あんたなんてことすんのよーっ!? 女性しかいなくても一人だけ下着姿じゃ恥ずかしいわよ!?」
うわっ! こりゃ恥ずかしい! 私は思わず両手で胸を抱えその場にしゃがみこむ。全員がしっかり服着てる中、私だけ脱がされて晒し者にされてしまった。わーわー喚く私をニッコリ見やり、「そんなこと言わずにポーズの一つでも取って下さい」とかのたまうこの天然お嬢様! このぉ~もう怒ったぞ~?
「ハイハイ、まったくしょうがないわね……ポーズってこうかし、らっ!!」
「「「きゃああっっ!!」」」
ぽぽいのぽーいっ!!
アルティレーネのお願いに仕方なく応えるふりして立ち上がり、ちょいとセクシーポーズを取ると見せかけ、さっきアルティレーネが私に仕掛けた服を剥ぎ取る……技? 魔法? なんだかわかんないけど、それをイメージ魔法で再現。ぬははは! ざまあ見ろい♪ やってやったぜ! 部屋にアルティレーネ含む女性達の甲高い悲鳴が木霊する。
「あ、アリサお姉さまっ! 私まで脱がす必要はないんですよぉ~!?」
きゃああ恥ずかしい! って珍しく狼狽えて、胸と股間を手で隠すアルティレーネ。どうよ? さっきの私の気持ちがわかったかね? 反省しなさい!
「ななな、一瞬で服だけ消し飛ばすなんて!?」
巻き添えになった他女性達も、一瞬で服を脱がされた事に驚きながらキャーキャー騒ぐ。ふはは♪ 安心したまえよ諸君。ちゃんとチミ達の服はそこのテーブルにたたんでおいてあるさね。
「まったく、イタズラするにしても少し度が過ぎてるわよアルティ。そこんとこやっぱりティリアの妹ね、あんたは!」
「あう~、ちょっと仕返ししたかっただけなのに……」
「「「うう、私達とばっちり……」」」
トホホってなるアルティレーネ含むギルド代表達。魔女さんを怒らせちゃいけませんよ?
どうせだからと、みんな思い思い、気になった下着を身につけてきゃあきゃあ騒ぐ。パジャマパーティーならぬ下着パーティーになった。
「素晴らしいですね、間違いなく売れますよこれは!」
「このデザイン、頂いてよろしいのですか!? まぁ! 有り難う御座います!」
「アルティレーネ様のドレスとアリサ様の服も拝見させて頂いても? 有り難う御座います! ずっと気になっていたんです!」
アルティレーネ含む私の妹達から女性用の下着や、服のデザイン等が提供された。素材や製法なんかは自分達で頑張りなさいってことだけど。それでもギルド代表達は凄く嬉しそう。
あんまり男衆をお待たせするのもなんなので、今回はこの辺りでってなった。氾濫を片付けたらまた改めて相談しましょう。その時は妹達のプロデュースしたお洒落なブティックをオープンさせるそうだ。う~ん♪ 楽しみが増えたね!
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【チョコレート】~暁のケーキ~
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「そうかい、じゃあ首尾よく済んだってことか……かぁーっ! いや、美味いなこいつは!」
「ほっほっほ! 他ならぬアリサ様の提案じゃ、通らん筈がないわい! ホレ、ギドよ酒が減っておるぞ? 呑め呑め!」
ギルドの代表者達とのプレゼンを済ませた後の『白銀』の家。漸く仕事を終えたドガとギドに『聖域』産のお酒と、軽いおつまみを作ってあげての報告会。
「嬉しいねぇ~こんな美味しい料理がこれから食卓に並べられるなんて、ありがとうね、アリサちゃん」
「アルティレーネ様も服や下着のデザインありがとうございます!」
「本当にね! うふふ♪ これからお洒落な服が色々出揃って来ると思うとワクワクしちゃう!」
報告を聞いたファムさん、サーサにレイリーアがとっても嬉しそうに笑う。料理にせよお洒落にせよ、心を豊かにしてくれるファクターが増えて行くのはいいことだよね。
「『学校』か、三十~四十人のグループを一人の教師が受け持つ。中々に難しそうではあるが、上手く行けばその成果は計り知れないものがあるな」
「そうだな、私は幼少の折りに家庭教師とのマンツーマンで知識を得たが……それは高い給金を払える貴族だからこそ」
「各ギルドがその負担を請け負うってのがスゲェなぁ~アタイも通ってみたいよ!」
そして私がギルドの代表者達に最後に提案した『学校』のシステムについて語り合っているのがバルドくんと、アイギス、それにセラちゃん達だ。
今回提案した『学校』だけど、あくまで前世の世界にあった小学校~中学校レベルのものだ、基礎的な事を学び、後は専門的な事を選んで各々で学んでもらえればいいと思う。対象が主にスラムの住人達だからね、沢山学んでもらって将来の道に色々な切符を用意してあげたい。
「……全ては明日ですね」
「「「……」」」
アルティレーネの言葉に全員が表情を引き締める。アルティレーネは南の空を睨み、その闘志をみなぎらせているみたい。
「あのぅ~ちょっと気になったんですけど……ここから『悲涙の洞窟』まで三日くらい距離がありますけど、明日出発して到着までには……」
「うん? 大丈夫だよ、私のチビゼーロが今も入り口見張ってるし。場所はわかってるから転移で一瞬で行けるから」
「てて、転移魔法!?」「あ、アリサちゃんそんな魔法まで使えるの!?」
フォーネがおずおずと聞いてきた疑問に答えると、シェリーとリールがめっちゃびっくりしてる。なんか凄い尊敬の眼差しを向けてくれるけど、全部妹達が授けてくれた加護のおかげだからね? 私自身は大したことないんだよ?
「アリサねえちゃん、チビゼーロってのはなんだ~?」
「ん? ああ、私の……魔法だよ。入り口の木に鷲が止まってるの見なかったかな?」
「あーっ! いました! ちょっと冒険者達の間で話題になったんですよ♪」
「……あ、あの……格好いい鷲……アリサ様の、魔法……だったんですか……?」
ブレイドくんがチビゼーロって言葉になんだそりゃしてきたので教えてあげる。うん、そりゃ名前だけ聞いても意味不明だわね。すると、『黒狼』のミストちゃん、デュアードくんが覚えがあったようで食いついてきた。しかし、はて? 話題になったってのはなんだべね?
「ふふ、立派な鷲だからもしかしたらガルーダの幼体なんじゃないか~? って、中には捕まえようとした者もいたらしいけど」
「ウホ~中々に言い得て妙でっすねぇ~ぷくく♪」
「あはは! 幼体って確かにうまいこと言いますね。ゼーロ様は『聖域』のガルーダ様のことですよ」
ミュンルーカがその話題とやらを教えてくれた。成る程、確かにアリスとカインが言う通り言い得て妙だね。チビゼーロはガルーダこと、ゼーロをモチーフにした私のオプションだ。ゼーロをそのまま小さいは可愛いをかけたくらい小さくしたサイズだからね。幼体って思われるのも納得だ。
「ふふ、それで捕まえることはできたのですか?」
「あー、俺も聞いた話ですけど。矢も魔法も何一つ届かねぇ~って聞きましたね」
ネヴュラがクスクス笑いながらチビゼーロを捕まえようとしたっていうエピソードを聞きたがる、そしてそれに答えたのがゼルワだ。私の神気を動力源にしているチビゼーロには生半可な攻撃は通じないよ? 自律式なのでバリア張ったりするからね!
「不届者め、アリサ様の魔法をなんだと思っておるか!?」
「いや、バルガス。そりゃ鷲だって思うでしょうよ?」
バルガスがそのエピソードにちょこっと腹を立てているので突っ込んでおく。
「……ところでアリサお姉さま。先程から何をなさっているんですか?」
「うん。今ね~めっちゃね~だ・い・じなトコ~……なのよぉぉ~ん」
私が大量の牛の骨の前で、ムムムーっ! って唸ってる事に疑問を感じたのだろう。アルティレーネがいい加減聞かないとって感じで聞いてきた。
「「……滅茶苦茶怪しい人になってるぞ……アリサ」ねえちゃん」
失礼な。ブレイドくんとセラちゃんがハモりながらあきれた目を向けてくる。
「うん、えっとぉ~……アリサちゃん、何の儀式~?」
「大量の骨を捧げて悪魔召喚ーっ!! とか?」
続けてフォーネとリール。え、何? 悪魔召喚って牛の骨使ってやるのかねって違うからね?
「もーっ! あんた達四人には食べさせてあげないからね!」
「えぇ? 牛の骨なんて誰も食べたいとは思わないんじゃないですか?」
私がプンスカ怒ってそう言うと、アルティレーネは困ったような顔をして並べられた牛の骨を見る。誰がこれをそのまま食べるかってーの!
「私がやってるのはゼラチン作り! この骨はその原料よ~?」
そう、あらゆるお菓子作りに使う事が出来るゼラチンは、牛の骨に含まれるコラーゲンを加工することで手に入る! っていうのを、前世で本で読んだ覚えがある。実際に精製した経験なんてないけど、そこをサポートしてくれるのがイメージ魔法だ。
牛の骨を砕いたり、抽出したり濾過だの濃縮だの色々やってみてたりしてる時にみんなが話しかけてきたのだ。
「う、牛の骨が原料……う~ん、正直そのままでっすと食べたーいってならないですよんよん? あ、でもでも! きっとマスターのことでっすから、めちゃんこおいすぃぃ~おっりょーりになっちゃうんですよねぇ~?」
「そうよ~アリス。わかってきたわね! あんたにはご褒美に一番に食べさせてあげる♪ そこで嫌そうな顔してる連中にはあげないからね!」
アリスめ中々にわかっておるわ! うい奴よのう~なんちゃって♪ そしてアルティレーネを始めとした、ちょいと「えぇ~?」って顔してる面々にはちょっと意地悪してやる。
「ただいま~って言うのも変かな? 戻りました皆さん! アリサ様のご所望の品、見付けましたよ!」
「ダーリン♪ お帰りなさーい!」「お帰りなさい、ラグナースさん」
「おー思ったよか早かったなラグナース」「おぅ~お主も一杯どうじゃ~!?」
「お帰りラグナース。アリサ様がお探しになられていた『カカオ豆』が見付かったか、よかった」
その時、玄関の扉が開かれお使いに出てたラグナースが帰ってきた。レイリーアが嬉しそうに彼に駆け寄り、続く『白銀』達がみんなお帰りなさいしている。そして朗報だ。昨夜に話した私が求めてやまない『カカオ豆』が見付かったらしい。
「あくまでお聞きしていた特徴から、おそらくこれだろうと当たりをつけた物ですが……間違いないかと。ご確認下さいますかアリサ様?」
「あいあい、じゃあ早速……うん♪ 間違いない『カカオ豆』だね! ありがとうラグナース。代金は……」
「いえいえ! この程度で代金など頂けません! この『カティオ』は実は食べられますが、種はとても苦くて食料に適さないので、植林用の一部を除いて捨てられているのですから」
寧ろゴミとして捨てている物を引き取ってもらって、こちらが代金を払いたいくらいだと言うラグナース。いやはや勿体無いね、これを捨てるなんてとんでもないよ?
「今度はゴミで捨てられる種まで……もう不安しかないのですけど。アリサお姉さま、本当に何を作られるのですか?」
「あれ? 言ってなかったっけ? このカカオ豆……こっちじゃ『カティオ豆』になるのかな? これはあんたが気にしてたチョコレートの主原料なんだよ?」
不安そうに、と言うか、嫌そうに眉を八の字にしてたアルティレーネだけど。チョコレートの原料になるって聞いた途端パァッ~! って目を輝かせては私に詰め寄って来る。
「まぁまぁまぁ! そうだったのですね! 嫌そうにしてごめんなさい。それでアリサお姉さま! このカティオ豆を一体どのように調理されるんです!? 私早く食べてみたいです♪」
食い付くなぁ~なんと言う見事な手のひら返しか。
「え~? 女神様に献上するような物では御座いませんわ~ワタクシのような一般人の食べる物ですもの~オホホホ♪」
わざとらしく右手を口に添えてオホホ笑いで返してやると、ガシッ! っと両肩を掴まれた。
「そんな意地悪仰らずに~……また脱がせますよ?」
「やってみなさいよ? あんたも同じ目に合わせてあげるから。ああ、そうね~まだ馴れてないからすっぽんぽんになっちゃうかもねぇ~?」
ウフフフ……ホホホホ……
「え~、何ですかこれ? お二人とも不敵に忍び笑いしてますけどぉ~?」
「ミスト、離れとこうぜ? なんかこえぇよ……」
ミストちゃんとブレイドくんの言葉を聞き流し、アルティレーネに負けじとフフフ笑いを繰り返す。
「うぅっ! 泣きますよ!? 以前のアリスさん以上に泣き喚きますよ!?」
「あはは、わかったわかった。ふふ、意地悪してごめんねアルティ? よしよし♪」
根負けしたのかアルティレーネが涙目になってそう、うったえてきたので素直に謝る。まぁ、この子がガン泣きするとこ見たい気もするけどさ。
カカオ豆、こっちじゃカティオ豆か。これからあの見馴れたチョコレートにするまでの工程はとても大変なものだ。だけど私には魔法っていう強力な武器がある!
「まずはこのカティオ豆を洗うよ。とにかく水が濁らなくなるまでね? ほれ、サーサ、アイギス手伝って」
「かしこまりましたアリサ様」「はーい!」
実際にサーサとアイギスにやってもらう事にする。まぁ、時短のために私が魔法で途中の工程を素早く終わらせるけどね。
「むむ、いくら洗っても水が濁る……」「た、大変ですねこれ……」
「うん、実際に手作業で作るならかなりの根気がいると思うよ? 今回は私がほほーいってね」
イメージ魔法を駆使してカティオ豆の汚れを一瞬で落とす。さぁ、次は焙煎だ。キッチンペーパーに洗った豆を乗せて水気を切り。コンロにフライパンを乗せて火にかける。
「こうして、フライパンに豆を入れてヘラで混ぜていくと……」
パンパンパンッ!
「うわっ! アリサねえちゃん大丈夫かこれ!?」
「豆が弾けてる!」
「あぁ、でもでも~とってもいい香り~♪」
焙煎されていい感じに豆が弾けてパンパンといい音を響かせる。ブレイドくんがちょっとびびってるのが面白いね♪ 様子を見てたリールとフォーネも興味深そうに香る匂いを楽しんでいる。
「いい感じに焙煎されてる証拠だよ。ここからもうちょっと熱をかけて、火からおろすよ~」
焙煎が済んだ豆を火からおろして、キッチンペーパーの上にあけていく。
「さぁ、今度は皮を剥いていこうね、みんなでやれば早いと思うよ」
そう言って私は豆を一つ手に取りパリパリっと皮を剥いてみんなに見せる。
「へぇ~小気味良く剥けるんだね、どれ、あたしもやってみようかね」
「僕もやってみますね!」
「俺も手伝います」
ファムさん、ラグナース、バルドくんが名乗りをあげると、他のみんなもわいわいと集まってカティオ豆の皮剥きが始まる。人数多いから楽だし早いねやっぱり♪
「さぁ、最後の難関……この豆をただひたすらにすり潰す作業だよ……以前はここで私も心折れたけど、今度は違う。何て言っても魔法があるから!」
すり鉢にまとめたカティオ豆を目に以前の苦い記憶が過る。ゴリゴリと豆をすり潰すこと数時間。末に出来上がった物は市販のチョコレートとは比べ物にならないほど酷い物だった。
リベンジ! 今回は、今回こそは売り物にも負けないくらいの立派なチョコレートに仕上げて見せるよ!
「うう、手が痛いです! レイリーア交代してください」
「うえっ!? アタシ? もぅ~、仕方ないわねぇ……」
「ふふ、レイリーアが頑張るなら僕もやってみようかな? アイギスさん、交代して頂けますか?」
「ふ、結構大変だぞ? ラグナース、無理するなよ?」
有り難う御座いますって、お礼をしつつラグナースがアイギスと、ゴリゴリしてたサーサが音をあげて、レイリーアと交代。私はイメージ魔法でゴリゴリゴリゴリ。
「うわぁ~良い匂い! 食欲が刺激されるんですけど~? ちょいと味見を~♪」
「あ、ミュンルーカまだっ!?」
ペロッ!
「うみゃぁぁっ!!? にゃにゃにゃ! にゃんでしゅかこれぇ!!? めちゃんこにっっっがぁぁーいっ!!」
あ~あ……やっちまったよこの娘。この特有の良い匂いに釣られてペロンチョした直後、あまりにも苦かったのだろう。にゃーにゃー騒ぐミュンルーカ。
「まったく、まだ味付けもしてないうちからはしたない真似しないの!」
「あううぅぅんっ!! だってだってぇ~こんなに甘そうな良い匂いなんですもーん!」
「ぶっははっ! みゅんみゅんウケル~♪ や~ぃ、食い意地張りすぎ僧侶~
ww」
「うぐぐ~おのれアリスちゃん! 人を指差して笑うなんて~!」
「もう、ミュンさんたら……同じ僧侶として恥ずかしいですから止めて下さい」
私が騒ぐミュンルーカを注意すれば、涙目で言い訳始めるミュンルーカをアリスがからかい始め、なんとも子供じみた口喧嘩しだす二人。フォーネもそれを見てあきれてるよ。
「砂糖を加えながら、甘さとなめらかさを確認……うん、もうちょっとかなぁ~?」
流石に魔法でゴリゴリしただけあって、早い! 手作業でやるときの五倍くらいは早い! ミュンルーカがうにゃあ~ってなってからも暫くゴリゴリし続けて調整具合を確認するため一口をペロってしてみると、まだ苦味が強いし、ちょこっとジャリってする。
「あいたたた……アタシも手が痛いわもー、セラ~代わってよ?」
「お、おぉ~やってみるか?」
「ふぅ……僕もしんどいな、バルドさん交代しませんか?」
「いいだろう、任せろラグナース」
ひたすらゴリゴリ続けてたレイリーアとラグナースのカップルも音をあげたね。今度はセラちゃんとバルドくんが交代でゴリゴリし始めた。
ゴリゴリゴリゴリゴーリゴリ……
「ふぅふぅ……し、しんどいなこれ。なぁアリサ~これ本当に美味しくなるのか?」
「勿論だよセラちゃん。そうだね、私のやつちょっと味見してみ? ちゃんと味付けすればミュンルーカみたいにならないってことがわかるよ」
レイリーアと交代してゴリゴリしてるセラちゃんが情けない声と表情でそんなこと言い出すので、味見させて黙らせてやろうと思う。私の方はもう完成に近い。後は型に流し込んで固めるだけだからね。
「お、おぉぉ。そこまで言うなら大丈夫なんだよな? し、信じてるからなアリサ!!」
大袈裟だなぁ~四の五の言わずに食うてみぃ。スプーンに一掬いしたとろ~りしたチョコレートを、あ~んするセラちゃんの口に入れてあげる。セラちゃんはおっかなびっくりしながらも、ゆっくりと口を閉じ、確かめるように動かした。
「んんん~♪ うまぁぁぁ~いぃ!! なんだこれ!? なんだこれぇぇっ!! アリサ凄いぞ! めちゃんこ美味しいぃぃ!!」
「でしょう? 大変な思いして作る分とっても美味しいんだよ?」
目をキラッキラに輝かせて大喜びするセラちゃん。ふふ、本当に可愛いなぁ♪
そんなセラちゃんの反応にみんなも興味津々みたいで、俺も俺も僕も我もあたしも私もアタシも儂も~って寄ってきた。ハイハイ、ちゃんと固めた完成品食べさせてあげるから少しお待ちなさいな。
「「「「うんまぁ~い!!」」」」
魔法で固める時間を短縮して、出来上がったチョコレートをみんなに配ってさぁ、召し上がれ~勿論私も一つパクっとね♪ ん~♥️ 美味しい! 懐かしいねぇこの味!
「え、僕も頂いて良いんですか? 見てただけなんですけど……わぁ! ありがとうございますアリサ様! 美味しいでーす!」
私達のチョコレート作りを静かに見守っていたカインにも一つあげる。遠慮しなくてもいいんだよ?
「これが……これがチョコレートなんですね!? 想像以上に美味しい♪ あぁ、口の中で溶けて行くこのなめらかな甘味……うふふ♥️ 素敵ですね」
「なんて、なんて美味しいのかしら……流石はアリサ様ですね」
以前から気にしていたチョコレートを食べる事が出来て感動するアルティレーネ。一緒に食べているネヴュラも絶賛してくれてるね。
「美味。しかし、あれほどの手間ぞ、一般に広めるのは難しいでしょうな」
「そうですね、バルガスさんの言われる通りかと。ですが、王侯貴族には間違いなく喜ばれます。カティオ豆は安価ですが、これだけ高級な砂糖を使っていますし」
バルガスとラグナースが冷静に分析しているね。確かに魔法や器具、設備が整っていないととんでもなく時間と労力がかかるからね。
「これがさっきの苦かったやつなんですか……変わりすぎでしょう~お姉さん感激ですよ~♪」
「本当に美味しいですね♪ ふふ、デュアードったら食べるたびに踊らなくて良いのよ? はしゃいじゃって」
「これが……踊らずに……いられる……かっ! ……? アリサ様……また何か……作る?」
ミュンルーカは途中で味見してあまりの苦さに、食べるのを少し躊躇っていたけど、他のみんなが美味しい美味しいって言うので思いきって口にしたみたい。そしてこの感想である。シェリーはその感想に相槌を打ち、タンッ! タタンッ! タタターンッ! ビシィッ!! とリズミカルにダンスするデュアードくんを微笑ましく見守る。いや、面白いね彼は♪
「さっきのゼラチン使ってちょいとね~♪」
そう、私がゼラチンを作っていたのは、生クリームからホイップクリームを作りたいからなのだ。お菓子の王様ってのは大袈裟か、クリームたっぷりイチゴのケーキを作りたいの。
「スポンジは予め作ってミーにゃんポーチにしまってあるからね、後はクリームさえ上手く出来れば……うん、いい感じいい感じ~♪」
ボウルに入れた手作り生クリームをイメージ魔法で泡立てていると、だんだんととろみが出てきて前世でも見馴れたホイップクリームが出来た。後はスポンジとイチゴを取り出し、スポンジを半分にカットして両面にクリームを塗り、切り揃えたイチゴを綺麗に並べてサンド。回転皿を回しクリームを丁寧に、綺麗に塗ってっと。
「もうちょい泡立てて八分立てにして~うん、こんくらいかな?」
余ったクリームを更に泡立てて八分立てにしたら、ヘラでクリーム絞りに移して、ケーキを飾って行く。これ結構難しいんだよね……うん、こんなもんかな? イチゴを飾って……そうだ、折角チョコレート作ったんだし、板状のやつ乗せてあげよう! それに追加で少し湯煎して溶かしたチョコを魔法で……
「「おぉ? 溶けたチョコレートで文字を!?」」
興味深そうに私のケーキ作りを見てたアイギスとサーサが驚く。湯煎されてトロトロに溶けたチョコレートが、私の魔法で浮き上がりケーキにある一文を書き綴って行く。
「……これを食べるならば、絶対明日は負けられんな」
「あぁ、アリサ。粋なことするじゃないか!」
「うふふ~スッゴい美味しそう~ワタシ明日は絶対に負けないわぁ♪」
その一文を見たバルドくん、セラちゃん、ミュンルーカが不敵に微笑む。
「ええ! 長いこと苦しめられた氾濫と決着をつけましょう!」
「ああ、そして皆でこのアリサ様の心尽くしの一品で乾杯といこうじゃないか!」
「「おーっ!!」」
サーサとアイギスも、そしてこの場に集まったみんなも気勢を揚げる。うん、いいね! 明日はみんなで掴もう……セリアベールの未来のために、そしてこのケーキを食べるために♪
『~激戦に勝利した英雄達に捧ぐ~』
ラグナース「カティオ豆は兎も角、砂糖をもっと安価に仕入れる事が出来れば……(´-ω-`)」
アルティレーネ「あら(・_・?)それでしたらティターニアの妖精国で沢山作られていますよねアリサお姉さま(*´・д・)」
アリサ「だねぇ~妖精さん達ってば甘いの大好きだから、いっぱい作ってるらしいよ(´・∀・`)」
レイリーア「あらぁん♥️ それなら尚更ダーリンを『聖域』に連れていかなきゃ(’-’*)♪」
ラグナース「おぉ~(^o^)是非ともお願いいたしますm(_ _)m」
ファム「どうせならスラムの子供達雇ってチョコレート作るお店でも作ったらどうだい?( ´ー`)」
バルド「いいアイディアですね( ・∇・)豆を洗ったり、焙煎後の皮剥きに人数がいれば楽だろうしな(゜-゜)(。_。)」
セラ「なぁなぁ、アリサ~学校ってとこでそういう料理みたいなのも教えたら良いんじゃねぇ(*>ω<*)σ)Д`*)ゞ」
アリサ「あぅ(゜Д゜ )セラちゃんツンツンしないで、一応「家庭科」って括りで料理とか裁縫とか教えるつもりだよ(゜ー゜*)寧ろ裁縫は私も習いたいなぁ~(^o^)」
リール「裁縫なら私もフォーネも出来るよアリサちゃん(≧∇≦)b」
フォーネ「良かったら教えちゃうよ~ヽ(*≧ω≦)ノ代わりにお料理教えてほしいな|д゜)チラッ」
シェリー「あら(o゜Д゜ノ)ノそれなら私も教えを請いたいわ(*´▽`*)」
ミュンルーカ「うふふ~じゃあ~ワタシも受けようかなぁ(^-^)ねぇ、セラも一緒に受けようよ~花嫁修行になりそうじゃなぁい(*´艸`*)」
セラ「にゃっΣ(・ω・ノ)ノは、花嫁修行って(/ω\)キャー」
ミスト「えへへσ(*´∀`*)私も受けたいなぁ♪」
ドガ「ほっほっほ♪ 何やら楽しそうな学校になりそうじゃな(*´∇`*)」
ギド「むぅ~その授業とやらに「鍛冶」も入れてくれんかのアリサのお嬢ちゃん(^人^)」
アリス「そいならアリスちゃんは魔法教室でも開きまっしょい(´・ω・`)?」
ネヴュラ「あらあらΣ(゜ω゜)アリス様の魔法教室でしたら是非私もお受けしたいですわ!(σ´∀`)σ」
バルガス「う~む(ーー;)ならば我は剣術指南でも……いやいや、アリサ様の剣技の足下にも及ばぬ身で何を教える事が出来ようかヾ(*`⌒´*)ノ」
デュアード「え……(;´A`)バルガスさんの……剣術指南……興味ある……んだけど……(*ノд`*)σ」
ゼルワ「いやぁ~すげぇ贅沢な面子の講師陣になりそうだな(´▽`)」
サーサ「そうですね(* ゜∀゜)私も授業を受けたいです! ブレイドもそう思いませんか(*´∇`)?」
ブレイド「応!└( ゜∀゜)┘全部受けてぇぜ(ノ≧∀≦)ノ」
ラグナース「ははは(*´∇`*)これはスラムの人達の将来が凄い事になりそうですね!」




