31話 魔女と待つ者、備える者
──────────────────────────────
【???】~???~《???view》
──────────────────────────────
暗い……
暗い暗い闇の中……
その者は機を待っていた。
周囲に漂う幾重にも濃縮された魔力が傷付いたその者を癒していく。
ゆっくりと……ゆっくりと……
かつての大戦で消滅間際に追い込まれたその者の傷を……
「もう少し……もう少しだわ……」
その者は瞳に憎悪の炎を宿し呟く。
自分から総てを奪ったこの世界をその者は憎んでいた。
この世界を創造した女神を……
この世界に生きる総ての生命も……
この世界総てがその者の憎悪の対象だった。
「許さない……許さない……許さない……私からなにもかもを奪ったこの世界……絶対に、絶対に…………絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないっっ!!!!!!!!!!」
その者の怨嗟はとどまらない……漆黒の闇に溶け只でさえ深いその闇をより深く、濃くしていく。
「ふふ……ふふふ……ようやくよ……? ようやく傷が癒える……」
昏い笑いをたたえその者は闇に目を光らせる。
「一体どれ程の時が過ぎ去ったのか……この屈辱に耐えて幾星霜……永かった……えぇ、とても……とてつもなく永い永い時間だったわ……ふふ、でも……それも終わり」
闇を睨み全身にその淀んだ魔力をみなぎらせる、その者の独白は止まらない。
「見ていなさい……女神達……もうすぐ貴女達のこの世界を地獄に変えてあげるわ……楽しみでしょう……?」
その者が虚空に手をかざせば、うっすらとある人物を映し出す。その者のかつての記憶から映し出された人物は創世の女神の一柱。『生誕』を司るアルティレーネ。
「ふふ……主神の妹アルティレーネ……」
二度、三度と手をかざして、その都度映し出される創世の女神姉妹……
「そして、そのアルティレーネと義姉妹の誓いを交わした二人……」
映し出された『調和』を司るレウィリリーネと、『終焉』を司るフォレアルーネ。二人を見てはその者の顔がユエツに染まる。
「うふふふ……貴女達は昔からとても仲が良かったわよねぇ~……?」
舌を舐めずり、その者は三柱の女神に与える仕置きを想像しては表情を恍惚とさせていく。
「そうね、先ずは貴女達の力を根こそぎ奪ってあげるわ……そうして無力になった貴女達の目の前で大切な人を八つ裂きにしてあげましょうね!」
想像に昂ったのだろう、その者は高笑いをあげてはより饒舌になっていく。
「あはは! そうして絶望したところで魔物達の前に放り出してあげるわ! 勿論盛ったオス共よ!? 精神が崩壊するほど犯されるがいいわ! うふふふ……素敵、素敵よ、狂うがいいわ! そして最後に呪いをかけてあげる……」
高笑いで天を仰いでいた顔を下げ、その者は考える。思い付く限りの苦しみを与えた後、駄目押しの呪いをどうしようかと……
「そうね……ふふふ……何度転生しても必ず醜い魔物に転生する呪いなんてどうかしら!?」
名案よ!! と声高々に叫ぶその者の瞳はまるで欲しがっていた玩具を手に入れてはしゃぐ子供のように輝いている。
「楽しみだわ~……貴女達のそんな姿を見たら主神の小娘もきっといい声で鳴いてくれるわよねぇ~ふふふ……アハハ! いい気味ね!!」
その者の名はシェラザード。
「貴女達は私からあのお方を奪ったのよ……」
かつて『神界』で主神ティリアに仕え、アルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネと同じ女神の一柱。
「許さないわ……えぇ、絶対に……貴女達が創造したこの世界を徹底的に破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊してあげるっっ!!!!!!!!!!」
主神ティリアの力を奪うべく暗躍した魔神を心底愛し、魔王に堕ちた女神。
魔神と共にこの世界に降臨した七大魔王の一柱である。
「ふっふふふ……あっははは!! 頼みの綱の勇者達のいない今、私を阻む者なんていないわ!!」
かつての勇者アーグラス達に討ち取られた筈の魔王は今、永い時をかけ、虎視眈々と復讐の機会を伺っていたのだった。
「……むなしいわね、あのお方のいない世界に一体何の意味があるの? どんな価値があると言うの?」
昂っていた感情が落ち着いてきたのであろう、シェラザードは深いため息をつくと、その表情を曇らせる。アーグラスと相討った魔神はもういない……主神ティリアの手でその存在を完全に消し去られたのだから。
その時に私も消えればよかったのか……? 否。断じて否である!
心命を賭して愛した御方を奪われて黙って消えるなどどうしてできようか?
「あなた様のいない世界のなんて色褪せた事でしょうか……あぁ……消えない……どんなに涙しても……この悲しみは……消えない……消えない……」
今日もその洞窟の最下層には彼女の悲しい涙が流れる……
『悲涙の洞窟』最下層……魔王シェラザードの復活の時は近い……
──────────────────────────────
【ギルマスの苦労】~調査進展せず~《ゼオンview》
──────────────────────────────
「失礼する。ゼオン、『黒狼』帰還した」
執務室の扉が三回ノックされ、続いて聞こえてくるのはSランクパーティー『黒狼』のリーダー、バルドの低い声。
「戻ったか……入ってくれ!」
俺は待ちわびたと言わんばかりに椅子から立ち上がり、バルド達『黒狼』の入室を促す。
ここは冒険者の集う街『セリアベール』、その冒険者達を束ねる冒険者ギルドの執務室だ。
申し遅れた。俺の名はゼオン。
この『セリアベール』の冒険者ギルドのマスターだ。
まぁ、この『セリアベール』はどの国にも属さず、自立都市って事で世間には認知されているんだが、どうしても代表者ってのは必要なので、それも俺が担ってたりすんだよな。正直面倒臭ぇ……俺は一介の冒険者でいたかったんだが、色々と事情があんのよ。
「ゼオン、『悲涙の洞窟』は相変わらずだ」
「五階層まで潜って隈無く調査してみたけどね……わかったのは五階層の地面は固いって事くらいさ」
入室したバルド、そして『黒狼』の女戦士セラが報告をあげてくる。
先日起こったスタンピート、その際にSランク指定の魔物ホーンライガーが混じるっていうイレギュラーによって、Sランクパーティー『白銀』のアイギスが腕を持っていかれる、という惨事が起きた。
「我々も魔法を駆使して各所調査したんだが……」
「ごめんなさい、ゼオンさん……特に何も見つかりませんでした……」
申し訳無さそうにその頭を垂らす『黒狼』の魔法使いの二人。妙齢の女性、ベテランのシェリーと期待のルーキー、まだ少女と言っていい歳のミスト。
「悔しいぜ! アイギスさんのためにも見つけたかったのに!!」
そう言って拳を握り締め、執務室の床を睨み付ける少年剣士ブレイド。
『悲涙の洞窟』に未踏領域があるのではないか? と、あたりを付け、彼等を調査に向かわせたんだが、成果は得られなかったようだな。
「マジか……うーん、ますますわかんねぇな……一体何が原因でスタンピートが起きるのか?」
「そうだな……回を重ねるごと現れる魔物も強くなっている気がする」
「それに、必ず『セリアベール』を狙って来るのもおかしな話よ?」
ったく……なんとかならんもんか……? 頭を抱える俺にバルドとシェリーの意見が飛んでくる。そうだ、『悲涙の洞窟』は定期的にスタンピートを起こしその都度この街を標的にしてやがる。だからこそ、いい加減原因を突き止めてその発生を止めなきゃいけねぇ。
「失礼します、ギルドマスター。過去の調査書を洗って見ました……おや、『黒狼』の皆さん、お帰りなさい。如何でしたか?」
サブマスターを努めるエルフであるエミルが静かに執務室に入室してきた。こいつには今までに起きたスタンピートの各資料を洗い、情報の精査を頼んでいたのだった。
「……そうですか、『黒狼』の皆さんでもわからないとなると難しいですね」
「エミル、あんたのエルフの知恵でも駄目だったのかい?」
「えぇ、セラさん……真っ先に向かい、考え付く手法、魔法とありとあらゆる手を尽くしてみたのですが……残念ながら」
そう言うわけだ……ならばアプローチを変えて過去の情報を探る事で何かしら発見があるのではないかと踏んだんだが……
「で、どうだったんですかエミルさん? 過去に起きたスタンピートの情報から何か掴めたんですか?」
「やぁ、ブレイド君。そうだね、未踏領域については流石にわからなかったけど。スタンピートの発生頻度が徐々に狭まって来ていること。それと、段階を踏んで出現する魔物が強くなって来ていること。その裏付けが取れたくらいだよ」
つまりはスタンピートの原因までは掴めてねぇってこった……困ったもんだぜ。
「あ~……俺も鳥になってあんな風に自由に飛び回りてぇなぁ……」
「ゼオンさん、気持ちはわかりますけど、現実逃避してる場合じゃありませんよぅ?」
にっちもさっちもいかねぇ現状に思わず、窓の外を仰いで見えた鳥を羨んじまったぜ。ミストのお嬢ちゃんも苦笑いってもんよ。
「鳥って言えば……ゼオン、知ってるかい? ここ最近『悲涙の洞窟』の入り口周りにそりゃあ見事な鷲が住み着いたみたいなんだよ?」
「おぉ! 今日も見たぜ! カッコいいよなぁ!」
あぁん? 鷲が住み着いただ? セラもブレイド少年も何でそんなんで嬉しそうなんだよ?
「あぁ、確かにいるな……まるで『悲涙の洞窟』を見張っているかのように佇んでいる」
「随分立派な鷲だから、もしかしたらガルーダの幼体なんじゃないかって噂になっているわね」
「ガルーダってオメェ……伝説の神獣じゃねぇか、ねぇだろそりゃあ……」
あはは、あくまで噂だよ! シェリーが明るく笑う、まぁ、この鬱屈した空気飛ばすにはいい話題かもしれねぇな。神獣ガルーダか、お伽噺の存在出されてもそう簡単には信じられんわな……肖りたいって思いはするんだが。
お伽噺っていや、神々の雫を求めて『魔の大地』に渡ったアイギス達『白銀』は今頃どうしてるだろうな? 報告じゃあ霧が晴れた代わりに幻想的なオーロラが島全体を覆っているみたいだとか言ってたが……『白銀』の連中が何かしたのか?
「あれ? 皆さんあれ……あの鳥は何ですか? 見たことない子ですけど、側にいるのは鳩かなぁ?」
「あん? どれどれ……おっ! ありゃあサーサの使い魔じゃねぇか!?」
「何だと!?」「マジか!?」「アイツ等無事だったのかい!?」
バルド、ブレイド少年、セラが、ミスト嬢の言葉に窓の外を確認した俺の後に続いて駆け寄ってくる。間違いねぇ、あの鳩はサーサの使い魔だ! だが隣のあの鳥はなんだ? あんな見事な鳥は見たことねぇぞ!?
「馬鹿な……信じられない……ちょっとエミル、あの鳥はまさかと思うのだけど……っ!?」
「えぇ、シェリーさん……私も信じられません! あの鳥はあの鳥は……フェニックスですよ!!」
なんだってぇーっ!!? フェニックスってお前、それこそお伽噺の存在じゃあねぇか!?
「いやいや待てよ! あんな小せぇのがフェニックスだってのかよ? 仮にそうだとして何で『白銀』のサーサの使い魔と一緒に飛んでくるんだ?」
「その鳩の持ってる手紙に書かれているんじゃないか? ゼオン、窓を開けてやれ」
いやバルドお前冷静だな? 確かに気になるので早速窓を開けてその二羽の鳥を執務室に招き入れる。サーサの使い魔の鳩が首から下げている小さい樽をの蓋を開ければ、その中には小さく折り畳まれた羊皮紙が入っている。
──────────────────────────────
【アイギスからの手紙】~朗報~《ゼオンview》
──────────────────────────────
「なんて書いてあるんだい? 読んでおくれよギルマス!」
「おぉ、そう焦んなって……えぇ~何々?」
『~ゼオンへ~
私達『白銀』が『魔の大地』こと、『聖域』へと出発して幾日経っただろうか?
先ずは私達の近況を報告させてもらう。
失われた私の左腕だが、無事に完治した事を伝える』
「マジかよ!?」
「うおおぉっ! やったぜ!」
「アイギスさん、良かったぁ~!」
「なんと……欠損した腕が治ったとは……」
「では神々の雫が実在したと言うのか?」
セラ、ブレイド少年、ミスト嬢、シェリー、バルドの順にそれぞれの反応が返ってくる。いやぁ~やるなアイギスのヤツ……正直無理だと思ってたぜ? あぁ、でもバルドの言う神々の雫を見付けたって訳じゃねぇようだな。続きを読むぞ?
『─残念ながら神々の雫を見付ける事は出来なかったが、それ以上に得難い出会いがあったのだ。私達はその御方に助けられた。
私達『白銀』は今、その御方の元で来るべきスタンピートに備え、己を高める修行に明け暮れている。
近々その御方達と共に街へと戻るので詳しくはその時に話そう、手土産もある。楽しみにしていてくれ。
──追伸。
助けて下さった御方は私達にとって『神』とも言える存在だ。ゼオン……くれぐれも対応を間違えないでくれよ? 王族……いや、それ以上の対応を以てあたられたし』
「「「「「「…………」」」」」」
執務室に長い沈黙が訪れる。無理もない……『魔の大地』には何者かが存在し、アイギス達はその者に助けられたって言ってやがるんだ……
「……ど、どういう……事でしょうか?」
「信じられないけれど……『魔の大地』には腕の欠損すら治癒できる程の存在がいて、『白銀』はその存在に助けられ、今もお世話になっている……?」
エミルとシェリーが戦慄に冷や汗を流し、顔を見合わせる。
「Sランクパーティーを助けたうえに、師事出来る程の存在だって……!?」
「ぶ、ブレイド……もしかしたらアイギスさん達……か、神様に助けられたのかな?」
「えぇっ!? ミスト何言ってんだよ……? 神様って……いくらなんでも……」
セラは冒険者として最高峰であるSランクのパーティーを助け、修行の師事すらこなすというその存在に驚いているようだ。ブレイド少年はミスト嬢の突拍子のない一言を「馬鹿な」と一蹴したくてもできない……そりゃそうだろう、アイギスはこんな事でわざわざ嘘の報告をするような奴じゃない。
「……今考えたところで答えなど出ないだろう? この街に連れて来ると言うんだ……楽しみに待とうじゃないか?」
いやバルドお前ホント冷静だよな!? って、そうか……コイツ純粋にアイギスの腕が治ったってのが嬉しいんだな? 昔から仲の良い同期だもんな~!
「だなっ! バルドの言う通りだぜ、なんにせよ朗報だ! エミル、ファムやギド、ラグナース達にアイツ等は無事だって事を伝えてやんな!」
「あっ! は、はい! そうですね、『白銀』の無事を知れば皆さん明るくなるでしょう! 行ってきますねーっ!!」
俺の号令に顔を明るく綻ばせ、嬉しそうに街へと駆けて行くエミル。それに同調するようにバルド達『黒狼』の皆も表情を明るくしていた。
「ふふっ……一体どんな修行をしているのか……次に会うのが楽しみだぞ、アイギス! なぁ、そうは思わんかブレイド!?」
「はいっ! バルドさん! きっとすげぇ強くなって戻って来てくれるでしょうね! 楽しみです!!」
特にバルドとブレイド少年は嬉しそうだな。しっかし、今でもだいぶ強ぇってのに更に強くなろうってのか……あぁ~そう言う話聞くと俺もウズウズしてくんなぁ……
「ふんっ! なんだいバルド、そんなにアイギスが気になるのかい!? ちっ! アタイがいるってのに……アイギス、次に会ったらぶん殴ってやろうかね!」
「もぅ~セラさんったら、ヤキモチですか?」
「うっふっふ♪ 意外と乙女なんだからぁ~!」
はははっ! 気っ風の良い姉御肌のセラだがその実、バルドにホの字なのは周知の事実。そのバルドの奴が自分ではなく、よりによってライバルパーティーの男に御執心とくりゃあまぁ~妬いちまうわな!?
「なんにしても良い報せだな! お前達もご苦労さん、ホレ、コイツが今回の報酬だ。街の警備隊率いてる二人にも知らせて英気を養ってくれ」
「了解だゼオン。次のスタンピートに備えるとするよ」
金貨の詰まった袋をバルドに渡して労う。『黒狼』と『白銀』……この二大Sランクパーティーこそがこの街の護りの要だからな、苦労かける分報酬も多目よ。
報酬を受け取り退室する『黒狼』の面子を見送り、俺は改めてアイギスの寄越した手紙に目を通す。気になるのは最後の一文……恐らく俺以外の目には映りもしねぇだろうそれ。
『~親愛なるユグライアへ~
遠い昔、貴方と交わした誓約を私は果たすことが出来たでしょうか?
──近々、会いに参ります。
──アルティレーネ』
「……マジかよ?」
『神聖文字』で書かれたその一文に、手紙を持つ俺の手が震えるのがわかる。
アルティレーネ……俺の祖先から今までずっと口伝にて伝わる創世の女神の一柱の名前。その名前が今、アイギスから手紙で俺に伝えられた。
窓を見ればサーサの使い魔の鳩とフェニックスらしき鳥が俺の返事を待つかのように佇んでいた。
──────────────────────────────
【忙しいアリサ姉の為に】~無自覚痴女~《フォレアルーネview》
──────────────────────────────
「ティリア様、そして女神のお三方……どうか、アリサ様に淑女としての教育をお願いいたします!」
「「「「……はぁ?」」」」
なんかアイギっちが切羽詰まった顔でうちらに話があるって言うんで聞いてみたら、アリサ姉に……なんだって?
『聖域』の開拓初日って事で今日は集った妖精達の宿舎っていうか、家っていうか……う~ん、寮? みたいなのをぽんぽんぽーん! って作ったとこで丁度良い感じに日も暮れたんで、続きはまた明日~♪ ってなった。
で、妖精達は各々作った家で今はのんびりしてるはず、うちらも一仕事終えて、屋敷のリビングでアリサ姉の作ったクッキーをお茶請けにしてまったりしてるとこなの。
「えっと……取り敢えず、何があったのか教えてくれますかアイギスさん?」
アルティ姉が困惑したかのように、眉を八の字にしてアイギっちに何でそんなこと急に言い出したのか真意を探ろうとしてる。
ちなみにアリサ姉は今、ゆにゆにと妖精女王のティタっちと、ネヴュラままんとフェリアっち、冒険者のサーサっちとレイリっち、アリスっちとミーにゃん連れてお風呂してる。この屋敷のお風呂はだいぶ広いけど、アリサ姉としては更に拡張して男湯と女湯にわけたいみたいなこと言ってたなぁ。
「アリサ様は無防備が過ぎるのです……先程「柔軟体操」という、体を柔らかくするための運動の手ほどきを受けたのですが……」
そう言ってアイギっちはゼルワっちとドガっちを呼んで実演してみせる。
ゼルワっちに床に座ってもらって、両手両足を綺麗に前にぴーんって伸ばす、そしてその背にアリサ姉役のアイギっちの両手がそえられ軽く押される。
「最初はこんな風に軽く背を押されるだけだったのですが、私の体が思った以上に固いからと……こう、体で押してきたのです!」
ゼルワっちの両手首をその背から握って、アイギっちは上半身をゼルワっちの背に押し付けた!
「えっ!? そ、そんなに密着したん!?」
「うわー……アイギス、あんた背中が幸せだったんじゃないの~?」
それ見てうちはビックリだよ。アイギっちの体固いから補助って事で、前屈運動するその背中を押したらしいんだけど、アリサ姉って魔力使わないとめっちゃ非力なもんだから体で押したんだって!
「マジかアイギス!? お前アリサ様のあの双丘の膨らみを堪能しやがったのか!? てめぇっ! 俺等が必死こいて大地さん達と訓練してる時に何やってやがんだ!?」
うちらと同じようにびっくりしたゼルワっちはぐりん! って凄い勢いでアイギっちに振り返り、胸ぐらを掴みかかって怒鳴りだした。
「ふっ、不可抗力だ! 私は直ぐ様飛び上がってお待ち頂いたのだ!」
ぷふふっ♪ アイギっちってばものっそい慌てて弁明してるよ。
「ふぁっふぁっふぁ~っ! 初のぅオヌシは!」
ぎゃいぎゃい騒ぐ冒険者の男性陣、いやぁ~にしてもアリサ姉ってばサービスしすぎだってばよ?
「そ、それだけではなくてですね……この前屈運動にも種類があると言って、こう私の目の前で……」
ぶふっ!? アイギっちが次に実演したのは開脚前屈。待て待て! アリサ姉確かスカートじゃなかったっけ!?
「おい……このくそアイギス!! お前……アリサ様の双丘だけじゃあきたらず、よりによってその『聖域』まで見やっがったのかよ!? 死ね! 死んで詫びろ! このクソムッツリドスケベナイトがぁっ!!」
「アイギス……オヌシ……それは流石に擁護出来んぞ!? 重罪じゃ重罪!! さあさっ女神様方! この大馬鹿者に裁きを!!」
「ち、違うっ! 咄嗟に目を背け頑なに閉じた!! 私は決して見ていない!」
おーおー……バルバルとパルモっちが妖精達の様子見に席外してて良かったねぇ? こんなの聞かれたら二人ともブチギレちゃうぞ? や~でも……アリサ姉~ホント何してんの?
「あはははっ! おっかしぃ~♪ それはあれね!」
「ん、元男性故の無意識」
「ですね……今度きつく注意を……」
ドタドタドタドタドタドターッ!!
ティリア姉が心底おかしそうに笑って、レウィリ姉がその原因を言い当てるとアルティ姉ははぁ~ってでっかいため息、そんな時だ。お風呂場からなんか騒がしく人の走る音がする。なんだろう? って私達がお風呂場の方の廊下に目を向ければ、びしょびしょに濡れたミーにゃんが突っ込んで来た!
「こらあぁぁーっ! ミーナ! 逃げるんじゃなぁーいっ!!」
「「「ぶほぉぉっっ!!!???」」」
「アリサ姉!?」
「うわっ! なんてカッコしてんのアリサ姉さん!!?」
「アリサお姉さま!?」
続けて走って来たのがアリサ姉だ。なんと裸にバスタオル一枚巻いただけのなんともあられもない姿でミーにゃんを追いかけてきた!
その姿にうちらはびっくりして思わずソファーから立ち上がっちゃったよ。アイギっち達は目ん玉飛び出るくらいに驚いて咄嗟に背を向けている。
「レウィリ! ミーナを捕まえて!」
「ん、はいアリサお姉さん」
「うなあぁぁーんっ!!?」
レウィリ姉が走って来たミーにゃんに最早お馴染みの浮遊の魔法をかけてその身を中空にふよふよって浮かす、ミーにゃんはパタパタと手足を動かすけど蹴る地面から浮いちゃったものだからまったく進めず。ふよふよ漂ってはすっぽりとアリサ姉の腕の中におさまった。
「なぁーん! うにゃあぁーんっ!!」
「ありがとーレウィリ~♪ こーら! 暴れないのミーナ! ごめんねみんな、濡れた床は後で掃除するから……お騒がせしました~」
そそくさ~って苦笑いでお風呂に戻っていくアリサ姉。その顔が赤かったのはお風呂で温まったからか、それとも裸にバスタオル一枚っていう自分の状態に気付いて照れたせいなのか。はてさて?
「「「……」」」
正直呆気に取られたうち、アルティ姉、ティリア姉の三人。レウィリ姉は落ち着いたもので、サクサクっていい音立ててクッキーと紅茶にご満悦の様子だ。冒険者の男性陣の三人はそっぽ向いて、如何にも「見てません」アピール。紳士だねぇチミ達。
「……アイギスさん、貴方の言いたい事が良くわかりました、えぇ~とっても……」
「ご、御理解頂けましたかアルティレーネ様……何よりです……」
「いやぁ~流石に今のはないわ……アリサ姉さんには厳重注意が必要ね?」
「あはは……多分ミーにゃんがお風呂嫌がって逃げ出したのを慌てて追っかけたんだろうけど……」
あー……こりゃあアルティ姉とティリア姉怒ってるぞ~、なんだかんだでアルティ姉もティリア姉も超がつくお嬢様。ううん、それ以上の存在だからね~さっきのアリサ姉の行動は看過できないだろうね。
「ん、二人とも落ち着いて。アリサお姉さんはまだこの世界に来て日が浅いんだから……それに、まだまだ肉体に精神が馴染んでいない」
「レウィリ……確かにそうかもしれませんけれど……流石に今のは……」
「あ~……確かにアリサ姉さんの元いた世界じゃこういうのかなりゆるいのよね……」
レウィリ姉ってばこういう時凄い冷静なんだよね。うんうん、流石うちの自慢の姉だよ! ちゃんとアルティ姉とティリア姉を説得してる。
アリサ姉の元いた世界って確か機械仕掛けの神が創造した世界だったっけ?
「ティリア様、「ゆるい」と言うのは?」
「うん、こっちじゃ女性……まぁ、上流階級? いいとこのお嬢さん? ってさ、すごく慎み深いっていうか、そうそう素肌見せないじゃん?」
「あー、そうですね……軽装の女性冒険者とか見ると「大胆です」とか「はしたない」とか言ってたりするもんな」
アイギっちがティリア姉に何がゆるいのか聞いてるね。まぁ、わかりやすく言うなら、この世界のお嬢様だったら絶対ミニスカートなんてはかないってことだよ。
「逆に、アリサ姉さんがいた世界じゃそういうとこがゆるくて、結構素肌を男性の前で見せてたりしてるのよ。庶民の出ならもっとゆるくなるし、アリサ姉さんはそこで男性として生活してたから余計にね?」
「……でしたら尚のこと教育が必要だと思います。今のアリサお姉さまは立派な女性なんですから。街に出て変な恥をかいてしまってはアリサお姉さまがかわいそうですもの!」
なるほどね~要はアリサ姉が前世の感覚で過ごしてると無自覚痴女が出来上がるってわけだ。……痴女は言い過ぎかなぁ? まぁ、でもそれは見過ごせないねぇ。
「うむ、儂等の大恩あるアリサ様に恥をかかせる訳にはいきませんのぅ」
「ん、教育する事は賛成。ただちゃんとアリサお姉さんの立場になって考えてほしいだけ。怒るのはほどほどに」
「そうね、イヤイヤやらされるのなんて苦痛でしかないものね。ちゃんと説明をして、納得してもらったうえで教育を始めましょう?」
ね、アルティ? ってティリア姉が聞けばアルティ姉も納得したみたいだね。
「でもさ~アリサ姉忙しくないかな~? 今だってうちらの為に色々やってくれてんじゃん?」
「うっ……そうですね……この美味しいお菓子も作って下さいましたし……」
そうなんだよね~アリサ姉ってばうちらのご飯もほとんど一人で作ってくれるし、街に行く準備ってことで薬とか魔装具とか色々作ってるし、アイギっちの訓練も見てるしでめちゃめちゃ忙しくしてるんだよね。
「ん? それならフォレアもアルティ姉さんもティリア姉さんも料理教えてもらえばいい、あたしは今日目玉焼きを覚えた」
「「「えぇっ!?」」」
ウッソ!? レウィリ姉ってばいつの間に!?
「あんたよくそんな暇あったわね? あ、夕飯に出た目玉焼きか!」
「あぁ、そう言えば、レウィリリーネ様もユニ殿とサーサとご一緒にアリサ様のお手伝いをされておりましたよ?」
「マジか……ヤバい、一応働いてるけど……うちら穀潰しになってそう」
「わ、私はいっぱい働いたわよ!? 妖精達の意見聞いてちゃんと家建ててやったんだから!」
「私だって、ちゃちゃ、ちゃんと働いて……働いて……今日は妖精達と談笑してただけでした……( ;´・ω・`)」
アルティ姉~外交の武器になるからって料理覚えるんじゃなかったの~?
アイギっちはアリサ姉の小間使いで料理の手伝いしてるんだったね、ゆにゆにはいつか手料理をアリサ姉に振る舞うって頑張ってる。サーサっちは美味しい料理に感動して一生懸命覚えようとしてる。
ティリア姉は建築班のリーダーとして妖精達の宿舎を建ててたし、うちとレウィリ姉も農業班、酪農班で頑張ってるよ?
「俺達はぶっ倒れてました」
「うむ、じゃが、他国との外交、協力してくれる民との交流も大切な仕事ですぞ?」
うん、ゼルワっちマジでぶっ倒れてたね。相手してたフェリアっちも「軽薄そうに見えて中々骨のある奴」って評価してた。ドガっちも見上げたタフネスだったらしいね。
「交流大事って……だったら一緒に料理作れば尚良かったじゃん? アルティ姉! いつまでもお嬢様気分でいちゃ駄目っしょ~?」
「はうぅ……ごめんなさい」
座って側仕えに一声かければ何かと用意してもらえた『神界』時代と今じゃ違うんだから、もっとしっかりしてくれないと困るよ~?
「ん、アリサお姉さんが街に行ってる間とか、誰かが料理作れるようになっていた方が良い」
「そうだわ! レウィリの言う通りね……あぁ、でもそんなに余裕ないのよね……」
まぁ~そんなこんなで騒ぎつつも。みんな頑張ってアリサ姉の負担を減らしつつ、レディとしてのお勉強を頑張ってもらおうって事になりましたとさ♪
ティリア「しかし、柔軟体操かぁ~私達もやってみる(-ω- ?)」
フォレアルーネ「おーうちはちょいと自信あるよ、ほら、こんな風に(о^∇^о)」
アルティレーネ「あら、凄いわねフォレア。開いた足の間にペッタリ上半身くっつくなんて、私はこれが……ん~! 限界~(゜Д゜;)」
ティリア「アルティもやるわね、床にオデコついてるじゃない! 私は駄目ね~固いわ、もう少しでオデコつきそうなんだけど(ーー;)」
レウィリリーネ「……三人とも凄い、とても真似出来ない(´・ω・`; )」
フォレアルーネ「レウィリ姉もやってみてよ~どんなもん?(*つ▽`)っ」
レウィリリーネ「今やってる……既に限界(T-T)」
アルティレーネ「え……嘘でしょう? 足を開いて手を前に出して座ってるその姿勢から、膝を曲げずに上半身を倒して行くのよ(・_・?)」
レウィリリーネ「うん、だからそれが無理……もう痛い(>_<)」
ティリア「マジかー!? あんたどんだけ固いのよ!?Σ(*゜Д゜*)」
ドガ「どれ、ここは儂等も一つやってみるかの( ・∇・)」
ゼルワ「ははっ! こんなの楽勝だぜ! ほらぺったーんってな!(^∇^)」
レイリーア「やるじゃないゼルワ、アタシだってペターン♪(v^ー°)」
サーサ「流石二人とも普段から動き回るだけあって柔らかいですね! 私は~んんーっ! あぁ、やっぱり及びませんか(´∀`;)」
ドガ「ホッホッホ! 成る程成る程これは中々に良い体操じゃの! ぺたーんじゃぺたーん♪ どうじゃ~アイギスよ?Ψ(`∀´)Ψケケケ」
アイギス「なっ!? そんな……私はドガよりも固いと言うのか!? くっ! 負けるものかっ! あぁぁ痛い痛いΣ(>Д<)!!」
アリサ「無理にやると逆に身体痛めるよ(・・? 対抗するもんじゃないからね(ーー;)」




