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TS魔女さんはだらけたい  作者: 相原涼示
4/211

4話 魔女と穏やかな時間

────────────────────────────

【うれしはずかし】~初めての~

────────────────────────────


「ねぇ、名前決めない?」


 世界樹(ユグドラシル)にかけられた魔神の呪いをぶっ飛ばした私達は、世界樹の(コア)である女の子を連れて屋敷に戻っていた。

 女の子はスヤスヤとベットで眠っている、とても安らいだ寝顔だ。

 ふふ、可愛い♪ 隣で丸くなって一緒に寝てるミーナも可愛い♪


「名前……ですか? えっと何のでしょうか?」


 アルティレーネが不思議そうに私に聞いてくる。

 呪いが消えた事で顕現出来た女神達。

 この女の子が目覚め次第、『聖域』を再生させるのだそうだ。


「この女の子と、杖箒」


 右手で女の子を示し、左手に杖箒……今はどちらでもない棒状態、を持って言う。


「ん、この子は世界樹」

「杖箒はわかるけど、世界樹の名前? 世界樹は世界樹じゃん?」


 いやいや、そうじゃないのよ。


「レウィリリーネ、フォレアルーネ、『世界樹』ってのは謂わば種族名みたいなものじゃない? 人間を「人間ちゃん」っては呼ばないでしょ?」


 なにより呼びづらいわ。


「この子は確かに世界樹だけど、こうして自我を持って身体を手に入れた。そんな奇跡を祝福してあげる意味でも名前をつけてあげたいんだ」


 今まで頑張ってきたご褒美、と言うにはお粗末かもしれないけど。


「ん、アリサは優しい♪」


 レウィリリーネが嬉しそうにピョコピョコと身体を左右に揺らす、前にも見たなこれ。


「そう言うレウィリリーネは可愛いねぇ~♪」


 撫で撫で。

 思わず彼女の頭を撫でる。背丈的にいい位置に来るんだよね。

 むふーっといった表情のレウィリリーネも満更ではなさそう。


「そっかそっかぁ! うん、良いじゃんそれ! うちは賛成!」


 フォレアルーネがうんうんと頷きサムズアップ。


「ふふ、そう言うことでしたら私も喜んで賛成しますね」

「ありがと、じゃあ明日までにみんなで考えて、この女の子が気に入ったのにしよう」

「「「はーい」」」


 3人揃って元気にお返事、本当に仲良いよねあんた達は。


「アルティ姉、レウィリ姉、アリサっちにつける予定だった名前の候補使えない?」

「いいわね、あの子に合いそうな名前もあるかもしれないわ」

「ん、沢山考えてたからきっとある」


 あー、そういえばそんなこと言ってたね。有効活用してあげて。

 私も頑張るよ、なんて言ってもあの子は……


「この世界で初めての友達だもん、いい名前考えてあげようっと!」

「「「え?」」」


 どんな名前が良いかな~?

 お風呂に浸かってじっくり考えようかなぁ~ふんふんふ~ん♪

 『聖域』の再生がまだなので、貯水槽に送られてくる河川からの水はまだまだ汚いままなんだけど、浄化すれば普通の水よりも清浄な……というか、私がやると神々の雫(ソーマ)になるのでとっても綺麗な水の確保が可能になった。

 アルティレーネが言うには、魔神の呪いが解呪されたので世界樹の自浄作用も徐々に回復するだろうとのことだ。

 『聖域』もその自浄作用で再生させれば良いのではないかと思ったが、うん百年とかかってしまうみたい。『聖域』を再生させればその自浄作用の効果を高め、更に世界各地の魔神と勇者達との戦いで残された『爪痕』を癒すために回せるという。

 ついでに、創世神といえどもその世界に干渉しすぎてはいけないのだそうだ。


「アイヤ待たれよアリサっち!!」


 お風呂を用意しようと席を立った私をフォレアルーネが変な口調で呼び止める。なによそのキャラ?


「今聞き捨てならないセリフが聞こえた!」

「えぇ! 見過ごせません!」


 えぇ~!? レウィリリーネとアルティレーネまで何故か私の前に立ち塞がる。


「な、なんぞ!? どうしたのみんなして? 私何か変な事言った?」

「言いました!!」「「言った!!」」


 なんなのよ、もう~?


「むぅっ! アリサ、初めての友達とはどういう訳か!?」

「そうです! 何故私達を差し置いて世界樹が!?」

「そうだそうだーっ!! アリサっち! うちらは断固コーギする!」


 この女神達……やっぱり姉妹だねぇ~息ぴったりじゃん。

 って、そっか、そう言う事か。


「むあっ!? 待ってよ! みんなは神様じゃんよ!?」

「それがなんだぁーっ!!」


 フォレアルーネがもぅ、「ガーッ!」って感じで両腕を上に振り上げ吠える。この子はリアクションがオーバーなんだよねぇ。


「神とは友達になれないとか、差別! 神差別反対!」


 いや、レウィリリーネ……『神差別』とか何よ? 謎ワード作んな。

 怒ってるんだろうけど、何か可愛く見えるからズルいなこの子。


「私はアリサさんを友人と思っていますよ? いけませんでしょうか?」


 アルティレーネが泣きそうな顔をして問いかけてくる。

 ぐぅぅっ! この子の性格からして狙ってやってる訳じゃないんだろうけど、いちいち刺さる仕草するんだから!


「や、私が勝手に遠慮してただけで、みんなが良いなら……」


 うぐっ……その、改めて言葉にしようとすると、その……


「と、ととっ……友、逹……に、なろぅ?」


 くあーっ!!?

 恥ずかしい! 伊達に前世をソロで貫いた訳じゃないんだぞぅ!?

 羞恥に耐えられず顔を手で覆ってうずくまる。


「「「勿論!!」」」


 ふあぁぁーっ!!?


「うっへっへ~! やったぜ! これからもよろ~♪」

「むふー♪ アリサは心の友、心友♪」

「ふふふ♪ 末永くよろしくお願いしますね、アリサさん!」


 羞恥に悶える私、嬉しそうな3人。

 つられるように私も嬉しくなってきて。


「お、お風呂入ってくる~っ!!」


 気恥ずかしさに負けてお風呂に逃げた!

 あぁぁ~っ! 頬がニヤけるのがわかる!

 嬉しいけど、恥ずかしいよぉぉっ!!


「ありゃりゃ、アリサっち逃げちゃった! ふひゃ♪ かっわいぃ!」

「ん♪ 嬉しそうだった! あたしも嬉しい♪」

「これから楽しくなりそうですね!」


────────────────────────────

【だらだらタイム】~魔女さん脱がされる~

────────────────────────────


 この屋敷のお風呂場を見たときはその広さに驚いたものだ、まぁ、その荒れ果てた姿にも驚いたけど。

 その広いお風呂をよいせよいせって頑張って綺麗に直してようやく使えるようになったのだ。

 神々の雫(ソーマ)に浄化した水を火魔法で温めた、女神達が卒倒しそうなほど贅沢なお湯を文字通り湯水として使う。

 石鹸、シャンプー、リンス、コンディショナーとイメージしてちゃんと出せたのには安心した。

 何せあのヘドロ沼に落ちたのだ、もうこれでもか! というくらいに隅々まで全身を洗わないと気がすまないからね。


「やっぱり馴れないよなぁ、この胸」


 正直に言うと邪魔だ……重いし、下見えないし、洗うのも苦労するし。

 女神達の謹製だけあって、他人から見たらそりゃ『スタイルのいい美少女』なんだろうけどね。

 実際にその美少女になってみると苦労が多いよ、お手入れ大変。

 だから、というわけじゃないけど世の女性達を尊敬する。

 泡でモコモコになった身体をザァーって洗い流して、さぁ、湯船に浸かろう。


「ふわぁ~めっちゃ気持ちいいぃぃ~♪」


 足伸ばせるお風呂最高だわぁぁ~!

 前世で足伸ばせる……いや、横になれるほどのお風呂なんて銭湯くらいなものだった。

 人嫌いの私がそんな場所に行く筈もなく、ここまで開放的に寛げるお風呂は初かもしれない。


「楽ぅ~……浮くから肩軽~い♪」


 そう、浮くのだ……この双丘が。まぁ、脂肪だしね。

 それがまさかこんなにも楽だとは知らんかったわぁ~。


「友達……名前……ふふ、嬉しいね。贅沢な悩みだわぁ♪」


 考えると楽しくなるし、ワクワクする。

 我ながら子供っぽいって思うけど、構うものか。

 誰に憚る事もあるまい。


「楽しんだ者の勝ちってね!」


 脱衣場で火と風魔法を合わせた、温風魔法(ドライヤー)で髪を乾かしているときに気付いた。


「私の体じゃないかもって理由で気を遣って女性物の下着着けてたけど……自分の体ならラフな格好でいいか」


 女神達に私につける予定だった名前候補でも聞いてみよう。

 ボクサーパンツにティーシャツ、ラフな格好っていいわぁ♪


「なんて格好してるんですかアリサさん!!」


 怒られました。

 一番大人しそうなアルティレーネに……超ビビる!


「あばば……だだだって、楽なんだもん」

「楽だから、じゃあ、ありませんっ!! いついかなる時も女性としての慎みを持ちなさい!!」


 あわわっ! めっちゃ怒ってる!


「ごごご、ごめん! 元男って事で今回は許してよ!」

「……世界樹の女の子に影響が出たらどうするつもりなんです?」


 うぐぅっ!! そうだった!!

 あの子は私を「おねぇちゃん」と呼んだ。こんな格好の「おねぇちゃん」を見たら……うおぉぉ!!


「アルティ姉さんの勝ち」

「まぁ、あの子のためって思って諦めなよアリサっち」

「……はぃ」


 と、言う訳でお着替えタイムです、トホホ。


「白以外もよくなーい?」

「アリサは清楚系、そこは絶対」

「でもピンクも良いかもしれません!」

「……」


 ……只今女神達の下着審査の真っ最中。

 私は何故かその間パンツを脱がされティーシャツ1枚で椅子に座らされている。

 これがかの有名な『彼シャツ』ですか?

 んな訳あるかーいっ! フザケンナコンチクショー!


「あ、これなんて良いんじゃないかしら!?」

「ん、流石アルティ姉さん。素晴らしいセンス」

「え~もうちょっと攻めようよ?」


 パンツを脱がされて、シャツ1枚、ノーパンで椅子に座らされている魔女は誰でしょう?

 そう、私ですぅ~シクシク。こんなパロディやりたくなかったわ!

 待て、フォレアルーネ! その透け透けのは着ないぞ!


「せめて待ってる間はパンツ穿いててもいいでしょう?」

「駄目です、反省の意味もこめてそこで恥をさらしていて下さい」


 うわぁーんっ!! 無茶苦茶だよもう~!

 はぁ~せめて早く決めとくれ~。

 あーでもない、こーでもないと、やー盛り上がる盛り上がる。

 待たされること小一時間、漸く私は下着を身につけた。この時にブラジャーの付け方を改めてレクチャーされたのは言うまでもない。

 脇のも寄せるとか知らないってば。

 白強めの薄い水色で、細かく刺繍が施された上下一式。


「素晴らしいです、アリサさん!」

「はぁ、随分豪華だこと……買ったら高そう」

「むぅっ! 感想が情緒ない」


 んなこと言われても知らんがな。


「まぁまぁ~うちらが満足だからオッケーじゃん♪」

「ふふ、じゃあ次は寝間着ですね☆ やっぱりネグリジェがいいでしょう!」

「パジャマでお願いします!」

「だったらコレ!」


 そう言ってレウィリリーネが取り出したのは、なんと猫の着ぐるみ。しかもよく見ればミーナを模した物だ。

 か、可愛い! 着てみようかな。


「くふ~ぅ、猫好きのアリサは絶対着るべき」

「因みに普通のパジャマ……猫柄もあるけど?」


 レウィリリーネが着ぐるみを、フォレアルーネが猫柄パジャマをそれぞれ見せてくる。うおおぉ、どっちも捨てがたい!


「両方差し上げますから、気分でどうぞ♪」

「マジで!? わはーい! ありがとー!!」


 着ぐるみは魅力的だけどちょいと動きづらそうなので、フォレアルーネからパジャマを受け取り着てみる。

 うん、いいね!

 さぁ、お風呂も済んで着替えも済んで、と、ここで思う。


────────────────────────────

【スイーツ食べたい】~チョコレートケーキ~

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「いい加減お腹空いて……ない、ね?」


 んん!? ちょいと待って、もう夜中。2日間何も口にしてないんだけど何でお腹空かないの?


「ねぇ、みんなはお腹空かないの?」


 女神達も同じように何も食べてなかった筈だ。


「え? 空かないよ、なんで~って、あーっ! そっかそっかぁ!」


 フォレアルーネがさも当然、とした顔をしたと思ったら、何かに気付いたように納得してる。

 えっ、なんかあるの?


「言い忘れてた……あたし達神と、アリサにミーナ、世界樹は食事を一切必要としない」


 ふぁっ!? レウィリリーネがとんでもない事実をさらっと言ったーっ!!


「魔力が全てですからね、魔力さえあればどんなに飲まず食わずでも活動できるんですよ」


 アルティレーネ、あんたもか!?

 え~っ!? なんぞそれ!!?

 食べなくても平気って凄い! すごいけど……あ、待って。


「確認したいんだけど、別に食べても大丈夫なんだよね?」


 まさか、食事をしてはいけませんって訳じゃないだろうけど、ちゃんと確認しておきたい。


「だいじょぶだよん。あー、ただ……」


 ただ? なんだろ?


「摂取した物は全て何らかのエネルギーになる」

「まぁ、大抵は魔力になりますけどね」


 え、つまりそれって……


「あーえっと、トイレの必要がない、と?」


 って事だよね? マジか、私達はアイドルグループか!?

 あれ? でも屋敷にちゃんとトイレあったよね……って、お客さん用か。


「だよーん! 毒だろうと劇薬だろうとなんでもオッケー☆ 因みに、その気になればあのヘドロも完全に消化して、吸収できるんだよ? やってみる?」

「死んでも嫌です」


 何が悲しくてあんなモン飲まにゃならんのよ? あの沼に落ちたってだけでトラウマなのに!

 そういや、あの時の鰻どうなったんだろ? 今じゃあの沼はソーマの泉になったから、悪いなんかが抜けて食べられるようになってるかもしれないね、後で確認しよう。


「食べちゃ駄目って訳じゃなくて良かった~!」

「食は心にも栄養となりますからね、私達もたまには頂いていますよ」


 そうそう! 美味しいご飯食べると元気になるし、笑顔にもなるよね!


「酒精も無効化するからお酒は楽しめない」

「そうか~私お酒飲まないから別にいいけど」

「大抵の神達は酔えるように器用~に調整してるんだよね、酒好き多いから」


 お酒も過ぎれば毒って言うしね、でもやっぱり神様達ってお酒好きなんだね、イメージ通りって訳か。 とは言え明日はきっとお祝いだろうし、『聖域解放記念』とかでみんなでワイワイしたいんだよね!

 そんな考えを3人に伝えてみると。


「いいじゃん! やろうよそれ!」

「素敵ですね、きっと世界樹も喜びます」

「ん、賛成……でも」


 みんな基本的に賛成の構え、だけどレウィリリーネが少し困ったようにこう言った。


「食材がない、飲み物も」


 おぅ……ナンテコッタイ。


「え~そこはほら、女神達の神パワーとかでこう、ポポーンって上手いこと出来ないの?」

「そんなんできるかーい! アリサっちはうちらを何だと思ってるんだね?」

「流石にそこまで都合よくはいきませんよ、アリサさん」

「神とて万能って訳じゃない」


 むぅ~全否定された……なんとか出来ないかな~?

 さっき思い出した鰻でも見て来ようか、うーん、でも調味料も何もないしなぁ。


「聖域が解放されれば、様々な木の実や果実、清涼な水、滋養に富んだ餌をを求めて沢山の動物達もやってくる事でしょう」

「今回はごはんは見送るとして、いい名前でお祝いしてあげよー?」

「ん、急ぐことはない。明日を記念日にして、毎年祝えばいい……それまで畑とか……作る?」


 おぉ、それってつまり『開拓』じゃん! いいねぇ~色んなの育てたりしたいね。


「田んぼ作って稲植えて、畑で色んな野菜いっぱい。果樹園なんかも作って、鶏とか牛飼って卵、牛乳も~酪農もやりたいね! あぁ~夢が広がる~♪」

「ふふふ、私達もお手伝いしますから。のんびりとやって行きましょう」


 アルティレーネが後押ししてくれる。

 農業、酪農に精を出す女神達。良いんだろうか? まぁ、良いんだろう。


「あたし、牛の乳から作ると言うモノに興味がある」


 レウィリリーネは乳製品が気になるのか、ミーナもチーズ大好きだったなぁ。


「うちは粉モノってーの? それ食べてみたいなーっ!」


 フォレアルーネは粉物か、お好み焼きとかたこ焼きとか、はたまたピザとか、この世界じゃ珍しいのかもしれないね。


「わ、私は……その、お恥ずかしながら、チョコレートと言われるお菓子が気になります」


 別に恥ずかしくはないんじゃない、アルティレーネ?

 私もチョコ好きだし。


「やっぱり、食事の習慣がないってもったいないと思うな、牛乳からクリーム、麦を挽いて粉にしてスポンジ、チョコレートと合わせてチョコケーキ……ちょこんと果物添えて紅茶でいただきます! あぁ~スイーツ良いなぁ食べたい」


 3人が興味を持った食材からチョコレートケーキを想像する。スイーツの類いは前世でも好きだったようで味までしっかりイメージできた……けど、えぃってやっても出てこなかった。残念。


「やっぱり無理か、シャツとかパンツとかと何が違うんだろう? 食べ物だからかなぁ?」


 いずれ本気で検証してみたいな。


「麦や稲……先程アリサさんが言っていた食材はこの世界にもあります!」

「ん、牛も鶏もちゃんといる!」

「ねぇ! チョコレートって何から作れるん!?」


 おおぅ、3人がえらい食い付いてきた、みんな目がキラッキラしてるね。


「えっと……開拓、やってみる?」

「「「やりましょう!」」」


 目標決定~♪ 美味しい物のため頑張るぞ!


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【逆でも良かったかも】~乗せると楽~

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「さて、だいぶ脱線しましたけど……世界樹の女の子と杖箒の名前ですね」


 テーブルに4人で向き合い、話し合う。アルティレーネの言う通り大分脱線してしまったけれど、当初の予定である名前の相談だ。


「この杖箒創ってくれたのレウィリリーネだよね、生みの親として希望は?」

「……」


 ん? 何か対面に座るレウィリリーネが変な顔してるんだけど、なんでいつも以上にジト目で口をへの字にしてるんだろ?


「ん~? 変顔してレウィリ姉どったん?」

「レウィリ? 何か気になるんですか?」

「乗ってる……」


 乗ってるって何が? いや、よく観察するとレウィリリーネの視線は一点をじっと見てる。


「おっぱい?」


 その視線に気付いたフォレアルーネがニヤニヤとレウィリリーネに問う。

 あ~、そっかぁ~テーブルに乗ったのは偶然だったけど、これがまた楽なのでそのままの姿勢でいたんだよね。


「ごめん、はしたないよね」


 だらしないって思われたのかなって、感じたので姿勢を正す。


「むぅ……羨ましいって思っただけ、あたし小さいから」


 しゅんとなるレウィリリーネ、神様でもそういうのって気になるんだねぇ。


「レウィリは可愛いわよ、自信持って良いのに」

「あんま気にしたってしゃあないって~ほらほら! 杖箒の名前考えよ!」


 フォレアルーネの言う通りだ、見た目なんぞ飾りですよ。


「ん、今更だから大丈夫……話の腰を折ってごめん。それで、アリサに確認したいのだけど」


 おぉ、立ち直るの早いね。


「うん、なに?」

「どうしてこの杖箒に名前を付けようって思ったの?」


 あぁ、その事ね。私は沼に落ちてからの経緯をかいつまんで説明、杖箒に意思があるかもって感じた事を3人に話した。


「ん、わかった……この子の名は『アリア』」

「アリサさんの名前の候補に最後まで残ったやつですね、異論はないわ」


 私は『アリア』になる可能性もあったのか……どっちもいい名前だと思うから悩むのも頷ける。


「『アリア』か、ふふふ♪ 大事にしてね~アリサっち!」


 勿論だ、アリアは生涯の相棒になると思うし!


「これからも宜しくね、アリア!」


 心なしかアリアが喜んでるような気配を感じた、本当に意思があるのかもね。


「ところでさ、ちょいとうち、気になったんだけどさ」


 アリアの名付けも済んで、今度は世界樹の女の子の名前を考えようってトコでフォレアルーネが何か気になるみたいで話を振ってきた。なんだろう?


「アリサっち、うちらの名前って呼びづらくない?」

「3人の? 語呂っていうか語感が合ってるからそんなでもないけど?」


 アルティレーネ。レウィリリーネ。フォレアルーネ。

 うん、別に呼びづらくはないかな。


「ん、フォレアはアリサに『フォレア』って呼んでもらいたいだけ」


 そうなんだ、べつにそれくらいいいけど。


「だってその方が仲良さげじゃん? 今のままだとなんか他人行儀ぽくてさ~肩凝っちゃうよーε=( ̄。 ̄ )」


 頭の後ろで両手を組んで、椅子の背もたれに背の全面を預け前後にゆらゆらと、お行儀悪いよ。

 そのまま後ろにバターンなんて倒れないでよね? って、私もお行儀良いわけじゃないから口には出さないけどね。


「こら、フォレア。行儀悪いですよ? 愛称で呼び合うのは私も賛成ですよ。ただ、親しき仲にも礼儀あり、と言いますからその点忘れないようにしなければ」


 おぉ、流石に長女でお嬢様なアルティレーネだね。ちゃんとしてる。


「アルティ姉さんは少し固い、でもあたしも賛成する」


 レウィリリーネの言葉に「そんなに固いかしら~?」とか答えるアルティレーネ、「ちょっとだけね~」と笑うフォレアルーネ。

 この姉妹の仲の良さはもう確認するまでもなくて、そこに私も入ってきて良いんだと言われてるようで……嬉しくなる。


「えっと、じゃあ……アルティ、レウィリ、フォレアって呼ばせてもらうね」


 ふふっ、なんか照れ臭いね!


「うい! オッケーアリサっち!」

「ん♪」

「ふふっ少し照れますね」


 そんなこんなで、この3人とより親しくなれた私は、みんなで世界樹の女の子の名前を相談しつつ、和気あいあいとした夜を過ごした。

 そして……


────────────────────────────

【幼女と猫】~尊い~

────────────────────────────


 3日目の朝、私は息苦しさに目を覚ます。

 なにかと思い見てみれば世界樹の女の子が抱きついて寝息をたてている。

 昨夜、この女の子が目覚めたとき一人きりではかわいそうだろうと思い、一緒のベットで寝たんだよね。

 私を抱き枕にしているところを見ると、一度起きたのかもね。


「ンナァ~ン」

「ミーにゃん、おはよ~」


 ミーナは一足先に起きていたようで、私の顔をペシペシとパンチしてくる。


「あぁぁ、この肉球猫パンチがもう……幸せ~♪」

「にゃぁ~」

「うりうり~にゃんにゃぁ~ん」


 ミーナの猫パンチを受け止めその肉球をぷにぷにしたり、手に頬擦りしてくるのを撫で回したりしてイチャイチャする。


「んぅ……アリサおねぇちゃぁん?」


 おや、女の子が起きたみたいだ。ミーナと遊ぶ手を止めて、女の子を撫でてみる。


「おはよう~世界樹」


 ふふ、寝惚け眼可愛い♪


「ふあぁ~……ん~……おはよぉ~アリサおねぇちゃーん♪」


 欠伸して伸びをして、私にぎゅー。ふふ、ちゃんとおはよう言えて偉いね。


「アリサおねぇちゃん、あったかくて、やわらかくて、すごいいいにおいしてきもちいいの」


 うん、女の子になったからね。体温は高いし、体はやわらかいんだよ~においは浄化魔法の重ね掛けにお風呂で目一杯念入りに洗ったから。ヘドロ臭いって言われたらもう立ち直れないからね!


「ふぇっ!?」

「んにゃあぁ~ん」


 お、女の子がミーナに気付いた。どんな反応するのかな?

 私は女の子とミーナのファーストコンタクトを見守るためベットに正座で待機する。

 見ると女の子は目を丸くしてぷるぷる震えている……あれ、もしかして怖いのかな?


「だいじょうぶだよ、この子はミーナって言ってね。私の大事な家族なんだ、噛み付いたり引っ掻いたりは……滅多にしないから」


 うん、じゃれて興奮したりしてなければ大丈夫。


「にゃん♪」


 ミーナが女の子に近付いて膝の上に乗って丸くなる。


「ふあぁぁ……おねぇちゃん」


 女の子は私を見る。その目はうるうるになっており、何かに堪えているように見える。


「優しく撫でてあげて、びっくりさせないように、叫んだりしちゃ駄目だよ~?」

「う、うん……ふぁ、ふわふわぁ~あったかくてやわらかい……かわいぃぃよおぉ~♪」


 あぁ~……女の子の笑顔で心が浄化されそうーっ! 天使! 否、大天使降臨ですか!?

 尊い……幼女と猫の組み合わせって強烈じゃないかしらね!?

 ふぅ、朝からいいもん見たわ~。


「アリサさん、起きてますか?」


 控え目なノックと一緒にアルティレーネの声が扉から聞こえてくる。

 まだ寝てるかも、と言う細かな気遣いが心地いい。


「アルティおはよ~、起きてるから入ってきて~」

「失礼しますね、おはようございます。アリサさん、そして……」


 優雅な所作で入室したアルティレーネは私を見て挨拶、そして世界樹の女の子とミーナに目を向けて。


「お、おはようございます……女神さまぁ、ミーナちゃんが可愛いのぉ」

「あらあら、早速仲良くなれたんですね、ふふっ良かったですね、世界樹」


 思わずニッコリ。ですよね~わかる~。

 アルティレーネとふたり時間を忘れてほっこりしてしまう。


「っと、いけない……ねぇアルティ、この子の髪、どうにかできない?」

「はっ! ええ、そうですね……こうまで長いと切るしかないかと」


 私の言葉に我に帰ったアルティレーネも困った顔をする、女の子の髪は彼女の背丈の倍以上長いのだ、動き回るには邪魔になってしまうだろう。


「まぁ、取り敢えずレウィリとフォレアにも顔合わせしてから、一緒に考えようか」

「そうですね、二人にも相談してみましょうか」

「さぁ、行こう世界樹。ミーナもおいで~」

「うん!」「にゃん」


 世界樹の女の子を抱っこして、彼女の髪が床に付かないようにアルティレーネが手に束ねている。

 ミーナを抱っこしている女の子を、私がお姫様抱っこ。その隣に髪を束ねたアルティレーネが並列している、そんな変な光景。


「アリサおねぇちゃん、女神さま、ありがとう」

「「ふふ、どういたしまして」」


 リビングにはすでに二人の女神も揃っていた。ちょっと意外だ、二人とも朝弱そうに見えたけど。

 二人は私達に気付き挨拶してくる。


「オッハロ~♪ アリサっち、ミーにゃん。それに、世界樹」

「ん、おはよ。みんなよく眠れた?」

「はよ~フォレア~レウィリ~、ぐっすり寝れたよ~」

「お、おお、おはようございます……女神しゃまがた」


 噛んだ。緊張しているのか、女の子が若干硬直する。人見知りするのかな?


「あら、フォレアはともかくレウィリがちゃんと起きてくるなんて……いつもこうだと助かるのに」

「むぅ……朝は眠い、これは真理……あたしはただそれに従うのみ」


 いちいち壮大にすんな。ってか、やっぱり朝弱いのね。


「単にだらだらしてたいってだけだよね? まーうちもそうだけど!」

「わかる、ぬくぬくお布団で微睡むあの時間~至福の時だよね」


 なんてふたりに同意してウンウンと相槌打っていると、アルティレーネが呆れてため息をつく。

 でも、そんな和やかな空気が効を奏したのか、女の子も緊張が解けてきたみたい。初めてベットで寝てふわふわで気持ち良かった~とか、自然な感じでにこやかに話している。

 それは、いいんだけど……


「アリサおねぇちゃんのおっぱいすごいの~ふわふわで、やわらかくて、ぎゅってするとすごく安心できるの」


 そーいうのいいからぁ! 恥ずかしいからぁ!


「で、この子の髪どうしよっか?」

「流石に切るしかないんじゃないんないん~? 自分の身体を自由に操作~ってのは、まだムリぽい?」


 いや、フォレアルーネ、ちゃんと喋りなさい。ないんないん~ってなんぞ?


「ん、切った髪はあたしが責任をもって有効活用する。安心していい」


 髪の毛だよね? なんでそんな危険物みたいな扱いなの?


「世界樹の魔力の塊みたいな物ですから、扱い方次第では危険なんですよ」


 不思議そうにしてるのを察したのだろう、アルティレーネが説明してくれた。なるほどね。

 レウィリリーネが女の子の髪を丁寧に切り揃え、整える。腰くらいの長さ。

 本人の希望で髪型は私とお揃いの編み込みハーフアップ。私も女の子も自分じゃできないのでアルティレーネとレウィリリーネにやってもらった。いずれ自分でもできるようになって、彼女達の髪をいじってあげたいね。


「みんなとは初対面じゃないんだっけ、樹の時に会ってる?」

「うん、アルティレーネさまも、レウィリリーネさまも、フォレアルーネさまもお会いしてるよぉ」


 女の子の姿で会うのは流石に初らしいけど、創世の際に苗木で会ってるそうだ。


「しゅしんのティリアさまにも会ったんだよ~」


 おっと、ここで新情報だ。

 私を女神三姉妹に紹介してくれて、この世界に転生するきっかけになった主神様。


「ティリア様って言うんだ? どんな方? 私もお礼が言いたいな」

「とてもお優しく、とても厳しい方ですよ」

「ティリア姉っとと……主神さまは基本おちゃらけてて、明るくて、おもろいよ♪」

「ただ……絶対怒らせちゃダメ、魔神を消滅させた時のティリア姉さんは……あわわ」


 どうやら普段優しいぶん、怒るとめっちゃ怖い人の典型ぽいね。


「あれ、三姉妹じゃなかったの? その主神様……ティリア様はみんなのお姉さん?」

「えっとぉ~人間で言う血縁? それで言うならアルティ姉と実際の姉だよ」

「そしてあたしとフォレアが実の姉妹」


 あれま、なんか複雑そうね。


「私達はちょっと複雑でして、ティリア姉様が主神となられた折りに、他の神の目を気にして『主神様』と呼び方を改めているんです」

「ティリア姉は気にしてないんだけど~アルティ姉がケジメです~とか言ってさ」


 ホント固いよね~とか言ってアルティレーネに睨まれるフォレアルーネ、これはあれか? 国の継承問題みたいなもんかな……めんどくさそ。あんま首つっこまないようにしよ。


「アルティの考えは立派だと思うけどね、甘えられるうちは甘えてもいいんじゃないの? 可愛い妹に頼られたら嬉しいものだと思うよ、お姉さんって。レウィリ、世界樹決まった?」

「そんなこと、創世の際にも魔神の時にも散々お世話にって……アリサさ~ん、ちゃんと聞いて下さいよ!」


 お堅いアルティレーネはフォレアルーネに相手を任せて、レウィリリーネと世界樹の女の子に顔を向ける。ふたりが話してるのは昨夜に相談した世界樹の女の子の名前について。


「ん、決まった」「決めた~!」


 うん、これで『聖域』を再生する準備ができたね!

アリア『魔装具』

女の子『世界樹の聖霊』『聖域の魔女の義妹』『聖域の魔女の朋友』

ティリア『主神』『アルティレーネの実姉』『レウィリリーネの義姉』『フォレアルーネの義姉』

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