38話 魔女と門衛と二人の女の子
──────────────────────────────
【冒険者ギルドの職員】~色々やってる~《ガウスview》
──────────────────────────────
「今日は北門の門衛か……退屈しそうだなムラーヴェ?」
「ははは、確かにな。だが油断は禁物だ、北門は人の出入りこそ少ないがそれなりに魔物が出るからな」
その日の朝。冒険者ギルド職員である俺。ガウスは同僚のムラーヴェと一緒にセリアベールの街の北門の門衛を割り当てられている。
今は朝食を済ませ、夜勤の二人と交替すべく移動中だ。
冒険者ギルド職員の仕事は多岐にわたる。今回少しだけ紹介しよう。俺も総て把握している訳ではないしな。
先ずは冒険者達にクエストを紹介する受付業務だ。これは有名だな。
街に住む住民達、各組織は勿論。近隣の町や村、集落からの細々とした依頼を冒険者達に斡旋する業務。こちらには主に女性職員が多くつく。ギルドとしては花形の受付嬢と言えば聞こえが良いが、業務として覚えることが多く、また、荒くれ者の多い冒険者を相手にしなくてはならずと……まぁ、大変だそうだ。
そして目立たないかも知れないが、魔物を解体し、各素材に分ける解体業務。これは解体未、済みを問わずその魔物素材の鑑定等も行う。解体が苦手な者でも、手数料分は取られるが頼めば解体をしてくれるぞ。流石にこれは男性が多いな。
素材鑑定業務。こちらは先程の解体業務とチームを組むことが多い。魔物にも色々と種類があるからな。植物系の魔物だったり、鉱石系の魔物だったり、果ては魔法生物なんてのもいるから得られる素材の種類もまた多いのだ、それらを鑑定する専門の部署だ。男性、女性問わず知識人が多い。
そして街の警備業務だ。この東西南北の門衛の仕事もその一つで、男の仕事になる。まぁ、夜勤があるから下手に女性職員を組み込むのは面倒事が起きそうだってのが、俺達のマスター、ゼオンの言い分だ。
特に最近はそう言う女性に対する気遣いというのか……そういうのが厳しくなっている。というのも、二人の女性冒険者が『迅雷』というBランクの冒険者パーティーに騙され、集団で乱暴を働かれそうになったという事件が起きたからだ。まったく、男の風上にもおけん奴等だ!
「お前もそうは思わんかムラーヴェ?」
「は? いきなり何の話だよ? ちゃんと口に出して言え!」
「あぁ、済まん済まん。『迅雷』の馬鹿共の事だ」
いかんいかん、ちゃんと説明せねばな。
「あぁ、まったくもって許せん連中だ! 街から追放だけで良かったのか? あの愚か者達はまた何かしらやらかすのではないかと思うのだが?」
「うむ、そうだが奴等のことは冒険者ギルドを通して各地に情報が回っているのだ。何も出来やせんさ」
犯罪等、何かしら罪を犯した者達は冒険者に限らず、各職ギルドを通してほぼ全国にその情報が知れ渡る事になるのだ。この政策は犯罪を抑止する効果が大きく、各地の治安を向上させる手助けにもなっている。
「着いたぞ。おーい! 交替だ、ごくろうさん! 異常ないか?」
街の治安を維持するのも俺達の仕事の一つだからな。そんな会話をしつつ、到着した北門。
早速引き継ぎを行うため、夜勤者と顔合わせを行い伝達事項の確認だ。
「あぁ、ガウス、ムラーヴェ。お疲れ! 特に異常はないな。夜間にジャイアントバットとポイズンラットが襲って来たくらいだ」
ほら、そこだ。と、夜勤の門衛の一人が俺達に解体済みの魔物が置かれた棚を見せる。あぁ、確かにその二匹だな。
「ふわあぁ~お疲れ様、二人とも。襲ってきたのはその二匹だけさ。最近なんか魔物が減ったような気がするね?」
もう一人の夜勤者も仮眠室から出てきた。ふむ、この二匹だけか。これから寒くなる季節、こういった動物に類似した魔物がその寒さに備え、姿を見せなくなっているだけではないか? そう言ってみたものの……
「うーん、それもあるかもだけどね……あぁ~あ眠い……駄目だなぁ頭回んないや」
「ははは、帰ってゆっくり休んでくれ!」
まあ、夜勤明けの者に小難しい話は酷と言うものだ。二人は引き継ぎを済ませると眠そうな瞼を擦りながら帰っていった。さて、俺達も配置に付くか。
「ガウス、『白銀』の皆さんの話は聞いたか?」
「ん? ああ、ゼオンから聞いたよ。無事にアイギスさんの腕が治ったと手紙が来たそうだな」
門衛業務を開始して数時間余りか、俺達の護る北門は静かなもので、来客と言えば野良の兎と犬くらい。実に平和な時間だ。俺とムラーヴェも世間話をしてしまう。
「ああ、なんでもその話には続きがあってな。近々アイギスさんの腕を治療して下さった方達を客人としてこの街にお連れするそうだぞ?」
ほう、それは初耳だな。
「一体どんな方達なんだろうな? むっ! ガウス! 前方に何か見えるぞ!」
「何っ!? 魔物か!?」
もし近付いているのが魔物なら、一刻も早くその脅威度を把握しなくてはならない。俺達だけで対応出来るなら即座に排除にあたり、手に負えないのであれば警鐘を鳴らし、一人は大声で周囲に避難と協力を呼び掛けつつギルド迄報せに走らねばならない。
「馬……だな、馬車だ。御者が二人……あれは! アイギスさんとゼルワさんだ!!」
「おおっ!! 噂をすればか!?」
目を細めこちらに向かってくる馬車らしき影を確認したムラーヴェが嬉しそうに声を張り上げた! 遂に帰ってきたのか、英雄達が!? 俺達はついているな! なんせ『白銀』の帰還に立ち会えるのだから!
──────────────────────────────
【門衛さん】~彼女募集中~《ムラーヴェview》
──────────────────────────────
「初めまして、『聖域の魔女』アリサです。よろしくお願いしますね」
「「ほぁぁ~……」」
うおおぉぉ……す、すげぇ美人……すげぇスタイル……俺、このお嬢様、いや、お姫様が女神様だって言われたら絶対信じると思う……あ、俺は冒険者ギルドの職員ムラーヴェです。同僚のガウスと今日は北門の門衛やってます!
「はっ!! ここ、こちらこそ! よろしくお願い致します!」
あ、やべぇ。惚けてた……焦ったようなガウスの声に俺も我に帰る。挨拶しなきゃ、洗練された礼節を見せてくれたこの女神様に失礼ってもんだ。
「よ、よよ、よろしくお願い致します……」
ぐわーっ! どもっちまった! 恥ずかしいぜ!!
「ほっほっほ……二人共アリサ様に見惚れておったな?」
言わないでくれ~ドガさん!
「そして、アリスさん。バルガスさん、その奥様のネヴュラさん。そして……アリサ様の妹君のある……レーネ様です」
「レーネと申します。よろしくお願いいたしますね」
サーサさんから『聖域』からいらっしゃったという、お客様を紹介頂いた。
見事なフリフリのドレスと傘を身に付けた、アリスと呼ばれた女性。俺にとって女神様であるアリサ様と同じ、とても美しい黒髪で、その容姿も負けず劣らずの美人さんだ。
そして、そんな御令嬢方を護衛されているのだろう。背が高く、立派な甲冑に大剣を背負う禿頭の騎士らしき男性。うむ、威圧感が凄い、彼に睨まれれば魔物はおろか、下手な下心を持つ者も裸足で逃げ出すだろう。
そのバルガスと呼ばれた騎士の奥方殿。何と艶っぽいことか、柔らかい微笑みでご挨拶を受けたので丁重に返答。騎士と魔法使いのご夫婦か、王道の組み合わせだな。
アリサ様と負けず劣らず際立ったその美貌のレーネ様。間違いなく王族……いや、アリサ様の妹君とサーサさんは言っていたので、女神様かもしれないな。うん、そうだと言われたら絶対信じるぞ、俺は。
「これはこれは……さぞや名家の御令嬢とお見受け致します」
「ギルドマスターが丁重におもてなしせよと言った意味がわかりましたよ」
「ようこそ皆さん! セリアベールの街へ!」
「冒険者の街へようこそ! 歓迎致します!」
アイギスさん達とそのお客様達を街に通した俺とガウスは早速話に興が乗る。あ、勿論仕事はキッチリこなしつつだ。
「やっぱり凄いな『白銀』は!」
「ああ、あの『魔の大地』から無事に帰ってきただけでなく、欠損した腕すら治して……」
俺の言葉に頷くガウス。そうだよな! 今まで誰も近付けなかった『魔の大地』を先駆けて攻略したんだ。前代未聞の偉業だぜ!
「それだけじゃない、気付いたかムラーヴェ?」
「え、何がだよ?」
「みなさんとんでもなく強くなっていたぞ? 何て言うのか……オーラみたいなのを感じたんだよ」
マジか? 今までだってかなりの強さだってのに……そう、並び立つのは『黒狼』が唯一な程の彼等が更に強くなったって言うのかガウス!?
「すげぇな……何か武者震いしてきたぞ!」
「ああ、なんと頼もしいことか……これなら次の氾濫も乗り切れるな!」
まったくその通りよ! このセリアベール、『白銀』がいる限り安泰ってもんだ! 次に起こるだろう氾濫も、必ず住民を、街を守り切って見せる!
「……しかし、美しかったなアリサ様」
「ほう、お前はアリサ様推しかムラーヴェ? 俺はレーネ様だ」
戦意を昂らせ張り切ってはみたものの……仕事は門衛。周囲に警戒するような事は何もなく、立ちぼうけ……うん、有り体に言ってしまえば退屈なのだ。先程の客人の話になるのも自然な事だろう。
「レーネ様もとんでもなく美人だったな……いや、それを言うなら全員になってしまう」
「ああ、確かに! アリス様もネヴュラ様も……ううむ、『魔の大地』……いやいや、最早その呼び方は適切ではないな。『聖域』と呼ばねば」
うん。なんともこの世のものとは思えない程の美しさのアリサ様とレーネ様。そのお二人が際立っているが、伴をしていたアリス様、ネヴュラ様もまた美しかった。
「ガウス、お前の言いたいことはわかるぞ。『聖域』にはあのように美人さんが揃っているのか? そう言いたいのだろ?」
「おお、それよ! もし叶うなら俺達も『聖域』に行ってみたいな!」
「ははは! まったくだ、そして出来れば美人さんとお近づきになれたら最高だな!」
わははは! 二人で夢をみつつ大笑い。うんうん、俺達も悲しい独り身。美しくも優しい伴侶に憧れてしまうのだ。夢くらい見てもバチは当たるまいて。
──────────────────────────────
【二人は幼馴染み】~トラウマ~《フォーネview》
──────────────────────────────
「い、いやっ! いやぁっ!! やめて! こんなのいやあぁっ!!!」
「リール! リールっ!! 起きて! 大丈夫だから!」
「あぁっ! うぅっ! やだぁっ!! 助けて助けて! フォーネっ!」
「リール! 大丈夫よ! リール!!」
早朝、日が登るにはちょっと早い時間。まだまだ薄暗い部屋にリールの呻き声が響く。またあの時のことを悪夢に見ているのだろう。酷くうなされ苦しそうに涙を流すリールに必死で呼び掛ける。とにかく起こさないと!
「はっ!!? ふぉ……フォーネ……?」
「リール……大丈夫、大丈夫だから……ね?」
漸く目を覚ましたリールを優しく抱き締める。
「うわあぁぁ……また、あの時の夢見ちゃったよぉぉ……うぅっごめんねフォーネ……ありがとう」
「ううん、いいの……私も同じ夢にうなされるもの……お互い様だよ……」
私はフォーネ。このセリアベールの街で冒険者として生活している僧侶です。
本当の名を、フォーネ・ウィル・リュールと言います。創世の女神の一柱、『調和』を司るレウィリリーネ様が祝福を授けた王国『リーネ・リュール』の王族の末裔です。
と、言っても、今やその王国もなく。名ばかり立派なただの平民ですけどね。そして似た環境の幼馴染みのリール。彼女の名前はリール・サイファ・フォレスト。
彼女は同じく創世の女神の一柱、『終焉』を司るフォレアルーネ様が祝福した国『ルーネ・フォレスト』王族の末裔。
まぁ、同じくとうの昔に滅んだ国です。私達は静かな農村で生まれ育ちました。ガチで平民なんです。先祖代々伝わっている女神様の肖像画が家の宝物でしょうかね? のどかで良い村なんですが、如何せんのどか過ぎて退屈過ぎたのです。
私とリールはそれぞれ僧侶として。魔法使いとして勉強を重ね、ある日。村を出ることにしたんです、意外と反対されることもなく……いえ、寧ろ私達二人が村を出ることがわかっていたかのように、村人みんなに行ってらっしゃいを言われました。
別に食べるのに困るほど貧しい村ではありませんから、口減らし……なんて事はありません。
私とリールの両親の「両家の血が導いておる」って言葉が気になりましたけどね。
「ん……フォーネ、ありがと……落ち着いてきた……」
「うん、うん……私がうなされた時は同じように起こしてね?」
「うん! 勿論だよ!」
抱き締めていたリールの体の震えが収まりました。言葉通り気持ちが落ち着いて来たのでしょう、よくわかります……私もそうですから。
女の子二人で都会の街。『冒険者の街』と異名を持つセリアベールにやって来て、冒険者登録を済ませてそれなりに順調にやってきました。親切な冒険者の先輩デールさんに、二人してお尻を撫でられたりしましたけど、その悪癖以外は本当に頼りになる先輩ですね。
でもある日……私達二人をパーティーに誘ってきた先輩達がいました。『迅雷』と言うBランクのパーティーで、三人の男性、全員が前衛職と言うことで、支援してくれる後衛職を探していたのだそうです。
ですが、それは罠でした……私もリールも後衛職ですから、前衛を務めてくれる者とパーティーを組んだ方が良いと思っていたところ降ってわいたような好条件。無理にとは言わないから、等と控え目で優しい態度にすっかり騙された私達はのこのこと彼等の拠点について行ってしまったんです。
拠点に入った途端、私達は武器を奪われ拘束されて……魔法も封じられて、乱暴をされそうになりました。
(……あの時ゼオンさんやデールさん達、冒険者ギルドの警備職員さんが来てくれなかったら)
思い出しただけでゾッとします。貞操を奪われる事はなかったのですけど……この事件がきっかけで私達は今も心に深い傷があります……リールが悪夢を見るように私も苛まれているんです。
村に帰ろうとも思いましたけれど、他の冒険者達が気遣ってくれますし……何よりお世話になりっぱなしで帰ってしまってはあまりにも無作法者です。少しでも街に貢献しなくてはいけません。
「ねぇフォーネ。今日はどんなクエスト受けようか?」
「そうですねぇ~二人で無理なく達成できるクエストがあればいいんですけどね……」
朝の冒険者ギルド。お互いに落ち着いた私達、支度を済ませてやってきました。冒険者ギルドの建物は広く、色々と施設が整っているのが有難いですね。今食べている食事もギルド内にある食堂で注文したものですし。
私は食事をとりつつもリールの様子を伺います。ええ、大丈夫そう。以前は悪夢を見た日は二人とも借家から一歩も出れない程でしたけれど……少しずつですが癒えてきているのですね。
「──それでね……うん? なんだろ、騒がしくなってきたね?」
「えぇ……何かあったんでしょうか?」
ザワザワと一階のホールの北側がざわめき立っています。一体何事なんでしょうか?
「『白銀』達が帰ってきたってよ! それもアイギスの腕治して来たらしいぜ!」
「マジか!? アイツ等って『魔の大地』行ってたんだっけ?」
まぁっ!? それはビックリです! では、あの人だかりの中に『白銀』のみなさんがいるんですね……成る程納得です。街の英雄達の帰還とあれば嬉しくもなりますよね。
「『白銀』かぁ~以前サーサさんとゼルワさんの代行務めた時以来だね! なんにしても氾濫前に復帰してくれてよかったぁ~」
「そうですね、彼等の力無くてはとても乗り切れないでしょうから」
「あ、人混みから女の子出てきたよ? 珍しい格好~凄い美人さんだ!」
リールが人混みか逃れるように出てきた、この辺では見かけない珍しい服装の女性を見つけました。一見すると魔法使いの女性が着るローブに見えますが違くて、何より目立つのがその帽子。三角形のつばの広い頂点が折れ曲がっていて魔方陣を象った装飾。
「……似合いますね、可愛いです。あっ! 見てリール、早速デールさんが……」
「ホントだ、あ~あ……あの子も可哀想に、洗礼受けてトラウマにならないといいけど」
ズデーン!!
「「えっ!?」」
──────────────────────────────
【魔女さん?】~女神様?~《リールview》
──────────────────────────────
ビックリ! 何が起きたの今!?
私、セリアベールの冒険者リールは今日も今日とて日銭を稼ぐため、朝から冒険者ギルドに来ているの。相棒のフォーネと二人、無難なクエストを探さないとね。
何はともあれ、先ずは朝ごはん。しっかり食べて活力つけないと~ってことで、クエスト探す前にご飯食べてたらギルド内が騒がしくなった。何でも『魔の大地』に行っていた『白銀』達が帰ってきたみたいでホールに人だかりが出来ている。
その人だかりから抜け出て来た一人の女の子がなんと!
「デールさんが転んだ……?」
「あ、頭下げて謝ってる……やっぱりあの子が何かしてお尻触られるのをかわしたんだ!」
凄い! 初見であのデールさんのお尻撫でを見切ってかわすなんて!
「ねぇねぇ! 声かけて見ようよ!」
私はあの変わった格好の女の子に俄然興味が湧いてきた。さっきほんの一瞬だけど魔力を感じたし、デールさんをかわしたのは恐らく魔法に依るものだと思う。それなら私と同じ魔法使いじゃないかな? それもかなり高位の!
「ねぇねぇ、そこの貴女!」
「見てたよ! 凄いじゃない!」
私達の声に振り向いた不思議な格好の女の子。うわあぁぁ~改めてその顔を見るとチョー美人!! まるで女神様みたい! 整った顔立ちに、ちょっとつり目は少しキツイ印象を受けるけど、私達を見てきょとんとしてる表情はそれを中和している。
「凄いって言ってたけど……なんのこと?」
「そりゃああのデールさんのお尻撫でを見事にかわしたことだよぉ~♪ あ、よかったら座って座って♪」
「うんうん! あの人デールさんって言うんだけど、とっても親切で面倒見良くて頼りになる先輩冒険者なんだけどさ。隙あらば女の子のお尻を撫でまわすって悪癖があるのよ!」
ふふ、なんだか嬉しくなった私達は早速彼女に相席をすすめる。フォーネも口調をくだけさせて歓迎の構えだ。
「あ、私リールっていうの! 魔法使いよ。よろしくね!」
「私はフォーネと言います。絶滅寸前の僧侶クレリックなの、よろしくね! よかったら貴女のお名前も聞かせてくれるかな?」
「ん、リールに、フォーネだね! 私は『聖域の魔女』アリサ。よろしくね!」
わあっ! にこーって笑顔が凄く可愛い! 美人で可愛いなんてずるぅいぃ~♪ って、いやいや、フォーネ。その自己紹介はどうなのよ? 自分から絶滅寸前とか言っちゃう? もぅ、変にテンション上げちゃって~まぁ、それはいいのよ! ちょっと今耳を疑う言葉が出てきたんだけど!?
「え、マジ? ねぇ……アリサちゃんってマジに『魔女』なの?」
「デールさんを見事にかわしたあの手腕からみて、きっと凄い実力の持ち主かなって思いましたけど……アリサちゃんまさかの伝説職ですか!?」
「え、うんそうだけど……なんでこんなに小声でコソコソ話すのん?」
私達は周囲を確認しつつアリサちゃんを手招きして小声で話始める。うん、みんな『白銀』の周りに集まってて、こっちには目を向けていないね。
『魔女』……それは、魔法使いにとって伝説とも言える位だ。男性の場合は『賢者』になる。アリサちゃんを信用しない訳じゃないけど、もし本当にそうなら他の冒険者達が目の色を変えてパーティーに勧誘してくるだろう。その辺りを事細かに説明するとアリサちゃんも納得してくれたみたいだ。
それから暫く談笑して、アリサちゃんのお連れさんを紹介してもらった。バルガスって呼ばれた厳つい騎士はネヴュラって凄い色っぽい女性と夫婦と聞いて少し安心した、私もフォーネもやっぱり男性に対して恐怖心が拭えていないからね……ちょっと怯えちゃった。
そして何故か私達は冒険者ギルドのマスター。ゼオンさんの執務室にいる。
アリサちゃんが『魔女』だって言うのはもう微塵も疑ってない。何故なら『言霊』で冒険者達をピタリと黙らせたからだ、あんな芸当が出来るのはそれこそ『魔女』や『聖女』……はたまた神様くらいのものだろう……アイギスさんと恋人同士ってのも驚いたけど、それ以上に驚く事があった。
「それでは、改めましてご挨拶をさせて頂きます……」
アリサちゃんがなんだかよくわからない魔装具をいじった後、アリサちゃんの連れの一人、レーネちゃんが改まった様子で私達に向き直り、その姿を変えていく。
「私はアルティレーネ。創世の三女神の一柱……『生誕』のアルティレーネです」
その身に纏うのはとてつもない、魔力を超えた『神気』!
その背には大きく美しい純白の一対の翼!
その頭上にはとても複雑な魔方陣を象ったハイロゥ!
その手には荘厳な光を宿す美しい槍!
「あわわっ!? め、女神様!?」
「あぁ……これは……ゆ、夢? いいえ、違う。この確かに感じる大いなる神気……あぁ……遂に、遂に女神様がお戻りになられたっ!!」
唐突過ぎて腰が抜けた……私は情けなく、ペタンって床に尻餅をついて、あわあわするのが精一杯だ。こ、これが、女神様なんだ!! 凄いなんてもんじゃない……ただそこにいるだけで、他者に知らしめる圧倒的な存在感!
見ればフォーネは僧侶なだけあって、アルティレーネ様の神気を人一倍強く感じたんだろう。感動のあまり涙を流している。
私とフォーネ、冒険者ギルドのサブマスターを務めるエルフの男性エミルさんと、マスターのゼオンさんの四人は驚きのあまり誰も口をきけず、沈黙が執務室を支配する。
どれくらいそうしていただろう? 漸く落ち着いて来たところで、今度はゼオンさんとエミルさんから衝撃の事実が聞かされる。
「かつてのセリアルティ王国宰相、エミリオ・ルーベンスが子孫エミル・ルーベンスです! そして……」
「えぇ、貴方はありし日の彼にそっくりですよ……一目で、わかりました……」
「はっ! 我が先代達も喜んでおられるでしょうアルティレーネ様。このゼオン・ユグライア・セリアルティ。貴女様とお会い出来たこと生涯の宝であります!」
ええええええぇぇぇーっっ!!!??
凄いビックリ!? 平然としているのはアリサちゃん達くらいだ、『白銀』のみんなもこの事は知らなかったみたい。でもそっか……アリサちゃんがどうして私とフォーネをここに連れて来たのか疑問だったけど、やっと理由がわかったよ。アリサちゃんは私達の本当の名前を知ってるんだ。
──────────────────────────────
【凄いこと!】~沢山驚いた~《フォーネview》
──────────────────────────────
「まぁ、俺達の話はそんなとこだ。アルティレーネ様がお戻りになられた以上、セリアルティの復興も現実味を帯びてきた! 残すは氾濫を解決するだけだぜ!」
「ええ! それも解決した暁には大々的にセリアルティ復興を掲げ世界に声明を出しましょう! 『新生セリアルティ王国』の立国を!」
凄いです! ゼオンさんの話を聞いた私とリールは興奮を隠せません! かつての三王家の一国、『セリアルティ』の復興! お伽噺で聞く女神様の祝福を受けた王国!
「すごい……凄いね! ね、フォーネ!! 私達今凄い瞬間にいるよ!」
「ええ、フォーネちゃんもびっくり仰天です。アルティレーネ様がお戻りになられたのであればもしかして……」
そうです! アルティレーネ様が顕現されているなら、レウィリリーネ様とフォレアルーネ様も一緒に顕現されているのではないでしょうか!? そうすれば残りの王国の復興も夢ではありません!?
「そういや嬢ちゃん、その二人を連れて来たのは何でなんだ?」
「リールさんとフォーネさんですよね?」
ゼオンさんとエミルさんが私達二人を見てそう言いました。ええ、最初は私達もそう思いましたから、二人の疑問も最もですね……と、リールと顔を見合わせてアイコンタクト。
そうしているとアルティレーネ様が私達にどうぞ名乗って下さいと促しました。
「お二人とも、お名前を教えて下さいますか? きっと、貴方達を知れば妹達も喜びます」
やっぱり、アルティレーネ様も御存知だったようです。私達はその言葉に頷いて。一度目を閉じ、深呼吸して、少し心を落ち着かせた後、名乗ります。
「私の名前は『リール・サイファ・フォレスト』……かつて、創世の女神の一柱、『終焉』を司るフォレアルーネ様が祝福を授けた国『ルーネ・フォレスト』の王族の末裔です」
「同じく、創世の女神の一柱、『調和』を司りしレウィリリーネ様の保護された国『リーネ・リュール』王族の子孫『フォーネ・ウィル・リュール』です!」
堂々と。私達は集まったみんなに向けて本当の名前を答えました。
両親から聞かされてきた、私達の本当の名前……正直、今までこの名前に何の意味があるのかわからなかった……何処か他人事のように「ふーん、そうなんですか」程度にしか思っていませんでしたけど……今ならとても誇らしいです! きっと今のこの日をずっと、ずぅ~っと夢見てきた私達の御先祖様の気持ちがこもっているからなのです!
ふふふ! ゼオンさんもエミルさんも『白銀』の皆さんまで驚いています! ですが、その驚き方はゼオンさんとエミルさんとは違ってて、話を聞けば今度はこっちが驚く事になりました。
「おいっ待て『白銀』! お前達の口振りからまさかと思ったが!!」
「残る二柱の女神も現世に顕現されているのですか!!?」
そう。『白銀』の皆さんは女神様から依頼を受けたと言うのです! それは私達、かつての三王家の子孫を探してほしいというもの。それはつまり……
「ほ、本当ですか!? フォレアルーネ様が現世に!?」
「レウィリリーネ様もですか!!?」
残りの二柱の女神様も顕現されている! ということになります! うわわっ……凄いドキドキしてきましたよ! レウィリリーネ様にお会い出来るのかもしれない! リールもきっと同じ気持ちだでしょうね。フォレアルーネ様にお会いできるって!
私達の興奮した姿に優しく微笑むアルティレーネ様が、落ち着くようにと宥めてきました。いけません私ったら……気を付けなきゃ。
「妹達も勿論顕現していますよ。リールさん、フォーネさんにお会いしたいと言っていました」
「折角だし『聖域』の様子見てみる? 私も妹達が気になるし」
アリサちゃんが見せてくれた魔法にみんなで驚いて、私達は『聖域』の様子を伺う事が出来ました。その空には美しい幻想的なオーロラが揺らめき。まるで私達の田舎の農村のようなとてものどかで牧歌的な風景。
伝え聞いていた近付くことすら困難な程の魔素霧もなく、蔓延っていると言われた魑魅魍魎、凶悪な魔物の姿も見えず……とても『魔の大地』と言われるには程遠い光景が私の眼前、中空に映し出されます。ここが本当に『聖域』なんでしょうか?
「ああぁ……レウィリリーネ様。肖像画で見たそのままのお姿……本当に、本当に顕現されておられた!」
そんな疑問は直ぐ様吹き飛びました! 見間違える筈もありません、毎日家宝の肖像画にお祈りを捧げていたのですから。そのお姿……レウィリリーネ様!
「フォ……フォレアルーネ様……わかります、こうしてお目にかかるのは初めてなのに……」
リールも思わず涙ぐんでいます。フォレアルーネ様にお目にかかり、彼女に流れるフォレストの血が呼び起こされたのでしょうか? 私もリールもお互いに女神様とは初めてお会いするはずなのに、ひどく懐かしい気持ちになります。それはきっと、私達の御先祖様の御霊が喜んでいるからでしょうか?
「!! アリサお姉さん、その二人はもしかして……!?」
「むあっ!? あぁーっ!! フォレストくん! フォレストくんだ!! ねぇ! そうでしょ!? アリサ姉、もっと近くで見せてよ!!」
女神様が私達にお気付きになられました。アリサちゃんが気を遣ってくれて、私達はレウィリリーネ様とフォレアルーネ様とお話をさせて頂く事になったのです!
ガウス「よし! 俺は決めたぞムラーヴェ!ι(`ロ´)ノ」
ムラーヴェ「おぉ? どうしたガウス(´・ω・`)?」
ガウス「俺は『聖域』に行く! ♪ヽ(´▽`)/ そして生涯レーネ様に仕えるのだ!(≧□≦)」
ムラーヴェ「なっ!?Σ( ゜Д゜)正気か? ギルドはどうするんだ!?(・□・?)」
ガウス「勿論退職だ! うむ、こうしてはいられん! 早速辞表を書かねば!(*つ▽`)っ」
ムラーヴェ「おいおいおい!?(;゜Д゜)決断が急過ぎるぞ。少し落ち着け( ゜Å゜;)」
ガウス「止めてくれるなムラーヴェ……即断即決。これが俺の信条だ!o(`Д´*)o」
ムラーヴェ「ま、マジか? マジに辞めるっていうのかガウス……?( ゜□゜)」
ガウス「二言はない!(*-ω-)」
ムラーヴェ「……はぁ(*゜∀゜)=3 仕方のない奴め、本音は『聖域』で美人な女性とお近づきになりたい!(*´∀`*)ポッ ってとこだろう!?(。・`з・)ノ」
ガウス「無論それも本音だ!ヽ(*>∇<)ノ」
ムラーヴェ「言い切ったな!?( *゜A゜)おのれ! 俺も行くぞ! お前一人良い思いなどさせるものか!ヽ(♯`Д´)ノコリャーッ」
ガウス「ほぉ!? よかろう! ならば共に行こうではないか!゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜」
ムラーヴェ「応よ!ヾ(≧∀≦*)ノ〃」
街の住人「なんだか今日の門衛さん達うるさいわねぇ……σ(´・ε・`*)」




