42話 魔女と作った品々
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【スラム街で串焼き】~魔女の狙い~
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「はい、これがただ塩で焼いたやつ」
パクっムシャムシャごっくん。
「「うん。食い馴れた味!」」
「で、これにコーチョ加えたのがこれ」
パクっムシャムシャーッ!
「「うまーいっ!!」」
はい、皆さんこんにちは♪ アリサです。
セリアベールの街に来て、住人のみんなに私達『聖域組』のお披露目を済ませて、アイギスと私、ゼルワとサーサでダブルデートの途中のスラム街。
スラム代表の狼の獣人、ゲンちゃんを始め、そこの住人達を汚れ落としで綺麗にしてあげた後、別行動してたアルティレーネ、カイン、ゼオンにリールとフォーネが合流。お腹すかせたお昼時、私はお手軽、簡単な料理を振る舞っているところです。
「ね? 簡単で美味しいでしょ?」
「おぉ……すげぇなコーチョ。こいつは魔物から逃げる時にぶん投げるもんだと思ってたぜ」
串に刺して焼き上げたお肉と、野菜を頬張って感心しているのは、冒険者ギルドのマスターのゼオンだ。スラムの住人含めて結構な人数だからね、手早く作れて、かつ、楽しくワイワイしながら食べられる串焼きパーティーにしてみたよ。丁度屋外の広場だし都合もよかった。
「うまっ! これだけでいくらでも食えそうだぜ!」
「お肉食べたのなんていつ以来かしら~ありがとうアリサ様!」
「「「ありがとー!!」」」
おやおや、スラムのみんな~喜んでくれるのは嬉しいけど、まだまだこんなもんじゃないぞぅ?
「なんのなんの、まだまだこれからだよ! お次はこれを……」
ジュワアァァーッッ!!
「うおぉぉっ!? なんだこの、ものっそい旨そうな匂いっ!」
「「あぁ、この匂いだけで腹が減る~!」」
バーベキュー用のグリルから小気味良い音と一緒に漂うのは、醤油の焼ける香ばしい香り。うん、ホント良い匂いだよね! 私もちょいとつまんじゃおうっと!
「うわあぁ~美味しそう~アリサちゃんアリサちゃん! 食べさせて~!」
「この芳しい香り……『聖域』で出された醤油ですね?」
「うっはーっ! 俺醤油使った飯大好物なんだよな!」
「あぁ、あれは本当に旨かったな!」
フォーネが待ちきれない! とばかりに私の側に来る。アルティレーネ、ゼルワ、アイギスは『聖域』で何度か醤油を使った料理を食べてるから直ぐに気付いたみたいだね。特にゼルワとアイギス、ドガは喜んで食べてたのを思い出す。男の子はお醤油大好きだよね~えっ? そうでない人もいる? うーん、私の勝手なイメージかしらん?
「お醤油も確かに美味しいですけれど……私はあのソースが忘れられませんね……」
「僕もです! あの複雑に絡み合う濃厚な味のソース! アリサ様、今日もありますか?」
私が以前色々研究をかねて試作したソースに味をしめたのはサーサとカイン。今ここにいないけど、レイリーアやネヴュラ。それに妹達も。どうもこちらは女の子が好きになるイメージだね。
といっても、ソースは食材の組み合わせとか色々と変えたりするから、まったく同じ味ってのは再現が難しい。まぁ、メモ残してるから作れるけども。
「ソースで焼くのもこの後に出すからね、期待していいよ~♪」
「「わーい! やったぁ~!」」
嬉しそうに喜ぶサーサとカイン。ふふっ、よきかなよきかな♪
「アリサ様。こんなに豪華な食事をほどこして下さって、なんとお礼したらいいか……本当にありがとうございます! 俺達スラムの住人に出来ることがあればなんでも言って下さい!」
おぉっとゲンちゃんや、今なんでもって……?
「あぁ~大丈夫大丈夫。対価はキッチリ払ってもらいますとも」
「ほあっ!? ちょっアリサちゃん!? スラムの人達に何させる気なの!?」
「よからぬ事なら、えっと……ゼオンさんが黙ってないかもしれないよ!?」
「おいおい……お前等なぁ……だが、確かに気になるな。アリサの嬢ちゃん、一体何たくらんでんだ?」
ちょっと~リールもフォーネもなんか私が悪人みたいな言い方しないでくれたまへよ? 企むとは人聞きが悪いんじゃないかねゼオンや? 一応先を見てるんだぞ私は。
「一年先を思う人は花を育てなさい。十年先を思う人は木を育てなさい。百年先を思う人は人を育てなさい」
「!?」
「ゼオン。リール。フォーネ。この言葉をよく覚えておきなさい? 貴方達は将来国を背負う。その時のためにもね」
この三人はかつての三王家の子孫、私は妹達のためにもこの三人をしっかり護ろうと思ってる。今はまだ一介の冒険者と街の代表者でいいだろうけど、将来は……
「……一年は花、十年は木、百年なら人をか……深い言葉だ、覚えとくぜアリサ様」
「えっと……私達確かに王家の子孫だけどねアリサちゃん」
「生まれも育ちも田舎の農家なんだけど……アリサちゃん?」
んむぅ……ゼオンは代表者やってるだけあって自覚、経験、知識他、どれも備えているようだけど、リールとフォーネはまだまだみたいだね。まぁ、本人達も言ってる通り田舎の農村に生まれ育った女の子がいきなり一国の主たれ! なんて言われても戸惑うよねぇ。
「二人とも今はそれで構いませんよ。妹達もきっと無理にとは言わないでしょうし」
「なにはともあれ、まずは『聖域』でレウィリリーネ様とフォレアルーネ様にお会いし、お話を伺うといいだろう。あのお二方も君達の将来を強制したりはすまい」
アルティレーネとアイギスが焼き上がった串焼きを持って寄って来た。うん、簡単だからもう自分達で作れるようになってるね。
「でね、ゲンちゃん達には私達の応援してもらいたいなって思ってるよ」
「応援ですか?」
「そう、最初に言ったように私は『聖域の魔女』だよ。魔女はねみんなの想いを汲み取って力に変える事ができるんだ」
そう、これが狙い。『聖域』を再生させると決めたとき……魔神の呪いに、魔神の残滓達に真っ向から戦うと決めたあの時。集った皆の想いを汲んで発現させた『聖なる祝福』を再現したい。そのためには街のみんなの想いを集めないといけないから……まるで前世にあった超有名な漫画の○気玉みたいだけども……
「「「そう言うことなら任せてくれよ!」」」
「「俺達はこのセリアベールが大好きだからな!」」
「「差別もないし、スラムの住人だからって煙たがれる事もないし……」」
「「なんかあれだな? ゼオンさんありがとうな!」」
おお……やるねゼオン。ここまで素直に感謝される代表者って珍しいんじゃないかな?
「いや、俺こそ済まねぇ……お前達をもっと活かして仕事を紹介してやれりゃ、こんなに苦労かける事もなかったろうに……」
ペコリ。
ゼオンがスラムのみんなに潔く頭を下げた。口は悪くても真摯に街の住人達に向き合ってるんだね……ちょっと感心したよ。
「頭を上げてくれよゼオンさん。あんたは才も学もない俺達を見捨てず、こうして住居も、出来る限りの仕事も食料だって手配してくれている」
「「そうだぜ! あんたのおかげでこうして毎日生きてられるんだ」」
ゲンちゃんを始め、他のスラムの人達も皆ゼオンに感謝してる。
「ねぇアイギス、ゼルワ、サーサ。この街には学校とかないの?」
「学校?」
ちょいと疑問に感じた点。ゲンちゃんが言った「才も学ない」って言葉で学校を思い出したので聞いてみた。
「ん~簡単に言うと教育機関かな? ほら、冒険者だって新人には先輩冒険者がいろはを教えたりするんでしょう?」
「ええ、確かに……冒険者ギルドで基本的な事を学ばせて……」
「デールがそういうのを率先して引き受けてるな……そうか、アリサ様の言った事がわかったぜ」
「国を作るのも人。また、それを支えるのも人……確かに人がいなければ成り立たない」
サーサ、ゼルワ、アイギスと納得出来たかな? 今は機能してても将来にちゃんと引き継がれないと意味がないからね、いやぁ~昔の人はいい言葉を遺したもんだよ。
「読み書きと簡単な計算ができるようになるだけで大分変わるんじゃないのゼオン?」
「おぉ、そいつは確かに……特に計算できる奴ならどこのギルドでも募集してるぜ! 問題は教える事ができる人間が少ねぇって事と、氾濫のせいでそう言った機関作るのもままならねぇってこった」
やっぱり氾濫が最大の問題か。このスラムの住人達のためにも絶対解決しなきゃいけないね!
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【甘えん坊】~ミストちゃん可愛い~
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「へぇ~スラムでそんな話をしたのかい?」
「確かに、読み書き、計算が出来る方なら僕のお店でも欲しいくらいですね」
ひとしきりスラムでワイワイと騒いだ後の『白銀』の家。お留守番してたファムさんとレイリーア、ラグナースのカップルに串焼きを焼いてあげての一時。ゲンちゃん達とゼオン達と話した事を伝えてのファムさんとラグナースの反応だ。
「正直難しいだろうねぇ……人を育てるにも人が必要だろう? 美味しいねぇこれ!」
「そうねぇ~ファムさんの言う通りだわ。でもアリサ様の言う通りでもあるわよね? うん、やっぱりアタシはソースが一番好き!」
「ふふっほら、レイリーア、頬にソースがついてしまっているよ? うん。とても美味しい」
……いや、いいんだけどね。うーん、食べながらする話題だったかなこれ? ラグナースとレイリーアはホントにラブラブだなぁ~頬にソースがついてるって聞いたレイリーアが「ん」ってラグナースにその頬を向ければ、ナチュラルに指で取って舐めるラグナース。いちゃラブはいいね♪ ご馳走さまです。
「あぁ~お腹空いたわぁ~! ただいま~『白銀』のみんな~『聖域組』のみんな~♪」
「むあぁ!? めっちゃいい匂いしまっす! マスターマスター! 愛しのアリスちゃんが帰還しましたよぉぉーっ!」
バーンッッ!!
勢いよく家の扉が開いて元気すぎる声を出してるのは、アリス達と『黒狼』の面々だ。街中を文字通り飛んでまわって防衛対策を考えて来たんだろう。お疲れ様って労って、串焼きを振る舞う。
「はぁ、やっぱり地に足が着くってのは落ち着くなって、これウマーイ!!」
「ヤベェ! これ旨すぎていくらでも食えちまう! アリサ姉ちゃんお代わり!」
「……お、俺も! この醤油? のやつ……」
慣れない空中遊泳に疲れた顔を見せるセラちゃんは一口串焼きを食べて吠える。それに続くのがブレイドくんとデュアードくん。やっぱり醤油がお好みかね?
「あ、アリサ殿。俺はコーチョで味付けしたものをお願いできますか?」
「私はソースのやつがいいわ! あ、このソースのレシピって教えていただけますか?」
「あ、ワタシもワタシも~♪ でもこんなに煙もんもん出したら家に匂い移っちゃわないですか?」
あいあい~毎度あり~なんてね。バルドくんは塩胡椒が好みかな? シェリーとミュンルーカはソースね。レシピは教えてもいいんだけどね、ちょいと待ってくれたまへ、色々と話をした後でね。
匂いに関しては後で私が消臭魔法かけるから大丈夫だよ。
「あ、あの……アリサ様、えっとぉ……はうぅ……」
「ん~? どうしたの~ミストちゃん串焼き美味しくなかった?」
お代わりを求めるみんなに応えて配り終えると、なんだかミストちゃんが物言いたげにして私に話しかけてきた。ちょっとオドオドしてるところ見るに言いづらい事かな? 私は目線を彼女の高さに合わせてどうしたのか聞いてみる。
「そ、そんなことないです! すっごく美味しくてビックリしちゃいました! それでこんな美味しいご飯食べさせてくれるアリサ様を見てたら……そのぅ~」
んん~! 可愛いぃ~♥️ ミストちゃんを見ているとなんだかユニを思い出すよ! まぁ、ユニはこんなに遠慮がちじゃないけどね! あぁ、ぎゅってしたいな~ダメかなぁ?
ぎゅっ。
「はうぅ!?」
「あ~ミストちゃん可愛い! なでなで♪」
あー我慢できなかったよ。だって可愛いんだもん!
「あ、アリサ様……えへへ、ぎゅう~♥️」
お、ミストちゃんも抱き返してくれたぞ。ふふっ嬉しい! 暫くそうやって抱き合うともうなんか、色々癒されていく感じがする。
「あらあら、ふふふ。微笑ましいですわね」
「ミストちゃんはなんだかユニちゃん先輩ぽいでっすからね~マスターのハートにヒットしたんでっしゃろい」
「もうっ! アリサお姉さまってば節操なしなんですから! 少し自重なさって下さい!」
そんな私達を見てネヴュラはニコニコと、アリスは串焼き食べながらうんうん頷き、アルティレーネはぷんすかしてる……この子はミストちゃんが羨ましいだけだね、後で甘やかしてご機嫌取っておこう。
「あぁ~癒されたわぁ♪ んで、ミストちゃんどうしたの?」
「えへへ……もう解決しちゃいました♪」
たっぷりと可愛い子ちゃんとのハグを堪能して、がっつり心が癒された私は改めてミストちゃんにどうしたのか聞いてみる。だけど、ミストちゃんは照れ笑いでもう大丈夫って言う。なんだったんだろう?
(アリサ様、彼女はアリサ様に甘えたかったのですわ……まだ小さい娘ですもの、母親や、姉のような方に惹かれるのでしょうね)
そっとネヴュラが私に教えてくれた。そっか……考えてみればミストちゃんもブレイドくんもまだまだ小さな子供って言える歳だもんね。事情は知らないけど、御両親を失ってたりするのかもしれないね……模擬戦の時も私を「お母さん」とか呼んじゃってたし……うん、沢山甘やかしてあげよう!
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【折角作ったけど】~そううまくはいかない~
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「あれ? そう言えばドガとギドは何処に行ったんですファムさん?」
サーサが家のリビングを見回して、ドワーフのじいちゃん二人の姿がないことに気付きファムさんに行方を聞いている。そういや何処に行ったんだろね? 留守番してる間、退屈しないようにってリバーシだのトランプ、チェスその他色々と娯楽品用意してったんだけどな?
「ああ、宿六共ならアリサちゃんが置いてった遊具をギドの工房に持っていって、再現するんじゃー! って息巻いて出てったよ? まったくしょうのないボンクラ共だねぇ?」
「特にあのチェスの二対の駒にギドさんが興味津々でして……じぃっと眺めては「いてもたってもいられん」と……ドガさんはその付き添いですね」
あきれたように苦笑いするファムさんと、ラグナース。そっか、やっぱり職人魂に火がついちゃったか、しょうがないねぇ。
「それでねアリサ様、ちょっと残念なお知らせなのよ~」
「え? レイリーア、残念って何が?」
しょぼーんって顔したレイリーアが私に何か報告があるみたい。残念なって、なんだろう?
「僕から説明させていただきますね。アリサ様はこれらの遊具を販売して、普及させたい。との事ですが間違いは御座いませんか?」
「うんうん、なんかこの世界ってこう言った娯楽が少ないみたいだからさ。よかったらどうかな~って思って」
今みたいに人数集まってる時とか、みんなでワイワイ楽しい時間を過ごす時の、ちょっとしたアクセントになると思うんだよね。
「えぇ、それはとても良いお考えと思います。ですが、これらを制作するとなると……」
ラグナースはそこまで言うと、チェスの駒を手に取る。
「例えば先程お話にあがりましたこの駒。この小さな駒に複雑な造形、それも二対寸分違わずに作るにはよほどの職人でもまず、不可能でしょう。
続けて、このトランプと言うカードですが、全て同じ大きさ、厚み。そしてジャック、クイーン、キング、ジョーカーの絵柄……不可能でしょう?」
おおぉ……なんてこったい。この世界ってまだ大量生産の概念もなければ、そこに至る技術も足りてない。その辺りをアルティレーネに聞いてみると、なんでも一度、ゆっくりではあるものの発展しつつあった文明も、魔神達の進行のせいで滅ぼされちゃったそうだ。
「道理で、なんかちぐはぐな感じがしたわけだ……所々中世レベルなのに、食文化は原始的だし」
「後は魔物の存在だろうねぇ……どうしたって、武器や防具、魔法なんかに力が入っていくのさ」
私のぼやきにファムさんが補足を入れてくれる。うむむ……身を守る事で手一杯で食事や娯楽にまで手が伸ばせない。ってのが現状らしい、つい最近まで滅びに向かってた世界だから無理もないのかな?
「あぁ、でもこのリバーシってのは作れんじゃねぇかラグナース?」
「はい、流石ゼオンさん。気付きましたね。そのリバーシなら単純な構造ですし、多少不揃いでも気にせず遊べるでしょう」
串焼き片手にフォーネとリバーシで遊んでるゼオンが指摘する。ラグナースもこれなら大丈夫ですって言ってくれる。このリバーシを皮切りに何かと広まって行くといいんだけどね。
私は、それならと、見本としてラグナースにリバーシセットを譲ることにした。
「あぁ、それとアリサちゃん。料理もいくつかレシピを広めたいんだってね?」
「うん、それと薬とか魔装具とか色々持って来たんだ。みんなも見てくれる?」
ファムさんの言葉に応えて、私は意気揚々とテーブルに『聖域』で作ってきた品を並べる。
「この二種類のポーション。それと軟膏に……料理、魔装具。コイツは……危ねぇなぁ」
あ、危ないって何がよ!? ちゃんと効果があるのは確かめたし、毒になるなんてことないぞ!? 料理の数々だってすでに『白銀』はバカスカ食べてるし、あんたもファムさんだって美味しそうにたべたでしょー!?
「ゼオン! 言い方考えな! このスットコドッコイが! えぇっと……アリサちゃん? この料理はね美味しすぎるのさ。宿六から話は聞いただろう? こーんな美味しい食べ物、この街の連中は勿論、世界中探してもだーれも知らないだろうさ!」
「ええ、それにこの魔装具の数々……どれも魔石が使われていますよね? とても一般に広めるには……」
ガーン!! なんてこったい……私の基準とこの世界の基準の乖離がここに来て如実にあらわれてしまった!
「えっと……よくわかんねぇでっす。マスターの作った物はどれもこれもすんばらすぃ物でっしゃろい? それがなんで駄目であぶにゃ~なんでっす?」
話を聞いていたアリスが、「なんで?」ってコテンと首をかしげる。あぁ~簡単に説明するとだね……
「他のお店の売り上げを奪っちゃうって事かな……? わかりやすいのはお料理だね」
「うん、もしアリサちゃんのこの料理を食べさせてくれるお店があったら、私そこにしか行かなくなる」
リールとフォーネがホットケーキを食べながらアリスに答えた。あ、ほら、牛乳も一緒に飲んでね? よく合うから!
「そうなると、あたしんとこみたいな飲食店はどうなっちまうと思うね?」
「ふむ、当然客が来なくなり売り上げも下がろうな……」
ファムさんの問いにバルガスがわかりきった事だと言わんばかりに答える。アイギス達に以前も聞いたけど、街の飲食店の料理ってどこも似たような物だって事だし。そこに手の込んだ美味しくて真新しい料理を出す店が出たら、うん、軒並み大ダメージだろう。
「そしてこのポーションだ。知っての通り従来のポーションってのは、これでもかってくらい苦いし、不味い……正直俺も飲みたいとは思わない」
「そこに、このアリサ様の作られたポーションが出回ってしまうと……」
「はぁ、それは勿論美味しくて飲みやすいアリサ様のポーションを求めますよね?」
バルドくんが続いてポーションをくいっと飲み干して口を開く。同様にマジックポーションを飲んだシェリーの言葉にカインが答えた。私の作ったポーションが出回ると、既存のポーションが売れなくなり、製作者、販売者が路頭に迷うハメになるらしい。
「はぁ、料理とポーションについては私も理解できましたけれど……魔装具についてはどうなのですか?」
「これら魔装具については、十中八九王公貴族、豪商向けに販売すればおそらく売れるでしょう」
はぁ~なんでよ? 私は「誰でも手軽に使えて同じ効果を発揮する」ってのをコンセプトにしてるんだけど? アルティレーネの疑問に答えたラグナースよ! 詳しくかつ、簡潔に理由をのべたまへ!
「使われている魔石がまず手に入りません」
OH!
「あはは、やだな~もぅ、魔石なんてその辺の道端にゴロゴロ落ちてるじゃない?」
「でっす。二、三歩歩けば魔石蹴っ飛ばしてまっすもん」
ねー? ってアリスと揃って笑顔をラグナース達に向ける。ホントなに言ってるんだか、ちゃんちゃらおかしいわい♪
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【商業ギルドってのがあるらしい】~セラちゃんぎゅされる~
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「……やっぱ『聖域』っておかしいわ」
「ですねぇ~ちょっとワタシ達とアリスちゃん達とで、認識にズレがあるみたい」
「……アイギス……お前達も、変……とか、思わなかった……のか……?」
そんな私とアリスを見て大きくため息つくセラちゃん。おかしいとはなんだ? こっそり近付いてハグしてなでなでしてやるぞ? ミュンルーカとデュアードくんまで暗におかしいって言うし!
「いや、『聖域』ではそれが当たり前なんだ。そもそも魔石はSランク指定の魔物が体内で生成する魔力の結晶石だろう?」
「まぁ、『聖域』の魔物はみんな魔石持ってるからね、ぜーんぶSランク以上ってことなのよ」
「……もう馴れちゃいましたけど、よくよく考えてみればやっぱりおかしいんですかね?」
「あー……どうだろうな? 『四神』や『懐刀』のみんなに鍛えられて、その辺の感覚狂っちまったかな?」
アイギスが魔石とは何かって話して、レイリーアが『聖域』の魔物はみんな魔石持ってるって説明。ふぅん、魔石持ちはSランクなのか、知らなかったよ。サーサとゼルワも最近じゃちょっとやそっとの魔物じゃ驚きもしなくなったからね。
「やっぱダメじゃねぇかアリサの嬢ちゃん。アイギス達が『聖域』に行った理由を思い出してくれよ? それにすげぇ結界張って、おいそれと入れねぇようにしてんだろ? カインも『聖域』は観光地じゃねぇって言ってたぜ?」
「…………」
ゼオンの言葉にちょっと考える……そうだよ、気軽にホイホイ来てもらっちゃ困るって話を会議でしたし……そのためにアリス召喚して『待ち望んだ永遠』なんて結界を張ったんじゃん。
「ぬあ~!? じゃあ全部駄目じゃん? うぐぐ……また作り直さなきゃ……」
「あぁ、アリサ様。先程言いましたように、高価ではありますがその分見栄を気にする貴族には需要がありますから! 少し装飾を豪華に派手にすれば間違いなく売れますよ!」
ラグナースが慌ててフォロー入れてくれるけど。それでも装飾だのなんだのってやらにゃ駄目ってことじゃんか……うぅ~ラノベとかならこういうのでガッポリ稼げたりしてるのになぁ、現実はそううまくいかないってことなのか、トホホ。
「まぁ、なんにせよ始めに俺達に相談してくれて助かったぜ。ポンポンそこらで売り回ってたら今頃ちょっとした騒ぎになってたぞ?」
「ええ、それに売れない訳ではありませんよ。一部の店が独占してしまう恐れがあること。それが問題なのであって、それさえ解決してしまえば……」
「あっ! そっか、商業ギルドに登録すれば!」
うう、世間に疎くてごめんなさいね。一応ね、レイリーアがラグナース紹介してくれるって聞いたときから、じゃあまずその人に相談しようって決めておいたんだよゼオン。で、そのラグナースが言う通り、一部の人が売り上げを独占しちゃうのが問題で、同業者達の生活に不安が出ちゃうのは私も避けたい。変に恨みを買いたくはないし。
「商業ギルド? ラグナースさんのような商人達が集うギルドですかリールさん?」
「そうだよネヴュラさん。冒険者ギルドと商業ギルドは、『街の二大ギルド』って言われてるの!」
ほうほう、聞けば冒険者達が魔物を倒し、その素材を冒険者ギルドが買い取る。そして、それを商業ギルドが一部買い取る。そこから各ギルドに販売されるのだそうな。例えば樹木系の魔物から取れる素材は木工ギルドに、角爪牙等と言った素材なら主に鍛冶ギルドにって感じらしい。
「まぁ、たまに俺達冒険者ギルドも商業ギルドも通さねえで、直接冒険者に頼む奴、自分で取りに行く奴もいるが、それで手に入る素材は品質に問題あることが多いんだ」
「冒険者ギルドは素材を検品していますから、多少値が張るものの、信用ができるのですよ」
なるほどね、ゼオンとラグナースの説明で色々わかったよ。コストを取るか品質を取るかってのはこの世界でもあるんだね。
「では、商業ギルドにアリサお姉さまの作られた薬品や、お料理のレシピを売れば、独占問題も解決するのですか?」
「まぁ、簡単な審査みたいなのはありますが大丈夫です。商業ギルドがしっかりレシピを広めて街に行き渡るように手配してくれますから」
アルティレーネがラグナースに確認を取ってくれてるね、気の利く妹だ。はて、しかし審査とな? なんだべ……どんな審査なんだろう?
「実際に売りに出す商品を見てもらうって審査さね。街に、商人達に、自分達に利があるかを見定めるんだよアリサちゃん」
「へぇ~そんなのがあんだな? ミスト知ってたか?」
「ううん、私も知らなかった……ふふ、なんだか一つ賢くなっちゃったねブレイド♪」
うん、そう言うことか……ファムさんが審査とはなんぞや? っていう私の疑問に答えてくれたよ。ブレイドくんとミストちゃんも初めて知ったみたい。この辺は商売する人じゃないとわかんないかもね。要は売りに出す商品のプレゼンをしろってことだろう。営業だね。
「みゅんみゅん、それならマスターの作った物全部オッケーじゃないでっす? アリスも既存のポーション飲みましたけど一口でブフォォッしちゃいまっしたよぉ?」
「あはは、アリスちゃんマジ? やだもー♪ 問題なのは~街の薬師さんでもちゃんと同じものが作れるかってところだよ?」
あはは、また懐かしい~って、アリスがブフォォしたのはそんなに前じゃないか。でもミュンルーカの言った問題はどうだろう? そんなに難しいレシピじゃないと思うけど……
「ゼオン、ラグナース。これがポーションのレシピなんだけど、どうかな? 手に入れるのが難しい素材とか、手順がわからないとかある?」
「うぉっ!? な、馴れねぇなこれ、どれどれ……」
「うわっ!? お、驚いた……これがあの試合を映した魔法ですか、っと。拝見させていただきますね……」
気になった私は、ポーションのレシピを映像通信に映し出して二人に見せる。二人は突然現れたモニターにびっくりしつつもちゃんと目を通してくれている。
「……思った以上に普通の素材で、しかも、こんな簡単に作れるのか」
「素晴らしい! 薬品に果物を使用すると言う発想……これは間違いなくいけます!」
お~! やったね♪ ラグナースは嬉々として、ゼオンもバッチリだ! って太鼓判を押してくれたよ。あ~よかった……これも駄目だ~なんて言われたらガッカリもガッカリ。私のテンションだだ下がり間違いなしだったからね。
「アリサポーションが出回れば正直アタイ達は大助かりだ!」
「これであの意識が飛びそうになるポーションと決別できるのね……あぁ~嬉しい♪」
セラちゃんや、「アリサポーション」ってなんぞ? シェリーの評価も辛辣だねぇ、まぁ、あの味はお世辞にも飲み物の味じゃないので気持ちはわかる。
「だよな! 薬屋のジジイが「薬に安易に手出しせんように苦くしとるんじゃ」とか言いやがってよ!」
「……その理屈が通るのは一般人だけだ……俺達冒険者がポーションを必要とする時は……急を要する場面が多い……」
薬があるから大丈夫。なんて考えにならないようにって、製作者の気持ちは、私もわかるんだけどね……それを越えてあの味じゃ追い討ちもいいとこだ。
「全くだ……傷が治っても気分もやる気も下がるからな……」
「むしろ逆に体調悪くしちゃう人もいるからねぇ~あっはっは♪ 誰とは言わないけど~!」
セラちゃんを筆頭に『黒狼』達の嬉しそうな声と、今までのポーションに対する鬱憤と言うか、憤り? の声があがっているね、体調崩しちゃったってのは……あぁ、俯いて恥ずかしそうにもじもじしてるミストちゃんか。
「あうぅ~だって凄い味なんだもん……量も多いし、一辺になんて私飲めないし……ふえぇ」
「あぁ、ミスト大丈夫だぞ? こら! ミュンルーカ、ちゃんと謝れ!」
「えへへ、ごめんなさいミストちゃん。許して~?」
……チャーンス! そそ~っと近付いて、がばちょっ!!
「わぁぁっ!?」「きゃあぁっ!?」
「うへへ~二人とも捕まえた♪ ん~♪ 可愛い可愛い~♥️ なでなで~♪」
「なぁ、なにするんだアリサぁ~!? こ、子供扱いす、する……なぁ……あうぅ……」
「はうぅ~……アリサ様になでなでされると、ほわぁ~ってなっちゃう……」
素早く! 一瞬で! 二人の背後に回り込んだ私は、ミストちゃんに「よしよし」しているセラちゃんを、ミストちゃんごと抱き締める。そこからひたすら、撫でて撫でて撫でる! あぁ~たまらん!
「び、びっくりしました~ワタシ目の前にいたのに全然わかんなかったですよ~?」
「ふふ、可愛いなセラ」
「ふぁっ!!? ば、バルドお前今何てっ!!?」
ミストちゃんにごめんなさいしてたミュンルーカは突然の私の行動に目をまるくして驚いた。
バルドくんは私に撫でられてふにゃふにゃ~って顔してるセラちゃんを見て微笑んでいる。でも、そんなバルドくんの言葉が意外だったのかセラちゃん、慌てて我にかえってしまいました。うーん、もうちょっと撫で回したかった、残念。その分ミストちゃんを撫でよう。
「ふふ、セラももっと、そういう顔を見せればバルドもなびいてくれるかもしれないわよ?」
「ば、バカ! シェリーは何言ってんだ!? ふふふざけんなよーっ!!?」
わーって騒ぐセラちゃんにアハハって笑いが起こる『白銀』の家。さてさて、もう少し商業ギルドについて話をしたら、今度はアリス達の報告も聞かないとね!
セラ「アリサ! アタイを子供扱いするなって言ったろ!ヾ(*`⌒´*)ノ」
アリサ「何を言うかね! 私は断じてセラちゃんを子供扱いしてないよ!(`Δ´)ぎゅっ!」
セラ「うわぁっ!Σ(*゜Д゜*)ほ、ほらっ! そうやってすぐ抱きついて撫で回してくる!(*≧д≦)」
アリサ「大人だろうと子供だろうと、可愛いって思ったんだから問題無し♪ヽ(´ー` )ヨシヨシ」
セラ「あうぅぅっ! あ、アタイが可愛いとか……゜+.(*ノωヾ*)♪+゜ばっきゃろ~はうぅ!」
シェリー(うふふ♪ セラってばもうデレデレしちゃって(((*≧艸≦)ププッ)
デュアード(……何だかんだ、言っても……アリサ様に……撫でられて、嬉しいんだな(-ω- ?))
ミュンルーカ「アハハ~♪ セラってばかっわいぃ~♥️ ワタシも撫でてあげるね(*≧∀≦*)ノシ」
セラ「……ミュンルーカは撫でるの下手くそだな!( ;-`д´-)えぇい! お前じゃ駄目だ!」
ミュンルーカ「えぇっ!?Σ( ゜Д゜)なんでよぉ~?」
ミスト「アリサ様の撫で方は凄く安らぐんですo(*⌒―⌒*)o」
バルド「ミュンルーカの撫で方は、見てる限り……雑だからな(ーωー)アリサ殿、後で俺にもその撫で方教えて下さい(´・∀・`)」
ブレイド「ミュンルーカは動物にも逃げられるもんな(・д・`;)色々下手くそなんじゃね?Ψ(`∀´)Ψケケケ」
ミュンルーカ「Σ( ̄ロ ̄lll)ウソ~ん……」
アルティレーネ「セラさん、とっても気持ち良さそうですね( ゜ー゜)」
セラ「あ~なんでだろ……アリサに撫でられてるとこう、ふわぁ~ってなって(´つω・。)……寝ちまいそうに……(。-ω-)zzz」
アリス「あれま……セラっち、マジに寝てるんですけど(゜A゜;)マスターのその撫で撫でテクニックはなんなんでっすぅ?( ゜□゜)」
アリサ「ふふ、あんたの大先輩に散々鍛えられたからね( ̄ー+ ̄)」




