34話 魔女と王城跡地
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【王城跡地】~悲しみのアルティレーネ~《アリサview》
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盛大な見送りを受けて『聖域』から旅立つ私達。
目的である『悲涙の洞窟』で起こる氾濫の原因調査と解明のため、まずはアイギス達冒険者と伴に『セリアベール』の街に向かうのだ。
過去履歴からの予測では、氾濫が起こるまで、まだ数日の余地があるように見られるが、念のために早目早目の行動をしている。
予定では今日中に『セリアルティ王城跡地』まで移動し、そこで一泊。明朝、改めて街へと向かう。
「……見えてきました」
アルティレーネの言葉通り前方に朽ちたお城と、その城下町だったのだろう廃墟となった街並みが見えてきた。アルティレーネの表情が暗い……
前世のRPGにも廃墟になった街や城があって、物悲しいBGMが切なさをより一層深めていたけれど……こうして、リアルに目にすると比じゃない。ただいるだけで強い悲しみに支配されてしまいそう……
「……降りましょう、皆さん」
王城跡地は全体的に薄暗い、『聖域』の見送り隊と話し込んだ事もあって今や黄昏時。空から西へ沈む夕陽は美しいけれど……廃城にはあまりにも寂しい。
アルティレーネに続いて朽ち果てたお城に降りる私達。城壁から城門、かつて魔神率いる魔物の軍勢に壊されたのだろう。あちこちに破壊の跡が見られ、中には魔法に依るものだろうか、クレーターができている。
「……かつてのセリアルティは、緑に溢れ、人々は笑い合い種族の差別もなくとても豊かな国だったのですよ?」
「「「…………」」」
アルティレーネの独白が重い……返す言葉が見つからないよ。
かつて自分が愛した国。その人々。それが無惨にも壊されて、今や時代に取り残されたオブジェとなってしまった。
私も、アリスも、そしてカイン、バルガスにネヴュラ、冒険者達もただただもの悲しげな女神の背を見つめることしかできない。
「ふふ……この庭園も色とりどりの花が咲き乱れてとても美しかったのです、ユグライア達とよくお茶を頂きました……」
「……アルティ」
「「アルティレーネ様……」」
いたたまれなくなって思わず呟く妹の名前。どうしたらいいかな? 今にも泣き崩れてしまいそうなこの可愛い妹のために何かしてあげたい……私がきつくて辛くて思い切り凹んだ時、どうしてた?
「アルティレーネ様、私達の街『セリアベール』はかつての戦いから逃げ延びた者達が作った街です、きっと『セリアルティ』で暮らしていた者の子孫もいるはずです!」
「そうよサーサの言う通りだわ! 元気出してアルティレーネ様、氾濫さえ解決しちゃえばこの『セリアルティ』だって復興させることができる! いいえ、して見せるわ!」
サーサとレイリーアがアルティレーネに駆け寄り励ましてくれている。そうだね……このままじゃあまりにも寂しい、頑張って街の問題を片付けて、『セリアルティ』も復興させたいね。
『聖域』の屋敷を修繕したように私がパパっとやってもいいんだけど……それは何か違う。第三者の手、ではなく。復興を望むみんなが集って、お互いに協力し合い、成し遂げてこその『復興』だと思う。
「中継基地」
ぼぼーん!
私はある程度広さがある場所を見繕い、中継基地を用意する。以前冒険者達と一緒に『聖域』の東を冒険したときに使ったログハウスだ。そして……
「小さいは可愛い」
カインを魔法で小さくして、一緒にログハウス内に入れるようにしてあげる。
「アルティ、一先ず中に入って。今は心を落ち着けましょう? さ、みんなもどーぞ!」
「アリサお姉さま……皆さん、ありがとうございます……」
サーサとレイリーアに支えられて力なくログハウスに入って行く妹を横目に、改めて『セリアルティ王城跡地』を見る。
(う~ん……思ったほど出てこないもんだね……)
崇拝? 憧憬? わかんないけど、かつて敬愛してた女神が姿を顕したのだから、もう盛大に『想い』が騒ぐと思っていたんだけど、そんな事もなく。せいぜい一部分から強い『想い』を感じられるくらいだ……例えるならこの跡地は抜け殻のようなものかもしれない。
(ここで戦闘が激化する前にみんなを転移させて逃がしたってアルティ自身が言ってたし、人的被害だけで言うならそんなに酷いことにはならなかったのかな?)
きっとサーサが言ったように、街の方に子孫達がいるんだろう。さっきから感じる強い『想い』も気になるけど……今は落ち込んでいるアルティレーネの方が大事だね。
「マスター、お気になるなら~アリスがちょちょーいってやっちゃれまっすよぉ?」
「ううん、大丈夫。アルティを元気付けてから一緒に行こう。気持ちを整理出来ればきちんと向き合えるから」
かしこまり~♪ そう言って敬礼するアリスと一緒に私もログハウスに入る。今日はここで一泊だ。正直テントとか使う冒険者の夜営にも興味あるけど、それはまた今度。
「はぁ~やはり凄いな……容易に持ち運びが出来、雨風を凌げるうえに周囲から気付かれる事もないから見張りもいらない……」
「ホンにのぅ~このような事が冒険者達に知られたら大事じゃぞ?」
「ははっ! 街に戻ったら色々忙しくなるぜ~? アリサ様から目離さないようにしねぇとな!」
ログハウスに入るとすでに冒険者達が寛ぎ始めているね。うんうん、『聖域』で数日過ごすうちにいい感じに遠慮がなくなってきてる。それは決して悪い意味じゃなくて、より仲良くなれた距離感だ。素直に嬉しいね。
アルティレーネはソファーに座って俯いている、きっと跡地が思った以上にボロボロでショックを受けてるんだろう。隣に座るサーサとレイリーアが心配そうだ。うん、こんなときはまずこれだ。
「アルティ、はい。これを飲んで」
「アリサお姉さま、ありがとうございます……これは?」
「ホットミルクにハチミツ加えたものだよ♪ ゆっくり味わって見て、心が落ち着くから」
そう、ベッコリと凹んだ時はまず、温かい優しい味の飲み物だ……ミーにゃんポーチから取り出した湯気が立つあったかいホットミルクをアルティレーネに差し出し飲むようにすすめる。
とにかくきつくて、何も喉を通らない……そんな苦しいとき私はこれを一口一口、噛み締めるように時間をかけて飲んでいた。口内に広がる優しい甘さ、ゆっくり喉を通り胃に落ちていく温かさ。この二つがゆっくり、ゆっくりと心を落ち着かせてくれるんだ。
「さて、じゃあアルティが元気になるようなご飯を作りましょうかね♪ サーサ、アイギス。手伝ってちょうだい?」
「ふふっ、ありがとう……アリサお姉さま」
「畏まりました!」「はーい♪」
そう、私に出来ることと言えばご飯だ。辛く苦しく泣き出しそうな時、気持ちが「もう、無理……歩けない……」ってめげちゃった時は心から暖めてあげないと立ち上がれない。人によってはお酒に走る人もいるだろうけどね……そういうときのお酒って大抵よくないお酒になるんだ。
「アリサ様……何をお作りになられるのですか?」
「和食って言ってもわかんないか……ライスを炊いたのと、この味噌を使ったスープ。玉子焼き、後はじゃがいもとニンジン、タマネギに豚肉を使って肉じゃがを作るよ」
アイギスの質問に答える。そう! ついに米や味噌、醤油と言った食材が手に入ったのだよ! 青龍の爽矢が『聖域』の屋敷に手土産として米酒を持って来たことから当たりをつけていたんだけど、これが聞いてみれば大当たり! 棲処で部下と言うか住民の龍人族が製法を知っていたそうで、当然のようにアドバイザーとして来てもらった。今やフォレアルーネの『農業班』で活躍してもらってるよ♪ いずれ『聖域』産のお米が食べられるようになるだろう。楽しみ~♪
更に玄武の水菜からは海の幸。特に昆布と鰹のおかげでお味噌汁の出汁もバッチリ!
「アリサ様は一体どれだけの料理のレパートリーをお持ちなんですか?」
「ん~……そんな多くないと思うけど、この世界じゃどれも新鮮かねぇ?」
サーサが私の動きを目で追いながら質問するので、手を休めず答える。前世で一人暮らししてて、引きこもりだった事もあって食事は大体自炊してたので、当時の同年代の男性達よりは多いかもしれないけど……どうだろうね?
「手際……と言うのでしょうか? 動きに無駄がありませんよねアリサ様は……私達、逆に邪魔になっていませんか?」
「ん~手際については単に馴れだよ、次何やればいいかわかってるから動きも効率的になるの。アイギスとサーサにはお皿並べたりしてもらいたいな」
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【優しい味】~お酒より美味しいご飯で~《アルティレーネview》
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ショックでした……あの美しかった『セリアルティ』がこうも変わり果ててしまっているなんて……いえ、あの時……先日夢でも見たあの時……わかっていたのです。
ユグライア達を転移させた後、魔神は私を探し出すため……或いは見せしめとして徹底的にこの城を、国を滅ぼしたのでしょう……その目論見は今になって成功しています。悔しいですが、朽ち果てた『セリアルティ』の姿は私の心を掻き乱し、暗い影を落としました。正直……泣き叫びたい気持ちです。
「アルティ、はい。これを飲んで」
「アリサお姉さま、ありがとうございます……これは?」
「ホットミルクにハチミツ加えたものだよ♪ ゆっくり味わって見て、心が落ち着くから」
アリサお姉さまが用意してくれたログハウスのソファーに座り、サーサさんとレイリーアさんに励まされている私の前に、コトリと音を立てて置かれるマグカップ。
温かそうな湯気とふんわりとした牛乳と少し甘い匂い。アリサお姉さまの気遣いがとても嬉しいです。
「ん……美味しい」
アリサお姉さまの言う通り、頂いたホットミルクを一口。じっくり味わいます。
ほんのりと甘く、まろやかなミルクは温かく本当に心が落ち着いてくるようです。
俯いていた顔を上げ、キッチンの方に目をやればアリサお姉さまがテキパキと食事の用意をしてくれています。本当に手際がいいですね。サーサさんとアイギスさんも感心していますよ。
「うん、いい感じ♪ 二人とも、味見してみて」
小皿にスープを少量すくい、それをアリサお姉さまが口に含んで味を確かめているようです。満足のいく出来のようで笑顔でサーサさんとアイギスさんにもすすめていますね。ふふ、なんだか私も楽しみになってきました。
「アルティレーネ様、落ち着かれましたか?」
「うふふ、良い笑顔をされておりますわ」
「はい、心配をかけてしまいごめんなさい」
そんな私の様子を窺っていたのでしょう、私の側に控えていたバルガスさんとネヴュラさんが安心したように私に声をかけます。いけませんね、皆さんにご心配をおかけしてしまいました。気をしっかり持ちませんと。
「アルティレーネ様、どうかご無理はなさいませんように」
「カイン殿の言う通りですじゃ、頼りないかもしれませんが儂等も力になりますでのぅ」
「ありがとう、カイン、ドガさん」
私を心配そうに見上げる小さくなったカインの頭を優しく撫で、同じく心配してくれるドガさんにもお礼を言います。ゼルワさんもレイリーアさんも優しい顔で頷いてくれています、本当に優しい人達……自然、心が温まりますね。
「はいはーい♪ みんなお待たせ♪ ご飯にしましょう」
「おぉ! 待ってましたアリサ様!」
「うーん♪ 今日もまたいい匂いね~楽しみ!」
アリサお姉さまの一声に場が沸き立ちます。もう、皆さんたら、完全に胃袋掴まれていますね♪ かくいう私もそうなのですけれど。
キッチンからアリスさんとアイギスさん、サーサさんにアリサお姉さまが両の手に料理を乗せた盆を持ちテーブルに並べていきます。
椀によそられたライスと、味噌と言う青龍……爽矢の里で作られている調味料を用いたスープにはじゃがいもとタマネギ。そして皿に乗った同じくじゃがいも、タマネギ、ニンジンに豚肉を調理したのでしょう煮物かしら? 四角い平皿には、何かしら? 黄色い所々白い模様が入った柔らかそうな長方形の塊が四つほどに切り分けられて並べてあります。
「ご飯にお味噌汁、肉じゃがに玉子焼きだよ。箸で食べてほしいけど、馴れないと難しいからね。はい、スプーンとフォーク」
お箸。アリサお姉さまが元いた世界では一般的な食事を取るための道具だそうです。二本の細い棒を器用に使い、料理を挟んだりして口に運ぶのだそうですが……馴れないと本当に難しいのです。
この中でお箸を使えるのはアリサお姉さまとアイギスさんのお二人だけです。私も一生懸命練習しているのですけれど、なかなか慣れませんね。
「何気に器用だよなアイギスって……」
「ちぃっ! 今のうちに勝ち誇っているがいいですよ……アリスちゃんだってすーぐ使えるようになってやりますからねぇ~!」
もう少しで使えるようになりそうなのがゼルワさんとアリスさん。お二人はアイギスさんに先を越されたみたいで悔しげですね。別に競うものでもないと思いますけど……
「ふふっ私は直接アリサ様から手解きを受けているからな、当然だ……と、言いたいんだが……」
「なんですかアイギス!? 私も一緒に受けましたが!? ええっ、未だに使えませんよ? なんですかなんですか!?」
サーサさんです……アリサお姉さまと一緒にお料理をすることも多く、その間にお箸の使い方も教えてもらっているそうなのですけれど……アイギスさんが先に使いこなせるようになってしまって、少し拗ねているんですね。
「あはは、サーサが意外とぶきっちょで、同じく意外にもアイギスは器用だったんだよね。ほらほら、箸なんてそのうち使えるようになるから、ご飯食べましょう!」
いただきます! アリサお姉さまの声に合わせて私達もいただきます。しっかり食材へ感謝の気持ちを込めて。まずはお味噌汁と言うスープ。
「うんっ……これは……なんて優しい味わいでしょう……」
口に含んだスープからはまろやかな味噌の塩気と昆布出汁の旨味が感じられ、じゃがいもとタマネギを食して見ればそのホクホクとした柔らかさと甘味がとても美味しい。
「ほぅ……」
思わずため息です。本当に美味しい……そして温かい、その優しい味わいは体の芯からじわり、じわりとゆっくりと温めてくれるようです。ライスと一緒に頂くとこれまた美味しいですね。
そして次に手を伸ばしたのが肉じゃがと言うお料理。これもまたじゃがいもが煮汁を吸ってとても美味しく仕上がっています、塩辛さの中にほんの少し甘さがあって……お醤油とお砂糖ですか? まぁ! お酒まで使われているんですか、奥が深いのですね……
玉子焼きと仰っていた黄色いもの。どうやらオムレットのようですね。
「っ!?」
玉子焼きを一切れ頂いて、思わず絶句してしまいました……美味しい。なんて優しく甘いのかしら。外はふわふわで中身は少しとろけて……知らず涙が流れてきました。
「アルティ、大丈夫? 美味しくなかった?」
「──っ、いいえ……いいえ。美味しいです、とても美味しい!」
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【騎士達】~女神の帰還~《ゼルワview》
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おいおい、アルティレーネ様が泣いちまったぞ!?
アリサ様が用意してくれた晩飯。ライス、ミソスープ、肉じゃが、オムレット。どれもこれも美味いのなんの!
「ご、ごめんなさい……なんと言うか……あまりの美味しさと言うか……この全てのお料理からアリサお姉さまの優しさが伝わってきて……感極まってしまいました……」
あぁ~なるほど! 確かに。このミソスープと言い、肉じゃがと言い、何て言うか上手く言えねぇけど……優しいんだよな、味が! 別に味が薄いって訳でもなくてよ、なんつーの? 口にするとなんかこう~ジーンってくるんだよな!
「わかりますよアルティレーネ様……この優しい味わい……とても心が温まります」
「むっつりさんに同意しますよぉ~特にこの玉子焼きがきます!」
アイギスの意見に珍しくアリスさんも頷くくらいだ、そのくらいこのオムレットはすげぇ……
「上手く出来て良かったよ。このメニューは私が前世で辛い思いして、さっきのアルティみたいに泣きそうになったときによく作ってたの……お酒に走った事もあったけど、大抵次の日に後悔したからねぇ……」
やっぱり凹んだ時は美味しいご飯が一番よ。ってしみじみと語るアリサ様。なるほどなぁ~含蓄ある言葉だぜ……俺もそう言う時は酒じゃなくてメシ食うとするか。サーサに頼んでよぉ。
「うむ、酒とは楽しむ物よ……」
「その通りじゃ。やけ酒で逃避など勿体ないわい」
バルガスさんとドガがアリサ様の言葉にウンウン頷いてるな。と言うかこの二人仲良くなったなぁ~まぁ、俺もパルモーとはだいぶ仲良くなったけどよ。サーサにレイリーアもネヴュラさんとフェリアちゃんといい関係築いてるみてぇだし……『悲涙の洞窟』の氾濫解決して、『セリアルティ』復興して……へへっまだまだやること沢山あるからな~! 『聖域』のみんなとはこれからも仲良くして行きてぇぜ!
「どうかなアルティ? 元気出た? ちゃんと向き合えそう?」
「……はい、もう、大丈夫です! ありがとうございますアリサお姉さま」
ああぁ……もう食い終わった……相変わらずアリサ様の作る料理は美味い。無我夢中で食っちまう……で、気付けばもう残ってねぇんだよ……あーもっと食いてえぜ。俺ってこんなに食い意地悪かったんだなぁ~いっそのこと俺もアリサ様から料理教えてもらうかな。
「あ~アリサ様いいですかね?」
「はいはい、お代わりね。ちょい待って~」
おう……タイミングのせいか、俺がもっと食いたいって思ってるように取られたみてぇだ。いや、食いたいけどな!
「あーそれもなんですけど……俺みたいな大雑把なヤツでも料理って出来るもんですかね?」
「お、ゼルワも作ってみたくなったの? あるよぉ~簡単男メシ」
おぉ! マジか!? 聞いてみるもんだな!
「是非教えて下さい! 正直舌が肥えちまって今後の飯が不安なんですよ!」
「はいよ~明日街に着いたらみんなで食材買って回ろうね。はい、お代わりどうぞ~」
「あざーっす!!」
「もう、ゼルワったら……う~ん、でも一緒にお料理を作るのも楽しそうですし、よしとしましょうか」
ははっサーサにばっかり負担かけさせんのも悪いしな、簡単なもんなら俺も作れるようになっておいて分担するもよし、一緒に作るもよしだろうぜ。
「腹八分にしておきなさいよゼルワ? アリサ様のログハウスとはいえ、今は移動中なんだから」
「おう! わかってらーな!」
「そうそう、大丈夫だと思うけど、いつでも戦えるようにしといてね? これからちょいと気になる場所に向かうから」
えっ!? アリサ様の唐突な言葉に俺達は揃って声をあげる。アリサ様が気になるっていうくらいだ、かなりやべぇ場所なのか!?
俺達はログハウスから出ると、アリサ様の先導で王城の跡地を歩く。
向かう先は城の外か、城門を抜けて街跡に続く広場。どうやらここがそうらしいな。
「うん、ここだね……強い『想い』を感じる……アルティ、いい?」
「はい……向き合う覚悟は出来ています」
アリサ様が足を止め、アルティレーネ様に向き合い問いかけている……なんか読めて来たぜ。
ここはかつての魔神戦争で滅んだ王国、創世の女神アルティレーネ様の祝福を受けた国だった。じゃあ、そこに残る『想い』ってのは……
《おおぉ……》
アリサ様の権能がその『想い』を呼び起こす。俺達の前に現れたのは……
「防衛の一番槍を担った、セリアルティ王国聖騎士団……ビット小隊長が率いた第三騎士団……」
《おおお……お懐かしゅう御座います……》
《貴女様のご帰還……》
《《《我等一同お待ち申しておりました……》》》
幽霊か? はたまた残留思念かはわからねぇ……アルティレーネ様の呟いた一言に敬礼を返す、その透けた姿の騎士達からは敵意は感じられない。
「ビット……そして、誉高きセリアルティ王国聖騎士第三騎士団の皆さん……」
アルティレーネ様は第三騎士団の面々を見据え、噛み締めるように言葉を紡ぐ。すげぇ、見るからに屈強な騎士達だ……こうして向き合ってるだけでその強さっていうか、揺るがねぇ意思を感じる。今となっちゃお伽噺だが……当時の騎士ってのはこれほどすげぇのか……
「ただいま帰りました……ありがとう……貴方達が奮闘してくれたお陰で皆を逃がす事が出来、魔神の脅威も去りました」
《《《おおぉーっ!!!》》》
「城や街は残念ながら滅ぼされてしまいましたが……必ず復興して見せます!」
《アルティレーネ様……我等に寄り添い苦楽を共にした親愛なる女神よ……》
《我々の想いは今報われました》
《貴女様と民を護る事が出来、本望に御座います!》
そうか……今まで、女神様がなんで国の復興を望むのか正直理解出来ていなかったが、ようやくわかったぜ……そうだよな、これだけの想いを背負ってるんだ。この騎士達のためにも報いてやりてぇよな!
「安心してほしい、勇敢なセリアルティの騎士達よ。我々も国の復興のため尽力させて頂く所存だ」
「うむ、任せておいてくれんかの! 以前よりもそれはそれは立派なもんにして見せるわい!」
《おぉ……貴殿方は……有難い、勇者殿達の力も貸して頂けるならば、我等も安心して逝けると言うもの》
《頼みましたぞ!》《再びこの地に人々の笑顔が戻らんと願いて!》
あぁ、コイツらちゃんとわかってるんだな……今の自分達が既に過去の人間だって……随分長いこと待ってたんだな……気が気じゃなかったろうに……ちっ! なんて奴等だよ……泣けてくるじゃねぇか!
「約束するぜ! この『セリアルティ』を必ず復興する。だからお前らも安心してくれ!」
「貴方達の最後まで人を思いやる心。しっかり学ばせてもらいました!」
「ありがとう! 今のアタシ達が在るのは貴方達のお陰よ!」
俺とサーサ、レイリーアもこの誇り高い騎士達に向かって敬礼する。こんなに心が打ち震えるのはいつ以来か? 死を賭して女神を、国民を護るために戦い。そして死して尚、彼等の無事を憂いている……騎士の中の騎士!
「貴殿達の騎士道に敬意を表する!」
「後の事はどうか我等に任せ、安らかにお休み下さいませ」
バルガスさんとネヴュラさんも感心したみてぇだ、俺達と同じように敬礼を返している。
「あーあー、えっと~ビットさんでしたかね? レウィリリーネ様も、フォレアルーネ様も無事なんで今昇天すれば、もしかするとこの国の新しい命として輪廻させてくれるかもしれまっせんよぉ?」
《なんと!? それは誠ですかな!?》
《おぉ! またこの国の民として生を受けられるのか!》
おいぃ~? アリスさん緊張感ねぇなぁ……まぁ、でもそいつはいいな!
「勿論……えぇ! 貴殿方が望むのであれば、またこの国の民として生まれますよう、取り計らいます!」
「でも良いの? まったく別の場所、別の人生ってのもまた魅力あるかも知れないよ?」
《構いませぬ。セリアルティの民として生まれ、今度こそ平和の世を見てみたい》
《如何にも……我等は今一度、花咲き、緑豊かで笑い合う民が暮らす、かつてのセリアルティ王国を見たいのだ》
これってある意味すげぇ特典? 特権? なんじゃねぇの? この騎士達皆来世での人生約束されてんじゃん! しかもアリサ様の提案にもなびかず皆が皆、もう一度セリアルティに生まれたいって……アルティレーネ様、マジに慕われてたんだな。
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【また会おう】~揺るがぬ意思~《アリサview》
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「改めて、私は『聖域の魔女』アリサ。色々あってアルティ達の義姉になったの。妹を支えてくれてありがとう、勇敢で優しい騎士団のみんな。どうか安らかに……」
《私はかつてセリアルティ王国、聖騎士第三騎士団の隊長を務めたビット。こちらこそ礼を言いたい。我々の『想い』を汲んで、再びアルティレーネ様と会わせて下さった事、心より感謝したい!》
第三騎士団は国が魔神に攻め入られた時、真っ先に戦い勇敢にも散っていった騎士達なんだそうだ。彼等以外には感じ取れる『想い』が見付からないので、やはり他の住民達はアルティレーネの転移によって別の場所に飛ばされて難を逃れたのだろう。
「……マスタぁ、この人達マジにパないでっすねぇ」
「え? パないって……アリス、何がよ?」
ビットにお礼を言って、二、三言葉を交わした後。アルティレーネと話をしている騎士達を見て、アリスが私に耳打ちしてきた。ちょっとくすぐったい。
「普通、こんなに長い期間幽霊だの、残留思念だので居続けたら、悪意に晒されて悪霊になっちゃうんでっすよぉ~?」
ふむ……聞くところによると幽霊や、残留思念とは剥き出しの精神体だそうで、周囲に漂う悪感情の『想い』……怨みや、悲しみ、敵意、殺意等の影響をもろに受けるのだそうだ。それのせいで、生前の人格や、善性は失われて行き最終的には全てを憎む悪霊に堕ちてしまうそうな。
「……それは、確かに半端ではありませんね。まさに揺るがぬ意思。と言う事でしょうか、私も見倣わねば……」
「並大抵の事じゃあ、ありゃ~せんよぉ~? マスターの無防備さに都度きょどるようなむっつりんには難しいんじゃないでっすかねぇ~フヒヒw」
「うぐっ……精進します!」
見倣えるかなこの意思の強さ……私なんてかなりぶれっぶれだしなぁ~。アリスにからかわれてるアイギスだけど、彼ならきっとこの騎士達……ううん、それ以上になれる気がするけどね。
《……では、アルティレーネ様。そして勇者殿、アリサ殿達。名残惜しゅう御座いますが……》
《我々も還ります……》《永い時を待ち続けて良かった》
《今一度、アルティレーネ様のご尊顔を拝謁出来たこと嬉しく思います!》
「ビット……皆さん……今まで待ってくれて、本当に……本当にありがとう!」
別れが近付いているみたい。
ビットを始め、騎士達は皆が皆、満足気な表情だ。そしてアルティレーネはその瞳に大粒の涙をたたえて泣いちゃってる。
「アルティ、彼等の新しい旅立ちだよ……頑張ろう、そんな悲しい顔してたら皆不安になっちゃう……笑顔で見送ろう」
「はい……はい、アリサお姉さま。ごめんなさい、そうですよね……」
《ご安心下さいアルティレーネ様。我等一同、またこの国に生まれ再び貴女様とお会いするでしょう》
《記憶は失われるかもしれませんが、貴女様が忘れぬ限り、我々は消えませぬ》
「はい……! 決して忘れません。誇り高きセリアルティ王国、聖騎士第三騎士団。貴方達は私、『生誕』を司る女神アルティレーネの心に永遠にその名を刻みました。願わくば、皆さんの今後の生に幸多からん事を!」
笑顔だった。
アルティレーネも、ビット達、騎士のみんなも……
良かった、ちゃんと綺麗にお別れが出来て……この世界にはこんな沢山の『想い』が残っているんだろう。その全てをすくいあげる事なんて出来ないけれど、少しでも多く拾ってあげたいね。
さぁ、感極まって泣き崩れた可愛い妹を慰めて、今日は休もう。
明日はいよいよ『セリアベール』の街だ。色々やること、やりたいこと沢山ある。期待もあれば不安もあるけど……楽しみだね!
サーサ「ホットミルクはちみつ入り……( ̄¬ ̄)じゅるり……」
レイリーア「以前食べたホットケーキに合うんじゃないかしら?Σ(゜Д゜〃)」
ネヴュラ「まあまあまぁ~なんて素敵な組み合わせ! 是非試してみたいですわね(*´∇`*)」
アリサ「ん~? まぁ、合わなくはないだろうけど……糖分とりすぎになりそうだね……ホットケーキに使う砂糖少し減らして作るかσ(´・ε・`*)」
ゼルワ「おおっ! やった、またあのホットケーキが食えるんですね!(*´∇`*)」
ドガ「んむ、あれはなんぞ疲れはてた時に無性に食いたくなるんじゃよなぁ(´д`ι)」
アリサ「バターを乗せて、更にはちみつをかけて……はいアルティ♪ 贅沢ホットケーキだよ( ・∀・)っ元気出してね(*´∇`)」
アイギス「おおお……美味しそうだ!(*゜Q゜*)」
アルティレーネ「ありがとうございますアリサお姉さま( ノД`)…」
アリス「ホットミルクは結構簡単でっすねぇ~アリスちゃんでも作れましたよぉ!( ・∇・)」
カイン「うーん、僕も頑張って人化の術覚えようかなぁ~?(-ω-)自分で作って食べれるようになりたい(´ρ`)」
アリサ「おーおー、頑張ってみそ(^∇^)そん時は料理教えてあげるからね♪」
アルティレーネ(ふふ、皆さんと一緒にわいわいしていたら寂しさも吹き飛んでしまいました……ありがとう、みなさん(*⌒∇⌒*))




