43話 魔女とおっちゃん
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【神様は見てる】~許しません~《アリサview》
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「さてと……今回も頼りにしてるからね相棒!」
レウィリリーネからもらったアリアを、ミーにゃんポーチから取り出し、『白銀』の家から外に出た私。
手にしたアリアは嬉しそうに棒状の体? を縦にふる。なんとなくわかってきたけど、これは頷いているんだよね。
「しっかりした結界張らないといけないからね、私も聖女服だし……アリア、状態変更・杖!」
取り出した棒状のアリアを杖に変えて、上空に飛び上がる。その際道行く人がちょっとびっくりしてたけど、あはは、ごめんなさいねぇ~お騒がせしました~。
アリス達の話を聞いた私は、提案された結界を街に張るため、街全体を見渡せる上空に上がってきた。
今回の氾濫は、今までとは違う。魔王の本拠地に私達が強襲を仕掛けるんだ! 強襲を受けた魔王がどんな反応を示すのか……色々考えられるんだけど、一番困るのがこの街、近隣の村、集落への攻撃だと思う。
「ラグナースの話だと近隣の村や、集落は主に農村で街の食を支えてるってことだし……しっかり守らないとね……」
私は杖アリアを顔上に掲げ、『神の護り手』を発動させる。セリアベールを始め、近隣の村、集落にもオプションを通して同時発動。
「よし! これでそう簡単には突破できないよ! アリア、お疲れ様」
神聖な光のヴェールに包まれた街を見下ろし、アリアに労いの言葉をかける。アリアは「どういたしまして」と言わんばかりに軽く明滅。ふふ、この子にはいつもお世話になってるから、今度綺麗にお手入れしてあげましょうかね? と、言ってもレウィリリーネの魔法でいつもピカピカなのだけれど。
「さて、後は『聖域』のみんなに連絡取っておかないとね」
決戦を明後日に控えている今、万全の状態で挑みたい。街の冒険者達も、ゼオンを始めとした冒険者ギルドの呼び掛けによって、皆状態を整えている。
チェスの駒を持って帰ったギドも、武器や防具を整備したいっていう冒険者達に押し掛けられて『白銀』の家に戻れない~って、映像通信を通して嘆いていた。因みに、付き添いのドガも巻き込まれている。
「うおおぉ……アリサ様の料理がぁ~酒がぁ~!!」
「黙って手を動かせドガ! 俺だって食いたいし、飲みてぇよ!?」
って、情けない声でギドの手伝いしてたよ。ふふ、しょうがないね。美味しいおつまみとお酒を後で差し入れしてあげよう。
「ティリア、今大丈夫かしら?」
「はいはい、待ってたわアリサ姉さん。そっちの状況はどうかしら?」
映像通信で、『聖域』に待機してる妹に連絡を取り、こちらの状況を報告。明後日に決戦と伝える。
「……そう、うん、アルティがそんなに張り切ってるのね。大丈夫だろうけど、アリサ姉さんはしっかりサポートしてあげてね?」
「うん、任せておいて! そっちはどう? 問題はない?」
「ふふふ、こっちはちょーっと面白い事が起きたわよ~? 帰って来たら教えるから楽しみにしててね!」
かつてのセリアルティ王国の子孫達に会えたことで、張り切っているアルティレーネの事、新たに出会った『黒狼』達、ゼオン達の事。色々話して、『聖域』の状況を聞くと、そんな答えが帰ってきた。「面白い事」って、一体なんだろう?
「めっちゃ気になるんですけど~? まぁ、楽しみにしておくね。それで、我が『聖域』の戦力は万全かねティリア隊長殿?」
「いえーす! 我が部隊は万全でありますぞアリサ……えっと、大隊長? うんにゃ、提督?」
なかなかにノリの良い妹である。やっぱあんたフォレアルーネの姉だわ。
「あ~アリサ姉、丁度いいや! お願いあるんだけどさ」
「ん、『迅雷』とか言うパーティー組んでた冒険者達を探してほしい」
映像通信の横から、にゅっと出てきたフォレアルーネとレウィリリーネ。近い近い、画面がうるさいから少し離れなさいな?
「『迅雷』? その冒険者達ってなんぞ?」
「そいつらはね~……」
話を聞けばそいつ等は、まだ新人だった頃のリールとフォーネを騙して手籠めにし、乱暴しようとした連中らしい。ゼオン達冒険者ギルドが事態を事前に察知して、最悪には至らなかったそうだけど……
(あの時、妙にバルガスに怯えていたのは、そういう理由か……)
許せん。街から追放されて、冒険者ギルドに犯罪者として登録されたって言うけど……私は『元冒険者』、『迅雷』で検索をかける。すると、セリアベールからちょいと離れた山間にヒットする。
「はっ! 馬鹿が、商人風情が生意気に刃向かうんじゃねぇよ」
「しけてんなぁ……おい、見ろよ。コイツろくなもん持ってねぇぜ?」
「ちっ! クソが……女の一人でも連れてろってんだよ、なぁ?」
「「まったくだぜ、俺等が楽しんだ後、売り捌いて金にしてやんのによぉ」」
「ギャハハハ!!」
映像通信に映し出されたのは、山道に横転している一台の馬車と、その主だったのであろう中年の男性。背後から一突きされたのであろう、胸に剣が突き刺さり、うつぶせに倒れ、絶命している。馬は横転した馬車のせいで脚を折ったのか、息はしているものの、動けないようだ。
下手人である『迅雷』の三人は馬車の荷を漁っては毒づいている。
「完全に野党だね……」
「ん、全く反省していない……」
その様子を見ているフォレアルーネとレウィリリーネの表情に怒気があらわれる。私とティリアも同様だ……コイツ等はどうしようもない悪党のようだね。
「おぉ、そういやそろそろ『悲涙の洞窟』の氾濫が起こる頃じゃねぇ?」
「ああ、そういやそろそろって感じがするな……へへ、やっちまうか?」
「良いねぇ……混乱に乗じてゼオンのクソをぶっ殺してやるかぁ?」
「くくく、ついでに犯しそこねたあの二人もさらっちまおうぜ!?」
最低だコイツ等……話を聞いてて反吐が出そう。私は映像通信越しに妹達と目配りすると。
「……害にしかならない連中。生かしておく価値無し」
「「賛成」」
静かに怒りを滲ませて告げるレウィリリーネの言葉に、ティリアとフォレアルーネが揃って賛成する。まぁまぁ……待ちたまへ待ちたまへ。
「アリサ姉さん何か考えがあるの?」
「三人ともアメーバって知ってるわよね?」
アメーバ。ねちょねちょした不定形の生物で、この世界では掃除屋とも呼ばれている存在だ。似たような種族にスライムがいるが、丸くてぽよぽよした愛らしい彼等と違い、アメーバはぐちゃっとしてる上に赤黒かったり、毒々しい紫色だったりして気色悪い。と、嫌われているのだ。
ふふ、本当はスライムと同じで放置された死骸や、糞尿なんかを取り込んで消化してくれる働き者なんだけどね。
「……ピッタリだと思わない? せめて善行を積ませてあげましょうよ……ふふふ」
「ん、素晴らしい。流石アリサお姉さん」
「あ~、死ぬのはまぁ、そこで終わっちゃうだけだもんねぇ……ふっふっふ、それなら死ぬまで働かせてやった方が世界のためにもなるねぇ~♪」
「ふふふ、そうねぇ~こんな下衆共にはお似合いね……じゃあ、やっちゃいましょう」
あぁ、お馬さんは可哀想だしちゃんと怪我を治してあげて……被害者の男性は、そうね……お馬さん、ご遺体運んでくれるかな? そう、故郷に還してあげて。うん、ありがと。あんたも気を付けて帰ってね。
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【商業ギルドのマスター】~おっちゃん登場~《エミルview》
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「へぇ、アリサ様がそのような事を仰っていらしたのですか?」
「応……いやぁ~深いぜ、あの嬢ちゃん、見た目通りの歳じゃあねぇな……」
昼の休憩を済ませたゼオンさんが、執務室の椅子に座り、何があったのかを僕に話してくれています。今聞いているのはスラム街での一幕。うーん、僕も串焼き食べたかったですね……ふふ、今度お願いしてみましょうかね?
「おぉ、多分今もスラムでやってんじゃねぇかな? 見てきたらどうだエミル? ついでにこいつを各ギルドの代表に渡してもらいてぇな」
「おや、よろしいのですか? ……これは?」
ゼオンさんが書き綴っていた羊皮紙の束を僕に差し出します。『白銀』の家から戻って来ては、悩みながら筆を走らせ何を書いているのかと思っていましたが……ふむ、各ギルドの代表に渡す書類ですか。
「ははは、アリサの嬢ちゃんが何かと持ち込んでな。どれもこれもとんでもねぇシロモノなもんでな……とにかく見てもらわねぇことには、そうそう広められねぇんだわ」
ほほう! それは凄そうですね、各ギルドの代表を通す程の物。僕も俄然興味が湧いて来ましたよ!
「お引き受けします。それでは残りの業務お願いしますね」
「応。そのまま直帰してくれていいからな!」
僕はゼオンさんに引き継ぎを済ませ、意気揚々と冒険者ギルドを出ました。さて、まずはお遣いを済ませてしまいましょう。
「ほう、あの通信のお嬢さんがねぇ……明日に、とは急な話だが、まあ俺も興味あるしな」
「ふふ、驚きましたよね? 今度は何を見せてくれるのでしょうか? ああ、僕も参加したいなぁ~」
急な訪問にも快く迎え入れてくれた商業ギルドのマスター、ディンベルさんはかつてのセリアルティ王国財務大臣の子孫にあたられる方。代々受け継がれてきた『信頼は誠実の上に成り立ち、それは利益よりも優先されるものである』という言葉を信念とする、商人の鑑のようなお方です。ラグナースさんのお師匠様でもあります。
「俺も楽しみだ。さっき張られた結界も神の御業と言っても差し支えねぇ程のものだった……ふふふ、今度は一体何を俺達にもたらしてくれるのか……」
氾濫、いえ……きたる魔王との決戦に備えアリサ様が先程街を覆う大規模な結界を張られた事は、ゼオンさんを通して通達されました。まぁ、魔王の存在が知られると、混乱を招く恐れがあるので伏せているのですが。
「今回の氾濫は今までとは違う……そんな気がするぜ」
「ええ、なんにせよ僕達は乗り越えなくてはいけません」
勘の良いお方です、いえ……それは決してディンベルさんに限った話ではありませんね、ここまで大規模な結界を必要としたことは今だかつてないのですから。冒険者の皆さんを始め、ディンベルさん達非戦闘職の方達にもその緊張は伝わっているのでしょう。
「僕はこれからスラム街に行ってきます。件のアリサ様がスラムの住人達に何かと世話を焼いているそうで」
「ほう、それは興味深いな。俺も行くかな……ミリア」
リンリン
ディンベルさんが机に置いてある鈴を手に鳴らしました。これはディンベルさんの秘書を務めるミリアさんを呼ぶための物ですね。対になっていて、片方をミリアさんがお持ちになり、離れていてもディンベルさんがこの鈴を鳴らせば聞こえるという魔装具『呼び出しの鈴』です。
暫くするとディンベルさんの執務室の扉がノックされ、よく通る女性の声がかけられました。
「ディンベル様。ミリアです、お呼びになられましたでしょうか?」
「うむ、ミリアよ俺の今日の予定だが、これから少し空けられるか?」
静かに入室してきたハーフエルフの美しい女性、ミリアさんはディンベルさんの質問に、手に持っていたファイルを開き、ディンベルさんのスケジュールを確認します。
「……ファムナの村からライス、麦、野菜を運ぶハジュネが卸しに来る予定が入っております、今朝の出立との事ですから……そうですね、数時間の余裕はございますよ?」
「ファムナの村からこのセリアベールとなりますと、山間を通って来るのでしょうか? 最近山賊が出没するとの話ですが……」
「ああ、少し心配だな……冒険者達の話だと護衛連れてると現れないって事だが……ハジュネの奴はどうなんだ?」
そこまでは……と、ミリアさんは言葉を濁します。そうですよね、流石にそこまで把握はできませんよ。
「うーむ……今日中に街に来ないようなら調査を依頼するかもしれん。エミル、その時はよろしく頼むぞ?」
「ええ、お任せ下さい」
それから僕とディンベルさんは二人で各ギルドの代表に、同じ手紙を渡してスラム街にやって来ました。すると賑やかな笑い声が聞こえてきます。
「こーの文字止まれ~♪ こーの文字止まれ! じゃがいも~♪」
「「わーい!!」」
「おお? 随分楽しそうに子供達が遊んでるな?」
「ええ、何の遊びでしょうか?」
スラム入り口付近の少し開けた広場ではアリサ様が子供達と一緒になって遊んでいます。アリサ様が子供達にむかって呼び掛け、『白銀』のアイギスさん、ゼルワさん、サーサさんが持つ文字の書かれた大きなカードを見て、各々集まって行きます。
「ほう、これは……なるほど、子供達に文字を教えているのだな……?」
「『じゃがいも』の文字はゼルワさんが持つカードですね、おやおや……意外と知られていないのですね」
サーサさんが持つカードには『ニンジン』、アイギスさんが持つカードには『たまねぎ』、ゼルワさんの持つカードには『じゃがいも』とそれぞれ書かれているのですが、正解であるゼルワさんの所に集まった子供達は全体の三分の一といったところでしょうか?
「いい着眼点だ。こうしてゲームとして楽しみながら、少しずつ文字を覚えてもらおうと言う訳か……うむ、あの嬢ちゃんよく考えているな」
「ええ、何よりも子供達がとても楽しそうです!」
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【お遊戯】~楽しく学ぼう~《アリサview》
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スラムの子供達と遊んで、楽しく文字の読み書きを教えていると、エミルがなんか厳つい顔した偉そうなおっちゃんを連れて来た。
「あー! エミルとえらいおっちゃんだ!」
「わーい! エミル~おっちゃんみてみて~オイラ達『じゃがいも』『ニンジン』『たまねぎ』って書けるようになったし!」
「読めるようにもなったんだぜ! ほら!」
子供達は嬉しそうに二人の前に寄り、地面に木の枝で文字を書く。
「おぉ! 本当だ! 凄い凄い! 頑張ったんだねみんな」
「ふはは、見事見事。だがお主、間違っているぞ? それでは『じゃがにん』ではないか」
あっれぇ~おっかしいなぁ~って、頭をかく子供もいるけど、概ねみんなが覚えてくれたと思う。しかし、このおっちゃんは誰ぞ? 悪い感じはしないから大丈夫だと思うけども。
「ディンベルじゃないか? 珍しいな、お前が外に出てるなんて」
「よう、アイギス。久し振りだってのにご挨拶じゃねぇか? もう少し敬ってくれよな」
「何を言ってるんですか? ミリアに散々迷惑かけてるクセに……」
「相変わらず悪い顔してやがんなおめぇは」
うわ、サーサもゼルワも容赦ないな! メタクソ言ってるぞ?
「おおい! ひでぇなお前ら!? なぁ坊主達、もっとおっちゃんに優しくしてくれても良いって思うだろ?」
「「えー!? おっちゃんはえらそ~だしなぁ~」」
おうおう、子供達も遠慮ないな。それだけ打ち解けてるって事なんだろうけど……突如現れたこのおっちゃんは何者なんだろう?
「彼は商業ギルドのマスターであるディンベルさんですよ、アリサ様。ゼオンさんが午前中に拝見したアリサ様の商品について便宜を図って手紙を用意したのですが、それで興味を示したご様子で……」
「おお、明日に代表を集めて見てもらうって話か。仕事早いねぇゼオンは」
きょとんとしてる私の側にやって来たエミルが教えてくれた。
お昼に私の作った料理を『白銀』と『黒狼』、ファムさん、ラグナースに交ざってバカスカ食べまくって、「最高にうめぇっ! こりゃ絶対に広めてもらわねぇとなんねぇな!」ってガハハ笑いで帰って行ったゼオンだけど……ふむ。息つく暇もなく調理に明け暮れた甲斐があった。
「初めまして。『聖域』より参られた魔女殿。私はこのセリアベールの商いを統括する『商業ギルド』のマスター。ディンベルと申します」
アイギス達と軽口叩き合ってたおっちゃんが、私の前にやって来て畏まった挨拶をしてくる。
「これはご丁寧に……こちらこそ初めまして。私は『聖域の魔女』アリサと申します。以後お見知りおき頂けますと幸いです」
シャラーンッ!! エフェクトに星がキラメキそうなほどえれふぁんと、じゃない。エレガントな御辞儀を披露して自己紹介兼ねた挨拶をすると、おっちゃんもにっこりだ。
「このエミルからアリサ様のお話を少しばかり伺いましてな……是非とも友誼を結びたく、こうして参上した次第です」
「あ、そんなに畏まらなくても大丈夫よ? 私としても街のお偉いさんと親しくなっておくのは有りだと思うから、よろしくお願いします」
うん、やっぱり馴れた口調が一番楽だよ。ディンベルのおっちゃんは一言ありがとうございますって私にお礼を言ってからさっきまでの口調に戻してきた。
「いや、見てたけど大したもんだな! 子供達も楽しく遊べて文字を覚えられる。アリサ嬢ちゃんの慧眼恐れ入った!」
「今まではこう言った教育に力を入れることが難しかった。ってのは聞いたよ。でも、将来を見据えるならどうしたって必要になってくることだからね……今日のは私達としても練習かなぁ?」
教える側ってのは、教わる側より大変な気がするよ。スラムの子供達はみんな素直でいい子ばかりだから助かってるけどね。
「うむ、明日はその件も含め有意義な話をしたいものだ。子供達の前で堅苦しい話をすると嫌われてしまうからな! フハハ♪」
「おっちゃんはいるだけで堅苦しいよなぁ~?」
「「うんうーん♪」」
なにおぅ~! って茶々入れる子供達にわーって両手を上げて怒ったポーズをする、ディンベルのおっちゃんも楽しそうだ。見た目堅苦しくて如何にも偉いんだぞオーラ出してるけど、なかなか気のいいおっちゃんじゃないの♪
「ん? そういや他の連中は一緒じゃないのか?」
「ああ、ラグナースとレイリーアはファムさんを連れて食材の買い出しに出ていますよ」
「『黒狼』の連中は家で他の『聖域組』と訓練してるぜ?」
「ドガとギドはまだ「酒と鍛冶」で仕事中だな」
おっちゃんが私達と子供達、そして広場の順に見回して、他のメンバーがいないことに気付き、『白銀』の三人に行方を聞いてきた。
「げんちゃんなら家にいるよ? 呼んでこようか?」
「あぁいえいえ! アリサ様のお手を煩わせるまでもありません。僕が行ってきます!」
お、そう? エミルくん恐縮しすぎじゃないかね? 別に人一人呼びに行くくらい構わないんだけど?
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【優しい街】~スラムの住人~《ゲンview》
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「ふぅ……『白銀』と『黒狼』の皆さんに頂いた寝具や衣服は一通り皆に行き渡ったな。後は痛んできた家の外壁を補修したいが、いや、雨漏りしている家の屋根を補修するのが先か……」
俺は部屋の壁にやらなければいけない事を、自分の爪でガリガリと書き綴って行く。羊皮紙とか高価な物はとても使えないからな。スラムの皆の生活を支えるため少しでも節約だ。
俺達スラムの住人は皆、親や子を魔物に、賊に奪われ、互いが身寄りのない者達の集まり。ゼオンさんを始め、このセリアベールの街の人々に拾われた連中だ。いつか必ずその恩に報いなければ! そう思って幾年、なかなかに上手くはいかないものだ。
まず、俺達には学がない。働きたくても文字の読み書きもできなければ当然計算も出来ない。只でさえ氾濫と言う問題を抱えているこの街は、一から十まで教え育てる余裕がないのだ。
ならば少しでも戦力になれればと、冒険者を志す者も少なからずいるが、現実は無情だ。痩せ細った体で武器を手にしても、返り討ちに合ってしまう……そうして命を落とした者達も少なくない。
「ままならない……俺達にもっと知恵や力があれば、街の皆さんに貢献できると言うのに……」
そう一人部屋でごちていると、外から賑やかな子供達の声が聞こえてきた。今は『白銀』のアイギスさん、ゼルワさん、サーサさんがかの『魔の大地』と呼ばれた島。『聖域』からお連れになった不思議な女性、アリサ様とこのスラムに来てくださり、子供達の相手をしてくれているのだ。
「ふふ、そうだな。一人悩んでいても仕方ない。どれ、俺も様子を見てみるか」
どうも思考がネガティブになってしまっているので、ここは一つ俺も子供達の笑顔を見て元気を出そうと思う。
「うわ、びっくりした! ゲンさん、丁度今お伺いしようかと」
扉を開けた先になんと、冒険者ギルドのサブマスターであるエミルさんが驚いた表情で立っていた。今まさに扉をノックしようとしていたのだろう、右手を掲げている。
「え、エミルさんじゃないですか! いやいやこれは気付かずにとんだ失礼を!」
驚いたのは俺も同様で、午前中にゼオンさん、午後にはエミルさんと。街の重鎮が続けて訪問して下さったのだ。確実に何かが変わろうとしている!
「いえいえ、どうか気にしないで下さい。こちらこそ突然訪問してしまって申し訳ありません」
「そうだぜゲンよ、そんなに気にしないでくれていいんだぜ? って、お前、また痩せたんじゃないか?」
「なっ!? ディンベルさんじゃないですか!? 貴方までいらして下さるなんて……一体このスラムに何が起きてるんです?」
なんてことだ!? まさかの商業ギルドのトップまでお出でになられた! これは一体どういうことだ?
「ハハハ、驚いてるところ悪いが、今回はあの嬢ちゃんが気になっててな。ここのところ来れてなかったってのもあって、いい機会だから顔を見に来たってワケだ……済まんな、ついで。みたいになっちまって」
「すみません、実は僕も同じ理由でして……」
なんと、お二人ともアリサ様が気になってお出でになられたのか。先の通信で見た模擬戦でただならぬお人とは思っていたが……街の重鎮をも動かせる方なのか?
俺は思わずアリサ様の方を見る。アリサ様は子供達と一緒になって地面に何やら書いて……ん!? あの子供が書いているのは文字じゃないか! 『じゃがいも』としっかり書いている!
「お~正解だよ~♪ もう完璧に覚えちゃったね! えらいえらい!」
「えへへ! アリサお姉ちゃんが楽しく教えてくれたおかげ! ありがとー!」
なぁっ!? なんと……なんと子供達が文字の読み書きを!?
「大したもんだぜ……あっという間に子供達と打ち解け、少ないとは言え、文字の読み書きを覚えさせちまった……なぁゲン? 興味をもつなって方が無理な話だろ?」
「僕もびっくりしました……」
ディンベルさんとエミルさんが俺と同じく、アリサ様と戯れる子供達を見て、そう感想を呟く。俺も開いた口が塞がらない。簡単な言葉とは言えこうも容易く皆が覚えてしまうとは……!
「あれ、エミルさんと……ディンベル先生!?」
「うげ! 何しに来たのよ? このふんぞりオヤジ!?」
「おや、珍しいねあんたがスラムまで足を運ぶなんて」
俺が驚いていると食材の買い出しに出ていたラグナースさん、レイリーアさん、ファムさんが帰って来た。
「こんにちは、ラグナースさん、レイリーアさん、ファムさん」
「うむ、話題のアリサ嬢ちゃんの様子を見にやって来たのだがね、何か文句でもあるのかねレイリーア君?」
「そーいうとこだろーおっちゃん?」
エミルさんは普通に挨拶を返しているのだが、ディンベルさんはわざとらしくふんぞりかえって、毒づくレイリーアさんに答えている。ふふふ、この方はあえてこういう態度を取るのがまた面白い。レイリーアさんも本気で嫌がっているわけではなく、その顔には笑みが見れる。
「お帰り~じゃあ、早速始めようか! エミルくんもディンベルのおっちゃんも食べていってよ? 『白銀』は色々手伝ってね?」
「「お任せ下さいアリサ様」」「任せて~♪」「おっし! やりますか!」
お三方を出迎えたアリサ様が一声。『白銀』の皆さんは早速とばかりに食材を仕分け、テーブルに並べて……あれ? あのテーブルは一体何処にあったんだ?
「おぉ~ご相伴にあずかってよろしいのですか?」
「折角のお誘い、有り難く受け取ろう! ふふ、これも明日に見せてくれる商品の一つかね?」
エミルさんとディンベルさんがアリサ様のお誘いに喜ばれている。勿論子供達もだ。
「まぁ、広めたいのはレシピの方かな。あ、ファムさんには特別に教えちゃうからね?」
「おやまぁ~♪ 嬉しいねぇ。まぁ、ディンベル達、代表共が街に広めるのをダメって言ったら、宿六と二人の時にこっそり楽しむとするよ」
「ふふふ、『白銀』の家で頂いた料理は美味しかったからきっと大丈夫ですよ!」
昼に頂いた串焼きはそれはもう見事な味で、子供達は勿論、俺達大人も皆喜んで頂いた。同席していた『白銀』の皆さんも同じだったことから、アリサ様が作られる料理は珍しいのだろう。でなきゃわざわざ商業ギルドのマスターが出張っては来ないだろうし。
アリサ様が何処からともなく用意したテーブルに椅子を、目を丸くして驚きつつも指示通り並べて簡易な食卓を作る。俺は同席するのも憚られる程の知名人達と同席させられて、身が文字通り縮こまる思いをしつつも、アリサ様とファムさん、『白銀』の皆さんが調理する様子を見守っていた。
「手際が良いねぇアリサちゃんは。あたしも勉強になるよ」
「そう? ファムさんも飲食店やってるだけあって馴れてるじゃない、あ、これお願いしていい?」
「あいよ! まぁ、毎日やってるからね。それにしても、アイギスとサーサも結構手馴れてるじゃないか? レイリーアとゼルワはまだおぼつかない様子だけど」
アリサ様達が今調理しているのは俺達もよく食べているじゃがいもだ。レイリーアさんとゼルワさんが一つ一つ桶に張られた水で丁寧に洗って土を落とし、それをアイギスさんとサーサさんが受け取り、綺麗に皮を切って行く。いや、皮を切っていないのもあるな。
「ほう! アリサ嬢ちゃんの使うあの道具は便利だな、じゃがいもをあんな簡単に薄く、しかも速く切れるのか?」
「ファムさんの切っている半月状のじゃがいもとはまた違うのですね……そして、あの油が入った鍋は?」
同席するディンベルさんとエミルさんが注目するのは、アリサ様とファムさんによってその形を変えて行くじゃがいもの行方だ。火にかけられた大きな鍋には大量の油が入っているのだが、一体どうするのだろう?
「うん、いい温度。じゃあまずはポテトチップからいこうか、デンプンを洗い流して……よっと!」
ジュワアァァーッッ!!
おお! 小気味良い音を立ててアリサ様が薄くスライスした芋を、油が入った鍋に投入した。と、思ったら柄の付いたザルで数分とせずに掬い上げ、紙を敷いた皿に移してパラパラと塩をまぶせる。
「はい! ポテトチップうすしお味だよ♪ 子供達~おっちゃん、エミル、げんちゃん召し上がれ」
そうして差し出されたポテトチップ。聞けば手掴みで無作法に食べてとのことだ。
パリッ!
「おおぉ!? これは面白い! そして美味しい!」
「うむっ! 美味い! これは、手が止まらんな!」
「これがあのじゃがいもなのか……!?」
「「「うまーい!!」」」
群がる子供達も皆このポテトチップの美味しさに喜ぶ、だが人数が人数なのであっという間になくなってしまう。あぁ~俺ももっと食べたかったのに、トホホ。
「ハハハ! いい食いっぷりだねぇ! あいよ、今度はこれさ。フライドポテトって言うそうさね!」
今度はファムさんが切り揃えていた半月状のじゃがいも。これも油で茹でたらしい。
「ん~♪ ホックホクです! 美味しい!」
「ほっほっ、あちち……いや、これも美味いな!」
凄い! 同じじゃがいもなのにこうも違うのか!? これには子供達も大喜びだ。
「どうかなおっちゃん? 私はこう言うありふれた食材でも調理の仕方で、いくらでも美味しく食べられるようなレシピを広めたいって思ってるんだけどさ、このじゃがいも。スラムでもよく食べられているんでしょう?」
アリサ様の言葉に俺はハッとする。そうか、俺達のような貧乏人達でも工夫次第で美味しい食事ができるのだと言うのだな? 俺はディンベルさんを見る。是非ともアリサ様のレシピを広めてもらいたいと思いを込めて。
「ああ、俺は文句なしだ。他の代表達もこれを一口食わせれば納得するだろう。ふはは! 明日が楽しみだぞ嬢ちゃん。散々自慢できるわ!」
おお! 商業ギルドのマスターの太鼓判が押された! なんと嬉しいことか!
「ふふ、ありがとね! じゃあまだまだ行くよ! お仕事出てる大人達の分もどんどこ作るからね!」
わあぁーいっっ!!
子供達の歓喜の声が木霊するスラム街。俺はアリサ様達に惜しみ無い感謝をしつつ、出された料理に舌鼓を打つのだった。
おっちゃん「おおい、ゲン~家の壁が文字だらけじゃねぇか?( ゜Д゜)」
アリサ「うわ、これ彫ってるの? 家が痛んじゃうよ( ゜Å゜;)?」
ゲン「はぁ、その……羊皮紙を買うお金が惜しくて(;>_<;)」
エミル「いやいやいや!Σ(´д`*)それなら遠慮せずに仰って下さいよ! 羊皮紙の値段と建物の補修じゃ大分違いますから(^∀^;)」
おっちゃん「そうだぜ、ゲン。遠慮なんて水臭いってもんだ( ゜∀゜)」
ゲン「あ、有り難う御座いますお二人とも……感謝します(つд;)」
アリサ「なんなら私がほほーいって直そうか(´・ω・`)?」
おっちゃん「ははは! 面白い事言う嬢ちゃんだな! 大工の経験もあるってのか?(`∀´)」
アリサ「ん~大工の経験はないけど……まぁ、こんな感じでホイサッサ(*´∇`)」
ゲン&エミル「「うわあぁっ!?Σ(*゜Д゜*)な、直ってくーっ!ヽ(*>∇<)ノ」」
おっちゃん「んなあぁぁーっ!?Σ(Д゜;/)/」
アリサ「あ、ついでにこの魔装具『メモっちくん』をあげよう(´・ω・)っ」
ゲン「おおぉ? アリサ様これは(?_?)」
アリサ「その板持ってちょこっと魔力こめると、手書きでメモが取れるスグレモノなのだよ( ゜ー゜)タブレットPCのメモ機能限定……って言ってもわかんないか(´ε`;)ゞ」
おっちゃん「おお、なんか面白そうだな! ゲン、やって見せてくれo(*゜∀゜*)o」
ゲン「は、はい。こう、でしょうか? 板が白く光りましたが?(´Д`;)」
エミル「ほほう……この光る部分に指で文字を書けば良いのですか。ゲンさんお願いします!(°▽°)」
ゲン「指と言うか俺の場合爪になるんですけど(^_^;)……おお! 書けた♪(ノ≧▽≦)ノ」
アリサ「うん、で。消す時はこう指で書いた文字の上から横にぴーって_〆(゜▽゜*)」
おっちゃん「うおお!?Σ( ゜Д゜)ホントに消えたぞ!」
アリサ「で、下に『1』って数字がページ数ね(^ー^)指で画面をこう横にスライドさせると次のページが出るよヽ(´ω`)ノ」
ゲン「おおおーっ!♪ヽ(´▽`)/これは凄い便利ですね! 本当に頂いてもよろしいのですか(´・ω・`)?」
おっちゃん「いやいや、これは国宝級の代物じゃないかねヾ(゜д゜;)」
エミル「悪どい者に盗まれでもしたら大変ではありませんか( ; ゜Д゜)」
アリサ「あ~じゃあ、試しにおっちゃんも試してみ?(*´艸`*)」
おっちゃん「ん、おう……ん?(・・?んん~(*`ω´*)うんともすんとも言わないんだが!?Σ(*゜Д゜*)」
アリサ「そう、これは持ち主にしか使えないのだよヽ( ゜∀゜)ノまぁ、念のためお家の中でだけ使えば普通に便利なメモ帳になると思うよ( ´ー`)」
ゲン「あ、有り難う御座います!、家の中でだけでも十分過ぎるくらいです!m(_ _)m」
アリサ「あぁ、そうそう。動かなくなったら私に言ってね~直すから(*´・ω-)b」
エミル「いいなぁ~ゲンさん(^∇^)僕も欲しいなぁ~♪」
おっちゃん「俺も欲しいなぁ~|д゜)ジー」
アリサ「はぁ~(*゜∀゜)=3お遊びで作った物だからこれしかないよ(・・?」
エミル「え~(;´д`)そんなぁ( ノД`)…」
おっちゃん「あぁ、お遊びで作ったもんだからそんな変な名前なのか(;´Д`)ウンウン」
アリサ「……おっちゃんにはあげない!ヽ(`Д´#)ノ」
おっちゃん「えぇっ!? 何でだよ~?Σ(ノд<)」
エミル&ゲン((余計な事言うからですよ……(-_-;)))




