33話 魔女と旅立ち
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【互いの虫除けに】~恋人(仮)~《アリサview》
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「ねぇ~アリサ様アタシからの依頼を受けて見る気はないかしら?」
「レイリーアの? 内容によるけど、どんな依頼?」
「うふふ♪ アイギスの恋人役になってほしいのよ♥️」
え……ええぇーっ!!? こ、恋人ぉっ!!?
「レイリーア! 何を言い出すんだいきなり、アリサ様に失礼だろう!?」
びっくりしてる私の横からアイギスがレイリーアに抗議する、いや、ホント何言い出すのよ! あっ、ほら~アリスが殺気立ってるじゃん!
「は? どーいうことでっすかねぇ~? ちょいとアリスちゃんにkwsk教えてもらえますぅ~?」
「あばばっ! ぐるじぃアリスちゃん! ちゃんと話すから首締めないで~!」
レイリーアの後ろから左腕を首にかけ、右腕できゅっ! ってするアリスに、レイリーアが思わずタップしてる。
「ケホッ! ほら、アイギスってば腕治ったでしょ? そして見違えるように強くなったし、また女の子達が言い寄って来ると思うのよ?」
「あ~確かにそうかもしれませんね、アイギスモテますし……」
……ふぅ~ん、そうですかそうですか。アイギスってばモテモテですか。そうですか~!?
街の可愛い女の子達に言い寄られてデレデレしちゃうんですか。そうですか~!?
そーいえば妖精の女の子達にもキャッキャされてましたねぇぇ~!?
「何かと思えば……レイリーアもサーサも考えすぎだ。見た目や名声目的が透けて見える女性など眼中にない」
「いや、アイギスがそうでも向こうはお構い無しなんだぜ?」
「やれやれ……辟易しとるお主の姿が今から目に浮かぶわい……」
うー……なんか、面白くないなぁ~なんだろうこの気持ち。そりゃあ、アイギスはイケメソだし、元男だった私から見ても格好いいと思うよ。誠実で優しくて自分に厳しい紳士だもん……女の子にモテるのも理解できるけど……うー、モヤモヤするなぁ~。
「アリサおねぇちゃん変な顔になってるよ~おもしろーい♪」
「あはは! ほっぺプク~ってしてそのジト目~拗ねたレウィリ姉みたいでおもろ~♪」
「むぅ……あたしそんな顔しない」
ええいっ! やかましいわこの可愛い妹達め! 私はユニを捕まえてぎゅってした後、髪をくしゃくしゃってしてあげた。
「きゃー★ アリサおねぇちゃん~ユニの髪くしゃくしゃだよぉ~♪」
「むふふ~後でお風呂で丁寧に洗ってあげるからね~ユニ♪」
「なによアイギス、アリサ様じゃあ不満なのかしら~? それならアリスちゃんが良い? それともアルティレーネ様? あ、ネヴュラさんは駄目よ? バルガスさんがいるんだから!」
レイリーアが飛ばす飛ばす。とんでもない発言にアリスがまた殺気立ち、アイギスを軽蔑の眼差しで見る。アルティレーネはわかっているのか、いないのか……何故かニコニコしてるし。ネヴュラは丁重にお断りしますと頭を下げている。律儀だねぇ。
「いい加減にしろレイリーア。悪ふざけが過ぎるぞ? アリサ様、アリス殿、ネヴュラ殿、アルティレーネ様、不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」
「う、ごめんなさい。調子にのっちゃったわね……」
いや、そこまで大仰に謝らなくても大丈夫だってば。ホント真面目だねアイギスは、もう少し「遊び」を覚えた方が良いんじゃないかな?
「あら? 別に大丈夫ですよ? あくまで恋人のフリをするだけですよね? アリサお姉さまどうなさいますか?」
「うぇ? えっと……」
うぅ、どうしよう? フリとはいえアイギスと、こ、恋人……に、うぅっ! 顔が火照る……ドキドキするっ! いや、だからフリだってば! そんな緊張しなくても……
「受けておいた方がいいわアリサ姉さん。アリサ姉さん自身の虫除けにもなるだろうからね」
「へ? 私にも虫除けって……ティリアどういうこと?」
「アリサ姉さんが男共に言い寄られるって事」
ゾワワッ!!
ティリアの説明に身の毛がよだつ思いを感じる、じょ、冗談じゃないぞ!? 只でさえ人嫌いの私だ、見知らぬ人……それも下心丸見えの男共が寄って来られたら……ゾッとする!
「うっ受ける! 受けるからアイギスはちゃんと私を護って~!」
「あ、アリサ様……わかりました! このアイギスにお任せ下さい! 必ずや不貞の輩からアリサ様をお守り致します!」
うおお、心強い~! そうだよ、自分の心配しないと。前世と違って今の私は自分で言うのもなんだけど、結構目立つ容姿をしているんだし。
「アリサ様の服装もかなり珍しいんだろ?」
(街で有名な冒険者パーティーが珍しい格好の美人連れて来たってなったら注目の的でしょうねぇ~?)
「お前達、しっかりアリサ様をお守りするんだぞ!? アリサ様に何かあったらただじゃおかないからな!」
そう、パルモーの言う通り私の魔女服って珍しいらしいんだよね……エスペルが危惧する展開も大いにあり得る。フェリアも心配してくれてるし、気を付けて行動しよう。
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【魔女さん観察】~女神達の思惑~《ティリアview》
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そう提案してから数日間。私はアリサ姉さんの様子を伺っていたわ。
うん、一言で言うと「初々しい」ね。付き合い始めたばかりの二人って感じ。
まず、アリサ姉さんは毎朝早起きして朝食を準備。そうしてアイギスを優しく起こして、今度はお昼のお弁当を作る。これがまたなかなか豪勢で、しかも日に日にレベルアップしていった。卵焼きめっちゃ美味しかったわ! 妹達と争奪戦になりかけたのは余談だ。
そしてお昼。アリサ姉さんとアイギスは剣聖剣技の訓練の後、景色の良い場所で一緒にお弁当を食べる。それはいい、普通だろう。しかし、ここにユニと珠実が交ざる事がある。そうすると……
「はい、ユニ。あ~んして♪」
「あ~ん♪ んん~! 美味しいよぉアリサおねぇちゃん!」
隣り合って座るアリサ姉さんとアイギスに向き合う形でユニと珠実が仲良く座れば、ここぞとばかりに……いえ、いつもかしら? ユニを甘やかすアリサ姉さん。
「珠実殿も如何ですか?」
「おぉ! 頂こうかの! ホレ、アイの字よ妾にも食べさせい! あ~ん♪」
「ふふ、はいどうぞ」
お弁当のおかずをあ~んでユニに食べさせるアリサ姉さんを真似て、珠実にあ~んさせるアイギス。それだけなら微笑ましい光景だけどね。
「あ、アイギスも……食べ、る?」
「は、はい……い、いただきます……アリサ様」
「あはは♪ 二人共顔あかーい!」
「ふはは! 初々しいのぅ~良き哉良き哉♪」
もう~二人して照れながらもお互いにあ~ん♥️ 監視してる方が恥ずかしくなったわよ!
それから、アイギスはアリサ姉さんとの剣聖剣技の訓練の後。四神達や懐刀達、バルガス達とまた激しい訓練をするのだけど、当然怪我が絶えないわ。それを治癒魔法使わずに、わざわざ塗り薬で丁寧に手当てしてあげるアリサ姉さんの甲斐甲斐しさと言ったら……怪我した彼氏をお世話する彼女そのものだったわねぇ。
なんで魔法で治さないのかと言うと、ポーションよりも安価で効果の高い。一般にお求め易い傷薬の試験なのだそうだ。こういうの治験って言うんだっけ? ポーションよりは治りが遅いけど、ちゃんと効くみたい。
ポーションがほんの一瞬で傷を塞ぐのに対し、塗り薬はゆっくり、半日くらいかけて治していくみたい、傷の度合いにも依るだろうけど、これならポーションとの使い分けが出来るんじゃないかってことだ。
後からアリサ姉さんに聞いた話だけど、前世でやった数々の恋愛シミュレーションゲームに登場したヒロイン達の行動を真似ただけで、アイギスを恋人として見ているかはわかんないとか言うのよ!? あんなに顔をふにゃふにゃにとろけさせておいて何を言うのかこの姉は?
まあ……前世でのアリサ姉さんは恋なんてしてる余裕もなかったから、その答えにも納得できるんだけど、教えてやるのも何か癪なのよねぇ~。
いや……だってさ、アイギスの奴、アーグラスだった頃は私にあれだけ「好き好き」言っといて、転生してみれば、何かにつけて「アリサ様アリサ様」なんだもの! 恋愛感情抱いてなくても「何だコイツ!?」ってなるわよね、わかってくれる?
「うーん、自分で気付かないといけない感情だと思うし。わざわざ私達から言うことないわよね?」
「はい、遅かれ早かれアリサお姉さまはご自分で気付かれるでしょう」
「ふっふっふ~アリサ姉がどんどん女の子になってく様が間近で見れてうちは楽しいよ~♪」
「後はアイギスがあたし達の試練をクリアしてくれれば……」
そう、アリサ姉さんの精神は徐々に女の子のそれに近付いてきている、淑女教育も経て仕草もだいぶ女性のそれになってきたわ。ティターニアとネヴュラには感謝しないといけないわね。今じゃ何処に出しても恥ずかしくないし。
で、レウィリが言ったように、アリサ姉さんに内緒でアイギス達『白銀』には私達の試練を受けてもらっている。それが三国家の末裔の捜索、そしてそれを達成したら今度は三国家の復興。どちらも厳しい試練だけど是非達成してもらいたいわ。正直アーグラス……今はアイギスだけど、彼以上にアリサ姉さんに相応しい相手はいないって思うから。
「アリサ姉さんも自分で気付いてないだけで、だいぶ惚れこんでるわよね……」
「うふふ♪ 妖精の子がアイギスさんを「格好いい」とか言ってちやほやするとアリサお姉さまったら、ユニみたいに頬をぷくーってさせるんですよ! 可愛いです♪」
確かに。でも、そのくらいならホント「可愛い」の一言で済むんだけど……
「あの大馬鹿みたいにならないように、私達でしっかりサポートしてあげなきゃいけないわよ? アリサ姉さんって、多分だーいぶ重いだろうし」
「そうだねぇ……あの献身っぷり見る限り、気持ちに気付いたら凄そうだ~」
「無意識だろうけど、アリサお姉さんは愛し、愛されたいって欲求が強い……」
魔神を愛するあまり、率先して魔王に堕ちて、言われるままにこの世界を滅茶苦茶にしたかつての私の部下。あの大馬鹿女神のように惚れた相手の為なら何でもするような女にはなってほしくない。
「一番危ないのは、アイギスさんを失ってから気持ちに気付いて狂ってしまう。と言うパターンでしょうか?」
「それか、アイギっちを他の女に取られて嫉妬に狂っちゃうとか?」
ありえる~! 私達は揃って頭を抱えてアリサ姉さんが「堕ちる」可能性を考える。いずれにせよ、鍵になるのはアイギスの存在。なんとしても彼を守らないといけない。
それがアリサ姉さんの心を、ひいてはこの世界を守ることに繋がるだろうからね。
「話は変わりますが、ティリア姉様。魔王達はやはり『神界』に還ってはいないのですね?」
「ええ、その通りよアルティ……七人共還って来てないわ」
「マジ? ヤバイじゃん……あれからもう結構な時間過ぎてるよね?」
「ん、もういつ復活してもおかしくない時期……」
先に述べた愛に狂った大馬鹿含め、七人の魔王がアーグラス達に倒されてからもうかなりの年月が経っている。何とか先んじて妹達の顕現、『聖域』の再生に漕ぎ着けたけれど、あの七人は『不滅』持ちだ。『神界』に還って来てない以上、未だこの世界に留まっているのは明白。
「……今回の件、やはりあの魔王でしょうか?」
「十中八九、間違いないでしょうね……迷宮核を模倣できるヤツなんてそうそういない筈だもの」
アルティも向かう事になる『悲涙の洞窟』、そこはかつて魔王の一人が倒された場所だった。そして、そこで起きる氾濫は間違いなく魔王復活の兆し。
「アルティ姉はともかく、アリサ姉とアイギっち達は大丈夫かな……?」
「アリサお姉さんは大丈夫。絶対負けない……でもアイギス達を守らないといけなくなると思う」
「いざって時はアルティ、本気出していいわよ。あの七人の件は『神界』でも取り上げられているから」
魔神、魔王については私達神の問題だからね。世界への干渉がどうの言ってる場合じゃない。いえ……創造神である妹達以外の神が……まぁ、今は魔王に堕ちてるんだけど。干渉しようとしてる時点で規律に反しているから、寧ろ全力で止めないといけない。今度こそ『神界』に連れ還って思い切りぶん殴ってやる。一応私も動けるように『神界』の連中を説得してるところだけどね、頭固い連中だから少し時間かかりそう。
「ええ、いい加減決着を付けましょう。七人全員『神界』に叩き還してあげますね」
「うわ……出たよ、武闘派のアルティ姉が。怖い怖い!」
「ん、相変わらず、見た目とのギャップが凄い……ユニが見たら泣く」
そんなことありませんよ!? ってアルティが慌てて弁明するけど、この子結構荒っぽいのよねぇ……私の影響かな? 普段はどこぞのお姫様もかくや。って感じの立ち居振舞いなのに、一度その闘争本能に火が点けば、武神も闘神も唸らせる程の戦いっぷりを見せる。
「いずれにせよ、出発の日は近いわ。今度はこっちから攻めて行くわよ!」
「はい!」
「うちらも開拓作業進めつつ、調査しとくよ~」
「ん……『悲涙の洞窟』みたいな場所、探してみる」
不意討ちみたいにいきなり攻めこまれた前回とは違う。今度はこちらから討って出る!
復活するならしてみなさい、馬鹿魔王共! 叩き潰して裁いてあげるから!
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【ヤンデレの素質有り?】~出発~《アリサview》
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「──ってわけで、多分『悲涙の洞窟』には魔王がいると思うわ」
ちょっと~! なんでこんな出発直前にそんな新情報出してくんのよこの妹は!?
数日が過ぎて、いよいよ『セリアベール』へと出発する日がやってきた。いやはや、長らくお待たせしてごめんなさい。で、その朝一番でティリアが言い出したのが、『悲涙の洞窟』で起きてる氾濫の原因。
「魔王……ですか? ティリア様」
「そ、魔神を愛するあまり何でも言うこと聞く、魔王に堕ちた狂った女神」
アイギスが驚きつつ確認する。何でもその魔王は魔神の事が好き好きスキーで、自ら率先して魔王に堕ちたティリアの部下の一柱の女神だったんだって。うーん、ヤンデレかな?
規律なんぞ知ったことかと、とにかく魔神至上主義。「魔神様の為なら何でもします」とか言っちゃうぶっ壊れたヤツだそうな。
「正直アリサお姉さまに似ているところがあるかもしれません」
「はぁっ!? 私そんなヤンデレじゃないやい!」
いきなり何言い出すのアルティレーネ!?
「いや、アリサ姉って一途じゃん? 多分そうありたいって思ってるよね?」
「そりゃそうでしょ、まだ色恋とかよくわかんないけど……もしそういう相手ができたなら誠心誠意尽くしたいし、相手にもそうあってほしいって思うよ?」
男女のお付き合いの形は色々あるんだろうけど、フォレアルーネが言うように私は普通に純愛したい。イチャラブが良い。
「もし恋愛するなら、初めて恋したその人に生涯尽くしたいなぁ~私」
「ん、そういうとこ……」
「うん……あの馬鹿も最初は普通に恋する乙女だったわねぇ、まぁ、それを利用された訳だけども」
うぅ、経験ないからしょうがないじゃん。恋を夢見る女の子なんですよアリサさんは~! でも、なんかその魔王もレウィリリーネとティリアの話だと、普通に魔神に恋する女の子だったようだ。
つまり、相手が悪いヤツでも恋しちゃうとそこが見えなくなるってことか。
「アリサ姉って、結構チョロイじゃん? 色恋に関してはずぶの素人だし、優しさと誠実さをほのめかせば警戒薄れちゃう」
「すごく心配……アリサお姉さんは一度懐に入れた相手には滅法甘いから」
「変な男に引っ掛からないでね」ってフォレアルーネとレウィリリーネが忠告してくれるけど……あうぅっ! 私ってそんなチョロイのか? 恋しちゃうと例え相手がロクデナシでも、ホイホイ言うこと聞いちゃう都合の良い女になるのかな? 怖いなそれは、でもどうしろって言うのよ?
「大丈夫よ~女神様達! そのために仮だけど、アイギスの恋人って位置にいてもらうんだから。この世間知らずで箱入りのお嬢様はアタシ達がしっかりお守りするわ!」
「うふふ、頼もしいですね。アリサお姉さまはまだこの世界に来て日が浅いですから、私達でしっかりお守りしましょうね」
レイリーアぁ~箱入り娘って……うー、あながち間違いじゃないか……前世でも今でも世間に疎いのは変わってないし、アルティレーネの言うようにこの世界に転生して十日くらいしか経ってない。世間知らずの田舎者なんて、悪人の格好の的だろう……前世の私がまさにそうだった。
(もう、いっそのことアイギスと本当の恋人同士になれたら良いのに……)
そう思って、アイギスの顔を見ると目が合った。ニコって優しく微笑むアイギスがなんか照れ臭くて、思わず苦笑いで返事しちゃったよ。
(あぁ、ダメダメ! 自分の保身のために彼を利用するなんて駄目でしょ! ちゃんと自分の気持ちも、アイギスの気持ちも考えなきゃ、だから今は仮で我慢我慢!)
そうだよ、アイギスといれば安全だからって理由でいつまでも甘える訳にはいかない。今回は初めて街に出るから特別に彼女枠に収まらせてもらったけど、仮だと言う事を忘れちゃいけない。
私が本当にアイギスの事を好きで、アイギスも私を好きでいてくれるなら全然問題ないだろうけど……アイギスの気持ちどころか、自分の気持ちもよくわかってないってのが現状だ。そんな気持ちで「恋人」とはいかないよね? 烏滸がましいってもんだ。
「お任せ下さい! 『白銀』みんなでアリサ様をお守りしますからね」
「うむ、以前も言うたように儂等の誰かが必ず一人はお側につくようにするのじゃ」
サーサとドガもちゃんと考えてくれてるね。改めて思うけど、彼等が善良でホントよかったよ、感謝だ。頼りにさせてもらおうっと!
「おーい! そろそろ出発だってよみんな!」
「ネヴュラ、仕度はよいか? 我等は御者ぞ、一足先に準備は済ませねばならん」
庭からゼルワとバルガスが私達の様子を見に来た。いよいよ街へと出発だね!
私達は揃って庭に出て、馬車を繋がれたカインに挨拶。
「カイン、よろしくお願いしますね」
「お任せ下さい、アルティレーネ様」
「大丈夫? 重くないこの馬車……アイギス達五人乗って、バルガスとネヴュラが御者席。七人だし」
「大丈夫ですアリサ様、ティリア様が魔法で軽くしてくれましたから」
それはよかった、地上を走らせるならともかく、空を飛ぶからね。重いとそれだけ魔力使うから少し心配してたのよ。
馬車の中はそんなに広くない、『聖域』を出るまで御者はバルガス夫婦。『セリアルティ王城跡地』からは交替してアイギスとゼルワが努める事になっている。私はアリアで飛ぶし、アリスは傘を私のアリアと同じようにして飛ぶ。で、アルティレーネはというと……
「うふふ♪ アリサお姉さまと並んで空を遊覧ですね、妹達より先んじられてちょっとお得感が♪」
なんか……すんげぇごっつい槍を取り出しては寝かせて浮かせて腰かけている。なんぞそれー?
「それがアルティの武器? 凄く不釣り合いに見えるけど……」
「そうですよ。ふふ、いずれ戦う姿をお見せしますね」
おー、アーグラス達と共闘してたっては聞いていたけど……まさかの前衛ポジだったのか。
「じゃあ、行ってらっしゃいみんな! 気を付けるのよ?」
「南に懐刀と四神達も見送りに集まってるみたいだから、声かけてあげてね~後お土産よろ~(σゝω・)σ」
「ん、妖精達も見送りに来てる。アリサお姉さん、頑張ってきて」
「アリサ様~行ってらっしゃいませですわ~♪」
「「「行ってらっしゃいませ! アリサ様! アルティレーネ様! 冒険者のみんな!」」」
妹達と集まっていたティターニアをはじめとする妖精達に盛大に見送られて、私達とカインはゆっくり浮上していく。
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【皆に見送られ】~魔女さん聖域の外に~《アリサview》
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「ははっ! すげぇや、『セリアベール』出る時以上の見送りだぜ!」
「ああ、嬉しいものだな……」
ゼルワとアイギスも車窓から少し身を乗り出して手を振っているね。私達も「行ってきます」と手を振ってあげよう。そして見送りはそれだけじゃない、空を見上げてみれば四羽づつに編隊を組んだグリフォン達とそれを率いるゼーロ、レイミーア、レイヴン、そしてユナイトが私達と並列するように飛んでいる。
「おー、マスターの提案されたガルーダナンバーズでっすねぇ♪」
「見事な編隊飛行だね。見送りありがとう~総員帽フレー! なんちゃって♪」
《アリサ殿、『聖域』を出るまで我等が掩護する! 気を付けてな! いざと言う時は我等を呼んでくれ》
《アリサ様の御為、私達は即座に飛んで参りましょう!》
《アイギス殿、くれぐれもアリサ殿とアルティレーネ様を頼んだぞ!》
《無事のお帰りをわたくし達一同お待ちしております。行ってらっしゃいませアリサ様!》
アリスが言ったように、以前考えた多数のグリフォン達で構成される『ガルーダナンバーズ』のみんな。前世で見た戦闘機が活躍する動画を参考に、四羽で小隊組ませるっていう部隊編成を提案したんだ。
「こちら聖域の魔女アリサ。諸君等の掩護に感謝する!」
旅立つ私達の周囲を囲んで魔物から護ってくれるガルーダナンバーズ。その隊長達、ガルーダのゼーロ、フェニックスのレイミーア、セイントビートルのユナイト、八咫烏のレイヴンに向けて敬礼! 倣うようにアリス、アルティレーネ、御者のバルガスとネヴュラも続く。
《うおおん! 御主人いないと寂しいぜぇ!》《早く帰ってきてくれよな!》
《俺達まだ名前もらえてねぇし……》《また空戦ごっこして遊んでくれよ!》
グリフォン達もそれぞれに私達を見送ってくれているみたいだ、そう言えばまだ名前を付けてと、候補がゼーロから上がってきてないね。まだまだ足り~んってことかな? 戻ってきたらその辺聞いて見よう。
「空戦ごっこって……マスタぁ何を楽しそうな事を~アリスも交ぜて下さいよぅ!」
「お、アリスも興味あるかね? いいよ~帰ってきたら遊ぼうか♪」
空戦ごっことは、暇そうにしてたグリフォン達を誘って、空中でペイント魔法弾を撃ち合うリアルな零戦ごっこだ。ルールは簡単で、二組のチームを作り相手を追い掛けてペイント魔法弾を当てるだけ。ただ、魔法はそれ以外使用禁止。
「あら、楽しそうです。ペイント魔法弾が一回でも当たればやっつけたという事ですか?」
「うんにゃ、五~二十のランダムクジでHP……耐久が決まるよ。五引いたら、五発でアウト」
私のイメージ魔法で、クジを引いた数字がピコーンとその者の頭上に表示されるんですよ~当然、その数字がゼロになれば撃墜判定となる。
「魔法はそれ以外禁止って、難しそうでっす! でも面白そう~アリスちゃんやってみたいでっすねぇ♪」
そうそう、広範囲魔法とか使っちゃ駄目。直線に飛ぶペイント魔法弾しか使えないので、マニューバが大事になってくる。これがまた楽しいのだ! 動画で観た戦闘機の空中機動、ロールとかシザースとか失速反転、果てはバレルロールとか色々駆使して相手の後ろをついてペイント魔法弾を当てる、非常に盛り上がるゲームなのだよ。
街から帰ってきたら一緒に遊ぼうって約束して、私達は『聖域』を南下していく。朱雀の朱美の領域である南方は火の属性が強く、基本的に暖かい。これから冬になるって言うし、朱美のとこは住みやすそうだよね。
「アリサ様、見えて来ました。懐刀と四神の皆さんですよ!」
「お~! 勢揃いだね、確かユニとミーナも一緒にいるんだっけ?」
カインの声に前方を確認すれば、ズラーっと懐刀に四神が円陣を組んで私達を出迎えてくれている。ユニもリンの背に乗って、私達に大きく手を振っているじゃないか。
「おぉ、来おったのぅ~おぉい~魔女や~こっちじゃこっち~」
「ふっ、僭越ながら見送りに集まったぞ」
「アリサ様~みんな~おーい!」
「うおー! アリサ様行っちゃうのか~? 数日って言ってもさびしいぞー!」
シドウ、リン、珠実、ジュン。懐刀の四人が声をかけてくる、私達は一度足を止めて行ってきますの挨拶だ。
「懐刀の皆様。今まで大変お世話になりました!」
「四神の皆もな!」
「ふぁふぁふぁ、まーた直ぐに戻って来ると思うがのぅ!」
「ふふん♪ 今度はダーリンも連れて来るわ!」
「ちゃちゃーっと片付けて戻ってきますね!」
冒険者の皆が馬車の扉を開けてまず、皆に挨拶してる。彼等は今回の氾濫を片付けたらパーティーの拠点を街から『聖域』に移すそうだよ。まだまだ強くなりたいから。懐刀や四神達の棲処、ティターニアの妖精王国……まだ見てない所を冒険したいから……料理が美味しいから……他にも沢山理由が出たけど。一番響いたのが、「私達もアリサ様のお側にいたいのです」っていう言葉。もーすっごく嬉しくなって、その日の夜は『聖域』の面子がみんな集まって、飲めや歌えやの大騒ぎになったよ!
「私達がいない間『聖域』をお願いね?」
「おぉ! 任せてくれよ姐御!」
「うむ、案ずるなアリサ殿」
「まっかせなさい! この朱美さんがしっかり留守番してるから!」
「戻って来たらまたお料理教えて下さいね!」
妹達も懐刀も四神達もいるし、アリスの張った結界、待ち望んだ永遠もある。『聖域』の心配はいらないだろう。
「アリサおねぇちゃん! 気を付けて行ってきてね、お土産待ってるよぉ~♪」
「アリサ様、達者でなぁ~ミーナの事なら妾がしっかり見ておくでな。心配いらぬよ♪」
「うん、ユニも珠実も留守をお願いね! ぎゅぅ~!」
「うなぁ~ん♪」
リンの背に乗ったユニをぎゅぅ~♪ 続いて珠実をぎゅぅ~♪ ミーナを抱っこして頬をスリスリ~♪ あー……私の癒しのために連れて行きたいねぇ~まぁ、流石に戦闘になるかもしれない所に、ユニとミーナを連れて行く訳にはいかないけど……珠実ならいいかな?
「あ~ん、ユニも行きたいな~たまちゃんもそうだよね~?」
「うむ、じゃが主の帰る場所をしっかり守るのも大事な事じゃよユニや?」
そうだね、帰りを待ってくれているみんなを思えばこそ、頑張れる事もあるからね。サーサが言ったようにちゃっちゃと済ませて帰ってこよう♪
「ふふ、安全になったら一緒に行こうユニ、珠実、ミーナ」
「うん! えへへ~その時は色々見て回りたいなぁ~♪ アリサおねぇちゃん楽しみにしてるからね!」
「ふむ、人の街に下りるのなぞ何時以来かの? 妾も楽しみにしておくのじゃ!」
「にゃあ~ん♪ ゴロゴロ……なぁ~ん♪」
ユニと珠実とミーナを連れて街にお出掛け~とか楽しみだね! アリサさん頑張ってきますよ~!
「さあ、皆さん。そろそろ向かいましょう! いざ、『セリアルティ』へ! 『セリアベール』へと!」
おぉーっ!! と、アルティレーネの号令に答える私達。懐刀と四神達、ユニとミーナに見送られ一路南へ南へと飛び立つ!
さあ、初めての『聖域』の外だ! どんな世界が広がっているんだろう?
ティリア「この玉子焼き美味しい!!Σ(゜ロ゜;)」
アルティレーネ「本当ですね! も、もう一つ頂きま、あぁっ! フォレア!?(゜ロ゜;」
フォレアルーネ「ウマー!! もっともっと~゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜」
レウィリリーネ「フォレア、食べ過ぎ!(。・`з・)ノ」
ティリア「ま、負けてらんないわ! 早く食べないとΣ(゜Д゜ υ)」
アルティレーネ「ゆ、譲りません(≧□≦)たとえティリア姉様でも~(;>_<;)」
レウィリリーネ「それはあたしも、フォレア駄目!☆○(゜ο゜)o」
フォレアルーネ「あ痛っ!(ノ_・。)なにすんのさーっ!?(゜Д゜#)」
ティリア「アルティ~あんた姉を立てなさいよ!ヽ(`Д´#)ノ」
女神達「「「「ぐぬぬーっ!!ヾ(*`⌒´*)ノ」」」」
アリス「ヽ(´Д`;≡;´Д`)丿ちょっ、女神様達!?」
ユニ「あぁぁ……玉子焼きを巡る争奪戦がっ!(ノдヽ)アリサおねぇちゃぁ~ん!(/≧◇≦\)」
アリサ「はい、アイギス(*´∇`*)今日の玉子焼きは結構な自信作だよ食べて♪( ・∀・)っ♥️」
アイギス「はい! 頂きますあーん(^O^)むぅっ!Σ(゜ω゜)凄く美味しいですね!(о´∀`о)幸せです、アリサ様♥️」
ユニ「あ~もーっ!。・゜゜(ノД`)仲良しさんなんだからぁっヾ(;゜;Д;゜;)ノ゛」
アリス「ある意味平和でっすけども(´・ω・`; )」




