3話 魔女と魔神の呪い
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【世界樹】~弾幕STGかな?~
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はい、みなさんこんにちは。アリサです。
魔女に転生してわずか二日目にして、なんかラスボスぽいヤツの目の前です。
「って、でっかーっ!!」
私は視点の一つを切り替えて世界樹の全容を映し出すと、そのあまりの大きさに腰を抜かしそうになる。例えるなら電柱とアリだろうか?
全容を映した視点での私は点としてかろうじて映ってる。
危機感知もさっきからずっと鳴りっぱなしで、それを裏付けるように四方八方から魔力を帯びた木の葉が弾丸のような威力で飛んでくる。
それらをひたすら避けて、弾いて、受け流してどうしたものかと考えるんだけど。
「いや、これ本当にどうすればいいのよ!? アルティレーネ、レウィリリーネ、フォレアルーネ! 教えてよ!」
こんな馬鹿げたサイズ差を前に何が出来るっての? 私は即思考を中断、女神達に助言を求める。
間合いに入ったのか、世界樹は沢山ある枝を振り回して私を凪ぎ払おうとしてくる、大振りなせいで避けるのは難しくないけど何せ数が多いから大変だ。
《世界樹は本来世界の自浄作用を目的にしているんですが、魔神の呪いによってその性質が反転して、世界そのものを自壊させようとしているんです!》
うげ、マジか……じゃあこの世界ってどんどん壊れて行ってるってこと?
アルティレーネの説明を聞いて事態の深刻さを感じる。
《だから呪いさえなんとかしちゃえば万事解決するはずなんだよ~!》
フォレアルーネの言葉通りなら、逆に呪いをなんとかしない限り駄目ってこと。
呪いの解呪は絶対条件ってことになるね。
《魔神の残した呪いは世界樹の核に埋め込まれてる、それをなんとか浄化できれば》
レウィリリーネがピンポイントで何処を狙えばいいか教えてくれる、ただ、この馬鹿でっかい樹のどこにその核とやらがあるのかな?
「だいたいわかった! じゃあ、核ってどの辺にあるの?」
《わかんない!》
フォレアルーネが元気よくハッキリ言った。おいぃ~っ!?
《すみません、核は世界樹の成長と共に移動するので、何処其処とハッキリ言えないのです》
なるほど、アルティレーネが申し訳なさそうにしながらも、ちゃんと説明してくれたお陰で納得。
でも、そうするとホントどうしたものか……片っ端から伐採してやろうかしらん?
《魔神の呪いはとにかく悪感情から産まれたものだから、そういうの探れない? 3人に求婚するようなスケベ心、フラれた腹いせの怒りとか、嫌がらせしてやる~とかいう邪心……そういうの》
「一言で言っちゃえば邪悪な力ってことか……みんなから感じた神聖な魔力ぶつけてやれば反発して位置が特定できたりしないかな?」
……よくよく考えてみればこの世界樹……凄く憐れに思えてくる。
なんて言えばいいだろうか……世界の要として、世界の自浄作用として産まれた筈なのに、それをひっくり返されて……
世界を壊す元凶にされちゃったんだ。
「……なんで? この子が何か悪いことでもしたの? 違うじゃん……」
ただの理不尽じゃない……わがままな偉いヤツの自分勝手に巻き込まれただけじゃない……
そんなことを考えていると、私の前世の記憶が引っ掛かったのか、凄く悲しくて、辛くて、苦しくて……でも、どうしたらいいかわからなくて、ただただ泣いている自分を幻視した。
《アリサさん……》
《アリサ……》
《アリサっち……》
「つっ! 私の馬鹿っ! シンクロして泣いてる場合じゃないでしょう!?」
知らず流れた涙をグッと拭って気合いを入れ直す。
さぁ、この憐れな世界樹を助けてあげよう!
誰にも救ってもらえなかった私みたいに泣かせたりしないから!
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してっ!」
さっきの考えを実行に移すために世界樹との接触を試みる、当然とばかりに世界樹は枝を振るい私を叩き落とそうとしてくる。
「風よ! 切り裂いて!!」
風魔法お約束の風の刃で迫る枝をバッサバッサと切り裂いて、距離を詰め、世界樹の幹に触れる。
「さぁ、コソコソ隠れて悪さしてるヤツはどこ!?」
一時的にバリアを解除! アルティレーネ達女神から感じた神聖な魔力を幹に触れた手から世界樹内部に思い切り叩き込む。
「うぅぅりゃああぁぁーっっ!! ぶん殴ってやるから覚悟しろおぉーっ!」
ズドオオォォーンッッ!!
出来るだけ全体に行き渡るように全力全開!! 爆音を発する程の大魔力を放出する!
すると効果があったのか、世界樹は狂ったように全身を揺らし枝を滅茶苦茶に振り回して暴れだした。
!!!!!!!!!!??????
その時、言葉にならない声で暴れまわる世界樹の幹にうっすらと黒い光点が見えた。
「見つけた! そこだぁっ!」
黒い光点に攻撃を加えようとしたその瞬間!
バチーンッ!!
甲高い音とともに何かが弾けて私は思い切り吹き飛ばされてしまった。
「きゃああぁぁーっ!?」
《アリサっちーっ!!》
《アリサさん!!?》
《アリサぁーっ!!》
うわわぁぁーっ!!? 回る回る回るーっ!!
私は弾かれた勢いで前後左右にぐるぐるぐーるぐる回転しながら飛ばされる。
「むわあぁぁ~やっと止まったけど、目がぐるぐるする~!」
核を確認するために通常視点に注視してたのが仇になってしまった……それに。
「ぐぬぬっ……きゃああぁぁーとか思い切り叫んじゃったじゃないか、女の子か!? 恥ずかしい!」
《えー、気にするとこそこぉ?》
《ん、アリサは立派な女子》
《そんな事より怪我はありませんか!?》
怪我……は、うん、大丈夫みたいだ。痛みもない、幹に触れる為に一時的にバリアを解除した状態で吹き飛ばされたけど、傷一つ負ってない。女神達が四十八時間かけて創ったこの身体はだいぶ頑丈みたいだね。
再びバリアを展開し、改めて世界樹に向き合う。
「見て! さっきの黒い光点の所の樹皮が剥がれて、丸いのが剥き出しになってる!」
どうやら私が吹き飛ばされたのは樹皮が弾け跳んだ衝撃に巻き込まれたからみたい。
そこに見えるのは、黒い球体。かなりの大きさだけど、丸が3つ重なってるように見える。禍々しいオーラ? モヤ? を発しているからあれが呪われた核だろう。
《間違いありません! あれが世界樹の核です!》
《呪いの3層重ねがけ……アリサ、これは一筋縄ではいけないかも……気をつけて!》
《お願いアリサっち! 世界樹を助けてあげて!》
女神達の声援を受けて奮起する、どうやら一つ一つ解呪して行く必要がありそうだ。
核をロックオン、聖属性魔力を絡み合った紐をほどくような、幾重にも縛られた鎖を断ち斬るようなイメージで練り上げ備える。解呪魔法の魔力弾だ。
すると世界樹の方も、これまた禍々しい魔方陣をいくつも展開させていく。
さぁ、ここから第二ラウンドの開始だ。
「解呪魔法、撃ち抜いて!」
手を核にかざして連続で魔力弾を撃ち続ける。
世界樹は葉っぱ弾……『葉弾』とでも呼称しよう。
葉弾を変わらず撃ち出し、魔方陣から赤黒い火の玉が追加で放たれる。
「うわっ!? 速い!」
魔方陣から放たれる赤黒い火の玉、えっと、『黒炎弾』とでも言おうか。
その黒炎弾が、物凄い速度で私に飛んでくる、視認した瞬間にはもう目の前に来てる!
それが連続で来るため、回避しようとするとどうしても動き回るハメになって、魔力弾を撃つ手が止まってしまう。
「ふぇっ!? 後ろから葉弾が!」
俯瞰に切り替えた視点で見えた! 嘘でしょう!?
「追尾機能追加されてるーっ!?」
まずいマズイ! 連続で来る黒炎弾を避けつつ葉弾も弾くなんてやってると防戦一方!
「あっ……」
《危ないっ! 避けてアリサっちーっ!!》
しまった……私の真上から物凄い勢いで巨大な枝が振り降ろされた。防戦を続けてるうちに枝の間合いに誘い込まれていたんだ!
ドガァッ!!
「わああぁぁーっっ!!!??」
《キャアァーっ!? アリサさんっ!!》
枝の直撃! バリアも耐えきれず砕け散る! 地面に叩き付けられる寸前でなんとか急停止!
危なかった、正直バリア無しであんな威力で地面に叩き付けられてたら本気で死んでた。
ははっ、ヤバい……恐怖が耐性超えてこみ上げてくる。
《おぉぉ……し、しのいだ、アリサ……心臓に悪い……》
そんなこと言われてもね……はぁ~。
「まったく……シューティングゲームは苦手よ」
軽口と一緒に恐怖耐性を強化する。
──待って、私今『シューティングゲーム』って言った?
「ある! 撃つ手が足りないなら……」
イメージするのは今座ってるこの箒。ちょいと『魔女』として本領発揮させてもらうわよ!
「オプション展開! 自動迎撃『風の刃』! 『風陣』! 『聖光弾』! 自動攻撃『解呪魔法』!」
増やす! STGの定番の『オプション』にそれぞれ役割を与えて魔力を割く!
バリアも張り直し、準備完了! 見てなさいよ、勝負はこれからなんだから!!
「反撃開始ーっ!!」
再度飛び上がり、世界樹に接近すると解呪魔法のオプションと一緒に核目掛けて、魔力弾を連射っ直撃!
世界樹も当然迎撃せんと、葉弾、黒炎弾、枝を駆使して弾幕と攻撃を繰り広げて来る。
しかし、私の召喚したオプションがそれらを見事に打ち破ってくれる。高速で飛来する黒炎弾には聖光弾が正確無比に衝突して相殺、追尾する葉弾は風陣で竜巻を起こして打ち落とし、迫る枝を風の刃が切り払う!
《おおぉっ!! アリサ凄いスゴイ! 後で詳細希望!》
《完璧に世界樹の攻撃を無効化しています! これなら!》
ふははっ!! どーよ? 女神達も絶賛だ! 処理が大変だけどこのまま一気に魔神の呪いをぶっ飛ばしてやる!
!!!!!!!!!!!!!
バギィィィーンッッ!!
核を覆う3層の呪いの一層が、私の猛攻に耐えきれずに砕け散る!!
《うおぉーっ! やったぁ!》
よし! 私もフォレアルーネも思わずガッツポーズ! これで残るは。
「後2つ!」
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【鰻食べたい】~魔女さんのヘドロ漬け~
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このまま一気に押し込もうと思った瞬間核が激しく明滅を繰り返し始めた。
《アリサ待って! 様子が変!》
レウィリリーネが叫んで逸る私を止める。異変を感じ取ったのだろう。
確かに……嫌な予感がビンビンだ。これはあれか? 攻撃パターンが変化する前兆か?
こういうのって大抵何段階かにかけて敵が強くなって行くんだよね、単純に考えれば今を含めて後二段階あるってことになる。
「これは、大当たりかな?」
正直当たってほしくなかったけど……折角切断した枝が再生して、魔方陣が増えたうえに核を守るバリアが展開された。
「ぬぅ! 当然のように解呪魔法が弾かれる……破れるかしらこれ!?」
葉弾は数と速度に威力も増し、枝が荒れ狂ったかのように振り回され、切断しても即時再生してくる始末。
「ヤバっ! バリア再展開! 枝の連続突きとかシンプルだけどサイズとスピードが凄くて驚異的すぎるよ!」
風陣が巻き起こす竜巻を掻い潜った葉弾がバリアの耐久を削り、風の刃での切断が枝の再生速度に追い付かず、突き攻撃がバリアを破壊する。
更に手に負えないのが黒炎弾に加えることに黒い氷の槍、『黒氷槍』と呼ぶ。
黒炎弾と違い、迫る速度に緩急があり、迎撃するタイミングをずらしてくるからめっちゃいやらしい!
こっちの風の刃を真似たような黒い風の刃、『黒風刃』。
当たったら例えバリアが無事でも真っ二つに切り裂かされそうで超怖い!
マグマ化している大岩、『溶岩弾』を放ってくる魔方陣。
岩が大きい分大回りで回避しなきゃいけないし、壊してる暇もない。
いや、これ強化され過ぎでしょう!?
危機感知はもうずっと鳴り止まないので切り離す。もう全部の攻撃が危ないのだから意味がない。
「はぁっ!はぁっ!! 風陣強化! 風の刃オプション追加! 氷の盾! 岩の棘! 大気爆裂!」
新たに追加された攻撃に、対応できるオプションを追加で召喚!
なんとか拮抗するものの、核二層目の呪いを覆うバリアがどうやっても破れない!!
《アルティ姉! ヤバいよ! アリサっちの様子がおかしいよ!》
ズキズキズキズキズキズキッッ!!!
「ハァハァッ!! 痛い! 頭割れそうっ!!」
キツイきついキツイ!! 脳ミソ沸騰しそう! 神経が焼ききれる!
なんか涙と鼻水出てきたと思って拭ったら血だし、ヤバいやばい!! 完全にオーバーヒートだ。
多くのオプションに割く魔力と、それらの役割を制御し続けているせいで頭がパンクしそう。
《大変! 魔法の処理が間に合っていないんだわ!》
《アリサ! こっちに送ってる映像処理を切って! 少しでも負担を減らすの!》
? 女神達が何か言ってるような気がするけど……聞こえない、聴覚逝ったかな、これ。
《駄目だーっ! アリサっち聞こえてないよ!》
《《そんなっ……!!》》
あ、まずい……視界が霞んできた。
ドガガガッッ!! ズバァーンッ!!
「うぐあぁっつ!?」
や、やられた!? 意識が朦朧として、迎撃処理が弛んだ隙をつかれた!
《アリサぁーっ!!》
ドボオォォーンッッ!!
私は箒から文字通り叩き落とされて……派手に着水する……そう、ヘドロ泡立つ沼に。
《アリサっち! アリサっちーっ!!》
《そんな! アリサさん! どうか返事をっアリサさーんっ!!》
女神達の叫び声が聞こえた気がするけれど、こっちはそれどころじゃない。
(ぶえええぇぇーっっ!? くっさあぁぁーぃぃーっ!!)
ぐええぇぇーっ!? くっさいっ! ぎゃあぁぁバリアバリア!!
浄化浄化!! あぁ、もう一気に目醒めたわ! 最悪だ! 少し飲んでしまった気がする!
もうひたすら全身に浄化魔法を全力でかける! バリアのお陰で新しくヘドロは来ないのがまだ救いかな?
ゴンッゴンッ!
何かがバリアにぶつかる音がすると思って見てみると、頭が二つある……鰻? あ、ツインヘッドイールっていうみたい。が、数尾体当たりしている。
世界樹の猛攻に比べると随分可愛い攻撃なので無視して浄化を続けながら対策を考える。
「うぅ、いくら浄化してもこのヘドロに浸かった事実は消えんのだよなぁぁ~!」
くっそぉ! もう怒ったぞ魔神の呪いめ!! 絶対許さんぶっ壊してやるっ!!
ゴンッゴンッ!!
例えば、だ……あのまま上手く私が立ち回れていたとしても、あの呪いのバリアを突破出来ただろうか? う~ん……難しいんじゃないだろうか?
あぁ、いや、違う違う。
例えでも何でも上手く立ち回れてやっと同じ土俵に立てるんだ。つまり最初の段階と同じ状況に持って行こうとしたのは間違いじゃない。
そもそも、さっきのは私の自爆みたいな感じだし、あのくらい余裕で捌いてバリアを破る方法を考える、考えることが出来る状況を作り出さないといけないんだ。
ゴンッ! ゴゴンッッ!!
ぬあーっ! もうっ! さっきからゴンゴンやかましいわ! この鰻どもめ蒲焼きにして食っちゃろかいっ!!
そう思い蒲焼き共を、あぁ、いやいや、鰻共を睨み付ける。
「あ、そうか……これだ!」
鰻共の二つ頭を見て気付いたのはPCのマルチコア。
一つのCPUパッケージ内にプロセッサコアが二つ以上配置されたマルチコア・プロセッサ。
その魅力は『複数の処理を並列に実行できる』事だ!
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【お注射しちゃうゾ♪】~○○粒子砲発射!~
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「ククク、クックック……クアーッハッハッハーッ!!」
なんて一度やってみたかった笑いの三段活用をここぞと決めて私は高らかに快哉を叫ぶ。
ふふふ、デュアルどころかクアッドですよ! イイネ! 『並列意思』♪
ゴンゴンとバリアをノックしている鰻さん達にお礼を言いたいくらいだ。
「まぁ、お礼っていう訳じゃないけど……あんた達ももっと綺麗なとこで過ごせるようにしてあげる。私もちょいと使いたいし」
ヘドロで思い出したのだけど、私が浄化したヘドロがどうなったか覚えておいでだろうか?
神々の雫、その効能はあらゆる呪いにも効くとあった。
「やってやるわっ! このヘドロ沼!!」
世界樹の樹皮を剥がした時の要領で浄化の大魔力を沼全体に解き放つ。
に、しても私の魔力って底無しだなぁ~まぁ、助かるからありがたいけれど。
濃緑色だったり、赤紫色だったりしていたとにかく見るからに毒々しいヘドロ沼がみるみる澄んだ清浄な、しかもキラキラと神々しい光を放つ神々の雫に変化する。
「よし、狙い通り神々の雫になったね! じゃあ次はコレ!」
イメージして取り出したるは、でっかい注射器。
ふひひ、これを世界樹にぶちこんでやる、ぶちこんでやる!
あ、鰻共が沼の底でビクンビクンと痙攣して気絶してる……なんで?
「さて……? 女神達との回線切れてる。あ~沼に落ちたときか、視点操作、復旧。通信魔法再構築っと。みんな~聞こえる?」
《アリサっちーっ!!》
《生きてた! 良かった!!》
《あぁ、アリサさぁん! よくぞご無事で! 私、私、もうダメかとっ!!》
おっとっと、随分心配かけちゃったみたいだ。後でちゃんと謝ろう。
視点を操作して世界樹の様子を見るに、魔方陣は展開されたまま。葉弾がぐるぐる回って迎撃体制を維持しているようだ。
「ちょいと教えてほしいんだけどさ、神々の雫って魔神の呪いにも効く?」
《え、そりゃあなんにでも効く筈だよ? うちらでも主神さまにお願いして処方してもらうような、そんなチョーチョー万能薬だし》
おおぅ、やったぜ! 効果は保証されたも同然だ。
《アリサ、そこ……どこ?》
《私達が最後に見たのは沼に落ちていく姿で……》
「その沼の中だよ、沼のヘドロ全部神々の雫に浄化した。ついでにヘドロまみれになったから全力で自身も浄化した」
ヘドロまみれになったうえに少し飲んだっていう事実も浄化されないかなぁって思って、神々の雫漬けになっちょります。あ、空気はバリア内に残ってる分で……そろそろ厳しい。
《《《はああーっ!?》》》
「うわっ!? うるさっ! びっくりさせないでよ!」
《いやいやいや! アリサっちどんだけ規格外なんよ!?》
「何言ってんの? フォレアルーネ達が創ったんでしょ? 四十八時間かけて」
まったく、自分達で創った身体でしょーに、と……呑気に話に華咲かせてる場合じゃないね!
「じゃあ、決着つけて来るから応援よろしくね!」
《あ、ちょっとアリサ……》
さて、箒はどこ行ったかな? あった、沼の近くをふよふよ飛んでる……私を探してくれてるみたいだ。ありがとう、相棒♪
『並列意思』を発動中の今なら自分で飛行魔法を使って自力で飛べるので……
「箒~こっち!」
沼から飛び上がり、箒を呼ぶ。箒は私の声に即座に気付き直ぐに飛んでくる。
それを思わず可愛いって思ってしまった。後でこの子にも名前をつけてあげよう。
「心配かけてごめんね、もう大丈夫だから杖になってくれるかな?」
箒はバレルを上下させ、その姿を杖に変化させる。今のって頷いたのかな?
と、同時、世界樹も私を感知したようで早速猛攻が再開される。
ふふん、さっきまでの私とは違うんだよ?
「オプション展開! 打ち払え!」
防衛・迎撃・攻撃の役割を与えた、今度は杖になったオプションを再度並べる。
うん、もう頭が痛くなる事もないし、考える余裕も充分にある!
「ふふふ、さぁ~世界樹ちゃーん? お注射しましょうねぇ♪」
神々の雫を装填した大量の注射器を撃ち出しては、世界樹の幹に深々と突き刺していく! 外からダメなら内側から攻めてみるのだ!
!!!!!!!!!!!!!???????
すると早くも効果があらわれたようで、世界樹の動きがどんどん鈍くなる。
魔方陣が消え失せ、葉弾は力を失ったかのようにハラハラと落ちていく。
枝も力なくへなへな~と、垂れ下がって、完全に攻撃が止まった。
ビシビシッ! バリーンッ!!
核の呪いを守るバリアもひび割れたと思った瞬間には割れて消える。二層目の呪いも勢いよく破壊され、なんと三層目にもひびが入っている!
「これは、何の冗談よ……?」
最後の呪いもひび割れ、もう一息。リーチってやつだろう。
だけど……
《なっ!? 嘘……こんなことってある!?》
「……げ、て!」
《これは、奇跡ですか!?》
「これが……この子が、世界樹の核の正体、なの?」
《核が……》
核を覆う呪いの三層目、ひび割れたその球体の中に。
「逃げて!!」
小さな女の子が囚われていた。
「っ!?」
女の子が叫んだ瞬間、魔方陣から閃光が迸り、目にも止まらぬ速さで私の眼前に迫る、女の子の言葉があったお陰でなんとか回避できたけど、これはマズイね、次は厳しい。
『並列意思』を使ってるから、こんな状況でも冷静でいられるけど、どうしたものか?
思い付く限りをやってみるか、目で追えないなら純粋に自身に強化掛けし、動体視力、身体強化。
兆候を感知あるいは察知すると同時に弱体化をかけるような便利な魔法をイメージしてオプションとして複数召喚。
「やだやだやだっ! 止めてよ! 攻撃なんてしないで!! 誰も傷つけたくなんてないのにっ!!」
女の子の言動が矛盾している。観察した限り彼女が拒否の姿勢を見せると魔方陣から閃光が放たれるみたいだ。
デバフオプションの働きと、バフ効果で閃光を見切る事が出来るようになった私は、更に考える。
「アルティレーネ、これはどういうこと?」
《そう、ですね……世界樹の核が自我を持ち、人の形を姿取るなんていう事は記憶にありません》
《ん、極めて稀有な例》
女神達の目にも初見らしい、かなりのレアケースと思っていいだろう。
《驚いたけど……多分、アリサっちももう気付いてるんじゃないかなぁ? その子、見た目通り幼いんだよ。必死で攻撃を止めようとしても、魔神の呪いがそれを反転させてるってわからないんだ》
《いえ、例えそれをわかっていたとしても……自我を持って間もないあの子はどうして良いかもわからないんです、あの子は与えられた役割をただ果たそうとしているだけで》
あぁ、やっぱりそうなんだ……きっと普通の人じゃないぶん、この女の子は純粋なんだろう。
世界を綺麗にするために、生命が住み良い世界にするためにと……その期待に頑張って応えようとすればするほど、逆に世界が壊れて行く。
それが魔神の呪いの効果だと気付いても、逆のことができない、考えられない。
世界樹としての役割をこなし続けてるだけ。
「でも、こうして自我が生まれた! そしてあの子は私に『逃げて』と言った! 何より……『嫌だ』と、『誰も傷つけたくない』って言ったんだ!!」
それは間違いなく今まで積み重ねられた後悔から来る言葉……後悔を知るからこそ出る言葉だ!
だったら、やることなんて決まってる!
「ねぇ! 私の声が聞こえる? 返事して世界樹!」
「うぅ、おねぇちゃん……だぁれ? 駄目だよ、逃げてぇ」
十歳くらいの女の子だ、淡いクリーム色のふわふわした髪は長すぎる、彼女の背丈の倍はある。
世界樹の女の子は、私をその翡翠のような美しい瞳を涙で濡らし問う。
「あなた、今自分がどうなってるかわかる? 魔神に呪いをかけられた事わかる?」
「うん、わかる……よ? でも、どうしたらいいかわかんなくて……頑張って世界を綺麗にしようってするほど壊れちゃうの」
呪いを受けた事はわかっていても、それがどういった呪いなのかまでは理解出来ずにいるのね……それでもこの子は役目を一生懸命に果たそうとしてた。
やっぱり、この女の子……生まれたてなんだ。恐らく私が初手で派手に放った聖属性魔力と、多量に注がれた神々の雫の影響じゃないかな?
「わかんないの! だからおねぇちゃんも逃げて! もぅ……壊したくなんてないよぉ」
女の子が泣き叫ぶ……悲痛な叫びだ、心が痛む。
そしてなんて優しい子だろう。絶対救わなきゃ!
「聞いて、私はアリサ。女神達にお願いされてあなたを助けにきたんだよ?」
「女神さまが……?」
一瞬嬉しそうな顔を見せる女の子、でも、それも一瞬だけで……
「じゃあ、代わりに謝っておいてほしい……世界を綺麗にできなくて、ごめんなさい……って……」
《っ!?》
《何を……?》
《そんなことっ!!》
女神達が息を飲む気配を感じる。世界樹の諦念の滲む謝罪に言葉をなくしたのだろうか?
私も思わず泣きそうになるのを必死でこらえる、ここで泣いてちゃ駄目だ。
「ねぇ、世界樹……あなたはそれでいいの? それがあなたの願い?」
「……」
「あなたが本当に、心からそう願うなら私はここから立ち去るよ?」
《アリサさんっ!?》
黙ってて。私はジェスチャーで女神達にそう示し、女の子の言葉を待つ。
閃光が激しさを増すのを見る限り、女の子の気持ちはなんとなくわかる。
「……いぃ、それで……もう誰も近付かせないで」
「嘘つき」
「っ!!?」
そんな悲しそうな……辛そうな顔で言われても誰も信じないよ。
「私ね『魔女』なの♪ だから、嘘つきはすーぐわかるのよ?」
ばちーんっ☆
できるだけ明るく、ウインクも決めて、優しい魔女を演出してみる。
ぐふぅ……女の子を安心させるためとは言え……コレはキツイ。元男としてきつい。
「ま、じょ?」
「そう、一人で泣いてるあなたの……一人で頑張ってるあなたの……そう、心からのお願いを叶えるために来た『聖域の魔女』だよ」
閃光が鬱陶しい、女の子とちゃんと向き合って話をするためバリアを強化、オプションには閃光を逸らすためのシールドを複数。端から見れば私の周囲はちっちゃい杖が無数に浮いてるように見えるだろう。
「聞かせてほしいな……あなたの心」
呪いがなければもっと近づいて抱き締めてあげるんだけど……呪いが自壊して女の子を傷つけたりしたら大変なのでやめておく……もどかしい。
「あ、う…………け、て……」
女の子は私を見つめると、みるまに瞳に涙を溜め……ついに叫ぶ。
「助けて!! もう世界を壊したくない!」
来た、女の子の心からの願い!
呼応するように、魔方陣から放たれる魔法が種類を増やす。
「私頑張ったんだよ!? 神様からお願いされたから! 世界を綺麗にしてねって!!」
世界樹の叫び、その願いを文字通り反転させるように容赦なく数々の魔法が私を襲う。
でも、私は女の子から目を離さない! 女の子の前から動かない!
「だから……だからぁ……一生懸命頑張ったのに、どんどん世界が壊れていっちゃう……やだよぉ、こんなのってないよぉ!」
悲痛な嘆き、女の子は涙で顔をくしゃくしゃにして願い請う。
……この子は、かつての私だ。
どのくらいの時間かはわからないけれど……ずっとひとりきりで。
どうしたらいいかもわからずに、それでもただ役目を果たそうと……
《アリサ! 魔方陣が魔素を収束してる!!》
《避けてアリサっち!! とんでもないのが来るよ!!》
レウィリリーネとフォレアルーネが叫ぶ、視点操作と並列意思を駆使して女の子から目を離さないままに確認。確かに一つの魔方陣が周囲の魔素をその中心に収束させているのが見えた。
「うん、頑張ったね……大変だったよね、ずっと一人で、辛かったよね? よく耐えたね……偉いよ」
さぁ、もうそんなのは……終わりにしよう。
「うぅぅ~っ! おねぇちゃん……助けて! 助けて! アリサおねぇちゃん!!」
世界樹の叫びと同時、魔素を収束させた魔方陣から極光が迫る。
「助けるよ……ありがとう、あなたの心を見せてくれて……ありがとう、あなたの心からの願いを聞かせてくれて」
イメージするのは完全な護り。
すべての邪悪払う聖なる護り。
神が創りし、神の子のための大いなる盾。
神が愛し、育てた子に捧ぐ神の護り。
「『神の護り手』」
ドゴオオォォーーッッ!!
極光の直撃のさなか、神の護り手に護られた私は杖を呪いに向けて構える。
《うおぉ! アリサっちスゲー!》
《!!? そんな護り知らない!! 後で絶対詳細希望!!》
《凄い! 勇者の護りすら超えているのでは!?》
賑やかに盛り上がる女神達の仲の良さを横目に、女の子に問いかける。
「ねぇ、世界樹……私ねこの世界に来たばっかりなんだ」
「アリサ、おねぇちゃん……」
「あなたも自由に動ける身体を手に入れたばかりだよね?」
魔素を集めてたのは私もだ。
「私達、似た者同士だと思うんだ……だからさ、全部終わらせて」
今までに収集した魔素の浄化もバッチリだ、さぁ、終わらせよう!
「友達になろうよ……どうかな?」
「おねぇちゃん……!」
この頑張り屋で、純粋で……
「うん! なりたい! アリサおねぇちゃんとお友達になりたい!」
優しい女の子とお友達になるために!
「ありがとう! じゃあ行くよ、怖かったら目を瞑ってて!」
「うん!」
ぎゅっ! って女の子が目を瞑る。
《やっちゃえぇぇーっアリサっちぃぃーっ!!!》
《アリサさん!! お願いします!》
《ん!! 決着の時!!》
「任せて! これで終わらせるからっ!! 魔素粒子砲! 発射ぁーっ!!」
ズドオォアァーーッッ!!!!!!
物凄い衝撃! 反動で吹っ飛ばされそうになるのをどうにか堪える!
Zなあのロボット達はやっぱりロボットだからこの反動に耐えられるのかしらね?
「こんな幼気な子を呪うとか、反省しろぉぉーっ!!」
世界創造の際、神々から祝福を受けた神樹。
世界の自浄作用を司り、見守る存在。
その名を、世界樹。
バアァーンッ!!
もしかしたら、前世の世界にもあったのかな?
杖から莫大の魔力が収束された魔素粒子砲は魔神の呪いを完全に消滅させる。
この世界の世界樹はこんなにも小さな、可愛い女の子。
「本当にろくでもないヤツだったみたいね、魔神ってのは……」
残心を解き、杖を箒に戻して腰掛ける。
《やったああぁぁーっ!!! アリサっちぃぃーっ! サイコーっ!!》
《ヒャッホーイ♪ ヒャッホーイ♪》
《あぁぁ……ありがとう! ありがとうございますアリサさん!!》
ふふ、女神達の依頼もこれで達成だね!
女の子は無事だ、怪我一つ無い。上手いこと呪いだけを消し飛ばす事が出来たようだ。
……今更だけど、超ド級の魔素粒子砲ぶっ放す必要もなかった気がする。
思えば三層目の呪いもひび割れてたんだし、ちょいと小突けばあっさり解呪出来たかも。
いや~怒りと勢い任せだったものでしてね~あっはっは♪
何はともあれ、終わりよければすべてよしってことで!
「頑張ったね、もう大丈夫だよ」
「ふぁ、おねぇちゃん……」
私は女の子に近付き、その小さな身体をそっと抱き締める。
「終わったよ……辛いのも、苦しいのも、悲しいのも……全部おしまい」
「アリサおねぇちゃん……う、うぅ、ぐすっ」
優しく、慈しむように女の子の頭を撫でる……本当に頑張ったね。
「うぅ、うぅ~! うわわわわぁぁぁーんっ!!!!」
うん、うん……良かった、この子を救う事ができて……守る事ができて……
さぁ、帰ろう、ミーナと女神達が待ってる。
魔女「幼女ゲットだぜ!」
幼女「魔女ゲットだぜ!」
女神ーズ「魔女と幼女ゲットだぜーっ!」
ミーナ「にゃあ~ん♪」
魔女幼女女神ーズ「ミーナちゃあぁーん!」
ミーナ(全員ゲットだぜ!)
猫に敵う者などいないのだ。いないのだ。