41話 魔女とスラム街
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【高いとこ怖い】~どう配置するか~《アリスview》
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「はぁ~もーガッカリンリン、ガッカリーンでっすよぉぉぉ~! アリスちゃんもますたぁとお・デート♥️ したかったのにぃぃ~! あのむっつりんめぇ……」
ぷんすかぷんすか!
「おおぉぉ……こ、これ大丈夫なのかよ! なぁ! アリスの姉ちゃん!?」
「騒ぐなブレイド。落ちるも落ちないもすべてアリス殿にかかっているんだ、静かにしていろ」
「落ちたら落ちたで……なんとか……なるだろ……多分」
ぶすぅ……マスターと別行動することになってしまって、テンション駄々下がりしてるアリスです。今はなにしてんの? って言いますとですねぇ~セリアベールの上空を『黒狼』の皆さんとバルガスさん、ネヴュラさん連れて視察中なんでっす。
来る氾濫に向けて、どこでどういう風に防衛するか? ってのを色々と考えておきまっしょいってことで地理に明るい『黒狼』の皆さんの意見聞きつつ、あっちにこっちに飛んで回ってるんですよぉぉ~?
「浮遊かぁ……何気に高等な魔法よねぇ~ミストちゃん?」
「はい、シェリーさん。私達も頑張って覚えたいですね!」
でもって『黒狼』の皆さん、飛べません。
冒頭で騒ぐブレイド坊やを黙らせたバルドさんの言う通り、このアリスちゃんが浮遊で浮かせて、マスターから頂いた傘の持ち手にロープを繋いで、バルドさん、ブレイド坊や、デュアードさんをそれぞれ結びつけて牽引しておりまっする。
「窮屈ではないか? 済まぬな、人を乗せられる従魔もおるが我は従えておらぬのだ」
「大丈夫ですよ~セラってばちいちゃいからぁ~♪」
「みゅみゅみゅーっ!! おおお、お前ーっ! 下降りたらおぼえてろぉー!?」
ガシッ! ってみゅんみゅんことミュンルーカにしがみついて顔を青冷めさせているのが、バルガスさんの腰に繋がれたロープに結ばれたセラちゃんでっすねぇ~この子高いところ苦手なんでっす?
「お二人は大丈夫そうですね?」
「ええ、ありがとうネヴュラさん。なんとか移動にはついて行けそうです」
「えへへ、ネヴュラさんとこうして手を繋いでると、お母さんを思い出します♪」
うって変わって微笑ましいやり取りしてるのがネヴュラさんと手を繋ぐシェリーさんとミストちゃんでっす。このお二人は魔法使いだけあって浮遊補助が使えますから、空中での移動のコツも掴むのが早いみたいでっすね。
「さて、アリス様。如何なされます?」
「そうですねぇ……おそらく、ですけど。今回は今までとは大きく違ってくるでしょうし……」
話を聞く分には、今までは『悲涙の洞窟』から溢れ出した魔物達が。わざわざこの街に進行してきたらしいでっす。きっと魔王に「大きな集落でも潰せ」とか、適当に指示を受けてたんじゃないでしょうかねぇ? 休眠状態のために細かい指示を出せずにいたってのがアリスちゃんの読みですよぉぉ~行動がシンプルだから乗り越えられてきたって踏んでいます。
「魔王に強襲をかける形になる今回。当然『転移陣』が使われる筈ですわ……」
「さすれば何処も死角になりうる、防衛するにはそれこそ……」
「結界が必要……でしょーねぇ……」
ネヴュラさんの言葉はもっともです。叩き起こされて驚きはするかもですが、それで黙るようなヤツなら魔王なんて名乗らないでしょうし。
そしてバルガスさんの指摘も確か。魔王の召喚範囲がどんなもんかはわかりませんけど、間違いなくこの街を中心に展開される筈。
ティリア様のお話に依ると、魔神にふぉーりんらぶ♥️ な魔王ってことでっすし……その魔神を奪ったこの世界をめっちゃ憎んでるでしょう。アリスももし、マスターを……って考えればその気持ちがわかっちゃうんですよねぇ。とにかく手当たり次第、目に写るもの全部ぶっ壊して暴れまくるでしょう。
「マジか……どっから襲って来るかわかんないんじゃ、どうしても戦力を分散しないといけなくなるな……その結界ってどんなもんなんだアリス?」
「セラぁ~ちょっと苦しい~そんなにぎゅう~ってしなくても落ちないから緩めて?」
「イヤだ!」
セラちゃんにしがみつかれてるみゅんみゅんがちょっとぐえぇ~ってなってて、おもろいです。
「アリスは既に『聖域』に『待ち望んだ永遠』を構築しちゃってまっすから、ここはマスターのお力添えが必要ですね」
「アリサ様は既にこの街を含め周辺の村にもオプションを飛ばしているとおっしゃってましたわ……なんでもユナイトさんを模したのだと……」
「うむ、冒険者ギルドの執務室での話だな。流石は我等が神! 常に先を見据えておられる!」
『聖域』に張った『待ち望んだ永遠』はマスターの権能に依るところが大きいのです、アリスはちょーっと補助しただけですので、だからこの街にも張ってって言われてもむりり~ん♪ なのですよぉ。
ネヴュラさんの言葉でバルガスさん同様、アリスも思い出しました。そう言えば確かにそんなことマスターが言ってましたね……マスターってばたまにとんでもないことをさらっと世間話のノリで話すものだから油断できないんですよねぇ。
その点と結界云々はマスターにお願いして、アリス達は戦う冒険者達に被害が出ないように努めましょう。
「俺としては、街を中心に円陣を築くのがいいと思う」
「……同じく。外周をAランクで、内周をBランク以下が囲う」
ふむ、良いですね。バルドさんとデュアードさんがなかなかにいい案を出してくれました! そこに加えて『四神』に『懐刀』達も召喚してやれば完璧じゃないでっしゃろか?
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【アピール】~簡単には見せません~《アルティレーネview》
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カッポカッポ、カッポカッポと私を乗せて歩くカインの蹄の音が、綺麗に舗装された石畳の道に響きます。
「ほう……それは期待が大きいですな!」
「わぁ~初めて自分で育てたお野菜を収穫するのってドキドキするんですよねぇ~♪」
「あはは! 農作業なんて随分やってないけど、『聖域』に行ったらお手伝いさせて下さいね!」
ユグライア、リールさん、フォーネさんが楽しそうに笑い合います。
私達『聖域組』のお披露目が無事に済んで、今は彼等とカインを連れて街を見てまわっているところなのです。
愛したセリアルティの子孫達が築いた街を、かつての王家子孫達と連れ立って歩いてまわる……あぁ、なんて嬉しいことでしょうか……過去から今に紡いでくれた皆に感謝ですね。
少し先のお話になるのですが、今回の問題を解決した暁には、セリアルティを復興させ正式に一国家として運営していく。その活動の中で、セリアルティとセリアベールを含め、特色や特産品等、どういったものがあるかという話になりました。
私達の『聖域』ですと、他の大陸では見られない強力な魔物、討伐は困難を極めるでしょうけれど、その素材は大きな価値があるのではないでしょうか?
勿論そこまで危険を冒さずとも自然素材も豊富です。本格的に冒険をするなら、踏破に数年はかかるでしょう。
それだけではありません、ティターニアの妖精国に『懐刀』、『四神』達の棲処にも繋がっていますし、私達に認められれば屋敷にも招かれ、世界樹を間近に目にする事も出来るでしょう。
更に今現在『聖域』の開拓が進められ、将来は美味しい農作物や、様々な加工品の生産が見込まれます。これらはアリサお姉さまの知識がふんだんに使われ、この世界には未だない物ですよ!
更に更に! アリサお姉さまの魔装具作りに感化されたドワーフ達、エルフ達と言った手先が器用な者達による物作りも盛んになってきたところなんですよ!
……と、少々語りに熱が入ってしまい、我にかえって赤面したところで、冒頭に繋がります。
「魔物は怖そうだけど、アル……オホン……レーネ様のお話聞いてると、なんかわくわくしてくるねフォーネ!」
「うん♪ それにレーネ様の妹様達もいらっしゃるし! 絶対行こうねリール!」
「こいつは冒険者達の登竜門になりそうですね……今んとこ『白銀』のみが達成できる感じか……」
「ふふ、来てくださるなら歓迎しますよ♪」
「いけませんよアルティレーネ様?」
え? 私が皆さんが『聖域』に来られることを嬉しく思っていたら、カインから注意されました。
「お忘れですか? ティリア様も仰っていたように『聖域』は観光地ではありません。僕達の大切な居場所です。おいそれと人を招かれては困りますよ?」
「あうっ……」
そ、そうでした……私自身も似たようなことを言った覚えがあります。いけませんね……どうやらだいぶ浮かれてしまっているようです、反省しなくては。
「ティリア様に「なにやってるのよ! アルティ!?」って怒られちゃいますよ~?」
「は、はいぃ~気を付けます……」
うぅ、しょぼーんです。カインの指摘に、怒鳴るティリア姉さまのお顔が脳裏をよぎって思わず身震いしちゃいました。
「……良い関係を築けているようですな。神だからとへりくだることもなく……風通しがよさそうです」
「ふふっ遠慮なく言い合える仲間って素敵ですね♪」
ユグライアとリールさんが私とカインとのやり取りに笑顔を見せます。以前の『聖域』での会議の場で、アリスさんが踏み込んで来てくれてからと言うもの、確かに『聖域』に住まうみんなとの距離が縮まった感じがします。まぁ、黄龍のシドウや九尾の珠実等は最初からあまり遠慮もなかったのですが。
「あぁっ! くそぉぉ~なんでだ!? なんで見えねぇんだよぉぉ~!」
「浮いていると言うのに! 何故だ! あの謎の光はなんなのだ!?」
あら? 何か前方が騒がしいですね……何かしら?
「なんでしょ~う? 何を騒いで……って、あぁ~そういう……もー」
フォーネさんも気になったようで騒いでいる住民……主に男性達の視線を追って空を見上げると、そこには『黒狼』の皆さんを連れたアリスさん達が飛んでいました。何やら街の四方を指差し、話し合っていますね。決戦に向けて冒険者達の配置をどうするか相談しているのでしょう。
「あ~ホントだ……何か変な光が刺して、肝心なとこ見えない」
「アリスの嬢ちゃんの魔法か、にしても……コイツら、ったく! しょうがねぇ奴等だな……」
「あはは、『黒狼』は女の子多いし、セラちゃんなんてミニだし、みんなスカートだし……普通空に飛んだら見えちゃうもんね」
も、もう~! これだから定命の男性は……え、ぇっちなんですから!!
同じように見上げたリールさん、ユグライア、フォーネさんも騒動の理由を察しそれぞれに納得したりあきれたり……
「ほ、ほら! 見てないでちゃんと案内をしてください! あちらには何があるのです?」
「あぁ、はいすみませんレーネ様! あちらは……あー」
自分のことでもないのに、なんだか恥ずかしくなった私はユグライア達を急かします。だって、なんだかいたたまれないのですもの。ですが、私が指し示した方を見たユグライアが言葉に詰まっています……どうしたのかしら、何とはなしに示した方にはいったい何が?
「あぁ、レーネ様……そっちはスラム街ですね……正直、レーネ様がご覧になるような場所ではないかと……」
リールさんが気まずそうに教えてくれます。この先はスラム街だと……なるほど。
「「「うおおぉぉーっっ!! マジかアリサ様ぁぁっっ!?」」」
えっ!? 私が話そうと口を開きかけたその刹那、スラム街から大きな歓声と聞き慣れた名前が聞こえてきました! えぇ~!? アリサお姉さま何をしてるんですか!?
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【買い物デート】~浮浪児達~《アリサview》
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「ほらほらぁ~アリサ様も、アイギスとこう! 私達のように腕を組んで!」
「まっ、待ってよ! サーサ! それは流石に……そのぅ~」
「サーサ、無理言うんじゃねぇよ……アリサ様、腕組むのは無理でも手繋ぐくらいならいけますよね? おらっアイギス! おめぇが率先してエスコートしなきゃ駄目だろうが!」
「あ痛っ! 済まん。嬉しくて少しほうけていた……ゼルワ、わかったから小突くな」
『白銀』の家を出た私達。ゼルワとサーサの二人は特に嬉しそうにしてて、私とアイギスに腕を組んで歩こうとか言い出した。人の多いこの往来でそこまでできる勇気もなく、気後れしてしまっていたんだけど、ゼルワから妥協点として手繋ぎでって事になった。
目を細めてなんか幸せそうな顔してポワ~ってしてたアイギスも、ゼルワに肘で小突かれて我にかえったみたい。
「さあ、参りましょうアリサ様! お手をどうぞ。このアイギス、案内努めさせていただきます」
「……うんっ♪ よろしくねアイギス♥️」
差し出された彼の右手に私は左手を重ねて微笑む。えへへ……ユニとか珠実の手を取ってやったりしたことあっても、こうして差しのべられるってのはあんまりなかったから、なんか嬉しい。
「さて、どっからまわってみます? やっぱ食材ですかね?」
「そうだね、どんなのが売ってるのか興味もあるけど、胡椒……コーチョか、も、補充しておきたいし」
「畏まりました。コーチョは食材という扱いではなく、雑貨扱いですから、両方の店が並ぶ東にご案内しましょう」
ゼルワが何処を見てみたいか聞いてきた。うん、言う通り食材が一番気になるね! フォレアルーネから貰った胡椒ならぬコーチョも在庫が心許ないので補充できれば嬉しい。アイギスは雑貨扱いされてるって教えてくれた。
「そう言えばこんな話知ってます? コーチョは西の方ではかなりの高級品だと言う話」
「あ~なんか風の噂で聞いたことあるぜ? なんでも同じ重さの金と取引されてるとかなんとか……眉唾物だけどなぁ~」
「このありふれたコーチョがか? 馬鹿な……と、言いたいが……アリサ様のお料理を頂いた後だとな……」
サーサが「コーチョと言えば」と、そんな話を振ってきた。ふぅん、胡椒の価値は前世でもあったように高いところは高いみたい。あーよかったぁ~ありふれてる地域がすぐ近くにあって!
「あんまり流通してないのかね? そういやあんた達も料理に使われるって聞いて驚いてたもんね? その西の方では食材扱いなのかもよ?」
ゼルワが聞いた噂ってのは、私の前世での世界の歴史にもあったことだ。アイギスは信じられないって思ったみたいだけど、私が実際にコーチョ使った料理に舌鼓を打ってるので、わからなくもないって思ってるみたい。
そんな他愛ない会話を楽しみつつ、やって来た東のメインストリート。ざっと目を通して見れば、あるわあるわ! たっくさんの食材各種♪
「うわーぉ! こりゃまたすんばらしいね! な~んでこんなに豊富な食材が並んでるのに美味しいご飯が作れんのだチミタチは?」
「技術と知識が広まっていないせいでしょうね……お考え下さいアリサ様」
じゃがいも、玉ねぎ、人参、なすに白菜、レタスにキャベツ等々。前世でもありふれていた野菜の各種が並べられる沢山のお店を覗きつつ、アイギス達とおしゃべりする。
「俺達はなんだかんだで、生きるだけで精一杯なんですよね……」
「魔物が蔓延る状況下では、まず身を守るための手段等が優先されています」
あぁ、成る程。ゼルワとサーサの言わんとしてることはわかった。そりゃそうだ……この世界は普通に魔物が生息して人を襲うっていうなかなかにハードな世界なんだ。その中でもこの街は氾濫っていう問題も抱えている。
こんな風に沢山食材が店頭に並べられるてる事を称賛すべきなのだろう。多くの冒険者や、商人、農家やギルドの助力があって、今、私達はこうして楽しめているのだ。
「お、『白銀』の三人に変わった格好したべっぴんさんじゃねぇか! 見てたぜ、嬢ちゃんすげぇんだなぁ~!」
「お~ありがとね♪ おっちゃんこの玉ねぎちょうだい!」
あいよ! って、覗いてたお店の店主らしきおっちゃんが話しかけてきたのでとりあえず玉ねぎを買っておく。因みにお金は、以前『聖域』でやっつけたホーンライガーとプテランバードを冒険者ギルドに、アイギス達『白銀』に代わりにに売ってもらった。私はまだ冒険者登録してないからね。その時、プテランバードを見た職員達が「見たことない魔物だ~!」って、ちょっとした騒ぎになったけど……まぁ、余談ってことで。
「結構買いましたねアリサ様、何を作ってくれるんですか? 俺今から楽しみでしょうがねぇですよ!」
「も~ゼルワったら……ふふっ、でも私も楽しみ♪」
「簡単男飯とのことですが、私にも作れる料理なのでしょうか?」
それから何軒かお店を周り、数々の食材を買い、街を見てる途中ゼルワは何を作ってくれるのかが気になるみたいで、わくわくした表情で聞いてくる。サーサはそんな彼をしょうがないんだからと、微笑みつつもやっぱり私の作る料理が気になるみたい、アイギスも簡単男飯が気になる様子だね。
「たいしたものじゃないよ? お肉と野菜焼いてこのコーチョぶっかけて……うん?」
「ねーちゃんねーちゃん! なんかめぐんでくれよ~」
「変な魔法でおいら達に試合見せてくれたねーちゃんだよね?」
おぉぉ? なんぞこの浮浪児達は? 道行く私の足元に如何にもみすぼらしい服と、汚れた格好した様々な種族の子供達があらわれた。
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【仲良し】~スラムの住人~《アイギスview》
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「おや、スラムの子供達じゃないか。今日も今日とて精が出るな」
「はいはい、何が欲しいんですか? ふふ、やっぱり食べ物かな?」
「お前ら、服とか寝床とか大丈夫か? ゲンに話して必要なら用意するぜ?」
アリサ様と連れ立って買い物に来た私達の前に、スラムの住人である子供達が寄ってきた。その種族は様々で、獣人、エルフ、ドワーフ、ハーフリング、人間等々、沢山だ。
いずれも身寄りをなくし、仕事をしたくても能力や年齢等、何かと不足している者達が集まり、ひとつのコミュニティを形成している。
その代表者がゲンと言う狼の獣人。街の代表者でもあるゼオンとも面識があり、何かと便宜を図ってもらっている面倒見のよい青年だ。
さて、どうしたものか……正直言って彼等はみすぼらしい見た目をしている。その彼等にアリサ様を紹介していいものか……嫌がられるのではなかろうか?
「おーおー? こりゃまたやせこけちゃってぇ~、よーし! 子供達よ、そのゲンさんって人のとこに私を案内してくれるかね? お望み通りめぐんでやるぞい?」
「「おぉ~! あんがと~ねーちゃん!」」
「「ゲンさんも喜ぶよー!」」
「「あのねあのね! ゲンさんってあたし達に食べ物わけてくれるんだけど」」
「「わけてばっかりで自分食べてねぇかもなんだ~」」
「「ゲンさんは食べたの? って聞いても、食べたよって言うんだけど」」
「「ホントに食べてるかあやしい~!」」
わーわーと次から次へ矢継ぎ早に捲し立てるスラムの子供達。嬉しいのはわかるが、そう騒ぐんじゃないぞ? しかし、ゲンの奴……自分は丈夫だからといってまた食事を疎かにしているのか……自分が倒れては元もこもあるまいに。
「ゲンは相変わらずのようですね……少しは自愛してもらいたいのですが……」
「まったくなぁ~でもまぁ、そんな奴だからこそコイツらも慕うんだろうぜ?」
(アリサ様、平気ですか? こう言ってはなんですが、スラムは不衛生な場所ですが)
ゼルワとサーサも同じことを思ったらしい。確かにそこが彼の良いところなのだが。
私が先に危惧した不安をそっとアリサ様に耳打ちする……のだが、アリサ様は少し驚き顔を赤くされた。
(きゃっ!? びっくりした……もぅ、アイギスそんな急に寄っちゃダメ! 私結構敏感なんだからね? それと別に平気だよ? ちょちょーいと綺麗にしちゃうし)
おっと、確かに女性にいきなり顔を近付けるのは不躾だった。反省せねば! それと意外だが、アリサ様は特にスラムの子供を悪く思ったりはしていないようだ。なんというか、本当に懐の深いお方だと改めて思う。
「「「着いたよ~! おーい! ゲンさーん、お客さんだよぉ~?」」」
久々にスラム街を歩き、以前と変わったところはないか? 子供達が危険な目に会いそうな場所とかはないか? あればゼオンに報告し、対応を取ってもらわねば……等をざっと目を通して確認していると、ゲンの住む家に辿り着いた。
「客人だって? 一体誰が来たって言うんだ子供達よ?」
ガチャっと家のドアノブが回され、中から出てきたのはボサボサのくすんだ毛並み、痩せ細った体躯の狼男。彼がこのスラムの代表者であるゲンだ。
「お~なるほど、狼さんなのね! 初めましてゲンさん。私は『聖域の魔女』アリサです。よろしくお願いします」
「やぁ、久し振りだな。元気だったかゲン?」
「お久し振りですゲン。また痩せましたか?」
「オッス! 相変わらず疲れた顔してんなぁゲン。ちゃんと食ってるか?」
アリサ様の優雅な挨拶から始まり、私達も久し振りに顔を合わせるゲンに挨拶をする。ふむ、子供達が危惧した通り、あまり食べていないのだろう……以前より毛並みに艶がなく、痩せたように見える。
「おおっ!? 貴女様はあの映像の! そして、『白銀』のみんな! 会いに来てくれたのか! ありがとうな!」
私達の顔を見るなり嬉しそうにその表情を綻ばせ、駆け寄ってくるゲン。あぁ、思ったより元気そうだ。
「ゲンさんゲンさん! このねーちゃんがご馳走してくれるって!!」
「なんか、すげぇうめーもんくわせてくれるって話だよ!?」
「な、なんだって? お前達、また人様にめぐんでもらおうって街に出たのか!?」
子供達の話を聞いたゲンが少し焦り、叱ろうとするが……
「はいはい、ゲンちゃん落ち着いて。この子達がおめぐみもらおうってしたのは他ならぬあんたのためなんだから……事情も聞かずに頭ごなしに叱っちゃダメよ?」
「そうだぜ、ゲン。コイツらお前を心配してるんだ」
「ゲン。子供達に食べ物を分けて……お前自身はちゃんと食べているのか?」
アリサ様が子供達を擁護し、私とゼルワがそれに続いてゲンに問うてみれば、彼は途端言葉に詰まる。やはり分け与えるだけで自分はろくに食べていなかったのだろう。
「ゲン、貴方のその慈愛の精神は尊敬に値しますが、自分が倒れてしまっては逆に皆に心配と気苦労をかけてしまいますよ?」
「う、申し訳ない……忠告痛み入る……」
サーサの言葉に素直に頭を下げるゲン。見事な男だ……これほどまでに他者を思い、他者に思われる者も珍しいのではないだろうか?
「「おぉーい! 戻ったぞ~!」」
「「「子供達~ちゃんと良い子にしてたかしら~?」」」
「「あれ!? 『白銀』のアイギスとゼルワ、サーサじゃないか!?」」
「「本当だ! 久し振り~!」」
私達がゲンと子供達と二~三他愛ない会話をしていると、稼ぎに出ていたのだろう。スラム街の大人達もちらほらと帰って来た。彼等は人だかりの中心にいる私達に直ぐ様気付き、笑顔を見せて駆け寄ってくる。
「「あー! あのお姉さんじゃない~! うわぁ~間近で見ると本当に美人さんね!」」
「「「おぉ~見てたぜ! 凄い実力者だ! なんせあの『黒狼』を赤子扱いだもんな!」」」
やれやれ、なんだか凄い騒ぎになってきてしまった。アリサ様が映像通信で放送していた私達と『黒狼』、『聖域組』との試合を皆観戦したようで、アリサ様を確認するや否や、嬉しそうに集まってくる。
「さて、じゃあ折角みんな集まってるし美味しいご飯を振る舞いますかね! って、その前に……みんな綺麗になってもらうよ~! 汚れ落とし!!」
パアァァーッッ!!
アリサ様が集まったスラム街の皆に汚れ落としの魔法をかけると、一瞬眩い白い光が辺りを包み消えていく。
「「「うおおぉぉーっっ!! マジかアリサ様ぁぁっっ!?」」」
するとどうだ。薄汚れていたスラムの住人の衣服は勿論、肌や髪の汚れも綺麗さっぱり落ちているではないか! 以前サーサもかけてもらった事があったが、本当に見事な魔法だと思う。ゲンを始め、獣人達のくすんでいた毛並みも艶が戻りふさふさだ。
「おぉぉ……こんなにサッパリしたのはいつ以来だろうか! 感謝しますアリサ様!」
「「コワゴワしてた髪が……」」
「「すげぇ……川で洗っても落ちなかった服の汚れも綺麗になってる!」」
「「なんか臭いも消えた!」」
集まった皆は嬉しそうにはしゃぐ。うむ、長年の汚れが綺麗に落とされたのだ、嬉しさもひとしおだろうな。身綺麗になれば心もまたリフレッシュされるものだ。
「うんうん! みんな綺麗になったね。じゃあご飯作るか、アイギス、サーサ、ゼルワ~手伝ってね♪」
「「お任せ下さい!」」「うっし! やりますか!」
ニコニコと笑顔のアリサ様に応える。ふふっ、私もサーサもアリサ様の料理の手伝いを始めてだいぶ経つからな。新参のゼルワに色々教えねばなるまい。
「アリサお姉さま~!」「アリサ様~!」
「「アリサちゃ~ん!」」
「おぉ~アリサの嬢ちゃん、なにやってんだ~?」
おや、別行動していたアルティレーネ様達だ。騒ぎを聞いて駆け付けたのだろうか?
水菜「むむーっ!?Σ( ゜ε゜;)キュピーン」
大地「お?(・・? どうしたよげんちゃん……じゃねぇや、水菜( ゜ー゜)?」
朱美「なにかあったのげんちゃん? じゃなかった、水菜( ´ー`)?」
爽矢「長いこと呼んでいた故につい間違えてしまうな。それで、どうしたのだ、げんちゃん?」
水菜「もう! 爽矢は絶対わざとですよね( `Д´)/!?」
爽矢「ははは!(´▽`)流石にばれたか、すまんすまん!」
水菜「むぅ、なんだか誰かに呼ばれたような気がしたんですけど……(・・;)」
大地「誰かって……誰だよ('_'?)」
朱美「アリサ達が噂でもしてるんじゃないかしらね~(’-’*)♪ 街の冒険者達に『聖域』には水菜っていう胸の大きい娘がいるよ~! とかさ( *´艸`)」
水菜「うえぇっ!?Σ(*゜Д゜*)そんな紹介の仕方ヤダー(`・д・´)ノ」
大地「からかわれてるだけだってばよ水菜(;-ω-)ノ」
爽矢「まあ気のせいであろうよ(゜-゜)(。_。)」
♥️♥️ちょいとお知らせ♥️♥️
アリサ「みなさんいつも『TS魔女さんはだらけたい』を読んで下さってありがとうございますm(_ _)m」
アイギス「ありがとうございます! 皆様のおかげで本編四十話。そして……(о^∇^о)」
アリサ「なんと! この度ユニークアクセスが一万を越えました(ノ≧▽≦)ノ」
アイギス「これも一重に皆様の応援のおかげであります!(ノ゜Д゜)ノ」
アリサ「その事にたいし、この場を借りて感謝を!(*-ω-)」
アイギス「そして、些細ではありますが。記念の小話をご用意させて頂きました(*´▽`*)」
アリサ「その小話も近々投稿予定です。たいした内容じゃないけど、楽しんでくれると嬉しいな(^_^;)」
アイギス「それでは皆様……(´・∀・`)」
アリサ「これからも『TS魔女さんはだらけたい』をどうぞ(*´∇`*)」
アリサ、アイギス「「よろしくお願いしまーす゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜」」




