37話 魔女と冒険者の意地
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【少年剣士ブレイドくん】~おっぱい大好き~
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「アリサ姉ちゃん……俺、姉ちゃんとどっかで会った事ないか?」
「ブレイド!? あなたどこでそんなナンパの常套句覚えて来たの!?」
ブレイドって呼ばれた少年の言葉に驚くシェリー。
「そんな子に育てた覚えないわよぉ~?」
「……デールか? あいつの……影響……受けたか?」
同様にミュンルーカとデュアードも驚いている。二人の反応から察するに、ブレイドくんは普段こんなこと言うような子じゃないんだろう。デールって人は、さっき私のお尻を触ろうとしてきたおっさんだ。
「よし! 取り敢えずデールのヤツ連れてこい! アタイがぶっ飛ばしてやるよ!」
「ブレイド……お前にはミストがいるだろう? いくらアリサ殿が美人だからと言ってだな……」
「ぶ、ブレイドぉ~!!」
……うん、超盛大に誤解されてるぞブレイドくん。そしてデールのおっさんは……自業自得って事で良いだろう。身から出た錆だ、セラちゃんにぶっ飛ばされるがいい。
ふむむん~バルドくんの言葉から察するに、ブレイドくんとミストちゃんは「そういう仲」なのかね? ミストちゃんも涙目になって「しょんなぁ~(´TωT`)」ってなってるし。
前世の世界での感覚で見ると随分おませさんって思うけど……この世界じゃ彼等位の年齢で恋人とかいるのって普通なのかな? 魔物とかがいて驚くほど命が軽い世界だ、よくわかんないけど色恋のうんたらとかも素直なのかもね、いや、ホント知らんけども。
軟派のセリフに聞こえなくもないけど、誤解だからね? その証拠にブレイドくんは慌てて否定している。
「ちげーよ!! 誤解すんなよみんな!? 確かにアリサ姉ちゃんすげぇ美人だしおっぱいでかいけど、アイギスさんの彼女を口説こうなんて思ってねぇよ!! そもそもこんながきんちょじゃ相手にされねぇやい!」
「確かに! おっぱいでかいよなアリサ様って!」
「ゼルワ……?」
……えっと、美人って言われて悪い気はしないんだけど、胸の大きさは関係なくない? いや、元男としてはわかるんだ……おっぱい嫌いな男なんていないだろうし。ブレイドくんの発言は、つい口に出しちゃったって感じかな?
サーサに睨まれてるゼルワは、うん。ほっとこう。
「ハイハイ、みんな落ち着いてちょーだい。ブレイドくんとは初対面だけどね……多分会ってるよ」
「……? 何処かで遠目に見かけた、とかですか? でもアリサ様『聖域』から出るの初めてでしたよね?」
そうだよアイギス、『聖域』の外に出るのはこれが初めてだ。まぁ、変に引っ張ってもややこしくなるだけなので答えを言ってしまおう。少年剣士ブレイド。彼は……
「メルドレード……だよね?」
なっ!!? 場の全員が絶句する。
そう、この子に感じてた既視感。その正体はかの『剣聖』メルドレードのそれだ。
『聖域』を再生したあの時、アーグラスが転生先であるアイギスに還ったように、メルドレードもまた還っていったのだろう。この、ブレイドと言う転生先に。
「……あの時戦ったメルドレードは魔王の影だったけど、こうして無事に転生先に還ってたんだね」
「『剣聖』メルドレードの転生体……確かに鑑定結果にも出ていますね。そうですか……彼もまた繋いでくれたのですね……」
しみじみとする私とアルティレーネ。うん、良かったよ。彼もこうして新たな人生に生きている事がわかって。
「アイギス、ブレイドくんを助けてくれてありがとね」
「いいえ、当然の事をしたまでですアリサ様……それに、彼を助けたことで、貴女と出会うことが出来たのですから……私こそ感謝すべきかもしれません」
ふふって二人で微笑み合う。そうだね、なんだかんだで総てが今に繋がっている。
「俺があの『剣聖』の生まれ変わり……え、でも冒険者登録したときの鑑定じゃそんなのなかったぜ?」
「鑑定にもレベルってのがあるんでっすよぉ~おっぱい大好きブレイドくん?」
「ちょっ! 誰がおっぱい大好きぼうやだ!? アリス姉ちゃん勘弁してよ!」
「あらぁ~? ブレイドったら嘘言っちゃいけないわ~? いっつも私の胸に視線が来てるのわかってるんだからね♪」
「うぐっ!!?」
いやいや、アリスそれを言っちゃ……ほらぁブレイドくんが慌てちゃったじゃん、ミュンルーカも煽るなぁ~まぁ、私も胸見られてるなぁ~とは思ったけども……そういうお年頃なんだしいいじゃん別に。からかっちゃかわいそうよ?
「アリスの言うように鑑定でも使う人によって精度が変わるからね? アルティは女神だけあってその精度もずば抜けてるんだよ。ね、アルティ?」
「……アリサお姉さまを鑑定しようとしたら弾かれましたけどね? まぁ、それなりには自信がありますよ?」
おう、そういやそんなこともあったね……
「うふふ、なんにせよ落ち着いたら皆さん揃って『聖域』にいらしてみては如何でしょうか?」
「剣聖剣技でしたら、バルガスさんにフェリアさん、アイギスさんも今アリサ様から習ってますよ!」
うん、そうだねナイスだよネヴュラ。カイン。転生体である本来の持ち主に剣聖の技を返す。そしてゆくゆくはメルドレードのように門下生とったりして広めて行ければ、彼の『想い』も報われる気がするね!
「その時は是非俺もご一緒させて頂きたい!」
「俺は……アルティレーネ様の……槍術……学びたい……」
バルドくんとデュアードくんも乗り気だね! 勿論オッケーだよ!
「……魔王か、メルドレードは『悲劇の剣聖』って伝わるくらいに有名だぜおっぱいブレイド?」
「ゼオンさんまで!? 知ってるよ、魔神に魔王に堕とされたって話だろ?」
「おう、メルドレードは云わば「作られた魔王」だ。しかし、『悲涙の洞窟』に眠ってるのは違う。元々アルティレーネ様と同じ神。「本物の魔王」って事だぜ? まさかそんな大物がこんな近くにいたなんてな……」
「ゼオンさん、そうですね……ですが「未踏領域があるのでは?」と言う読みは当たりました! そこに辿り着く方法迄はわからないままですけど……」
冒険者ギルドのマスターであるゼオンに、サブマスターのエミルは『魔王』って言葉に反応している。んむ……「未踏領域」の存在に気付いたものの、そこで詰まってるらしいね。
「安心してくださいユグライア。その為に私達が来たのです。差し当たり、明後日『悲涙の洞窟』に乗り込みます。魔王を叩き起こし、今度こそ引導をお渡ししなくてはいけませんからね……」
おうおう……怖い怖い、こんなにキレたアルティレーネは初めて見るね。ティリアが、アルティレーネは結構な武闘派って言ってたけど……マジっぽいね。
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【冒険者の意地】~私にいい考えがある~
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「我々もお供します! アルティレーネ様!」
『悲涙の洞窟』に乗り込むメンバーに名乗りを上げるのが『白銀』達だ。彼等は以前にも言っていたように、「自分達の街は自分達で守りたい」と言う矜持を持って今まで『聖域』で厳しい訓練に明け暮れていた。
「ええ……アイギスさん達には道中露払いをお願いします」
ただ、流石に魔王を相手にするには時期尚早とアルティレーネに言われているので、私とアルティレーネを無事に『悲涙の洞窟』最下層迄送り届けるっていう役目に落ち着いたのだ。いや、ぶっちゃけ凄く強くなったよみんな。わかりやすい例え出すなら、ホーンライガーくらいなら五人とも一撃で倒すくらい。
バルガス達、聖魔霊一家とかなり拮抗した大一番は妹達も懐刀も四神達も感動したほどだ。まぁ、惜しくも一手及ばずだったけどね。
「ユグライアは冒険者の皆さんを率いて、この街の防衛に努めなさい。バルガスさん、ネヴュラさん、そしてアリスさんが力を貸します」
「ふむ、先程説明頂いた『氾濫』が起きるであろう日は、三日後……先手を打つ訳ですな?」
そう、私達が来たからにはもう好き勝手させない。既に近隣の村には私のオプションを配置済み。更に魔物が転移してくる可能性も考慮し、索敵特化のオプション『ちびユナイト』も多数。この『ちびユナイト』は索敵範囲に対象を見つけた時、私に教えてくれるのだ。
「ふぅ、アルティが動ける分『聖域』防衛戦よりは楽かなぁ? 魔王次第? いや、アリスに情報中継しないといけないからそれなりには忙しいか~」
そう、今回私の役目は主にサポートなのだ。まず魔王と戦うアルティレーネを見守り、状況によっては助太刀するのが一つ。
そしてその戦いに横槍が入らないように他の魔物と戦う『白銀』達のサポート。いくら強くなったとは言っても、魔物の中には『四神』クラスのもいる……っていうのは黄龍ことシドウの言葉だ。シドウに珠実、リンとジュン。彼等『懐刀』の棲処にごろごろいるらしい。『四神』達も迂闊に踏み入る事はしないくらいだそうな。今回そんな魔物が出てくるかはわからないけど、用心しておかないとね。
でもって、もう一つ。それらサポートをこなしつつ、溢れ出る魔物達の規模や動向を先程のオプション群と連携し映像通信を駆使してアリス達防衛組に伝える役目がある。
「マスターガチに忙しいでっすねぇ? サクッと終わらせて『聖域』帰って、アリスちゃんとミーにゃん大先輩とユニちゃん先輩とらぶらぶちゅっちゅ♥️ しましょうねぇ~♪」
「そうね……その為にもアリスには頑張ってもらわないと、召喚は大丈夫よね?」
「もっちもっち~♪ アリス達は基本空に陣取りますっし、マスターとのパスも繋がってますから魔力切れの心配もありません! じゃんじゃか召喚できまっしょい」
うんうん。ホントにね~アリスとはともかく、ミーナとユニとはいちゃいちゃしたいね♪ その為にアリスにも頑張ってもらわないといけない。
アリスが言った『パス』とは、私と魔力を共有する事が出来る回路のことだ。『懐刀』、『四神』と言った『聖域』の強力な面々を召喚出来るようになったとはいえ、流石に彼等を召喚するとアリスの魔力もごっそり持っていかれるのが先のテストでわかった。その対策として私と魔力を共有するイメージ魔法……『聖霊回路』を考えてみたのだ。
「……凄いな……しかし、その……」
話を聞いていたデュアードくんがなんか複雑な顔をしている、どうしたんだろ?
「はっきり言って良いぞデュアードよ、癪だと言いたいのじゃろう?」
「……ああ、ドガの言う通りだ……助けてもらえるのは有難いが、俺達にもこの街を護ってきた誇りがある」
「そうだ! アタイ達だってやれるぞ! おんぶにだっこはごめんだよ!」
そういうことか~わからなくもないかな。ドガの言葉に頷くようにバルドくんとセラちゃんが気勢をあげている。
「街の明暗を分けるであろう戦いにメイン張れないのは悔しいわ……」
「あの、差し出がましいかもしれませんけど……大切なのは街の人々を守りきる事だと思います」
「『黒狼』の皆さんも『悲涙の洞窟』に向かわれては防衛力が著しく低下しちゃうんじゃないかなぁ~?」
シェリーもやっぱり私達と『悲涙の洞窟』で元凶との決着を望んでいるみたい。リールとフォーネがそれだと街を守る戦力が減っちゃうから困ると指摘、うーん……矜持だの誇りだの掲げて意地張っちゃうのはそれだけ街を愛するが故か。逆の立場で考えると、私も釈然としないと思うから強く言えないんだよね。どうしよう?
「問題は他にもあります。冒険者達も『黒狼』の皆さんと同じ意見の者が大半でしょう」
「ああ、事情も知らねぇアイツ等は「余所者に任せてられるか!」とか言い出すだろうなぁ」
エミルくんとゼルワが街の大半の住民……冒険者達も吠えるって言ってる……マズイねぇ、まとまりのない防衛なんて上手くいかないぞ?
「よし! 俺にいい考えがあるぜ!」
ゼオン? いや、それって駄目なやつじゃ……?
「聞かせて下さいますかゼオンさん。私達『聖域組』と街の皆さんを一致団結させる妙案があると?」
「おう、任せといてくれネヴュラさん。冒険者って奴等は仲間意識が強く、そして強さに焦がれる連中だ。そこで……『白銀』、『黒狼』この街が誇る二大Sランクパーティーと『聖域組』で試合をしてもらいたい!」
試合? 何々、私達が『白銀』と『黒狼』と戦えって言うの?
「ギルドの訓練施設に冒険者達を集めて観戦してもらうぞ。そこで『聖域組』の力を見せ付けて最後に俺が宣言する! 「彼等は俺達の仲間だ!」ってな!」
「なるほど、私達を仲間として認めるかどうかを試す試練ですね? ……喜んで受けましょう」
ははーん……なんともわかりやすいこと。ゼオンの提案は私達がどこぞの馬の骨じゃないぞって知らしめる為のイベントかなぁ? まぁ、新入りが先輩冒険者達に洗礼を受ける~なんてのは結構なテンプレだし、悪くないし嫌いじゃないよ。アルティレーネも乗り気だし。
「いい考えだ。全力でぶつからせてもらおう!」
「応よ! アタイ等の実力見せてやるさ!」
バルドくんにセラちゃんがめっちゃやる気出してる。二人とも血の気が多いねぇ……
「……本気で……行く……よろしく……」
「あぁ~もぅ、みんなしてお祭り好きなんだから……すみません『聖域』のみなさん」
気を悪くしないで~って謝るミュンルーカ、静かに闘志を燃やすデュアードくん。安心していいよ~別に怒ってないし。
「ふふ、負けず嫌いの連中でごめんなさいね? でも、私も楽しみだわ……『聖域の魔女』アリサ様のお力、とくと拝見させて頂きますね!」
「へへっ! 俺も頑張るぜ! よろしくな!」
「はわわ……と、とんでもない事になっちゃった! あ、あの……お、お手柔らかに……」
シェリーは結構冷静だね、まぁ、彼女の場合負けん気より好奇心の方が強いみたいだけど。ブレイドくんとミストちゃんもよろしくね~♪
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【街の人々】~はしゃぐ子にニッコリ女神~
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冒険者ギルドの訓練施設は想像以上に広く大きい物だった。一言で言うなら野球場かなぁ?
天井はなく吹き抜け、広い敷地は簡易なポールみたいなのを地面に刺して柵としており。訓練の目的によって仕切りを区切り易く出来る、多目的な広場だそうな。
今回はその仕切りを全部取っ払って、中々広々とした広場になっている。観客席には凄い数の冒険者や、街の人々が詰めかけ満員御礼の状態。それだけでなく、この訓練場に入れずにいる人達が、ギルド内、外にまで溢れているのだった。
「いや~すげぇすげぇ! アリサの嬢ちゃんの映像通信ってのはホントすげぇぜ! 見ろよエミル! この人だかり!」
「ええ、こんな魔法があったなんて……ふふったまりませんね!」
ゼオンとエミルが詰め寄った人だかりを映す映像通信に大喜びしてて、その様子を見てるアルティレーネは嬉しそうに微笑んでいる。
「ふふふ、ユグライアったら、まるでおもちゃを与えられた子供のようにはしゃいで♪ 仕方ないですね、アリサお姉さま?」
とまあ、愛しい我が子を見守る母親みたいになっちゃってます。
今回あまりの人の多さに、観戦できない者が騒ぎを起こすかもしれないって心配が出てきたため、急遽各所に映像通信を配置することになった。イメージとしては街頭テレビと場内モニターかな?
一階受付周囲はまるでスポーツのサポーターバーみたいに、モニターを見つつ。お酒や料理が楽しめる。ギルドの外には建物の外周にずらぁーっとモニターを並べた。ちょっと高い位置にでっかいのを並べたので誰も見えないよ~ってはならないだろう。
「しかし、本当によろしいのですかアリサ様? ゼオンさんに普段通りの口調で話される事をお許しして?」
「ん、いいよ~別に? ゼオンはギルドのトップ張ってるんだし、ゆくゆくは王様になるんだし」
エミルくんが恐縮して私に頭を下げてくるけど、気にしなくて良いのに……まぁ、アルティレーネの姉だし、会ったばかりだしで仕方ないかな? そういやアイギスも様付けで呼んでるね……仮だけど恋人同士なのにそれは変だろうか? 怪しまれる可能性があるかな? 今度相談しよう。
「おーいゼオン! ドガとレイリーアも戻ってきたぞ?」
「そろそろ始めますか?」
「ああ、皆も待ちくたびれているかもしれないからな、頼むぞゼオン」
冒険者ギルドの広報員が街中を走り回って今回の試合を宣伝して、これだけの大入りを実現させてる間にドガとレイリーアはそれぞれ奥さんとダーリンさんに会って連れて来たらしい。後でみんなで挨拶に行こう。お土産もあるし。
さて、ゼルワが戻ってきた二人に気付いて『白銀』も合流。サーサとアイギスが言うように観客も待ちくたびれてきてるだろう、始めようってゼオンに催促。因みに『黒狼』は既に会場で演武したりして場を繋いでいる。
「よく集まってくれた! セリアベールの皆!」
私の拡声魔法でゼオンの声が映像通信を通して、冒険者ギルドに集った人々に届けられる。
「肌をヒリつかせる魔素で皆も感じているだろう! 『悲涙の洞窟』の氾濫が近いと!」
え? そうなの? そんなに濃いかな魔素濃度……『聖域』に比べたら全然だと思うけど……
さっきまで陽気に騒いでた民衆は、その喧騒をピタリと止めてゼオンの言葉を真剣に聞いている。
「馴れた事だが、出てくる魔物も回を重ねる毎に手強くなって来てやがる! 前回のホーンライガーがいい例だ! だが案ずることはない!!」
そこまでゼオンが話した時、映像通信がアイギス達『白銀』のメンバー達を映し出す。途端、人々が小さなどよめきを起こした。
「見ての通り、俺達が誇るSランクパーティーの片翼。『白銀』が無事に『魔の大地』から帰って来た!」
「皆、心配をかけた! 『白銀』のアイギスだ、失った腕もしっかり治して来た。それだけではない、今まで以上の修練も積んできた、安心してほしい!」
ワアアァァァァーーーーーッッ!!!!!!!!!
おお、凄い凄い。アイギス達が手を振って、その姿を見せれば大歓声が響き渡ったよ! いやぁ~ホント親しまれてるんだねぇ『白銀』のみんなは。ただ、歓声の中にアイギスに対してやたら黄色い声援が飛び交っているのがちょっと私をイラってさせるけども!?
「それだけじゃねぇ! 今回はその『白銀』を助けてくれた強力な助っ人も参戦だ! 耳の早い奴はもう知ってるだろう! 『魔の大地』……いや、かつて『聖域』と呼ばれたその地からの来訪者!」
この五人だ!! ってゼオンが叫ぶと同時、私達が映される。
誰だ誰だ? うおおすげぇ美人! めちゃくちゃ強そうな騎士がいるぞ!
『聖域』って人がいたの!? アイギスの腕治したのってアイツ等なのか!?
小娘ばっかじゃねぇか、戦えんのかよ? 氾濫舐めてると死ぬぞ!?
「うん、予想できてた」
「やっかましい連中でっすねぇ~」
「こればかりは仕方ありませんね」
私、アリス、ネヴュラが揃ってため息。まぁ、見た目で判断されるのは無理もないだろうってわかってたからいいんだけどね。私達の姿を見るや否や、それぞれにざわめくみんな。その大半が「こんなので大丈夫なのかよ?」って意見で占められてるようだ。
「あ、でもあの帽子かぶったべっぴんさん、尻撫デールを難なくかわしてスッ転ばせてたぞ!?」
「おぉ、そういやあのふりっふりのドレスの子はそのデールをボコにしてたな!」
「ああ、あの動き只者じゃねぇ……滅茶苦茶強いぜあの娘っ子等……」
「「「マジか! デールざまぁww」」」
おや、朝の騒動を見てた人が私達に気付いたみたい。それなりに評価してくれているね。
「オーケーオーケー!! みんなの疑問は最もだ! こんな余所者の女共に何が出来るんだ? ってな!? そこでだ! 手っ取り早く見せてもらおうじゃねぇか!? なぁ? 俺達は冒険者の街セリアベールの住人だぜ!」
おおよ!! 試合だ試合ーっ! いいぞいいぞーっ! 盛り上がってきたな!!
手助けしてくれるってならその力を見せてくれ! ウチはいつでもメンバー募集中だぜーっ!?
無理すんなよーっ!? 普通に客人でもいいんだぞー!?
「ふふふ♪ この気風……やはりみなさんセリアルティの民ですね。今も変わらず繋がれていて嬉しいです」
ワイワイと騒ぐ人達は別に私達を卑下する訳でもなく、結構好意的に受け止めてくれてるみたいだ。ん~なんか背伸びする子供に、無理しなくて良いんだぞ? って、優しく諭す親御さんみたいな?
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【試合前の一幕】~尻撫デールに容赦はない~
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「やあゼオン。君も酷なことをさせるねぇ~?」
「うわっ! デールさんだ、逃げようフォーネ!」
「きゃーっ! お尻撫デールさんよぉ~いや~ん♪」
デールのおっさんがゼオンに接触してきた。彼を見るとリールとフォーネはそそくさと距離を取って私達の後ろに隠れる。そろそろ出番なんだけどなぁ……
「おやおや、これは手厳しい。先程は失礼したねお嬢さん」
「おーやおやぁ? まーたぶっころがされに来たんでっす? 今度は命の保証でっきませんけど、よろしいですぅぅ?」
「やめんしゃいアリス。このおっさんは寂しがり屋さんなのよ。で、何しに来たのかしら?」
「ははは、いやいや……ホント手加減願いたい、いい歳したおっさんが泣いてしまうよ? ちょっとした世間話をしに来ただけだよ」
おっさんを見てアリスが軽く魔力をその身に纏わせる、流石におっさんも同じミスを二度も繰り返す程お馬鹿さんじゃあるまいて。念のためアリスを止めたけども。さて、世間話とな?
「いかなSランク『黒狼』に『白銀』とはいえ、この方達相手では荷が重いだろう?」
「ははっ! なんだデール? アリスのお嬢ちゃんにボコられて思い知ったって顔だな?」
ガハハって笑うゼオンにため息デールのおっさんである。
「良いんだよ、『黒狼』の連中にとっちゃいい薬にならぁな。アイツ等最近伸び悩んでたからな……『白銀』に至っては委細承知のうえだ」
「悪いようにはしませんから安心して下さいね……ええっと、諜報部隊を纏めていたガディの子孫の方ですよね?」
「!? これは、驚いた……遠い祖先の名を知る人がいたとはね。貴女は一体……」
ふむふむ……『黒狼』は伸び悩んでるのか、じゃあお相手しつつどんなもんか見てみよう。そうそう、今回の試合は二回に分けられる事になった。最初は『黒狼』を相手に私とアリス、カインで、行い、次に『白銀』の相手をアルティレーネ、バルガス、ネヴュラが努める。アルティレーネが戦う姿を見るのは私も初めてだからちょっと楽しみだ。
デールのおっさんには悪いけどこれは私達の力を示して街の人達に認めてもらうっていう大事なプロセスだから我慢してちょーだい。ってか、あんたもセリアルティ王国の関係者の子孫だったのかい?
「私の可愛い妹よ~さて、そろそろ行くね? アリス、カイン準備はいい?」
「いっつでも~!」
「小さいままじゃどうにも……アリサ様、魔法を解除して下さい」
おっと、そうだった。カインにかけた小さいは可愛い解除しないとね!
「アリサちゃん頑張って~♪」
「アリスちゃんもカインちゃんもね~♪」
「ふふっ楽しんで来てくださいねアリサお姉さま。アリスさんとカインもいってらっしゃい」
「「いってらっしゃいませ! アリサ様!」」
リールとフォーネ、アルティレーネにバルガス、ネヴュラの見送りを受けて私達は二階の主賓席から上空に舞い上がって会場で見上げている『黒狼』達の所に向かう。
「「「「と、飛んだあぁーっ!!!?」」」」
なんかゼオンとデール、リールにフォーネがびっくりして叫んでるね。空を飛ぶ~なんて私達にとって日常茶飯事なんだけどな……なんかこんなので驚かれるとこそばゆいね。
「カイン! 魔法を解除するよ! いいね?」
「はい! いつでもどうぞアリサ様!」
ヒヒーンっ!! って、雄々しいカインの嘶きと一緒に会場に降り立つ。箒アリアに腰掛けた私、傘に腰掛けたアリス、そして元の大きさに戻ったカイン。
おやおや、そんな私達を『黒狼』の面々は揃いも揃ってポッカーンと口開けて見上げてるよ。プフっ! 何でそんな変な顔してるのよ?
「随分待たせちゃったかな? ごめんね、早速始めよっか!?」
「あ、あーえっと……オホン! いや、色々と聞きたいことが多くて固まってしまったんだが……」
「あっはっはー!! みゅんみゅんの変顔ウケル~♪」
「あ、あぁーっ! こらぁアリスちゃーん! 変顔とは何ですかぁ!?」
私が代表してバルドくんに遅れてごめんしたんだけど、バルドくんはちょっと呆けてた。聞きたいことが多いって事はやっぱり空飛んで来た事かね? しかし、アリスはホントにミュンルーカの事を気に入ってるんだね、今もわいわいとじゃれあっている。
「すげぇ~カインってマジでペガサスだったんだな!?」
「はわあぁぁ~カッコいい~綺麗!」
「そうですよ! アリサ様の魔法で今まで小さくなっていたんです。この姿が僕本来の姿ですね!」
元の大きさに戻ったカインはブレイドくんとミストちゃんに喜ばれている。馬って綺麗だよね、なんかそのフォルムが美しいのだ。カインはペガサスで純白の白馬なだけあって、『聖域』でも人気が高い。妹達からは勿論、アイギス達『白銀』も、ティターニア達妖精さんからも好かれているのだよ。
よく聞けば観衆からもカインに驚く声があがっている。身内が褒められて嬉しいけど、そろそろ始めようよ?
「おいおい! 見たかみんな!? いきなりすげぇな、伝説の聖獣ペガサスだぜ!」
「ゼオンさん、それだけじゃありませんよ。あのお二人空を飛んでいます! まさか『飛行魔法』ですか!? 使える人がいたなんて!」
主催側も盛り上がってるよ、しかしエミルくんの言葉ではっきりしたね。やっぱり空を飛べるのって珍しいんだ。前世の世界ならそれも頷けるけど、こっちでも珍しいのはやっぱり魔神との戦いで著しく文明の発展が遅れたせいなのかな?
世界樹の解呪と『聖域』の再生が済んだのがつい最近。それまでこの世界はゆっくりと自壊しつつあった。その事を考えれば、ようやく諸々の発展がスタートしたって言えるのかもしれない。
「アリサちゃんなんで箒に腰掛けてるんだろ? でも不思議と似合うね! ね、リール?」
「うん! アリスちゃんも傘似合う~私もあんなドレス着て傘さしてみたいなぁ~♪」
あはは、ありがと~リール、フォーネ♪ 氾濫問題を片付けたら一緒に『聖域』に行こうね! そしたらきっと二人に似合う可愛いドレスでもなんでもレウィリリーネとフォレアルーネが創ってくれるから♪
「おっしゃっ!! 盛り上がって来たっ! おっ始めようぜぇぇーっっ!!!!」
うおおおぉぉぉーーっっ!!!!!!!!!
ゼオンの号令に会場が割れんばかりの大歓声! さぁ、いっちょやりますか!!
「高給取りの二大パーティーに一泡吹かせてもらえりゃ俺もスカッとするぜ!」
こらこら、私怨混ぜるなギルドマスターさんや。
セラ(しかし、ホントに胸でっかいなアリサの奴(´・ω・`; ))
ミスト(それだけじゃないです……見てくださいあのくびれを……どれだけ細いんですかぁ?(つд;*))
シェリー(あらあら、二人ともしょんぼりしちゃって。しょうがないわねぇ~(。-∀-)♪)
ミュンルーカ「しっかし凄くエッチな体してますよねぇアリサ様♥️ どうなんです男衆~?(*´艸`*)」
デュアード(……シェリーがいるから)「……別に……(。-ω-)」
ブレイド「ミストも将来アリサ姉ちゃんみたいになるかもしれねぇし!Σb( `・ω・´)グッ」
ミスト「ぶ、ブレイドぉ~! 何言い出すのぉ~!?(*/□\*)」
セラ(ば、バルドの奴はどうなんだ!? やっぱりアリサみたいにエロい体が良いのか!?(; ・`д・´))
バルド「止めないかお前達。アリサ殿に対して失礼が過ぎるぞ?( `ー´)」
ミュンルーカ「あ、はい。ごめんなさい(´-ω-)」
セラ(あああ! くっそ紳士めぇ~! 好き♥️ でも聞きたかった~バカァ~!Σ(ノ`Д´)ノ)
アリサ「……賑やかなパーティーだなぁ~( ゜∀゜)」




