40話 魔女と模擬戦『白銀』
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【二戦目】~聖魔霊と『白銀』~
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ギィィンッッ!! ガガッ!
「炎嵐! 水圧爆散!」
ウオオオーッッ!!!
「させねぇぜ! 切り裂け疾風斬!」
「こっちは任せて! アイシクルアロー!」
始まった始まった。アイギス達『白銀』とアルティレーネとバルガス夫婦の模擬戦。
先ずは挨拶代わり。と、言わんばかりに剣を切り結んだアイギスとバルガス。それに続くようにネヴュラが火炎伴う炎嵐と、超高圧の水圧の水球を爆発させる水圧爆散をアイギス達左右に放つ、行動を阻害するのが目的だろう、あわよくばダメージも。ってとこかな?
だが、それを一刀、一矢で打ち払うのがゼルワとレイリーアだ。
「ぬうぅぅんっ!! その鎧ごと打ち砕いてくれよう! 覚悟せぃバルガス殿!」
「サポートなんてさせないわよネヴュラさん!」
ドガが戦斧でバルガスに斬りかかり、レイリーアがお返しとばかりにネヴュラへ矢を放つ!
「温いわ!」「そのような見え透いた矢など」
その大剣を振りかざし、斬りかかったドガもろともアイギスを吹き飛ばすバルガス。待機させていた魔力弾でレイリーアが放った矢と、肉薄していたゼルワを撃ち落とすネヴュラ。
「むぅっ!」「ぬおおっ!」
ズザザーッ! って土埃を上げて地滑りし衝撃を受け流すアイギスとドガ。ゼルワは空中で身を捻りネヴュラの魔力弾をかわし着地するも間合いが大きくずれたね。
「喰らえぃっ!」「魔力爆発!」
「土壁! 魔力障壁!」
間髪入れず放たれるバルガスの剣閃を咄嗟に土壁で反らし、ネヴュラが撃った魔力爆発を魔力障壁で防ぐのはサーサ。
ウオオオーッッ!!!
「すげぇぇーっ!!」「開始からすげぇぇーっ!!?」「『白銀』の奴等滅茶苦茶強くなってる!」
「サーサも無詠唱!? しかも当たり前のように連続魔法使いやがった!」
「凄すぎでしょ……いえ、それを難なく受け止めるあの二人もかなり……」
観戦してるギャラリーが大いに騒ぎ出す。うんうん、いい感じいい感じ。
アイギス達『白銀』は本当に強くなったからね、私も喜んでもらえて嬉しいよ。『聖域』に着たばかりの頃はそりゃあ危なっかしいみんなだったけど、今やバルガス達に迫るほどにその地力を上げている。
(それにしても……アルティが全く動かないね)
何を考えているのか、アルティレーネはバルガスとネヴュラの後方で今もニコニコと微笑んで成り行きを見守っている。この子が戦う姿を見たことないからなんとも予測できない。
ガギィィンッ!!
おっと、アイギスとドガがまたバルガスに踏み込んだ。中々の猛攻! レイリーアとサーサは連携してネヴュラを牽制してるね。アルティレーネが動かないうちに二人をなんとかしようって感じかな?
「しまった!」
「一閃!!」
絶好の間合い! レイリーアの放ついくつもの矢と、サーサが立て続けに撃ち続ける属性魔法弾にさらされていたネヴュラが見せた一瞬の隙。そこに隠密で近付いたゼルワの一閃が!
ビュンッ!
「えっ!?」「なっ!?」
はぁっ!? 何今の! 完全に捉えたゼルワの一撃って思ったけど何故かそれは空を切った。
「レイリーア!」
「任せて! 必中! ブレイジングアロー!!」
おっと! 狼狽えることなく見事に切り替えた。この辺りは流石歴戦の冒険者って思うよ。さっきの不可解な現象にも慌てず、ゼルワはレイリーアに指示。魔弓の魔力で必中の補正がかけられた矢がレイリーアの手で放たれる。
ドスッ! ドスッ! ドスッ!
バルガス、ネヴュラ、アルティレーネに向けられた必中の矢は何故か彼等三人の足元、会場の地面に突き刺さる。
「「な、なんだよありゃあ!? レイリーア姐さんの『ブレイジングアロー』っていやぁ百発百中の矢だぜ!? それが、なんで外れるんだ!?」」
「「さっきのゼルワさんの攻撃も……何か不自然な空振りに終わってたわね?」」
何が起きてるんだ……!? ザワザワと、会場が不気味などよめきに覆われる。
こんなことやらかすのは間違いなくアルティレーネだろう。ただニコニコ微笑んでるだけじゃないみたいだ。バルガスにネヴュラ、そして『白銀』のみんなもその答えに至ったようで、揃ってアルティレーネを見ている。
「うふふ、『必中』ですか……えぇ、確かに当たりましたね。『地面』と言う的に♪」
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【絶対命中】~因果関係の書き換え~
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「マスター。どうして魔神が世界樹を呪うことで女神様達を無力化したか、ご存知でっすぅ~?」
「え? 三人いっぺんに無力化出来てお得だったからじゃないの?」
観戦中、アリスがそんな事を聞いてきた。
少しおさらいすると、『世界樹』はこの世界の自浄作用を司る命の大樹だ。そして妹達がこの世界に顕現するため『神界』との門の役割がある。
魔神はその『世界樹』に呪いをかけ、『神界』との門を閉じさせることで妹達を無力化させた。
「勿論それも大きな理由でっす。でも~本当は『手に負えない』からなんでっすよぉ~?」
「手に負えないって……妹達が?」
「そうでっす! アルティレーネ様の権能『絶対命中』が厄介過ぎたから。って言うのが一番の理由だったのでっす!」
ドジャアァーンッッ!! ってどっかで聞いたことあるような擬音を背負ってアリスが変なポーズを決める。いや、あんたそれどこで覚えてきたのよ?
「うん? つまり……アルティはさっきゼルワとレイリーアの攻撃が、空中や地面に『命中』するように誘導したってこと?」
「でっす!」
バァァーンッッ!!
「そりゃもう!」
ジャアアァーンッッ!!
「なんて狡い!」
ドオォォーンッッ!!
「当てられやしませんよね!?」
ビシィィッッ!!
いや、だからなんでいちいち一言一言ポーズを変えて叫ぶのよ? 変な擬音までつけて……あんたの行動が意味わかんないわよ。
「面白いなコイツ! なぁアリサ!」
「アリスちゃん見てると飽きないわねぇ~♪」
セラちゃんや、確かに面白いかも知れないけど……え? 何、気に入ったのアリスのこと? って、ミュンルーカ! 一緒になって変なポーズ取らなくていいから!
「……とんでもない権能だ……どうすればいい?」
「いや、どうしようもあるまい……魔神が世界樹を呪うことで無力化させたのも納得だ」
「無敵じゃねぇか! 流石女神様ってことか!」
デュアードくんが戦慄して、バルドくんが対策を思い付けず首を振る。ブレイドくんは素直に称賛。はて、無敵ときたか……おそらくそうじゃない。
あの能力はそう範囲は広くない。せいぜいが自分の周りちょっとってところだろう。でなきゃセリアルティをむざむざ滅ぼさせたりしなかっただろうし。
そしてその正体は多分『因果関係の書き換え』だと思う。
『矢が』『当たる』『私に』これを、『矢が』『当たる』『地面に』と。『私に』の部分を『地面に』と書き換えることで成している。
「シェリー、ミストちゃん。私の手に触れてみそ」
「え?」
「? わかりましたアリサ様」
試し。シェリーとミストちゃんに私の手に触れてもらう。
「これでいいんでしょうか?」「アリサ様、これは?」
「うん、ありがと。じゃあ一端離して、もう一回やってみそ?」
ここでイメージ。二人の『手が』『触れる』『私の腕に』……『空中に』って一瞬考えたけど初めてなのでわかりやすく『腕に』って書き換えてみた。
ピト
「あ、あれ!?」「えっ! どうして!?」
うん。見事に成功! シェリーとミストちゃんの手は私の両腕にそっと触れている。
「んなぁっ!!? まま、マスタァ~それ……それって!?」
「まぁ、こういうことだろうね。でもやっぱり難しいわ……書き換える対称をしっかり把握しておかないと成功しないね」
『空中』とか『地面』にとか結構曖昧な対称を指定すると失敗するってのが感覚でわかった。それを難なくこなすアルティレーネはやっぱりすごいね。
「いやいやいや、アリサ様。因果関係の書き換えなんてそれこそ神の御業ですよ!?」
「でっすよぉ!? 何さらっと再現しちゃってるんでっすかぁ~!?」
え? そうなの? カインとアリスが心底驚いたように私に詰めよってくる。いや、だってイメージできるし、と言うか……
「以前に……ほら、ユナイトとカイン、エスペル達と初めて会った時、ユナイト対私でなんか話をしたじゃない?」
「え、あぁ~はい。ありましたね。シドウ様が呪いを受けていたって発覚したとき」
そうそう、その時ユナイトが私の神の護り手を破る手立てがないって言ってた時のことだ。まぁ、正確にはもうちょっと以前からイメージはあったんだけど。
「そ、神の護り手に代わるもうひとつの護りとして、この因果関係の書き換えも考えてたんだよね。だけど難しそうだったから見送って別のを……」
「ややや、待って待ってくだぁさいよマスター! 別のって! まだあるんでっす?」
うん? 勿論ありますとも。なんてたって私は臆病者ですからねぇ~身を守る術は多く身に付けておきたいんだよ。
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【女神強い】~バトン隊は憧れた~
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「うふふ、ご安心下さい。これを使ってしまうと一方的になってしまいますからね。ちょっと御披露目をするに留めておきますよ」
そういって『因果関係の書き換え』を解除したアルティレーネが微笑む。
「街の皆さんに私の力の一端をお見せして、認めて頂かなくてはいけませんからね。バルガスさん、ネヴュラさん。下がっていてくださいね?」
「「畏まりました!」」
バルガスとネヴュラを後方に待機させて、アルティレーネが前に出る。その手にはいつの間にか『神槍ティレーネ』が握られており、それをまるで音楽隊のバトンの如くヒュンヒュン振り回してビシィッ! って構える!
「うおおぉ……何今のかっけぇぇ~♪ 今度真似しようっと!」
「……お、俺も……真似する! 滅茶苦茶カッコいい……っ!!」
アルティレーネの、まるで踊るような動きに見惚れる私とデュアードくん。私は槍は使わないから杖にしたアリアで練習しよう。
「ちょっとデュアード危ないわよ! 隅っこでやんなさい」
「デュアードくんこれ使うかね?」「……か、感謝」
さっそくとばかりに真似る私達、でもデュアードくんは自前の槍で練習しようとするもんだから危なっかしい。シェリーに注意されているので、良さげな重さと長さの木の棒を具現させて渡してあげる。私はアリアを杖にして練習だ。
「『黒狼』とあの姉ちゃん達、会場の隅でなにやってんだ?」
「ありゃあデュアードだな、今のお姫様の槍捌き見て真似してんだろうぜ」
「あはは♪ デュアードさんてば可愛いわねぇ~♪」
「でも……あのお姫様が戦うの? あの『白銀』と……大丈夫かな?」
「お前あの構え見てなにも感じねぇのかよ……そんなんじゃいつまでたってもEランクから上がれねぇぞ?」
ざわざわと、観客も戸惑いながら見守っている。ドレス着たお姫様がでっかい槍を振り回して、「さーこーいっ!」ってしてる姿を目にすれば無理もないね。
「よし、んじゃ行きますか。探り入れんのは斥候の務めってなぁっ!!」
ヒュンヒュンヒュンッッ!!
ゼルワが仕掛けた。隠し持っていた数本のナイフをアルティレーネめがけて投げ放つ!
カッカカカッッ!!
飛んでくるナイフの先端に槍の先端を綺麗に合わせ、ナイフを粉砕してのけるアルティレーネ。とんでもない動体視力、そして凄まじい速度の突き。速すぎて人によっては腕と槍が増えたように見えたかもしれないね。
「探ると言うお話でしたけれど……この程度で何かわかったのですかゼルワさん?」
「……えぇ~えぇ、よぉっくわかりましたよ!」
「ゼルワじゃなくてもわかったな……サーサ!!」
一瞬呆気にとられた『白銀』の面々。しかしそこは持ち前の切り替えの早さを見せる。アルティレーネが女神だって知ってる分、自分達との力量差が大きいのは理解していたんだろう。
「了解です! 速度上昇! 防御力上昇! 攻撃力上昇!」
「いくぞドガ!! 彼女の守りを突破する!」
「応よ!」
「手数なら負けるかよっ!」
それを皮切りに『白銀』の前衛陣がアルティレーネに突撃する。対するアルティレーネは笑みを崩さず迎え撃つ構え。
アイギスの剣を打ち払い、ドガの戦斧を受け流し、ゼルワの両手に持ったダガーの連続攻撃を踊るように避けている。
「皆さん大分お強くなられましたね。ですが……」
ゴッ! ガッ! バシッ!
「ぐっ!」「ぬおぉっ!?」「うげっ!」
アイギス、ドガ、ゼルワをそれぞれ槍の刃の腹で叩き、吹っ飛ばす!
「チャージショット!!」「影の束縛!」
そこにサーサの魔法影の束縛が仕掛けられ、レイリーアの渾身の一射が放たれる。動きを封じて、避けられないようにって戦法だね。
「アーグラスさん達には遠く及びませんね……」
アルティレーネはサーサの魔法を意に介さず、レイリーアの放った矢を切り裂く。相手の動きを止めて強力な一撃を叩き込むってのは間違いじゃないけど、如何せん相手が悪すぎる。特にサーサは相性が悪い、生半可な魔法じゃ女神のアルティレーネには何一つ効果がないんだよ。
女神にも届かせる魔法ならそれこそ『神気』まで高めて放たないとね。
「わ、わかっていましたけど……全く眼中に入らないなんて……」
「アルティレーネ様ってこんなに強かったのね……」
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【頑張る『白銀』】~『神気』に至らず~
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「サーサ! 限界まで魔力を練り上げろ! 『神気』まで昇華させて魔法を撃つんだ!」
「うぇっ! ちょっとアイギス正気ですか!? そんな暇あると思いますか!? それに『神気』だなんてまだ一度も!」
『神』と分類される種族。『亜神』の私を含めた、所謂『超越存在』に対して、人間や、エルフ、ドワーフ、獣人、ハーフリング等と言った亜人の用いる武器、道具、魔法は一切通用しない。
では、どうすればいいのか? 『神』に対して有効な攻撃手段は主に二つだ。
一つは先に述べた『神気』を伴う攻撃。魔法は勿論、それを纏わせた武器による攻撃なら普通に通るようになる。
二つ目は『勇者』による攻撃。これは妹の主神ティリアが、召喚した勇者アーグラスに魔神に対抗させるため与えたオンリーワン。だけど、アーグラスの転生体であるアイギスになら可能性はあるかもしれない。
(前者は剣聖メルドレード。後者は勇者アーグラス……魔神がメルドレードを排除しようとした意味がここにあるんだよね……)
「あら、いいですね♪ ではその間私をサーサさんに近付けないように頑張って見てくださいね?」
そう言うとアルティレーネはわざとサーサから距離を大きく取って、さぁスタートですよとアイギス達に声をかけた。
「急げサーサ! アルティレーネ様を止めることは不可能だが、私達にも意地がある!」
「じゃなぁ……ヌシも気張らんか! この性悪エルフ!」
「ムッカ!! 言いましたねこの飲んだくれドワーフ! いいでしょうやってやりますよ!」
「ははっ! その意気だぜサーサ!」
いやいや、ドワーフとエルフの発破の掛け合いって面白いなぁ~、ティターニアの所から『聖域』に来たエルフとドワーフも何かにつけてぎゃいぎゃい騒いでたっけ。ダークエルフのレイリーアはそんなでもないんだけどね。
アイギスに急かされ、ドガに発破かけられ、ゼルワに応援されたサーサは集中して魔力を高め始めた。ゆっくり近付いてくるアルティレーネにアイギスが剣を振り、防がれては一歩後退。そこを埋めるようにドガが切り込むも、巧みな槍捌きの前に弾かれる。レイリーアの援護射撃も切り払われて、ゼルワが手数で攻めてもアルティレーネの残像を伴う槍に全て阻まれる。
「うぬぬぬぬ~!!」
サーサは頑張って魔力を高め、その質を上げ続けている。しかし、経験者から言わせてもらうと絶対的にサーサの持つ魔力総量が足りていないように思えるんだよね。魔力総量ってのはわかりやすく言えば最大MPだ。
「発想は良かったのですが、未だ足りていないようですね……うふふ、残念でした♪ もっと精進しましょうね?」
ドンドンドーンッッ!!
大きな音をたててアイギス、ドガ、ゼルワの三人がそれぞれ会場の壁まで吹き飛ばされた。
「「つ、強いぃぃーっっ!!」」
「「すげぇ! 何者だよあのお姫様!?」」
これまでかな? 吹き飛ばされた三人は結構なダメージを負ったようで、中々直ぐに立ち上がれないみたい。
「サーサ! 限界よ! 撃って!」
「はい! 私もこれ以上ムリーっ! 熱線爆裂!!」
フィィィィーンッッ! ズドォアァァーッッ!!!
サーサが放つ熱線がアルティレーネに収束し、爆裂する!
「うおおぉ!!?」
「とんでもない威力じゃない!」
「きゃああぁ! サーサさんやり過ぎ!!」
轟音と爆風が会場を包み、ギャラリーから悲鳴じみた声があがっている。あ、因みに、会場には予め私がバリア張っておいたので多少の事ではお客様に被害は出ませんのでご安心下さいませ~♪
「はい。お疲れ様でした。これでしたら魔神の残滓が相手でも遅れはとらないでしょう。このまま精進を重ねましょうね?」
「あうう……ま、参りました……」
「嘘でしょう? あのお姫様傷どころか埃すらついてないわよ!?」
うおおぉぉーっっ!
爆発の余韻残す土煙の中から全く汚れてもいないアルティレーネがサーサに近付き、ポンっと彼女の頭に手を乗せた。チェックメイトだね。
「お見事でした。アルティレーネ様」
「感服致しましたぞ」
成り行きを見守っていたネヴュラとバルガスがアルティレーネの側に寄り、声をかけている。見ればアイギス達も起き上がりヨタヨタと合流してきたね。どれ、治療してあげよう。
「みんなお疲れ様、はい治癒魔法~♪」
「ありがとうございますアリサ様」
「た、助かりましたわい……」
「アザっす! おぉ、イテテ……」
アイギス、ドガ、ゼルワにまとめて治癒魔法をかけて回復してあげる。すると何故か……
「えぇ~!? あの三角帽子の女の子治癒魔法まで使えるの!?」
「なんてこと! 『魔女』ってそんなにすごいの!?」
何でか観客のみんなに驚かれた。え? なんで?
「ああ、アリサ様~! かかっ回復魔法も修めていらっしゃるのですか!? あぁ! もうもう、どれだけ凄いんですか!」
「しかも範囲回復……ワタシ立つ瀬がないですよ~!?」
おぉ、今まで静観してた『黒狼』のみんなも寄ってきた! シェリーが興奮して詰め寄り、ミュンルーカがおよよって戸惑いつつ叫んでる。
どうも聞く限り治癒魔法って言うのは僧侶の専売特許みたいな認識らしく、稀なのだと言う。更に数人をまとめて癒す範囲回復ともなれば、それこそ高位の神官レベルでも難しいって話だ。ファンタジー薫るこの世界ならメジャーだと思ってたけど、なるほどねぇ。
それにしても、だ……いやはや、強かったねアルティレーネ……あんなに普段ポヤポヤおっとりしてるのに。終わって見ればアルティレーネは汗すらかいてもいなかった。
観客達はアルティレーネの強さに驚き、健闘した『白銀』も、バルガス夫婦と一緒に大歓声で讃えられた。
最後にギルドマスターのゼオンから改めて私達が紹介されて、その場で『聖域組』みんなで「よろしくお願いします」ってしておいた。
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【お披露目済んで】~さぁ、買い物よ!~
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「初めまして『聖域』の皆さん。僕はラグナース。このセリアベールでしがない商人をしています。レイリーアを、『白銀』のみんなを助けて下さり、感謝の念に堪えません!」
「あたしゃファム。うちの宿六が随分と世話になったそうだね? ありがとうよ……」
「俺はギドって者だ……アイギス達『白銀』を助けてくれてありがとうな……特にアイギスにゃきっちりと盾の代金払ってもらわにゃならんからなぁ」
私達『聖域組』のお披露目? が無事に済んで、観客達も普段の生活に戻っていき、ようやっと落ち着いてきたところ。場所は『白銀』の家。
レイリーアから噂のダーリンさんこと、商人ラグナースさんを。ドガから奥さんの、ファムさんと親友のギドさんを紹介してもらっているアリサさん一行です。
まずはラグナースさん。以前アイギスから聞いた「自分達の為に、借金してまで高価な魔装具を用意した」っていう、いいひとさんだ。百八十センチはあろう高身長にスクエアメガネの似合うイケメン。ストレートの茶髪は長く、肩にまでかかっている。服装はシンプルで黒いワイシャツとズボンに白いエプロンとシューズといったいでたち。
「うふふ♥️ ど~ぅアリサ様、アタシのダーリンは? アイギスにはない大人の魅力があると思わない?」
「え? そう~だねぇ……アイギスと違って知的なイケメンっては思うよ?」
歳は二十三と、アイギスよりも三つ年上なのだそうな。落ち着いてるってところは共通してるけど、ラグナースさんはメガネの似合うイケメンって感じ。
「彼等が『魔の大地』へ向かうと聞いたときはそれはもう、気が気じゃなかったのですが……本当に良かった。微力ではありますが僕に出来ることがあれば何でもご相談ください!」
うーん! 紳士だねぇ~♪ 商人の彼には何かとお世話になるだろうからこちらとしても有り難い限りだ。
次はドガの奥さんことファムさんだ。ぱっと見コルンムーメ達をまんまドワーフサイズに小さくした感じ。ふわふわした巻き髪は肩くらいまで伸びた白髪。三角巾をかぶりエプロンを身に付けたその姿は可愛いおばさまだね。
「南の通りで芋を使った料理を出してる小さな飯屋をやっててねぇ、よかったら食べに来ておくれよ! 宿六が世話になったお礼にたんとご馳走するよ!」
「カッカッカ! ファムよむしろヌシがアリサ様から料理を教わるとええぞ!」
「へぇ~飲食店やってるのね? うんうん、お邪魔させてもらうね!」
今までアイギス達の話を聞く以上、この世界の料理は、そんなに期待はできないだろうけどみんなが食べてきたものだ。一度味わうのもいいだろう。
「おや、アリサ様は料理ができるのかい?」
「出来るなんてもんじゃねぇぜファムさんよ!」
「アリサ様のお料理はどれもこれも美味しいです! 美味しすぎるんです!」
「おぉ、あのクッキーとか言う菓子。最高だったな!」
ファムさんの問いに食い入るように答えたのがゼルワとサーサ。そしてうんうんと味を思い出したように頷くのが……
「えっと……どうしてこのオッサンが着いてきてるんでっすかねぇ~? あんまりアリスちゃんのマスターをストーカーするならぶっころがしまっすけどぉぉ~?」
ゼオンだ。当たり前のように私達に着いてきて会話に交じっているけど、アリスに睨まれてちょっとビビってるね。
「ユグライア、お仕事はどうされたのです? いけませんよ、務めはしっかり果たしませんと?」
「問題ありませんぜアルティレーネ様。エミルと正々堂々じゃんけんでもぎ取った勝利でさぁ!」
この世界にもじゃんけんってあるのか……どうやらサブマスのエミルくんとじゃんけん勝負して勝った方が私達に同行するって事らしい。んで、ゼオンが勝利したと。……良いのかそんなんで?
「なら良いのですが……アリサお姉さま、エミルさんに後で差し入れに何かご用意してあげたいですが……何かないでしょうか?」
「ん、そだね……ファムさんも私の料理が気になるみたいだし、ゼルワに簡単男飯教えてあげる約束だし……ギドさんはお酒飲みたいわよね?」
優しいねぇアルティレーネは、今頃一生懸命お仕事してるであろうエミルくんを気遣ってあげるとは、こういったとこが外交に向いてるのかな?
それはそうと、丁度料理の話をしていたし。王城跡地でゼルワに約束した簡単男飯のレシピも含めて、一丁やりますかね、ギドさんの話も聞きたいしお酒に合うおつまみなんかも作ろう。
「かぁっ! わかってるじゃねぇか! 実は楽しみにしててなぁ~ドガの野郎が散々自慢しやがってよぉ!」
「……え? ギド、お前それで機嫌悪そうだったのか? 何かいつにも増してムスっとしているなと思ったら……」
アイギスがちょっと驚いてギドさんに確認してる。私はてっきり頑固な職人さんって大抵眉間に皺寄せてムッとした表情してるよねぇ~なんて思ってたけど。
ギドさんはその印象通り、太い眉にバルガス並の厳つい顔立ちをしていて、揉み上げから下に台形を描くように切り揃えた白い髭。頭にバンダナを巻いて、前掛けかな? を着て厚手のブーツを履いているドワーフのおじいちゃん。
「バルド達『黒狼』も今暫くすれば合流するのだろう?」
「共闘するにあたって、私達に街の案内をしてくださるなんて……有り難いですわね」
そう、バルガスが言った通りこの後『黒狼』の面子も合流してくる予定なのだ。ただ、そうなると人数が凄い事になるので何組かに別れて行動することになった。
ネヴュラが言ったように、氾濫発生時における街の防衛班、バルガス、ネヴュラ、アリスは『黒狼』と一緒に街を巡り。アルティレーネとカインは、リールにフォーネ、ついでにゼオンに街を案内してもらい観光を楽しむ。私とアイギスにサーサとゼルワはダブルデートしつつ、色々買い物する。レイリーアにラグナースさん、ドガ夫婦にギドさんは『白銀』の家でお留守番だ。
「うぅ……マスターと別行動だなんて……アリスちゃんかなすぃぃでっす!」
「まぁ、仕方ないじゃない? 私だってユニとミーナと離れてさびしいんだから我慢してよ?」
アリスがわざとらしくヨヨヨってウソ泣きしては私によってくる、まったく、しょうのない子だねぇ……はいはい、なでなで。
「ふふ、『白銀』の家にお邪魔させてもらった上にアルティレーネ様と街をまわれるなんて、テンションあがっちゃうねフォーネ!」
「そうね、リール! まぁ、ちょっと場違いな人もいるんですけどねぇ~」
「おいぃ~? 場違いなって、俺の事かよぉ~?」
あははって笑い合うリールとフォーネが楽しそうで何より。ゼオンは、知らん。
「カイン、貴方は一応護衛だからね? 大丈夫だと思うけど気をつけてね」
「はい! お任せ下さいアリサ様、しっかりお守りします!」
うん、頼もしいね! アルティレーネとカインが一緒ならリールとフォーネにゼオンと三国家の子孫達も安心だろう。ふふふ、いよいよ街に出てお買い物だ、楽しみだね!
♥️♥️ポーズに厳しいアリサさん♥️♥️
アリサ「あら、ちょいとアリス( -_・)?そのポーズ違うわ(。・`з・)ノ」
アリス「えっ? あはは(゜∀゜;)テキトーんに思い付いたポーズでっすのんで~違うと言われましても(;´゜д゜)ゞ」
アリサ「まず顔に近付ける手は中指を鼻筋に沿うように!ヽ(゜Д゜)ノもう片方の手は甲を前に向けて腰の下! ちょいと首を下げて覗きこむように、そして腰をクイッ!!ε=(ノ゜Д゜)ノ」
アリス「は、はいぃ~!ヽ(ill゜д゜)ノこ、こうでっしゃろか~?ヽ(´Д`;≡;´Д`)丿」
アリサ「まだよ!(`□´)腰をクイッ! ってしたときに足首をこうピーンッ! はい、やってみそ!(*`ω´*)」
アリス「は、はい! こうでっすよね!ヾ(・ω・ヾ)アリスちゃんってば完璧でっす!(^o^)v」
アリサ「うんうん! いいわね。中々様になってるわよアリス!(*´∇`*)」
ミュンルーカ「な、なんて厳しいチェック……ワタシも指導してもらわなきゃ!(゜A゜;)アリサ様~!」
セラ「……なんでポーズ一つであんなに拘るんだよ?(・_・;?」
♥️♥️クルクルポーンゴッ♥️♥️
デュアード「……だいぶ、馴れてきた……っ!(゜ー゜*)」
ヒュンヒュンヒュンビシッ!!
アリサ「おぉ~( ´゜д゜)やるじゃんデュアードくん! この短時間でクルクルが上達してる(*´▽`*)」
デュアード「(*´ω`)……あ、アリサ様は……(´・ω・`)?」
アリサ「お、見る? ふふふ、アリサさんも結構上手く振り回せるようになったのだよ(ノ≧∀≦)ノそ~れ♪」
ヒュンヒュン。ヒュンヒュンヒュン!
デュアード「おぉぉ……(;゜д゜)す、凄い!」
アリサ「まだまだ~ここから~こうやって!ヽ(*´▽)ノ♪」
クルクルクル~! ポーンッ!
デュアード「Σ(*゜Д゜*)真上に……放り……投げたっ!?」
アリサ「それを~キャーッチ!ρ( ^o^)b_♪♪してもう一度、ポーンって真上に投げあっ!(ノ゜ー゜)ノ」
クルクル~ゴッ!!
ゼルワ「痛ぇっ!Σ(>Д<) ちょっ!Σ(´Д`;)アリサ様何すんですか!?(#゜Д゜)ノ」
アリサ「ご、ごめ~んm(。≧Д≦。)m」
デュアード「お、惜しかった……あれが、成功……してたら……格好良かった……だろうにヽ(;´ω`)ノ」




